「はぁ…」
全く、厄介なやつを拾ったもんだ。
俺の新しく眷属になったやつは、9歳くらいのガキだ。
そこは別にいい。
問題なのはそいつの持ってる神器だ。
眷属として僧侶の駒を与えた。
だが、それでも完全に制御できないから、しばらくの間家族から離すことにしたんだ。
んで、今は俺の屋敷の部屋の一室にいるから、様子を見に来たんだが……
「あ…」
「よぉ、元気にしてるか?」
長くて赤い髪をツインテールにした少女が、不安そうに俺を見る。
こいつがその神器の持ち主だ。
名前は琴里、五河琴里。
見ての通りつい最近までカタギだった9歳のガキだ。
だが、こいつの神器が本当に厄介でな…。
「お、お洋服、どうしても燃えちゃうから、前に教えてもらったやり方で、魔力で作った服を着てます…」
「ふーん、そっか」
まぁ、今はこれだけで済んでるのが救いってところか。
最初、初めて会った時は辺り一面を火の海にしたからな。
こいつが故意にやったんじゃない、神器が覚醒して、暴走したんだ。
自分でも知らなかった神器の存在。
自分を中心に大好きな町が燃えて、駆けつけてくれた大好きな兄貴が大火傷を負った。
眷属たちはそれぞれ消火、救助、避難誘導などを行い、俺はその火の元に止めに来た。
その時のこいつの涙は忘れない。
角を生やした和服を来たこいつは、腹から胸に掛けて大火傷を負って虫の息だって兄貴を抱え、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔だった。
『おにーちゃんを助けてっ!!』
と、泣きながら訴えてきた。
当然、助けた。
神器が暴走しただけのガキを殺すなんざ、あまりにも短絡的過ぎるし、はっきり言って根本的な解決にもならんしな。
そんなんだったら、炎を使うやつを皆殺しだし、それこそ根本的な解決にもなりゃしねぇ。
ならば、暴走しねぇように制御させれば済む話だしな。
だから、僧侶の駒を埋め込んで、眷属にして、兄貴をハルファスの炎で治した。
それもあってか、真っ赤に燃え上がった炎は俺と同じく青い炎となり、辺り一面を火の海にした炎はあっさりと鎮火した。
だが、駒を埋め込めば済む話じゃなかったんだ。
火災を引き起こすまでとはいかないが、それでも服といった身につける物を焼いてしまうので、魔力を使った服の作り方を教えた。
それにこれでも大分落ち着いたほうだが、油断はできねぇ。
一歩扱いを間違えたらまた火の海になっちまうしな。
だから、完全に制御できるまで、親元から離すことにしたんだ。
「…私、どうしてこうなっちゃったんだろう」
「てめぇがわざと神器を暴走させたわけじゃねぇだろう。
町は俺らで直したし、けが人も死人もいねぇ。
過ぎたこと一々気にすんな」
「でも、私のせいでおにーちゃんが……」
「兄貴に関しても俺が治したんだ。
今は家でお前が帰ってくるのを待ってるさ」
「…うん、ありがとう」
「何だ、恨まれてると思ってんのか?」
「だって…、私が神器を暴走させなかったら、おにーちゃんは……」
「それはてめぇのせいじゃねぇ。
…はぁ、出掛ける準備をしろ」
「えっ、どこに?」
「決まってんだろ?飯を食いに行くんだよ。
てめぇも腹が減ってるからそんな気の滅入ったこと考えてんだろ」
「でも、私……」
「良いから、とっとと行くぞ」
「あっ、うん」
ったく、面倒臭ぇ。
だがまぁ、こいつの境遇を考えれば仕方ねぇことなのかもしれねぇが……。
「あ、あの、どこに食べに…、行くんですか?」
「あ?」
外に出て、俺の隣で不安そうに琴里が聞いてきた。
「少なくとも、てめぇにとっては縁のあるとこだ。
ほら、離れないように付いてこいよ」
「は、はい!」
さて、食事っていったらやはりここか?
「あれっ、ここって」
「お前が大好きなファミレスだ。
兄貴とよく行ってたらしいな」
「ど、どうしてそのことを!?」
「お前の兄貴から聞いてる。
なんだ、嫌か?」
「そ、そんなわけ……ないです」
琴里はバツが悪そうに顔を俯かせる。
その反応だけで分かる。こいつは兄貴を大事に思っていることくらいな。
「まぁ、座りなよ」
そう言って俺らの相手をしてくれる店員が席へ案内する。
「ほら、座れよ」
「あ、はい……」
俺は向かい側に座って琴里を促すと、琴里はおずおずと俺の対面に座る。
「じゃあ、何食おうか。
何も決められないなら俺が勝手に注文するぞ?」
「あ、あの!じゃあ……いえ、やっぱり、何でもいいです……」
「あっそ。
なら、勝手に注文すんぞ」
何か躊躇いを覚えて注文しない琴里。
俺は店員を呼んで、とりあえず注文した。
「あの…、どうして私を、ここに」
「ここならお前が話しやすいと思ったからな。
いつまでも引きこもってたら、気も滅入るってもんだ」
「あ……、そうですよね……」
それから、しばらくして飯が来た。
「おまたせしました!おそばとデラックスキッズプレートです!」
「っ!!」
「おう、来たか」
俺のところにそばが、琴里のところにデラックスキッズプレートが置かれる。
「ど、どうして、これが…」
「んなもん、お前の好きなやつだからに決まってんだろ?
