「ありました。ここです」
いろはが魔女の結界を見つける。
「随分と奥に隠れてたな」
「さすがに複数の魔法少女に狙われたら逃げたくもなるわよ。さっきは小物一匹だから気が大きくなってたんじゃない?」
いろはに対して皮肉を言うやちよ。
「小物…」
ショックを受けるいろは。
「ももこと2人で頑張りなさい。強くなった実力とやらをせいぜい発揮してね」
悪役のように挑発するやちよにいろはは黙り込んでしまう。
「いちいちムカツク言い方だな。こっちはアンタの都合で提案を飲んでるってのにさ」
ももこがムキになって言い返す。
「別に合わせなくて結構よ?」
「それならそれで私と戦って勝てばいい話だけど」
「あの…ももこさん、気にしないで下さい。私の実力が足りてなかったのは本当ですから…それにこの結界の中にキュゥべえがいるかもしれない。だから…頑張ります私!」
いろはが拳をギュッと握って張り切る。
「ふっ…見ものだわ」
悪女の笑みを浮かべるやちよ。
「くぅぅぅぅ!」
悔しそうに唸るももこ。
「それで…そちらの方は?」
いろはがやちよの横で静観していた未来に視線を向ける。
「ん?ああ、まだ名乗ってなかったな。俺は明日川未来、よろしくな」
「えっと…魔法少女じゃないんですよね?」
「女に見えるか?」
「す、すみません!」
バッと頭を下げて謝るいろは。
「気をつけろ、いろはちゃん。この人は強いぞ。前に手合わせしたことあるけどアタシの剣を拳で弾いたことがある」
警戒するももこ。
言われたいろはが青ざめた顔で未来を見る。
ラフなタンクトップ姿で鍛えられているのがよく分かる。
いろはの気が引き締まる。
「まあ、お手柔らかに」
未来はそう口にした。
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魔女の結界の中。
「くそっ…こいつら、さっそく囲んできた…」
「背中は任せて下さい。援護します!」
「あぁ、アタシは一気に突破口を開く!やちよさん達に先を越されてたまるか!」
「お先に失礼するわよ」
やちよが先行していく。
未来もその後に続く。
「くっ…やっぱり早いな…いろはちゃん、急ごう!」
「あ、あの…待って下さい!」
「なに立ち止まってるの!そんなノンビリする時間なんて」
そんな問答をしているいろはが突然黙り込む。
「いろはちゃん?」
ももこが訝しげに声をかける。
いろはの視線の先を追う。
「プギュ?」
「…いました!小さいキュゥべえ!」
いろはが見つけた小さいキュゥべえを指差す。
「いろはちゃん!今は魔女を狩ることが優先だ!」
「でも、私はあの子に会いに来たんです。ちゃんと話すことさえ出来てば私はそれで…」
「そりゃあ楽観的過ぎるよ。いろはちゃんの願いが関係してるのかも知れないけどさ…そのキュゥべえに会えたからって解決する保証はないんだろ?」
いろはとももこの意見が分かれる。
「それは…そうですけど…」
「またこの町に来る必要があれば、あいつだって邪魔しにくるはずだ。だから今は魔女を優先しよう」
ももこはやちよの妨害を懸念して提案する。
「モキュ!」
すると、小さいキュゥべえが声をかけてくる。
「キュゥべえ?」
「キュッ、モッキュ!」
「なんだ…どういうことだ?」
小さいキュゥべえが何かを訴えているが言葉が分からない為、ももこは理解に苦労する。
「ついてこいってこと?」
「キュ!」
小さいキュゥべえが肯定の返事を返す。
「それってもしかして魔女のところ?」
「モッキュ!」
「ははぁ…なるほど…チビスケも魔女を優先して倒せってさ」
ももこが小さいキュゥべえの意図を理解する。
「そうなの?」
「キュ!」
小さいキュゥべえが肯定の返事を返す。
「…うん。分かった…じゃあ案内して!」
「ただ信じて大丈夫なのかはちょいと不安だけどな」
「でも…キュゥべえが知ってたら迷わずに辿り着けますね」
「うん…普通に戦ってたらやちよさん達には追いつけないし…ここは1つ…このチビスケに賭けてみるか!」
「はい!」
「これで勝てたらいろはちゃんも仲間入りだな」
「仲間入り?」
いろはが聞き返す。
「神浜市の魔法少女のね」
「そんな嬉しいものですか?普通ライバルが増えたとか…」
いろはが疑問を口にする。
「アタシは嬉しいよ。友達が増えたみたいでさ」
「///」
ももこのストレートな言葉にいろはが照れる。
それから小さいキュゥべえの案内に従って進んで行く。
「モキュ!」
「ここ…最深部の入り口…」
「あぁ…この先は魔女のプライベート空間だな。半信半疑だったけど本当に案内してくれるとはね」
「私達…一番乗りですか?」
「あぁ…追いつかれる前に乗り込むよ」
「はい!」
いろはとももこは魔女の結界の最深部に入っていく。
その奥に魔女がいた。
『砂場の魔女』
「いろはちゃん、危ない!」
「えっ⁉…ふぁあっ‼」
いろはが横を何かが通りすぎその余波で吹き飛ばされる。
「(今のなに?)」
「あら…遅かったのね」
そこに未来とやちよが現れた。
「(今の…この人なんだ…)」
いろはが魔女に視線を移す。
「一撃で魔女が…気絶してる…」
「待ちくたびれて未来が魔女を殴り飛ばしちゃったからね」
「おい…冗談きついぞ…いくら何でも早すぎる…」
「早すぎる?あなた達が遅すぎるのよ。これぐらいの力量差があるのはももこなら想像出来たでしょ?」
「くっ…」
悔しさで唇を噛み締めるももこ。
「さ、あなた達の負けも決まったようなものね。だけど特別にもう一度チャンスをあげるわ」
「え、もう一度?」
「えぇ…あなた、魔女を1人で倒しなさい。そうすれば実力を認めてあげる。私達の食べかけなのはちょっと残念だけどね」
「バカにするのも大概にしろ!人を弄んで!」
堪忍袋の緒が切れたももこが言い返す。
「せっかく考え直したのに弄ぶだなんて酷い言い草ね。それにこれはあなたの問題じゃないわ。どうするかは…この子次第よ…」
「くっ…」
当事者ではないと告げられたももこは引き下がるを得なくなる。
「…未来さん!アンタはいいのかよ?こんなやり方」
ももこが未来に声をかける。
「…やちよも言ってただろ。これはその子の問題だ。俺が口を挟むことじゃない(さあ、どうする?)」
「くっ…」
「さぁ…どうするの?」
「(さっき…ももこさんが言ってたみたいに…またこの町に来る必要があるかもしれない)それなら私は…今ここで魔女を倒してみせます」
「(…へぇ、見かけによらず意志が強い)」
未来が心の中で感心する。
「そう…それなら見せてみなさい。神浜の魔女を倒すところを」
「頑張れよ。いろはちゃん」
ももこがエールを送る。
「はい!」
「さぁ…魔女が動くわよ」
魔女が再び動き出した。
「ごめんなさい…ももこさん!キュゥべえのことお願いします!」
「おう…任せておいて!」
「プギュ!」
ももこが小さいキュゥべえを抱きしめる。
その豊満な胸に窒息されかけて小さいキュゥべえが短い悲鳴を上げる。
魔女が砂の波で攻撃してくる。
いろはは波より上にジャンプして躱して桃色の光の矢を放つ。
矢は砂を貫通し、魔女の体に直撃した。
「よし、今度は通用する!」
魔女が波状攻撃をしかけるが、いろははそれを躱し続けて魔女の一瞬の隙を見極めた。
「そこ!」
放たれた矢は魔女の胸を貫いて消滅させた。
同時に魔女の結界も消えて元の景色に戻る。
「やった…いろはちゃん!」
「はい…はい!やっちゃいました!」
「どうだ…やちよさん」
「どうしてももこが得意気になってるんだか…」
やちよが呆れた声を出してからいろはに視線を移す。
「さぁ…」
「なに…これ以上難癖つけようっての?」
ももこが立ちはだかる。
「まさか…実力は認めるわよ。最初から大丈夫だろうとは思っていたからね」
「え…そ、そうなんですか?」
いろはが意外そうな声を出す。
「えぇ…何となくだけどその人を見れば分かるわ」
「なんだ…だから魔女を譲ってくれたり…」
「いや…人を弄んだだけだ」
ももこがやちよを睨みつける。
「別に弄んでなんかいないわよ。目的の為に導線を引いただけ」
「導線?」
「そう…ちょっといじめすぎたのかしらね。私の前にこのキュゥべえは現れてくれないから…」
やちよが申し訳なさそうな顔をする。
「え?」
「小さいキュゥべえ…今まであり得なかったイレギュラー…気がついたら神浜市からいつものキュゥべえは消えていてこの子しか存在しない。どう考えても危険な因子にしか思えないのよ」
「はっ…ももこさん!」
「しまった!」
「遅い!」
やちよがももこごと小さいキュゥべえに攻撃をしかけた。
「ぐっ!」
「プギュッ‼」
小さいキュゥべえが悲鳴を上げて、ももこの手を離れて飛ばされる。
「キュゥべえ!」
「ようやく消せるわ」
やちよが小さいキュゥべえにとどめを刺そうとする。
「やめて~~~~~‼」
いろはが悲鳴を上げて、やちよの前に立ちふさがる。
「あなたも分からず屋ね。そのキュゥべえに関わるとろくなことにならないわ」
「この子が何をしたって言うんですか!」
「これからするかもしれない。リスクは早めに排除するものよ」
「そんなことしたら…聞けなくなっちゃう!あの子は…あの子は…私にとって大切な子かもしれないのに‼」
「邪魔するなら…」
「はいストップ」
やちよが槍で突こうとする瞬間、未来がやちよを羽交い締めにする。
「止めないで未来!こいつは私が!」
「だめぇ‼」
いろはが小さいキュゥべえを抱きしめる。
「キュ!」
「そいつを離しなさい」
「いやです!絶対に離しません!…っ⁉」
その時、いろはの中に何かが流れ込んできた。
「(なに…意識が…)」
いろはが突然倒れた。
「いろはちゃん!」
「はぁ…だから言ったでしょ。あなたの自己責任よ」
「(抱きしめた小さなキュゥべえから何か…来る…)」
気がつくといろははあの病室にいた。
「お姉ちゃん!今日も来てくれたんだね!」
いろはに似た小さな少女がそう呼んでくる。
…お姉ちゃん?…
「あ~あ、早く元気になってお姉ちゃんと学校に行きたいなぁ」
…ずっと入院してるこの子…私…どこかで…
ページをめくるようにシーンが変わっていく。
「お姉ちゃん…息が…はぁ…うぅ…」
少女が胸を押さえて苦しむ。
「ゆっくり体起こそうねっ!■■は強い子だから大丈夫だよ!」
…私…知ってる…あの子の苦しそうな顔も嬉しそうな顔も…あの子、そう名前…なんだっけ…懐かしくて愛おしい…あの響き…
シーンが変わる。
「お姉ちゃん、本当に私…退院出来るの?」
「そうだよ。うい!」
うい?…うい…うい…そう、ういだ!私の妹…ずっと入院していて身体が弱くてすぐに消えてしまいそうなかけがえのない私の大事な妹…どうして私…こんな大切なこと…
シーンが変わる。
「お願い…妹の病気を治して!ういを元気にしてあげて!その為なら…私、何でもするから‼」
いろはの目の前には小さいキュゥべえを大人にしたような生物がいた。
「環いろは、それがキミの願いなんだね」
目を覚ますと天井が見えた。
「はっ…」
目の前には八雲みたまがいた。
「あらっ!ももこぉ、いろはちゃんが目を覚ましたわよっ!」
「え、ほんとに⁉いろはちゃん、大丈夫⁉」
ももこが慌てて駆け寄ってくる。
「ももこさん…みたまさん…」
いろはの目から涙が零れる。
「なに?どうしたの?どこか痛い⁉」
ももこが心配そうに声をかけてくる。
「私…思い出しました…どうして魔法少女になったのか…」
「え…」
突然、そんなことを言い出したいろはにももこから小さく声が漏れる。
「私、妹の為に…あの子の病気を治す為に魔法少女になったんです。どうして忘れてたんだろ…こんな大切なこと」
「忘れてたって…どういうこと…長い間、離れて暮らしてるとか…」
「いえ…ずっと一緒でした。この間まで同じ屋根の下で一緒に寝て、ご飯も一緒に食べてました。でも、みんな消えてるんです…なかったことになってるんです…あの子がこの世界に居たことが…」
「そんなことって…」
ももこがにわかに信じがたいような言葉を返す。
「でも、実際にそうなんです。家に帰っても、ういが居ないのが普通になってて…お父さんとお母さんと3人でいつも通りに暮らしてた。私だって…さっきまで自分のこと一人っ子だって…」
いろはは自分が情けないという気持ちになる。
「つまりそれって…私が妹ちゃんに会っていたとしても…忘れてるかもってこと?」
みたまが口を出す。
「はい…きっと…」
「…魔女の仕業かしらぁ?」
みたまが不思議そうな声を出す。
「長いこと魔女と戦ってるけどそんな魔女がいるとは…」
「それじゃあ…どうして…」
「私が思い出せてないことが他に何かあるのかも…」
「モキュ」
近くにいた小さいキュゥべえをいろはは抱き上げる。
「キュゥべえ…もう、あなたに触っても何も思い出せないね。でも、あなたがういのことを思い出させてくれたんだよね?」
「キュ?」
小さいキュゥべえが首を傾げる。
「…きっとそうなんだよ。そんな気がする」
いろはが涙を流しながら笑顔を浮かべる。
涙を拭う。
「うん…決めた」
「いろはちゃん?」
「私、また来ます。この神浜市に」
いろはは自分の想いを口にした。
「目的は果たせたんじゃないの?」
「今度はういを探さないといけませんから…きっとこの神浜市のどこかに手がかりがある気がするんです。ういが消えちゃった理由も…あの子が今どこにいるのかも…ういのことを思い出させてくれたこの小さいキュゥべえがいる町だから…」
「…その記憶が実はウソで何か理由があって植えつけられた…そんなことも考えられると思うんだけどぉ」
みたまがいろはの決意に水を差す。
「それでも私…この記憶を信じます」
いろはの決意を揺るがなかった。
「(ういのことを考えるだけで愛おしく感じるから…鮮明になった思い出があの子がいたって実感を与えてくれるから…そして何より…)今の私は…環ういって妹がいる環いろはだって思えるから」
「環ういがいる環いろは…その記憶を信じて妹ちゃんを探すんだね。この神浜市で」
ももこがいろはにそう問いかける。
「はいっ!」
いろはが力強い返事をする。
「うん…そっか…分かった…アタシは大歓迎だよ。新しい仲間が増えるからね」
「私もお客様が増えるし無理に止められないわぁ」
商売根性の強いみたまがそんな冗談を言う。
「オマエなぁ…」
「うっふふ♪」
呆れるももこにみたまが笑顔で返す。
「まっ…それじゃ次に来るまでチビスケはアタシが預かるよ。どうもこの町から出たがらないみたいだからさ」
「はい…ありがとうございます」
いろはが笑顔でお礼を言った。
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未来とやちよはみかづき荘に向かって歩いていた。
「ねぇ…どうしてあの子を助けたのよ?」
やちよが未来に訊く。
いろはが倒れた後、みたまのところへ運んだのは未来だったのだ。
いろはが目を覚ます前に去っていったが。
「大した理由はないよ」
「そうね…あの子可愛かったものね」
「うぐっ…」
「あの子のお腹と太ももを4回ずつ、それからももこの胸を4回チラチラ見てたわよね」
「おまっ」
「…スケベ」
隣を歩く未来にジト目を向けるやちよ。
言葉で責めているやちよだがそんなに怒ってはいない。
ただ妬いているだけなのだ。
やきもちよ、なのだ。
「ふ~んだ!」
そっぽを向いて前を歩くやちよ。
怒ったフリをして慌ててついてくる未来にふふっと笑ったのだった。
未来の強さがはっきりしない回になってしまった。
やちよの悪女感ハンパねぇけどそれもいい!