既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
無事に買い物と依頼を終えて嬉しそうなスキエンティアの姿を見ながら、彼女の祖父である初代RPGの主人公を思い浮かべる。
エロゲーなのに本格的なゲームシステムと、重厚なシナリオと練り込まれた設定で世に出されたタイトルの主人公。数多の魔神を殺し、その血と魂を喰らった果てに人を超越した存在。
と、書くと格好良いのだが実態は天然入ったボケ役。見た目は女と見間違う、どころかガチでゲーム内を越えて会社の作品を見渡してもダントツに美人に描かれていて人気投票ではヒロイン勢を抑えて5位以内に必ず入っている。
その上で神を殺せるくらいに強いとか、その剣技は美麗だと讃えられるギャップが凄い。相棒の魔剣に転じた魔神との応酬は軽妙、筆頭の使徒でありメイド長とは顔が並ぶと百合の花が咲いてるようにしか見えなかったりと散々ネタにされる。
だが、間違いなく会社の作品内でも最上位に位置する戦闘力の持ち主である。
神々から力を借りたとはいえお師様の『空裂』と同じ事を可能にした剣技と、それに耐えた肉体強度。複数の魔神や魔王を従属させて戦力にする魔力量。暴走したとはいえ、軍神様の加護を受けた数万の兵を塵に変える程の攻撃力。
テキストでの描写や実際の戦闘でも意味不明な強さを見せた『剣の魔神』と称される存在を一人で打倒した事、その際に敵から人界最強の剣士と称号を与えられた公式で最強と認められた主人公だ。尤も、主人公の中では最強だがより強い存在は他にも居る、例えば『天使長』とか。
DLCの追加イベントで確かに子供が居る事は分かったが、まさかこの『ワールウィンド』に孫が居るの迄は知らなかった。カルミアと言うのも、孫の名前として語っていただけで年齢が分かる要素は無かったと記憶してる。
そんな血統としてヤベェのが、俺の目の前で俺の作った装備の匂いを時折嗅いでいる事実。ダメだ、脳の処理が間に合わない。
兎に角、現実逃避を兼ねて製作依頼の期日を決めなければ。
「この剣は何時納品すればよろしいでしょうか?」
「ふぇ?」
袖を鼻に当てて深呼吸しているスキエンティアにそう声を掛けると、気の抜けた反応を返される。この子は何で匂いを嗅いでるのだろう、そんなに臭うかな?
「あと、えっと……明日で」
「明日……教室に持って行けば?」
明日は登校日なのでそう確認すれば、スキエンティアはようやっと気付いたらしい。
「あの、しょの……お願いしましゅ」
「めっちゃ噛んでるけど本当に大丈夫なのか?」
思わず接客用の仮面が剥がれる、何だか心配になる娘だな。
そんな俺の反応に対してスキエンティアは目をグルグルと回してそうな表情でアワアワしている。小動物っぽくて可愛いが、敢えて言おう。他の店で言ったら怒鳴られてたと思うぞこの製作期間。つか、他が店番してた時のための対策とか言って名前聞いた意味よ……まぁ明日教室に行った時に名前で呼べるからいいか。
「では明日、始業前にそちらの教室に持っていくから引換札を無くさないように」
「ひゃっ、はひぃ!!」
なんでこんなに緊張されてるんだろう、君に流れる血から考えて下手したらこの家の総戦力越えそうなのに。
帰り掛けに扉を開け忘れたスキエンティアが激突して鼻血を垂らしたので持っていたハンカチを渡して対応しつつ見送る、パーティメンバーは付き添いなのは分かってたが傷薬の一つも買わずに出てったな……スキエンティア以外は二度と来なくていい、マジで。
それから暫くして閉店の時間に差し掛かる、そろそろかなと店仕舞いの準備をしているとけたたましく扉が開いた。
「いらっしゃいませ……初来店ですね、班長さん」
「ハァ……ハァ……ハァ……す、すみませんタタラさん。どうしても売って欲しい物が有って」
肩で息をしつつ、滝のように汗を流して入店して来た自警団の班長さんが居た。制服では無く私服だが、今日が休みと言う訳では無く業務が終わって此処まで全力疾走して来たような雰囲気だ。
「大丈夫ですか、水持って来ます?」
「お、お気遣い……ハァ……ありがとうございます……っふぅ」
何とか息を整えた班長さんは何とか顔を上げた、疲れは見えるが目の奥には強い意志の光が見える。
「すみません、タタラさん。トリモチランチャーの小型連射式を買いたいんですが」
小型連射式トリモチランチャーは班長さんが一推ししてくれていた新型試作品のタイプか、個人的に買いたいと言うと多分自警団内では制式採用されなかったって事かな。
「いいですが、個人的に持っても仕事では使えないのでは?」
「いえ、団長の発案で団員各員は個人所有のトリモチランチャーを携行してもよくなりまして……なので自分のが欲しいかなって」
ふむ、制式採用された物より愛用の物を持ちたいのか。それなら売るのも納得出来る、彼等が生き残る為に使い慣れた物を手元に置かせるのは大切な事だ。
「今は在庫が無いので、作ってお持ちしますよ。自警団の詰所にお持ちすればいいですか?」
「え、その……いいんですか?」
「大丈夫ですよ、不定期に店をやってますし学園帰りに立ち寄って届けるくらいは」
コレは俺の落ち度だしな。今日の夜は概念武装3本と一角鯨の角を使った剣1本、魔鉄の甲冑2領に甲冑用ハンガー1台とトリモチランチャー1丁なんて中々に作るのが楽しい並びだ。
それに、班長さんのならこっそり改造しても俺の店でしかメンテしないからバレないだろうし。
「えっと、それじゃお願いします……代金って」
「商品と引換の時か、先払いにするかですね」
「あ、なら引換の時で……お値段って」
「新型で機構も複雑なので、30万ですね」
「うぇ、思った以上に高い!?」
因みに、従来の先込め単発式が15万で中折れ式が20万だったり……カートリッジ方式は35万と一番高かったりする。
「それじゃ、明日お願いしますね……お金おろしとかないと」
注文を終えた班長さんはお金を下ろしに帰って行った。内部構造にミスリルと魔鉄を使ってもバレないだろうし、ちょっとやそっとじゃ壊れない代物にしよう。ちなみに、俺の悪巧みで正式に金を取ろうとするとざっと計算して5000万程になると予想が付いた。ま、黙ってればバレ無いだろう。
班長さんを最後に店のシャッターを下ろし、売上を計算。法務長とスキエンティアの二人だけで550万越えとか言う俺が店を開いてから最高の金額である。他の収入でなら上回ってはいるが、店でこれだけ売れたのは初めてで嬉しい。ま、こんな意味不明に売れる事は滅多にないから次は20分の1でも売れたら御の字だろう。しっかりと清掃して、戸締まりを確認してからリビングへ向かう。
夕食の用意を始めようと思ったが、準備は既に一華が終えてくれていたらしい。温め直せば完了な味噌汁、下拵えが終わっている生姜焼きが置いてあった。一華の事だからこの後出汁巻き玉子を焼き立てで提供するつもりだろう、楽しみである。
庭先では日も落ち始める中、向かい合うバカと雛菊さんが居た。監督役として糞野郎も居るが、手に剣は無い。どうも雛菊さんのやらかしを止める為に、キチンと仕事をしているらしい。
「それじゃ、日も落ちて暗くなったから此処までにしよっか。雛菊はそこの弱いのを送って帰るように、弱いのは身体の筋を伸ばした後に檸檬の蜂蜜漬け食べてから着替えなよ」
……バカの呼び方が弱いのってのはムカッ腹が立つが、面倒はちゃんと見ているらしい。言って早々に帰り支度を終えて庭から出ていく糞野郎、俺の家では無く中枢に滞在するのが決まったらしい。
「……大丈夫か?」
「全身痛ぇけど、大きな怪我はねぇよ。あの野郎、口も人格も悪いが強さと指導力は本物だぞ」
檸檬の蜂蜜漬けを一つ取り出して口に含んだ後にバカに聞けばそう返ってくる、多分一度実力を見る為に立ち会ったのだろう……弱いのと呼んで居たが明確に戦闘者として認知している。多分、相当期待を寄せているのではないだろうか?
「雛菊さん、今日も」
「ええ、送るのは任せて下さい」
頼めば簡単に了承してくれた。何時も通りの気配なので進展は無かった様子、バカをチラリと見ればジト目で睨まれる。あの両親から援護貰って進展しないのもどうなんだよと思うが、二人のペースで進ませた方が良いかと半ば諦めの境地になる。
「そう言えば、今日はカーラの奴ちゃんと来たのか?」
「……カーラ?」
知らない名前である、ちゃんと来た……?
「……カルミア・スキエンティアの事か?」
「おう、そうだ。昔からお前の事を見てた割に踏み出せなかった奴だしな、会話出来て浮かれてたろ」
お前、知ってたのか。まぁ御伽噺にもなってる神殺しの孫と迄は気付いて無い様子だが、此奴の言う昔からってのは多分初等部頃の事だろうな。
「前からの知り合いなのか?」
「話し掛けられたのは初等部だが、お前と同じくクラスが一緒になった事はねぇな。お前の事だからガキの頃に誑したんだろうが、認知くらいはしてやれよ」
「いや、マジで知らんからな?」
仮に気付いてたらきっと今頃胃痛と友達だよ。あと、俺の事だから誑したってひどくね?
「あだ名呼びするくらいに仲いいんだな?」
「逆だ逆、取り巻きが呼んだあだ名を使わせてるからそれ以上の進展を望まれてねぇんだよ。アレで異性の距離感大分遠いぞ彼奴」
「女心は複雑怪奇だな……」
家名で呼んでる俺はどう判定されるものか、畏れ多くてお近付きになりたくねぇ。
そんなやり取りをしつつ、汗を流す為にシャワーを浴びれるようにバスタオルを渡す。バカはシャワーで汗を流してから雛菊さんと二人でカラー家へ向かっていった。二人とも奥手なのか中々に進展しないのは予想外だったな。
「ただいま!」
少ししてエテル達が帰ってくる、なんか何時もよりエテルが元気な気がする。
「タタラ、今日スキルが三つコンプリートしたよ!」
「いや、マジか」
三つコンプリートってかなり凄いぞ、何がそうなったんだ?
「あのね『解錠』と『盗む』それに『銃適性』がコンプリートしたよ!」
「成る程、納得したわ」
褒めて褒めてと雰囲気で伝えてくるエテルの頭を撫でてやると、嬉しそうに抱き着いてくる。チラリと見れば一華が自分の役割を取られたと言わんばかりの表情をしている、ペット枠かな?
「それで、次のスキルをどうするかって相談か?」
「うん、お願い!」
さて、エテルの方針だな。
「エテルは斥候として更に優秀になるのが良いと思うんだが、エテル自身はどうだ?」
「探索でより前に出れる方針って事?」
「その認識に近いな」
エテルは現状、スキル無しで前に出ている。上層階は特に問題無いのだが、下層に進めば進むほど敵の索敵範囲は広くなる。天然の身の熟しが一華も感心するレベルなのだが、この先それに対して更なる上乗せしないと危険に成るだろう。
「俺としては『忍び足』『隠密』『索敵』の三つかな」
「タタラ、エテルは飛んでおるのに『忍び足』の意味が有るのかのう?」
うん、普通にそこは疑問に思うよな。
「俺もそこは疑問なんだが、このスキルって自分自身の音を消すってスキルみたいでな……正しくは『消音』なんじゃねぇかとは思うが」
「……『忍び足』の方が聞こえはいいのう」
俺が選んだこの三つは『移動時に自身への敵の索敵範囲が狭まる』もの、『常に自身への敵の索敵範囲が狭まる』もの、『自身の索敵範囲を広げる』ものの三つになる。最前線を進むエテルにはかなり有用で、この先ソロで潜る事が有っても大丈夫な組合せだ。
そんな事を説明するが、エテルは少し不満そうだ。
「むぅ、ちょっとは攻撃力が欲しい」
「なら、今回は『索敵』をやめて『闇打ち』にするか」
「その『闇打ち』って?」
「相手の背後から攻撃すると弱点をより突きやすくなるスキル、だな」
ゲーム時代の説明よりも、現実に即した言い方に変える。エテルには『不意打ち』も有るので、アサシンビルドの攻撃スキルはコレで取得完了になる。
「なら、今回は『忍び足』『隠密』『闇打ち』の三つにするね!」
高らかに言いながらステータス画面を開いてスキルの取得をしていく、『忍び足』『隠密』『不意打ち』『闇打ち』が揃ったならあのコンボの話もするか。
「エテル、今のスキル構成で超火力が出せるやり方を教えるぞ」
「え、そんなの有るの?」
エテルの移動力も含めたコンボだが、『忍び足』と『隠密』で敵に気付かれず背後に回り『不意打ち』と『闇打ち』の効果で火力が3倍以上に上がる。実はコレ、初期レベルでも3倍は火力が出るのでスキルレベルが上がるとそれこそ無法みたいな火力になっていく。
「……話を聞いている限り、エテルが我が國の忍のようになっておらんか?」
「四葩、拙者もこのスキルの組合せ取らされたのでござる」
「何故タタラ殿はこの組合せを思い付いたのか……」
そりゃ前世のゲーム知識が下地だしな、ソロなら此処に『潜伏』も足してより確実に相手の背後に回る立ち回りをした。
「ふふ、コレで私も少しは強くなったかな」
「元から無法に強いだろお前」
コンボの話を聞いてそんな事を言うエテルに俺はすかさずツッコミを入れる。エテルは『性魔術』だけでもチートクラスに強いのだから、少しは自覚して欲しい。相手が此方を認識して無い事が条件なので『不意打ち』は下手すると魅了で前後不覚にしたら確定で入りかねないし。
「それとね、私も攻撃力を上げたいからもう一つ武器が欲しいんだよね」
「魔導銃をもう一丁、拳銃型用意して二丁拳銃にするか?」
「出来そう?」
「……まぁ、やってみる」
既に『ロニセラ』では倒せないタイプの敵も出ているし、打点を上げる為にも差別化もかねて実弾型の魔導銃を作るか。
そんな風にミーティングを終えて夕飯の時間だ、生姜焼きは俺が焼いて一華が玉子焼きを焼いてくれる。手を洗ったエテルがサラダを用意してくれた、ダンジョンから帰ったばかりなのに手伝わせて悪い。
出来上がった夕食を卓に運び、全員で囲む。
生姜焼きはやはり玉葱と一緒に焼いてこそ、そう思う俺は豚肉と玉葱を一緒に口に含む。醤油と味醂に料理酒、其処に生姜が加わった甘辛いタレの味。其処に豚肉の脂と玉葱の甘味が加わり、変わらずの美味さだ。サクッやプチッと言った食感に近い肉の歯応え、その後にしんなりした玉葱の食感が続く。
旨味を続けたいと白米を口に入れる。生姜焼きの味わいが和らぎ、白米の甘味と食感が口を満たす。噛めば噛むほど米の甘味が溢れて、タレの味と絡み合いより高位の旨さへと昇華されていく。
そのままでも満足だが、味噌汁を一啜り。お義母さんが当主代行に頼んでいたらしい鰹節や煮干しの出汁、馬鈴薯と玉葱の具が甘味を足してより豊かな味わいにしている。我慢出来ずに馬鈴薯を頬張れば、中に吸われた沢山の汁が溢れ出る。熱いのに弱い我が口ながら、この美味さからは逃れられない。ハフハフと口の中へ空気を送りながら、馬鈴薯を咀嚼して嚥下する。
汁物で口を濯いだ後は副菜の出番だ、一華が焼いてくれた出汁巻き玉子を一切れ摘んで食べる。中までしっかりと焼かれていながらも、フワフワとした柔らかな食感。出汁を閉じ込めた玉子は噛み締めるまでも無く口の中で解けて、丁寧に取られた出汁の旨味を伝えてくる。
白米を食べつつ、エテルのサラダにも手を出す。レタスとスライスした玉葱、シンプルだがこう言うので良い。こう言うのが良い。瑞々しいレタスの食感、含まれた水分の甘味。水にさらされて辛味を少し抜かれた玉葱の味がいいアクセントになる。このままでも良いが、小分けにされていたエテルがどうも朝に用意してくれていたらしいバーラル家のシーザードレッシングを掛けて更に粉チーズを少量追加。濃厚な玉子や牛乳の旨味が追加され、さっぱりとした野菜とコッテリしたドレッシングの対比が素晴らしい。クルトンや揚げ焼きしたベーコンが有っても美味かっただろうが、今日の主役は生姜焼きだ。
ドレッシングがタレと混ざるも、互いに主張しつつも別の美味さに昇華されている。我慢出来ずにご飯をおかわりして、最後まで楽しんだ。
そんな楽しい食事を終えてから、タチアが帰る時間になる。
「明日、エテル達はどうするんだ?」
「うーん、探索は休もうか」
エテルの意外な言葉に対して反応が遅れる。
「そうですな、明日は授業の後はタタラ殿の家の庭先でヨヒラ殿達と少し鍛練をしましょうか」
「ふむ、偶には良いかも知れんのぅ」
3人とも何故か乗り気だ、どうしたんだろうか?
