「ミィ様!はぐれ悪魔を一箇所に集まるように誘導しました」
「よし、後は任せろ。
───爆炎!!」
噴き上がる炎が、はぐれ悪魔どもを一匹残らず焼き尽くす。
それに、こいつの正確で的確な指揮と判断能力も中々のものだ。
恐らく俺の眷属の中でもすごいカリスマ性を有している。
「ミィ様、魔力ポーションです」
「ありがとう。
…作戦終了だ、総員帰還せよ!」
『イエス・マイ・ロード!!』
掛け声一つで、足並み乱れず一斉に帰還を始める部下達。
その後ろ姿は、まさに軍隊だ。
「よぉ、任せてたはぐれ悪魔の掃討ご苦労だったな、ミィ」
「レイズか。
何、このくらい大したことはないさ。
私もレイズの眷属である手前、このくらいはしなくてはな」
「そうか。
なら、そんなミィにはあとでご褒美をやらないとな」
「ご、ご褒美?」
「あぁ。
ちゃんと部下たちを帰らせたらな」
「う、うむ、そうだな。
ではそうしよう」
そう言ってあいつは部下たちを連れて帰った。
ミィは俺の眷属だ。
駒は僧侶。
俺には遠く及ばないが火力は高く、そして統率能力とカリスマ性に長けている。
だから、俺の眷属の中でもあいつには一目置いている。
人前ではあぁやって凛とした佇まいだが、根はかなりのポンコツだ。
それもこれも、眷属になる前に受けた仕打ちから来てるがな。
…忘れもしねぇ、あれは俺とあいつが初めて出会い、そしてあいつが眷属になった時のことを。
あれはそうだな。
雪が降るくらい寒い冬のことだ。
俺の街ではぐれ悪魔が暴れてねぇかパトロールしてたんだ。
この時はカレンもシャナもそれぞれ別のルートでパトロールしていたから俺一人だった。
そんな時、ふと公園から気配がしたんで入ってみると、ドームの中に誰がいるのが見えた。
それがミィだった。
当時のあいつは、見る者全てに怯えた表情をしてて、寒い中ズタボロになって服としての機能なんざ皆無な布切れを纏って、手袋どころか靴も履いてねぇから、指先が悴んでやがった。
そんな状態で惨めに座り込んで、風呂にも入れてねぇのか全体的にボロボロで赤い髪もボサボサだ。
碌に飯も食えてねぇからか、全体的に痩せこけてたし、手にはカビだらけのパンを持ってて、それを口に運んでもそもそ食ってる。
その様はまるで奴隷か物乞いだ。
「おいお前、そんなところで何してやがる」
「ひいっ!?
ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
ゆ、ゆるしてください、もっとちゃんとがんばりますからっ、おねがいだからなぐらないで、しからないでっ!!」
俺の姿を見るや否や、あいつは盛大にビビって腰を抜かして失禁しちまった。
「お、おい! 何もしねぇから落ち着け!」
「ひいっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!! ゆ、ゆるしてください、ちゃんとがんばりますからっ!!」
俺が宥めようとするも効果はなく、むしろ逆効果だ。
「だから落ち着けっての! ……ったく」
そんなあいつを俺は強引に立たせて抱き抱えた。
「えっ?」
「お前、このまま外にいたら凍え死ぬぞ? だから俺の家に来い」
「い、家?」
俺がそう言うとあいつは不思議そうな声でそう返してきた。
「そうだ。
お前も見た通り、俺もこの街に住んでてな。
あそこにある屋敷が俺ん家だ」
俺はそう言ってあいつの視界に見えるように指差した。
その方向には俺が住んでる屋敷がある。
「どうする? 行く当てもないんだろ?」
「……はい」
俺はカレンたちに連絡して風呂を沸かしてもらうことにした。
そして、屋敷に着くまで、彼女に俺の服を羽織らせて、お姫様抱っこしながら、彼女を焼いてしまわない程度の炎で温める。
「あ、あたたかい…」
ポロポロと、大粒の涙を流すミィ。
寒さに震えてた痩せこけた体も、少しは温まったみたいだ。
それから、屋敷についてからカレンたちに体を洗ってもらい、俺の服も新調した。
そして、風呂から上がって、体を温めたあと、俺は彼女に飯を食わせた。
「ほら、食えよ」
「あ、ありがとう、ございます……」
彼女はおずおずといった様子で俺が差し出したスープとパンを口に運ぶ。
「どうだ?」
「……おいしい」
「そうか。そりゃよかったぜ」
そう言ってどんどん口に運ぶミィ。
余程腹が減ってるからなのかわからねぇが、食い方が汚く、口からポロポロとこぼしたり、頰に付いたりしてる。
それどころか、食っていく内にポロポロと大粒の涙を零し始めた。
「おいおい、泣くなよ」
「ひぐっ、ごめんなさいっ!
今までっ、こんな美味しいご飯、食べたことがなくて、ずっとっ、餌みたいなのしか、食べてなかったからっ」
「あぁもう。
ほら、これで拭けよ」
そう言って俺はタオルを渡した。
「……ありがとう、ございます」
彼女はそれで涙を拭いたあと、再び食事に戻った。
それから、俺たちは飯を食い終わったあと、話を聞いた。
名前はもちろんのこと、何で公園にいたのか、あそこに来るまでに何があったのか、と。
ミィは、優秀な魔法使いを輩出してきた魔法使いの家系の娘だが、その家に由来する魔法を習得できなかったことから、家族から虐待を、周りからいじめを受けていた。
スパルタな教育を受けていたらしく、一つでも上手く出来なかったら、1週間以上は牢獄に入れられて飯抜きなんてざらだったそうだ。
おまけに才能がないからと、見下されて、事あるごとに土下座を強要されては服を破かれたり、髪を引っ張られたり、殴られたり蹴られたり、ひどいときには糞尿が溜まった便器に顔を突っ込まれたりしていた。
そしてある日、二度と家名を名乗んなと、荷物もなしに捨てられた。
服もボロキレだけで、飯買う金すらもねぇ。
だから、ゴミを漁ったりしてまだ食えそうなもんを食ってたんだという。
そして、寒くなってたまたま近くにあったから、公園のドームで寒さをしのごうとしたそうだ。
それを聞いたカレンとシャナとユナは怒りを覚えて、拳を握っていた。
俺に関しては怒り通り越して呆れていたが。
人間にはいい奴も悪いやつもいるとは聞くが、ここまでひでぇやつが世の中にいるんだなと。
むしろ清々しい気分だ。
それに加えて、その家のことを調べてみたら、これはまたひでぇもんだ。
優秀な魔法使いを輩出してるのは本当だが、それはあくまでその家由来の魔法を使えるやつだけだったこと。
それがどれだけすごい魔法が使えるやつでもだ。
だからそいつのことは人間として見れないとかで、ミィみたいに虐待やいじめをしてきたんだという。
それ以前に、あの家に嫁として招かれた女は、優秀な子どもが産まれるまで無理矢理産まされ続け、優秀な子どもができなければそいつは殴られ蹴られて、挙句の果てにはお前なんか女の価値なんざないと、麻酔もなしに割れ目を抉られ子宮を抉り出されて中にいる胎児をほじくり出され目の前で踏み潰されて、髪もどれだけ長くて綺麗なものでも丸刈りにされて顔も容赦なく抉られ、胸も切り落とされて、最後に首を絞められて殺されるんだと。
しかもその死体も、火葬されるとか墓に埋葬されるとかではなく、ミンチにされた上に豚や牛などの糞尿と一緒に混ぜ込まれて、畑の肥やしにされるんだと。
そんでそいつのことは最初からいなかったように扱われて、記憶の片隅にすら残らないように忘れ去られてしまう。
…調べただけで、ここまでひでぇことすんだな、あいつら。
まぁ、あんなやつらは視界に入れたくねぇし、今すぐにでも焼き尽くしてやりてぇところだが、まずはミィからだと、ミィについて、できることを調べた。
俺と同じく、炎系の魔法が使えるのがわかった。
だが、あんな家じゃその魔法を使うよりも家由来の魔法を使えるようにと、スパルタ教育をされていたから、炎系の魔法の使い方を練習することも努力する機会すら与えられてなかったんだと。
だから、俺はミィにその炎系の魔法の使い方を練習させた。
その結果、少しずつだが使えるようになった。
それからというもの、練習をさせ続けると、ミィにはそういう才能があったのか、あっという間に使いこなし、魔力も一気に上がった。
更には、指揮や統制、作戦立案などの頭脳労働にも優れていて、俺の眷属の中でもかなり上位に位置する知性と実力を兼ね備えたやつになった。
これだけ優れたやつなんだから、すぐに眷属にしてやっても良いが、あの家の件もあるんだ。
そこで、俺はミィを呼び出し、全てを話した上で、自分たちはあの家を潰すがお前はどうするかと聞いた。
ミィも、家に碌な思い出はないけどまさかここまでひどいとは思いもしなかったのか、その悍ましさに吐きそうにしながらも、少し考えたいと言って自分の部屋に戻った。
そして夜。
水を飲んで、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、寝巻き姿のミィが窓から夜空を見上げていた。
「よぉ、眠れねぇのか」
「レイズ…。
うん、家のことを思い出して、ちょっとね」
「そうか」
何も聞かず俺は隣にいる。
「私ね、今すごく幸せなんだって、思う。
あんな家じゃ、こんなこと絶対にありえなかったもん」
「そうか」
「だから、あの家のことは許せない。
それが、私みたいな犠牲者がいることや、優秀な子を産むためだけに使い捨てられる女の人たちがいるなら、尚更。
…だけど」
「あ?」
そう言うとミィは肩を抱き、震える体を無理矢理抑え込む。
「い、今でも怖いんだっ。
あの家のことがっ、すごくっ。
生まれてからずっと、あの家でっ、あんなことされてきてっ。
レイズたちに鍛えてもらって、強くなったけど、それでも」
「…そうか」
トラウマ故か、目に涙を溜めるミィの頭を優しく撫でる。
「お前があそこでひでぇ目にあったのはもう聞いてる。
だからさ、一つ聞かせてくれよ。
てめぇはあの家をどうしたい?
潰すか、潰さねぇのか」
「で、でも、私は」
「ぐだぐだ言うなよ。
…知ってるか?
誰が泣こうが笑おうが、明日は平等にやってくる。
それなら、笑ったもん勝ちだ」
俺はミィに駒を差し出す。
僧侶の駒だ。
「笑おうぜ、ミィ。
人は、笑うために生きているんだからな」
「……そうだね。
うん、わかった。
私はあの家を潰すよ」
「ふっ、いいね。
覚悟の決まったその目は」
ミィの覚悟を決めた目を見た俺は、駒をミィに埋め込み、眷属にした。
そして、翌日決行した。
ある程度家の見取りを知ってたミィの情報と統率、それから俺たちの戦闘力も相まって、自分が絶対に有利だと思い込んでるクソどもをしばき倒して捕縛し、無理矢理子作りさせられてた女や魔術を使えないからと閉じ込められていた子どもたちを救出した。
「ぐっ、貴様っ、まさかハルファス家のっ」
「そうだがそれがどうした?
つーか、用があるのはてめぇの娘なんだぜ?」
「…」
縛り上げたミィの父親と思しき当主に、ミィと顔を合わせる。
「…お久しぶりです、お父様」
「貴様ぁっ!
育ててやった恩を忘れたのか、この恥知らずめっ!」
「育ててやった、ですか。
私は物心ついたときからあの家でひどい扱いを受けていました。
毎日、罵詈雑言を浴びせられながら鞭で打たれたり、食事もろくに与えられず水すら貰えない日もよくありました。
あげくのはてには便所に顔を突っ込まれたりしましたが、それが恩だと?」
「そっ、そうだ!」
ミィの言葉に唾を撒き散らしながら肯定する父親。
そんな父親を冷めた目で睨みつつ、続けるミィ。
「それに私みたいなあなたたちの魔法が使えないならという理由で多くの子どもを虐待した上でいじめも黙認し、嫁として招いた女性たちに無理矢理子どもを産ませ、できなければ女性としての象徴全てを踏み躙って抉り出して殺して、畑の肥やしにする。
その家のことを……あなたは育ててやったと?」
「そっ、それがなんだ! 家は私のものだ! 私がどうしようが私の勝手だろう!」
ミィの言葉に逆上する父親。
そんな父親を冷たい目で見つつ、ミィは一枚の紙を手渡した。
それは絶縁状だ。
「あの時は一方的に捨てられたのでできませんでしたが、あなたたちのような外道なんて、こっちから願い下げです。
お父様、さようなら」
絶縁状を受け取った父親は激昂した。
「貴様ぁっ! 親に刃向かうのか!」
そんな激昂を物ともせず、見苦しいとばかりに背を向けるミィに代わりに俺が蹴飛ばす。
「ぐはぁっ!!」
「おいおい、汚え唾吐きながら騒ぐんじゃねぇよ。
そもそもこれはてめぇらが始めたことだろ?」
「ひぃっ!!」
手から蒼い炎を灯しながら見下ろす。
先程までの激昂した表情はどこに消えたのか、恐怖に怯える表情へと変貌していた。
「知ってるか?
過去は消えないって。
The自業自得って奴だぜ。
まぁ、てめぇらは跡形もなく燃やし尽くしてやるから安心しな」
「まっ、待ってくれ! わかった! 金ならいくらでもやるし、爵位もくれてやる! だから許してくれ!!」
俺の言葉に慌てて命乞いをする父親。
そんな父親に俺は言う。
「あぁ? 爵位とかもいらねぇし舐めてんのか?
俺はこの街の当主なんだぜ?
許すわけねぇだろ。
てめぇらみたいな屑は、地獄で永遠に炎で焼かれながら無様に踊り狂ってりゃいいんだよ」
「レイズ、ここは私もやる」
「ふっ」
蒼と赤の炎が激しく燃える。
父親はもはや命乞いすることもできず、ただただガタガタと体を震わせていた。
「ひぃっ、あっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「じゃあなぁ」
俺とミィの炎がぶつかり合い、父親は骨一つ残らずに燃え尽きた。
それから他のやつも同じように焼き尽くしてやった。
後に子どもたちは孤児院に入り、無理矢理子作りさせられてた女たちはメンタルケアのために病院に入れた。
そして。
「…」
残った家を、俺は見つめる。
「レイズ?」
「ここでは大勢のやつが死んだ。
しかも中には死体を肥やしの材料にして畑にばら撒かれたりしたんだ」
「……」
俺の言葉に、ミィは顔を曇らせる。
だがな、と俺は続ける。
「ここはお前の家だったんだ。
お前がどうしたいか決めろ」
「……私は、もう、あんな思いしたくないし、させたくない」
「そうか」
俺の蒼い炎が、家全体を焼き尽くす。
家だけじゃない。
畑も、肥やしも、牢獄も、全部。
灰も残さず焼き尽くす。
「…」
ミィは、その光景をただ見ていた。
すると、ミィは俺の腕に静かに抱き着く。
「…優しいんだね、レイズは」
「あ? 別にそんなんじゃねぇよ。
ただ、あんな胸くそ悪いもんは見たくなかっただけだ」
「……そっか」
ミィはそれ以上何も言わず、ただ俺の腕に抱きついていた。
それからしばらくして、俺たちは屋敷へと帰った。
これが、俺とミィとの出会いと眷属になってからの話だ。