俺は今、ある経営者がいる家に来ている。
何でも一流の経営者の一族の長なんだとよ。
へっ、エリート様々だぜ。
「お待たせしてすまないねぇ、レイズ様」
そこへやってきたのは、ヨボヨボとは言わねぇがそれなりに年食った爺だ。
「そこまで待ってねぇよ。
けど珍しいな、てめぇみてぇな人間が、俺を名指しで呼び出すとはな」
「いや滅相もない、儂らもこの街も、レイズ様に守られておりますが故に」
「俺の領土にあるもんだからな。
で?わざわざそんなこと言うために俺を呼んだのか?」
「いえいえ。
本日お越しくださったのには、頼みがありまして」
「頼み?」
「はい、一つはこれを。
儂の孫娘に、渡して欲しいんです」
と、アタッシュケースを渡された。
中身はわからんが、気配で何となく分かる。
「おい、これは人工神器の類じゃねぇか」
「はい、儂はこうして経営している傍ら、神の子を見張る者とも交流がありまして、孫娘のためにと、用意していただいたのです。
何分儂の孫娘はまだ15で、学校に通わずに不自由なく過ごしておりますが、他の者は納得しないので」
爺はそう言うと1枚の写真を取り出した。
いかにもな美少女ってやつだな。
「こいつがてめぇの孫娘か?」
「はい、ユナです。
ウチのドラ息子とそれにたかるようについてきた女との間に生まれた娘ではありますが、儂にとっては商才の優れた可愛い孫娘なんです」
「成る程、つまりは俺はこいつの護衛をすれば良いってことだな」
「いえ、そうではなく」
と、頭を深々と下げると。
「お願いです、孫娘を、ユナを、眷属としてお側に置いてはいただけないでしょうか?」
「眷属? こいつを俺の眷属にしろってことか?」
「はい」
「理由はなんだ? てめぇの孫娘なら、てめぇが守れば良いだろ。
俺も眷属は探してはいるが、てめぇの孫娘の面倒が見きれないからとかで眷属にするつもりはねぇぞ」
「確かにそうかもしれません。
儂も、いつでもあの子に肩身の狭い思いをさせたくはありません。
ですがご覧の通り、儂も老い先短い。
今は儂の庇護下にありますが、儂が死んだ後、あの子が他の息子たちに何をされるのかと」
「…さっきから気になってたんだが、てめぇの孫娘、随分と他の家族に嫌われてるご様子だな?
何かやらかしたのか」
「いえ、あの子は何も悪くはありません。
悪いのは、ドラ息子と玉の輿でついてきた女と、儂の不手際です」
「ほぉ?」
それから爺は話を続ける。
何でも爺の子どもは三人兄弟で、ユナの父親はその末っ子で出来の悪いドラ息子で、母親はそんな野郎に玉の輿目当てで近づいた悪女で、ユナが生まれたのだって、こいつらからすれば『とりあえず一人は作っておこう』って感じのノリで産んだらしい。
それに、元々両親がそういう奴らだったから、他の伯父伯母と従兄弟から、一緒に嫌われていたらしい。
んで、今目の前にいる爺だけはユナの味方として、自分たちの楽しいことしかしねぇクズ親共に代わって愛情を注いで育てたが、それが他の奴らの不興を買ってしまったらしく、今でも爺の立場が悪いとか。
最近では、ユナを始末するために、はぐれ悪魔を雇おうとしてるらしく、爺がそれを阻止している状況らしい。
「成る程、それでこの人工神器をユナに渡せば自分自身を守れる力を持てるし、俺の眷属になる口実になるってわけか。
そもそも、俺の眷属になれば俺という後ろ盾ができるから、周りも迂闊にユナに手を出せないと」
「はい、お願いします」
「…」
確かに、爺が言うなら、それもありかもしれねぇ。
ユナに人工神器を渡せばはぐれ悪魔ともやり合えるし、眷属にすればその力をより強くすることができる。
あとは、ユナがそういうのをすんなりと受け入れるかだがな。
「良いぜ、その話、乗ってやる。
だが、これを受け取るのも、俺の眷属になるかどうかも、最終的にはユナが決めることだから、そのあたりは覚えておけよ」
「ありがとうございます、レイズ様」
「で?ユナはどこに住んでるんだ?
この様子だとここにはいねぇんだろ」
「はい、ユナは」
聞こうとした直後、近くのいかにもなハイテクマンションの一室が爆破した。
「あ?どこかのはぐれ悪魔の仕業か?」
「ゆ、ユナぁ!!」
爆破したマンションの一室を見るなり動揺を隠せずにいる爺。
察するにあそこにユナがいるみてぇだな。
「…ちっ、面倒なことになったな。
早速だが行ってくるぜ」
悪魔としての翼を展開し、足から蒼い炎による噴射で、一気に加速する。
その勢いでマンションの部屋に突っ込み、衝撃を殺すように着地した。
「おうおう、これは派手にやってるな」
部屋は既にめちゃくちゃだ、家具とかが散乱してやがる。
奥では複数のはぐれ悪魔どもに囲まれた少女がいた。
恐らく、ユナの親族が雇ったはぐれ悪魔だろうな。
「な、何者だ!」
「てめぇこそ人様の領土で何つまんねぇことしてんだよ」
突っかかってきた一匹の頭を掴んで焼き尽くす。
瞬く間に蒼い炎に包まれたそいつは床に倒れる間もなく塵となって消えた。
「なっ!?」
「失せろ」
他のはぐれ悪魔どもを触れただけで焼き尽くす。
あっという間に、塵となり消えていった。
「これで全部か」
俺は少女に目を向けると、呆然としているようで口をポカンと開けていた。
「よぉ、大丈夫か?」
「あ、うん、ありがとう……」
「気にすんな。で?お前が爺が言ってたユナだな」
「う、うん、そうだけど…。
何で、私の名前を、それに爺って?」
「俺はレイズ、レイズ・ハルファス。
爺、もといてめぇのじいちゃんからの依頼で、お前にこれを渡すのと、眷属にしにきた」
「お、おじいちゃんが?」
「まぁとりあえず、ここいらの直してやるから、その後で話そう」
壊れた家具や部屋、窓ガラスなどを蒼い炎を使って直す。
俺の炎はただ相手を焼き尽くすだけじゃなく、怪我の治療とか物の修理ができるからな。
その間ユナはユナで、燃えてるのに直っていく自分の部屋に思わずポカンとしてたが、まぁどうでもいい。
そうして、部屋を全部元通りにしてから、話をした。
爺からの依頼も、老い先短い爺の代わりにユナを守ることも、それから親族がユナを始末するためにはぐれ悪魔を雇っていたこと、全部だ。
ユナはそれを黙ったまま聞いてた。
「……と、まぁ話はこんなところだ」
「そう……なんだ……」
ユナはポロポロと涙を流す。
「いや、まぁ?
私だって、おじいちゃん以外の家族からは嫌われてるのは知ってたよ?
親もあんなんだし。
だから手切れ金で親に一億渡してここに引っ越したけど、さ?
でも、まさかあんなはぐれ悪魔とか差し向けられるくらい嫌われてたなんて、知らなかったな。
あはは」
ユナは自嘲気味に笑ってやがる。
まぁ、こいつは家族の中で孤立してたし、何となく自覚はあってもこうも突きつけられたらそりゃこらえるか。
「…で?
お前はどうしたい?
このままこの家に閉じこもるのも良いが、またはぐれ悪魔を差し向けられるかもしれねぇし、あるいはこれっきりかもしれねぇ。
何ならてめぇを殺そうとした親族に復讐するのもありだ、俺も手伝ってやる。
それ以外でもてめぇのやりたいことをすればいい。
俺の眷属になるのも自由だ」
そう言ってユナに人工神器の入ったアタッシュケースを突きつける。
「私は……」
少し考えるように、俺とアタッシュケースを見る。
「…なるよ、眷属に。
それがおじいちゃんからの頼みでもあるんでしょ?」
「そうか」
「でも、だからって伯父さんたちに復讐しようなんて、思わない」
「ほぉ?それは何でだ。
てめぇの家を荒らしたはぐれ悪魔をけしかけたんだぞ?」
「それはそうだけど。
だからって、復讐なんてしたら、それこそ伯父さんたちと同じ立場になっちゃうし。
それにね」
「あん?」
ユナは真っ直ぐ俺を見る。
「おじいちゃんが私の為に頼んだんでしょ?
なら、私はそれに従うよ」
「そうか」
俺は改めてアタッシュケースをそのままユナに渡す。
こいつが決めたことだ、これ以上俺が口を挟む必要はねぇ。
受け取ったユナはどこかスッキリした顔をしていた。
「で、これがおじいちゃんが用意した人工神器。
中、開けてみていい?」
「良いぜ、好きにしろ」
ユナがアタッシュケースの中身を開ける。
すると、中からとてつもない光が放たれた。
「っ!眩し」
思わず目を閉じるが、光が止む気配はない。
しばらくして光が収まり目を開けると、アタッシュケースの中にあったはずの人工神器が無くなっていた。
「あれ?」
代わりにユナのそんな声が聞こえたので目を向けると、格好が変わっていた。
一言で言うなら熊だ。
熊さんの着ぐるみを着ている状態だ。
ご丁寧に両手には白と黒の熊のパペットが嵌められてて、足も白と黒の熊の靴が嵌められている。
「え、えぇ?何これ?」
本人も困惑してるようだし、俺も何が何だかさっぱりだ。
「えっ、何で?
ちょっと待って、これ、く、熊?
何か熊の着ぐるみを着させられてるんだけど」
「それが、爺がてめぇに用意した人工神器ってところか」
「え、えぇ?嘘でしょ。
確かに小さい時は熊のぬいぐるみとか置いたりとかはしてたけど、えぇ…」
まさかのくまさんセットに困惑が隠せないユナ。
だが、気配からしてただのくまさんセットじゃないのは確かだ。
「まぁそれが人工神器として用意されたのも、何かの縁ってやつだな。
よろしくな、ユナ」
「あ、うん、よろしくレイズさん」
こうして、ユナは俺の眷属となった。
あとでわかったことだが、あのくまさんセットはユナが着ることで身体能力が上がるらしく、防御力も高い。
それだけでなく、熊をイメージすれば火の魔法を始めとするどんな魔法の威力も上がるとか。
また、着ぐるみ自体はリバーシブルで、裏返せば白くまとなって、魔力回復ができるらしい。
それに、これはユナにしか使えないようになってるらしく、相手は奪うことも破くこともできないようになってるらしい。
ユナを眷属にしてから、俺が後ろ盾になったことで襲われることはなくなったが、俺は念を入れて、親族に今回はユナに免じるが次手を上げたら、タダじゃおかねぇからなと釘を差しておいた。