…とにかく、疲れた。口を開けば出てくるのはそればかり。疲労隠しにメイクするようになって、何年経つだろうか。最後に彼氏がいたのって、何年前?
がっつり有給とってリフレッシュツアーでもいこうか、と思うけど仕事の調整とか周囲への気配りを考えると逆に死にそうだ。ああ、疲れた凝った嫌だ嫌だ。せめて高めの入浴剤でも使って身体を解そうか。
そうやって疲労困憊なまま歩いていると、いつもの道に見覚えのない立て看板が置かれている事に気付く。どうもヘタウマ系と言うかヘタヘタ系と言うか、字が金釘流もかくやというほど読みにくいが、マッサージか何かの店のようだ。しかし看板が読みにくいというのは、客商売として致命的だとおもうのだけれど。
…にしてもマッサージ、か。一時間くらいかけて揉みほぐして貰ったら、結構楽になれそうだ。
入ってみると、早速甘い香りに出迎えられる。受付嬢に促され、待合室へと通されると香りは一層濃くなった気がする。アロマテラピーは嫌いじゃないけど、こうも強いとどうもムズムズしてくるような。出されたお茶さえ甘ったるく感じてきたほどだ。しかし間接照明の薄明かりはどうにも慣れない、苦手だ。まず手元が見えないような明かりというのは、つける意味があるんだろうか。
ぼんやりそんな事を考えていると、不意に視界がぼやけ出した。
…眠い。それも暴力的に。薄暗さと甘い香りがそれを助長し、意識が一気に持っていかれる。
まずい、これは絶対にまずいやつだ。安いエロ雑誌なんかでよくある、マッサージ店を隠れ蓑にした昏睡レイプ事件とかそういうのだ。泣き寝入りなんかしないからね、絶対にケツの毛までむしってやる……………ぐぅ………
「お客様、お客様? 起きられますか?」
優しい声と共に身体が揺すられ、はたと気が付く。そうか、寝てたんだ。いや、寝てたんだーじゃない。何が起きたか確かめないと。
先ほどの薄暗い部屋とは違い、今いる場所は蛍光灯が煌々と点っている。あの匂いも、鼻腔の奥に残っている以外は感じない。まるでさっきまでが夢だったかのように、一切合財丸ごと入れ替わっている。
「こんばんは、当店は初めてですよね? 鈴花と申します、今日は楽しんでいって下さいね」
…目の前にいるのは長い黒髪に薄化粧かつ巨乳、The.男受け100点という感じの女の子。こんな感じに生まれてたら人生楽しいだろうな、と思えるレベルで可愛い。いや、可愛いからってどうというわけでもないんだけど。…見た目が可愛くて人当たりがいいからって、それと行動は関係ないわけだし。ニコニコと笑っているのが逆に怪しく感じる。財布やスマホも確認したいけど、視線を遮るものがない状況ではそうもいきそうもない。
訝しんでいるのが伝わったのか、鈴花さん?が顔を近づけてこっちを覗き込んでくる。ふわりと石鹸の香りが舞い、不信感さえ飛びそうになってしまう。あざといな、とは思うけど不意打ちでそれは反則だ。身体が勝手に反応し、疼きだしてしまう。…いやまて、おかしい。この感覚は、おかしい。その疼きは腰より下、下半身……
恐る恐る目を下に向けると、そこには、……スカートを持ち上げる膨らみがあった。布地の下にあるのが何なのか、想像出来ないとはいわない。それなりに経験はあるし、見たことも触ったこともある。…それなりにね、それなりに。
とは言えそれは彼氏たちの、「他人の身体」としてだ。自分の身体に、そんなものが……おちんちんが、生えている筈など有り得ない。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「なさいましたかなさいませんでしたか、と言えばなさいましたけど…」
いかん、口までおかしい。何を言ってるのかわからない。
「あ、もしかして当店のシステムはご確認頂いてませんでしたか?」
システムと言われても、マッサージかなにかだと思ったら急転直下で一大事なのだけれど。と、傍らにあった紙に目がいく。そこにはこう書かれていた――『ふたなり化サロン』と。
「当店は女性専門のふたなり化風俗店でして、普段使わない感覚を目覚めさせリフレッシュして頂く事を目的としております」
「織りますでも編みますでもかまわないけど、これ治りますよね!? この先一生こうだとか死んでも御免なんですけど!?」
しかもマッサージやエステじゃなく風俗なんて。…メンズエステを装った違法風俗とかは聞いたことあるけど、そういう系列なんだろうか。悪い予感しかしないし、逃げ出した方が良いだろうか。
「? はい、ご利用時間が過ぎる頃には効果が切れますので」
ご利用時間と来た。今すぐ出ても、お金は多分取られるし下手すればこっちが警察行きか…。
仕方ない、これも経験だ。人生のほんの一時、男の感覚で風俗嬢にお相手して貰うのも一興だろう。…一興かなぁ……。
とりあえずオプション無しのコースを指定し、言われるままに下を脱いで脚を拡げる。
見慣れた自分の股座から、ニョッキリと生えたモノはなんとも違和感がスゴい。一応その下はいつもの通りな筈だけど、見たり触ったりする気にはならない。…しかし今さっき会った人の前で股を開く、ってどうにも恥ずかしい。風俗通いしてる噂がある同僚(男)もいるけど、どういう神経してるんだろうか。
「はーい、じゃぁ楽にしてくださいねー…」
楽に、と言われても困るけど。
白い指先がそっと先に触れると、ビクンと身体が震える。普段しないクリオナの感覚を、ずっと濃くしたような感じ。上から下へとなぞられると、そこに沿って快感の道が出来たように熱が籠っていく。そして指はその先、私の膣口周辺をなで回していく。
「…、そっちも…なの?」
「はい、ふたなり化風俗なので。おちんちんもおまんこも、両方気持ちよくなって頂きたいです」
…随分はっきり言うんだなー、こういう仕事だからかな。
言いながらも指は止まらず、膣口からすぐの浅い場所をゆっくりとはい回る。そして時折動きが止まり、トントンと指の腹が膣肉をノックしてはまた移動する。快感の源泉を探るような、丁寧で繊細な奉仕。まるで私の癖を知っているかのように、ピンポイントで撃ち抜いていく。
日頃私がオナる時は、そうやって入り口周辺をそっと触るのが殆どなのだ。クリオナは中学の時に知って以来何度か試したけれど、どうも上手い弄り方がわからないまま滅多にしなくなった。それに中の深い所はあまり気持ちいいと思えない。なのにどうして男というのは「奥へ奥へ」なのか。浅い場所がいい、と言っても聞きやしない。
自分の指以外でこんな風にされるのは、初めてかもしれない。まるで見透かされたようなのは、こういう仕事だからかな。
「じゃぁ、こっちも行きますねー…」
返事をする暇もなく、もう片方の手が私から溢れた粘液を掬い、そしておちんちんの幹をそっと掴む。
わずかに感じるヌルつきと体温が、ゆっくりと根本へ先へと往復運動を開始した。
「あっ、あっあっ、……!」
リズミカルな上下運動に、思わず声が漏れる。手コキ、とか言うんだっけ。私もしごいてあげた事はあるけど、こんな感じだったのか。クリとはやはり違う、責め立てるような粗っぽい快感。きっとこれが「男の快感」なんだろうな…。
優しくかき回す指、激しく擦る指。二種類の快感が腰の辺りで渦を巻き、絡み合い、全身へと波及していくのがハッキリとわかる。頭の奥がチリチリと沸騰し始め、お腹の奥で何かが弾け飛ぶ。イク、いやそれだけzじゃない、これは……!
「出…る……!出ちゃ、ううぅ…!!」
「はーい、良いですよ。いっぱい出してくださいね~♪」
じゅぷり、と今まで膣口を弄んでいた人差し指に中指が合流し二重で責め立てる。おちんちんを握っていた五指に力が籠り、速度が一気に上がる。手加減なしで絶頂へと強制的に追い立てる指技が、私の理性を完全に決壊させていく。
沸き上がる奔流が瞬間的に爆発し、伝達神経の限度を越えた快感に意識を刈り取られる刹那。私が消えゆく視界に見たのは、濁流のように噴き出す精液を浴びて微笑む鈴花さんの姿だった――。
そして。
次に揺り起こされると、私のふたなり化はすっかり治っていた。あんなに自己主張していたおちんちんはキレイに消え失せ、いつも通り包皮に守られたクリが残るばかりだ。
残った時間で身体を洗い合いながら聞いた話では、ふたなり化の初射精で失神する客は珍しくないらしい。なんでも快感伝達の総量云々だそうだが、文系人間の私にゃサッパリ。まぁ「気持ち良すぎた」ということで良い。
しかし、終わった後でお金を取り出すのは何となく空しさをかんじる。こんなに気持ち良くても、所詮お仕事…なんだよね。身体の淀みは精液諸共出ていったようだし、リフレッシュ目的だと思えば別に良いんだけど…。
次は、もっと長いコースにしてみようか。上客になったら、
そんな事をぼんやり考えながら、浮き立つ心で帰路に着く。とんとご無沙汰だったが、恋の始まりってそう言えばこういう感覚だった気がする。
さて、まずは次の休日前夜にでも再訪しようかな。…こういうのを「思う壺」って言う気もするけどね。