家に侵入してきたストーカーによって心身ともに壊され、人生終了する話です。
あるところにMという、それはそれは顔立ちの整った中性的な美少年がいた。
Mくんは訳あって家を離れ、都内で一人暮らしをし、バイトをして生活費を稼いで暮らしていた。
顔立ちだけでなく人柄もよく、明るい性格で前向きであり、どこへ行ってもみんなから好かれるような良い子であった。
しかし、誰からも好かれるということは、良くないものからも好かれるということ。
Mという美少年をみて一目惚れし、男と知りながら劣情を抱くストーカーがいたのである。
ストーカーは狂気とも言える執念でMの自宅を割り出し、Mの隙をみて部屋の合鍵を作成した。
そんなことは露知らず、ある晩Mは家で一人寛ぎながら、ホットココアを飲んでいた。
ストーカーの歪んだ計画によって、ココアに薬が盛られているとも知らずに。
普段の習慣としてココアを飲んでいたMは、自分の体の変化に気づいた。
(おかしい……やけに身体が……重い……)
ストーカーが仕込んだ薬は、体を痺れさせつつ、同時に強い眠気を引き起こし、その理性を奪う、いわゆるレイプドラッグと呼ばれるものであった。
Mは何かおかしいと感じつつ、体調不良と考え早めに寝ることとした。
Mがココアを飲んで数十分後、部屋の電気が消えたことを確認したストーカーは、合鍵を使って部屋に侵入した。
Mが薬を飲んで寝てしまえば、朝になって薬の効果が切れるまでは何をしても起きない。どんなことでもし放題の予定であった。
しかし、Mが体の異変に気づいてココアを途中で捨てたことは誤算だった。まだMは起きていたのだ。
Mは朦朧とする意識の中で、知らない人が部屋に入ってくるのを察知した。
早くここから逃げなくては、しかし体が思うように動かない。声も上手く出せない様子であった。
Mが起きているとは知らないまま、ストーカーはMのベッドへ忍び寄り、その唇を奪おうとする。
身の危険と、生理的恐怖を感じたMは、とにかく必死で抵抗した。
「やっ……やめ……て……」「だれ……なの……?」
うめくような声で、しかしはっきりと抵抗の意思を口にするM。
もともとMは平均よりも華奢で男性にしては力の弱い方である。その上、薬で力が入らないようにされているのだ。抵抗はほとんど無意味、暴れようとする赤ちゃんを押さえつけるような力量差であった。
しかし、計画と異なり起きていたこと、そしてMから拒絶されたことが、ストーカーの心に動揺を生んだ。そしてその動揺は、次の瞬間怒りと憎悪へと変化するのであった。
抵抗をものともせず、両腕を掴んで頭の上に押さえつけ、服を無理やり脱がせようとするストーカー。
Mはハッキリとしない頭をフル回転させ、せめて身を捩って逃げようとする。
服を無理やり引きちぎろうとしつつ、Mの唇を奪おうとするストーカー。Mはその近づいてくる顔に、精一杯の抵抗として頭突きを喰らわせる。
弱々しい頭突きであったものの、鼻にあたったために悶絶するストーカー。
その隙を逃さず、スマホに手を伸ばすM。
しかし、おぼつかない手でスマホのロックを開けようとしているところで、Mの意識は途切れた。
ストーカーが、計画がうまく行かなかった時の最終手段として持っていた、スタンガンを押し当てたのであった。
目が覚めると翌朝であった。ぼんやりとした意識で部屋を見渡す。
部屋には荒らされた様子はなかったが、なんとなく苦手とも不快ともつかない、形容し難い匂いが漂っていた。
スマホを取ろうとして身体を動かして、初めて自分が服を着ていないことに気づいた。
急速に回転する頭、ハッキリと焦点の定まる意識。昨晩のことを思い出す。
Mは動悸と眩暈を覚え、寒気と嘔気を感じた。全身がヒリヒリし、特に肛門に痛いことに気づいた。
咄嗟に触れた指に、血液混じりの白濁液が付いていた。
思わずベッド脇のゴミ箱に嘔吐するM。突然の侵入者によって、自分は汚されたのだ。
