既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
連続更新ならず……申し訳ありません。
前話のあとがきに没案を載せてますが読まなくて大丈夫です。
体力・魔力・技力の全てを奪われ動く事も叶わないスィーブ、その首へ腕にマウントされている魔導剣を突き付けるダリアを筆頭に周囲を戦った人員で囲む。重傷を負った人には傷薬を渡しているが、侵入された時の衝撃を受けて耐えられなかった人達も少なからずいた。その遺族の人達を自警団の人達が沈痛な面持ちで場から離して行く中でも、班長さんを筆頭とした戦った自警団の人達の放つ怒気は凄まじい。
表面上は冷静に努めている一華だが、目の奥には燃えるような怒りが見えた。俺と出会った時に最初に食べた串焼きの店主、彼は近くに居た子供を庇って帰らぬ人となってしまった。クラフトドリンクの店主は腕に後遺症が残る程の怪我をしていた。思い出の味は二度と口に出来ない、その事を知って一華は激情を抱いた。
雛菊さんは偶にこの商店区に訪れて買い食いしていたらしく、知り合いが多かったようだ。怪我をした人達の殆どが知り合いらしく、今でこそ刃を納めているが……何か動きを見せたら即座に斬るつもりなのは見て取れた。
糞野郎は先日来たばかりだから思い入れは無いのだろうが、行動を起こせば即座に斬れると楽しみに見ている。
バカは……いや、俺達は昔からこの街に住んでいる故にこの辺が馴染み深い。少なくない思い出が有った。いい事も悪い事も、沢山経験した。そんな場所を破壊され、怒りを抱かない理由が無い。バカには糞野郎から依頼されてた『慈悲丸』を渡して死なずとも確実にその身を傷つける手段を与え、俺も砕けたとしてもその防御を貫けそうな剣を手に持っているくらいだ。
「……あら〜、私はどうしたのかしら〜」
決着から十分程が経った頃だろう、スィーブが目を覚ます。囲んだ面々が一斉に戦闘態勢に入る中、スィーブがダリアを見てしばし考え込む。
「貴女、前に我等が主の信徒入りを断った子ね〜?」
「いえ、お前のようなムカつくトリモドキなど知りませんが?」
スィーブの言葉に訝しみながら答えたダリア、その反応にスィーブは首を傾げて言う。
「あら〜人違い〜? でもでも〜そっくりなのよ〜」
そう言ってスィーブの手元に空間の揺らぎが見える。武器を取り出すのかと思ったのは一瞬、その手に握られていたのは小さな宝石にも似た何かだ。
「ほら〜これ、貴女のでしょ〜?」
黒く輝くそれは、乾いた血のような物が付いていた。その物体は、ダリアによく似た魔力を放って──
「おっとぉ、駄目だよ駄目駄目」
瞬間、糞野郎のその声と共に俺の右手の手首が掴まれた。少し意識が飛んだが、何故俺は剣を振り上げていた?
「……それは、私の核ですか」
「ええ、主の信徒にならないのに勿体無いでしょ〜?」
ダリアの表情は俺の目には分からない、背中しか見えないからだ。しかし、その声が震えていたように感じた。
「主の敵になるくらいなら〜私達が有効活用する方がいいから〜」
その言葉を聞いて、ダリアがどんな思いを抱いたかは分からない。しかし、無言で魔導剣を起動させてチェーンブレードを作動させたのだけは確かだ。
「……マスター、許可を」
声音は冷静だが、だからこそダリアの怒りが感じ取れた。正直俺も許可を出してしまいたい。
しかし、そうはいかなかった。
「お前達、待ってくれ!!」
そう言って此方に近付いてくる一団が有った。声を上げたのはおっちゃんで、その後ろにはパーティメンバーとタチアが居た。
「……何を待てばいいのですか、防衛長?」
此処は敢えて役職で呼ぶ。此処での発言には責任が伴うのだと言外に伝えれば、おっちゃんも一瞬固まる。しかし、直ぐに頭を振って意識を切り替えた。
「其奴は確かに不法入国を行い、犠牲者を出した。しかし、他国の重要な役職に就いた重鎮でも有る!」
成る程、他国との軋轢か。それは確かに気にすべきなんだけど、この場に居る人間が納得出来るかはちょっとね。
「……確かに、それは難しい問題ですね」
「ああ、分かるか坊」
「うん、分かるさ。俺も次期工匠長としてはその手の政治的感覚を持てって都市長から言われましたからね」
おっちゃんが少し安堵して溜息を吐いた、何を安心しているんだろう?
