「…」
「なぁ奏者よ」
「何だよ」
「余に構え」
「悪いが今は書類がかまってちゃんなんだ。
後にしろよ」
「むぅ…!」
当主として書類の仕事をしてる隣で、尊大な態度の少女にそう言われる。
納得のいかない様子の少女が、後ろから抱きついてきた。
「おい」
「ふん、そなたが余に構わない限り、余も離れぬからな!」
「……はぁ、わかった」
俺は書類を横にどけると、少女を抱きとめた。
「ふふん!ようやく余に構う気になったか!」
「はいはい」
「むー!その態度はなんだ!もっとこう……あるだろう?」
「あーはいはい、かわいいよ」
「そうであろう?やはり奏者はわかっておるな!」
少女は嬉しそうに笑うと、さらに強く抱きついてきた。
このかまってちゃんはネロ、ネロ・クラウディウス。
正確にはかの暴君にして古代ローマ5代目皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスの魂を受け継ぐ少女だがな。
自分のことを何でもできる万能の天才と自称し、事実として大抵の事は出来る。
ただ、歌に関しては無自覚で質の悪い音痴だった。
それも兵器レベルで、だ。
与えた駒は騎士で、使う武器の大剣は自ら造り上げたもの、らしい。
こいつと初めて会ったのは、俺の町で暴れていた英雄派のテロリストどもからの勧誘を断り、その報復として襲われていた時だった。
俺はこいつを助けたんだが、その時に俺の見た目があまりにも美しい美青年だとかで、眷属にしてくれないかと迫ってきた。
まあ、もちろん最初は断ったが、俺の眷属に大勢の美少女がいるからと、何が何でも眷属にしてもらうぞと迫られたことにより、根負けした俺はネロを眷属にした。
それからというもの、俺のことを奏者と呼ぶようになり、劇が好きなのか、屋敷の一室を劇場に改装したり、俺の眷属を集めてアイドルユニットを結成させたりと、やりたい放題だ。
おまけに美少年とか美青年だけでなく、女ながら美少女も好きと、両刀使いだ。
まあ、俺も楽しんでるからいいんだけどな。
それに、眷属にした影響か、こいつは強い。
ナルシストでかまってちゃんだが、剣の腕も悪くない。
その刃に纏う、本人曰く情熱の炎を纏ったそれは陽炎を生み、あらゆる物を切り裂き、焼き尽くす。
更に、僧侶の駒を埋め込んだ訳ではないのに、その想像力を魔力に込めて、その場で即席だが劇場を作り出してしまう。
しかもそこに巻き込んだ敵を弱体化させることも可能だ。
「奏者よ、余の頭を撫でるがいいぞ!」
「はいはい」
俺は言われるがままに頭を撫でる。
すると、もっと撫でろとねだるように頭を押し付けてきた。
「ふふふ……幸せであるなぁ……」
俺の膝の上で寝転んでいるネロは、蕩けきった笑みを浮かべる。
正直言ってかわいいなこいつ。
そう思いながら頭を撫で続けていたら、ネロが聞いてきた。
「なぁ奏者よ」
「何だよ」
「今夜、そなたは暇か?」
「まぁ、後は寝るだけだしな」
「う、うむ…、そうか。
いや、そうであるならば、それで良い。
それならば、余の相手をするがいい。
部屋で待っているからな」
「はいはい、わかったわかった」
俺は苦笑しながらも了承した。
そんな俺の様子に、ネロは不満そうに頬を膨らます。
「むー、奏者よ!その返事はなんだ!」
「いやだってお前……俺が断ると思うのか?」
「……そ、それは……」
ネロは恥ずかしそうに俯くと、小さく呟いた。
「……思わぬが……その……やはり男であるそなたから求めて欲しいというかなんというか……」
「はぁ……、わかった。
じゃあ、今夜に余の部屋に来るのだぞ?」
「ああ」
俺がそう言うと、ネロは嬉しそうに笑った。
「うむ!では、待っているからな!」
そう言って、ネロは去っていった。