顔も名前も知らない、全く関わりのないはずの人が、急に部屋に入ってきて、男である自分に欲情し暴行してきた。
全身の感覚は、”昨晩自分がレイプされた”というあまりにも現実味の欠けている記憶が、本当にあったことであるということを物語っていた。
何度もえづき、吐いて、思い出し、吐いた。心のグチャグチャをも吐いているかのようであった。
吐くものも無くなった頃、ようやくスマホを手に取る。
その待ち受け画面は、全裸で寝ている自分であった。
もう吐ききったはずなのに、また吐き気が込み上げる。
ロックを解除して、カメラロールを確認すると、そこには受け入れ難い現実が何枚も何枚も保存されていた。
服を脱がされる自分。
寝顔。胸。お腹。腋。乳首。全身。寝顔。口の周りを汚した顔。
ちんちん。皮を剥かれたちんちん。唾液まみれのちんちん。
お尻の穴。テカテカしたお尻の穴。血と精液のついたお尻の穴。
動画もあった。
ほっぺたを舐められる自分。
唇を吸われ、舌を舐められ、唾液を飲まされる自分。
口にグロテスクな陰茎を突っ込まれ、頭を掴まれて強引に喉を突かれ、精液を注がれる自分。
ちんちんを指で弄られ、皮をめくったり戻したりと何度も繰り返される自分、ちんちんを舐められ、しゃぶられる自分。大きくなったちんちんを扱かれ、ピクピクと反応する様子を撮られる自分。
お尻の穴を舐められ、強引に陰茎を挿入され、一突きごとに全身を揺らされ、そして腸内にドクドクと射精され、陰茎を引き抜かれる自分。その陰茎を、また口に突っ込まれる自分。
画像の一枚一枚、動画の1秒1秒がMの頭と心を揺らした。視界は回り続け、心臓は高鳴り、お腹の中が全て出てくるんじゃないかと思うほどの吐き気に襲われた。
どのくらい経っただろうか、一件のメールが届く。
開くと、知らないアドレスからであった。
「昨日はとても気持ち良かったよ♪ 今晩もまた遊ぼうね♪ 今日は部屋から出ちゃダメだよ♪ 誰かに話そうとしたら、キッツ〜いお仕置きが待ってるよ♪ M君のアラレもない姿がネットで公開されるんだよ♪」
あまりにも絶望的な文面にMは意識を失いかけたが、グッと堪えて立ち上がった。
とにかく部屋を出て、警察に駆け込まなくては。ふらつく足取りで衣類をかき集め、着用して外に出ようとした。
しかし、ストーカーは執念深く、悪意に満ちていた。廊下につながるドアの取手に、電流装置を仕掛けておいたのだ、
ドアノブに触れたMを、スタンガンと同威力の電気が襲う。薬の効果も微かに残り、憔悴しきったMの身体には耐え難い苦痛であった。Mはまた、意識を手放した。
突然顔に水をかけられ、Mは起こされた。
全裸で手足を折りたたんで拘束されて、机の上に寝かせられていた。Mは知る由もなかったが、ヒトイヌと呼ばれる拘束であった。そんなMの頭に、ストーカーが水をかけたのであった。
「M君にはガッカリだよ……僕を拒絶しただけじゃなく、メールに書いたのに部屋を出ようとして……。本当は僕だってやりたくないけど、約束だからお仕置きしなくっちゃね。M君をいい子にするための愛の鞭なんだよ!」
勝手なことを言いながら、ストーカーはMをムチで叩き、アナルを犯した。
“本当はやりたくない”などとは嘘であった。ストーカーはMを思い通りに痛めつけて犯せる今の状況に心から満足していた。こうすることでMに劣情をぶつけつつ、自分を受け入れなかったMに対しての復讐も兼ねているのであった。
それからはストーカーとMの強制的な同居が始まった。Mは拘束着を常に着せられているわけではなかったが、部屋から外に出してもらえることはなかった。とにかく毎日セックスと暴力のフルコースだった。
Mはもともと肛門の開発はしていなかった。性自認は男であるし、女性に恋をするノーマルな少年である。
それが毎日肛門を犯され、嫌いな男性の陰茎を口に押し込まれ、精液を吐き出されるのである。
