※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント継続中
『看板娘』イベント継続中


まさかの新事実

 一人寝の夜から明けて、顔を洗ってからリビングに入る。庭先には四葩と昨日泊まったタチアの二人が其々の得物を持って鍛練している。リビング内は閑散としていて、まだ他は誰も起きて居ないらしい。

 四葩の傍らにお義母さんが居ないこと、お師様が体操をしていない事に違和感が有る。昨日まで僅か一週間の間、馴染みの光景になっていたのだと再認識する。寂しいと、そう思ってしまった。

 首を振ってその考えを追い出して、台所に立つ。昨日来た当主代行がお土産として米を追加でくれたので、早速研いで炊飯器を起動。昨夜から仕込んでおけば良かったが、俺も一華も昨日は料理と給仕で忙しかったので気が回ってなかった。とは言え、余裕の有る量のビーフシチューをエテルに作って貰っていたので朝食は温めて出そうと思う。一晩寝かせて具にルウが馴染んだシチューは更に美味くなっている筈だ、ご飯に掛けるにしてはルウがサラッとしているがより絡むとも考えられる。俺はコレで良いと思うが、バゲットも用意して両方に対応出来るようにしておく。何となく、エテルやタチア等の此方の生まれはライスよりバゲットって意識な気がしている。

 と、作業に考えを割いている間に気付けば隣には一華が居た。あいも変わらずサポートが上手いのだが、一華もどうやら昨日迄の感覚が抜けていないらしい。

 

「おはよう、一華」

「おはようでござるよ、ご主人」

 

 軽く挨拶をすれば笑顔で返してくれる、朝から眼福な光景だが一つツッコミを入れねばならない。

 

「所で、今日はタチアしか客は居ないがその食材の数で合ってるか?」

「……あっ」

 

 何時も通り玉子焼きを用意しようとしていた一華に聞くと、毎日の手癖でやっていたらしくお義母さんとお師様が居た時のままで作っていた。卵が多く出されてたから何となく分かっていたが、随分と可愛らしいミスだ。

 

「うう、昨夜は雛菊も帰ってないでござるから単純に余らせてしまうでござるよ……」

「え、雛菊さん帰ってないのか?」

 

 コレは意外だ。もしやあのバカが頑張ったか、それともアルバードさん達に押し切られたか……進展してたら誂ってやろう。

 そうして準備エテルも起きてきたのでサラダの準備を頼む、準備が出来た料理達を卓へと運んでいく。

 

「おはようございます、マスター」

「おはようダリア」

 

 そんなタイミングで身なりを完璧に整えたダリアが入ってきた。

 

「……え?」

 

 あの寝坊常習犯のダリアが起きてきた!?

 

「え、ダリア起きれたのか!?」

 

 思わず声を上げると、エテルと一華も今気付いたようで驚愕の表情だ。対してダリアは涼しい顔、出来るメイドと言った表情で答えてくる。

 

「今日は私の新しい鎧の試験稼働なのです、コレくらいは当然ではありませんか」

「現金な奴だな……」

「普段は寝坊気味なのに遠出する時だと早起きになる初等部の子みたい」

 

 エテルの言葉があまりにも的を射過ぎていて納得する、このムーブは正にそれだ。前世だと日曜だけ早起きな子供だな、同時に大人になって働き出すと逆に休日は起きれなくなったのを思い出した。

 

「……ダリアが起きておると言うことは、妾達は鍛練に集中し過ぎたか?」

「ヨヒラ殿、流石にその扱いは……いえそうかも知れませんね」

 

 庭先から上がってきた真面目組からもこの扱いである、普段から寝坊してる姿を主に見せるダリアに対してなので残念ながら当然とも言えるが。

 改めて俺も時計を見直すが、やはりダリアが起きるにしては早い。まぁ、鎧の試験の為と言われたから納得の方が勝るが。

 

「取り敢えず、朝飯にしようか」

 

 俺の言葉に、全員が頷いた。

 

 

 ビーフシチュー等の煮込み料理を寝かせると言うのは、味を馴染ませる事に繋がる。管理を誤ると腐らせてしまいもするが、キチンとそれらに気を付けてやれば野菜や肉に味が染みるだけでなく、ルウ自体も具の味が馴染む。

