《何を考えてるんだ、二人とも!》
壁に設置された大型モニター越しにアスランの怒声が響いて、キラとラクスは同時に苦笑した。
「やっぱり、そうだよね」
《当たり前だ! こっちに合流する方法はないかだなんて、自分たちの立場がわかってるのか?》
「それは重々承知しておりますわ、アスラン。ですが、なんだか私たちだけ楽をさせてもらっているようで、申し訳なくて」
《……キラ、ラクス》ひと呼吸置いた後、アスランは声のトーンを落として小さくため息をもらした。
《気持ちはわかるが、今は休め。いずれまた、キラとラクスの力が必要になる時が来る。それまでに、二人でゆっくりする時間も大切だろ、キラ?》
自分自身のことを言っているのか、アスランの言葉には切実な響きが含まれていて、キラとラクスはようやく笑顔を見せた。
「わかったよ、アスラン」
《ならいい。また、四人で食事でもしよう》
「楽しみにしていますわ」
《二人のこと、頼むぞ、カガリ》
「任せろ、アスラン」
通信終わりーと、モニターが暗転する。
オーブ首長官邸。
プライベート用の応接室。
紅茶のティーカップを口元に運びながら、カガリは対面に座るキラとラクスを振り返った。
「な? だから、言ったろ、ゆっくりしろって言ってるのは私だけじゃないって」
キラとラクスが消息・生死不明のMIA認定を受けてから数週間が経過していた。オーブに保護された二人は、世界の動向を注視しながらとりあえずの隠居生活を送っている。
特にラクスの生存隠蔽はトップシークレットの重大事項だ。秘匿するためには、しばらくはオーブ内でもセキュリティが特に厳重な首長官邸周辺で匿うのが最も安全だと、カガリが判断した。
本当はもう、二人が戦う必要はないのだとーアスランとカガリは思っていた。
だが、志を同じくする仲間たちを尻目に、自分たちだけ安穏とした生活を送ることの後ろめたさから、カガリとアスランに何かできることはないかと相談を持ちかけたキラとラクスだった。
「だいたい、手続きも終わってようやく落ち着いてきたところじゃないか」
その手続きも、ほとんどが公人二人を「別人」に仕立て上げるという違法に近いものではあったが。
「そのうち、私の仕事も手伝ってもらうからさ。今は二人でのんびりしてろって」
「ありがとう、カガリ」
カガリとしては、激務の中で旧知の二人とこうしてティータイムや食事の時間を持てるのは、嬉しいことでもあった。
ただ……。
「キラ、お口の端にケーキがついていますわ」
「あ、ごめん」
キラの口元に残ったモンブランケーキの小さなクリームを、ラクスは手元のナプキンで丁寧に拭き取った。
それはいいのだが、身を乗り出したラクスの距離が明らかにキラの顔に近い。キラがほんの少し顔を前に出すだけで、お互いのリップが触れ合ってしまいそうだった。
視線が絡んで、二人はしばらく見つめ合った。
「お、ほん」
カガリが小さく咳をして、二人は我に返ったように顔を離す。二人同時にカガリへ向かって愛想笑いを浮かべるが、ほんのりと赤味がさした頬は隠せていなかった。
先日、夕食に誘った時も、カガリや他の給仕たちがいる前で、ラクスはキラに向かって「あーんですわ」をしていた。あまりに自然にそれをやったので、誰も何も言わなかった。
(なんか、こう、邪魔してはいけない雰囲気があるというか、見てるこっちが小っ恥ずかしくなるというか……)
キラの左手とラクスの右手が、テーブルの上で触れ合うか触れ合わないかの場所をうろうろしている。
(いいよなぁ、まったく)
アスランが前のめりに語気を強めたのは、気を使い過ぎるキラとラクスを諌めるためだけではなかったんだろうと思うカガリだった。
※
「できたよ、ラクス」
キラがこちらを振り返って、ラクスは思わず揚げ物鍋から引き上げた菜箸の手を止めた。
腰巻きのサロンエプロンを付けたキラに、ラクスは見惚れた。だが、そんなことはおくびにも出さず、彼女はとびきりのスマイルをキラに投げかける。
「私ももうできますから、先にテーブルの用意をお願いします」
「りょうかい」
キラがダイニングのテーブルへ運ぶプレートには、山盛りのシーザーサラダが盛りつけられていた。ラクスはラクスで、どう見ても二人では食べ切ることができない量のコロッケやフライを揚げている。
誰も止める人間がいないと、これである。
家事を分担したいと言い出したのはキラの方からだった。
二人で一緒にできることを増やしたい。
だから、カガリが用意したこの邸宅での数週間は、ラクスがメインディッシュにキラの好物を作り、キラがサラダやスープにラクスの好物を作った。
ちなみに、余った夕食はミリアリアの提案で、もれなく翌日オーブスタッフの昼食として振る舞われることになっていた。特に男性スタッフに人気があるラクスの手料理は、それらが全てキラの大好物の余り物だという事実が判明した後も、彼らは涙を流しながら食べ尽くしているということである。
「美味しいですか?」
勢いよく料理を口へ運ぶキラの食べっぷりに、ラクスはやさしく目を細めた。
「あ……ごめん。一人でどんどん食べて」
小首を傾げて笑顔を見せるラクスに、キラは顔を赤らめる。
いつもよりよく食べるのは、空腹の他にも理由がある。
キラは、そわそわしていた。
ラクスを連れて地球へ降下し、オーブへ保護されてから今日まで、なかなか落ち着いた気持ちになれる日がなかった。
カガリの尽力で食事と眠る場所が与えられ、アスランに叱責されてようやく、キラは自分とラクスを世間から隔離してくれた仲間たちの厚意に甘える心積もりができたのである。
だが、ラクスと二人でリラックスできる環境になって、今度は別の問題が出てきた。
ーラクスが、欲しい……。
数週間前の夕暮れの渚を、キラは思い出す。
二人の間のわだかまりが溶け、身も心もひとつになって愛し合ったあの瞬間をーキラは帰宅してから何度も思い出していた。夕食前の入浴でも、湯船で背中を預けてくるラクスの裸体を前に、キラは鋼の自制心で平静を装った。
寝室のダブルベッド、そのサイドテーブルの引き出しにはなぜか避妊具が完備されていて、それもキラの気持ちを浮き足立たせている要因のひとつだった。二人の邸宅にスキンが準備されたのは、助言を求めたカガリにアスランが「絶対必要だ」と断言したからなのだが、キラはその事実を知る由もない。
まだ、早いだろうか?
ちゃんと休めと言われたその日の夜にラクスを求めるのは、いけないことだろうか?
「大丈夫ですか、キラ?」
「え? あ、ごめん」
食事も洗い物も終わり、リビングのソファーに並んでくつろいでいる時、ラクスが下から覗き込んできて、キラは反射的に目を逸らした。
ラクスは、ピンクカラーの愛らしいパジャマの下に、ブラジャーを付けていなかった。当たり前だ、これから眠るのだから。
眠る?
このまま何もせずに?
ー何を考えてるんだ、僕は……。
キラは頭をブンブンと横に振ったが、すればするほど、余計に邪な考えがまとわりついて離れない。
「おかしなキラ。今日は帰ってきてから、謝ってばかりですわね」
「ごめん」言ってから、またラクスがクスクスと笑う。
ー僕は、バカだ。
ラクスの笑顔があれば、充分じゃないか。
愛し合うのは、これから先いつだってできる。
見上げるラクスの瞳が潤んで、キラはラクスを自分のそばに招き入れた。
せめて、これくらいはいいだろう。
お姫様抱っこの要領で、自分の太腿の間にラクスのお尻を座らせ、彼女の両足を右足の外へ出す。ラクスは自分からキラの首へ両手を回し、抱きついた。
だが、彼女が抱きつくのを一瞬ためらったように見えたのが、キラは気になった。
「ラクス……」
「キラ……」
ラクスはそっとまぶたを閉じ、顔をほんの少し上に向ける。
互いの唇が触れ合う、直前ー。
「ひゃぅ……っ」
抱き寄せるキラの右手の指先がお尻の端に触れた瞬間、ラクスはかわいらしい悲鳴を上げた。
「ラク、ス……?」
キスが嫌なのかと思ったら、そうではなかった。
「違うのです、キラっ。これは、その……」
ラクスの愛らしいお尻を包み込むパジャマの奥が、しっとりと濡れそぼっているのを、キラは確かに指先に感じた。
その意味がわかって、キラは思わずきょとんとした顔でラクスの顔を覗き込んでしまう。
ラクスは純粋な眼差しを向けるキラの顔を直視できず、頬を赤く染めながら、両手で顔を覆い隠した。
「はしたないのはわかっています。でも……」
ラクスの口がへにゃへにゃと波打つ。
「だって……やっと、二人でゆっくりできると思ったのに、キラはお風呂の時も冷静で……。私ばっかり舞い上がって、え……えっ、ち……なことばかり、考えてしまって……。どうしようっ、て……」
恥ずかしそうに指の隙間からこちらを見上げるラクスと目が合った瞬間、キラの中で自制心の種がふたつに割れ、砕け散った。
スポットライトのあたたかな薄暗がりの中、ベッドの上に腰をおろして、二人の男女が抱き合っている。
「キラ……」
「ラクス……」
チュッチュッと音を出しながら、口先で遊ぶようなキスを繰り返した後、先に舌を差し込んだのはラクスの方だった。
「ん……」
くちゅくちゅと唾液が絡んで、互いの舌先が口内を行き来する。時折思い出したように口の外で舌を舐め合うと、二人の息遣いは徐々に荒くなっていった。
「は……ん……」
キラは左手をラクスの背中から後頭部へスライドさせると、角度をつけて深くくちづけた。キラの愛情が口の中から全身に広がって、たまらずラクスは彼を強く抱き寄せた。
「寒くない?」
「はい……」
「……ラクスの裸……見たい」
恥じらいを含んだ口調だった。耳元でやさしくささやかれて、ラクスは小さく身震いした。
「私も、見たいです。キラの……その……」
言葉が続かないラクスに、キラは微笑みかける。
ラクスが大好きな笑顔。
それはラクスの、とても大切な宝物だった。
ー誰にも渡したくない。ずっと、そばにいて欲しい。
その想いは、キラも同じだっただろう。
キラの方が先にシャツを脱ぎ捨てて、ラクスに小鳥のようなキスをした。
ラクスがパジャマのボタンを上から順に外していく。その間に、キラはラクスの頬から耳、華奢なうなじへと、くちづけを移していく。
ラクスは上半身のパジャマを脱ぎ、豊かな乳房を露出させた。桜色のふたつの頂きがキラの視界に入った瞬間、彼の下半身のスウェットの中心が明らかに隆起して、ラクスは頬を赤らめた。
「はっ……はっ……」
抱きつき、呼吸を荒くするキラに、ラクスは男性のにおいを強く感じた。
ラクスのうなじを舐め上げながら、キラは彼女の左の乳房へ指先を這わせた。
ゆっくりと、慎重に。
下から揉み上げる。
さらに呼吸が乱れて、やさしくできている自信がない。
「あ……キラ……」
揉みしだきながら、人差し指と中指の第二関節で乳首をそっと挟み込む。つんと上向きに突起し、彼を待ち望んでいたそれは、キラがふたつの指を軽くこすり合わせるだけで、さらにコリコリと弾力を増していく。
「ん……あ……」
キラが親指と人差し指の愛撫に切り替えて、ラクスの吐息は小さく跳ねた。
深いキスを、もう一度。
時間をかけて味わってから、キラはラクスの頭を支えながら、彼女をゆっくりとベッドへ押し倒した。
「楽にしてね、ラクス」
「はい……」
淡い呼吸音が、お互いの胸に響く。
キラはラクスの鎖骨や肩についばむようなキスを繰り返した。
キラはラクスに、安心してほしかった。
リラックスして、自分を感じてほしかった。
やがてラクスの身体がしっとりと汗ばんできた頃、キラはラクスの右の頂きに舌を這わせた。
「あ……っ」
ラクスが右側の胸が弱いことを、キラはよく知っている。
乱暴にならないよう自分に言い聞かせながら、キラはラクスの乳首を口に含み、吸いついた。それだけでラクスの乳頭がぷっくりと隆起したのがわかったキラは、いやらしく舌を上下させ、舐め上げ、しゃぶりついた。
やわらかなソープと、椿のシャンプーの香り。そこにラクスのにおいが混じって、頭がくらくらする。
「はぁ……はぁ……ラクス」
「キ、ラっ……ん、んっ」
夢中になっていくキラの頭を、ラクスはなでるように両手で包み込む。キラの右手がもう一方の乳房を攻め始めて、ラクスの吐息は艶やかに変化した。
「脱がせるよ、ラクス?」
ようやくキラが顔を上げた時、ラクスの呼吸は乱れ、コクコクと頷くばかりで答えられなかった。
キラがラクスのパジャマを脱がせる。自然と内股になるラクスのショーツは愛液でびしょ濡れになっており、キラはゴクリと唾を呑み込んだ。
「今日は、僕から……」
「え……?」
ショーツを脱がせた後、キラはそのままラクスの下半身へ移動し、彼女の両脚の間に顔を滑り込ませた。
「キ、キラ!? いきなりは、だめですわっ……あっ!」
ラクスが静止するよりも早く、キラはラクスの両脚を開いて、彼女のクリトリスへ舌を這わせた。
キラが舌先で小さく円を描く度に、ラクスは痙攣したように体全体を小刻みに震えさせる。
「あっ……はっ……んっ」
ピチャピチャと、キラの舌使いが淫靡な音を立てる。
ラクスは緩く握りしめた右手を口元に当てて声を抑えようとしたが、うまくいかなかった。
しばらくして、キラの息遣いはクリトリスから秘所へと移った。ラクスの中心からはすでに愛液がとろとろに溢れて、シーツに大きな染みを作っていた。
「すごい、ラクス……」
キラの舌先がラクスの中を淡くまさぐる。そのうねりが奥まで届かないもどかしさに、二人はさらに気持ちを昂らせた。
恥部とクリトリスの往復を、キラは何度も繰り返す。
キラはのぼせそうになっている自分に気がついた。
ラクスに、溺れてしまいそうだった。
「あ……あっ……!」
やさしい快楽の波に、気づくとラクスはキラの頭に両手を添えて、彼の髪をまさぐっていた。
舌での愛撫は、決して強い刺激ではなかった。
だが、キラに自分の恥ずかしい場所を見られているという羞恥と、愛する人が自分を悦ばせようとかしずく姿に、ラクスはとうとう身体を小さくのけ反らせた。
「あっ……やっ……だめです、キラッ! あぁッ!」
舌先ですくい取っていた愛液がさらに溢れて、キラはラクスが達したことに気づいた。
「ご、ごめん、ラクスっ」
視線を上げ、両腕と豊かな双丘の向こうのラクスと目が合う。
「見な、いで……」
二人は同時に彼に返って、同時に顔中を茹で蛸のように真っ赤にした。
キラの鼻息がラクスのクリトリスにかかり、それだけでラクスは切ない吐息を漏らして、愛液がまたキラの口内を満たした。
キラは慌てて顔をラクスの下半身から離すと、放心状態の彼女を抱きしめた。
「キラばっかり、ずるいですわ」
ふるふると瞳を潤ませて、ラクスは最愛の人を睨めつけた。そのあまりの愛らしさに、キラは思わず息を呑んだ。
「そこに、立ってください……キラ」
言われるまま、キラはベッドの上に直立する。
ラクスはキラの前で膝立ちになると、キラの下半身のスウェットを、下着ごとゆっくりと脱がした。
「ラク、ス……」
二人の夜は、まだ始まったばかりだった。
ちゅ……くちゅ……と、静かな寝室に卑猥な音が響く。
「ん……ん……」
ラクスの口が下腹部で緩やかに前後して、キラは叱られた子供のような表情でその様子を見下ろしていた。
たまらなかった。
ラクスがそそり立ったキラ自身を口に含み、うっとりとした表情でしゃぶり、絡めとるように舌を這わせる度に、キラは息を荒くした。
「はぁ……あ……ラク、ス……」
「ん……ちゅ……キラ」
ラクスのくぐもった声が、キラとキラ自身を快楽の奴隷にした。
「疲れたら、て……手で、いいから」
キラが懇願するように呟くと、ラクスはようやく唇からキラ自身を解放した。ちらとキラを一瞥した後、ラクスは左手でキラ自身をやさしくしごきながら、今度はキラの陰嚢を口に含んだ。
「!? ら、ラクスっ」
フェラチオとは別の刺激が、下腹部から迫り上がってくる。くすぐられるような愉悦に包まれ、キラ自身の先端から透明な愛液がぷっくりと溢れた。
ラクスはしごくのをやめ、両手をキラの腰に添えた。そうして、舌先でキラ自身を裏側から舐め上げ、先端の一番敏感な部分をちろちろと弄ぶ。キラの先端からさらに透明な愛液が溢れたのを確認すると、ラクスはその愛液ごとキラ自身を再び呑み込んだ。
「! はぁ……ぁ……っ」
「ちゅ……ん……」
いやらしく前後するラクスの顔の下に、キラが好きなラクスの乳房と桜色の突起が揺れている。キラは無意識に右手を伸ばして、人差し指と中指の付け根で乳首を挟みながら、彼女の乳房を揉みしだいていた。
「キラ……ん…ん……っ」
意識の全てが先端に集中して、射精すること以外何も考えられなくなる。
痺れるように、下腹部の感度が増していく。このまま自分の欲望の全てを、ラクスの口内に注ぎ込みたかった。
ーダメだ、そんなこと……。
「出して、キラ」
「はぁっ、はぁっ……き、汚いから、手で……ラクス」
「私のは、汚かったですか?」
「! そんなこと、絶対にない」
見上げるラクスの瞳が、甘く微笑んだ。
「ほら。同じですわ……ん」
目を伏せて、ラクスが前後の動きを速くする。ラクスの献身に応えようと、キラ自身はますます硬度と熱さを増した。
「はぁっ……あっ……ラクス」
出したい。
出していいんだ。
「イ、ク……っ。出すよ」
「んっ……んっ……!」
キラが声を荒げて、ラクスも艶かしい吐息を漏らす。
「あっ!」
白い衝動が弾けた瞬間、キラは思わず腰を前に突き出した。白濁した欲望と愛情を、キラは自身の先端からラクスの口内へ大量に注ぎ込んだ。
「あっ……あー……」
びゅ、びゅる……と、淫らな音が聞こえた気がした。
キラの荒い呼吸に合わせて、射精は数回続いた。ようやくそれが収まっても、ラクスは目を伏せたまま、しばらくキラ自身から口を離さなかった。
「ん……」
未だ硬く屹立したままのキラ自身からの別離を嫌がって、キラの先端からラクスの舌先へ、だらしなく唾液と愛液が糸を引いた。
ラクスは名残惜しそうに口を閉じると、キラから注がれた愛情の全てをこくりと飲み下した。
「キラの味、ですわ」
ーなんて顔をするんだ。
あぁ。
ダメだ。
ラクスの健気な笑顔に、キラの中の淫美な衝動は鎮静化するどころかますます激しさを増した。
キラはサイドテーブルにあるペットボトルのミネラルウォーターを口に含み、それをラクスへ口移しで一気に流し込んだ。一瞬、ラクスはわずかに目を見開いたが、恍惚とした表情で受け入れ、飲み込み、二人はそのまま舌を絡めながらベッドに倒れ込んだ。
「は……あっ……」
キラの指先がいたわるようなやさしさでクリトリスに触れて、ラクスはキラにしがみつく。円を数回描いた後、キラの指はラクスの恥丘へと移動した。
濡れそぼったラクスの恥部は、当然のようにキラの中指を根元まで受け入れた。
それでも、乱暴にならないように。慎重に。
薬指も、挿し込む。
「あっ……あぁ……!」
舌では到達できなかったさらに奥を、キラの二本の指がゆっくりとかき乱す。
ーラクスが好きなところ……。
ほんの少し指を曲げて、最奥の少し上を丁寧になでる。
「キ……ラ……っ」
震えながら、ラクスが背中に回した両手に力を込めて、キラは彼女が再び達したことを悟った。
「はぁ……はぁ……ラクス」
「は……はっ……」
「僕は、もう……」
「私も……欲しい、です」
それはまったくの偶然だった。
右手の指先が硬く屹立するキラ自身へ触れて、ラクスは顔を紅潮させて俯いた。胸元で両手の指を合わせ、左右の人差し指をくるくるさせる。
「欲しいのです。……キラの、その……お……おち………ち……」
ごにょごにょと聞き取れない。
だが、キラもまた頬を赤く染めて、口元をへなへなとわななかせていた。
「す……すぐに付けるからっ! ちょっと、待って」
キラは電光石火のスピードで、ベッド脇のサイドテーブルの引き出しから避妊具を取り出した。
「付けるのですか?」
ラクスが甘い誘惑を口にする。
「ラクス……?」
「だって、キラ……あの時、とても、気持ちよさそうでした、から……」
再び俯いて、ごにょごにょ。
ラクスは、浜辺でのことを言っているらしい。
ーあれは、まぁ、確かに、色々と……。
凄かったーと、思うキラだった。
「ありがとう、ラクス」
だが、キラはコンドームを付け終えると、ラクスの頬をなでた。カガリやアスランのお世話になっている状況で、欲望に任せて無責任なことはしたくなかった。
「僕はラクスと、ちゃんと二人で歩いていきたいから」
二人の時間は、いくらでもある。
いつか、その時がきたら。
「キラ……」
ラクスは自分から両脚を開いた。ラクスの恥丘は泉のように愛液を湛えて、キラが来るのを待ち望んでいた。
そこへ、キラが身体を滑り込ませる。
「いくよ、ラクス」
「はい」
深くくちづけを交わしながら。
ゆっくりと。
キラはラクスの中心へ自分自身を埋没させてー。
二人は、ひとつになった。
「は……あ……キラ……」
ラクスは自分の最奥にキラを感じた。
キラは、自分がラクスに包まれていることがわかった。
自分の中心に、最愛の人がいる。
そのあまりの安堵感に、二人は一時、見つめ合った。
お互いのくすぐったいような呼吸だけが、世界の全てだった。
「ラクス……」
キラはラクスの膝に手を添えて両脚を大きく開かせると、やわらかく腰を前後させた。
「あ……あっ……」
浅く、深く、キラが抑えきれない欲情をうちつける度に、ラクスは切ない喘ぎ声をキラへ返した。
見上げるラクスが、キラの頬や乳首をなでる。
貪るようなキスの後、キラは律動に合わせて上下に揺れるラクスの双丘を揉みしだき、乳首に吸いつきながら、舌を這わせる。
両手を合わせて微笑み、また唇と唾液を重ねながら、舌を吸い合う。
「はぁ……はぁ……」
「あっ……あんっ……」
「痛く、ない?」
「気持ちいい、です……キラ」
「はぁ、ぁ……ここ、は……?」
「はい……あっ……その、下からの、が……んっ」
キラもラクスも、お互いをいたわりながら肌を重ねる、最初のこの時間が好きだった。
「好きだよ、ラクス」
「はい……私も、あっ……大好き、ですわ、キラ……あっ! あぁっ!」
キラはいつも、ラクスが欲しい言葉をくれる。
甘いささやきにラクスの頬がとろけて紅潮し、その表情がキラ自身をさらに硬く膨張させた。
ずっと二人、このままがいい。
なのに、どうして。
この人から、もっとたくさんの愛が欲しいとー欲張ってしまうのだろう。
「キラ、んっ……上、に……」
ラクスがしがみついて、キラはそのまま上体を起こした。
ラクスは動こうとするキラの両手をシーツの上へ導き、制止する。
「次は、私が……」
キラの両肩に手を添えて、ラクスは腰を擦りつけるように前後させた。
「んっ……深い……あ……っ!」
刺激は緩やかだったが、全身でおねだりするようなラクスの仕草に、キラは溶けそうなほど下腹部が熱くなるのを感じた。
「気持ち……いい、ですか?」
「うん、ラクス。すごい……」
喘ぎ、微笑みながら、ラクスは涙を浮かべた。
キラが目尻をそっと拭うと、ラクスは溢れる吐息ごとキラの唇へ流し込んだ。
「ん……ん……」
キラが悦んでくれている。目を細めて自分を見つめながら、噛み締めるように声を抑えて喘いでいる。
それがうれしくて、ラクスは唇を重ねたまま、夢中で下腹部を上下させた。
「はっ……はっ……」
「あ……ぁん……っ」
お互い、絶対に他人には見せられない表情をしている。
キラはラクスの、ラクスはキラのものだった。
「かわいい、ラクス」
「……ぇ……」
キラがキスに合わせてささやくと、ラクスはぶるっと身体を震えさせた。
「ずるい、キラ……あんっ」
見つめ合う二人の双眸は切なく細く、けれど互いの一番恥ずかしい部分だけが、ぷちゅぷちゅといやらしく逢瀬を繰り返している。
ふいに、キラはラクスを抱き寄せると、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
ラクスは当然のように両脚をM字に開脚しようとしたが、キラが両手をお尻に添え、斜め手前へうねるように腰を突き上げたので、ラクスはたまらず背中をのけ反らせた。
眼前でぷるんと揺れるラクスの胸の先端を、キラは舌先で転がしながら口へ含んだ。
「あッ! や! だめです、キラ!」
そんな言葉とは裏腹に、ラクスもキラの動きに合わせて腰を上下させる。
「あ! あっ! あぁッ!」
掻きむしるようにキラへ抱きつきー。
ラクスは達した。
「あ……キ、ラ……」
大量の愛液を滴らせながら、ラクスの中心がきつく収縮する。危うくもっていかれそうになるのを、キラは彼女を抱きしめ返すことでなんとかやり過ごした。
「……ごめん。やりすぎたね」
放心したようにキラを抱きしめたまま動かないラクスの髪を、キラはやさしくなでた。
「大丈夫、ラクス?」
キラ自身はまだまだ衰えることなく、ラクスを貫いている。だが、今夜はこれで終わりでもいいとキラは思った。
あの夕暮れの浜辺の時と同じように、二人身も心も重ねてひとつになることができた。
ラクスを感じることができた。
それだけで、キラは満足だった。
「キラ……」
呼吸を整えながら、ようやくラクスは顔を上げた。
その頬は、淫らに紅潮したままだった。
「もっと……ください……」
ラクスがキラのうなじから鎖骨へ、乳首へとキスを繰り返す。
ラクスの中心で、キラはドクンと熱くさらに硬度を増した。
「あッ! あッ!」
バックからキラが腰を激しくうちつける度に、ラクスは叫ぶようにキラの名前を吐息と共に吐き出した。
「キラ! キラッ!」
この体位では、ラクスの表情が見えない代わりに、自分とラクスが結合しているところが丸見えになる。
ギリギリまで引き抜き、最奥へと引き返す。その度に、ラクスの愛液はとめどなく溢れて、シーツへ大きな染みを作った。
「キラ! あッ! キラの声、聞きたいっ」
快楽に夢中になって、ラクスを不安にさせたことを、キラは恥じた。
自分自身を深く挿し込んだまま、ラクスの背中から覆い被さり、横から彼女の唇を奪う。
「ラクス……!」
互いに舐め合い、口内を味わいながら、キラはラクスの乳首を両手の指先でつまみ、こねるように愛撫した。
「ん……キラ!」
下腹部へ移動させた左手でラクスのクリトリスを弄び、そのまま側位へ移行する。
「う……あ……」
激しくはできないが、深い。
ラクスの愛液がまた溢れて、さらにキラを昂らせる。
「ラクス……も、もう……!」
「はい、キラ……!」
ラクスの両脚を開いて、二人は再び正常位で向かい合った。
「いっしょに……キラ」
ラクスの潤んだささやきで、キラがかろうじて維持していた理性は完全に砕け散った。
「ラクスッ!」
「あッ!」
キラは激しく下腹部を律動させた。
深く根元まで挿し込まれたキラ自身が、ラクスの奥の奥へ何度も愛情と欲望を注ぎ込む。
「あ! あッ! あぁッ!」
ラクスは潤んだ瞳を切なく細め、甘く歪んだ表情で見つめるキラの頬に両手を添えた。
「愛してる、ラクス」
ラクスの瞳に、また涙が溢れた。
「私も、愛しています、キラ」
愛する人がいて、触れ合い、心を通じ合わせることができる。
かけがえのない人がいる。
そんなしあわせがある。
「ラクスッ!」
「キラッ!」
涙と愛液はとめどなく溢れた。
めちゃくちゃにキスをして、舌を絡め、互いの身体をまさぐりながら、腰の動きを加速させる。
キラは、ラクスを求める自分の全てが先端に集中していくのがわかった。
出したい。
本当は、なんの隔たりもなく、ラクスの中に。
自分の全てをぶちまけて、彼女の全部を自分だけのものにしたかった。
「はぁ! はぁ!」
「あ! あッ! キラッ!」
「もう! イクッ! 出すよ、ラクスッ!」
「はい! キラッ!」
「はぁッ! はぁッ!」
「あ! あッ! あッ!」
キラは獣のように自分自身を突き挿れた。
「う……あ……ッ!」
ラクスがキラにしがみつき、両脚を腰に絡める。キラの後頭部の襟足を、無意識に強く握り締める。
「ん……!」
二人が互いのくちびるを深く結んだ、その瞬間ー。
キラとラクスは、同時に達した。
「……………ッ!」
「あ……ぁ……ッ!」
自分自身を根元までラクスの中心へ挿し込んだまま、キラは何度も彼女の最奥で果てた。
ラクスはキラを強く抱き締め、両脚を絡めたまま、震えるように小刻みに慟哭する彼をいさめた。
歯止めが効かなかった。
しばらくキラは白い欲望を放出し続け、二人はお互いの呼吸と鼓動だけを感じていた。
「はぁ……はぁ……」
「キラ……」
ようやく身体を離し、キラが自分自身を引き抜くと、ラクスの恥部から彼女の愛液が溢れ、滴った。
「こちらへ……」
キラは避妊具を外して、ラクスの顔へ自分自身を横から近づける。
ラクスはうっとりとした表情で、未だ硬く屹立したままのキラ自身を口へ含んだ。
敏感になっている先端を、マシュマロのように甘い刺激が包み込む。
「はぁ……あ……ラク、ス……」
ラクスはゆっくりと口を前後に往復させた。
たった数回の奉仕で、キラは内側に残った最後の精液を、ラクスの口内に溢れさせた。
こくり、とラクスの喉が鳴る。
キラはラクスの口から自分自身を引き抜くと、横になってラクスを抱きすくめた。
「もっと……だめですか、キラ?」
見つめ合う二人の頬が、また同時に赤く染まる。
キラがこの程度で満足しないことを、ラクスは知っていた。
「いいの……?」
「だって……しばらくは、おやすみですもの」
もちろんラクスも、満足したわけではなかった。
「僕も、ラクスが……もっと欲しい」
唇を重ねながら、キラはラクスに再び覆い被さった。
鳥の鳴き声が聞こえた。
目を開けて、ベッド脇のカーテンの隙間から差し込む朝の日差しに、ラクスは目を細める。
キラの腕の中で、ラクスは眠っていた。二人裸で抱き合い、キラがラクスを胸元へゆるく抱き寄せている。
ラクスは上体を起こすと、安らかな寝息を立てているキラの顔を覗き込んだ。
穏やかな、キラの寝顔。
それもまた、ラクスだけに見せる、彼の表情だった。
キラの唇をそっと奪った後、ラクスは昨夜の営みを思い出して、ぽっと頬を赤らめた。
ー乱れて、しまいました……。
明け方近くまで、キラとラクスは愛し合った。
今までしたことがなかった、あんなことやこんなことまでしてしまい、自然とふやふやに波打つ口元を落ち着かせようと、ラクスは頬に両手を当てて目を伏せた。
その時、腰のあたりをちょんちょんとつつかれて、ラクスはキラの方を振り返る。寝ぼけ眼のキラが、ふわふわの笑顔でラクスを見つめていた。
「おはよう、ラクス」
ラクスが好きな、子供のように純粋な眼差しが、今日もラクスを捉えて離さない。
「おはようございます、キラ」
キラが手招きして、ラクスは彼の胸へ飛び込む。キラのうなじへ頬をすり寄せ、全身で彼を感じる。
はちみつのような幸福感に包まれながら、二人は互いを抱きしめ合った。
※
ーおや?
午後のティータイムにキラとラクスを招いたカガリは、二人のやわらかな雰囲気に笑顔を見せた。
「ゆっくり休めたみたいだな、二人とも」
「おかげ様で」
「今は皆様のご厚意に甘えさせていただくことに致しました」
カガリは満足そうに頷くと、ティーカップの紅茶に口をつける。
ふと思いついて、付け足す。
「しかし、まぁ、二人とも。ハメを外しすぎるのはダメだからな。その……え、えっちなこととか、なッ」
カガリにしては思い切った冗談だった。
ただ、自国に保護されてからの二人の雰囲気には、以前にも増しててただならぬ親密な空気が漂っている。もういい大人なのだから、双子の姉弟に無粋なことを言うつもりはないが、イチャつきが過ぎるのも困るというものである。アスランの助言で二人の住まいに用意しておいたアレだって、計画的に使うよう遠回しに釘を刺しておきたいカガリだった。
ー私だって、アスランとはなかなか会う機会がないんだからなっ。
「え?」
カガリはティーカップを手にしたまま固まった。
キラとラクスが首から上を真っ赤にして、あらぬ方向へ視線を逸らしたからである。
「おい、ちょっと待て……」
「ごちそうさま、カガリっ」
「紅茶、おいしかったですわっ」
せかせかと立ち上がって同時に回れ右をしたキラとラクスの肩を、カガリはむんずと掴んだ。
「お前ら、なんだ、そのふやけた顔は!? まさか、一晩で全部使い切ったんじゃないだろうな! おい、キラ、ラクス!」
首長官邸に、カガリの悲壮な叫び声がこだました。
「こっちはアスランと会う時間もないっていうのに、お前たちはああぁぁぁーッ!」
了