既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
エイプリルフールって何をすればよかったのだろう?
タチアが去って行ったのを見送って、俺は再び地下牢へと降りる、特に意味なんて無い、やるべきは補償と補填について。俺に出来る事は少ないけど、それでも何かをしなきゃならない。
都市長に頼りたい、でも頼れない。今は忙しいだろうから、更に仕事を持ち込めない。
地下牢にはアッサリと着いた。行きよりもずっと早かったのは多分他人を気にしてられずに、早足になってしまったからだろう。一人になると、俺はこんなに身勝手な動きになるんだな。
「……おっちゃん、話せる?」
「坊か、タチアは?」
「帰ったよ、泣きながら」
俺の言葉を聞いたおっちゃんの動きは速かった。胸倉を掴んできて、俺を引き寄せて口を開く。
「お前、タチアに何を言った!?」
俺がタチアに言った事は何か、か。そんなのねぇよ。
「お前に罪は無い。罪が有るなら俺も背負う。悲劇を招いた咎は俺の短慮に有る……それくらい」
「嘘を吐くな、それであの子が──」
「言っておくがな……っ!」
タチアに対して思うところは有るんだろうが、テメェの現実逃避に付き合ってられる程に精神的な余裕はねぇんだよ!
「タチアはそこの不良品と自分が同じだって泣いてたんだよ! 同じ様に守るべき人々を踏み潰す化物なんだって苦しんでんだよ! 違うって言ったのに俺の言葉は届かなくて! 俺と居ると俺を穢すって……そんな事ねぇのに!! そこの不良品が彼奴の夢をぶっ壊してんだぞ、現実を見ろよ!! 俺の楽観とあんたの浅慮が彼奴の全てを潰してんだよ、逃げんなよ!! 俺を咎めんならテメェはなんだ、何をやった!!」
相手の怒りに対して自分の怒りをぶつけるのは違うのだろう、それでも許容できる物では無かった。
「他に手段が無くて俺の提案に乗っただろう! 確かに俺が言わなければこの選択は無かったさ、この悲劇は無かったろうさ!!」
俺も精神の抑制が効かないだけ追い詰められてんのか、口から吐き出される言葉に空虚な思いが湧く。結局俺は精神が成長しない子供のままなんだな。
「なら肝心な所で役に立たないアンタは何だ!? あんな状態のタチアを騎士学校に通わせて、洗脳を見逃したアンタは!!」
「それは今関係無いだろう!!」
「関係無いわけが無いだろうが、アホかテメェ! 学校内の事が分からなかったら最悪、タチアが洗脳されて敵対してた可能性だって有ったんだぞ!」
原作で二人が出て来ない理由、スィーブの登場からついた予想……二人は敵対して殺し合ったのではないだろうか?
そうでなければ、この強さの二人が出て来ない理由が無い。
「今、俺達が学園のアホ共の立てたクソみたいな計画を知れているのはタチアのおかげだって事を忘れてんのか!? アイツが今みたいになって無ければアンタに計画を伝えてる可能性なんざねぇんだよ! そも、アホ共の計画の要の一つはタチアだ! 本国の大貴族チュテレールだけじゃねぇ、皇族の血を引いてるタチアが旗頭にされてんだよ!!」
俺の言葉を聞いておっちゃんの顔が変わる……おい待て、何でお前知らねぇの?
「おい、何でタチアの中に流れてる血の事を正確に把握してねぇんだお前」
「いや、待て……待て坊」
俺の胸倉から手を離して自分の額に手を当てるおっちゃん、反応からマジで知らないらしい。
「何でタチアに皇族の血が流れてる事になる?」
「あんさぁ、チュテレール家は建国の時に前皇帝と親友の間柄で後に娘の一人を嫁がせてんだぞ……何言って──」
「お前こそ何を言ってるか分かってるのか!?」
いや、だからタチアの血についてだろ。
「お前……何で皇族の家系の流れを知ってる……?」
「いや、常識じゃねこんなの。初等部の教科書で1行にも満たないけど書いてんぞ」
そりゃあん時の輿入れ先は20以上の他国と国内貴族でも30は有った。テストで出された事は無いが、教科書の内容だし前世知識も有るから普通に覚えてた。まぁ、皇族から籍を抜いて一般に降りた子供も居たらしいがそっちは詳しく知らない。
「他の生徒が覚えてるかは分かんねぇけど、少なくとも教科書に載ってんだぞ。テスト対策の為に暗記してたら普通に知ってる奴は簡単に覚えられる知識だ」
俺の言葉でおっちゃんが絶句している、おっちゃんの時代には教科書に書いてなかったのか?