 赤ワイン等で煮込むビーフシチューは初日だと若干葡萄の味が強いのだが、二日目以降はその甘味が鳴りを潜めてルウや具の味の方が勝ってくる。エテルは意図的に長時間煮込む事で下味として入れた野菜を溶かし込み、この状態を事前に持ってくる様にしているのだがそれでも寝かせて二日目以降の自然と味が馴染んだ物には一歩劣る。エテルのお母さんはこの辺りを解決していたらしいのだが、どんな魔法を使ったのやら。

 

「昨日食した時にも美味でしたが、今朝のは更に味が良くなっていますね」

「本当は昨日の時点でこうしたかったんだけどね、どうやっても味を馴染ませるのが早く出来ないんだよね」

 

 タチアの賞賛を受けるが、エテルは悔しそうに返す。俺としては昨日の馴染みきれて無い物も、それだけ鮮烈に味を主張して来るので嫌いでは無いのだが。

 スプーンでルウを一掬いして一口、昨日よりもより濃厚さを増したデミグラスソースの味が舌を包む。その奥から伝わってくる野菜の甘味と、肉の脂がコクと旨味になって口内を満たす。やはり美味い、ご飯と一緒に掬って口に含めば米の甘味が追加されてより豊かな味わいが心を満たす。一華の作った玉子焼きは塩だけの下味で、それがまたビーフシチューとよく合う。何時かオムライスかオムレツを作ってもらって、エテルのデミグラスソースで食べてみたいものだ。

 

「ご主人、美味しそうに食べてくれるでござるな」

「実際美味いんだ、エテルのビーフシチューと一華の玉子焼きも相性良いし……朝からこんな美味いもの食えて良いんだろうか」

「朝から全員分の食事を準備しているご主人だから良いのでござる」

 

 余りにも幸せを享受していて不安になるが、一華はその幸せを受け取るのは当然だと言ってくる。本当、心遣いが上手いな。

 

「そう言えば、タタラ殿は今日の探索に参加するのですか?」

「いや、今日は久し振りに店を開けるよ。買いたい物が有るって学園の同級生に言われたし、少し生活費を稼ぎたいのも有る」

 

 慎ましく生きるなら都市長が翻訳本に払った金と、特許料で問題は無いのだがやはり美味いもの食べたりエテル達の装備を整えたい。調子が良ければ100万単位で物が売れるし、一週間開かなかったので成金さんの傷薬も心配だ。

 

「それに、あのク……剣術指南役も今日から彼奴の鍛練を見るし緊急時は家に居たい」

 

 俺の言葉に苦虫を噛み潰したような表情をする四葩。やはり昨日いきなり俺に斬り掛かった事が腹に据えかねているらしい、残る面子としては雛菊さんが居てくれるがどうも雛菊さんよりもあの糞野郎の方が強いらしい……俺では底が見えないだけ有ってやはり戦闘能力はガチらしい。

 

「それならご主人、今日は拙者が残ってそちらを補助するでござる」

 

 俺の不安を汲み取ってか、一華がそう提案してくれる。心遣いは素直に嬉しいが、良いのだろうか?

 

「拙者、レベルが現状最大値でこれ以上はスキルのレベルを上げる事になるでござる。それなら態々潜らずとも、此方で磨ける故に大丈夫でござるよ」

 

 俺の心を簡単に読んでそんな風に言ってくれる。

 

「それに、いざとなればあの破綻者を抑え込める切り札も有るでござるからな。雛菊も居るでござるし、何とかするでござるよ」

 

 一華の切り札、もしかしたら本来の姿にまつわるものだろうか。どんな物かは分からないが、此処は頼らせて貰おう。

 

「分かった、頼んだぞ一華」

「御意」

 

 俺達のやり取りを見ていた四葩が少し考え込む。

 

「ならば今日の探索は妾、エテル、タチアの3人か。ダリアは鎧の試験でこの街から出るようじゃしの」

「私達3人ですか……懐かしく感じるメンバーですね」

「ある意味、このパーティの初期メンバーだもんね。タタラも忙しくてあんまり参加出来ないし、此方のほうが馴染みが有るくらい?」

 

 エテル、何気にエグいこと言うのな。

 

「気を付けろよ、ダリアが居ないから31階層以降は危ないからな」

 

 正直、四葩なら『手毬花』の概念に入っている『厄切』が仕事をして即死無効くらいはやるだろう。だが、他二人には概念武装が無いのだ。無理をさせたくない。

 

「なに、潜っても30階層の『オリハルコンゴーレム』を倒して終わりじゃよ」

 

 四葩の言葉に心配が残りつつも飲み込んで、リーダーとして務める四葩に転移結晶を渡す。

 

「……以前から思っていたのですが、マスターのその転移結晶の術式で簡易転移門は作れないのですか?」

「それがな、実はこれ転移術式じゃ無いんだ」

「……はい?」

 

 ダリアの質問に答えれば、頭に疑問符が出て来た。少し説明するか。

 

「転移術式のプロセスってのは多分、門と門の2点間の空間を歪曲させて門同士の距離を0にする物だと思うんだ。対して此奴は目標地点迄の障害物を突破して超高速で目的地に到着するプロセスで出来ている」

「……どう違うのかいまいち分からんのう?」

「移動する距離を短縮するのが転移門、移動する障害物を無視して高速で動くのが転移結晶だな」

「成る程……あの、これをどう応用して簡易転移門に?」

 

 俺の説明で疑問を持った四葩により噛み砕いて説明すればダリアが納得するも、この二つを組み合わせてどうやって簡易転移門になるのかに疑問を持つ。

 

「転移門の術式が分からないから確かな事は言えない、コレは俺が転移門を作った時に読み取れた術式からの想定だから確定した事ではないのは踏まえてくれ」

「よく分からないが、あくまでもタタラ殿の予想と言うことでよろしいか?」

「その認識で頼む」

 

 タチアが俺の言葉を要約してくれた。正直、迂遠な言い方になる悪癖はどうにかして治したい。

 

「一番の問題点は術式が消費する魔力量……と言うのも、転移門って消費する魔力が凄まじいんだよ」

「……具体的には?」

「今のエテルが一発で息切れ起こす、俺の魔力も込みでな」

「そうなると魔力換算で300から400くらい?」

「成る程、それは確かに負担が大きい」

 

 単純な話をするなら一度に『卵』が4つ必要と言われたらその消費量が分かるだろうか。コレが前提として有るために、個人で転移魔法を使える魔法使いは超一流判定を受ける。魔力総量に才能の有るエテルが諸々込みでようやく魔力の最大値が400を越えた所なのだ、おそらく他に使えそうな人はおっちゃんのところのオリーブさんくらいじゃなかろうか?

 

「それくらいに2点間の距離を繋げるって言うのは難しく、かつ魔力の効率が激烈に悪い。門っていう形にして場所を固定した上で特定の座標にのみにして、更に双方からの干渉で無理やり空間を繋げてる……みたいな物なんだと思う」

 

 正式に術式を解読した訳では無いのであくまでも予想の範疇だが、座標の指定等を使っている事から考えた物だ。それに、門の設置場所が空間の歪みが有る場所に指定されているのもこの考察の根っ子に有る。

 

「それではどうやってマーカーへ向かって飛ぶのでしょうか」

「そこで脱出に使ってる術式の出番になる」

「……まさかマスター、距離や空間を障害物と仮定して(・・・・・・・・・・・・・・)一方通行に空間を飛び越える(・・・・・・・・・・・・・)……なんて考えてますか?」

「よく分かったな、ダリア」

 

 コレはこの世界の魔法がある程度システマチックであり、かつファジーな物である為に思い付いた代物だ。お義母さんの術式に触れて分かったのだが、可能な限り細かく術式を組めば魔法と魔力は効率的に運用される。通常の転移門は行き先を複数に定める事が揺らぎに判定されてしまうらしく、コレが大型の転移門の魔力の消費が大きくなる理由だと俺は予想している。

 

「それでは先程の説明と矛盾せんかのう、転移結晶の術式では転移が出来ぬのではないか?」

「ああ、結晶の術式単体では(・・・・・・・・・)無理だ。だからこそ転移門の術式と併用する」

 

 さて、転移門が設置できる条件をおさらいしよう。

 ①術式を起動できる魔力を確保出来る場所。

 ②空間の揺らぎが存在する場所。

 この僅か二つの要素になる。術式の起動は外部動力で何とかなり、空間の歪みは魔力が大量に集まる場所ならそれなりの頻度で発生する。逆説的に、空間は大量の魔力が有れば歪みを生み出せる。転移魔法も術者の魔力を使って、無理矢理その場で空間の歪みを生み出して目標地点への空間を無理矢理繋げて移動すると言うプロセスになる筈だ。簡易転移門とマーカーはこの理論を応用する。所有者または魔導具の魔力を使い空間に歪みを作成し、一箇所にのみ指定した座標へ飛ぶ機能に限る簡易転移門。魔力を発して座標と共に空間の歪みを作り道にするマーカー。

 術式は用途を絞れば絞る程に魔力の運用効率を上げるのだから、特定座標にのみ飛ぶ簡易転移門の魔力消費は転移門よりも遥かに軽減される。

 

「──とまぁ、こんな感じになるな」

 

 掻い摘んで理論を説明すれば、ダリア以外が頭を抱えている。どうも難しかったらしい、俺も文章にして読まないと理解出来るかも分からないから仕方ない。

 

「マスター、机上の空論ではないのですか?」

「このままだとそうなる、だからダリアには悪いがお前の実家と此処の転移門を実験台として使わせて貰う……悪いな」

 

 考え込んでいたダリアが発した言葉に、コレから行う実験のテストを勝手にする事を謝罪する。本当なら昨日のうちにマーカーも作りたかったのだが、ダリアの魔導鎧と『料理長』の鮪解体包丁を作成するだけで限界だった。

 

「いえ、これも利便性と未来の新技術の為ならば我々機巧乙女は喜んで受け入れます」

「……大分チョロい種族だな、機巧乙女」

「一応注意しますが、これ程簡単に受け入れれるのはマスターの開発する魔導具くらいですからね?」

「まぁ、タタラの作る頓痴気な代物じゃからのう……新機軸でしかない故に先を見たくなるのじゃろうな」

 

 四葩が機巧乙女の内心を推測している、都市長やお義母さんも俺の理論を前に制作を依頼して来たし成功すれば技術革新が起こると判断したのだろう。

 

「なんというか……そのうち機巧乙女と言う種族から信仰を集めて神格を得そうですな、タタラ殿」

「怖い事言わないでくれタチア」

 

 流石に無いと思いたい……無いよね?

 

 

 そんな開発技術について彼是を話した後、エテル達探索組は出発した。俺と一華は二人で洗い物を終えて、俺は開店前の店内清掃を行う。一週間店を開かなかっただけでショーケースや壁に掛けられている商品が薄っすらと埃を被っていた。悪いなお前達。

 一華にバカや糞野郎が来たら庭先を貸すように頼み、シャッターを上げて開店する。そうして十分程して、早速来店者第一号がやってくる。

 

「いらっしゃいま……せ?」

 

 来店者は二人、一人はおなじみの成金さん。そしてもう一人は面識は有るのだが初来店な人。

 

「……うちは真っ当な商売をしていますよ、法務長」

「其処は疑っていませんよ、次期工匠長」

 

 なんと目立たない平服に身を包んだ法務長が来店して来た、成金さんは手首を掴まれていて逃げられなさそう。物凄く嫌な顔をしてる。

 

「……店主さん、傷薬を有るだけお願いします」

「かしこまりました、現在4879個になります」

「めっちゃ増えてる!」

 

 何時ものやり取りをして、数を聞いた成金さんは大喜びだ。此処一週間、キチンと作って貯めておいた価値は有った。

 

「お前、そんな買い方をしているのか?」

「常連さんとの軽いコミュニケーションですので、何時もこのやり取りから必要数を買って頂いてますね。個人的に結構このやり取り好きなんですよ俺」

 

 訝しげな表情を成金さんに向ける法務長へ俺が割り込む、お願いだから成金さんに文句を言わないで欲しい。

 

「あ、それでは今日は100個お願いします。店主さんのお店、次に何時やるのか分からないので」

「はい、分かりました。15000になります」

「ではコレで」

 

 何時も通りのやり取り、防具を勧めたいが今回は長期に渡って店を閉めていた俺にも非があるので無理に勧めない。

 

「お前、そんなに買うなら防具をな」

「お父様は黙ってて下さい!」

 

 法務長が注意をしようとしたのを成金さんが……って、今なんと?

 

「え、親子……ですか!?」

 

 成金さんの身なりから立身出世を目指して背伸びした服装や装備を求めた人かと思ったが、成金どころかガチ貴族じゃないか。法務長が今60代くらいとして、成金さんは20代前半……結構遅くに産まれた子供か。

 

「はい、遅くに出来た末の子供はどうも接し方が分からず」

「家督は兄様達が継ぐのでしょう、私は好きに生きさせて貰います。あの時許可は得た筈です!」

 

 中々に複雑そうな親子関係だな。本日の用件は行き付けの店を見学ってところだろうか?

 

「彼はパーティリーダーとして仲間達の物資を買っているそうなので、そんなに目くじらを立てないで上げて下さい」

「それは分かっていますが、パーティで盾の役割を担っていると聞きましてな。それなら自身の怪我を抑える方が先でしょう」

 

 法務長、正論だな。俺もその点を注意してようやっと防具を新調してくれたくらいだし。成金さんも以前俺に言われた事が有るからか、法務長の意見に反論は出来ない様子だ。

 

「仕方ない、此処は私が……」

「っ! 私はもう独立した身、甘やかさないで下さい!!」

 

 法務長がお金を出して買おうとしたのを、成金さんが止める。中々に親子仲が危うそうだ。法務長も拒否されて心做しか悲しそう……親からの愛情を受け取るのも親孝行、だよな。

 

「すみません、お客様。差し出がましいですがお話をさせていただきます」

「え、店主さん」

 

 失ってからでは遅いから、その前にキチンと想いを受け取る事をして欲しい。

 

「親孝行や家族の仲直りは、生きている間しか出来ません。失ってからでは遅いのです……だから、このお話を受けてあげて下さい」

「店主さん……」

 

 少し、胸の奥が痛んだ。原作ではこの二人を見なかったが、何かの拍子に二人とも亡くなっている可能性もある。それならば、少しでもその可能性を減らしたい。

 

「……お父様、店主さんの顔を立てて貴方の施しを受け入れます」

「……そうか、ありがとう」

 

 法務長は何処か安堵を滲ませてそう言った。探索者をやっている遅くに産まれた子供、そんなのは心配する以外にないだろう。過保護、だなんて誂える筈もない。この世界は前世とは比べ物にならないくらい命が軽いから。

 

「次期工匠長、この店で一番高い素材は何でしょうか?」

「販売を許されているのは魔鉄ですね」

「おや、次代の工匠長はミスリルやオリハルコンの扱いは無いと?」

「商会長及び都市長から販売は禁止されているんですよ、製作依頼ならアダマンタイトだろうが受けますけど」

 

 実際、昨夜はその辺で色々作ったしな。

 

「ふむ……魔鉄の全身甲冑は有りますかな?」

「ちょっ、お父様!?」

「その場合は製作依頼とした方がいいですよ、贈答にすれば鉄製品の製作依頼も何とか出来ますし」

 

 俺がエテルや四葩にミスリル製の装備を渡せているのがこの贈答及び贈与制度だ。所謂プレゼントなら問題無いと言う抜け道……最近は問題になってきたらしいから、そろそろ法改定が来る可能性も高いが。

 

「全身甲冑の場合は鉄のインゴットにして40kg分、小型の魔石も40個で技術料で別途鉄一つ辺りに3万頂きます」

「意外に安いですな?」

「これが最低値ですから、余所で作られたらもっと高くなる可能性は有りますよ」

 

 俺が技術料3万で受ける事、実は商会から問題視されてるらしい。以前、鳥型ゴーレムが運んで来た手紙に商会長の直筆の物が有って軽くクレームが入れられた。鉄の2倍の性質を持つと言う新素材を安売りするな、そんな内容だった。

 ミスリル加工の技術料から考えれば、俺は魔鉄の技術料を一桁は上げないと割に合わないのだろう。だが、俺は探索者の安全の為に技術料を最低値に定めている。

 この都市は確かにクラフターを中心に回ってはいる。しかし、最大の資源は人的な物なのだ。数はそれだけで力を持つし、中には超越者も産まれる事が有る。クラフターの発明は、そんな人達を守る事で結果的により多くの人々を守る為にある筈だ。少なくとも、俺はそう信仰してる。

 

「では、魔鉄の全身甲冑を2領(・・)お願いします」

 

 全身甲冑を2領と来たか。

 

「かしこまりました、ご使用になられるのは御二方でよろしいですね?」

「はい、私達二人分……ご依頼します」

 

 法務長、まさか自ら学生運動の時に動くつもりか?

 

「しかし、法務長はご自身の魔法金属製の武具を持っているものと思ってましたが違うんですね」

「以前はミスリルの武具は持っていましたが、今は家督を継ぐ長男に譲りましてな」

 

 成る程、そう言う事か。

 

「あの、店主さん……」

「今までの防具はそのまま持っていて下さい、新しい甲冑を整備に出してる間に探索に出るなら必須ですから」

 

 折角買った鎧と腕甲を使わなくなると思ったのだろうが、普通に予備として持っていないと危ない。

 

「では次期工匠長、鉄のインゴット80kg分と魔石80個になるので確認をお願いします」

 

 そう言って出された鉄のインゴットと袋に入れられた魔石。鑑定を掛けて数と偽物でない事を確認して受け取る。

 

「確認しました、それでは採寸させて頂きますね」

 

 法務長と成金さんの身体を測り、脳内のメモに数値を書き込んでいく。

 

「それでは料金240万になります」

「……あの、お父様。やはり私も」

「親なのだ、コレくらいの見栄を張らせなさい」

 

 止めようとした成金さんを制止して、240万の現金を渡してくる法務長。金額に誤りは無いので、仕事の受注が適った。

 

「それでは、何時までにお渡し出来ればよろしいでしょうか?」

「ふむ……無理を言うが、一週間以内は可能だろうか?」

「はい、なんなら明日に渡せと言われても……いえ明日は学園なので明後日ですかね」

「……すまない、なんと?」

「明日は学園なので明後日のお渡しと」

「店主さん、学園無ければ明日には渡せたって言ってません?」

「剣なら1時間も有れば作れるんですけどね」

『意味不明過ぎる』

 

 親子揃ってヒデェ言い草、まぁもう慣れてるんだけどね。

 あ、甲冑と言えば。

 

「法務長、あの鎧用のハンガーはどうしますか?」

「鎧用のハンガー……?」

 

 俺の言葉に成金さんは疑問を抱く、まぁ見てないとそうなるよね。対して法務長は目が光る……少年の心を無くさない人だし察するよね。

 

「作れるのですかな?」

「ポリシーとして作るなら専用のハンガーにしたいって思っているので、出来れば今回の魔鉄のか普段使いしている物の何方かを用意してもらえれば」

「では今回ので」

 

 追加料金を頂くと言えば、軽く60万とか出して来た。いや、そんなに要らないんだけど。

 

「いや、10万で請け負いますから……」

「コレは私なりの投資なので、是非とも受け取って貰いたい。さもなければ……」

 

 なんだ、何をされるんだ?

 

「この場で子供の様に横になってジタバタしますよ、みっともなく」

『本気でやめて下さいお願いします』

 

 思わず成金さんと声が揃った、老紳士の駄々っ子ムーブとか見たくねぇよ。渋々と追加の60万も受け取り、本日の売上が早速300万になる。快調と言いたいがなんか納得いかねぇ。

 

「ところで気になってたんですが」

「はい?」

「店主さんを何故工匠長と?」

「ああ、俺は都市長から次期工匠長の打診を受けてるんですよ。学園卒業と一緒に就任する予定です」

 

 成金さんの疑問に軽く答えると、ハトが豆鉄砲食らったみたいな表情になる。恐る恐る法務長の方へ顔を向ける成金さんに、肯定するように頷く法務長。

 

「嘘だ、私を騙そうとしてる……」

「残念ながら事実です」

「身近に複数の長が居たらこうもなりますかな」

 

 初めて知る事実を受け入れがたいと反応する成金さんに、俺と法務長は無慈悲にそんな事を返していた。

 呆然とする成金さんを伴って店から出ていく法務長を見送って、店番を続ける。

 

「や、邪魔するよ!」

「邪魔すんなら今直ぐ帰りやがれ」

「なんだよ、つれないじゃないか」

 

 少しして入店して来たのはバカに剣術を教えに来たはずの糞野郎だった、何しに店へ来やがった此奴。

 

「まぁまぁ、天目一箇命の直弟子の店なんて興味湧かない訳が無いじゃない。それに、あの包丁からちょっと欲しい物も有ってねぇ」

 

 ヘラヘラ笑いつつ、目の奥には真っ当な何かが見て取れた。ふむ、気になるな。

 

「で、あの鮪解体包丁から何を欲しくなったんだ?」

「なに、概念武装だよ。人を殺せない刃、ちょっと欲しいんだよね」

 

 成る程、殺さずの刃か。鍛練でも何でも、目前の刃狂いにとっては欲しい代物ではあるだろう。

 

「出来れば3本」

「あぁ、3本?」

 

 目前の糞野郎は二刀流だった筈だが、それが何故3本必要になる?

 

「君に頼まれた彼、ちょっと今のままじゃダメだね。刀を人に当てる感覚を持たないと、拙い事になるよ」

「……例えば?」

「この都市内で流れてる空気、何か有るでしょ。その時に人相手で刀振るえないと彼、死んじゃうよ」

 

 空気から学生運動の気配を感じ取ったのか、この糞野郎。腐っても虎熊家で剣術指南役を任されるだけは有るか。

 

「……分かった、不殺の概念武装を3本だな。明日までに用意する」

「おや、素直だねぇ」

「テメェがどうなろうとどうでも良いが、彼奴に何か有るのだけは許容出来ない。お前がどうなろうとどうでも良いが、な」

「2回も言うほど大事な事なの、それ?」

 

 何度だって言ってもいいぞ、お前がどうなろうとどうでも良いってな。

 

「代金は……」

「悪いんだけど、此方で使えるお金がまだ無いんだよね。だから、コレで」

 

 そう言って出して来たのがアダマンタイトのインゴット5個、相場を考えたら適正とも言えるか。

 

「承った、明日渡せるように用意する」

「あんがとね。いやぁ仕事に私情を持ち込まないお弟子さんで天目一箇命も鼻が高いだろうね?」

 

 いちいち苛つかせてくるな此奴、本当に糞野郎だ。

 

 出ていく糞野郎の背中を見送って暫く、次に来店して来たのが俺に次の開店を確認してきた同級生とその友人達だった。てっきり魔法使い用の装備で来るのかと思ったら、お出かけ用の私服らしい。白の半袖ブラウスに薄桃色のスカート、濃いデニールのタイツにローファーそして黒髪には花を象った髪飾りが映えている。髪形を変えた為、耳が少し尖っているのが見えた。どうも夜闇の眷属のハーフっぽい。

 

「お、おじゃっ! お邪魔ひまふ!!」

「いらっしゃいませ」

 

 何を緊張しているのか噛みまくっている。後ろから付いてきたパーティメンバーらしい女子達もあちゃーと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「本日は魔力触媒の製作依頼との事ですが、ご希望の物は何になりますか?」

「はい、少し特殊なんですが……」

 

 そう言ってインベントリから彼女が取り出したのは螺旋を描く角、一角獣の角とはまた珍しい。しかも大きさからユニコーンじゃなくて海獣である一角鯨かコレ。

 

「コレを使用して、その……剣杖をお願いしたいんです」

 

 また珍しい物を頼む人だな。

 剣杖とは読んで字の如く剣と杖の性質を併せ持つ武器だ、魔法術式の強化に分類される能力が武器としての性能より高い場合に呼称される場合が多い。この点で言うとタチアの『アンドレイア』や四葩の『手毬花』は材質の関係上剣杖に近い性質が有る。

 

「一角鯨の角で剣杖ですか……正直、お勧め出来ないですね」

 

 俺の言葉に俄に騒ぎ出す付き添いの女子達、やれ『出来ないとは何事だ』とか『実力不足で店を出すな』等と言われてる。しかし、目の前の彼女は真剣な顔をして俺を見てくる。

 

「理由をお伺いしても?」

「単純な話、一角鯨の角は魔力の触媒に向きません。硬くは有りますが、魔力の伝達率が低いんです」

 

 コレがユニコーンの角なら、長さにも寄るが槍の穂先として加工も出来ただろう。しかし、一角鯨の場合は芯材にミスリルでも入れなければ正直出来ないし、そうするなら完全にミスリルのレイピアを作った方がマシなレベルだ。

 俺の説明を聞いて手を口元に当てて考え込む、研究者に近い為だろう文句を言うのでは無く解決策を模索しているらしい。後、後ろの付き添い共煩い。ごちゃごちゃ言うならテメェらで作れ。

 

「……仮に、一角鯨の角を武器にするならどうしますか?」

「この長さなら刺突剣か、多少削って槍の何方か。お客様の場合、まだ杖みたいに使える槍の方がマシだと言わせていただきます」

 

 俺の言葉に更に考え込み、一つ頷く。

 

「それでしたら、此方の角は刺突剣に。此方、鉄のインゴットを芯材にして頑丈に仕上げて下さい」

 

 そう言ってインベントリから鉄のインゴットを出して来る、マジかこの子……鉄製品としてモンスター素材を併用しろって言ってる。いや、確かに認められてるけれど……裏技みたいな物だが。

 

「それと、多少高額でも構いませんので魔力触媒になる物は有りますか?」

 

 多少高額……ね、ならアレかな。

 

「多少高額でも良いって言うのでしたら、此方の『死霊王の衣』になりますね」

 

 そう言って、カウンターの後ろに展示されている『死霊王の衣』を指差す。目の前の女魔術師は目を細めて検分している。

 

「此方は……『リッチ』の素材で作られているんですか?」

「ええ、正真正銘『リッチ』の素材で作られた装備になります」

 