「それなら今日此処で犠牲になった人達への賠償、補填はこの場で確約してくれるんですよね?」
「……は?」
俺の言葉におっちゃんが呆気に取られる。俺とおっちゃんの様子を見ていたダルマさんが難しい顔をしたし、ナルキさんも口出し不可と言った雰囲気だ……オリーブさんは分かってなそうだけど。
「賠償と補填だよ、今日此処で怪我をした人や店を失った人……亡くなった人達の為にそれは確約して貰わなきゃならない」
「坊、それは……」
「おっちゃんさ、コレを生き残らせる事を決める政治的な要素を被害者に納得させる事は出来る?」
俺は次期とは言え工匠長と言う立場に居る、この都市の重鎮に数えられる1人だ。その人間が被害を受けて尚、政治的な問題でなあなあにする……その事にどれだけ問題が発生するのか。そして、そんな人間が率先して被害者の為に声を上げている事の意味。
「親を亡くした子供が居た、恋人を失った人も居る、子を奪われた親だって……その人達に、政治だからと納得させられるかを聞いてるんだよ!!」
駄目だ、直面してしまったから感情が抑えられない。俺の傷薬で助けられた人も居るが数としては半々と言ったところだと班長さんが教えてくれた。それでも、傷薬が無かったらもっと被害は多かったと言われた……どうして俺はコレを即時排除出来る実力が無かったんだ!!
「罰さないなんてのはあり得ない、何かしらの咎を負わせなきゃ納得出来ない! 喪った人、傷付けられた人達の前で何も無いなんて言って納得してもらえるのかよ!!」
おっちゃんは口を閉じている、何か言える雰囲気でも無いだろう。下手な事を言って失言に繋がれば立場が悪くなる……この都市の防衛を司る防衛長が、だ。
「坊、そのスィーブが都市で暴れている時に俺が動けなかったのは俺の落ち度だ。すまない」
おっちゃんが謝罪と共に頭を下げる。違う、あんたが動けなかった事が問題じゃ無いんだよ。
「其奴が此方に来る要因、それも俺にある」
……待て、何だって?
「……コレが此処に来た理由が、おっちゃん?」
「正確には、俺が頼み事をした」
おっちゃんが頼み事、天使族……いや待て。
改めてスィーブを見る。蜂蜜色の髪と閉じられているから分からない瞳の色。視線をタチアに向ける。赤と金が混ざった髪、蒼色の瞳……赤い髪と青色の瞳は過去作で前皇帝の親友と嫁入りした妹の色だ。その血にこのスィーブの蜂蜜色を混ぜたらこうなるのではないか?
「……お前案件かよ」
思わず空を仰いで顔に手を当てる。
原作でこのスィーブが探しに来た娘、それはタチアその人だった。
取り敢えず、投獄する事は確定した。魔力波でトリモチや牢を破壊されないように、その場で新しいトリモチを作成する。従来のトリモチに砕いた魔石ととあるスライムの成分を混ぜ、触れている対象から魔力を奪い魔石として周囲に生み出すと言う強い魔力を持つ存在専用の代物だ。スライムが手に入らない為に量産は効かないが、今回のスィーブにはピッタリの逸品だ。
「……何かしら〜身体から魔力が抜ける感覚がするわ〜?」
霊核の影響で呼吸するうちに魔力が回復しているのだろう、それを阻害して10分おきに大小様々な魔石が生み出されていく。
「お前が暴れない様に処置をしただけだ、殺されないだけマシだと思え」
「何で〜私呼ばれただけなのに〜!」
ぶっ殺してぇ。
しかし、此奴がこの都市に来た責任は俺に有る。俺がタチアの鎧の翼に説得力なんて持たせようとしなければ、此奴は此処に来なかった。俺があの悲劇を生み出したんだ。
「……坊、あんなトリモチ作れたのか?」
「さっき思い付いてやって成功しただけ、成分としては取り付いた相手から魔力を奪うスライムと魔力伝達率を上げるために砕いた魔石を配合しただけのやっつけ仕事」
俺の言い分を聞いてドン引きしているのはナルキさんだった、高い魔力持ちには天敵みたいな代物らしい。オリーブさんは興味本位で突撃しようとしてダルマさんが小脇に抱えて止めた。
「ね〜ローガスからも何とか言って〜!」
「いや、あのな」
「お前、おっちゃんの手紙の通りに入管通れば問題無かったのにそれを無視した結果が今だろうが。人界のルール守れねぇなら天界に帰って引き籠もれよ」