「……もしかして、本当に知らねぇの?」
反応から確認したら、おっちゃんは頷く。俺はこの事実に対して何て言えばいいのか分からなくなる。
「……だが、年齢が合わないんじゃないか?」
「夜闇の眷属の血を引いてても身体が頑丈とは限らないだろ、第一チュテレール家の代替わりがどれくらいに起きたかとか正確な年代知ってんのか?」
俺は別に前皇帝の孫がタチアと言っている訳では無い、確かに居るだろうが俺達と同い年の孫……も居そうだな。前皇帝は天然で性欲強かったみたいだし、子供達にも遺伝してるらしいし。
それは置いておいて、教科書に載るような三百年前から生きている方なのだが周囲の人達はそうじゃない。特に普通の人間だった親友のチュテレール卿は頑張って80まで生きたらしいが亡くなっている……妹の方は根性で軍神様から聖人認定受けて今も生きてる3児の母だ。
人間の血が混ざった事で寿命は短くなっているので、夜闇の眷属とはいえ150年は生きられない。タチアと前皇帝の血縁はいいとこ曾孫か玄孫と言ったところだろう。現にタチアの耳には夜闇の眷属の特徴が出てない程に血は薄まっている。薄まってはいるのだが、それでも皇族の血を引いているのだ。
「今のチュテレール当主は女性だけど、確か弟が居たはず。今は表に出て来ないで療養中って話で……そうかタチアの父親は」
確か、外交関連の仕事をしていたが俺が産まれる前に外国で事故に遭いそれ以来顔を見せなくなったらしいが……繋がっちまったな。文武両道で人格的にも優れた人だったらしいけど、流石に天使族に襲われて子を孕んだとか言われたら心を病むわ。
おっちゃんは預けてきた当人の事を思い出したのか、痛々しい顔をしている。おっちゃんの立場は分からないけど、多分タチアの父親からは顔を見ると殺したくなるとか言われて預けられたんだろう。噂では事故で最愛の奥様も亡くされたとか……更に嫌な仮説が積み重なって罪が重なってるよ。二人の間には子供が居たという話だからまだ救いは有る……と信じたい。
「おい、坊」
「タチアの出自について吹聴すんなって話なら分かってるよ、つか分からない訳が無いだろ」
出自についてなんて一々話すものでも無いだろ。皇族の血もそうだし、父親の妻を殺して自らを孕んだ可能性の有る母親とかタチアがガチで死に向かって全力疾走する案件だろうが。
「それより、コレからどうすんだよ。特にそこのトリモドキ、敵国の中枢に交渉したとして身代金と言うか賠償請求できんの?」
「それは……」
「今回の件、俺に責任が有るから幾つかの特許売ってそれで賠償金払いつつ商店区で被害に遭った人達の家屋とか店を直すつもりだけど」
「坊」
「で、アンタはどうすんだよ防衛長」
候補としては『卵』と『家庭用魔力炉』が特に高いのでこの辺だったが、虎熊家との特許のやり取りが複雑化するからこれは無しだろう。商会長が飛び付きそうなホイホイと強化銅辺りを売ろうかな、この辺は悪いけど都市長に相談させて貰おう。
「俺は……」
「辞任するにしても学生運動が終わってからにしてよ、俺達の戦力に余裕無いんだし」
俺の言葉に押し黙るおっちゃん……政治的な観点が俺よりも無いんじゃないだろうか?
「もういいや、アンタと話してても解決策が見つかりそうに無いから都市長ん所で相談するわ」
何も答えないおっちゃん……ローガスに見切りを付けて、その場から離れる。その前に、トリモドキに一瞥くれて……思わず口から言葉がこぼれる。
「よう、トリモドキ。娘の夢を壊してのうのうと生きてる気分はどうだ?」
「え〜何を言ってるの〜?」
「お前が人の言葉を理解するなんてハナから思ってないから一方的に言うわ。タチアを産んだ際に自ら生命を絶っとけよ、害獣」
それだけ言って反応を見ずに地下牢を後にする、不毛な時間を過ごしちまったな。本当、時間を無駄にした。
地下通路を抜けると、人影が見えた。
「……遅かったな、ジュロン」
「お待たせして申し訳無いです、カラムスさん」
完全武装状態で腕を組んで佇んでいたカラムスさんが声を掛けていた、こんな所では目立つと思ったがあの騒動に人を取られていて逆に目立たなかったのかも知れない。
「我が主がお待ちだ……どうも、お前も話したい事があった様子だな?」
「互いに同じ事を話したいのならいいんですけどね」
俺は俺自身が背負うべき罪と罰に付いて話したいのだが、都市長は何を話したいのだろうか?
カラムスさんの後ろを追い、都市長が待つ中枢に到着する。本来は商店区の近くを通るのが近い道筋だが、カラムスさんは遠回りをするようにしてこの場に着いた。商店区が閉鎖中だからか、それとも俺を気遣ったのか。分からないけれど、少しだけ心が救われた。俺は今の精神状態であの場所に行ったら錯乱してしまうと思うから。
「着いたぞ、粗相の無いようにな」
「ええ、気を付けます」
執務室の前まで案内されてから簡単な注意を受ける。普通に返した俺に、カラムスさんは振り返って来た。
「ジュロン、今回の件はお前のせいでは無い。思い詰めるな」
「いいえ、俺が原因です。俺がタチアの翼を認めさせる上で、彼奴の母親に頼るなんて事を考えなければ──」
「それを思い詰めていると言っている」
大きくは無いが、叱責の混じった声に思わず身が竦む。
「いいか、ジュロン。今回の件はお前のせいでは無い、天使族の知り合いが居ると聞いて思考回路が人間と同じと思った事は失態かも知れん。だが……人との子を産んでいて尚、人の思考を理解出来ないなど私でも想定できん。いいか、二十年と生きてないお前ではなく二百年以上生きた私ですら予想外なのだぞ!」
少しずつ熱が入ったのだろうカラムスさんの言葉は強い、強いがそれでも俺を慮る物だった。それでもカラムスさんには悪いが、今の俺はその優しさを受け入れられる余裕が無い。
「それでも、俺が子供の駄々を捏ねたから今の惨状を招いたんですよ。防衛長に言われた通り、子供のクラフターごっこ遊びと同じでしょう……こんなリスク管理が出来てないなんて」
全てを言い切る前に、胸倉を掴まれる。怒りに燃えるカラムスさんの瞳が、俺を射抜く。
「取り消せ、ジュロン。お前の仕事をごっこと言うその言葉」
静かなその言葉は怒りが満ちていて、それでいて何処か悲しそうな物だった。
「お前の仕事をごっこ遊びと言うのは取り消せ、お前の誇りをお前自身が貶めるな。お前が私に託した“誇り”を……穢さないでくれ」
何処か弱々しく聞こえるカラムスさんの声。ああ、そうか。あの場に来れなかったカラムスさんも、悔やんでいるんだ。都市内最強戦力と讃えられていながら、主を守る為に参戦出来なかった事を悔やんでいるんだ。
軍神様が騎士と認めた聖人が、クラフターから“誇り”を預けられた身でありながらも何も出来なかった事を。
「……カラムスさん、俺はその剣を贈った事を誇りに思います。ですが、貴方が縛られないで下さい」
確かにカラムスさんの戦い方に添う為に調整をしている。しかし、俺がしたのはそれだけなのだ。
「カラムスさんはこの『ワールウィンド』の武の象徴ですから、1人のクラフターに引き摺られたら駄目ですよ」
俺の胸倉を掴むカラムスさんの手をそっと解き、その手を握る。俺の手よりずっと小さいけれど、この手が支えるものの大きさはとてつもない。俯いたままのカラムスさんを残して、執務室へ入れば応接用のソファに座った都市長が居た。
「……座りなさい」
「はい」
促され、対面のソファに座る。座り心地は良いのだろうが、気分は電気椅子に座らされた気分だ。
「今回の顛末、話せるかしら?」
「はい、先ず──」
促されて語る、トリモドキ襲来からの一連の流れ。都市長は都市防衛結界の破損と陽出組の参戦、更には今回の事で発生した死傷者の事を聞いた時に頭痛を覚えたらしい。一応、傷薬1000個をその場で提供して死者の数が減らせた事を伝えると少しだけ心情は軽くなった様子だ……けれど此処からが心労を加速させるだろうと思う。
「それで、取り押さえた天使族をその場で殺すか否かの話をした際に防衛長が来ました。他国の将軍である為に殺す事を止められて、その場で口論が始まり……防衛長が天使族を招聘したと言いました」
「……最悪じゃない」
頭を抱える都市長、これから俺は相談するのだが更なる頭痛の種になるんだろうな。
「都市長、相談が有るんですが」
「何をかしら?」
「俺は今回の事件の元凶です、被害者に賠償金と補償を行わないと駄目ですから特許を幾つか売ってその金を充てようかと」
「却下」
俺の言葉を聞いて間髪入れずに提案を却下する都市長、その目は殆ど据わっていて相当な怒りを抱いているのが分かる。
「この『ワールウィンド』に天使族を招き入れたと言うなら、咎はローガス1人が背負うべき物よ。第一アンタ、襲来時に率先して迎撃した挙句1000もの数の傷薬を提供して死者減らしてんのよ?」
都市長は苛立ちとも呆れともつかない感情が混ざった口調で続ける。
「そこまでして補償や補填をアンタがやったら、都市内から不満が出るわよ」
「なら、義援金って形で……」
「それなら多少は許されるけれどね。アンタ、自分も被害者で補填補償賠償の此等を受ける側だって自覚有る?」
「ですけど、俺は次期工匠長で……」
「第一ね、問題はそれよ」
俺の言葉を途中で遮る都市長の目は怒りに燃えている。
「私が後見人として立った上に、後継にもなれるこの都市の幹部候補殺されかけてんのよ。しかも話を聞いてる限りアンタの身体に後遺症が残りかねない事されてて、今普通に私の前で話してる事も殆ど奇跡の領域でね。そんな状態に追い詰められてる、しかも子供が補填や補償更に賠償ってね……その場に居た被害者達が許す訳無いでしょう」
そんな事は無いだろう、俺が早くにあのトリモドキを撃退出来てれば此処まで被害は出なかった筈だ。
「そんなに補填や補償をしたいなら、壊された家屋や持ち物を直してやりなさい。アンタなら余裕でしょう?」
「そりゃ、商店区の被害如何では1日で復興出来ますけど」
「思った以上にヤバい速さね」
屋台以外の被害もそこそこ有るが、『ワールウィンド』の建物は比較的頑丈に作られている。倒壊した家が5軒以内なら内部の家具込みで1日で終わらせられる、それくらい俺の能力は上がっているのだ。
「確認出来て無いんですが、倒壊した家屋や被害が出た屋台とかって……」
「家屋は窓の破損が8棟、外壁の破損2棟、倒壊2棟、露店が12って所かしら?」
「1日と言うか半日で終わりますね」
「……それならアンタは明日、1人で復興して補償も補填も終わりよ」
俺の話を聞いて都市長が頭痛になったらしい。
「でもやっぱり、補償や補填は……」
「家屋を直されただけでも十分って──」
「家族を喪った遺族達だって居るのに、それで済むはずが無いだろっ!!」
都市長の言葉を遮って、俺はその事を口にする。
「子を、親を、恋人を喪った人達が居て住む場所を直してはい終わり? そんな筈が無い!」
悲しみに暮れる時間もそうだし、親や働き手を喪った人達には当面の生活費が必要になる。その事態を招いた人間である俺が、家を直した程度で赦される筈が無い。
「俺がタチアの翼を認めさせようなんて考えなければ、この事態は起きなかったんだ……俺の短絡的な意見さえ無ければ防衛長がこの都市にアレを招く事も!!」
この事件の始発点はやはり其処に収束するのだ、俺が思い付かなければ起きなかった悲劇。なら俺が身を削ってでも支えなければならない。
「あの鎧を、タチアの翼をこの都市に認めさせるなんて大口叩いて結果はこのザマ……なんて情けない」
「……タタラ」
「話した時に防衛長が『子供のクラフターごっこと訳が違う』って言ったそのままですよ、リスク管理も何も出来てない子供の飯事と同じだった。天才だとか何だと持て囃されても結局はガキの独り善がりだ、そんな傲慢が招いた当然の結果だ!」
俺の言葉を聞いて、都市長は立ち上がる。俺に近付いたと思えば、思い切り頬を叩かれた。
「……悲劇の主役に浸って満足したかしら?」
冷たい声だ。
「リスク管理が出来てない、確かに一理は有るわね。けれどね、私だってこの状況と条件が揃ったなら同じ悲劇を招くわよこんなの」
インベントリから調書らしい紙束を取り出して、ソファの間に有った机へ叩き付ける都市長。
「先ず第一に子供が頼った相手の大人が頼りにならないとか想定しろってのが無理よ。あの馬鹿、天使族との知り合いが居ながら対応初っ端から間違えてんじゃない!」
都市長、怒り爆発。
「防衛長なんて言う都市防衛の最高責任者が現場に着けず、やってた事は普段と同じ探索って何よ舐めてんの!?」
この反応、もしかして同級生時代の怒りも混ざってるヤツでは?
「カラムスから『対人戦闘の才能が無い』なんて太鼓判押されてるタタラが、時間稼ぎを即座に行ってる上に回復したとは言え一時的に重症負うまで頑張ってるのに後から来て下手人を『殺すな』とか『俺が原因』とか何やってんのよあの馬鹿! その場でやるべきはそんな事を言うより先に拘束・収監して後で処分を伝えるって言う事でしょうが!! そうすれば秘密裏に処理しても問題は無かったし、私だって二人を庇って補償や補填の肩代わりが出来たのよ!! それなのに自分から退任の口実作ってからに……本当その場で子供のタタラが真っ当な対応してる事に気付けってのよ!! 市民感情が許容できるか否か、納得させられるか否かが分からないなら最高決定権を持つ私や中枢にぶん投げる為の口実だって有ったでしょうが!!」
これ、俺の発明が積み上げたストレスとか関係ないよね?
「挙句、精神的に参ってる子供が身銭切るレベルで内罰的な思考してんのにテメェは思考停止して動けないって何やってのよ本気で学生時代から変わってないわね!」
「……そうだ。あの、都市長」
「何よ!?」
「タチアの血、皇族のそれが流れてる事って……」
俺の言葉を聞いて都市長は一瞬で怒りを鎮火させる、いきなりスンッてなるのが怖い。
「……知ってたの?」
「そりゃ、建国時に当時のチュテレール家の当主は前皇帝陛下と親友でしたし……つか教科書に小さく息子が婿入りした事が書かれてますし」
俺の言葉を聞いて都市長が盛大なため息を吐く。
「アンタ、初等部の教科書丸暗記とかしてるわけ?」
「いえ、そこまでは流石に……テストに出そうな範囲はやりましたけど」
「一番テストに関係無い所を拾って覚えてるのはどうなのかしらね?」
自国の皇族に関する歴史だぞ、そんな扱いするか?
「教科書のアレは、小さく扱う事で大したことが無いって印象を持たせる手段よ。全部で50件以上有る中に混ぜれば気付き難いでしょう?」
「そりゃエテルは気付いてませんけど……」
確認はしてないがアレは気付いて無いと思う、分かってたらもっと焦りの色が強いはず。
「と言うか、アンタ婿入り先のチュテレール家をよく見逃さなかったわね?」
「自国の大貴族なんて見逃しますか?」
「……学生時代のローガスとアンタの父親に聞かせたら文句言われるわよ」
勉強出来なかった組かよ防衛長と父さん。
「自国の皇族と大貴族、他国の天使族かつ将軍の血。背中には翼……オルサイア、もといタチアさんは生立ちが厄ネタ過ぎる上にこの都市の筆頭厄ネタであるアンタと接触したって知って本気で頭痛に襲われたわよ」
そういえば言ってたな、厄ネタと厄ネタが合わさって地獄だとか何とか。
「しかも、そんな子が人らしい情緒が芽生えたかと思えば騎士学校でのクーデター画策の情報が流れてくんのよ? 私の胃を爆発四散させるのが目的かと思ったわよ」
「そこは俺の意思無いですからね?」
「寧ろ、アンタも巻き込まれた側でしょうが。仲間……と言うか身内の為って覚悟完了して、即座に私達と連携取る判断してるのがおかしいのよ」
都市長、ちょくちょく俺の評価高いのは何なんだろう?
「自警団の団長には私も接触して、騎士学校の件は伝えたわ。団長は下達は控えたみたいだけど」
「個人所有のトリモチランチャーを携帯する事は認めたみたいですね、昨日うちに依頼に来た人も居ましたよ」
「トリモチランチャーでアンタに依頼って……変なの作ってないでしょうね?」
「トライアルに落ちそうな小型連射式の依頼なんでそのまま作りましたよ」
素材は色々やったけどね、言えないけど。
「……贔屓してる相手だから外装と内装の素材を一般販売してるのとは別なのを使ったりしないわよね?」
「そんなことはしてませんよ」
「私の目を見て言いなさい」
何でバレるんだろう、説明したら安売りするなって怒られるからいやだなぁ。
「相応の金額取ってたら文句は言わないわよ。で、何やったの?」
「……」
「黙秘を続けるならアンタとエテルついでに四葩さん達を強制的に陽出國に送ってクーデター終わるまで帰ってこれなくするわよ」
「実はガワを魔鉄、内部構造をミスリルで作りました」
「……アンタ、やらかした事もそうだけど何で避難させようとするのを嫌がるのよ」
脅されたので正直に言ったら呆れられた。避難を嫌がる理由なんて、そんなの決まってる。
「この都市には好きな人達が居て、その人達を守りたいからですよ。同じような事、前にも言いましたよね?」
「……私達も、貴方を守りたいんだって理解しなさいよね」
そう言って俺を抱き締める都市長、優しい心音が伝わってくる。
「タタラ、色々脱線したけどこれだけは覚えておきなさい。今回の事態はアンタとタチアさんに一切の非はないの」
「でも」
「無いのよ。この失態は大人達の物よ、あんた達子供が背負う物じゃないの」
頭を撫でられる、都市長は俺を子供として扱うけど俺だって次期工匠長だ。幹部として、背負うべき責任がある筈だ。
「今回の天使族、アンタが自分から呼んだの?」
「いえ。でも俺が頼んだんですよ」
「違うわね、タチアさんの事情も考えて宗教的な問題を抜いた選択肢が結果選ばれただけなのよ、カラムスが軍神様に鞍替えした天使族を呼ぶ案を受け入れられなかったのはローガスの落ち度よ……家や血を気にして取るべき手段を誤ったのだからね」
それは違う筈だ。皇族の血を引く存在が自由に宗派を選んだならば、国内の教会が派閥を作りかねない。だからこそ、あの時はそれを選べなかったのだ。別の火種になる可能性を選べないのは間違いじゃ無い筈なんた。
「そも、皇族と言うか大奥の方でも宗教が別とか珍しくないでしょ。闇の女神様の聖女と軍神様の聖人、乙女様の聖人も入ってんのよ?」
……そう言えばそうだな。寧ろ一部地域で信仰集めてた魔神とか龍神信仰してる国からお姫様も迎えてたし、過去作のDLCで宗教戦争と名付けられた夜伽権争奪戦してたわ。最後には纏めて相手して果てさせた前皇帝の一人勝ちだったけど。
「今更タチアさんが軍神様の宗派に入ったからってどうにか成るほどこの国は軟じゃないわよ」
「……それを、あの時に知れていればね」
俺もタチアの出自をあの時点で知っていたのなら、カラムスさんからの提案を受け入れられただろう。軍神様の宗派に入って人に寄り添う天使族、過去作で一度敵対した該当するであろうキャラを一人知ってる……厳しいくせに世話焼きで可愛いもの好きな天使族。食わなくても問題ない身体をしているくせに甘い物を食べるのが趣味、遂には個人経営のカフェを開いてしまった変り種。天使族らしく強いは強いのだが、創造主への信仰心を失った為に優れた身体能力以外は天使族らしさが殆ど見えない。戦災孤児を拾っては軍神様の信者にするので貢献度も高い……アルメリアと同じくプレイヤーから天使(真)と呼ばれる不用品の一体だ。
「……カラムスさんが推薦しようとしてた人って、軍神様の宗派に所属する唯一の天使族の人だよね?」
「多分、アンタが想像してる相手よ」
「……本当、その人なら任せられたんだけどなぁ」
軍神様の聖人であるカラムスさんにしか動かせないだろうコネだが、同時に最強クラスの手札でもあった。地上に残る天使族で人の心が分かるのって多分片手で済むだろうし。長く宗派でも重要なポストに据えられて居たために政治的な配慮もある程度出来る……ガチで望める限り最強のカードだ。
他に居たとして……乙女様の所で薬学に嵌って鞍替えした変り種も居たな、マジで防衛長以外なら手札が揃ってたんじゃなかろうか?
「タチアの為って思ったのに、一番タチアの為にならない選択肢を選んじゃったな」
「人間、誰だって間違えるものでしょ。アンタはまだ間違えても間に合うタイミングなのよ」
「でも」
「しっかりしなさい、タタラ。アンタの仲間は、もう手が届かない所へ逝ってしまったわけ?」
そう言われて、心の中の何かが動く。そうだ、まだ終わってない。タチアも俺も生きているし、クーデターだって始まってない。ならまだ間に合う筈だ。
翼を認めさせるのは難しくなってしまったかも知れないけれど、タチアが騎士として認められる事は可能な筈だ。その後にゆっくりとタチアの翼を認めてもらう手段を考えていけばいい。
出来ないと諦めるより、可能性を信じる。それこそが仲間というものだろう。
「すみません、都市長。こんな事で」
「気に病まない、私はアンタの後見人よ?」
本当、この人には救って貰ってばかりだな。
「賠償金を払うつもりなら、一旦落ち着きなさい。絶対にアンタの特許を売るような真似は無し、いいわね?」
「え、でも……」
「アンタが発明した物の権利は決して安くない。値段以上にその権利は誰にも譲ってはならないのよ」
俺の発明を証明する特許、それを売るなと都市長は言う。しかし、コレを売らねばそれほど多くの資金を用意出来ない。
「アンタが作る物の価値は、アンタが思う以上に高価な物なのよ。虎熊家に作成許可を出した『卵』と『家庭用魔力炉』を筆頭に、アンタが持っているからこそ世に出回る事が出来た発明だってある」
それはもしかしてホイホイやトリモチみたいに普及を最優先として、単価を可能な限り安くするした事のような物だろうか?
「アンタが特許料を安くするから、独立した後アンタの弟子は魔鉄や形状記憶合金を手軽に販売出来る。国が決める形にはなったけど、アンタが主張しない為に『卵』と『魔力炉』の値段はあの値段で済んだ。アンタじゃ無かったら、特許料が一つか二つ桁が上がってたわよ」
「考えたくねぇ……」
難しい技術とはいえ『家庭用魔力炉』1基で百億単位とか言われたら卒倒するわ。つか、個人でそんな資産持ってられないから何か別の方法考えなきゃならんだろ。
「だからアンタはアンタの特許を握り続けなさい、アンタ以外の誰かがそれをただの金として見れないように」
都市長にそう言われて、頷く。言われて思い出したのだ、前世の生国が技術の価値を低く見て他国に提供した結果相手国がその技術を特許として押さえて自国を苦しめた事を。あの行為は自国の技術者や経済に小さくない傷を与えた、それと同じ事が下手をしたらこの都市だけでなく国に起こる……それは嫌だ。
だから改めて俺自身の特許を守らなければならない。
「それに、アンタは簡単に金を引っ張れる手段が有るでしょうが」
「え、有りましたっけ?」
俺の答えにため息を吐いた都市長が、袖口から一本の短刀を取り出す。それは、安全の為に贈った『厄切』の懐刀だ。
「コレを本国の皇族へ贈るのよ。それだけで今回の被害者への補填を国から引っ張れるわ」
「……そんな簡単にいきますかね?」
「むしろこの国宝級の代物贈られて、何も応えなかったら国の名折れよ」
俺の疑問に対して都市長は呆れ顔だ。いや、確かにあらゆる厄を祓う代物では有るけど、皇族がコレに劣る代物しか持ってないとも思えないんだけど。そりゃ、普通なら国宝級と呼べる代物だけれどさ……あの建国王だぞ?
「兎に角、お金が心配ならコレと同じナイフを作って私に送りなさい。そうすれば本国を動かしてあげる」
「……分かりました、何本作ればいいですか?」
「一本で十分よ……同時に何本作れるのコレ?」
「今のところ5本ですね、都市長のそれもその一本です」
「……本当、意味わかんないわ」
俺の答えに、都市長は呆れ気味にそう言った。
ちなみにタタラが簡単に血縁の事を言ってますが、同年代で気付いている人間はタタラを含めて10人もいません。エテルは当然、何なら幼馴染も気付いていません。が、カルミアやエルフ姫は知ってます。
最初は都市長がタタラを抱き締めて泣かせたり、結果として復興する為だけに動く機械みたいになるタタラとか思い付いて書こうとしてたのに……作者の真面目だったり鬱々としたのが長く書けない悪癖と、都市長のギャグパワーでこんなになった。
どういうこと?
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない