窓の外から差し込んでくるやわらかな日の光を浴びて、私は清々しい気持ちで目を覚ました。体はとっても健康的で、驚くほどに軽やか。
私は有仙喜久子、十六歳。誰がどう見ようと若々しい学生だ。
鏡の中に映り込んでいる、その整った顔と抜群のスタイルこそが現実の全て。
何処にも老けた熟女の姿など映ってはいない。
一日ごとに一つ若返っていくという奇妙な生活が終えて、数か月は経つ。
気付いたときにはパラレルスワップカードは何処にもなかった。
額縁に入れて飾っていたのに、カードだけがキレイに抜き取られたみたいに額縁から消失していたので、おそらく役目を終えたということなのだろう。
だから私は十六歳のままで、あの子――ライラも四十歳のおばさんのまま。
完全に立場がくるっと入れ替わり、もう戻ることはないのだろう。
私としては急に学生に逆戻りしてしまったことに一番驚いたが、今ではどうにか普通に学校に通えている。むしろ久しぶりの学校生活にワクワクしているくらい。
立場が入れ替わった状態だからか、かつてライラの通っていた学校の生徒という扱いらしいのだが、それで私が一人暮らしなのは整合性がとれているのだろうか。
確かライラは実家暮らしじゃなかったっけかな。まあ細かいところはいいか。
ライラの方は相変わらず激務に追われてお疲れ様といいたい。今では大分仕事もこなせるようになってきたからちゃんと私の立場と入れ替われている様子だ。
まあ、四十歳のムチムチおばさんなのでみんなのお母さんとしてそれなりには慕われているみたいだし、チーフというポジションには上手く収まっているだろう。
正社員のおばさんたちとぎこちない会話している姿を見て、思わず笑いそうになってしまったが、当の本人は春まで自分が女子校生だったなんてこれっぽっちも覚えていないようだからよく馴染めるようになったと言える。
私は私で学生らしく振舞うのに苦労しているところだが、勉強に明け暮れてまともに送ることのできなかった青春を取り戻している実感に幸せを覚えている。
まさか同級生たちも四十歳の元おばさんが紛れ込んでいるとは思うまい。
あのパラレルスワップカードのおかげで私の生活も一変してしまったが、何一つ後悔はない。こうして青春を謳歌できるようになったのだから――……。
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「それじゃあ早川チーフ、お先に上がりますね」
「はぁい、今日もお疲れ様ぁ」
今日の分のシフトも終えて、熟女おばさんの背中を眺めつつ、私は仕事場のスーパーを後にした。早い時間ではあったものの、既に外は夜の帳も降りて肌寒い。
空はこんなにも暗くなっても街の灯りはギラギラと眩い。まるで夜はまだまだこれからだと言わんばかりだ。
駅の方へと足を向け、私はほんの少しの期待を胸に、軽い足取りで歩を進める。
通り過ぎていく人々が次第に若者が多くなっていく。それも男女のペアだ。
こんな寒い夜空の下、どうしてこんなにも男女が出歩いているのか。
それもそのはずだろう。世間では今日はクリスマス。恋人たちとともに過ごす日として認識されている。吹き抜ける風がどんなに冷たくとも、この熱さには負ける。
私は、そこで足を止め、スマートフォンを見る。
少し早すぎただろうか。そんなことを思いつつ、空を見上げた。
「ごめん、キクちゃん、待たせた?」
「あ……、うぅん、そんなことないわ」
ライトアップされたクリスマスイルミネーションに照らされる中、その男性は私のもとへと駆けつけてくれる。彼は今の私が付き合っている彼氏だ。
ちょっと可愛い格好して告白したらあっさりOKをもらえた。決してチョロいわけではない。元々の私の魅力はこんなものだったのだ。
「それじゃ、いこうか」
「……うん」
この胸のときめきは、かつての私は要らないものだと捨ててきたもの。
彼の腕に体を寄せるだけで高まりが収まらない。
やっと、私は青春を取り戻せた。そんな確信を抱き、夜の街へと消える――……。
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聖夜にぴったりのロマンティックな映画を鑑賞し、夜景の見えるレストランでのディナーも済ませ、ちょっと二人でイルミネーションの彩る街の中を歩いた後、自然な流れなままその場所へと行きついた。
室内のムードを盛り上げる照明器具に照らされ、気分も高揚していく。
大きくてふんわりとした寝具は、二人分の体を預けるのに十分すぎるくらい。
ここがただのビジネスホテルだと思って泊まるものはそうはいない。
どういう目的の客が訪れる場所なのか分からないものだってそうはいないだろう。
お互いにシャワーを浴びて、しっとりとした肌を晒している。
沈むベッドの上に、二人、生まれたままの姿で重なり合おうとしていた。
「キクちゃん……」
「いいよ、きて」
歯の蕩けそうなセリフなどもはや要らない。唇を重ねればそれだけで十分だから。絡み合うという言葉が早々しい。手の指先の一本一本までも離さないように。
ねっとりと濃厚な口づけとともに、心の準備は万端にまで至る。
「はぁー……、それじゃ――」
「うん――」
次の瞬間に、甘い痛みが私の奥を突く。とろとろにふやけたソコは何も拒もうともせず、スムーズに彼のモノを飲み込んでいた。
それを彼も感じているのか、銜え込まれたソレをぬぷぬぷと少し引き抜き、また奥までズブブと押し込む。優しい抽送は最初の数回くらいだ。
「ぁ、ぅン――」
途端に彼の動きはケダモノのように荒々しく、ジュッボジュッボと私の体の上で跳ねるように繰り返され、その度に私の身体もまた大きく揺さぶられる。
私は幸せだった。
他人に求められるということが、そして他人とつながれるということがこんなにも心地よいものだなんて今まで知らなかった。
手放したくない。一心不乱に私は彼の体にしがみつくよう腕も足も背中に回す。
パンパンと肌と肌は何度もぶつかり合い、感情が何処までもぶち上げられていく。
まさしく、情熱的とはこういうことを言うのだろうか。
次第に、私は彼と一体化しているような錯覚にまで陥る。それくらいまでに体中は蕩けて仕方なかった。既に何度絶頂したかも数えていない。
体中から快楽が溢れんばかり。どうして今まで知ろうともしなかったのか。
四十年も人生を歩んできて、自分がどれだけ堅物だったのかが分かる。
どうしようもなく途方もない快感に流されて、理性のタガが壊れてしまいそう。
よく、真面目な子ほど乱れると凄いなんて話も聞くけど、きっとそれは私にも当てはまることなのかもしれない。
これが、これこそが青春だったのだとやっと理解することができた。
嬉しいと気持ちいいの感情が私の心を揺さぶり続けて止まない。
どんどん何も考えられなくなっていく。
若い子たちっていつもこんな気持ちいいことを毎日のようにしていたのだろうか。それはそうに決まっているか。だって、健康的な男女が同じ場所でともに過ごしているのだから、何もない方がおかしい。
私みたいな真面目に勉学に励み、仕事に打ち込んできたような堅物とは違って、普通の若者たちっていうのはもっと自由にこうしてきているに違いない。
だってそうだ。夜の街でたむろっている若者たちは一体日々を何が楽しくて生きているというのか。
男と女、体を絡めあい、愛を確かめ合い、まぐわう。今の私のような快楽に溺れているに決まってる。
「あぁん……、そこ、ぃぃ……もっとぉ……」
「はぁ……、はぁ……、ウッ!」
内側の一番いいところをえぐられるような感覚に、私は悶えるほど体を震わせる。
知らなかった。だから、知りたい。もっとこの快感を知りたい。それだけが頭の中を埋め尽くしていく。
人間が元は猿だったというのも分かってしまう。もうそれしか考えられないから。
秘所の中に突き立てられた肉棒が、私の理性をも全部丸ごと掻き出していき、後に残るのは途方もない快感の花火。じゅっぽじゅっぽ、ぬぷぬぷとどれだけ繰り返されても同じ感情ばかりが頭を巡ってくる。きっと彼もそう。
嗚呼、なんて幸せなのだろう。
あの怪しい露天商から買ったパラレルスワップカードがなければ私はこの快楽を知ることなく人生に幕を閉じていたのだと思うと、やはりゾッとしてしまう。取り戻せてよかった。心からそう思う。
ライラには悪いことをしてしまっただろうか。今頃は一人で事務局に籠って仕事に追われていることだろう。私たちがこうやって青春の真っただ中にいる間にも、あなたにはそんな相手すらいないのだから。
まあ、仕事に打ち込み続ける真面目な人生も悪いことばかりじゃない。ただ立場を入れ替えただけなのだから恨まれる筋合いもないだろう。
どうせ本人は記憶も変えられて何も知らないのだし。
最近の若い者はすぐに背伸びしたがる。だから背伸びさせただけと思えばいいか。十六歳から四十歳までは背伸び程度じゃないかもしれないけれど。
ライラの分の青春は全部私がいただいてしまったのだから、存分に満喫しないと損というもの。自分の人生において青春の全てを無駄にしてきた私だから分かる。
これからの人生、有意義に過ごしていこう。
頭が真っ白になるくらいの絶頂の中で、私はそう思ったのだった――……。
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