お前の兄貴から、色々と聞いてたしな」
「お、おにーちゃんが」
「ほら、冷めちまう前に食えよ。
食うところを見られたくねぇんなら、窓見ながら食ってやるから」
俺は退屈そうに外の景色を見ながらそばを啜る。
俺が見てないからか、最初はおずおずと食べ始めたが、そんなに好きだったのか、目をキラキラさせながら食べ始めた。
そして俺たちはしばらくして食べ終えた。
「あっ、食べ終わったか」
「あ……、あの……」
「ん?」
「どうして、こうも私の好きなものを?
お、おにーちゃんと、よく会ってるから、ですか?」
「そりゃああいつ、お前のことすごい心配してるしな。
それでいつまでも引きこもってるお前の好きなものとか聞いてるんだ。
だから逐一お前の状況は伝えてあるし、お前のこと、これっぽっちも恨んじゃいねぇよ。
むしろ、いつ帰ってくるのかって、ずっと待ってたしな」
「……っ!」
「まぁ、だから、お前は気にすんな。
お前が神器を暴走させちまったのは、お前のせいじゃねぇし、兄貴だって恨んじゃいねぇ。
むしろ、お前に怪我がなくて安心してるさ。
それに……、俺だっているしな」
「えっ……」
あいつもこいつも心配性なこって。
だがまぁ、悪い気分じゃない。
「あぁそれと、あいつからこれを預かってるんだ。
手紙も添えてな」
懐から、ラッピングされた紙袋を琴里に差し出す。
「これは……」
「開けてみな」
俺はそう言って促すと、琴里は恐る恐る紙袋を開ける。すると……
「あっ、これ!」
中に入っていたのは、2つ黒いリボンだ。
そして、手紙を開いて読む琴里。
『琴里へ。
本当はあの時俺から渡したかったけど、あんなことあったし、お前もいつ帰ってきてくれるか分からないから、レイズさん越しに渡してもらうことにしたぞ。
琴里、俺の可愛い妹よ。
お前は泣き虫だが、それでも俺の可愛い自慢の妹だ。
だから、約束してくれ。
今だけでいい、そのリボンをつけてる時は、お前は強い子だ。
兄ちゃんと、約束してくれるか?
いつまでも、家でお前の帰りを待ってるからな。
士道より』
「あっ…」
手紙にポタポタと涙を落とし、琴里は俯いた。
「うっ……、お、おにーちゃん……」
そして嗚咽をもらしながら泣き始めた。
そんな琴里の頭を俺は撫でた。
「今は好きなだけ泣けば良いさ」
「うぅっ……」
それからしばらくした頃だ。
「……ありがとうございます、レイズさん」
「気にすんなっての」
ようやく落ち着いたのか、琴里は涙を拭いながら俺に礼を言う。
「えへへっ」
そう言って、琴里はリボンを大切そうに撫でた。
「結んでやろうか?」
「えっ、良いんですか?」
「あぁ」
琴里の髪を結ぶ白いリボンを解き、黒いリボンで結び直す。
昔俺がフェニックス家にいた頃、妹のレイちゃんによくやってたから、慣れたもんだ。
そして結び終えた。
黒いリボンをつけたツインテールだ。
「何だよ、随分と似合ってんじゃねぇか」
「えへへっ」
琴里は嬉しそうに、自分の髪を触っていた。
「兄貴からこんなの貰ったんだ。
早いとこ完全に制御「あのっ!」…何だよ」
琴里の声に遮られ、俺は言葉を止めた。
「その……、ありがとうございます!
それと、お願いがあるんですけど、いいですか?」
「あ?」
俺が聞き返すと、琴里は頬を赤らめながら言った。
「その……、レイズさんのことを、レイズおにーちゃんって呼んでも、いいですか?」
「はぁ?」
突然のことに俺は呆れてしまった。
だが、琴里は必死な様子で言ってきた。
「えと、あのね?
レイズさん口は悪いけど、何だかんだで私の事、心配してくれたり、リボン結んでくれたでしょ?
何か、おにーちゃんみたいだなぁって」
「はぁ……。まぁ、好きにしろ」
俺は呆れながらそう言った。
そんな俺に琴里は嬉しそうに言った。
「うんっ!ありがとう!レイズおにーちゃん!」
「あぁ……」
ったく、調子の良いやつだぜ。
それからというものの、琴里は俺のことをレイズおにーちゃんと呼ぶようになりやがった。
この時を境に、心に余裕ができたのか、あるいはこれが素なのか、明るく元気な性格になった。
そうして精神的に安定したからか、神器も完全ではないにしても暴走することはなくなった。
おかげで魔力で服を形成する必要はなくなった。
また、このときに気付いたが、琴里の神器はかなり危険なものでありながら、俺と同じく治すことにも使える能力がある。
だからどれだけ傷つこうが、不死身じみた再生能力で治っちまう。
更にはその能力を他の皆に適用できるという、とんでもない能力を秘めている。
そして、暴走の危険がなくなったことにより、琴里を家に帰すことにしたが、あれからというものあいつは俺の屋敷に通ってきている。
何ならはしたないレベルでパンツ丸見えの状態で、寝てる俺の上で情熱的なサンバを踊るとかいう意味不明な行動をしたりもした。
また、こんな無邪気なやつだが、地頭は良いのか、参謀として俺の仕事を手伝ったりもしてる。
まぁ、そんなこんなで琴里は俺の眷属として活躍してくれている。