あれからいろはは鶴乃の情報を元に中華屋『万々歳』で常連の柊さんを待っていたが来なかった。
後に鶴乃の話で月一の常連とのことだった。
余談だがいろはは通い続けて『万々歳』のメニューをコンプリートした。
やちよのアイデアで電話帳を調べて回ることになった。
「とりあえずこれからお家に行ってみます」
「ええ、分かったわ。私も手伝いたいけどこれから少し仕事があるから…」
「仕事?学校じゃなくてですか?」
いろはが疑問を抱く。
ちなみに未来は大学に行っていていない。
「言ってなかったかしら?たまにモデルの仕事をしてるのよ」
「ふぇ?」
いろはが素っ頓狂な声を上げる。
「もでるさん⁉…はっ!」
いろはが驚いた後、思い出す。
「ももこさんが文句を言ってるって、みたまさんから聞きました…」
「文句というか僻みというか歪んだ固定観念というか…」
やちよが呆れた声で応える。
「それに私、見てたかも。雑誌の特集ページで…」
「今日はその続きを撮影するの」
「ふえぇぇ!は、はわ…どうしよう…どうしよう…」
「何で慌てるのよ」
いろはが急に慌て始めてやちよが問う。
「私、何だか凄い人と一緒に戦ってるんだなって…」
「別に凄くなんてないわよ。気にしないで今まで通り接してちょうだい」
「は、はいぃ…」
庶民的ないろははかしこまってしまう。
「でもモデルさんって芸能人なんですよね。未来さんと付き合っててスキャンダルとか…」
「うちの事務所はそういうの大丈夫だから。まあ、隠し撮りされてSNSにあげられたこともあるけどそういう人達はなぜかどんどん消えていったのよね」
「ふえぇぇ…」
「というわけでね。うまくいけばすぐ終わるけどちょっと時間が見えないから…」
「だ、大丈夫です!私1人で探してみるんで」
「私もごめんね。今日はお店があるから」
「ううん。鶴乃ちゃんもお店の手伝い頑張ってね」
「うん。頑張る!」
いろはのエールで鶴乃は笑顔で応える。
「って分かったよ!」
すると、鶴乃が急に声を張り上げた。
「な、何が?」
いろはが訊く。
「やちよがどうしてご飯頼まないのかなって。友情割にするって言ったのに不思議だったんだよ~」
「で、その答えは何だと思ったの?」
やちよが一応訊く。
「あれだね!スタイル維持のためにだよね!」
鶴乃が自信満々に答える。
「はい残念。都合よく曲解しないでちょうだい。ここの中華は毎日食べたくないだけよ。胃にもたれるから…」
「ひどい!」
やちよの答えに鶴乃がガーンと音が出そうなくらいショックを受ける。
「それに私は食べても太らない体質よ」
「(これ聞いたらももこさん、怒りそうだな…)」
「てっきり未来さんのためだと思ったのに…」
「それは…まあ、綺麗には見られたいけど…///」
鶴乃の言葉に照れるやちよ。
「(やちよさん、乙女だ…)」
やちよの可愛い一面を知ったいろはだった。
◇◇◇
神浜市立大学 経済学部。
大学に登校した未来。
「お、おはよう!」
挨拶をしてきたのは金髪でチャラめの男で名前は加古川時生。
こんな見た目だが入試2位の成績である。
「
「なんか2つの言葉が聞こえてきたんだけど!」
加古川がツッコミを入れる。
「ああ、間違えた。くたばれ」
「そっち取るのかよ!」
実に騒がしい男である。
未来と加古川は大学に入学してからの友人?であり、未来はいつも適当に相手をしている。
席に座ってからスマホを取り出す未来。
「また株か?」
「ああ」
「なあ、こないだいくら儲かったんだ?」
「まだ始めたばかりだからそんなにいってねぇよ」
「で、いくら?」
加古川がしつこく聞いてくるので未来は答えることにした。
「…10万」
「…先生、お願いが…」
「断る」
「最後まで言わせてよ!」
「金貸せって言うんだろ。何の利益も生まない奴に貸せるか」
「ひどい!ちょっと合コンで使いたかっただけなのに!」
「例の子か…」
「そう。水名出身の子でさ…めっちゃ可愛いんだよ!」
「そうだな。チャンスあるんじゃないか」
「マジか!」
「来世で」
「死ねってか!」
漫才のようにマシンガントークする2人。
「お前はいいよな~モデルの七海やちよと付き合ってて」
「…言っておくが俺はやちよがモデルだから付き合っているんじゃない。やちよだから好きなんだ」
未来が少し怒り気味の声で返す。
「よく真面目な顔で言えるな。羨ましいわ~」
加古川が冷やかしていると未来のスマホにメッセージアプリの着信音が鳴る。
未来がメッセージを確認していると、
「お、何だ?愛しの彼女からのメールか?」
加古川がスマホを覗き込もうとしてきたので未来は彼の顔をアイアンクローで掴んだ。
「ちょ、おまっ…悪かった!俺が悪かったから離してくれ!ていうか力強っ!」
加古川が何か言っているが未来は無視してメッセージを無言で読む。
内容はやちよはこれから仕事で、いろはは電話帳を元に柊さんを1件ずつ回るとのことだ。
未来も手伝ってやりたいが大学の授業があるので外せない。
スマホをポケットにしまう。
「あの…すみません。そろそろ…限界なんですけど…なんかお花畑が見えかけてきてるんですけど…」
「ん?…ああ」
未来がようやく気づいて手を離すと加古川が床に尻餅をついた。
「お前、いつの間にそんな鍛えたんだ?」
加古川が自分の顔を触って歪んでないか確かめる。
「まあ、ちょっとな」
魔女と闘っていく中で知らない内に筋力が上がっていたようだ。
未来がどんどん人間離れしている証拠でもあった。
◇◇◇
いろはは夕方まで柊さんの家を探し回ったがほとんど空振りだった。
「何だか喉乾いちゃった。…あれ?あそこにあるのなんだろう。自転車の移動販売?」
見つけた移動販売の看板にはこう書かれていた。
『キリッと冷えた幸せの水 フクロウ印の給水屋さん 疲れた人のために無料で提供中』。
「フクロウ印の給水屋さん?」
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。疲れた体と乾いた喉を潤す幸せの水だよ。一杯いかがかな?」
おじさんの店員が声をかけてきた。
「あ、はい。いただきます」
いろはは何の疑いもなく注文する。
「おっちゃん!オレもちょうだい!無料なんだろ?」
すると、小柄な金髪ツインテールの少女も出て来て注文した。
「はいはい。もう一杯ね」
「あたしにもくれないかい?もうその辺ほっつき歩いてくったくたでさ…」
さらに、赤髪ロングを黒いリボンで結んだショートパンツの少女も注文した。
「アハハ、いやぁ急に可愛いお客さんが増えちゃったなぁ。はいはい。ちょっと待ってね」
おじさんの店員は冗談を言いながらいろはに水を差し出す。
「はい。どうぞお嬢ちゃん」
「ありがとうございます」
いろはが水の入ったコップを受け取り、あとの2人も受け取った。
「「「ゴクゴクゴク…っ!…プハ~~~!!!」」」
「この水、すごくおいしい!」
「おいおい。本当にただの水かよ!ジュースみたいに飲めるぞ!」
「おっちゃんおっちゃん!もう一杯くれよ!スゲ~ゴクゴク飲めんの!もう一杯飲みたい!」
いろはと赤髪の少女が飲んだ感想を口にして、金髪の少女がもう一杯頼んだ。
「とても嬉しいけど悪いね。1人1日一杯なんだよ。他の人も飲みたいかもしれないからね」
「え~なんだよ。ケチくさいなぁ」
断られて文句を言う金髪の少女。
「そう言わないでおくれよ」
おじさんの店員は困った顔をする。
「な~飲みたいよな?」
金髪の少女はいろはと赤髪の少女に同意を求める。
「え、私?う、うん。そうだね」
「ま、それがここのルールならしゃあないんじゃねぇの?」
「うん。そうだよ。あんまり無理言っちゃうとおじさん困らせちゃうしね」
いろはと赤髪の少女は大人しく引き下がる。
「ぶ~」
金髪の少女は納得がいかないようで頬を膨らませていたのだった。
◇◇◇
「美味しかったなぁ。今のお水。あとで鶴乃ちゃんとやちよさんと未来さんにも教えてあげよ…ひゃっふ!」
その時、いろはの顔に何かが落ちてきた。
「なに?顔に…紙?」
紙を取ると『24』と書かれていた。
「?…あとでゴミ箱に捨てておこう。とりあえず最後の一軒、行かないとね」
この時のいろはは後にあんなことが起きるとは思っていなかった。
◇◇◇
結局、最後の一軒も空振りだった。
「それでダメだったの?」
みかづき荘でやちよに報告しに来ているところである。
「はい。四軒とも…これで今できることって鶴乃ちゃんの中華屋さんに通うだけになっちゃいました」
目的を達せられなかったことに落ち込むいろは。
「そもそも万々歳に来てた柊さんっていうのも柊ねむの関係者なのかどうかだな。柊って苗字もそれほど珍しくも無いし」
未来が考えを口にする。
「それは私も考えました…」
「何か手立てがある分、いいんじゃないんかしら?みふゆの方は何も手がかりがないもの。それに私、みふゆ以外にも最近気がかりなことがあって…」
「私でよければ力になりますよ。助手ですから」
やちよの役に立とうと張り切るいろは。
「気がかりなのはその助手のことなの」
「へ?私ですか?」
自分が話題に上がったことに驚くいろは。
「そうよ。あなた、こんな毎日のように神浜に通って大丈夫なの?家も遠いのに…」
「あ、心配しなくても平気ですよ。今度引っ越す予定なんで」
「そうなの。それなら………え、なんて言ったの?」
「へ?今度引っ越すって…」
「ちょっと、環さん!」
やちよが語気を強めて言った。
「はいっ!」
「なんでそんな大事なことを黙ってるのあなたは!」
「ふぇえ⁉」
「私達仲間でしょ?」
「あれ助手じゃ…」
揚げ足を取るいろは。
「言い間違えただけよ。助手でしょ!」
「はいっ!」
ピッと姿勢を正すいろは。
「…ツンデレ」
「キッ!」
茶化してきた未来をやちよが睨み、未来が顔を逸らす。
「活動の仕方だって変わるかもしれないんだから大事なことは伝えてくれないと…」
「報告、連絡、相談。社会でもこれは基本だからな」
未来が指を一本ずつ立てながら教える。
「ご、ごめんなさい!」
「はぁ…とりあえず近くなるなら気がかりはひとつなくなるわね。それにしてもよくご両親が一人暮らしを許したわね」
「実は私じゃなくてお父さんとお母さんの都合で…」
「あら、そうだったの?」
「突然、お父さんが仕事で海外に行くことになって、それが大出世だってお母さんが盛り上がっちゃって」
苦笑いするいろは。
いろはの母は夫についていくことになり、いろはは1人寮暮らしということになってしまった。
つまり母の暴走である。
「それで転校先は?神浜の学校なんでしょ?」
「はい。神浜市立大附属中です」
「私と未来と鶴乃と同じじゃない」
「え…やった!知ってる人が居てホッとしました。後は住むところさえどうにかなれば…」
安心した顔をするいろは。
「どうにかって寮はどうしたの?」
「昨日、突然部屋がないって言われちゃって…お父さんもお母さんも来週には行っちゃうのに…」
困った顔をするいろは。
「それは…急な話ね」
可哀想な話だと思うやちよ。
「だから次の日曜日に家を決めないといけないんです」
「じゃあここに住めば?」
「へ?」
未来の提案に虚を突かれるいろは。
「いや、住むとこねぇならここに住めばいいだろ。部屋余ってるし…宝崎市から通うのも大変だろ」
「そ、そんな!悪いです…その…お2人の愛の巣にお邪魔するなんて…」
顔を赤らめて断るいろは。
「そういう言い方やめてくれる?」
ジト目で否定するやちよ。
「すみません。もう少し自分で探してみます」
「そう…」
やちよが渋々納得すると、なにかが落ちてきた。
「あら、なにかしら。この紙」
「今、上から落ちてきました?」
「ええ」
「見せてください!」
食い気味で手を伸ばすいろは。
紙には『22』と書かれていた。
「22…どういう意味?環さん、なにか知ってるの?」
「実は夕方から私の前に落ちてくるようになって、24から始まって今は22になりました」
「23もあったということね?」
「はい…」
「なにか数字を刻んでる?」
「カウントダウン…」
「のように見えてきました」
その瞬間、やちよの雰囲気が緊迫したものに変わった。
「…怪しいわね。環さん、気をつけた方がいいわよ」
「え?」
「あなた、なにかに巻き込まれたかもしれないわ」
やちよの予言は後に現実になるのだった。