 さて、此奴の値段は前と変わらず250万だ。1学生の身分では中々に手が届かない金額だろう。

 

「お値段は?」

「250万になります、商会からのお墨付きですよ」

「……安いですね」

 

 本当、何者だこの子。250万を安いと判断するには、元の価値を知らなければ無理だ。現に後ろの付き添い達は『高い』と言っている、これは自分の稼ぎを基準にしているからだ。この『ワールウィンド』に残された記録ではオリーブさんの件を抜かして直近で80年前、そんな記録を閲覧する学生……同業者でも無さそうだが。

 

「安い理由は属性による弱点の発生からです」

「……死霊特性、ですか?」

「その通りです」

 

 死霊特性も知っている、と。魔術師の研究者より探索者の方が知っている事象だ。実は高等部の専門課程でもこの辺をキチンと覚えて無い学生も多い。基本的に学生では30階層を越える事がほぼ無いからだ。

 

「では何故この装備を勧めるのですか?」

「一つは魔法攻撃力の上昇、今回お求めになれなかった剣杖の代わり……とは言えませんがそれなりに効果が高いです」

 

 中堅の探索者が多少の無理で求められる値段と言うのを差引いても、費用対効果の面でかなり優秀だ。

 

「もう一つが先程の死霊特性ですね」

「……先程は安い理由と仰っていましたが?」

「ええ、80年前に出回った1000万と言う値段には見合いませんがその十分の一程の値段なら適正と俺は見てます」

「……その割には250万と2.5倍のお値段みたいですが」

「商会から引き出せた最低値ですからね、この値段」

 

 俺の言葉に目の前の女魔術師は納得の表情で頷いた。尚、後ろの外野達は値下げしろと騒がしい。いい加減出て行けよお前ら。

 

「でしたら、製作依頼とそちらの装備の購入をしたいと思います」

 

 そう言って、先ずは現金250万を出して来る。この子、何処のお嬢様だろうか。

 俺は金額を確認してから『死霊王の衣』を差し出す、女魔術師は直ぐに袖を通し……なんか匂い嗅ぎ出した。ちょっと顔を赤くしてるのはどう言う事だろう?

 

「えっと……製作依頼の金額なんですが」

「ふぇ? ……あ、いぇ!? これはそのっ!!」

 

 おう、直前迄の出来る女ムーブはどうした。ギャップがヒドイが、多分何方も彼女の素なのだろう。

 

「取り敢えず、一角鯨の角と鉄のインゴットを使った剣杖ですね。鉄の剣にオプション追加のお値段で15000になります」

「そ、相場よりずっと安くないですか?」

「まぁ、同級生の款って事で」

 

 多分、他の店に持ち込むと20倍くらいは金額を吊り上げられるだろう。鉄の剣ではなく、一角鯨の角剣として作成するだろうから。今回の依頼は鉄の剣と一角鯨の素材を併用した物なので、以前バカの鎧に対してしたような裏技である。ま、目の前の魔女っ子は集中が切れる前なら察してただろうけどな。

 魔女っ子から依頼料の15000を受け取る。そう言えば。

 

「受け取りの際の番号札です。自分が不在の際に別の者が店に居るかも知れないので、お名前を宜しいですか?」

 

 法務長と成金さんに続いての新規客なので、名前を控えさせて貰う。ダルマさんとかバカは顔見知りだから省いてるし、法務長には直接届ける事も出来るのだが目の前の魔女っ子の名前を俺は知らない。

 

「はい、カルミア・スキエンティアです」

「カルミア・スキエンティア様ですね……うん?」

「どうかしましたか?」

 

 待て、この家名……それにこの名前って事は。

 

「いえ、大丈夫です。なんでもアリマセン」

 

 【悲報】同級生が過去作主人公の孫【誰か助けて】




カルミア・スキエンティア

初代RPG主人公とサブヒロインの孫。『深く深い闇の先で』においてDLCにて名前だけ登場。リメイク版では顔出しもしている。
祖父に神殺し、祖母に魔女を持ち母親は魔法使いの権威。その為、一般人より自由に出来るお金は多いが母親の方針で研究や装備以外にお金を使う際はちょっとケチ。

もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり

  • タタラとエテルの立場逆転
  • 現パロ(エテルヒロイン)
  • 現パロ(四葩幼馴染)
  • 武器が擬人化してタタラへ物申す
  • 年増組と同い年
  • 聖人カレハ
  • 原作エテルとタタラ
  • ガチ妹ダリア・ジュロン
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