※この作品はR-18です。

蒼炎のハルファス   作:ガンダムラザーニャ

29 / 41
新しくアンケートを用意しましたので、皆様の一票をお待ちしております。


レイズダンス 前編

『この役立たずが、せっかく私の種子で孕ませてお前を産ませてやったというのに、我ら相伝の魔法が使えないとはどういうことだ!』

 

『ねぇ、何でこの家の魔法が使えないくせに生きてるの?』

 

『あら、最近のお嬢様はお掃除もちゃんとできないの?』

 

『あぁこれ、あなたのお洋服だったの?

 

ゴミと思って雑巾代わりにしちゃったわ』

 

『きゃははは、パンツ丸出しで隠れちゃってみっともなーい!

 

見てよこれ、あなたのスカート、もうズタズタで履けないね!』

 

『おい落ちこぼれ、てめぇは汚物なんだ。

 

汚物は汚物らしく、このトイレの糞でも食ってろよ!』

 

『うわっ、そんなズタボロで家に戻ってきたの?汚らわしいー』

 

『ねぇミィ…、どうしてあなたはいつもそうなの?

 

あなたがそんなんだから、私はこんなにも不幸なのに。

 

少しぐらい、あなたを作ってよかったって、思わせてよ…!』

 

『見ろ役立たず、あれはな?

 

お前の母親だったものだ。

 

何故彼女がこんな汚いものになったかわかるか?

 

お前がクズだからだ、何の役に立たないからだ。

 

だから、あいつは死んだ、お前のせいでな。

 

お前が存在するからあいつは死んだんだよ!』

 

『二度と家名を名乗るな。

 

私たちはお前のことを忘れる。

 

だから、せめてお前はゴミらしく野垂れ死ね』

 

「…っ!!」

 

私ことミィは目を覚ました。

 

「はぁ…はぁ…っ!

 

ま、また、あの夢を」

 

汗が絶え間なく流れ、寝巻きも下着もびっしょりだ。

 

夜中、月明かりが照らす暗闇の中、カレンダーを見る。

 

もうすぐ、私の誕生日だ。

 

でも、私は誕生日を祝ってもらったことがない。

 

レイズの眷属になる前、私はあの家で、役立たずだったから。

 

あの家はレイズが全て焼き払って、もう思い出すことはないと思ったのに、一ヶ月前から誕生日が近づいてきて、あの夢はが私を蝕み始める。

 

「はぁ…」

 

全てが終わっても、過去は消えない。

 

でも、あんな家のことはもう終わったことなんだ。

 

そうは思っても、どうしても不安が拭えなかった。

 

だから、レイズたちには敢えて私の誕生日のことは伝えていない。

 

「はぁ……、体洗ってから寝よ」

 

私は浴室に入って服を脱いでシャワーを浴びて、換えの寝巻きと下着を着てまた布団に潜って、目を閉じた。

 

そして、日が昇り、部下たちと挨拶をするが。

 

「あの、ミィ様?」

 

「何だ?」

 

「その、ここ最近眠れていますか?

 

何やら目の下に隈ができておりますし、髪も少しパサついてるように見えますが」

 

「そ、そうか」

 

部下が手渡してきてくれた手鏡を見れば、私の顔はひどいものだった。

 

目の下には隈ができ、髪も少しボサボサだ。

 

それに心なしかいつもよりも元気がないようにも見えてしまう。

 

「…ふむ、心配を掛けて済まない。

 

だが、私は大丈夫だ」

 

「そう、ですか。

 

ならいいのですが……」

 

私は部下に心配を掛けまいと手鏡を返すが、やはり不安な表情は拭えなかったようだ。

 

だが、それでも私は大丈夫だと言い張るしかない。

 

「さて、今日も仕事だ」

 

そして、仕事に取り掛かるが。

 

「あの、ミィ様、ここの書類、間違っています」

 

「何? どこだ」

 

「ここです。

 

しかも、この書類も間違ってます」

 

「あ、本当だ。

 

すまんな」

 

またも部下に間違いを指摘される。

 

それでも私は大丈夫だと押し通そうとするが。

 

「あのミィ様、今日はもう帰られてはどうですか?」

 

「いや、しかしだな……」

 

「あなた様に何かあったら大変ですし……何より、私共は心配なんです。

 

それに、レイズ様も心配なされます」

 

「っ!」

 

部下のその一言に私は思わず息を飲んでしまった。

 

レイズが……、私を心配してくれる?

 

「そ、それは……」

 

「あとの書類は、私たちで何とかします。

 

だからどうかミィ様、今日はお休みになられてください」

 

「だが、私は……」

 

「お願いします。

 

ミィ様」

 

部下は、私の目を見てそう言った。

 

その目は真剣そのもので、私を案じているのがわかる。

 

「……わかった。

 

お前たちの言葉に甘えさせてもらおう」

 

「はい! あ、でもその前に一度顔を洗われた方がよろしいかと。

 

今のミィ様は酷い顔をしておられますから」

 

「……あぁ、そうだな」

 

部下たちの勧めもあって、私は部屋に戻った。

 

「はぁ…」

 

腕の鎧を外し、マントを掛ける。

 

ボフッとベッドに身を委ね、天井を見上げる。

 

「…何やってるんだろう私」

 

私のことを慕ってくれる部下に心配させて、挙句の果てには仕事を部下に押し付けて。

 

「私、何やってるんだろう」

 

レイズの眷属になったのも私の意思で決めたし、後悔なんてしていない。

 

でも、私はレイズに心配を掛けてばかりいる。

 

「はぁ……っ!」

 

またもため息を吐いてしまうが、それでも私は大丈夫だと言い張ろうとするが、どうしても不安は拭えない。

 

コンコンッ

 

「っ、誰だ」

 

「俺だ、ミィ。

 

入ってもいいか?」

 

ドアをノックされて警戒するが、レイズの声が聞こえたので解いて、マントを羽織りながらドアを開ける。

 

「レイズ…」

 

「聞いたぜ?

 

お前最近寝れてねぇし仕事も禄にできねぇから休むことにしたんだってな」

 

「…ごめんなさい。

 

私が、役立たずなせいで」

 

「てめぇが役立たずなもんかよ。

 

むしろてめぇ程度で役立たずなら、俺も含めて、他の奴らはゴミ以下だ」

 

「っ!」

 

レイズが、私を役立たずと言わない。

 

それに私は驚いた。

 

「で、でも私……、最近寝れてないし、仕事もミスばかりして……」

 

「らしいな。

 

よく見ればお前、随分とひでぇ顔してやがるな。

 

今な、カレンとホムラが飯作ってくれてるから、しばらく安静にしてろよ」

 

「うん……」

 

私はレイズに言われた通り、ベッドに戻って横になる。

 

そしてレイズにしばらく頭を撫でられた後、部屋から出ていくと、入れ替わりでカレンやホムラが食事を持ってきてくれた。

 

それからしばらくして、私のことを心配して杏子やシャナ、ユナ、琴里、銀、リズベット、ネロ、火鉢が来てくれた。

 

そして、みんなが私の頭を撫でてくれて、みんなの言葉に私は安堵の息を吐いた。

 

「私、何やってるんだろう」

 

まだまだ未熟な自分に嫌気が差す。

 

窓の外から光を照らす月を見上げる。

 

あぁ、また誕生日が近づいてしまう。

 

生まれたことに、誰にも祝ってもらえなかった、私の誕生日が。

 

私は、またため息を吐いてしまった。

 

「はぁ……」

 

それからしばらく、私は休暇を貰うことにした。

 

とは言っても、私は眷属になってから、魔法の練習や部下たちの訓練、時々レイズに抱いてもらうことなどしかやってこなかったから、自分の中で趣味と言えるものがなく、ただ何も考えず窓の外を見ているだけだった。

 

窓の外では、私の部下たちが各自で演習をやって、恐らく演習のプログラムを組んだであろうレイズが指揮している。

 

「…」

 

レイズはすごい。

 

流石は当主をやってるだけはある。

 

この立場に立って、あの強さを手に入れるまで、一体どれだけの努力を費やしたのだろう。

 

聞けば、レイズは昔から諦めが悪い性格で、幼い頃から立場を約束され、無理に努力する必要がないにも関わらず、自分の意思で鍛錬を積んできたのだという。

 

それが、今の強さに繋がっているのだ。

 

「私は、レイズの足手纏い、なのかな」

 

私なんかが眷属になって、本当に良かったのだろうか。

 

そんな疑問が頭を過るが、すぐに頭を振ってその考えを捨てる。

 

レイズは、私を眷属にしてくれた。

 

それに、私の過去を聞いても、私を捨てないでくれた。

 

「……」

 

もう寝ようかなと思い、私は布団を被って目を閉じるが、やはり不安が拭えなくて眠れなかった。

 

そんな日が何日も続き、そしてついにその日がやってきた。

 

やってきて、しまった。

 

不安が拭えないが、それでも体調はある程度良くなったので、いつもの身支度をしていると。

 

「ミィおねーちゃん!」

 

「ミィさん、いるー?」

 

そこへ、琴里と銀がドアをノックしてきた。

 

「ん、琴里に銀か。

 

済まないが今着替えてるところだ。

 

少し待ってくれ」

 

私は手早く着替え、ドアを開けると2人がいた。

 

「二人とも、何か用事か?

 

見ての通り、私はもう大丈夫だ。心配を掛けてすまなかったな」

 

「ミィおねーちゃん、良かったー!」

 

「ねぇミィさん、この後暇だったりする?」

 

「むっ、暇というか、今まで休んでいた分部下たちに仕事を任せてしまったから、その謝罪を含めて見舞いに来る部下に顔を合わせようと思っていたんだが……」

 

「あ、それならついてきて!」

 

「アタシたち、今からミィさんをそこに案内しようと思ってたの!」

 

「む、それは一体……」

 

琴里と銀が私の手を引いていく。

 

そして、案内された場所は。

 

「ここは……空き部屋か?」

 

暗くてよく見えないが、まだ使っていない部屋の一つか?

 

「琴里、銀。

 

私をここに連れてきてどうするつもりだ」

 

「いいから、入って入って!」

 

「あ、あぁ……」

 

2人に背中を押されて部屋に入ると、突然部屋が明るくなったので目を瞑る。

 

そして目を開けると。

 

『ミィさん! お誕生日おめでとうございます!!』

 

そこには私の部下や部下たちがいて、私に向かってクラッカーを鳴らしていた。

 

「……え?」

 

突然のことに理解が追い付かない。

 

いや、何で皆、私が言っていない誕生日のことを。

 

「よぉ、お越しいただいてありがとうな!主役!!」

 

「っ! レイズ、これは一体……」

 

私が困惑していると、レイズがやってきた。

 

「おいおい、ここまでやってるのに、そんな風に狼狽えないでよ。

 

今日はミィが主役の、誕生日パーティーなんだから」

 

「た、誕生日、パーティー…?」

 

「お前から誕生日聞いてなかったし、聞いても答えねぇだろうなって、調べてたんだよ。

 

ここに来た時点で、気付いてくれてると思ったんだけどな…」

 

「っ! そ、それは……」

 

私は思わず口ごもってしまう。

 

確かに私は、レイズたちに誕生日を言わなかった、答えなかった。

 

けど、それはっ。

 

「大方、あのクソどものせいで、誕生日を祝ってもらえなかったし、何なら生まれてきたことを否定されたとかだろう。

 

だから、誕生日がトラウマみたいになってたんだ。

 

あのクソどもも家も、俺とお前で焼き尽くしたってのにな」

 

「…っ」

 

そうだ、私は、怖かったんだ。

 

誕生日が来るのが。

 

祝ってもらえず、むしろ生きてることも、生まれてきたことも否定されてきたから。

 

だから、引きずってしまったんだ。

 

そう思っていると、レイズは壇上に上がった。

 

「いっけね、何だか、楽しくなってきた…!

 

どうしたらお前が人前で笑って、幸せでいられるか。

 

お前の誕生日を調べてからずぅぅぅぅぅぅぅっと考えていた!」

 

手を叩き、指を鳴らして、レイズは愉快に踊り始めた。

 

それは狂ったピエロのように、この時をどれだけ待ちわびたかと気持ちを高ぶらせながら。

 

「誕生日も近づいてたし、お前を喜ばせるためにどんな企画でやろうか、悩みに悩んで、毎日カレンたちに相談してたことも知らねぇだろ」

 

そ、そこまで私の誕生日のこと、考えてくれてたんだ…。

 

「最初は、単純なプレゼントでもくれてやろうかって思っていた。

 

安直だが簡単なお祝いってやつはそんな感じだからな。

 

でもユナやネロが盛大にセットとか用意してくれて、俺は!!!

 

お前のことを、盛大に祝ってやりたくなったよ」

 

トレードマークの黒いコートを靡かせながら、レイズは両手を広げる。

 

「お前が誕生日が近づく度に体調を崩して仕事を休んだって聞いた時は肝を冷やした!

 

だからその間、お前の部下たちには演習も兼ねてパーティーの準備をさせていた!」

 

そして、レイズは私の方に振り返って。

 

「まぁそれはそうと、だ。

 

お前はあの家のせいで誕生日も祝ってもらえなくて、さぞや苦しい思いをしてきただろう」

 

その黒髪から覗く水色の瞳は、私を捉えて離さない。

 

「生まれてきたことを拒否されて、いじめられたのは苦痛だったろう!?

 

俺の眷属になっても尚それを気にして誕生日を言わないでおけばもう苦しむことはないと思っていただろう!?

 

眷属として仕えていれば自分はそれで満足だと言い聞かせていただろう!?

 

知らねぇようだから教えてやるよっ!!!」

 

カッ カッと、ブーツを鳴らし、私を見下ろして。

 

「お前がこの世に生まれたという、過去は消えない」

 

「っ!!」

 

「THE!!!ハッピーバースデーだぜ!!!

 

さぁ一緒に踊ろう、俺たちと一緒に誕生日パーティーを楽しもうぜ!?

 

なぁ、ミィッ!!!」

 

「っ!!」

 

今まで、私に向けられることがなかった。

 

私が、一番欲しかった言葉を、レイズが言ってくれた。

 

しかも、それに合わせるように、周りは祝の歌を歌ってくれる。

 

『Happy Birthday to you

 

♪ Happy Birthday to you

 

♪ Happy Birthday dear Mie~

 

♪ Happy Birthday to you』

 

「っ! あ、あぁ……!」

 

その歌を聞いて、私は涙が止まらない。

 

「う、うぅ……! わぁぁぁっ!!」

 

もう駄目だ。我慢できなかった。

 

今まで誰にも祝ってもらえなかったから、今が幸せで仕方ないんだ!!

 

「あぁぁんっ! ああぁぁぁぁっ!!」

 

嬉しいのに、悲しい訳でもないのに涙が出る。

 

どうしてだろう。でも……、とても懐かしくて暖かい感じがする。

 

「ミィ」

 

そんな私に、レイズは手を差し伸べてくれる。

 

「生まれてきてくれて、俺たちと出会ってくれてありがとう。

 

そして、誕生日おめでとう」

 

「う、うぅ……っ! うわぁぁんっ!!」

 

私はもう我慢の限界で、レイズの手を取る。

 

もう涙は止まらないし、鼻水も出てしまったけど。

 

そんな私を、みんなは祝ってくれて、一緒に歌ってくれたり踊ったりしてくれた。

 

その日の内に、皆で大きなバースデーケーキを食べた。

 

甘くて、とても美味しいケーキだった。

 

可愛らしい服を、みんなに着せてもらって。

 

可愛らしいくまさんのぬいぐるみとか、お化粧品、香水とかをいっぱい貰った。

 

遊園地にも連れて行ってもらって、そこでもたくさん遊んだ。

 

本当に、夢のような時間だった。

 

そして、みんなが寝静まった深夜、私は一人、屋敷の廊下の窓から、月を見上げていた。

 

「…」

 

「よぉ、その様子だと随分と楽しめたようだな」

 

「レイズ…」

 

「何しけた面してんだよ」

 

レイズは私の隣に立って、一緒に月を見上げてくれる。

 

その横顔をよく見ると、少し疲れていた。きっと私の為にあの後寝ずに仕事したんだと思う。

 

そう思うと、嬉しい反面申し訳なくて胸が締め付けられるような感覚になる。

 

そんな私に気付いたのか、レイズは私の方を見て。

 

「ミィ」

 

「えっ?」

 

突然頭をポンポンと撫でられた。

 

一瞬何をされたかわからなかったけど……。

 

「……あ」

 

「改めて、誕生日おめでとう」

 

「…うん、ありがとうレイズ。

 

こんなにしてくれて」

 

今日は本当に楽しかった。

 

今まで、私にとって誕生日は、誰にも祝われず、暴力を振るわれ、罵倒され、生まれてきたことすら否定される、そんな悲しくて、苦しくて、虚しい日だったから。

 

だから、今日が夢のように楽しかったし嬉しかった。

 

まるで、灰色がかった世界が、祝福の光と花束で溢れ返ったかのように。

 

「今日のパーティー、すごく楽しかった」

 

「そうか、そいつは良かった」

 

「……ねぇ、レイズ。

 

この後、あなたの部屋に、お邪魔しても、良いかな?

 

その、レイズがプレゼントしてくれたものも、着心地とか、知っておきたいし」

 

「良いぜ、ダンスの申し出もしてたしな」

 

「うん、ありがとう」

 

そして私たちは、一旦別れて部屋に戻った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。