今回はヒースノーランドさんと九尾さんからのリクエストで、ムシブギョーの火鉢(正確にはその子孫)の話を書かせていただきました。
俺の街ではぐれ悪魔が根城を構えていると聞き、駆けつけた。
「なっ、お前は」
「邪魔」
門番であろうはぐれ悪魔を蒼炎で焼き尽くし、扉を蹴飛ばした。
周りは暗くて何も見えねぇが、周囲からはぐれ悪魔の気配がする。
「待っていたぞ、レイズ・ハルファス」
「はぐれ悪魔の分際で俺の領地で根城を構えるとか良い度胸してるなぁおい」
「ふっ、何。
ここはもうすぐ我らの領土になるのだ。
それに、お前にはこいつは殺せまい」
正面に、明かりがつく。
そこにいたのは。
「火鉢」
「んーっ!んーっ!」
火鉢は今時珍しいくノ一だ。
金稼ぎで色んな任務をしていた所俺とよく出くわすことがあったが、まさかはぐれ悪魔に捕まって、人質にされてるとはな。
それも壁に磔にされて、口も猿轡を噛まされて。
「ふっ、やはりこの小娘と知り合いだったか」
はぐれ悪魔は火鉢の顎を持ち上げ、舐め回すように見る。
「この女、今時流行りもしない忍者とかくノ一とか名乗ってる癖に大したことないんだぜ?
確かに爆弾とか、それから珍妙な身のこなしで仲間は何人もやられたが、集団で掛かればこの通りだ。
全く、何がくノ一、何が忍びだ。
所詮は時代遅れのスパイごっこじゃねぇか」
「ん''ーっ!」
彼女からすれば侮辱にも等しい言葉に、彼女は強く反応した。
「おっと、少し煽っただけでこんなに怒るなんて。
せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ?
…そうだ、後で皆でお前のこと可愛がってやるよ。
時代遅れなくノ一よりも、この上玉な体で俺らの慰み者になった方が世の中の役に立てるしなぁ」
「〜〜〜っ!!」
下卑た笑みを浮かべるはぐれ悪魔に、怒りに満ちた顔を見せる火鉢。
俺はあまりにもみっともなさに声を掛ける。
「…なぁ、いい加減茶番は終わりにしねぇか?」
「茶番?
ふっ、お前が大人しくやられて『ゴウッ!!』」
奴の言葉が続くよりも早く、素早く距離を詰めて蒼炎で焼き尽くした。
倒れるよりも早く、灰となって消えた。
「な……っ」
「茶番は終わりって言っただろ? で、お前どうすんの?」
はぐれ悪魔たちは驚愕し、火鉢も目を見開いている。
俺はそんな奴らに構わず、火鉢を解放する。
「…っ、あんた、何で」
「こいつらが散々てめぇのこと貶してたんだ。
見返してやる機会くらい、くれてやっても良いと思ったんだよ」
「礼は言わないわよ。
でも」
火鉢が身軽な動きで飛び跳ねながら、襲い来るはぐれ悪魔たち目掛けて爆弾を投げる。
「ぐわっ!」
「私もこいつらに頭にきてんのよね。
存分にやらせてもらうわ!」
「はっ、そうしろよ。
俺も俺で好きにさせてもらうぜ」
蒼炎で辺りを焼き尽くしていく。
その傍ら、火鉢の戦い方を見てるのだが、相も変わらず繊細な動きをしやがる。
あいつとは何度も顔を合わせて戦ったり、今みたいに一緒に戦ったりしてるからわかる。
触れれば折れそうな華奢な体で飛び跳ね回り、はぐれ悪魔どもを翻弄する。
そして隙を見ては爆弾を投げて、燃やすか破壊。
下手すりゃ自分すら爆風に巻き込まれるのに、そんなことを一切感じさせない繊細な動きだ。
くノ一、というか忍び自体が本当に珍しいし、俺も火鉢と出会って初めて知ったんだ。
だからあいつ以外のやつは知らねぇし、俺からすれば火鉢の存在自体が、なるほどあれが忍びって奴かってなる。
…っと、さっさとこいつらを始末するか。
「好き勝手してくれたんだ。
さっさと消えてもらうぞ」
体内に魔力を集中、圧縮、凝縮させる。
「赫灼熱拳…」
右腕を構え、拳を握る。
赫灼熱拳、それは俺がハルファスの当主になるため、より強い悪魔として名乗りを上げるため、あのサイラオーグらと張り合うために編み出した技の基本だ。
右腕に魔力を集中、肘から蒼炎をまるでジェット噴射のように噴出し、推進力を得る。
拳に極限にまで魔力を凝縮させ、それを目の前にいるはぐれ悪魔ども目掛けて振るう。
「ジェットバーン!!」
目の前のはぐれ悪魔の腹に拳をめり込ませ、その瞬間に拳に凝縮させた魔力が高出力の蒼炎として、爆発的に開放し、後ろにいたはぐれ悪魔どもを消し飛ばす。
「うわっ、何よあの技!?
あんたあんなのもできるって言うの!?」
「俺はこれでも悪魔の当主だぞ?
できて当然だろうが」
「だったら、私も負けていられないわ!」
火鉢も爆弾を投げつけてはぐれ悪魔どもを倒していく。
蒼炎と爆発により、はぐれ悪魔どもは全て消し飛んだ。
「はっ、これで全部片付いたな」
「ねぇあんた」
廃墟とかしたはぐれ悪魔の根城を見つめてると、火鉢が声を掛けてきた。
「あんたはどうして、私を助けてくれたの?
悪魔のあんたが、私を助ける道理なんて、ないでしょ?」
「…確かに、そうかもな。
だがさっきも言ったように、お前に見返してやる機会をくれてやっただけだ。
お前は気が強いから、あれだけ貶されたことに相当頭が来てただろうし、解放すりゃ蹴散らしはするだろうなって、思ったんだよ」
「…あんた、何で私があいつらに怒ったのか、わかるの」
「知らん、興味もねぇ。
だが、お前からすりゃ、くノ一とか忍びが時代遅れって言われたことが屈辱的だったんだろうなって、何となくだ」
「…少し、場所を変えましょ。
話があるわ」
「聞いてねぇよ」
「別に他人事でも、独り言だと、勝手思ってくれても構わない。
私が勝手に話すから、来て」
ここで断っても良かったんだが、火鉢が、有無を言わせぬといった目をしているのを見て、気が滅入ったのもあり、つい黙って着いていくことになっちまった。
近くにあった、人気のない公園のベンチに座り、ここに来る前に買った飲み物を飲む。
しばらくして、火鉢が口を
「…私、ある里の出身で、忍びの末裔なの」
「…」
俺は黙ったまま、火鉢の話を聞いた。
かつて火鉢がいた里では、蟲と呼ばれる悪魔に似た存在の怪物と戦っていた伝承があり、火鉢はその蟲と戦った忍びの子孫であり、火鉢って名前もその先祖の名前から取ったらしい。
しかし、火鉢が生まれた時にはそんなものは既に過去の話であり、忍びも火鉢しかいなかった。
忍びというものもとっくに廃れてるから、周りからその存在を時代遅れだと蔑まれ、孤立していたらしい。
そうして、火鉢は里を抜けて、見返すためにくノ一として、はぐれ悪魔と戦ったりしていたそうだ。
「ふーん…」
「レイズ、あんたから見て、私のやってることは、やっぱりおかしいって思う?
あんたも、忍者は、くノ一は時代遅れだと、そう思うの?」
火鉢は俯いたまま、そう聞いてきた。
さっきからそうだが、何故か強気な態度とは変わって、とても弱々しい声に俺は気味が悪く思った。
「別に、好きにしたら良いんじゃねぇのか? お前の故郷がどうあれ、それを自分で見返すことを決めたんだろ? だったら好きなようにすりゃあ良いし、他人にとやかく言われる必要もねぇと思うが」
「……何よそれ。
私はこれでも真剣に悩んでるの! はっきり言ってくれない!? それともあんたも、私のやってることはおかしいと思ってるの?」
「おかしいも何も、俺はくノ一以前に、忍びを見たのが初めてなんだ。
お前がな」
「えっ、じゃあ本当に……っ! あふっ」
嬉しそうな顔をして身を乗り出した火鉢が頭をぶつけやがった。
俺はそれを横目にして、話を続ける。
「忍びってのは、かつてこの国が乱世に明け暮れてた頃のスパイみたいなもんだ。
忍び込むにしても逃げ回るにしても、あれだけ身軽な動きじゃねぇとできねぇよ。
何度もお前の動きを見てきたが、お前の努力は計り知れねぇよ。
諦めが悪いが、それでもお前のそれは健気だ」
「…」
「だから、まぁ、なんだ…。
俺もそうだから、あえて言わせてもらうぜ。
誇れ、誰がどう言おうと、お前は忍び、くノ一だ」
火鉢は目を丸くして、黙っていた。
「……俺からお前に言えることはそれだけだ、帰るぜ」
「あっ……待ちなさい!」
いきなり大声を出して呼び止められた。
一体なんだよと振り返ってもまだ火鉢は立っているのだが、何かと思えば恥ずかしそうに顔を逸らした。
「その……えっと……」
そして急に俯くも、顔を上げ再びこちらを見る。
それは見てて明るくなる笑顔だった。
「……レイズ・ハルファス! 私を眷属にしなさい!」
「……は?」
「何寝ぼけた声出してんのよ。
私のことそこまで評価してんだから、私の主人になりなさいと言ってるの」
「唐突過ぎんだろおい。
それに、眷属になるってことは、転生悪魔になるってことなんだぞ。
人間じゃなくなるんだぞ?」
「それでも、くノ一やめさせるわけじゃないんでしょ?
それに、私がいれば諜報もお手の物よ?
今私を買わないなら、後で後悔するかもよ。
だから今、私が買われて眷属になってあげるって、そう言ってんのよ!」
「おいおい……」
何でこいつは、こう強引に物事を運んでやがるんだ? 周りも危険に晒すとか考えねぇのかこの……あぁめんどくせぇ。
こうなりゃヤケクソだ。
「わーったよ、てめぇの申し出を受けてやる。
望み通り、てめぇを俺の眷属にしてやるよ」
俺は半ばやけくそ気味に駒を取り出した。
兵士の駒だ。
それを見た火鉢は笑みが溢れる程嬉しそうに笑う。
そして、駒を埋め込み、転生悪魔にして眷属にした。
「…これでお前は、俺の眷属だ。
よろしくな、火鉢」
「えぇ、よろしく。
レイズ」
こうして俺は、火鉢というくノ一の眷属を得たのだった。