「はぁぁぁ!!!」
「うぉっ」
何事かと思えばいきなり襲われた。
しかも服装をよく見るとシスター服、つまり俺ら悪魔と相容れない存在、教会の人間の少女だ。
神に仇なす存在で天敵でもある悪魔の俺に手を上げるのも当然か。
だが、どういうわけかな。
よく見ればこいつ、歯を剥き出しにして、目を吊り上げて、まるで手負いの獣のように殺気立っている。
しかも、周りにはこいつの仲間もいねぇみたいだし、こいつの単独行動ってところか?
ともすれば自棄になってるとも見えるな。
何があったかなんて、俺の知ったことじゃねぇが、このまま相手をするのも面倒くせぇな。
「っと」
「なっ」
少女が振るう槍を掴み、蹴飛ばして近くの壁に激突させる。
「がはっ」
「俺を殺すにしても、冷静さ欠いてんじゃねぇよ」
少女は虚ろな目で、自分が負けたことを悟ると。
「は、はは…、そうか。
そうだよな、こんなところで悪魔と戦ったところで、どうせあたしには、もう…、何も」
壁に背をつけたまま、俯いて涙を流し始めた。
「…おい悪魔、あたしはあんたを襲ったんだ。
殺すなら殺せよ。
お願いだから…、あたしを、楽にさせてよぉ…」
「…」
俺からすれば、確かにこいつは教会の人間だ。
襲い掛かってきたなら殺すのも道理だ。
だが…。
「…っ、おい!?
何すんだよ!」
槍を拾い、少女を担ぐ。
「は、はなせ、はなせよ!
あたしにはもうっ、生きる意味なんて」
「はっ、ガキが何ほざいてんだよ。
何で俺がてめぇの言う事聞かなきゃなんねぇんだよ。
屋敷に連れて飯を食わせてやるから、大人しくしてろ」
「なっ、悪魔のあんたに情をかけられ『ぎゅぅ〜』…あぅ」
「メンタルボロボロでも、体は正直みたいだな」
「〜〜〜〜っ」
担がれた少女は腹を鳴らしてるのに気付いて、そのまま大人しくなった。
「レイズ!?その担いでる子ってまさか」
「見てわかるように、教会のやつだ。
何やら訳ありみたいだったから、何か飯を用意してくれ」
屋敷に帰ってきたらカレンが出迎えてくれたが、担いでいる少女を見て驚く。
「…っ、確かにただ事じゃなさそうね。
わかったわ、用意してくるわ!
でもそこのあんた、レイズに何かしようとするならその時は私が相手よ」
「…」
メンタルがボロボロが上に空腹の少女はただ項垂れるしかなかった。
それから席につかせて、カレンが用意してくれた飯を食わせた。
もう何日も口にしてなかったのか、ガツガツと食べるその姿はまるで獣のようだった。
「はぐっ、んぐっ」
「少し落ち着いて食べなさいな。
誰も取ったりなんてしないから」
カレンが少女に言うも聞く耳を持たずに食べ続ける。
それから、しばらくして食べ終えた。
「……っ、げふっ。
ごちそうさま…」
「お粗末様ね」
「…で、てめぇ名前は?
俺を襲ったのは教会からの命令か?」
「…違う、あんたを襲ったのは、あたし自身の意思だ。
悪魔を倒すことが、教会で育ったあたしの生き方だったからな」
それから話を聞いた。
少女の名前は杏子、佐倉杏子。
元々は教会の戦士でシスターだったらしい。
父親が元々牧師をしてたらしく、母親と妹もいたらしい。
しかしある日、父親が神の不在という教会の秘密を知り、悪魔討伐で杏子がいない間に心中したんだとよ。
その際杏子もそれを知ったそうだ。
それから自身は教会から追放されてしまったらしい。
家族も居場所も失った杏子は、生きる意味を失いながらと何とか生きようと彷徨っていた所を、悪魔である俺を見つけ、襲い掛かったが返り討ち、ってところか。
「で?お前はこれからどうするんだ?
その様子だと、もう教会にも帰れねぇだろ」
「そんなの、あたしにだってわからないさ。
もうあたしには、何も残ってないんだから。
でも、生き残っちゃった今、どうしたら良いのか」
「……はぁ、ならここにいりゃいい」
「は?」
「レイズ、あんたそれ本気で言ってるの?」
「良いだろカレン。
銀だって似たような立場だったんだ。
今更増えたところで別に困ることでもねぇだろ」
「それはそうだけど」
「それに、こいつはもう俺らに危害を加えたりしねぇよ。
教会から追放されちまって、もう理由もないんだから」
「…そうね。
確かに、もう教会の関係者じゃなくなったのなら」
「…」
それから杏子は、ただ黙って俺たちの話を聞いてた。
そして。
「……いいのかい?あたしがここにいても」
「俺が良いって言ってるんだ。
何なら転生悪魔になって眷属として、俺に仕えるのもありだ」
「……それもいいかもしれないね」
「決まりだな。
カレンもそれでいいな?」
「あんたが良いなら私は構わないわ」
こうして杏子は俺の眷属となった。
そして、互いに自己紹介もした。
その日の夜、杏子は廊下の窓から夜空を見上げていた。
「…」
「よぉ、駒は馴染んでるか?」
「レイズ…、あぁ、不思議なくらい馴染むよ」
「そうか」
「レイズ」
杏子は再び夜空を見上げる。
吹く風に消え入りそうな声で呟く。
「あたしさ、こうやって転生悪魔になった自分を、受け入れてるのかもしれないんだ」
「そりゃあまた不思議なことだな」
「だって、もうあたしは教会から追い出されて居場所がなくなってさ。
神の不在を知って家族もいなくなって、生きる意味なんてなかった。
それが、こうして悪魔になって、生きながらえてる自分がいるんだ」
「そうだな」
「でも、あたしはさ」
杏子は俺を見る。
「何もなくなったけど、家族の分も何が何でも生きていたいんだ。
これから生きる意味を、あたしは探していきたい」
「はっ、らしくねぇこと言いやがって。
良いんじゃねぇか?生きがいを探すってのはさ」
「……ありがとうな、レイズ」
「別に、礼を言われるようなことはしてねぇよ。
俺はただ眷属を拾っただけだ」
「それでもさ」
「はっ、そうかよ」
俺は杏子に背を向ける。
「なら、ここでてめぇにできることを探せ。
生きる意味を探すってのは、簡単なことじゃねぇぞ」
「わかってるさ、でも、あたしは」
「……ならいいさ。
じゃあな」
もう用はねぇと俺は部屋に戻った。
「ありがとうな、レイズ……」
こうして杏子は眷属として、俺の屋敷で生活を始めた。