※この作品はR-18です。

ミライレコード   作:kuroto xanadu

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今回から文章の間をー(横線)ではなく◇◇◇にします。
今回も長めです。すみません。


会いたい人

 翌日の夜。

 

「この間と違って夜に来るとちょっと怖いですね…」

 

いろはがビビる。

 

「環さん?」

 

「ひゃっ!」

 

急に声をかけられていろはが飛び上がる。

 

「…未来さん?」

 

いろはの背後に現れたのは未来だった。

 

「どうやら考えることは一緒みたいだな。…にしてもやっぱり暗いな」

 

「参拝時間が終わると照明も落ちるから、こうした静寂に包まれた神社もなかなか乙じゃない?…ただ、ああいうのが居ると台無しになっちゃう」

 

やちよがもう1人のメンバーを差す。

 

「夜の神社って初めて!暗い中で木に囲まれているとなんだか都会じゃないみたい!あ、こういうところってお化けとか出てくるのかな?この神社の話にあった男の人とか出てくるかも!」

 

「もう!変なこと言わないで鶴乃ちゃん!」

 

怖い話が苦手ないろはが叱る。

 

「っていうか合流したんだな鶴乃と」

 

「不本意ながらね…ほら鶴乃、暗い中で動き回ると危ないわよ」

 

「大丈夫だよ!ただの砂利道だっあぎゃん!…いたぁあい!」

 

鶴乃が転んで涙目になる。

 

「子供か」

 

「言ったそばから…」

 

呆れたやちよの目は完全に保護者だ。

 

「大丈夫?鶴乃ちゃん」

 

いろはが慌てて駆け寄る。

 

「うん…泥ついた…」

 

「はあ…後で洗いましょ」

 

「あ、内苑の門!ほんとに夜は閉まってるんだね!」

 

「(切り替えが早い!)」

 

いろはが驚く。

さっきまで泣いていたのにもうはしゃいでいる。

まるで小さい子供だ。

 

「ええ、だから私も気づけなかったのよ」

 

「そういえば、お参りできませんね」

 

「でも、お参りするしかないでしょ」

 

「へ?それってもしかして…」

 

嫌な予感がするいろは。

 

「察しが良くて助かるわ。これから内苑に侵入するのよ」

 

堂々と犯罪行為を宣言するやちよ。

 

「やっぱり!」

 

予感が的中したいろは。

 

「そ、そんなことしたら怒られちゃいますよ…」

 

「じゃあ私と未来と鶴乃で行ってくるわ。未来と鶴乃は行くでしょ?」

 

「ああ」

 

「もっちろん!」

 

「環さんは?妹さんのこと、本当にいいの?せっかく誘ったのに残念だわ…」

 

わざとらしい芝居をするやちよ。

 

「うぅぅぅ…行きます!」

 

犯罪とういを天秤にかけたいろはは観念してういを選んだ。

 

「決まりね」

 

してやったりの顔をするやちよ。

 

「(神様、どうか神主さんに見つかりませんように…あれ、何か矛盾してるような…)」

 

神社でおかしなお願いをするいろはであった。

 

 

◇◇◇

 

 

 神社の境内。

 

「ほ、本当に入っちゃった…」

 

「あは…魔法少女ならかる~く入れちゃうね。次はどうしようか?何をすればいいのカナ?」

 

罪悪感のかけらも無さそうな鶴乃が大声で言った。

 

「しっ…鶴乃はもう少し静かにして!」

 

やちよが注意する。

 

「はい!」

 

「それじゃあ、噂の内容を伝えておくわ。そこに会いたい人に会う方法も含まれているから」

 

「分かりました」

 

いろはの顔に緊張が走る。

 

…アラもう聞いた?誰から聞いた?口寄せ神社のそのウワサ

家族?恋人?赤の他人?心の底からアイタイのならこちらの神様にお任せを!

絵馬にその人の名前を書いて行儀よくちゃ~んとお参りすればアイタイ人に逢わせてくれる

だけどだけどもゴヨ~ジン!幸せ過ぎて帰れないって水名区の人の間ではもっぱらのウワサ

キャ~コワイ!…

 

「という内容よ。だから会いたい人に会うにはね。神社の絵馬を使う必要があるわ」

 

「そして、ういに会えたら連れて戻ればいいんですね。無理やり手を引いてでも…」

 

「そうね。それぐらいの気持ちで挑みましょう。あなたも…私も…」

 

「はっ!私、絵馬を持ってないです!」

 

「私が用意しているわ。さすがに手ぶらじゃ来ないわよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「俺はここで待つよ。会いたい人は目の前にいるしな」

 

未来がやちよに微笑む。

 

「もう…それじゃあ、行きましょうか」

 

「え、あ…やちよ~?」

 

鶴乃がお手のポーズをしている。

 

「ん?どうしたの?なに…その手?」

 

「犬の真似か?」

 

やちよと未来が首を傾げる。

 

「え、う…私の絵馬は?」

 

「ないわよ。元々、私と環さんの2人で入るはずだったもの。用意できるはずないじゃない」

 

「ん~…ん~ん~!」

 

犬のように唸る鶴乃。

 

「そんな顔してもないものはないの。そもそも本当に必要なの?」

 

「はぇ?」

 

鶴乃が呆けた声を出す。

 

「…はっ!」

 

しばらく考えた後、気づいた。

 

「いらないでしょ?」

 

「うん。やちよと私は探してるのって同じ人だから。別に私は行かなくていいや。だから…この由比鶴乃、お祈りする2人の盾になるよ!急に敵のウワサが出てきたら危ないもんね」

 

「全く…すぐ突っ走るんだから。頭の回転が早いのは結構だけど脇道に逸れないようにしなさい」

 

「頭の回転が早い?」

 

「これでも私、学年の中では最強だから!」

 

「最強?」

 

「成績が一番いいってことよ」

 

「ええ⁉」

 

いろはが信じられないと言いたげな顔をする。

 

「あと未来も大学トップの成績よ」

 

やちよがそう付け足した。

 

 

◇◇◇

 

 

「環さん、会いたい人の名前は書けた?」

 

「環うい…里見灯花…柊ねむ…う~ん…全部はダメですよね?」

 

「欲張って失敗しても知らないわよ?絵馬に予備もないんだから」

 

「それなら…環ういって書きます!」

 

絵馬に名前を書いた2人は神社の本堂の前に行く。

 

「それじゃあ、拝みましょうか?」

 

「はい」

 

口寄せ神社というチャンスを掴んだいろは。

ういを見つけて、例えウワサが現れても必ず守る。掴んだ手は離さない。

 

「(神様、ういに会わせてください)」

 

「よっし、ウワサめ!来るなら来い!もしも、ういちゃん達を連れて帰るのを邪魔するなら!最強の私がコテンパンにするからね!」

 

「ちょっと鶴乃!刺激するようなこと言わないで!」

 

やちよが注意したその瞬間、周囲の景色が変わった。

 

「っ!これ…絶交ルールの時と同じ…」

 

現れたのは神社の神のようであるがどこか歪な見た目のウワサだった。

それも1体だけではなく何体もいる。

 

「余計なことを言うからウワサが出てきたじゃない!…本当、いつもトラブルを引き起こすんだから…」

 

「私のせいかな?」

 

「それ以外、考えられないわよ!ほら最強の鶴乃ちゃん、盾になるなら早速出番よ!未来もお願い!」

 

「ああ」

 

「はい!」

 

鶴乃が魔法少女の姿に変身する。

頭には白と赤の葉のような髪留め、全身はチャイナドレスではないが中華をイメージさせるようなオレンジ色の衣装、そして両手には扇を持っている。

 

「背中は私達に任せて!会いに行って来て!」

 

「カッコつけてるけどあの子が撒いた種なのよね」

 

やちよが呆れる。

 

 

◇◇◇

 

 

 戦闘開始から数分後。

 

「やちよ、ウワサが多いよ!このままじゃそっちに行っちゃうかも!」

 

「ちょっと…盾になるんじゃないの?ほら、ちゃんとしないと自称最強の名前に傷がつくわよ」

 

「うえぇええん…頑張る!」

 

泣き言を言いながら奮闘する鶴乃。

 

「急ぐわよ…環さん。ウワサが来る前に全て終わらせましょう!」

 

「は、はい!」

 

いろはとやちよは絵馬を持って鈴を鳴らしお参りをする。

 

「(お願いします…妹に会わせて下さい…私の妹、環ういに会わせて下さい!…お願いします…神様!)」

 

「あっ、やちよごめん!1匹そっち行っちゃった!…っていない!」

 

鶴乃が振り返るといろはとやちよはその場から姿を消していた。

ちなみに取り逃がした1匹は未来が仕留めた。

 

「頑張れ…やちよ…いろはちゃん」

 

「ボーっとするな鶴乃!」

 

「ごめん!よ~し全部倒すぞ!」

 

鶴乃が気合いを入れ直す。

 

「ここから先は通行止めだ」

 

未来が拳を握り締める。

 

 

◇◇◇

 

 

 ウワサを全て倒した後、いろはとやちよが戻ってきた。

 

「あ~!ふったりとも遅かったね!」

 

「おかえり」

 

「鶴乃ちゃん…未来さん、大丈夫だった?」

 

「うん。言ったでしょ…2人の盾になるんだって!最強の私の手にかかればウワサも一発で倒しちゃうよ!ねぇねぇ…それで、2人ともどうだった?やちよはみふゆに会えたの?」

 

「みふゆに会いに行ったのか…」

 

「会えたけど偽物だったわ…チッあの女狐…」

 

やちよが舌打ちする。

 

「ほっ?ニセモノォ?」

 

「やちよさん、何だか怖かったです…私も偽物…というかよく分かりませんでした…何か今回のうわさって人の弱みにつけこんだ嫌なうわさでしたね…」

 

「そうなんだ…それじゃあ、帰ってからもう一度噂を調べよ!私もまだまだまだまだ!みふゆのこと調べるから!」

 

「これは私のことだから鶴乃は好きにしていればいいわ」

 

「え~私だってみふゆに会いたいよ~それに同じチームだし!」

 

「だからそれは過去の話だって言ってるでしょ。それにまだ終わってない」

 

「ですよね。前みたいにうわさは消せてないですし…」

 

「私は会いたかった人を否定した上、眠りもせずに戻ってきた。これはウワサからすると無視できない状況のはずよ。…あ、そうだ未来、環さんのソウルジェムの穢れを…」

 

やちよが未来に声をかけたその時。

 

…最愛ノ者トノ再会ヲ求メテ殺セル者ヨ

神ヲ謀ッタソノ罪、万死ニ値スルデアロウ…

 

周囲の景色が変わった。

 

「くっタイミングの悪い…」

 

現れたのはナメクジのようであるがなんとも形容しがたい異形のウワサだった。

 

「これがうわさを現実にしている大元のウワサってわけね」

 

「そうみたいですね」

 

「今、謀ったとか聞こえたような気がするけど…それがこのウワサの言葉ならそっくりそのまま返さないとね」

 

「はい。会いたい気持ちを利用するなんて」

 

「万死に値するわ!」

 

いろはとやちよは静かに怒りの炎を燃やしていた。

 

「じゃあ一番槍も~らった!」

 

鶴乃がそう言って飛び出した。

 

「え?今の流れ、私達だと思うんですけど!」

 

「鶴乃らしいわ…」

 

やちよが呆れる。

いろはが矢を放つ…が、

 

キンッ

 

「やちよさん、矢が弾かれる!」

 

「私の攻撃もまるで通じないわ…」

 

「俺もだ」

 

「あれかな?魔力を弾くコーティングでもしてるのかな?油まみれの厨房みたいな!」

 

「またそんな適当なことを言って…んなわけないで…しょ…いえ…ウワサはウワサ…魔女と関係ないなら…」

 

やちよが鶴乃の言葉を考える。

 

「やっぱりあり得るってことだよね!」

 

「ええ。だからといって解決策は分からないけど…」

 

「何か考えるきっかけってないですかね?…馬…蛙…口寄せ…神様…」

 

「ほっ?」

 

いろはの呟きに鶴乃が何か引っかかったようだ。

 

「鶴乃ちゃん?」

 

「う~ん…神様!」

 

鶴乃が長考した後、突然大声で言った。

 

「鶴乃ちゃんがひらめいた!」

 

「うん…ひらめいた!あのね…神様って願いを叶えてくれるでしょ?で、魔法少女って願いを叶えて生まれたでしょ?どっちも奇跡に関係してるから魔力の質が似てるのかな~って!もしも、そうだったら魔法とか効かなそうじゃない?」

 

鶴乃が推理を口にする。

 

「神様…奇跡…」

 

未来は自分の左手を見る。

 

「百歩譲ってそうだったとしてもどうすればいいのよ…」

 

「う~ん…物理攻撃?気を引っこ抜いて殴るとか!」

 

「他に!」

 

やちよと鶴乃がアイデアを絞っている。

 

「ええと…呪いや穢れの力?」

 

「そ、そんな力…私達にはないよぉ…未来さん」

 

「残念ながら俺の戦い方は魔力を操作して攻撃するやり方だから無理だな」

 

一騎当千の未来にいろはが期待するが簡単に打ち砕かれた。

 

「…鶴乃ちゃん、私達…もしかして今…」

 

「絶体絶命かもね…たは~」

 

鶴乃が空元気の笑顔で返す。

 

「それに正しいかどうかも分からないし…」

 

「敵が強い理由はどうあれ笑えない状況なのは確かみたい。…呪いや穢れの力…」

 

やちよが呟いたその時、突然ウワサの攻撃が未来に直撃して引き離された。

 

「ぐっ…」

 

間一髪、魔力で防御したおかげで致命傷は免れた未来。

 

「キャッ!」

 

さらに、いろはにも襲い掛かるウワサ。

 

「環さん!」

 

「ちょっとかすっちゃいました…まだ大丈夫です…」

 

「でも明らかに動きが鈍いわ。鶴乃はまだいける?」

 

「時間をかけると魔力が尽きちゃうかも!」

 

「さすがに攻撃が通じないんじゃ自称最強も形無しってわけね…為す術がないわ」

 

「やちよさん…悔しいけど逃げるしかないと…思います…」

 

いろはは勝ち目の無さを痛感して撤退を提案する。

 

「ええ。そのようね…鶴乃、退くわよ!未来!」

 

「俺は大丈夫だ。1人でどうにかできる…お前達は先に行け」

 

未来は立ち上がり、目の前に立ち塞がるウワサ達を前に構える。

 

「アイアイサー!戦略的撤退だ!よ~い…ドン!」

 

鶴乃が勢いよく後方へ走り出す。

 

「ちょっと…先に行かないの!少しは連携を考えて!…もう…」

 

「行きましょう。やちよさ…」

 

いろはは立ち上がることが…出来なかった。

 

「環さん!」

 

「ご、ごめんなさい…急に体から力が抜けちゃって…ふぅっ…うぅ…」

 

「っ!あなた、そのソウルジェム…」

 

やちよがいろはのソウルジェムを見る。

ソウルジェムはほぼ真っ黒に近いほど穢れていた。

 

「ソウルジェム?あれ…すごい穢れが溜まってる…もう少し大丈夫って思ってたんですけど…ういに会えなかったの…ショック…だったのかな?」

 

「そんな状態で…どうして私にグリーフシードを!」

 

やちよがいろはに怒りの言葉をぶつける。

 

「大丈夫ですよ…やちよさん、ちょっと…動き辛いだけですから」

 

心配ないと言ういろはは力なく笑う。

 

「動かないで!私があなたをおぶって行くわ!」

 

「ごめんなさい…迷惑かけちゃって…」

 

「言ったわよね…私の前で死ぬ気は無いって。…それは…忘れないで…」

 

やちよといろはの元へウワサが追いかけてくる。

 

「なんてタイミングかしら…ごめんなさい環さん、少しだけ乱暴に動くわよ」

 

「はい…」

 

だがウワサの攻撃はすぐそこに迫っていた。

 

「くっ…避けられない!」

 

いろはとやちよのピンチに、

 

「炎扇斬舞!」

 

そこへ鶴乃の必殺技が炸裂した。

扇子から火の玉を放ち、最後に斬撃を加える。

 

「ごめんごめん。勢いあまって先に行っちゃったよ!ウワサの動きが止まった隙に早く逃げちゃおう!」

 

「助かったわ鶴乃、さすが最強の魔法少女ね」

 

「えへへ…」

 

嬉しそうに笑う鶴乃。

 

「あんな大技を使って大丈夫なの?」

 

「え?…もう大技は使えないね!」

 

「明るく言っちゃって…」

 

そう返すやちよの顔は笑っている。

 

「やちよさん…」

 

「お願い。少しだけ耐えて」

 

「ふっ…うぅ…く…」

 

「環さん!」

 

「なんか…体に力が…入らなく…なってきました…でもまだ…大丈夫…です…」

 

いろはの声はだんだん弱くなっていた。

 

「苦しいかもしれないけどあと少し耐えて」

 

「あのウワサ、このまま逃げてくれないかな~?」

 

「ウワサはうわさを現実にする存在よ。うわさの内容から外れるなら全力で私達を排除しにくるわ」

 

「ありゃりゃ…4人揃ってやられちゃう?」

 

「不吉なこと言わないで。まだこうして逃げるという手段は残されてるわ」

 

複数のウワサが追いかけてくる。

 

「それに…小物を倒すぐらいの余裕ならまだ残ってる」

 

「ふぅ…」

 

「小さい奴相手でも結構きつくなってきたね~」

 

鶴乃の言葉に対して息を切らせるやちよ。

 

「はっ!」

 

「どうしたの?」

 

鶴乃が何かに気づいたようでやちよが訊く。

 

「神社の外に出ればいいんだ!今回って神社のうわさだから敷地から出ればきっと大丈夫!」

 

鶴乃が推理を叩き出す。

 

「よ~し…私、出口を探してくる!急ぐよ。ほりゃああ!」

 

鶴乃が猛ダッシュで駆け出した。

 

「あの子も消耗してるはずなのにすごいわね…」

 

やちよが呆れ半分感心半分の気持ちで呟く。

 

「ねぇ…環さん…環さん?…いけない…環さん!」

 

やちよが背負っているいろはに声をかける。

しかし、いろはの返事が無いことに焦りの声を上げた。

 

「環さん!」

 

やちよがもう一度名前を呼ぶ。

 

「っ!」

 

いろはがその声に気づく。

 

「意識をしっかり保って!」

 

やちよは呼びかけ続ける。

 

「…やちよさん、私…どうなっちゃうの?」

 

「どうにもならないから大丈夫よ。だから意識だけは保って…」

 

「あの…私…あとで…やちよさんと…話したいことが…」

 

それはまるで最後の言葉のようにも思えた。

 

「そう。それなら一層、耐えないといけないわね」

 

やちよはその考えを振り払った。

 

「うん…」

 

そこへウワサが追いかけてくる。

 

「ウワサが動き出した…」

 

ウワサのスピードはこれまでとは段違いに速かった。

 

「そんな…もう追いついてくる!」

 

やちよの焦りが加速する。

 

「やちよ、出口見つけたよ!こっちこっち!早く早く~!」

 

「鶴乃、よくやったわ!」

 

そんなやちよの前にウワサが前に立ちはだかる。

 

「どきなさい!」

 

やちよが攻撃するがウワサはガードし反撃してきた。

 

「しまっ…体勢が…くあぁっ!」

 

やちよがウワサの攻撃を受けてしまう。

何とかいろはだけは守ろうとする。

 

「やちよ~!このおおおおおお!」

 

鶴乃がウワサに火の粉を飛ばして牽制する。

 

「鶴乃!」

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…やちよはいろはちゃんを連れて…先に…結界を出て!私はこいつを抑えたら追いかけるから

!」

 

それはまるで死亡フラグのようだった。

 

「なに言ってるの!今のあなたじゃ抑えきれない!」

 

「ほら。早く早く!」

 

「でも…あなた!」

 

「大丈夫。死ぬ気はないから!」

 

笑顔で返す鶴乃だが、今のやちよにとってはそれが辛い。

 

「気分でどうなら問題じゃないわよ!」

 

「さあ、かかってこい!」

 

鶴乃はウワサに向かっていく。

 

「う…あっ…あああ!」

 

いろはの苦しみがさらに大きくなっていく。

 

「環さん!…このままじゃ…ソウルジェムが穢れきる!」

 

やちよが未来に視線を移すが、彼はウワサに包囲されていてとても助けを呼べそうにない。

 

「くあっ!」

 

応戦していた鶴乃がウワサに押し負けた。

 

「や、やちよ…ごめん!そっちに行っちゃった!」

 

そう言う鶴乃だがむしろ満身創痍でここまで戦えたことだけで大したものだろう。

 

「くっ…」

 

「…ぁ…く…」

 

追い詰められて歯噛みするやちよと苦しそうに呻き声を上げるいろは。

 

「ぐっああ!」

 

ウワサの攻撃を受けて吹っ飛ばされるやちよ。

 

「っ!いけない…環さん!」

 

ウワサはやちよの背中から落ちて倒れるいろはに迫っていく。

 

「環さん、すぐそっちに行くから!」

 

やちよがボロボロの体を無理やり動かす。

 

 

◇◇◇

 

 

 その頃、未来はウワサ達に包囲されながらも何とか生き残っていた。

 

「くそ…次から次へと…」

 

倒しても倒しても減らないウワサ。

未来の魔力もそろそろ尽きてくる。

そんな彼の視界に倒れるいろはが映る。

彼女の元へウワサが迫る。

 

「環さん!」

 

未来がいろはの元へ駆け寄ろうとするがウワサ達がそれを阻む。

 

「どけぇ!」

 

未来が鬼神の如くのような勢いでウワサを次々と倒すが、まるで壁のようにウワサが立ちはだかる。

 

「環さん!…いろはああああああっ!!!」

 

未来がいろはに手を伸ばすが、その手が届くことは無かった。

ウワサの攻撃が未来の腹に直撃し吹っ飛ばされる。

辛うじて魔力で防御したが木の幹に背中を打ってしまう。

 

「ちくしょうが…」

 

いろはがウワサに殺されると思ったその瞬間、彼女の髪がバサッと広がり、布が巻き付き顔はまるで能面のように白くなる。

そして、彼女の背後に化身のような物体が現れ、彼女の体を動かす。

化身はウワサに布を巻き付かせて撲殺した。

一瞬だった。

大元のウワサが消えたことで小型のウワサと結界も消滅した。

化身も霧のように消えた。

 

「っ!…消えちゃった」

 

いろはの意識も完全に元に戻っていた。

 

「環さん、大丈夫?」

 

「なんともないか?」

 

やちよと未来が駆け寄る。

そこでやちよが気づく。

 

「あなた…そのソウルジェム…」

 

いろはのソウルジェムは一粒の濁りも無いほど輝きを取り戻していた。

 

「へ…あ、あれ?穢れが消えてる?」

 

「はっ!分かった!今のは穢れを使った技なんだね!すごいね!いろはちゃん!魔法少女の新しい技を発明だ~!ふんふん!」

 

鶴乃がテンション高い声で騒ぐ。

 

「そう…なのかな?すみません…全然自覚が無くって私…」

 

いろはは戸惑いを隠せない。

それも当然だろう。

自分の中に得体の知れない力があるのだから。

 

「私も初めて見たけど何だったのかしら?とにかく調整屋に行って…」

 

みたまなら何か知っているかもしれないと思ったやちよ。

 

「悪いけど行かせる訳にはいかないわ」

 

その時、知らない声が聞こえた。

 

「え?」

 

いろはが声を上げる。

現れたのは金髪縦ロールでベテランの雰囲気を纏った魔法少女。

 

「えと…あなたは?」

 

いろはが名前を訊ねる。

 

「私は巴マミ、見滝原の魔法少女よ」

 

「見滝原?」

 

未来が訝しげな目をする。

 

「あなた達、魔女と一緒に居てよく平気でいられるわね。妙な結界があると思って入ったら思いがけない収穫だったわ」

 

「笑顔で随分と敵意を剥き出しにしてくるわね」

 

「ええ、そうね。ただそれは…そこの魔女さんにだけよ」

 

マミの鋭い眼差しがいろはに向けられる。

 

「わ、私…ですか?」

 

「白々しいわよ。まさか人に紛れている魔女がいるなんて思わなかったわ」

 

「なにを勘違いしているの?ここにいるのは未来を除いて全員あなたと同じ魔法少女よ」

 

やちよが未来に視線を向ける。

当の本人は目を閉じて何か考えている。

 

「だけど…その子は違うわ。お生憎様だけど…この目で見ちゃったのよね…本当の姿を」

 

「この~好き勝手に言って!いろはちゃんは何もしてないでしょ!最強で優しい魔法少女、由比鶴乃も怒ったああぁぁぁょぉ」

 

鶴乃がマミに牙をむくが途中で力が抜けて膝をつく。

 

「うぅ…魔力が減って力が出ない…」

 

「ほんと一難去ってまた一難…魔法少女を相手にこれ以上消耗したくないわね」

 

「やちよさん、私が行きます」

 

いろはが前に出ようとする。

 

「ダメよ。環さん、4人を前にしてあの余裕…きっと只者じゃないはずよ」

 

やちよがいろはを止めようとする。

 

「でも…あの人が狙ってるのは私だけです。それに今は私が一番魔力が残ってますから」

 

いろはが頑として譲ろうとしない。

 

「気の利いたことも言えるのね。人を巻き込まなかったのは評価してあげるわ。だけど…後悔しても遅いわよ!」

 

マミのリボンがマスケット銃に変わる。

 

「リボンが銃になった…この人、すごく魔力の扱いに慣れてる」

 

いろはが構えようとしたその時、

 

「待て」

 

目を開いた未来が制止の声をかけた。

 

「いろは、お前の覚悟に水を差して悪いがここは俺が相手する」

 

「え、でも…」

 

「なぜあなたが?」

 

マミが訊く。

 

「仲間だからだ」

 

「魔女の味方をするつもり?」

 

「まず…君は魔法少女と魔女の魔力の違いも分からないのか?」

 

「それは…そいつが魔法少女に化けているから…ただの人間のあなたに言われる筋合いはないわ」

 

「ただの人間…か」

 

未来は鶴乃とやちよに近づいてソウルジェムに手をかざすと穢れが彼の左手に吸収されていく。

 

「何よ…それ…」

 

まるでグリーフシードのような現象にマミが驚く。

 

「見ての通り俺はちょっと特殊な人間でな。魔力も探知できるし戦える」

 

「「「ちょっと?」」」

 

「そこうるさい」

 

いろは、やちよ、鶴乃の疑問の声に未来がツッコむ。

 

「だとしても…」

 

「次に…いろはが何にせよ、君には関係ないだろ…見滝原の魔法少女の君には」

 

未来がいろはの前に立つ。

 

「誰が何と言おうといろはは俺達の仲間だ。それを部外者の君に口出しされる筋合いはない」

 

「くっ…」

 

未来の正論に押されるマミ。

 

「とはいえそれでも下がらないというなら…俺が相手してやる」

 

「そんな…未来さん!」

 

「悪いないろは…ここはカッコつけさせてくれ」

 

未来は先程の失敗を取り戻そうとしているのだ。

 

「頼む」

 

「…分かりました」

 

いろはは渋々引き下がる。

 

「相手になると思っているの?人間と魔法少女で」

 

「試してみろよ」

 

未来とマミの距離が縮まる。

その距離、僅か1m。

目の前に立つ未来に対し、マミは銃口を向ける。

 

「(まずは肩を撃って怯ませたところをリボンで拘束する)」

 

流石に魔法少女でもない人間を殺すのは躊躇うマミ。

未来は構えながら目の前のマミを観察する。

銃口、引き金にかかる指、視線、呼吸…

 

「(拳銃の弾速は秒速350m…1mなら約0.003秒…)」

 

「(避けられると思っているの?無理よ)」

 

勝利を確信するマミに対し、未来は集中力を極限まで高める。

そして、

 

バンッ!

 

マミは引き金を引いて銃弾が放たれた。

その銃弾を未来は…紙一重で躱した。

銃弾が未来の背後の地面に当たって弾かれる。

 

「そんな!」

 

あり得ない状況に驚愕するマミ。

未来は一瞬で間合いを詰めてマミの腹に右手で掌底を打つ。

マミは咄嗟に後ろに跳びながらリボンで未来を拘束しにかかる。

未来は身を引くが右手だけ拘束されてしまう。

 

「捕まえた!」

 

「お前がな」

 

「え、きゃああっ!」

 

未来はマミと繋がったリボンを掴み振り回す。

ジャイアントスイングのように回されるマミはリボンの拘束を解いて地面に転がる。

すぐに起きて未来に銃口を向けたが、既に距離を詰めていた未来はその銃をハイキックで弾き飛ばした。

 

「くっ…」

 

「まだやるか?」

 

マミは悟った。

この男には勝てないと。

 

「…さすがに退いた方が良さそうね。でも覚えておいて…私はあなた達の敵じゃないわ。私の敵は…ここにいるただ1人、人に化けた魔女だけよ」

 

「口の減らない女だな」

 

「あなた、名前は?」

 

「明日川未来だ」

 

「覚えておくわ。それじゃあ失礼するわ…また会いましょう」

 

そう言い残してマミは去って行った。

危機が去ったことでいろは達は変身を解いた。

 

「帰るか」

 

未来が呟く。

 

「え?あ、こんな時間…」

 

「環さんは帰っちゃダメよ。これからうちにいらっしゃい」

 

家に帰ろうとするいろはをやちよが呼び止める。

 

「ふぇっ⁉」

 

「私に話したいことがあるんでしょ?背負った時に言ってたじゃないの」

 

「で、でも…お母さんに怒られる…」

 

「大丈夫よ。私が説明するから…はい、スマホ貸して」

 

「えぇ…」

 

手を差し出すやちよにいろはは渋々スマホを渡した。

やちよはいろはの母親に電話して上手いこと説明して許可をもらった。

 

 

◇◇◇

 

 

 みかづき荘。

いろははソファに座りながら落ち着かない気持ちになっていた。

 

「はい。緑茶でよかったかしら?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

やちよの緑茶を出されて、緊張のこもった返事をするいろは。

 

「どうしたの?そわそわしちゃって」

 

「いえ…何だか広いお家だなぁって…」

 

「元々、祖母が下宿屋をしてたから2人だと持て余す広さよね」

 

「へぇ…(ってことはここが未来さんとやちよさんの愛の巣…)」

 

そう考えるとますます緊張するいろは。

 

「で、環さん…早速だけど…」

 

「あ、はい」

 

いろはは何とか緊張が伝わらないように返事する。

 

「私に話したいことって何かしら?」

 

「あ、えっと…」

 

「ん?」

 

可愛らしく首を傾げるやちよ。

 

「あの…これから私と一緒に噂を調べてくれませんか?」

 

「…」

 

いろはのお願いにやちよは黙る。

 

「だめ…ですか?答える必要は…ないですか?」

 

「いえ…答える必要はあるわ。実はこの家に呼んだのは私にも理由があるからよ」

 

「へ?」

 

やちよの言葉にいろはが素っ頓狂な返事をしてしまう。

 

「この家を拠点にして一緒に活動できたらと思ってね。場所をちゃんと教えておこうと思ったの」

 

「それって…」

 

いろはの表情が明るくなる。

 

「一緒に噂を調べる話、答えは、はい、よ…環さん。これから一緒に神浜市の噂を追いましょう」

 

「やちよさん!」

 

いろはが花開いたような笑顔になる。

 

「今回のようなウワサが相手だと2人じゃ対処しきれないから」

 

「それじゃあ…私達、これから仲間なんですね!」

 

「仲間じゃないわ」

 

いろはの言葉に冷たい返事をするやちよ。

 

「ふぇ⁉え…えぇ?それってどういうことですか?」

 

どういうことか理解できないいろは。

 

「同じチームでもただの協力関係…これからあなたは私の助手よ。それでよければ協力しましょ」

 

「はい…それで構いません。協力させて下さい。3人ならきっと見つかりますよ」

 

いろははやちよの条件をあっさり受け入れる。

 

「そうかも…しれないわね。…では改めて助手の環さん」

 

「はい」

 

「これから一緒に噂を調べましょう。そして、纏めましょう…この神浜うわさファイルに…無数に散らばるうわさの果てに私達が求める人がいるから」

 

「はい。やちよさん、見つけましょう…ういを…みふゆさんを…」

 

「えぇ…そうね」

 

「話は終わったか」

 

そこで風呂上りの未来が出てくる。

寝間着を着ているが第二ボタンまで開けているので鎖骨が見える。

 

「ちょっと未来、環さんの前で何て格好しているのよ!」

 

やちよは未来が寝間着を着ていることに怒っているのではなく未来の鎖骨をいろはに見せていることに怒っているのだ。

 

「…///」

 

いろはの顔がぽぉ~としている。

 

「ほら見なさい!環さんには刺激が強すぎるのよ!」

 

「何をそんなに怒って…」

 

「たっだいま~!」

 

その時、玄関から声が響いた。

 

「この声…鶴乃?」

 

「そして、おまちど~!味は50点、元気は満点!中華飯店、万々歳です!はい!ラーメンセット3人前!」

 

「頼んでないんで返品で」

 

未来がジト目で返す。

 

「つつつ、鶴乃ちゃん⁉」

 

フリーズから復活したいろはが声を上げる。

 

「へ…え…中華飯店?」

 

「うん!ひいじいちゃんとじいちゃんが築いた由比家の誇り!中華飯店万々歳!参京区で元気よく営業中です!」

 

「それよりも…あなたどうしてここに?」

 

「私も仲間でしょ?」

 

「いや…だから違うって」

 

鶴乃を冷たくあしらうやちよ。

 

「あとね…思い出したんだよ!」

 

「な、何をですか?」

 

「ひいらぎ!」

 

「っ!鶴乃ちゃん、本当に?」

 

「うん!柊さんね…うちのお店の常連さんだよ!」

 

「へ?ええええ!」

 

鶴乃の言葉にいろはが驚きの声を上げたのだった。




いろはのイベント回収の事情で未来に穢れを吸収されるわけにはいきませんでした。
絶対にいろはの元へは行かせないウワサの執念。
マスケット銃の弾速は知らないので拳銃を参考にしました。
数学は苦手なので1mの弾速が間違っていてもスルーでお願いします。
未来が銃弾を躱した場面は劇場版名探偵コナン 漆黒の追跡者の蘭姉ちゃんを参考にしました。
未来とマミが敵同士になることは正直心苦しかったです。
原作のももこの登場はなしにしました。
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