ストーカーは一方的に犯すが、Mは全く気持ち良くはなかった。そしてストーカーが気持ち良くなれなかったり、Mが感じてないことがバレたりすると、逆上したストーカーによって折檻されるのであった。
ストーカーがMのベッドで寝ている間、Mは首輪に短いリードをつけられて、ヒトイヌ拘束でベッドの隅に固定されていた。当然逃げられず、助けも呼べないように口にはボールギャグがつけられた。これはストーカーに噛みつきなどの危害を及ぼす行為を抑制する意味合いもあった。そして肛門にはフル充電のバイブ機能付きディルドを入れたままにされ、夜通し肛門開発をさせられていたのである。
ストーカーはMを所有物として扱うことが好みであるようであった。
身を捩ることもできないようにMを拘束した状態で、Mのお金で買ってきたタトゥーマシンでタトゥーを入れたのであった。当然Mは、入れたくもないタトゥーによる身体的・精神的苦痛を味わうこととなった。
結局、首には首輪、手首には腕輪のタトゥーが入れられ、胸には”性奴隷 M”という文字を彫られた。
タトゥーを入れられた後、部屋の姿見に写った自分の姿を見て、Mはタトゥーというものがどれほどの重さがあるのかを改めて実感し、泣き崩れた。
一生消えない奴隷の証。二度と公共の場で肌を晒すことはできない、二度と元の生活には戻れないということを如実に物語っていた。
ある日、夜間の拘束が緩い日があった。
ストーカーが寝息を立てるのを待って、Mは拘束衣を外し、ディルドも首輪も外して、全裸ながら自由の身になった。
音を立てないように注意しながら自分のスマホを探すが、部屋の中には見当たらなかった。
スマホは諦め、外へ出て助けを呼ぼうと考えたMは、机の上の厚いゴム手袋をつけた。廊下へのドアの取手には今も常に電気が流されており、触れる際にはゴム手袋が必須だということを、普段の生活の中で見ていたのだ。
恐る恐るドアを開け、外に出た途端、廊下の電気がつき、ストーカーのスマホがアラートを鳴らした。廊下にはセンサー式の監視カメラが設置されていたのである。
ストーカーが飛び起きる前に廊下のドアを閉め、玄関の鍵を開けようと近づいたところで、Mは絶望した。
玄関に金具が取り付けられ、ダイヤル錠でロックされていたためである。当然ながら、いくら引っ張っても千切れはしない。
そうこうしているうちに、ドアノブの電流トラップをスマホで解除したストーカーが、後ろに立っていた。
その日の夜から1週間あまり、特に辛い時期が続いた。
暴力の頻度が増え、今まで以上に苛烈な調教が行われた。
Mが泣きながら必死に懇願しても、ストーカーのセックスと暴力がが休まることはなかった。
朝から晩まで、無尽蔵の性欲と怒りをMはぶつけられた。夜は今まで通りの拘束に加え、お仕置きとして尿道に差し込むタイプの貞操帯も装着させられた。
当然尿道も未開発であり、なんの快感もなくただただ激痛であった。
ストーカーの恐ろしいところは、とても気まぐれな点であった。
週に1回程度、やけに優しく扱ってくる日があった。基本的には暴力的なセックスしかしないのだが、どういうわけかたまに優しく身体を労わるセックスをする時があるのであった。
Mは毎日の辛い状況と、激痛で寝れないことによる睡眠不足が災いし、徐々に思考能力が低下していった。
逃げようとしてバレた時の恐怖がトラウマとなり、そこに時々見られる優しいセックスの記憶が覆い被さって歪な記憶を形成していた。
Mは、おそらく現状のストレスを無意識のうちに軽減させようとしたのであろう、だんだんとストーカーに対して寄り添う気持ちが芽生えてきていた。
「ストーカーの暴力もセックスも、全ては自分に向けられた愛情なのだ」
「自分と一緒にいてくれて、ご飯を与えて愛してくれるのに、自分は逃げようとしたんだ」
Mはストーカーに対して、わずかずつながら、徐々に依存するようになってしまった。
ストーカーはMが依存してきているのを感じ取り、あろうことかMに対しての熱意が冷めていくのを感じていた。
”孤高の存在で手が届かないほどの美少年であるM”という存在を好いていたのであり、自分に媚びるようなモノは追うに値しない、愛するに値しない存在なのである。
それ故、ストーカーからのMの扱いはさらにぞんざいになっていった。それでも抵抗せず受け入れるMの姿を見て、嫌悪と侮蔑の気持ちを抱くと同時に、(これなら外出させても逃げないだろう)という確信も得た。
ストーカーはMに露出の激しい服を着せ、「毎晩新宿で男娼の立ちんぼとしてお金を稼いでくるように」と命じた。
Mの思考はすでに衰弱し切っており、本来の心はないわけではないが、心の奥底に閉じ込められてしまっていた。
ストーカーの命じられるままに従うことへの喜びが、冷静で合理的な判断を塗りつぶしてしまっていた。
幸か不幸か、Mはあれだけの監禁生活を過ごした後でも、女性と見間違うほどの美少年であった。初日から、すぐに客が寄ってくるのを感じていた。
しかし、当然男娼としては初めての経験である。その擦れてない雰囲気は客からすればとても美味しそうに見えたが、逆に擦れていなさすぎて(本当に声をかけてもいいのか?)という疑念を生むのであった。
そんなことは知る由もないMは、周囲の男性が自分に近づいては声をかけずに去っていくのは、自分に魅力がないからだと痛感した。
近づいてくる男性の中から、大人しくて優しそうで、お金を持っていそうな人に声をかけた。
「あの、もしよろしければ、その……僕を、買ってくれませんか……?
お願いします、こういうこと初めてなので、勝手がわからなくて……」
必死でアピールをするM。なんとなくセックスのお誘いはこういうものだろうというイメージで媚びてみたが、その必死さは裏目に出る結果となってしまった。胸元に見える本名入りの性奴隷タトゥーが、ただお金に困っているのではなく複雑な事情があるのだと思わせ、敬遠させていた。こうなると、その整った顔立ちすらも(どうしてこんなに整った顔の子がたちんぼなんてやらなくてはならないのか?)との疑念を生むだけの結果となっていた。
何人か声をかけたものの、声をかけるほど切羽詰まった事情があるのかもしれないとの不安を煽り、誰も買ってはくれなかった。
そんななか、見た目の異様さを全て無視して、顔の良さだけを参考に買おうとする客が現れた。
何人も断られた後だったので、Mは深く感謝をしながら、その客とホテルに行き、性奴隷としてご奉仕をした。
アナルセックスで射精に導き、客からお金を受け取ると、Mはとても嬉しくなった。こんな自分でも、男性に媚びて身体を売って、買っていただいた相手を満足させることはできるのだ。
喜びの反面、受け取ったお金を見て、なぜか涙が流れた理由は、理性が壊れつつあるMにはわからなかった。
それからは男娼としての日々が始まった。
夜になれば歓楽街へ出かけ、精一杯のアピールで客を募った。もともと顔はいい、何かの事情があるだろうと最初は敬遠されていたが、連日通い詰めることで街に溶け込み、客は日々増えていった。
様々な客がいた。
男が好きな人、酔っ払って女と間違えた人、男とは思ったがいたずら心で試しに買ってみた人。
反応もさまざまであった。
大喜びで射精する人、驚きながらも受け入れる人、男とわかった瞬間帰る人。
中には悪意に満ちた客もいた。
「どうせ今まで何も積み上げてこなかったんだろ?」
「身体だけ売ってりゃいいとは、気楽な商売だな」
「お前みたいなのを人生の落伍者って言うんだ。バカなお前にわかりやすく言うと、負け組ってことだ」
「そんな生活があと何年もつかねぇ。来年には誰も買わなくなってるかもな」
「お前より、あっちの店の方が安くてきれいでセックスもうまいぞ、お前なんかを買ってやった俺に感謝しろよ」
「下手くそ。そんなセックスじゃだれも満足しないよ。今まで何してきたんだ?」
「お前の両親や友達は、今のお前を見てどう思うんだろうな?生んでくれた両親に申し訳ないと思わないのか?クズめ」
「身体を売って、人生を切り売りして……お前は孤独に早死にするんだろうな、ご愁傷様」
Mの奉仕は確かなものであったが、性技の良しあしとは関係なく、ヒトの尊厳を踏みにじるようなことを吐き捨てる客は何人もいた。
男娼をしている間だけが辛いわけではなく、むしろ男娼をしている間の方がMの肉体にとってはよかったといえるだろう。
朝日が昇り、家に帰ると、ストーカーが待っている。
その日の売り上げをすべて渡して、金額が足りないとして暴力を振るわれる、という流れが習慣となっていた。
殴る蹴るだけではなく、鞭やスタンガンや何かの軽い棒など、この世に存在するあらゆる暴力はあらかた受けたといっても過言ではなかった。
しかし、1週間か2週間に一度は、暴力ではなく頭をなでて褒めてくれる日もあった。Mの心にとってはそれだけが癒しであり、自分がここにいてもいいという証明であった。
暴力の後はストーカーの気分次第で様々な命令を聞いた。最初のうちは性奉仕であったが、Mの男娼としての期間が長くなるにつれて性奉仕は減り、むしろ買い物や掃除洗濯などの家事が増えた。
Mの表の心にとっては、家にいてストーカーの命令に従っているだけで、すべての悩みが解決し心が満たされるのを感じた。しかし実際のMの心は、心の奥底に追いやられて表に出てこないだけで存在はしているのである。
同様に、Mの心の満足感で隠されていたが、Mの肉体の疲労も限界であった。昼間はストーカーのそばにいて命令をこなし、夜は男娼として身を粉にして働いているのだ。寝られる時間は、ストーカーの機嫌が良くて放置された時か、またはスタミナのない客が先に寝た時のみであった。睡眠の不足は肉体の疲労の蓄積と、Mの本心をさらに奥底にしまい込むという悪循環を招いていた。
警察官に声をかけられたこともあった。Mの格好はどう見ても立ちんぼの売春婦であった。
路上での客引き、そして売春行為。職務質問をされない方が異常である。
警察官にこれまでのすべてを話せば、ストーカーの監禁やDVの被害者として保護され、すべてが丸く解決することはM以外のすべての人にとって明らかであった。
しかし、Mの依存心と睡眠不足は、Mから理性的な思考を奪うには充分であった。
Mにとって、この警察官は、いまの日常を壊す厄介な外敵でしかなかった。状況を改善するという発想もなく、今の地獄のような状況に自分のせいで新たな変化が生じることが一番困ることであると認識していた。
もう少し早く職質してくれれば、まだ依存心は少なかったかもしれない。その前日が3時間眠れる日であれば、もう少し冷静な思考ができていたかもしれない。しかし、現実はそうではなかった。
結局、自らの意思でこうしたファッションをしていて、友人と待ち合わせをしていると嘘をつき、Mは平和を守った。
自らの手で、偶然現れた救いの手を振り払ったのである。地獄からの脱出を見送ってしまったのである。
ありもしない"友人"という嘘も含めて、Mの本心は悲しみと悔しさを抱いたが、それは心の奥底からの届かない叫びであった。
睡眠不足でぼんやりとしたMの頭では、その目から流れた涙の理由はわからずじまいであった。
家に帰っても暴力と睡眠不足が待つだけなのであるが、それでも家の外での時間よりは心が休まる時間であるのも本当であった。
男娼としての日々は安定とはかけ離れ、常に焦燥感と不安と恐怖に襲われる。
また、悪意ある客以外にも、Mの尊厳を踏みにじるような出来事があったことも、Mの心を蝕んでいった。
ある時、学生時代にMが片思いをしていた女の子に偶然出くわした。何かの飲み会のために歓楽街を歩いていたようだった。
常連の悪意ある客に買われそうになっている時、「Mくん?Mくんだよね!?」と声をかけられ、振り向くとその子がいた。
旧友の再会に喜ぶその子は、振り返ったMのタトゥーや服を見て……そしてぎらついた目の客を見て、その顔を軽蔑に変えるまで、時間は要さなかった。
「なにそれ……何その格好……」
男娼としての日々は、Mの常識を塗りつぶしてしまった。その子の眼差しを見るまで、自分がどんなに以上ではしたない恰好をしているかすっかり忘れていた。娼婦にふさわしい淫らな女性服を着て、その胸元には"性奴隷"のタトゥーが入っているのだ。
そして、そのタトゥーをとっさに隠そうとするMの行動が、その子の抱いた疑惑を確信へと変えてしまった。
「そんなことをするような人だとは知らなかった、気持ち悪い……」
「ま、待って、これは「近寄らないで」
吐き捨てるように絶交を宣言し、その子は背を向けて行ってしまった。
突然訪れた絶望を前に、男を誘うときはスラスラと話せるはずのMの口は、何の言葉も紡げなかった。
それでも、奥底に閉じ込められていた本心が、本能が、微かな声で"追いかけなきゃ"とMを奮い立たせた。
しかし、この様子の一部始終を見ていた客に腕をつかまれ、「もうお前は俺の性奴隷なんだ、いいからホテルに行くぞ」と圧をかけられた。心のかすかな叫びはかき消され、もう追いかけることはできなかった。
「お前みたいな底辺の性奴隷に、あんな子はもったいないし必要ない」
「お前がクズで不潔な淫売だから、あの子は傷ついた。全部お前のせいだ」
「お前は何をやってもダメな奴だ。周りを傷つけ、友達ひとり作ることだってできやしないんだ」
結局その日は、傷ついた心をさらに傷つけられながら、一晩中その客の相手をすることになった。
また一つMは希望を失い、その心は鉛のような絶望でコーティングされていくのであった。
Mの心を蝕む絶望は、現実だけではなかった。合間を縫って分単位で得られる睡眠時間に見る夢が、Mの心を傷つけるのであった。
時折、幸せな夢を見る日があった。学生時代の夢。片思いをしていた子や、仲の良かった同級生と平和に過ごす夢。
何の変哲もなく退屈な授業を終えて、放課後は友達と遊び、1日が過ぎていく。片思いの子と結ばれなくてもいい、その子の素敵な笑顔が毎日見れて、その口からあふれ出る朗らかな声が毎日聞けるなら……。
そうした夢から目が覚めた時、現実との落差で、心がさらに沈むのであった。もう二度と光り輝く青春は訪れないし、汚れ切った身体がまっさらな状態に戻ることもないのだ……。それを実感し、Mは社会の汚点である自分自身を呪うのであった。
またある時は、辛い夢を見る日もあった。学生時代の友人が、口々に自分を軽蔑してくる夢。汚らわしい、気持ちが悪い、病気がうつる……思いつく限りの罵倒が、自分に浴びせられた。そして最後には、片思いしていたあの子が、記憶と寸分違わない口ぶりで「近寄らないで」と背を向けるのであった。目が覚めたMは全身にびっしょりと汗をかき、動悸とめまいに襲われる。そして夢の内容を何度も反芻し、その罵倒は正しく自分を表すものだと実感して、より一層心が卑屈になっていくのであった。
そんな生活が続いて数か月。ある時、Mは心身の限界を迎えたことがあった。
いつものように男娼として歓楽街で客を探す。しかしその日は偶然が重なり、まる3日寝ていない状態での立ちんぼとなってしまっていた。
激烈な眠気と、しかしお金を稼がなくてはストーカーの愛を受けられないという焦りが、Mの脳内で拮抗していた。
しかし、脳はもともと24時間のうちの8時間は睡眠を要するものである。72時間寝ていない状態で、さらに起きて活動しようなどとは土台無理な話であった。
睡眠不足だけではなかった。ストーカーの愛を受けたいという一見ピュアな、しかし実際は歪みきった思考の末に生まれた邪な考えは、Mの心を引き裂く力を持っていた。すでに本心が心の奥底に閉じ込められ、現状の地獄を受け入れるために新たな心が作り出されてから、数か月が経過していた。心は分裂しかけ、意識下の思考と無意識の間では乖離した反応がみられることも多かった。
Mは警察の巡回を避けるために、路地裏で立ちんぼをする事が多かった。人通りの少ない路地裏であることが災いした。
突然、何の前触れもなく、Mは意識を失った。その顔は何の感情もなく安らかな顔であった。
地獄のような現実を忘れ、ただ"無"を体感していた。
目が覚めると、日の出前、同じ路地裏に倒れていた。誰にも見つからず、誰からも気にかけられなかった。この数時間の間、Mは実質的に死んでいたのだ。社会から完全に存在が消えていたのだ。
しかし、そうした孤独を味わうこともなく、Mの心は不安と焦りが渦巻き始めた。お金がなければ、ストーカーの愛を受けられない。穀潰しの役立たず。そうであることそのものよりも、ストーカーからそう扱われて見捨てられることの方が怖かった。
帰宅したMは、真っ先に土下座し許しを媚びた。
「あれだけ目をかけていただいたのに、一晩眠りあかしてしまって、お金も稼がず時間を無駄にしてしまい、大変申し訳ございませんでした!」
「二度と同じ過ちは繰り返しません、お願いします、許してください!見捨てないでください!」
すると、意外なことにストーカーは優しい声で
「いい子だから、もう今日は寝なさい。毎日大変だったでしょう」と身を労わる言葉をかけてきたのであった。
もともと肉体と精神の限界を迎えて気を失ったMである。その言葉の意味や理由を深く考える余裕はなく、その優しい言葉の温かさに感動し、涙を流しながら感謝をすることしかできなかった。
そして……朝からベッドでぐっすりと寝て、起きると……ストーカーはいなくなっていた。
何のことはない。理由はどうあれ、金を稼がなくなった男娼は、もはや男娼としての価値はないのだ。Mはとうとう捨てられたのであった。
Mにとっては、"ストーカーから見捨てられてしまった"という事実が大きな意味をなしていた。解放された、という考えは微塵もなかった。
考えてみれば、ストーカーとのコミュニケーションは一方的だった。こちらから連絡を取る手段はない。
依存先を失ったMの、パニック状態で出した結論は、"ストーカーが戻ってきてくれるまで、ここで過ごす"であった。
もうMの頭も心も壊れていた。ストーカーという監視がいなくなった今、ほかにも生きる道はいくらでもあるはずなのに、ストーカーの帰りを待つというバカげた考えに至った。
そして、生活していくにあたって、お金を稼がなくてはならない。お金をたくさん稼げば、ストーカーは戻ってくるかもしれない。
すでに心身ともにボロボロで、身体には無残なタトゥーが入れられている。Mが生きるには、これまで通り身体を売るしかないと考えた。
誰に強制されているわけではないにも関わらず、自ら男娼として生きることに決めたのであった。
現在もMは、自らが選んだ地獄を歩み続けている。
ストーカーが帰ってくるという妄想に支配されて、毎日尊厳を切り売りしている。
どんな罵倒にもめげず、どんなプレイにも従う、顔立ちだけは整った男娼なのである。
ストーカーに代わる依存先を探した時期もあったが、ストーカーに焼かれた心はストーカー以外を受け入れない。
優しい客は何人かいた。結局その手をMが振り払うか、客が愛想をつかして疎遠になるかで、その優しさが実を結ぶことは終ぞなかったが。
そうして、ありもしない"本当に自分を愛してくれていたストーカー"という幻影を追ううち、Mの心はすり減っていった。
心は存在しない愛を追い求めるが、それが永遠にかなわない欲望であることは火を見るより明らかであった。
妄想に取りつかれた偽りの心と、奥底で衰弱している本当の心の乖離は、手遅れなものとなっていた。
感情は希薄になりつつあり、Mの視界から見える現実は色を失いつつあった。
Mがこの呪縛から解放され、幸せになる日が来るのか。それとも、地獄の道中で命の灯が消えるのが先か。
そんな綱渡りをしているとも気づかないまま、今日もMは男娼として客を取るのであった。