「タタラさ、工房に今日コレから籠もるでしょ?」
「なんで分かるんだ?」
「勘だよ」
エテルの勘って怖いな、俺に対しては的中率100じゃん。
「仕事受けて作るんでしょ?」
「ああ、そこそこ多い」
多分、一般的なクラフターだと半年は時間取られるくらいは。
一晩で終わる数では有るけど、あくまで俺基準ってだけだしな。
「洗い物はやっておくから、ちゃんと作ってね。私、タタラが誰かの為に物を作るのが大好きだから」
「……それじゃ、頑張るしかないな」
エテルに応援されて、モチベーションが上がる。今なら製作時間の記録更新も出来そうだ。
「ご主人、夜食が要るなら言って欲しいでござる。おにぎりくらいは用意するでござるよ」
「その時は頼む」
3人が探索を休む理由迄は聞けず、俺は工房に入る。ただ何となく、俺が離れる直前に3人の顔が少し険しくなっていたように思えた。
気力の有る内に難しい物から済ませてしまおう。先ずは糞野郎から依頼された概念武装3本、初対面時にへし折った刀2本を脳裏に描いて作刀を始める。
素材はミスリル、かつての『厄切』と同じ様に最初に一本長い刃を作って分割する方法を取る。通常の3倍の長さになるので、一番最初に自分で作った古い炉を使う。これは前世で好きだった漫画の剣を作る目的で作った炉で、内部の広さはかなりの物になる。ドラゴンを殺せそうな剣、剣と呼ぶには大きく分厚く重く大雑把な物を作るためには相当デカくなければ無理だと全力を出した炉は、通常の3倍の刃を問題なく迎え入れた。
正直、『真具呂』や『真黒蘇』の様に特定の物だけを切れる形にすれば良いのだろうがそれも難しい。何を斬るように定めるか、それを誤ると途端に相手を傷付ける。不死者や幽体を斬ると定めれば、長命種を不死者認定したり肉体では無く魂に傷を付ける武器になりかねない。何故だかよく分からないのだが、幽体を斬るのはあの糞野郎がドヤ顔で『僕の剣はね、肉体じゃない……魂を斬る剣なんだよ』とか言い出す姿が浮かぶ。糞野郎は顔と声は良いので似合いそうだが、俺がムカつくから絶対にやらせん。
斬れない対象を絞るか、逆に切れる対象を絞るか。鍛練にだけ使用するならそれこそ斬れない対象を『生者』に限ればいい。しかし、あの糞野郎は多分汎ゆる場面で使う。この世界、理性的な幽霊とかも居るのでそういった対象に斬り掛かられたら目も当てられない。細かく考え過ぎるとドツボに嵌る中、ふと考える。
俺は何故、斬れるか斬れないかで悩んだのか?
斬れる斬れないではなく、殺せない刃が必要だった筈。そもそも、あの包丁ですら水生生物に特攻を持つ代わりに他が斬れ無いだけでもう一つの『生命賛歌』が手加減として相手を殺さない物だった筈だ。それなら、その組合せをやってしまえばいい。
対人特化の概念、そして『生命賛歌』の組合せ。人体は斬れてもいい、その代わり殺さなければいいのだ。
心が定まり、確かな想いを込めて鎚を振るえる。全長3m程の刃を打って、3分割。2本は双刀、1本は純粋な打刀。そうして出来上がる3本の刀に『鑑定』を掛けるが、その情報は読み取れない。
「……『太郎丸』『次郎丸』、『慈悲丸』かな」
かなり適当に名付けたが、きっちりと何かが繋がる感覚がして存在が固まった。改めて『鑑定』を使用すれば、うまく行ったのが分かった。
双刀『太郎丸・次郎丸』
物理攻撃 80
魔法攻撃 75
最大射程 1
特殊能力 『人類種の天敵』『生命賛歌』『二刀一刃』
……流石に名前が物騒過ぎないだろうか?
なんだよ人類種の天敵って、黒い鳥か何かか?
改めて調べると、俺の『真具呂』が持つ『海鮮切り』の人型生物版だった。一番の問題はこの人型生物と言うところで、およそ人の特徴さえ有れば雑に人類種判定をするようだ。それはつまり、この世界の神々も対象に入る……これもしかして追放案件じゃね?
何となく振り返るが、そこに『天使長』は居なかった。いや、確定したら何か考える前に『天使長』に刺されてるだろう。あまり見ない『二刀一刃』はこの能力を持つ武器をそれぞれの手に持つと、スキルの効果の『デュアルウェポン』で攻撃力の低下が起きない物になる。あの糞野郎の武器に有る意味で相応しいか。
そしてもう一本、打刀の『慈悲丸』を『鑑定』する。
両手剣『慈悲丸』
物理攻撃 90
魔法攻撃 60
最大射程 1
特殊能力 『人類種の天敵』『生命賛歌』『慈悲』
此方は此方で変な能力が付いていた。『慈悲』……コレも汎用能力で、攻撃した対象を回復させる能力だった筈だ。自分で斬って傷付けて、殺さずに回復させる……マッチポンプだろうか?
まぁ、それはそれとして3本とも刀装具を装して完成だ。
次に作るのは甲冑2領、成金さんと法務長用の物なので気合が入る。実は詐欺になるが、二人の甲冑……と言うか法務長の鎧に40kg分の魔鉄を使うつもりは無い。と言うのも、加齢でスタミナが落ちている法務長に重い鎧を長時間纏わせるのは難しい。あのシスター・カレハですら筋力や速さはそのままだが、一分の全力行動で息切れを起こすのだ。必然、法務長もその可能性が高い。
だからこそ、俺は法務長の鎧に可能な限りの工夫を施す。魔鉄を20kg作り、鍛造する。あいも変わらず硬いし魔力は通らないしでキツイが、キツイだけだ。打ち上げた鍛造魔鉄を更に加工、ハニカム構造を作る。曲面装甲を作りつつ、全身甲冑を作成。反重力術式を刻めば重装甲でもいけるかも知れないが、アレは魔力を消費し続けるので長期戦には向かない。タチアやダリアに使っているのは本人達に常軌を逸した魔力量が有ることと、循環させる事で最大値を削りつつもそれだけで済ませているからだ。法務長の戦いを知らない身として、勝手に魔力の最大値を削る訳にもいかない。
全身鎧『魔鉄の甲冑・軽』
物理防御 30
魔法防御 18
玄武の前身、黒鐵よりも硬い甲冑が出来たな。この防御力なら普通に何とかなるだろう、少なくとも致命傷を受ける事はそうない筈だ。華美になり過ぎない様に茨の紋様を刻む。
続いては成金さんの分の甲冑に移る。此方は素材はそのまま使い、作成は同じ鍛造。ハニカム構造を取り入れつつ、重要な器官を守る個所は装甲の厚みを増した。そうして出来上がる成金さんの甲冑、法務長のとは違い一切の飾り気を無くした質実剛健を絵に描いた様な甲冑だ。
全身鎧『魔鉄の甲冑』
物理防御 40
魔法防御 20
速力 −5
流石に重いらしく、速力の低下が見られる。それでもかなり防御力は高い、これなら成金さんのパーティメンバーも安心出来る筈だ。
法務長の甲冑から抜いた10kgの鉄を魔鉄化して、鍛造。長剣と大剣そして盾、三つを仕上げた。それでも鉄と魔石は5kg残ったので、これは返却しよう。
一般的な長剣とカイトシールドは法務長用、そして大剣は成金さん用の特別仕様だ。幅は広く、一般的な剣の3本分。厚みは2倍で長さは一般的な物より2割増でデカい。名称はシールドソード、盾として主に使う成金さんの為の身を守る為の剣だ。
続いては班長さんのトリモチランチャーだ。とは言え、内部機構の変更等はない。やるのは素材の置換のみ。心臓部の機構は全てミスリルに、その他基礎フレームの素材は全て魔鉄で作成する。消耗品であるギア等は通常の鉄だが、鉄である為に交換時の値段は安くなる。銃把や銃床にはオーク材を使用、銃把には溝を掘り握りやすくして保持力を高める。魔鉄化の影響でメタルブラックな外観と、内部構造のミスリルの銀が映える。特別感増々の逸品だが、班長さんは気に入ってくれるだろうか?
最後の仕事としてスキエンティアの剣の作成である、あの神殺しの孫とか本当は相手にしたくないが……一度受けた仕事は最後まで責任と誇りを持てよ俺。
一角鯨の角を一度磨く、元からある程度綺麗にはされていたが細かいゴミなどを落とす。曇りが取れ、乳白色になった表面に砕いた魔石を混ぜた薬品を塗り込み乾燥させる。『クラフト』スキルで手早く乾かして、次に鉄のインゴットを加工する。鍛造して多角形の一本芯に仕上げ、一角鯨の角の中に差し込む。差し込んで少し飛び出た芯の下部を包むようにして鍔と柄を取り付けて完成。
片手剣『鉄の剣』+8
物理攻撃 6+8
最大射程 1
ただの鉄の剣として見るならかなり強力な代物では有るが、魔力触媒として全然まったくこれっぽっちも力の無い武器だ。
何となく後味が悪くてミスリルを取り出して鍛造、剣杖を作成してみる。
特殊『ミスリルの剣杖』+3
物理攻撃 16+3
魔法攻撃 20+6
最大射程 1
思ったよりも良い物が出来て困惑している、流石に専用に作った物には負けているが普通に中堅の探索者が持ってても問題無いレベルだろう。魔法触媒の作成は本当面倒だ。
エテルの魔導銃は一旦保留にする、何となく構想は有るのだがいまいちしっくり来ないのだ。いっその事、英国国教騎士団な漫画に出て来るラスボス系主人公の
早速作成開始で、あの糞野郎から代金として貰ったアダマンタイトで機関部を作る。複雑な機構は必要無く、弾頭は加速術式で威力を発揮させる。拳銃型の
霊核は無いので、代わりに『卵』を圧縮して銃把に埋め込む。正直、実弾型なので魔力の消費はそこまででは無いが少しでも継戦能力を上げたい。弾丸を撃ち出すのを圧縮した空気により代用して、加速術式で補えばある程度特殊な弾頭を撃ち出す事も対応出来るだろう。銃把に弾倉が入ってないからこその構造だ。
口径は13mm、前世での最大口径レベルにする。此方ではコレだけ無いとゴブリンにすら通じるか怪しいのだ。
外観に魔法術式を刻み、内部の機構を冷却出来るようにする。コレで連射をしてもある程度は持つ筈だ。
そうして出来上がる魔導銃。全長約27cm、重量約2kg。装弾数6発と前世に有ったら色々言われそうな代物だ。
「……そうだな、お前の名前は『グロリオサ』だ」
出来上がった魔導銃にそう名前を付ける、何かが繋がる感覚がして魔導具が出来上がる。
魔導銃『グロリオサ』
物理攻撃 40
消費魔力 10
最大射程 5
特殊能力 『特殊弾頭使用可能』『必要物理攻撃力:30』
うん、消費魔力と攻撃力が見合ってない。いや、物理攻撃力が必要って事は反動が大きくてステータスに見合ってないと命中補正が下がるタイプかコレ。
「……エテルが気に入るかな、大分ゴツいし」
アダマンタイト特有の星空を閉じ込めたかのような黒く煌めく外観に、青く光る魔術式。個人的には好きだが、男の子が好きなヤツ過ぎて自信が無い。
「そんなに自信ないの?」
「そりゃ、ロニセラは白銀で綺麗な見た目だからいいが黒は流石にゴツすぎ……ん?」
独り言の筈の呟きに、声が掛かる。振り向けばエテルが俺の手元を覗き込んで居た。
「……何で?」
「お風呂一緒に入ろうかなって」
どうやら風呂へ呼びに来たらしい、タイミング悪いな。
「ところで、それが私の新しい魔銃?」
「あ、ああ……実弾型魔導銃の『グロリオサ』だ」
「へぇ、花言葉は?」
「栄光、華麗、勇敢、頑強、天分」
「結構多いんだね……で、それだけ?」
「……燃える情熱」
「ふぅん……なんの情熱かなぁ?」
俺から聞き出した事をイタズラっぽく笑いながら問いかけるエテル、その手は俺のお預けされて溜まってしまった下半身に添えられている。
「いや、特殊弾頭が燃やす物だからの選択で……」
「……それは本当なんだね」
おう、嘘発見器かよ。下手なこと言えねぇな。
「それじゃ質問するね?」
「あ、いや……」
「エッチしたい」
「超したいです」
その質問は卑怯だろうがよ。そう思ってるとエテルはクスクスと笑ってから言った。
「続きはお風呂で、ね♪」
この場で押し倒さなかったのは俺の理性が強かったからなのか、逆に本能が勝ったのかは分からない。
「ただいまおかあさ……またそんな格好してる」
頑丈な造りの扉を開け、帰宅の挨拶をするカルミアの声が途中で咎める物に変わる。彼女の視線の先、ソファに寝そべる半裸……にほど近い女性。下着の上に布を巻き付けたような独特のファッションをしたカルミアの母は、緩慢な動きで応える。
「おかえりなさい、ルミ。今日は片想いの彼を押し倒せたの」
「何言ってるの!?」
からかい混じりに母親から言われた言葉に身体全体を紅潮させながら返すカルミア。初等部の頃から片想いをしているタタラに対して今日は沢山話せたから進展、とか思ってる彼女には無理な話である。現に帰り掛けずっとタタラ作の『死霊王の衣』の匂いを嗅いで妄想していたムッツリスケベだ、事に及ぼうとしたら鼻血吹いて気絶が精々だろう。ヘタレ。
「ルミは私に似てスタイル良いんだから、脱いで迫れば一発でしょ。特に高等部の肉食な年代なんて」
そう言って自らの胸を下から腕で持ち上げるカルミアの母、サイズにしてEは有るだろう。尚、娘のカルミアは現在Dで絶賛成長中である。
「た、タタラくんはそんな人じゃないもん……」
尚、ガッツリパートナーとヤッちゃってます。
「はぁ……それより、ルミはコレに興味有るかしら?」
煮え切らない娘の態度に溜息を零しつつ、一つの書状をカルミアに投げる母。飛んできたそれを受け取り、目を通す。
「……新型加熱器のテスト?」
「そ、都市長から新プロジェクトを兼ねてって事で送られて来たのよ」
わざわざ新型とは言え加熱器のテスト、それを新プロジェクトを兼ねた物とは大分怪しい。そう感じるカルミアだが、同時にコレだけ大事にするのだから余程な代物だと言う事も察する。
「面白そうだね、参加したいな」
「なら、私の方から参加で送っておくわね」
そう言って一体の鳥型ゴーレムを呼び出して、都市長の下へ送る。当たり前だが、嫌がる素振りは見せない。
「……それで、魔法触媒の作成を頼みに行ってなんで『死霊王の衣』なんて言う特級の装備を持ち帰ってるのかしら?」
文献では80年前に1000万と言う超高額で取引されていた代物の筈で、カルミア母は娘に渡している金で買える物では無いと察していた。
「うん、これはタタラくんがね……」
そうして話される娘なりの恋バナに耳を傾けるカルミア母、安くなった理由や勧めた理由等を聞いて優しい子だなと感想を抱く。何より、娘の依頼に対して真摯に説明してる点も評価できた。ただ、漏れ聞こえてくる友達……と言うか取巻きに対しては人を選ぶようにと言いたくもなるのだが。
「……ねぇ、ルミ」
「え、なにお母さん」
「今、楽しい?」
「うん、とっても!」
母親の唐突な質問に明るく応えるカルミアに、笑顔を向ける母。彼女にはとても言えなかった、祖父が二人とも都市祭に合わせて来訪すると言う厄ネタを。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン