カァン!カァン!
町中で心地よく響く、鉄を打つ音。
そこは鍛冶屋だ。
普段は包丁やフライパンといった調理器具、農具や工具の類を販売している。
時には俺たちのリクエストに沿って、料金は応相談でリクエスト次第で素材も用意することで、俺らの能力と相性の良い武器や装備などを作ってくれる。
そして、この鍛冶屋を営んでいるのが、俺の眷属の一人だ。
名前はリズベット、リズベット・イグニア。
兵士の駒を持つ俺の眷属だ。
見ての通り鍛冶屋を営む少女で、腕も一級品だ。
「よぉ、相変わらず繁盛してんじゃねぇか、リズベット」
「レイズ! 久しぶり!」
「そうだな、何日か前にここに来たばっかだが」
俺がそう話すと彼女がジト目で俺を睨む。
「はぁ……あんたねぇ……その言い方はないでしょ? 私はこれでもレイズの眷属なんだからね?」
「へいへい、わかってるよ」
工房に立て掛けられてる二振りの大斧と刀を見つけた。
「銀のために作ってくれたのか。
それにこれ、シャナの刀も」
「うん、シャナちゃんのはまだ調整は終わってないんだけどね。
あの子たちがしっかり戦えるよう、私もがんばるから!」
「そうか」
銀を眷属にしてからというもの、あいつには武器がなかった。
元々使ってたあの二振りの斧は、大赦から追放された時に返却させられたからな。
それにシャナもこの刀を使って戦ってるんだ。
定期的にこうしてメンテナンスに出して、武器の調子をチェックしとかないとな。
それにしても、初めて会った時と比べて、大分明るくなったよな。
あの時のことは忘れられない。
初めて会った時、それは堕天使どもが神器狩りをしてた時のこと。
奴らを討伐するために出向いた俺は、現場となってる鍛冶工場に着いた。
そして、目にしたのは、堕天使ども相手に、泣き叫びながら、恐らく今さっき覚醒したであろう神器と思われる片手用ハンマーを振り回す彼女の姿だった。
しかも、彼女の後ろにはすでに事切れていた男女が倒れていた。
リズベットの両親だ。
察するに自分を庇って、両親が殺されたたショックで神器が覚醒したってところだろう。
だが覚醒したばかりで神器の使い方も知らない様子で、ただ感情に任せて振り回してるだけで、次第に堕天使どもに押されて、殺されそうになっていたところを俺が助けて、奴らを一掃した。
俺に恐れを成して、奴らは逃げ出して事なきを得たが、リズベットはフラフラした様子で事切れた両親の遺体に縋り付いて、泣き叫んでいた。
俺はそんな彼女に、自分の眷属にならないかと言った。
彼女は俺の眷属になることを受け入れた。
だが、最初は親を殺されたショックで引きこもり、ろくに飯も食わず、夜もまともに眠れていねぇみたいで、かなり荒れた生活をしていた。
そんな生活が続いてたある日、夜遅くにフラフラした様子で部屋から出てきて、『お父さんとお母さんに会いたい』って譫言のように言いながら、髪もボサボサで服もしわくちゃで、靴も履かずに屋敷を出ようとしていた。
「おい、ようやく出てきたかと思ったらどこに行く気だ?」
「…あんたには関係ないでしょ」
「関係ある。
お前は俺の眷属だ。
それに、そんな格好で外なんか出歩いたら風邪引くぞ」
「……ほっといてよ」
「ほっとけるかよ。
てめぇみてぇな無防備な女が、心身共に弱り切った状態で、そんな格好で出歩いてたら、どうなるかなんて想像できるだろ」
「うるさいわね! あんたに何がわかるってのよ!」
「何もわかんねぇよ。
だが、今のお前が外をほっつき歩けば、どんな目に遭うのかは想像に難くねぇよ」
「だったらほっといてよ!」
そう叫ぶと、リズベットは俺に殴り掛かってきたが、俺はそれを軽く躱した。
そして、俺は抱き締めた。
「良いかリズベット。
この際だからはっきり言わせてもらう。
てめぇの親はあの時、あの鍛冶工場で、堕天使どもに殺された。
これは事実だ。
過去は消えない」
「……」
「だが、てめぇは生きてんだ。
また堕天使どもが襲ってきたなら俺たちが焼いてやるし、何なら代わりに滅ぼしてやる。
だから…」
優しく抱きしめて、頭を撫でる。
「てめぇのこの命は、俺たちのために使え。
勝手にくたばろうとすんなよ」
「うぅ……うあぁ……」
泣きながら、俺にしがみつくリズベット。
こうして、彼女はようやく立ち直れたのだった。
それからの彼女は、自分にできることをしたいと言っていたので、この町に鍛冶屋の工房を作った。
そして、この町をはぐれ悪魔や堕天使から守るために戦ってくれてる。
もう自分みたいな犠牲者を出したくないから、と。
それに戦っていく中で気付いたが、リズベットの神器はとことん鍛冶に向いてる能力を持ってる。
リズベットの神器、『破城火鎚』の能力は、謂わば無制限物質生成。
火を媒介にあらゆる無機物を自由に生成することができる。
その気になればその場で壁を作って攻撃を防いだり、その場で即席の武器を作ったりだ。
だから即席で盾を作って相手からの攻撃が皆に当たらないようにしたり、作った武器や防具を仲間に渡したりと便利に使えている。
しかも鍛冶についてはこの町でもトップクラスの腕だ。
そんな腕を持つリズベットが作る武器はどれも質が良いから、神器じゃねぇ武器を取り扱う眷属からは定期的にこうしてメンテナンスしてもらってるって感じだ。
「あっ、そうだレイズ!」
「あ?何だよ」
「この作業が終わるまであと少しだからさ、奥で休んでいってよ。
…それにその、レイズの…、あれのメンテナンスも、しておきたいしさ」
と、顔を赤らめながらもじもじと言う。
「へいへい」
俺はそのまま、工房の奥の居住スペースへと向かった。