既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント:コンプリート
都市長からのお説教を終え、取り敢えず再開となった宴会。大人組は俺が叱られている内容に対して何か一つでも情報を持って帰ろうとした様子で、飲む手が止まっていた……糞野郎だけは俺を肴に飲んでいたみたいだが。やっぱりあの野郎は好きになれそうに無い。
エテルがビーフシチューを温めている間に、俺は酒飲み勢が此方の国の酒に手を伸ばしたのを見て新しく料理を作る。薄く切った鮪の切り身にオリーブオイルと醤油、砂糖と酢を混ぜた調味料を馴染ませてからミルで胡椒を挽いて振りかける。ちょっと手抜きに見えるがカルパッチョの完成で、魚だから白ワイン……とも言えない。濃厚な鮪の身から考えて赤ワインでも合いそうなので少し悩んでる隙に糞野郎に持っていかれてしまった。
あの野郎と恨みを込めて睨めば、してやったりと言わんばかりの笑い顔を俺に向けてカルパッチョを一口。次の瞬間には糞野郎から悲鳴が上がった。
「塩っっっっっっっっっぱい!?」
その叫びと共に思い切り酒を呷って口の中を洗っている。何事かと思えば、どうも砂糖と塩を間違えていたらしい。確かに醤油と酢に塩も加われば塩っぱくもなるか。取り敢えず、お義母さん達にはきちんと出来た物を渡しておく。糞野郎が恨みがましく俺を見てくるが、鼻で笑って返す。自業自得だ、ザマァ。
俺は取り敢えず鮪の味噌汁を一杯注いで、一口。鮪の粗から取れた濃厚な出汁に、赤味噌の熟成された大豆の味が見事な調和を織りなしている。キツく成りすぎないように白味噌を混ぜただけは有り、後味はクドくない。擦った山葵を箸先に一摘して溶かせば、鼻を抜ける爽やかさが口当たりをスッキリとさせ更に辛味が後味を残さないように働く。
「これは……山葵茶漬けもアリか」
「タタラ殿、締めはそれで頼む」
山葵の美味さからレシピを考えれば、当主代行が間髪入れずに注文をしてくる。それは良いんだけど、俺が覚えてないかも知れないな。取り敢えず注文内容を書いて貼っておこう。
「都市長さん、お待たせしました。タタラも、はい」
「あら、ありがとうエテル」
「ありがとう、相変わらずいい匂いだ」
前世の便利な流通状況なら手軽にデミグラスソースに、ソースを作る上で必要になるフォンドボーも手軽に手に入れられていた。しかし、この世界では何方も手軽には手に入らず基本的に自分で作るしかない。そりゃ圧力鍋が有ったから比較的作りやすかった物も有るのだが、エテルのレシピはお母さんが一週間張り付いて作る物らしく彼女はそれを忠実に再現している。大量生産して密閉保存した上で冷凍保存している為、少なくなったらまた張り付いて作る事になるのだが……この世界の学園には基本的に長期休暇と言う物がない。結果として、通学時にインベントリの中に格納した上で時間との勝負になる。コレを作っている時のエテルは物凄く時間にタイトで、俺を待つこと無く帰宅する。そうして集中して作るのが特製デミグラスソースで、それをふんだんに使ったのがこのビーフシチュー。一般的な物はルウが少なく野菜が多い物なのだが、バーラル家のレシピは野菜を大量に溶け込ませたルウと追加で下味を付けて茹でた野菜を投入する為にかなりボリュームが有る。
都市長と俺の元へエテルが其々小さな皿に盛られたビーフシチューを届けてくれた。こんだけ食ってるからそこまで入らないだろうと言う配慮からだろう、この後も鮪を何とか処理していかなければならない故の配慮だろう。こう言う気配りが大事なんだなとエテルの心遣いに惚れ直す。
表面がカリッと焼かれたバゲットを一つ手に取りつつ、スプーンでビーフシチューのルウを掬って一口。作り置きしていた特製デミグラスソースの濃厚かつ複雑な味が口内を満たす。人参や玉葱、更に煮込むのに使われた赤ワインの葡萄が甘味となってデミグラスソースが持つ濃厚さを適度に和らげ、口当たりを柔らかくしている。ともすれば旨味とも言える癖を失いかねないが、そこでバーラル家の秘伝配合スパイスとハーブがそれを補う。内容は娘にだけ秘伝し続けるらしいので教えて貰えなかったが、肉の臭み成分と化合して旨味に変える物が有るらしくそれを使っているのではないかと疑っている。次に後入れされた人参を掬う、煮崩れが起きていないが角が丸くなる程度に煮込まれ纏ったルウと染みたワインの微かな薫りが食欲を唆る。一口に口内へ放り込めば、人参の甘味とワインの薫りそしてデミグラスソースの味わいが口内を満たす。続いては馬鈴薯だ、口に放り舌で押せばホロホロと崩れて大地の旨味と煮込み染みた様々な味が合わさる。そしてお待ちかねの肉、コラーゲンの塊にすら見えるスジ肉だ。口に含み噛むのだが、グミにも似た柔らかくもやや歯応えを残した独特な感触がする。しかし、噛み切れない物では無く数度噛むと簡単に嚥下出来る大きさに噛み切れる。スジ肉がいいのは噛めば噛むほど旨味が出て来る点だろう、牛肉其の物の旨味もそうだが、赤ワインの酸味、野菜の甘味、ルウのコク等が肉の中に閉じ込められている。こう言った煮込み料理の醍醐味、野菜には肉の旨味、肉には野菜の旨味が其々含まれ旨味を増す点だろう。少量だったのでシチューは直ぐに食べ終え、皿に残ったルウをバゲットで拭き取るようにして掬って残さず完食する。
「驚いた、エテルは料理が上手なのね」
「はい、お母さんの遺してくれたレシピをちゃんと作れるように頑張りました」
「ふふ、それは素晴らしいわね。結婚した後もきっと安泰よ」
エテルは都市長に褒められてご満悦と言った様子だ。年単位で同棲をしているので、生活のリズムは大部分合わせている。大きな喧嘩をしたことが無いのが不安だが、その時は歩み寄れるように頑張りたい。
そんな事を考えていると、お師様が何か言いたそうに此方を見てきた。チラチラと皿を見ていると言うことは、おそらくビーフシチューに興味が湧いたのだろう。しかし、エテルに頼むにしても怖がらせる事を考えて頼めない……そんな感じかな?
「なぁ、エテル」
「うん、どうしたのタタラ?」
「シチュー、もう一皿用意してくれないか?」
「え……あ、うん」
都市長と話しているエテルに声を掛けて新しくシチューの用意を頼めば、最初は戸惑うも俺の視線からお師様の事に気付いて納得してくれた。手早く新しく小さな皿によそってくれたエテルに礼を言いつつ、それをお師様の所へ持っていく。
「お師様、どうぞ」
「ああ、
皿を差し出してみれば、正解だった。そこまで緊張しなくてもエテルなら怖がらないのだけど、言葉が通じないからと気遣ってくれたのだろう。そう言った優しさには感謝だ。
お師様は早速野菜を匙で一掬いし、口に運んでいく。豊かな髭に覆われた口元が笑ったのが分かる。
「
「ええ、自慢の妻ですから」
俺の返しに深く頷いたお師様、何となくバカップルと思われている気がするが口に出されたら誉め言葉だと開き直ろう。
「
「エテルなら直接伝えても怖がりませんよ?」
「
言葉が通じないことに対して自分に非があるなんて気遣う相手を、エテルは怖がるなんてしないんだけどな。
「
「……お師様も意外に食いますね?」
「
鯨飲馬食なんて言葉が可愛く見える胃袋の強さだ、呆れる事も出来ない。
頼まれた物を早速作る。皮のついた身を切り出して、皮に焼き目が付く程度に焼く。白米を椀に盛り付け、焼身と山葵を乗せて緑茶を掛ける。茶と山葵の香気が混ざり立ち昇る、コレはお師様の前で注いでこの匂いから堪能して貰うべきだったな。そう思いつつお師様に山葵鮪茶漬けを渡す。お師様は薫りから楽しみ、早速食べ始める。実に満足そうな表情だった。
それから暫く経ち、消費に頭を悩ませていた鮪は大半が鬼達の胃袋に消えて残り10kg程に減った。半分程をカラー家にお土産として渡そうとしたら遠慮されそうになるが、当主代行やお師様が酒盗を土産として貰っているので是非にと勧めた事により受け取って貰えた。都市長やカラムスさんは合わせて1kg程持ち帰って貰える事になった。いやまぁ、カラムスさんは兎も角都市長はもう少し胃に優しい食生活を続けなければ駄目そうだが……今日はめっちゃ食ってるからどうなのかとか言われたら困るが。残りは家で明日からも消費する形になるが、4kgなら食べ方で工夫出来る範囲だ。何ならパテを作って保存食にする手もあるしな。
「さて、我々はそろそろ帰るとしよう」
「盛大に飲み食いしたから満足でしょうね、当主代行」
「タタラ殿、お義父さんと呼ぶのだ」
「あなた、その話は後日酒を抜いてからにしましょうね?」
どうも変な酔い方をしているらしい当主代行に対してお義母さんが諌めている、そんな両親の姿に四葩は苦笑い気味だ。
「
「むしろ持ち帰って知り合いに広めて貰えれば嬉しいですね、此方の作り手も味の虜にしてやると息巻いてたので」
「くく、
お師様達に余っていた酒を持ち帰って貰う形になった、内約としては虎熊家とお師様で半々と言った具合に分けている。よく残ったと思ったが、当主代行が持ち込んでいた陽出國の酒を主に呑んでいたらしい。それで満足するってどんだけ持ち込んでたんだ?
「そう言えば、儂の鎧置きの製作はどうなっているのかな?」
まだ酔が醒めない当主代行からのそんな問い掛け。いや、物が無いと専用のハンガーは作れないからまだ作れていないのだ。汎用性を前面に出してしまうと、なんというかこう……浪漫が薄れると言うか。
「まだ制作して無いですよ」
「ふむ、そうか……」
「代わりにコレを持っていって下さい」
そう言ってインベントリから取り出すのは『料理長』から貰った終焉女神の神格片で作ったイヴィルミスリルを、カーボンファイバーに見立てて作ったミスリル製の釣竿だ。名称はミスリルロッドなのだが、
当主代行は竿を受け取り真剣に検分している、やがて一つ頷いてから一言。
「陽出國に遊びに来たら共に釣りへ征こう、義息子よ」
「あなた、いい加減にして下さい」
拳を握り一撃叩き込む姿勢を見せるお義母さんに若干引きつつ、そう言えばと思い出す。
「そう言えばお義母さん、あの刀って結局誰に渡すんですか?」
あの糞野郎だったら少し嫌だな、実力は有るし多分妖刀の類も抑えられるだろうが馬鹿に刃物の言葉まんまになりかねない。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、お義母さんは思い出したかのようにあの刀をインベントリから取り出した。そしてそのまま当主代行へと押し付ける……うん、確かに前愚痴の中で剣鬼とか剣聖って呼ばれてるとか言ってたけどそれを預ける程なのか当主代行。
「あなた、新しい刀ですよ!」
「新しい顔を投げ付ける何処ぞの
完全に前世知識なネタに思えるが、実は複数の国であのヒーローの絵本が子供に読まれてたりする。確か原作のゲームでしっかりと名前を出されてたりするのだが、なんとスタジオに頭を下げて正式に許可を取っていたらしい。なんでも代表取締役が子供に贈った最初の絵本だったらしく、世界に愛と勇気を伝えるならこのヒーローしか居ないからと名前と一部絵本の表紙を使う許可をもぎ取ったのだとか……なんで斜め上に頑張るかな?
使われた場面はヒロインが子供に読み聞かせる場面で、実際に一節を読み上げてたりする。後に声優さんが動画として絵本の読み上げ配信を行い更にはあのマーチも歌ってバズった、なんて笑い話も有ったな。
当主代行はお義母さんから押し付けられた剣を手に取り、その表情を真剣な物に変える。どうやら酔は醒めたらしい、鞘から抜き放とうとして出来ない事に疑問を抱いた様子だ。
「……タタラ殿、これは?」
「えっと、お義母さんにちょっと頼んだ代物で……刃物として超級の斬れ味を誇る概念礼装です」
うん、嘘は言ってない。
「これも神刀の一つと、放つ気配は妖刀に近いが澱みが感じられないのはどういう理屈だろうか」
「造られてから間もないので無垢なんですよ」
「ふむ、抜けないのは何故か」
「不用意に抜けると危険極まりないので鞘と合わせて封印しています、抜き放つなら鞘に語り掛けないと無理ですよ」
俺の言葉を受けて、当主代行は柄に手を添えて目を閉じる。少しして、その口が開いた。
「『眠りの鞘より解き放たれよ、遍く断つ刃。彼を断ち我を絶ち敵を裁て』」
「……マジかぁ」
当主代行が謳い上げると同時に、鯉口に当たる部分が可動する。鞘が刃の封印を解く呪文を当主代行に伝えた、つまりはあの刀に認められたのだ。実のところ、俺はあの刀を抜く為の唄を知らない。認められていないのとは少し違い、どうも作り手と言うか親という認識を受けているらしいのだ。なので、俺はもっと短く『起きろ』とか『診断する』みたいな事を言うと封印が外れる。尤も、あの刃を正しく使える訳では無いのだが。お義母さんはおろかお師様にも抜けず、随分と我儘だと思ったがどうやら当主代行はお眼鏡に適ったようだ。抜き放った刀を眼前に掲げ、その刃を丁寧に検分していく。
「……美事な刃だ、コレをタタラ殿が?」
「ええ、よく切れる事を考えて一晩砥いでたら出来ました」
「もう少し加減を覚えようか、タタラ殿」
当主代行から半眼を向けられる。いやまぁ、俺もアレを他人が作ってたら同じ事を思ったと思うが流石にもう少し手心が欲しい。
「当主様、要らないなら僕が貰いますよそれ」
「誰がお前にやるか、コレは儂がキチンと降伏して管理する。それでタタラ殿、この刀の銘は?」
剣術指南役が目を輝かせて当主代行に声を掛けるが、当主代行は一蹴する。そして、俺は当主代行の問いに対して答えが無い。
「実はまだ付けて無いんですよ」
「……事前に言われていた通り、か」
どうやらお義母さんから話は聞いていたらしい。そうだな、鞘からも担い手として認められているし当主代行に付けて貰おう。
「刀も認めていますし、当主代行が付けてくれれば嬉しいです。きっと、その刀も喜びますよ」
「……で、あるか」
当主代行は眉間に皺を寄せて思い悩む、やはり名付けって難しいよな。
「では、この刀を『竜舌蘭』と名付けよう」
その言葉と共に、慣れた何かが繋がる感覚がする。『竜舌蘭』……アガペの花言葉は確か『繊細』ともう一つ──
「……お義母さんの事を指して付けました?」
「……な、何のことかなタタラ殿?」
おう、声震えてんぞ当主代行。アガペのもう一つの花言葉は『気高き貴婦人』、誰を想っての名前かはまぁ……この愛妻家な人ならね?
「タタラさん、竜舌蘭にどの様な意味が?」
「それは当主代行から聞き出して下さい」
「あら、教えられないと?」
「当主代行から直接聞いた方が嬉しいでしょうから」
俺の言葉を聞いて意味有りげに当主代行を見るお義母さん、四葩に弟か妹が出来るかもな。
「タタラ殿、儂に何か恨みが?」
「いえ、特には。まぁ精々夫婦で仲良くして下さい」
お義母さんをチラと見た当主代行が肩を落とす。誂われるかも知れないが、それ以上に沢山の愛を返してくれると思うぞお義母さんは。そんな事を考えつつ、これ以上話していると名残惜しくなるばかりだと判断して転移門を起動する。
「では、お師様、お義母さん、当主代行……いずれまた」
「ああ、壮健でなタタラ」
「タタラさんもお元気で」
「直接の顔合わせは先になるだろうが、また会おう。四葩、お前も身体に気を付けよ」
「はい、父上」
「かすみせんせー! ばいばい!!」
「ふふ、はいサニーさんばいばいです。サニーさんの絵、先生大好きなのでお絵描き沢山して下さいね?」
「うん!」
俺の知らない所でサニーちゃんとお義母さんが仲良くなってたんだな、二人共絵が趣味らしいしあの1日の交流で先生呼びするくらいに仲良くなれるのはバカと同じ血を引いているからか。因みに双子はお腹いっぱいなのか眠りっぱなしだ、起きてお義母さんがもう帰っている事を知ったら泣かないだろうか?
起動した転移門を通って3人は帰って行く、お師様とお義母さんとの生活はたった一週間だがもっと長い時間を一緒に過ごしていたような気になる。
「さてと、僕はどうしよっかな」
一人残った糞野郎、本来なら俺の家で宿泊させるのが正しいのだろうが……共同生活は問題しか無さそうなんだよなこの人。
俺の私生活中、と言うか鍛冶をしている時に邪魔してきそうだし……何かこうエロゲー特有のNTR竿役みたいな雰囲気を感じる。
「申し訳無いけれど、野獣様は私達が管理する行政区での生活をして頂きます」
「え、あの二人とは違うわけ?」
「ええ、あちらはタタラが隠していたのでお迎え出来ませんでしたが一つの領において重要な役職を得ている方を一住人の家で住まわせる訳にはいきませんわ」
「え〜……ま、仕方ないか」
不満そうな声を上げる糞野郎だが、元々虎熊領で役職を与えられていた為かその辺の聞き分けは良さそうだ。何か、初手で斬り掛かられた身としては納得いかないが取り敢えず家から出てくれるなら問題は無い。
「タタラ、あの刀がどんなものなのか胃が痛くなりそうだから今日はいいわ。取り敢えず、一週間から一ヶ月を目処に報告書を送りなさい」
「えと、明日にでも送れますよ?」
「一週間から! 一ヶ月を! 目処に! 送りなさい!!」
「はい」
猶予を与えられたと思って明日にでも出せると言ったら、都市長の方が猶予を欲しがっていたらしい。しかし、一ヶ月後なんてその時には学生運動が終わってるよな?
つまり、都市長は学生運動を問題無く乗り切れると判断しているって事か。
「じゃあ、一ヶ月後に送りますよ。仕事や後始末でバタバタしてるかも知れないですけどね」
「……ええ、そうね。けれどその時は憂いは無いはずよ」
都市長も俺の意図に気付いて、そんな風に返してくる。互いに生き残ろう、そんな考えを言葉の裏に隠す。
「ではなジュロン。我が主、日が落ちきる前に」
「ええ、分かったわカラムス。じゃあねタタラ」
二人がそう言って行こうとするタイミングで、糞野郎が待ったを掛ける。徐ろに俺へと確認してきた。
「今日は沢山食べたし、明日は胃を休めるかい?」
指南役としての仕事の確認だ、何だかんだこの糞野郎にも仕事意識は有るらしい。
「……どうだ?」
「やれんぜ、1日経てば胃の中身も問題ねぇさ」
バカに確認すればそんな頼もしい言葉が返ってくる。そんな俺達のやり取りを見て、改めて糞野郎が指南する相手を認識する。
「へぇ、君が指南相手か……ま、期待はしないでおくよ」
「そうっすか。ま、刀の基礎さえ教えて貰えりゃ十分なんで」
「……うん、中々言うね君。気に入ったよ」
あのバカが糞野郎に対して礼を考えていない、それだけ性格の相性は良く無いって事か。此奴をしてコレって相当だが、大丈夫だろうか。何となく、報酬に魔鉄製の脚甲を追加した方が良さそうな気がして来た。
「雛菊さん申し訳無いんですけど」
「いえ、コレだけの大所帯なら当然です。彼等の護衛を務めましょう」
雛菊さんに頼めば二つ返事で了承してくれた。
「あ、おじさん。少しお願いが」
「む、何かな?」
「もし、雛菊さんが帰るの難しそうだったら一晩泊めて欲しいんですけど」
「なんだそんな事かい、大丈夫だよ……息子の嫁候補だしね」
続いてアルバードさんにお願いすれば、此方も了承してくれる。小声で本音が漏れているが、どうやら俺と目的は同じらしい。そっとその手に避妊具と音を消す魔導具を渡せば察してくれた。因みに、音消しの魔導具はカラー夫婦の為にもう一つ渡しておく。多分、盛り上がるだろうし声は問題だろうから。
「あの、タタラさん。今日は沢山美味しい物をありがとうございました」
「アンナちゃん、そんな遠慮しなくていいよ。昔からの仲なんだしさ、もっと気楽に遊びに来なよ」
お礼を言ってくるアンナちゃんにそう返せば、柔らかく微笑んでくれる。昔から変わらない笑顔、成長して美人になっても面影が見えるのは嬉しいな。
「タタラくん、あんまりお料理手伝えなくてごめんね?」
「お客さんなんだしいいよニーナちゃん、それよりも美味しかったかな?」
「うん、とっても美味しかったよ! ごちそうさまでした♪」
ニーナちゃんは謝ってくるが、そもそもゲストがホストを手伝うのも変だ。まぁ、当主代行に手伝いをさせてしまったが。それよりも、俺の料理を楽しんでくれたみたいで良かった。
「タタラくん、今日はお招きしてくれてありがとうね」
「いいえ、レイチェルさん。俺も彼奴を通して突然招いちゃって申し訳無いです」
「いいのよ、家は悪い言い方だけど貧乏だし。こうした食事会は正直助かっちゃうから」
お義母さんへの挨拶の後、電池が切れたらしく眠ってしまったサニーちゃんを抱き上げたレイチェルさんのお礼に言葉を返す。貧乏とは言うが、収入自体はそこそこ有るのだが養育費が馬鹿にならないんだろう。アンナちゃんの魔法薬研究も金食い虫だろうし……特許の収入が増えたら投資しようかな。
「……タタラくん、その」
「どうしたのさクロード、何か言い難いこと?」
双子を其々の腕で抱くクロードが何か言い難そうにしている。因みに、単純な膂力はバカよりクロードの方が上らしく双子を抱えてるのもそれが影響している。純粋な戦闘力で家族を守る長兄を自由に動けるようにする為の判断で、此処最近で街に流れる不穏な空気を感じ取った上での判断だそうだ。アルバードさんはアレで初期スキルに格闘術が有ったらしくそこそこ殴り合えるそうで、長兄と雛菊さんが破落戸を何とかする間奇襲に対応するのがアルバードさん。そして最後に肉の壁になるつもりのクロードと布陣を敷いている。早く
「妹達がタタラくんを肉食獣の目で見てるから気を付けて」
「……うん?」
クロードの言う言葉が若干理解出来ない。肉食獣の目で見る……つまり、俺を性的な目で見ていると?
「いや、それは無いんじゃないか?」
昔から知ってるし実兄と同い年なのだ、恋愛対象にはならないだろう。そんな俺の様子を見て、クロードは盛大に息を吐く……なんでそんな反応を。
「……警戒心が無いから肉食獣に自ら近付く草食獣って救いようが無いよね」
「前に彼奴も言ってたが、それどういう意味なんだ?」
あのバカからも言われたが、本当どんな意図でこの言葉を言ったのだろうか。俺が警戒心の無い草食獣みたいな比喩だと思うのだが、肉食獣は誰を指しているのだろうか。
「タタラくんが偶に弟に見えてくる時が有って、それが今なんだよね……」
「微妙に矛盾した台詞だな?」
クロードからして俺が弟とか歳下に感じる瞬間ってのは一体、そう言えばあのバカも俺を『弟みたいに思ってる』って言った事が昔有ったな。
「あんまり話を続けても終わらなそうだから切り上げろクロード」
「あ、うん」
「もう帰るか、気を付けろよ?」
「俺と雛菊さんが揃ってんだ、例え『オーガ』に襲撃されようが無事に切り抜けるぞ」
いや、雛菊さんが居るなら多分『オーガ』の群れ相手でも無事に終わるぞ。あの人の戦闘力は一華以上だって話だし……その割には、最初に出会った日にカラムスさんは一華の方を警戒してたけど。そんな会話をして、カラー一家は帰って行った。さて、俺は庭の片付けをするか。
鮪の解体台、釜、テーブル等を片付けていく。祭りの後の寂しさを感じつつ、終わりが惜しいと感じるくらいに楽しかったのはそれだけ大切な時間たり得たのだと思い直して手を進める。何時かまた今日みたいに集まって、好きに飲み食いが出来る日がまた来る事を願う。その為にも学生運動を無事に乗り切らなければならない、その時にはおっちゃん達のパーティも誘いたいと思う。
「タタラ殿、此方は片付きました」
俺が一通り片付け終わったタイミングで、タチアが声を掛けてくる。
「ああ、ありがとう」
「……何か考えていたのですか?」
俺の様子に何か感じたのか、そう聞いてくるタチア。誤魔化すことも無い事なので、俺は普通に先程の考えを口に出す。
「今日の宴会が楽しかったから、学生運動が終わったら今度はおっちゃん達を誘って開きたいなって考えてた」
「それは……とても、とても楽しそうだ」
俺の言葉を聞いて、タチアは想像したのだろう。間を空けたのはそれだけ深く想像したからだろう、タチアはおっちゃんとそんな親子の楽しみを経験した事が無いのかも知れない。
「私は今、とても充足しているんだ」
微笑みを向けながら、タチアはそんな風に言ってくる。
「貴方達が居て、親父殿ともダンジョンの話が出来て……今日サニー嬢達と交流を持てた」
タチアは胸を両手で押さえて俯く。
「新鮮だった。タタラ殿達がパーティとして私を頼るのとは別に、サニー嬢が私を騎士様と呼んで輝く瞳を向けてくれた時の胸の温かさは」
胸に当てていた手を握り、顔を上げて決意に満ちた瞳を俺に向けてくるタチア。
「タタラ殿、私はこの街で守りたい物が増えた。それに対して、あの学校に居る奴等は明確な敵だ。元から負けるつもりは無かったが、負けられない理由が増えた」
胸で握っていた拳を此方に向けてくる。
「改めて頼みたい、タタラ殿。私と、この街に住む人々を共に守ってほしい」
その目は何処までも澄んでいて、決意による輝きに満ちていた。
「俺からも、頼みたい。タチア、俺達と一緒にこの街を守ってくれ。この街に住む人々を守る、騎士であってくれ」
タチアが俺に向けている拳に、俺は自分の拳を合わせる。俺はタチアの想いが俺をより強く決意させてくれると、そう感じている。
「タタラ殿……私の風よ、私をより強く遠く運んでくれ」
「いいぜ、お前が望むのなら何処までだって連れてってやる」
言葉の意味なんて問わない、俺が必要とするのはその意思だけでいい。タチアが望むなら、何処までだって助ける。
「……所で、唐突で悪いのだがタタラ殿」
と、いきなり空気が変わるタチア。
「今日は学校に外泊届を出していてな……泊めて欲しいのだが」
いきなりの頼みだが、丁度今日部屋が空いた。それに、タチアが泊まるならエテルが部屋に四葩も呼んで三人で女子会をするだろう。それに、今日は夜にしたい事がある。
「分かった、部屋は有るから大丈夫……部屋に行かせて貰えるならな」
「それはいったい?」
疑問を持つタチア。そんなタチアをエテルに任せて俺は工房へ行く。ダリアを呼んで、やりたい事の一つ目を始める。
「マスター、こんな夜中に呼び出すとは……ムラムラを解消する為にこの場を選んだのならムードが有りません」
「ちげぇよ」
酒が入っているためか思わず馬鹿と言いそうになるが抑える。そんな事よりも、ダリアに手伝いを頼みたい事が有るからだ。
「コレからお前の鎧に使う反動推進機構……開発名『ジェットエンジン』の作成をやるから手伝って貰おうと思ったんだよ、ムラついてんなら部屋に──」
「何をしているのです、マスター。早く始めましょう!!」
……相変わらず現金な奴だな。
因みに、剣術指南役によるNTR展開は有りません(鋼の意志)
仮にその展開になるとしたら、名前の影響でタタラか幼馴染が尻を狙われます。剣術指南役は両性愛者で、好みがガッチリしたタイプなので()
両手剣『竜舌蘭』
物理攻撃力 150
魔法攻撃力 100
最大射程 1
特殊能力 『斬滅』『必要スキル:剣適性Ⅴ』
『斬滅』
防御力無視、耐性無視、防御効果無視。
ありとあらゆる防御を突破しダメージを与える事が可能、より上位に位置する概念でも無ければ刃を防げない。
現状は虎熊四葩が持つ『手毬花』の『不撓不屈』が有する『不壊概念』のみがこの刀の刃を受け止めることができる。
小鍛冶一華が有する『牡丹』も成長すれば受け止められる可能性は有る。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
-
タタラとエテルの立場逆転
-
現パロ(エテルヒロイン)
-
現パロ(四葩幼馴染)
-
武器が擬人化してタタラへ物申す
-
年増組と同い年
-
聖人カレハ
-
原作エテルとタタラ
-
ガチ妹ダリア・ジュロン