――ジークムント・フロイト
お茶会とミルクティー(前編)
アリスが母から頬にキスをもらうことはそんなに珍しいことではない。もちろん、父からもおでこにキスされることも同じこと。馬車が走り出す前のほんの少しの時間はアリスにとって、貴重な時間になる。
朝食を用意する母の姿も、新聞を読みふける父の姿も、どちらもアリスは大好きだ。両親ともアリスと同じ場所にいることがアリスにとってこの上なく嬉しいことだった。
しかし、そんな僅かな時間もすぐに終わる。母も父も町へ出かけてしまえばアリスは、ひとりぼっちのアリスになる。そうして玄関先で二人の姿が見えなくなるまで見送りをした後ほど寂しい気持ちになることはない。
いつものアリス。ひとりぼっちのアリスは、今日もまた何処か散歩に出かけるつもりでいた。ところが、さびしんぼアリス。玄関先から家の外に出ることもなく、踵を返し、ドアをパタンと閉じる。
ぽっかりと穴が空いたような胸の奥、底の見えないスープを煮込むようなグツグツな気持ちがアリスの中でゆっくりと引っ掻き回されるような気分だった。アリスにはどうしてそんな気分になってしまうのか、分からなかった。分からないつもりでいた。だって、ひとりぼっちはいつものこと。
いつものことなのだから、いつものようにしていればいい。
そう思っていたのだ。
そんなよく分からないものを抱え込んだまま、パタパタと、アリスは自分の部屋に駆け足で戻る。そしてそのままベッドに飛び込む。毛布に顔をうずめて、犬みたいに「うぅぅ」と唸ってみたりする。それでもアリスの胸の中はもどかしさがくるくるとかき回されては落ち着かない。
そのとき、アリスの手が、アリスの足と足の付け根に滑り込んだのはほんの偶然だったのかもしれない。あるいは、必然だったのかもしれない。ピクリと下着越しにすれて、アリスの体がわずかに震える。
それは、アリスには分からないこと。ただ、アリスが知っていること。
毛布をのけて、ベッドの上にちょこんと座ったアリスは、着替えるわけでもないのにスカートのすそをたくし上げ、腰を浮かせながら、おもむろにその下のパンツを脱ぐ。スースーとした感じの中で、何故か火照ろうとしている自分の体に気付く。
足と足の付け根のぷっくりとした割れ目のひとすじ。
今度は直接その手で触れてみる。
「んっ♥」
くすぐったさに、アリスが声をもらす。この感覚を、アリスは経験していない。
どうなっているのかを知りたかった。それはアリスのほんの少しの好奇心だった。
下も脱いだまま、アリスはベッドから降りると、壁際に置いてあった姿見を、うんしょうんしょとベッドの前に動かす。姿見にはスカートをたくし上げた、何もはいていないアリスの姿が映し出される。その姿をそのままに、アリスはベッドにまた座り込む。
今度は大きくスカートをめくり上げ、その裾が落ちないように口で咥えると、両足も膝を曲げたまま、左右に大きく広げる。そうするとアリスの足と足の付け根のぷっくりとしたその割れ目が姿見に映し出されて、アリスにもよく見えるようになる。
こんなふうに自分のものを見たのもアリスは初めてのことだ。どうしてこんなことをしたのか自分でも分からないくらい。何故だか、自分がいけないことをしているような気がして、アリスの頬もほんのりと赤く、ポンと熱くなる。
スースーする不思議な浮遊感に、たまらず、アリスの指先が、アリスのそこへと伸びる。思っていたよりもぷにぷにとやわらかな感触が指先を通して伝わり、またとても敏感なそこはアリスに甘い刺激を与えた。まるで傷口をなぞるかのようなピリリとしたあの感じ。
アリスはほんの少し、その割れ目をなぞるだけのつもりだった。上からスゥーッと下へ、下から持ち上げるようにまたスゥーッと上へ。アリスの背筋がピクンピクンと反応し、アリスはアリスのそこが熱を帯びるように感じた。
止めるはずの指先は、また上へ、下へと留め金がなくなったかのようにすじをなぞり、また上へ、下へを繰り返し、次第にはなぞるだけに留まらず、こすりつけるように、すりあわせるように、指先に少しずつ力が込められていく。そして指先の刺激もまたどんどん強くなっていく。
「んん……♥ ふぅ……ぁぁ♥ ひぅ♥」
くすぐったいとは違う、その刺激に、アリスは声をおさえることもできなかった。
くちゅり。くちゅにちゅ。アリスの指先が濡れる。すじの上をただ擦っていただけの指先が、割れ目の中に滑り込む。
「ぁ……っ♥」
思わず、アリスの体が真後ろに仰け反る。それを知らないはずのアリスは、それを知っていた。
姿見を前にして、ぷるぷるぷにぷにとした、アリスのそこを、震えるその両手の指先でくぱぁと押し開く。アリスが見たこともないもの。アリス以外の誰も見たことのないはずのものが姿身に全部映し出される。いっそうのことアリスは恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。しかし、ここにはアリス以外に誰もいない。それを見る誰かも、止める誰かもいない。
アリスはまじまじと、姿見に映る自分のそこを眺める。すると、おしっこの穴とは違う、もうひとつの穴がヒクヒクとしているのがよく見えた。それはまるでお腹をすかせたかのような口。その口にしゃぶらせるように、アリスは中指をその口元に添える。
くちゅくちゅ。そこだけが違う生き物のように、アリスの指先をしゃぶる。もどかしそうに、せつなそうに、またアリスに違う感触を与える。そこは指先が入るかも分からないような小さな小さな穴なのに、もうアリスには抑えようがなかった。
つぷり。アリスの指先が飲み込まれる。やはりそこはキツく、パクリと食いつくように指先を銜える。その刺激ときたら、アリスは自分のお腹から下が全部溶けてなくなってしまうんじゃないかとさえ思ったくらい。
そこからさらに指を押し込もうと思うのにアリスにはためらいはなかった。つぷつぷ、くちゅ、ずぶぶ。アリスの指の第一関節が埋まり、スムーズではないが第二関節も飲まれ、果てや指の根元までも無理やりにキュウゥッとねじこむようにすっぽりとアリスの中に収まった。
収まってしまったからには、くいくいと引っ張るもそう簡単には抜けそうにない。それどころか、ちょっとでも動かそうものならアリスの背筋はゾクゾクとしたそれが収まらない。
「ん、ふぅぅ……♥ んんぁぁ♥」
くぷぷ、にちゅ、ぬぬぬ。アリスの指先がゆっくり、ゆっくりと引き抜かれる。と思ったのもつかの間で、またずぶぶ、くちゅぅと挿し込まれる。とうとうアリスは気がついてしまったのだ。この感覚が気持ちいいものだということに。
熱を帯びた吐息をもらし、すっかり手のひらまで濡れた指先。そして、ベッドのシーツまで溢れておもらしのように広がっていく染み。アリスの胸の何処かにあったもどかしいそれは、気持ちいいそれで上書きされていく。
またアリスの指先は中へ抜き、挿しを繰り返し、その度にアリスの身体がベッドをギシギシと軋ませるくらい何度も跳ねる。それがどれくらい続いただろうか。
くたぁ、とアリスの身体が仰向けにベッドに落ち、はぁはぁと短く荒い呼吸を整えながらも、未だ足と足の付け根のぷっくりとしたそこに沿わせた手をそのままに、アリスはまぶたをとろんとさせて、うとうととしかけていた。
「おやすみ、アリス」
それは誰に向けた言葉なのか。自然とこぼれた言葉だったのか。誰にでもない、誰もいないアリスの部屋にぽつりと呟かれた。
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