おっちゃんが何か言う前に言葉が飛び出した、かなりムカッ腹が立ってて感情がコントロール出来ねぇや。
「どうすんだよコレ、タチアの天使の翼に対する印象が0どころかマイナス方面で天元突破。排斥排除の数え役満にリーチしてんぞ」
「坊、何言ってるか分からんから分かる言葉で言ってくれ」
「『吸血鬼』と『死霊王』が同時に現れて『魅了』状態にされた挙句に即死魔法の準備されてるようなもの」
「終わってんじゃねぇかよ」
だからそう言ってんだろ。多分、翼を持ってるなら雛菊さんの活躍から鴉天狗の方は逆にどんどん受け入れられていくだろう。何なら今回でエテルが夢魔や悪魔族のイメージを良くしてるし、ダリアの活躍は機巧乙女を受け入れる土壌になるだろう。
天使族だけヘイトの溜まりが異常になるのは確定だ。
この世界に前世みたいなSNS関係が無くて良かったよ、有ったら都市内で有翼種に対する排斥が始まってた可能性が有る。まだ人の噂が口伝でしか伝わらないからマシで、形にも残らないから風の中に何れ消える物になる……多分。
「……タタラ殿、少しよいだろうか?」
「なんだ?」
タチアが俺に声を掛けてきた。この場に着いてきて貰ったのは本来の計画を伝える為だ、完全に御破算に成ったが。
「その、根本的な疑問なんだが……この捕らえられた御仁はいったい?」
「都市の防衛結界をぶち抜いてダイナミック不法入国かましたアッパラパー天使族、侵入の際に100に届く犠牲者を出して二桁の死者を出した敵国の将軍だ」
「……はい?」
俺の言葉を聞いてタチアが普段は見せない反応をする。うん、普通はそうなるんだよな。俺も此処にくる途中で話を聞いて、反応に困ったところだ。この脳内お花畑をどうして将軍職なんかに就けたのか、戦闘力は確かだが作戦立案能力とか事務能力はゴミカスだろこんなん。それともアレか、お飾りっていうか象徴として据えたのか?
「そんな役職の奴が不法入国かまして死傷者出しました、宣戦布告と取られても仕方ないだろ?」
「……戦争に、なるのか?」
「外交如何では、な」
そう、此処はスィーブにとって外国でありどのような種族だろうと行き来する際は身分を証明する手形が要る。俺達は卒業したら貰える腕輪がその役割を担うし、他国でも使える。しかし、手続きは必要なのだ。それを無視すれば当然軋轢も生まれるし最悪戦争に発展する。だからルールを守るのだ、例え精霊や妖精だろうとも。
「私は〜戦争なんて考えて無いのに〜」
「考え無しが難しい事を考えずに行動するからすれ違いと諍いは産まれるんだよ、人界で何年過ごしてそのザマだお前」
スィーブの言葉を潰す。本当に分かって無いのだろう、人間社会に不適合だから天界から降りてくるなよマジで。
「着いたぞ、特別な牢だ」
「随分深いところに有る牢だね、逃げ道は一つだし天井をぶち破れば生き埋めだろうし何なの此処」
「……『ワールウィンド』の汚点の一つだ」
「汚点、ねぇ?」
十数分歩いて辿り着いたのは、そこそこの広さを持つ地下牢だ。トイレはおろかシャワー等の水回りが完備されている……シャワーは監視出来るようにガラス張りだしトイレは仕切りが無いが。文献を漁っていた時に人型の何かを研究していたっぽい内容がチラホラ有ったので、それ関連だろうか。読み解く限り、魔神に近い何かだったっぽいが。
「坊、この……」
「トリモチはそのままにするよ。どうせ、天使族には食事と排泄なんて行為は必要無いんだし」
創造主たる『光の女神』様の意向なのか、天使族は食事を必要としない。それはそのまま排泄を必要としない事に繫がるので、何処に居ようとも生きて居られるのだ。こういった生理的な面での隔絶もまた、天使族と人間族の溝を深めている。そのくせ遺伝子は近いから子供は作れる……本当、面倒に過ぎる。
「むう〜、人間さん当たりが強い〜」
「いい加減うるせぇな、人外風情」
俺はスィーブを見据えて口を開く。
「テメェが考え無しに動いた結果、数多くの人が被害を受けた。怪我人だけでなく死者も出て、家や店の生活基盤を奪われた人も居る。この都市で幹部やってる人間からしたらな、お前の存在そのものが許せねぇんだよ。今すぐ殺したいくらいにな」
どうせテメェには人間の違いも被害の重さも分かんねぇだろうがな。少なくとも俺は、天使族と仲良くやれる気がしない。
「信徒以外は人にあらずか?」
「人間さん〜それは〜」
「そう思って無いなら何で容易く人を殺せる力を、非戦闘員がいる場で振るった?」
問答をする気は無い、俺はガキの癇癪としてただ内情を叩きつける。此処に正当性なんて物は無い、ただの憂さ晴らしだ。
「人を導くだ何だ言ってようが、ただ植え付けられただけで意味もやり方も理解してない人形が……人の営みに入って来るな!!」
スィーブは戸惑いの表情を見せてくるだけ、やはり鳴き声にしか聞こえない質か。
「……伝え聞くアルメリアって天使族の方が余程神の目的に忠実じゃねぇか」
「っ、何で人間がその名前を〜!?」
「はっ、その反応で人間への理解度が分かるってもんだな不良品?」
アルメリアは過去作で出て来たヒロインの一人だ。産まれながらにして他の天使族の考えに馴染めず、自身のやり方で人に寄り添い……果ては国教とした国を興し光の女神の信徒を増やした不用品。会社の作品の歴史では彼女と主人公が結ばれるのが正史であり、名前はぼかされているが王道の異類婚姻譚として絵本にもなって伝わっている。それでも少し歴史書を読めば名前が散見されるのだ。それはとても凄いこと、素晴らしい事だ。
当然、その成功体験に肖って行動する天使族は発生した。発生したが、尽く上手くいかなかった。当然だろう、成功した事実は見れても行動の真意は読み取れないのだから。
失敗が続き、遂には天使族では無く見た目を模した夢魔ではないかと囁かれる様になり……やがて模倣する天使族は消えた。
不用品と称された天使族こそが、神が最も求めた成果を上げた者……その事実は予想通り多くの天使族の中ではタブーとされているらしい。
「お前じゃ無理だ、かの偉大な国の母たる天使と同じ事を成すのはな」
「そんなの〜」
「やってみないと分からない、か?」
彼我の違いを認識出来ない奴が言いそうだな。
「その天使が生涯手に掛けた命の数って知ってるか?」
「むぅ、そんなの何の関係が〜?」
「命の価値を知るか否かを知る指標になるだろ、考えろよ阿呆」
苛立ちは降り積もる。タチアの母だとは分かるが、此奴がタチアと同じになれるとは欠片も思わない。
「むぅ〜1000万くらい〜?」
「正解は約30万だ」
「ふぇ?」
「約30万、それも仲間が口にする為のものや安楽死させてやった家畜の数が全てだ」
このアルメリアが出るゲームは開拓系の物で、アルメリアは終始戦えないヒロインとして書かれていた。人間社会に憧れて本を読んだり食事をしたりと馴染み、主人公と出会って共に村を開拓し発展させていく物だった。畜産家として主人公の村を支えて仲良くなり、最終的には主人公に違う意味で食べられてしまっていたがそうして子供を産み……ゲーム内では最後に開拓村が街になるのを見届けた。
後の作品ではそこが国になり、国母でもあるアルメリアの創造主である光の女神様を国教として信奉するに至ったと語られていた。その際、伴侶の死を切っ掛けに畜産を全て人に譲り天界に帰るまで何も口にしなかったと言われている。伴侶が共に生きたのはだいたい60年程との事だったので、大雑把に3人分の食事量で約20万。仲間達に振る舞った分もそんなに頻繁では無かったと文献にも有ったので、一人分の一生分と加味しても10万弱。
なんて、あれやこれや言ってるが単純に血を見るのが苦手でそれくらいしか自分で加工出来なかったって記録に残ってるだけなんだがな。
「それに、人間を殺した事は天界に帰るまで無かったと公式に記録が残ってるらしくてな。戦える性格でも無かったそうで、モンスターとの戦闘記録も無し。結果として約30万がアルメリアの人界で奪った命と言う事になる。そして、アルメリアが建国に携わった国の総人口は約500万。お前が何かを殺す姿で得る信仰心と、誰かと手を取り合えた不用品の集めた信仰心……火を見るより明らかじゃねぇか?」
スィーブは押し黙っている。此奴が所属している敵国に国教は無い、宗教の自由が許されているからだ。最も多い宗派は軍神様のもので4割程。光の女神様の宗派は全体の2割程で、乙女様の宗派に継ぐ3位。その他が一纏めで1割。所属国ですら天使族に対してこの扱いなのは、相容れないと思われているからだろう。総人口が1000万と言われてる国で、200万前後……純粋な数でもアルメリアに負けている。
強いだけで親しめない相手など、こんなものだ。
「今回、お前が無理に押し入った為に死んだ人達が出た。その理不尽に対して遺族はどう思うだろうな……光の女神様が創造した天使族に、大切なモノを奪われた人達は!」
スィーブは俺の声に驚いたのか身を竦ませている。魔力が抑えられていて力が出ないのだろう、生殺与奪を相手に握られているのも初めてだろうから戸惑ってる程度だろうな。
「お前の行いで光の女神の信徒が減るんだよ、この都市にも少なからず居ただろうに理不尽に他人を害する姿を見たからな。何度も言ってやるよ人外、天界に帰って引き籠もってろ!!」
臓腑の怒りを全て吐き出すつもりで言葉を重ねる。本当、こんな事しか出来ない矮小な身が恨めしい。ただの怨念返しでしか無く、何の生産性も無い罵倒。俺自身でも下らないと思うよ。
「……スィーブ、今回の件はお前の国に賠償を請求する形になる。お前の身柄の返還も難しいかも知れん」
おっちゃんが俺の言葉が終わるのを待ってから、口を開く。
「確かに俺がお前をこの国に呼んだ、それは事実だ。しかし、書状として入国についての事を明示していたはずだな?」
おっちゃんの口調は表面上だけ確認の形を取っている。書状と言う明確な形で証拠を残した為に、このスィーブが引き起こした悲劇における責任は大部分が此奴になる。まぁ、俺も此奴を呼び寄せる切っ掛けになったから損害賠償は当然行う。支払いもするし、クラフターとして復興も無償で行う。都市長にも話さなければならないのだが……手紙は受け取ってもらえるかな。
「そんな面倒な事〜」
「人間社会の面倒さを理解して地上に居るんじゃないのかお前は?」
「むぅ〜それは〜」
「……坊の言葉で多少は変わるかと期待したが無駄だったな」
おっちゃん、そんな事期待してたの?
「タチアが変われたから、お前もと思ったんだがな」
「おっちゃん、変わろうと頑張った人間と相容れない人外を一緒にするのは駄目だろ」
俺は盛大に溜息を吐きながらおっちゃんに言う。実の母親を悪く言われるタチアには悪いが、一緒くたにするのは許せない。
俺が本気でキレる迄は人と相容れない可能性が高かったらしいが、今は守るべき人達の視点と目線が合っている。腫れ物に触るかの様な扱いが間違った方向に進んでしまっていただけで、タチアは素直で誰かを守ると思える人の心を持ち合わせていた。
天使族は人間を弱く絶滅危惧種が如く保護する対象として見ている、タチアは人間は自立出来る故に理不尽な暴力から守るだけでいいと知っている……まぁ騎士学校のアホ共のせいで洗脳されかけてたが。
「……その、この御仁は」
「うん〜……あっ!」
タチアが俺とおっちゃんの間で交わされる会話についてこれず、疑問を持って声を上げた時だ。今気付いたらしいスィーブが喜色の混ざった声を上げる。
「私の魔力に似た波長が疑問だったけど〜あなた、オルちゃんなのね!!」
「……え」
オルちゃん……オルサイア、タチアの本名を覚えていたのか此奴。
「あんなに小さかったのに、こんなに大きくなるのね〜」
「え、何故……いやまさか」
己の本名を知る天使族の女性、その事でタチアも察したらしい。
「オルちゃん〜あなたのお母さんですよ〜」
その告白にタチアは絶句。案の定の事実に俺は何とも言えない気分になる。大きく目を開き、両手で口元を覆う。喉の奥から掠れて聞こえてくる音、漏れそうになったのは果たしてどんな感情だろうか。
「うそ、だ……わた、わたし……」
「……おっちゃん、タチアと外出ておくよ。話、付けといて」
「……分かった」
「あ〜ん、待ってオルちゃ〜ん!」
取り乱すタチアを連れて、その場を離れる。タチアの中に有るのは恐らく、罪の意識だろう。守るべき無辜の民を傷付けたのが己の母親と言う事実。長い間関わりが無いから無関係だと言えればいいものの、タチアの騎士を目指す上で根付いた正々堂々とした性格がそれを許さないのだろう。血なんて言う最大最悪の呪縛に囚われたタチアに、俺は何をしてやれるだろう?
十数分掛けて地上に出た俺とタチア、時間を掛けて歩いたのが功を奏したのかタチアも落ち着きを見せていた。見せているだけで、マトモな訳も無いのだが。
「……はは、私はとんだ化物だな」
空の下に出て十分程して、タチアはそう零した。その表情は自嘲にも似た何かで、己の裡から零れ出る感情をどうすべきなのか分かって無い様に見えた。
「人の世に紛れ、その生活に溶け込もうとして表面をなぞるだけ。相手の言葉を理解出来ず、似た鳴き声で近付く。他の存在を下に見て、その命を軽んじる……何て醜悪な生物だ」
その顔は蒼白で、そんな言葉を溢すタチアの目尻には涙が溜まっている。
「他者の振る舞いを見て初めて自身の醜悪さを知るとは、確か他人のふり見て我が振り直せと言ったか……昔の者たちは金言を残したものだ」
視点が定まってない、精神的に限界なのだろう。あまり良くないが、そっとタチアを抱き締めて俺の心音を聞かせる。
「私、は……あんな醜悪なのか。モンスターではない、ただ平穏に生きていただけの生命を踏み躙って何も感じない存在なのか。騎士になると声を上げておきながら、守るべき民を踏みにじるあの学園の者達と何が違うんだ!!」
タチアを強く抱き締める。タチアは力の限り抱き返してきた。
「ただ、誰かの為になりたかった! ただ、生きる免罪符が欲しかった! それなのに、私の血は生きる事も罪にする!!」
そんな筈が無い、親の罪は子のものでは無い。それなのに、タチアは責任を感じてしまっている。
「私の翼が、あの厄を呼んだのか!? 私の血が、今日沢山の人を殺したのか!? 何で……何でぇ!!」
遂には言葉は無くなり、嗚咽を溢すタチア。俺には抱き締めて頭を撫でる事しか出来ない、落ち着くまで寄り添う事くらいしかやれる事が無い。
慰めるにしても、何て声を掛ければいいんだ。親が沢山の人を殺して何も感じない獣と言う事実を前に、何と言えば心を軽く出来るんだ?
そのまま胸を貸し続けて暫くして、タチアはそっと俺から離れる。泣き腫らした目を俺に向けて、口を開いた。
「……タタラ殿、鎧の依頼は申し訳無いが無かった事にして欲しい」
「何を言ってるんだ」
透明な表情で言葉を紡ぐタチアを前に、嫌な予感がする。
「私の血は汚れていて、この都市に災厄を招く。そんな翼に触れていては、貴方という風が穢れてしまう。私は、それが許せない」
「お前の血とか関係無いだろ、タチアって人間に罪は無い!」
「違う、私の罪だ! 私は……私が生きる事、それが罪なんだ」
タチアの罪の意識が変な方向を向いてしまっている。
「生きる事が罪だって言うなら、俺も背負ってやる! お前って言う存在をこの都市に認めさせようとしたのは俺だ! 俺の傲りが今日の悲劇を招いたんだ!!」
「違う! 私がタタラ殿と出会えなければ、この都市に災厄を招く事は無かった!! 全て私の責任なんだ!!」
タチアが内罰的な思考に嵌ってしまっている、自分が悪いと言う結論有りきで周囲の言葉をシャットダウンしてしまっている。
「もういい……もういいのタタラさん。私に優しくしないで、これ以上……大好きな貴方を穢させないで」
タチアの口調が変わる。騎士としてじゃ無い、1人の女の子としてのもの。これは、どんな感情からなんだ?
タチアはフッと近付き、俺と唇を重ねて来た。離れたタチアの目から一筋涙が流れる。
「さようなら、タタラさん。大好きでした」
背を向けて駆け出していくタチアを追い掛けようとして、脚が動かなかった。追い掛けて、俺に何が出来るのだろう?
今は駄目だ、俺もタチアも冷静じゃ無い。このまま追い掛けて今の頑ななタチアの心を解きほぐせるのとも思えない、少し時間を置かなければ。そんな言い訳を心の中で続けて、俺はその場から動き出せ無かった。
タチアのコンセプト:外的要因で壊される初恋
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない