翌日の昼頃。
いろははういが入院していた病院を探していた。
「(確かここを曲がって坂を上ったら病院なんだけど…)」
しかし、どうやら迷っているようだ。
「なんでスマホってこんなに難しいんだろ…地図の青い点が私で…この矢印は…なに?」
いろはは流行に疎く、スマホ音痴のため苦労している。
「(うぅ…方向音痴を治す薬ってないのかな?)」
「矢印は方向を示してるんだよ」
突然、背後から声をかけられた。
「ひゃあっ!」
驚いていろははスマホを放り投げてしまった。
「っと…」
声をかけた人物がジャンプしてそれをキャッチする。
「はい」
声の主は未来だった。
スマホをいろはに渡す。
「あ、ありがとうございます」
「それで…どこかに行きたいの?」
「あ、えっと…病院に…」
「それならそこにあるけど」
未来が少し先を指差す。
「はっ…(建物…見えてた…)」
恥ずかしさで顔を赤くするいろは。
「よかったらついていくよ。君は何だかあっぶなかしいし」
ナンパのようなセリフを言う未来。
「え、そんな…いいですよ。それに私に関わったらあの人に…」
いろはが未来の立場を思いやる。
「心配するな。それに君がまた迷子にならないとは限らないしね」
「もうなりません!」
「まあ、せっかく知り合ったんだ。連絡先ぐらいは交換しておこう」
スマホを取り出す未来。
「それなら…まあ…えっとどうすればいいんでしたっけ?」
「…」
やはりスマホの扱いがぎこちないいろはだった。
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病院に辿り着いたいろは。
「この病室だ…」
ういが入院していた病室の場所を見つける。
「(少し前までういも一緒にいた病室…灯花ちゃんもねむちゃんも元気にしてたらいいな…どうか2人とも憶えてますように)」
ういと一緒に入院していた少女達のことを考えるいろは。
「俺はここで待ってるよ。水を差すわけにはいかないからね」
再会を邪魔しないようにロビーで待つ未来。
「はい…よしっ!」
いろはは気合いを入れてういが入院していた病室に向かった。
「灯花ちゃん、ねむちゃ…へ?」
病室に入るいろは。
しかし、そこには誰もいなかった。
「(いない?この角部屋のはずなんだけど…病室移っちゃったのかな?確か灯花ちゃんは元々自分の個室があったし…ねむちゃんも病状次第では移動してるかも…)」
「あの…ちょっといいかな?」
「ふぁっ⁉は、はい⁉」
急に声をかけられて驚くいろは。
「お見舞いの方は先に受付で手続きを済ませて欲しいんだけど」
声をかけてきたのは看護師だった。
「えっ…あっ…」
「入館証って持ってる?」
「あの…持ってません…」
いろはは病院を出ざるを得なかった。
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日は沈み夕方になっていた。
「はぁ…」
ため息をつくいろは。
「残念だったね」
「家族じゃないと病室も教えてもらえないなんて…いきなりつまずいちゃった…」
落ち込むいろは。
「灯花ちゃんとねむちゃん、私の記憶違いじゃないよね?」
いろはは思い出す。
ねむは話を書くのが大好きでネットに載せた物語が本になるような子。
灯花は宇宙の話を偉い人と議論するようなすごく頭の良い子。
ういと仲が良かったのが不思議なぐらい才能に溢れた子達だったがいつもはよくケンカをし合う普通の子だった。
「やっぱり記憶違いだとは思えない…周りがついていけない口喧嘩もその度にういが入る様子も…ほんとよく絶交だって言ってたはず…」
「絶交…ですって?」
急に声が聞こえた。
「っ⁉だれ?」
「あ、あなた…」
振り向くとそこにいたのはやちよだった。
「今、絶交って言ったわね」
「確か、やちよさんでしたっけ?」
「あら…覚えてくれてたのね」
「覚えちゃいますよ…あんなに狙われたんですから…」
「それもそうかもしれないわね」
やちよの言葉に黙って身構えるいろは。
「そんな構えないでくれる?危害を加えるつもりはないから。ただ忠告しようと思っただけよ」
「忠告…ですか?」
「えぇ…絶交なんて言っちゃダメよ。この町の中では絶対に」
「(お前も言ってんじゃん…)」
心の中で茶々を入れる未来。
「へ?」
「特に誰かと仲違いした時に言ってみなさい。たちまち絶交ルールのウワサに捕らわれてしまうから」
「噂に…捕らわれる?」
「こんな話、聞いたことないかしら?」
…アラもう聞いた?誰から聞いた?絶交ルールのそのウワサ…知らないと後悔するよ?知らないと怖いんだよ?後悔して謝ると嘘つき呼ばわりでた~いへん!怖いバケモノに捕まって無限に階段掃除をさせられちゃう!ケンカをすれば1人は消えちゃうって神浜市の子供達の間ではもっぱらのウワサ…オッソロシー!…
「と、まぁこんな感じの内容なんだけど」
「えっとぉ…今のが絶交ルールですか?」
「えぇ。絶交と言えば最後…何があっても謝罪の言葉を口にしてはダメ。関係を修復しようとして謝るとバケモノに捕まってしまうの」
「(そういえばみふゆと喧嘩した時も謝ってないなこいつ…)」
過去のことを思い出す未来。
「あの…そんな突拍子もない話、急に言われても…」
「信じておきなさい。『神浜うわさファイル』の中では非常に信憑性の高いうわさだから」
「かみ…はま?」
「『うわさファイル』よ!神浜に溢れている謎のうわさを私がまとめたものなの」
「へぇ…」
「最近、この町では色々な噂が現実になっているわ。現実になったうわさ次第では行方不明者だって出てる」
「そんなことって…」
「嘘じゃないわ。そのキュゥべえと同じくらいイレギュラーなことなんだから。まぁ、それは未来もだけど…」
「っ⁉やちよさん、キュゥべえをまだ狙ってるんですか?」
「それはあなたの回答次第よ。悪いことが起きてないのなら別に狩る必要もないでしょうし」
「悪いことなんて起きてません。あったとしても妹のことを思い出したくらいで」」
「妹…ってそんな身近な人を忘れてたの?」
「あ、はい…ただお父さんとお母さんも妹のことは憶えてないしあの子の物も何も残ってないから本当に私の記憶が正しいって証明できるものはないんです」
「それは偽の記憶でも植えつけられたんじゃない?はたまた…その妹さんのために世界が改変されたか…」
「改変?」
「さすがに大げさかしらね」
「大げさかどうかも分からないです。今は何を言われても否定できませんから…」
いろはの自信が少し薄れる。
「それでも私は妹がいたと思っています。あの子を想う度に温かい気持ちになるから…だから私は思い出したことを信じてますし…妹を見つけたいと思ってます。だから不思議なことはあっても悪いことは起きてません」
いろはは自分の意思をはっきり伝える。
「(やっぱりこの子、意志が強い…)」
いろはの精神力に感心する未来。
「そう…それなら私が言うことはないわね。それに…分からなくはないしね…あなたの気持ちも…」
「え?私の気持ち?」
「いえ…気にしないで。それじゃあ私は行くわ。うわさには気をつけなさい。忠告はしたわよ…あとさっきから横で黙ってる未来!」
「え、俺?」
「いつまでこの子とデートしてるのよ!早く帰るわよ!」
「で、デート⁉️」
そのワードにドキッとして頬を染めてしまういろは。
「ほら」
やちよは未来の腕を掴んで歩き始める。
「おっと…それじゃ環さん、またね」
「あ、はい…また…」
未来に別れの挨拶をされて、去っていく彼にいろはは手を振ることしかできなかった。
それからいろはも歩き始める。
「(灯花ちゃんとねむちゃんのこと、結局何も分からなかったな…それにやちよさんの話、どう受け止めればいいんだろ…)」
「アンタがちゃんと見つけてきたら良かったでしょ!」
「ふぁっ⁉な、なに…すごい声が…」
「だって無かったんだから仕方ないでしょ!」
誰かが言い争う声が聞こえる。
「公園の方から聞こえてくる」
いろはは声のする方へ向かった。
「(喧嘩?)…あれ…もしかして…ももこさん⁉それにもう1人の子って前に結界で助けた…」
「だ~から、落ち着けよ。いったい何で喧嘩してんのさ」
ももこが喧嘩の仲裁をしているようだ。
「ももこには関係ないでしょ!」
そう噛みつくのは水色の髪にツインテール、つり目、小柄な体格なのに豊満な胸をした制服の少女だった。
「そうだよ。ももこちゃんは黙ってて!」
そう付け加えるのは以前いろはが助けたショートパンツの少女…今はつり目の少女と同じ制服姿だが。
「おいおい…これでもアタシ、一応リーダーなんですけど?」
「うるさい!もう、かえでとは絶交だから!」
つり目の少女がそう言い放った。
「あ~言った!そう言うなら私もレナちゃんとは絶交だもん!」
売り言葉に買い言葉、かえでもそう言い返す。
「ばっかもう…そういうことは軽々しく口にすんなよな。ってかお前らこれで何回目の絶交だって話だよ?」
レナが睨んで黙る。
「ほら話してみ?なんか理由があるんだろ?」
「っ‼」
ももこにそう言われてレナが怒った顔で頬を赤く染める。
「いちいち首突っ込むな!この過保護お節介やろう!」
レナがその場から走り去った。
「お、おいレナ!暴言吐いて逃げんな‼」
「わぁ…(言っちゃってる…絶交って…)」
いろはは目の前で起きていることにアワアワしていた。
「いろはちゃん、そいつ捕まえて‼」
「へ?あ、はい⁉」
いろはがレナの前に立ちふさがる。
「ど~~~け~~~~‼」
「ひぃっ!」
レナの剣幕にびっくりするいろは。
「えっ⁉わっ!と、止まってぇ~!」
思わず魔法少女に変身してしまういろは。
「アンタ!ももこの知り合いだかなんだか知らないけど…容赦しないからね!」
レナも同じように魔法少女に変身する。
水色と白の縦のボーダー、腰には大きな青いリボン、肩は出ていて色気がある。
武器は槍。
いろはが矢を放つがレナはそれを弾いて急接近する。
「あっ!」
「ふんっ…懐に入りゃ有利な射程も形無しでしょ!」
「(やられちゃう!)」
「これでもくらえ!」
レナの体が光に包まれる。
「ふぅ!」
いろはが目を開けるとそこにいたのは、
「ふぇえ⁉わ、私⁉」
いろはの目の前にはいろはがいた。
「隙あり!」
虚を突かれていろはは尻餅をつく。
「キャッ!」
「フンッ…事情も知らない奴が出しゃばってんじゃないわよ…バーカ!」
元の姿に戻ったレナが子供のような暴言を吐いて去って行く。
「いったた…」
尻餅をつくいろはにももこが追いつく。
「くそっ…逃げられたか…」
その様子をかえでが睨んでいた。
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とあるカフェ。
「はいこれ。アタシのおごりでいいから」
「あ、そんな私…」
「アタシらの喧嘩に巻き込んだお詫びだからさ」
「それに前に助けてもらったお礼も出来てないし…」
かえでが口を挟む。
「あ、うん…それじゃあお言葉に甘えて…」
感謝は素直に受け取っておこうと思ったいろは。
「そっか…2人は前に会ったことがあるんだっけ?」
「はい。挨拶はしてなかったけど」
「あ…そ、そうだよね。私、秋野かえでっていいます」
かえでが思い出したように名乗る。
「私は環いろはです。よろしくね…かえでちゃん」
「うん」
「それでさっきの喧嘩って何だったの?」
「あ…えと…」
訊かれて口ごもるかえで。
「ま~ただんまりか…」
頭を抱えるももこ。
「さっきからずっとこの調子なんだよ…まぁ、別にキミたち2人が喧嘩をするのは日常茶飯事だし?無理に言えとは言わないけどさ」
「そんなにしょっちゅう⁉」
「そりゃあもう…茶飯事にお菓子の時間を加えるぐらいにね」
笑顔でジョークを飛ばすももこ。
「やめてよももこちゃん…恥ずかしいよ…」
頬を赤く染めて小さくなるかえで。
「悪い悪い…大抵はレナが原因だしな。ま、今回も大方そうだろうしアイツも明日になったら謝るだろ。いつも頭が冷えたら反省してくるんだからさ」
ももこの言葉にいろははやちよの話を思い出す。
「かえでちゃん…絶交って言ってたけど大丈夫?」
「え?大丈夫って?」
「絶交ルールっていう噂がね…危ないって聞いたんだけど…」
「っ⁉いろはちゃん、それ誰から聞いたの?」
「え…と…やちよさんから…」
「あっはは…やっぱりね。そんな馬鹿正直に受け取らなくても良いよ。あの人、噂オタクだからさぁ。これでもかってぐらい噂なら何でも信じてるんだよ」
ももこがやちよの話を笑い飛ばす。
「そう…なんですか?」
「そうだよ。だから気にしなくていいよ。噂が現実になるだなんてありえっこないんだから」
ももこの言葉がまさかあんな悲劇を生むとはこの時、思いもしなかったのであった。