既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント:コンプリート
この世からスギ花粉なんて消えてしまえばいいのに
※久し振りに連続更新なんてものをしてしまったので、昨日分を読んでない人は注意して下さい。
「独り占めしたくても俺の胃じゃそんなに入らないかも知れないけどさ、でもこの美味さだとそう考えたくもなると思わない?」
「気持ちは分かるけどよ、流石にあの笑顔で不味いはねぇよ」
「うん、欠片ほども信じられなかったね。しかし、生で魚を食べる事にちょっと引いてたけれど……コレは美味いね!」
バカ相手に愚痴りながらも鮪を捌く、一華が作ってくれた酢飯を椀に盛りその上に胡瓜と切り身を乗せたマグロ丼をスプーンでおじさん共々美味そうに食ってくれていて見ていて幸せになる。
このマグロ丼、切り身と言っても部位や厚みだけでなく炙った物も一緒に乗せている。用意した炭で表面が溶けた脂で青く反射する程度の炙り方だが、脂がそれだけでも旨味の形を変えるのでコレはコレで陽出組にも好評だ。所謂ステーキの焼き方のブルーを鮪で試した物だが、調理方法の応用は幾らでも味を広げてくれるから楽しいな。
フグの刺身が如く向こう側が透けそうな薄さで切り分け、それを巻いて薔薇の造花を作ってみた。11個作ったソレをエテルの食べるものに添えて出したら顔を真っ赤にした、そのままもう一つ乗せれば肩を叩かれた。この照れ顔はプライスレスだな。
四葩と一華には9個作って乗せて渡した、エテルより少ない事で多少の不満も出たがダリアがこっそりと二人に耳打ちしたら納得の表情と共に笑顔を見せてくれた。うん、薔薇の本数での意味とか流石に文化圏違えば伝わり難いよな。まぁ、あえてそうしてたんだけど。
俺は厚切りにした鮪の切り身を網焼きにして表面に焼目が付いたら切り分ける、生姜醤油と大蒜醤油を添えて置いたら酒飲み達が次の瞬間には持っていってしまった。其々が肴をシェアしつつ酒を楽しんで居る、笑顔なのを見れば美味いのは分かるが……どんな味かを雛菊さん並に食レポしてくれないものだろうか?
尚、その雛菊さんは美味さがオーバーフローしたらしく無言で次々にメニューを喰い終えて居る。流石のバカもその状態の雛菊さんに話し掛けるのは控えたらしく、少し悲しそうに俺の所に来て食っている。時々俺の分を確保して、適当に口へ放り込んでくれるので俺も食を楽しめて嬉しい。
またも厚切りにした鮪を今度は鉄板で焼く、オリーブオイルとバターを使って風味を追加して鮪を焼けばステーキの完成だ。コレはクロードが持っていった、口に一切れ含んだ瞬間に美味いと叫ぼうとして味が逃げるかもと慌てて口を手で塞いだのを見て思わずガッツポーズをしてしまった。
ちびっ子達向けには鮪を包丁2本で挽いて玉葱と一緒に形成して小麦粉卵パン粉をまぶして揚げるマグロのメンチカツを作って食べさせてやる、揚げたて熱々なので気を付けるように言ったらそのまま齧り付いて悲鳴を上げさせてしまった。その姿に慌てたのだが、三人は熱い熱い美味しい熱いとどんどんパクついていく。俺も一つ小さいものを作って口にすると、魚とは思えない旨味を含んだ肉と玉葱の甘味が混然一体となって口を満たす事に目を見開く。コレはこのままタネを焼いてハンバークにするのも有りかも知れない。
更にはメンチカツではなく普通のまぐろカツなんかを作っても美味いのではと思い早速塩と胡椒を振った鮪に小麦粉と卵、パン粉をまぶして揚げる。ビーフカツ程に肉の重厚さは無いが、あっさりと噛み切れる柔らかさと牛や豚とも違う脂の旨味にサラダ油の芳醇な香りも手伝って驚く程に美味い。衣のザクリと言った感触と、火を通した鮪の身の柔らかさは相性が良い。ちびっ子達が羨ましそうに見てきたので、串カツを作って渡してやればコレも好評だった。
鮪の中落ちやすき身を叩いた物に玉葱を混ぜ、その上に卵黄を乗せたネギトロを作成。バカの丼に酢飯のお代わりと共に乗せてやる。バカはネギトロと酢飯から始まり、卵黄を崩して味わった後に山葵醤油を掛けて味変を楽しみながら食っていく。
そうそう、この山葵は洗ってから水気を拭いて皮ごと摩り下ろした物を使用している。粗めに摩り下ろした為に細かい身が残っているが、それがアクセントとなってコレまた美味い。鼻を抜けるような辛さは有るが辛すぎず、香り高い。この世界の本山葵が現実のそれと一緒では無いかも知れないが、この風味を知れば本山葵が高級品になるのも納得だ。
そんな風に料理を作っている中で、背骨等の粗はエテルのビーフシチューとは別に圧力鍋を作り纏めて放り込んで加圧中だ。背骨は包丁が特に抵抗もなくぶった切れたし、小骨は砕いてから圧力鍋へ入れたので加圧と減圧込みで1時間半もすれば立派な鮪出汁の完成だろう、其処に野菜を入れて軽く煮込み味噌を加えれば立派な味噌汁の出来上がりだ。赤味噌1に対して白味噌は2と言った具合にしようと思う。赤味噌で鮪の魚臭さを消しつつ白味噌でやんわりと味噌の風味を柔らかく出来る筈だ。
と、そんな事を考えているとタイマーが鳴る。俺は仮設の大釜へ向かいその戸を開くと、中から蒸気と共に鮪と複数のスパイスの匂いが広がった。本来は塩だけでも十分なのだが、此処はクラフターの都市『ワールウィンド』だ。其々の家庭で拘り配合のスパイスが存在している為、当然俺の家にも有る。カラー家一同、そして当主代行とお義母さんの猛烈なプッシュも有りそのスパイスを使って兜焼きを作ったのである。
鮪だけでも旨味がほぼ完成して居るので、本来なら塩だけで十分。其処に自家製配合のスパイスを追加したら下手すれば旨味を殺してしまいかねない。なので、用意するスパイスは匂いと味の主張が尖り過ぎない物、または尖っていても少量だけ使う。
使ったスパイスはカレーによく使われる物にしたが、あまり香り立たせずに少量で臭みを無くす程度。味は脂と反応して旨味成分に変わるような物が主だが、鮪特有の旨味を殺してしまいかねないのが心配だ。
取り出された鮪の兜焼き、熱が通り白濁化した魚の眼は独特な不気味さが有りちびっ子達が悲鳴を上げて近くの大人の後ろに隠れる。サニーちゃんがタチアの背中に隠れていて、騎士様に対して信頼を寄せているのが見て取れた。タチアの顔も満足そうである。さて、兜焼きを切り分けるとしよう。一番お世話になったお義母さんとお師様には希少な部位である眼窩の筋肉、正しくは眼球を動かす部位を提供する。最も繊細で最もよく動く部位であるとされるこの肉は柔らかくも適度に歯応えが有り、コラーゲンにも似た食感をするという。生憎、前世で聞き齧った程度の知識しか無いのだが兎に角美味いとの事で二人は提供させてもらった。
そして、お師様は二つしか無い部位である眼球を両方持っていった。いや、流石に他の皆が拳大はありそうな眼球を前にビビったのだ。そのため、お師様がこの部位を好きとの事で独り占めした……お師様が『この味が分からぬとは、まだまだ子供だな』と小声で呟いていたのが印象的だった。いや、眼球内の髄液美味いんだけど流石にちびっ子達の前で食べて悲鳴上げられたくは無いと言うか。
俺は此処まで調理に掛り切りだったと言う事で、頬肉を片方丸々1枚貰った。前世から頬肉が好きなのでガッツポーズである。他の面々はもう片側を切り分けて提供させてもらう。味噌の部分を好んだのは意外な事にお義母さんだった。俺もカニ味噌やエビ味噌を好むので、お義母さんが好んだ事には通だなと感想が湧く。熱燗でやると美味しそうだなと思わず零したら、当主代行のインベントリから清酒を出させて早速熱燗を作り初めてた。この後、鮪の出汁で出汁割りとかやりそうだなと零せば目がキラリと光ってかなり恐怖を感じた。
「ところでタタラさん、自動で熱燗を作る魔道具とか有りませんか?」
「作れはしますけど、温度調節機能も作るとなると10分は掛かりますし鮪を捌く人が居なくなるんですが」
「儂が代わろう、出来たものを言い値で買うし是非とも頼む」
おう、切実だな。まぁ、アルコールを揮発させずに温めるのだからある程度魔法の術式に精通してないと作れないしな。ミスリルのインゴットを一つ取り出して『クラフト』スキルを使用、大体の大きさを四合程の酒が入るサイズにする。段階的に温度を上げる術式調整用の摘みを作り、連動して30℃から55℃迄の6段階調整を可能とする為に分子運動を『加速』させる術式とそれ以上の『加速』を止める『維持』の術式を組み込む。『鑑定』しながら温度の上昇を調整して、日向燗から飛び切り燗までの魔導熱燗器を作成する。コレ、赤ちゃんのミルクを作るのとかに応用出来ないだろうか?
「タタラ、あんた何片手間に新技術と言うか新製品作ってるのよ……」
「都市長、コレって」
「お酒を温める専用の魔導具とか……贅沢過ぎるでしょう?」
「いえ、家庭用なら赤ちゃんのミルクを作る機器に出来ますし、錬金術師なら特定の温度を保ち続けて薬効の実験に使う機器とかに出来ないかなって」
「後で報告書と設計図送りなさい、何なら新規プロジェクトに導入して使用感をレポートとして送らせるわ」
「お願いします」
魔力で薬効が変わってしまうような物でもなければ、この手の機器はかなり有用な筈だ。段階調整を5℃で統一しているが、それこそ実験器具は100分の1の温度を調整出来るようなハイエンドモデルにすればある程度は売れるだろう。
「……華澄、タタラ殿は毎回こうなのか?」
「……ハッキリ言って、鍛冶技術ばかり見てきたので魔導具作成が此処まで早いとは思いませんでしたわ。アルコールが入った状態の思考力で何故こんな早く正確に物を作れるのでしょうか?」
そうは言うが、俺は最初の一杯から殆ど鮪を捌いてばかりであまり酒を口にしていない。普段の思考力とそう変わらないので、素面と大差は無いのだ。多分、酔が回るとエテルを部屋に連れ込むと思うのでセーブしているのだ。
因みに、エテルは酒に弱く今は俺の側で身を預けて目を閉じている。下手に離れると泣きながら追い掛けて来るので、俺は鮪の調理に専念していたのだ。なんだかエテルと一華は所々似た癖が有るな?
それはそれとして、血合いの調理である。氷感庫での熟成で悪影響が出たのが此処で、血生臭さが増してしまった。なので、当主代行が持ち込んだ良質な清酒を使って酒蒸しにする。本当は漬け置きで2時間から半日置いてゆっくり血抜きするのが好ましいのだが、酒と摩り下ろした生姜を使っての酒蒸しにして血生臭さを誤魔化す。ある程度火が通ったなら、醤油と味醂と砂糖を加えて照り焼きのタレを作る。血合いの生臭さを誤魔化す為に近いが、コレなら女性でも栄養素の塊である血合いを問題なく食べられる筈だ。そう思って女性陣に提供してみると、思った以上に好評だった。生姜で臭みをある程度消した事もプラスに働いたようで、実はその辺が苦手で鉄分不足になり貧血になりやすかったらしいニーナちゃんがとても喜んでくれた。今度レバニラ炒めのタレでも教えてみようかな、内臓系が食べられたなら体質も改善しそうだし。
「なぁ、タタラ」
「おう、どうした?」
そんな時に話し掛けて来たバカ、いったい何があったのだろう?
「少しさっぱりした物が食いたい、ちょっと脂で口の中がくどくなっちまってな」
「成る程……茶漬けかな、やっぱり」
粗は出汁を取るために鍋に突っ込んでしまった為に、焼いた骨を出汁にして出汁茶漬けなんて事は出来ない。しかし、普通に茶漬けは出来る筈だ。
「当主代行」
「タタラ殿、今は無礼講だからお義父さんと呼びなさい」
「酔っ払ってるところ申し訳ないんですが、緑茶かほうじ茶持ってきて無いですか?」
「それなら私に持ち合わせが有りますから使って下さい」
「助かりますお義母さん」
「タタラ殿、お義父さんと! お義父さんと呼ぶのだぁ!!」
「貴方、酔っているなら少し休みますよ。四葩、手伝って」
「分かったのじゃ。お父さん、向こうで水を飲もう?」
四葩とお義母さんに引き摺られて強制的に俺から離される当主代行、前に義父呼びについて色々言ってきたのに呼んで欲しいのだろうか?
それはそれとして、一華がお代わり用に炊いていた米を茶碗に盛る。皮付きの鮪の切り身を焼き、皮の表面がパリっとするまで焼いたらそれをごまを散らしたご飯の上に乗せてお茶を掛ける。バカの好みが微妙に分からなかったので緑茶にしたが、俺も食べたくなったので俺のにはほうじ茶を掛ける。と、俺の茶漬けが雛菊さんに持っていかれた。まぁいいか、仲良く二人で食ってろ。
「あは、自分用のお茶漬け食べられてて笑えるね君!」
糞野郎が煽ってきたので余った酢飯と鮪の切り身、そして一華の錦糸卵で作った鮪のちらし寿司はカラー一家に提供する。何やら止めてこようとしたが虫の鳴き声は俺には届かないんだ、悪いな。
「タタラ殿、ちゃんと食べられているだろうか?」
そんな糞野郎が肩を落として離れるのと入れ替わりに近付き質問してきたタチア、その顔には心配の感情が見える。
「ちょくちょく摘んでるから大丈夫だ、心配ありがとうな」
その摘ませてくれてたバカは今、雛菊さんと並んでお茶漬けを啜っている。食うのに夢中で互いが互いに話し掛けて無いでやんの。進展しないなら俺の茶漬けは何のために犠牲になったのか。
それに、もう少ししたらエテルのビーフシチューが食える。鮪は諦めても最悪そっちで俺の心と腹は満たされるのでまだ大丈夫だ。
「その、差し出がましいとは思うが一口どうだろう?」
そう言ってフォークに刺されて差し出される鮪の照り焼き、正直食ってみたかったので助かる。
「お、いいのか?」
「あ、ああ。私から言い出したので問題ない……それでは、その……あっ、あーん」
おう、我等が騎士になんて事を教えてやがる。ちらりと視線を巡らせば、レイチェルさんが親指を立てて此方に拳を向けている。ええ、貴女ならそういう事するでしょうね。顔を真っ赤にして慣れないことをするタチアに恥をかかせる訳にもいかず、まぁどうせあーんだしなと割り切って口を開く。礼儀として此方も「あーん」と口に出しながら照り焼きを食べる。瞬間、口の中で鮪の旨味と生姜の辛味、良質な酒が持つ何処か果物に似た風味の後に味醂の甘味と醤油の塩味と風味が合わさって口の中を満たす。ハッキリ言って想像していたよりはるかに美味い、素材が良過ぎて再現できる気がしないのが難点だがそれでも一度は味わえて良かったと思える程だ。一華がサッと小さな塩むすびを出してくれたので一口齧る、白米と合わさる事で新たな美味さを生み出し心を満たす。口の中に残る照り焼きの残り香だけでも白米は進み、塩むすびをすぐに完食してしまっていた。
「ふふ、良い食いっぷりでしたなタタラ殿」
「思ってた以上に腹が減っていた上に、想像以上に美味くて止まらなかった」
「ええ、タタラ殿が言う通りに想像を越えてどれも美味しい。沢山美味しい物を用意してくれてありがとう、私の風」
最後は少し小声で、昨夜俺に向けた呼び方をしてくるタチア。意味は敢えて問わない、聞いてしまうと何かを手放してしまう予感がしたから。
さて、宴の開始から時間が経つが鮪が思った以上に減らない。いや、鬼と言うか妖怪の面々が結構な勢いで食べているので既に100kg以上は消費しているのだが可食部が全体で300kgも有ればこうもなるか。
尚、俺はほぼ喰えて無いのでまだ行けるがそこまで大食いでも無いのでおそらく5kgも食ったら消化を待たなければならないだろう。
ちびっ子達はお腹一杯になり目を回して横になっている、普段喰えてないらしいからこういう時に沢山食べて欲しいが無理をして欲しくもない。明日、お腹の調子が悪くならない用に乙女様の教会で胃薬とか分けて貰えるか聞いてみようか。
因みにバカはお茶漬けを一区切りとしてまったりと茶を飲み腹ごなし中で、雛菊さんはその隣で次々に食べていってる。ふと一華を見れば、そんな雛菊に対して憐れみにも似た目を向けていた……うん肥やす天狗の豚菊まっしぐらな光景だもんな。
給仕が一区切りになったダリアは今は黙々とキープしていた料理を食べている。機巧乙女は健啖家な種族なのか、多分俺以上に食っていると思う。まぁ、どんなに食べても身長以外は成長する見込みが無いとエテルが断言しているのだが。
アンナちゃんとニーナちゃんも食休み中だ。食べ過ぎて明日の体重を心配する声が聞こえてくるが、君達は多分適正体重よりも軽いからしっかり食べて欲しい。
アルバードさんとレイチェルさんは酒が入った為かイチャイチャしている……いや、普段からこうだから酒は関係無いか。バカが離れている所をみる限り近付くと惚気に巻き込まれそうだ。
都市長はお義母さんと当主代行を話し相手に選んで、何やら厳しい表情をしている。もしかしたら、俺の家で寝泊まりしている時にやった彼是を聞いて何か有ったのかも知れない。俺が何かやらかしてたんだろうな……本当にごめんなさい。
そしてカラムスさんは護衛らしく最低限の食事に終始しているが、時々羨ましそうに鮪を見ている。持ち帰り用に鮪の漬けでも作って置こうかな。多分、お土産で持って帰ってもまだ余るし。
「……タタラ、楽しそうだね?」
そんな風に観察していた俺に、目を覚ましたエテルがそんな声を掛けて来た。
「うん、楽しい。美味しい物をいっぱい食べて、皆が笑ってる……幸せで楽しんでる光景を見ると自然と俺も楽しくなる」
「ふふ、それなら私も嬉しいな」
エテルは俺の幸せを自分の幸せだと言う。俺が主体で人生を進めている。最愛の人の人生を独占出来て嬉しいが、同時に縛り付けてしまう事に申し訳なさが湧く。
そんな感情を抱きながら、鮪の漬けとその亜種を作る。片方は切り身をそのままで、もう一つは茹でて表面に若干火が通った物をにする。前世で偶々紹介されたのを見て覚えていたレシピだが、たたきっぽくなってコレはコレで美味しかった。つけダレは鰹出汁を混ぜた物にしたかったが、今回は粗汁の出汁を使って鮪の旨味を更に凝縮した物にする。減圧が完了していた圧力鍋の蓋を開けると、何とも芳しい鮪の匂いが爆発的に広がる。結構胃がいっぱいだった筈なのに、匂いが影響して胃が動き別腹を用意し始める。匂いに釣られたお師様の杯を預かって、中に出汁を少々と温燗を注ぐ。所謂出汁割りを作ってお師様に渡せば、一息に呷った後にあまりの美味さに興奮した様子で俺の背中を叩いて来た。俺も出汁を少量取って味見をすると、それはもう鮪の良い面を含んだ旨味を感じた。そのまま汁にする分と、出汁として使う物に分けて置く。出汁の方は粗熱を取って冷まさなければ、注いだ瞬間に鮪が茹で上がる……それはそれで美味そうだな。
さて、粗熱を取り適度に冷めた出汁を使い鮪の漬け置き用のタレを作る。使うのは醤油と味醂に酒、そして出汁である。シンプルだからこそ、配分を間違えれば台無しになる。さしすせその原則に従い、味の薄い物から味を見る。いや、どれも味濃いな?
味醂と酒は味醂の方を多目に、酒を少量足す感覚だ。そうして少し濃い目に整えた所に、醤油を入れる。醤油の方が多いが、味醂の甘味と酒の旨味が軽く感じられるようにして少量の出汁を加える。想定よりも鮪の出汁が利いてしまいそうな為、本当に少量を加えて味を見る。正直、コレをご飯の上に掛けただけでもかっ喰らえるレベルの美味さだ。前世で見た土佐醤油のレシピを、鰹節の代わりに鮪の出汁で代用したが別方面に美味い。
そうして用意した出汁を火に掛けて煮切る。アルコール分を飛ばし、香りと風味から雑味を飛ばす。鮪の出汁に含まれた灰汁が煮切る最中に浮き上がるのでコレも丁寧に取っていく。そうしてアルコールも灰汁も無くなり、醤油を素にした風味豊かな漬けダレが出来上がる……訳でもなく此処から自然に冷ませつつ味を馴染ませる。時間にして20分から30分程そのまま置き、その合間に濾し器を用意する。
「タタラさ、お土産用とか言って本格的な物を用意するのやめといた方がいいよ?」
「とは言っても、コレは一晩は漬けとかないと旨味が浸透しないんだが……」
「その前に食べちゃうと思うな、此処にいる人達全員」
エテルの言葉で改めて周囲を見渡す……事も無く振り返った瞬間には俺達を囲むように人が集まっていた。いや、速いなあんたら。
「……ジュロン、コレは?」
「お土産用の鮪の漬け置きですね、一晩もすればいい具合に味が染みて美味しくなりますよ」
「……そうか」
「あ、もしかしてカラムスさんって宗教的にこういうのは──」
「美味いものを制限する神の教えなどこの地上に存在しない」
「あ、はい」
そう言えば、前世でゲームをプレイ中で幾つか教義についてのテキストが出たが、食に付いてはどの宗派も神様は禁止事項を出して無かったな。
豊穣を司る赤い月の女神様は『豊かに実らせ、豊かに摂り、豊かな人生を送れ』ってのが有った。乙女様の所は『食を豊かにして心の病から身を守る事が健康の一歩、ただし過食や暴食は厳禁』とかそんなだった筈……その割には『ワールウィンド』の教会は清貧を旨とするみたいな異端プリだったが、アレはどんなに食べても足り無い腹ペコシスターのせいか。そして軍神様の所は確か『制限して明日を生きる活力を失うならば、明日の希望を持つために良き食事をせよ』とかそんなだった筈。開発者が影響してるのか、このゲーム食に対しては結構拘りが有るんだよな。
「取り敢えず、ライスと合う物になります。鮪の漬けになります、パンやパスタとの相性は考慮してませんのでご注意下さいね」
「ふふ、ジュロン……お前は私を外道に落としたいらしいな?」
「なんで!?」
美味しい白米を炊きたいと言うならそりゃ魔導炊飯器くらいは売りはしますけど……いや、この都市に陽出米は出回ってないから同じ様な喰い方は無理か。漬け丼とか美味しいけど、白米の美味さ有りきって料理だし。そう言えば、お義母さんに頼まれた魔導炊飯器をまだ作ってないな……物を持ち込んだ後に改造って話だから出来なかったが正しいけど。
「……タタラ殿、何か思い付いたのかね。言ってみなさい、先生怒らないから」
「当主代行ってその言い回し好きなんですかね、前にも聞いたと思うんですけど」
2度目の会談の時だったかなアレは、一華からぶちギレフラグと言われていたなそう言えば。アレからまだ一月も経ってない筈だが、世界は忙しく回り続けているのか何ヶ月と前の事のように思える。
「思い付いたのではなく思い出したんですよ、お義母さんから魔導炊飯器への改造依頼」
「華澄、邸で使ってる炊飯釜を持って此方に来いと言ってた理由はコレか?」
俺の言葉を聞いて当主代行はお義母さんに問いかける、それに対してお義母さんはそっと視線を反らして誤魔化している……詳しい話はしてないんかい。
そして当主代行、言われたから持ってきてるなこれ?
「取り敢えず、有るなら改造しますよ」
「む、しかしまだ鮪を捌いていただろう?」
「そろそろ外気で鮮度が落ちるので、そろそろ此方の料理を主にしようかと」
具体的に言うとカルパッチョやアヒージョにするつもりだ、コレなら此方の酒とも相性がいい筈だし酒飲みの面々も満足してくれるだろう。
「此方の料理ならお母さんのレシピ有るし、私も手伝えるよ」
「そ、それなら私もタタラくんを手伝うよ!」
エテルとニーナちゃんの頼もしい手伝い発言だが、言葉を放った後の二人は睨み合いを始めてしまった。うん、なんで?
「私はタタラの奥さんだからね。それと、ゲストの人は働かせたら悪いから大丈夫だよ?」
「私はコレでも農家の娘で、私の作ったお弁当ってお客様に好評なんですよ?」
バチバチやり始めた二人を一旦無視して、此方の料理を勉強している一華を見る。すると一華は仕方ないと言った表情を浮かべて、俺の代わりを務めてくれる事になった。エテルとニーナちゃんには悪いけど、喧嘩を始めると頼り辛いんだよな。
そして、当主代行がインベントリから取り出した炊飯釜を魔導炊飯釜へと改造する。以前お師様の釜を改造した事の応用だが、使われている素材が鋼ではなく灰が付着したミスリルだった。家でも真似できなくは無いが、魔力の伝達効率が高過ぎる為に魔力の調整が今迄と若干変わる。一華の炊き方ではなく、当人の好みを設定出来るように術式は真白なままだ。刻むべき術式の説明をして、お義母さん達に引き渡す。
「タタラ殿は何故この都市では使わぬような物を?」
「作ったのは此方に米を送って貰った後ですよ。一華に頼んで炊き方を見せて貰って手軽に炊き立てを食べられるようにってのと、世のお母さんが少しでも楽になればって思って作りました」
「発想が良い子すぎる」
米が食べられるなら美味いのを炊きたいとも思っていたが、この技術を公開したのは誰でも家事の負担を少しは軽くする事が出来るからだ。そうして作業開始から約10分、虎熊家の魔導炊飯器は完成した。
「炊き方の方はそちらで入力をお願いしますね」
「ええ、きちんと虎熊邸で運用させて頂きます」
そうして取引が完了する直前、都市長が会話に参戦する。
「失礼、そちらの魔導具ですが技術を解析して売りに出す許可は出していませんのであしからず」
その言葉に、お義母さんは一瞬顔を顰めた。リバースエンジニアリングからの国内販売を目指してたかコレ?
「世に広め、一般家庭を助けたいならキチンと特許料を支払ってからにして下さい。この子は自覚がイマイチ薄いですが、その術式も形式もこの子の持つ特許ですので」
「……そうですね、タタラさんの為にも払うべきは払わなければなりませんね」
お義母さんは溜息を吐きながら、都市長に後日会談をする旨を伝える。あんまりこの二人の仲が悪く見える状況はして欲しくないな、何方も大切な人だから胸が痛くなる。
「それとタタラ、転移門を個人所有してるからと言ってあっちこっちに繋げる許可は出して無いわよ」
「あ、えっと……」
「ダリアさんのご実家に貴方が買った転移門を置いて繋げる許可、私に相談しないのは何故かしら?」
しまった、完全にスッポ抜けてた!
※今回の話には重度の飯テロが含まれている可能性が有ります。朝昼夜をまだ食べていない方、断食中の方、深夜に開いた方、想像力が豊かな方はご注意下さい。
気付けばこの小説も回り道を重ねて100話に到達ですね、自分自身よく此処までネタを続けられたなって思います。
コレからも頓痴気理論と、無駄に力の入った飯と、特にエロくないエロと、稚拙な探索を含む拙作にお付き合いして下されば嬉しいです。
そろそろエイプリルフールか……四葩ルートバッドエンドとか書いてもテンポが遅くなるしそれより本編の方が欲しいよね。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
-
タタラとエテルの立場逆転
-
現パロ(エテルヒロイン)
-
現パロ(四葩幼馴染)
-
武器が擬人化してタタラへ物申す
-
年増組と同い年
-
聖人カレハ
-
原作エテルとタタラ
-
ガチ妹ダリア・ジュロン