既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
「その、昨日彼が私を守ろうとした時に『俺の好きな人』と言われまして……夜に問い掛けたら顔を赤らめながら告白されてしまいました。改めて考えると彼の様々な姿を好ましく想っている自分が確認出来まして、告白を受けさせて頂きました。心から嬉しがる彼の姿に感極まり、その……接吻をして気絶させてしまったり」
「待て待て待ってお願いストップ!?」
駄目だ、情報が完結しない。脳内に無限の情報をぶち込まれた気分だ。しかも告白はあのバカからでキスは雛菊さんからとか何だソレ……穢したな。俺の幼馴染を穢したな雛菊さん、祝ってやるぞ貴様。でも無く。御祝儀を包むのは早いけど、二人お揃いの刀くらいは打っても良いかなじゃなくて。
つまり俺はどうするのがいいんだ!?
「先に連絡くれれば今日は赤飯炊けたのに!」
「タタラ殿、ソレは関係有るのですか?」
いや、赤飯は違うか。それは明日の昼食としてバカと一緒に食べさせよう、縁起物だし。
「取り敢えず、彼奴とのお揃いの刀を打たないと駄目ですね。夫婦刀とか、二人で一つの刃ってするのは良いかも」
「タタラ殿、落ち着いて下さい」
概念武装としては互いが共鳴して力を増幅する物とかを考えるべきか、新しくやる事が出来てしまったな。今から新居の建設に付いても考えないと。商会長に家の設計に精通している人を紹介して貰うのも手か。
「ご主人、玉子焼き焼けたで……どうしたでござるか?」
丁度いいタイミングで一華が来た、これは明日赤飯を炊く相談が出来る。
「一華、雛菊さんが正式に付き合い出したのって聞いたか?」
「……本当にござるか、雛菊?」
「あ、ああ……本当だが」
俺の言葉を信じられないといった具合に雛菊さん本人に確認する一華だが、雛菊さんからの肯定を受けて驚愕と言った雰囲気だ。やはり俺より付き合いが長い為かより信じられなかったらしい。
「ちょっ、雛菊マジにござるか!?」
「本当だと言っているだろう、そんなに驚く事か!?」
「お見合いすら絶望的だと奥様に判断されてたの気付いてない雛菊には分からないかも知れんでござるが、拙者達一同果ては独り身で終わるとすら予想してたでござるからな!?」
「私、そんな扱いなのか!?」
実際肥やす天狗とか豚菊とか散々言ったが改善が見えなかったから、わりかし本気で心配だったのだ。これはお義母さんにも報告入れないとマズイな。
「家事能力が死んで戦闘能力に特化し過ぎた姿や、この家でだらけてる姿ばかり見ていれば干物菊にしか見えぬでござるよ。そんなのが結婚出来るか否かと聞かれたら否でござろう?」
「うぐっ……しかしだな、あの人はそんな所も可愛いと」
『成る程、痘痕も靨』
俺と一華の声が揃う。あのバカ、惚れた弱みで欠点を美点と判断してやがる。しかし、長く付き合っていくならこの粗は治さないと致命的になりかねない。小さな失望の積み重ねが、やがて大きな絶望に変わる可能性だって有る。
「何処まで矯正すればいい、この際ダサT装備くらいなら無視すべきか?」
「服装一つで印象が暴落する可能性はござらんか?」
「無いとは言い切れん、せめて下の毛の処理は習慣付けさせるとか……」
「其処も好みでござるよご主人、敢えて自身で剃りたがる人も居るでござる」
「特殊と言うかニッチ過ぎんだろ剃毛は……」
「何故だろう、今の私はキレて良い気がする」
あのバカとは猥談をほぼしない弊害が此処に来て発生するとは……不覚。
そんな馬鹿みたいなやり取りをしているうちに、汗が冷えて嚔をした一華を見て一旦風呂へ向かわせる。コレはエテル達からも知恵を借りなければならないな。
エテル達が入浴を終えるのを待ちつつ、初めに酢飯を大きめの丼に二つに盛る。これは俺と雛菊さん用で、丼で飯を食うなんて基本的に男か雛菊さんしか居ない……四葩はやりそうだが育ちの為に小丼を複数回おかわりするタイプだ。エテル達のは小丼に盛る。平らにならした酢飯に浸けダレ掛けた後にごまを振って、その上に水を切ったレタス、玉葱の順で野菜を敷く。その上に鮪の漬けと卵黄を乗せて完成。本山葵を何時でも擦れるように準備をして待つ。山葵は摩り下ろしてから30分で賞味期限が切れると言う、この前の食事会では摩ってから一分以内には無くなっていた。いや、原因が酒飲達のつまみとして食われていたのが解せない。山葵茶漬けとか作ってたけど、多分鮪の消費よりも山葵の消費の方が激しかったと思う。今手元に有るこの本山葵は最後に一本だけ残った物だ、やはり鮪と一緒に食べるのが良いだろう。
「本当にお風呂上がりで食べられるようになってる」
「有言実行じゃな」
先に風呂を終えたエテルと四葩が食卓を見た感想がコレである、下拵えは出来ていると言っただろうに。
一華は遅れて入った為に戻るのは少し遅いだろう。先に食べるのはなんか違うし、準備だけは終わらせておく。
「俺と雛菊さんは大丼だが、他は小丼にしてる。各員の席に有る小鉢はお代わり用でソレと合わせて全員同じ量を食えるようにしてるからな」
「もしやコレ、妾への配慮かのう?」
「四葩は食うけど大丼は躾で使わないみたいだしな、其処は配慮したつもりだ」
「有難いが……家から出てるのだから、大丼でかき込むのもやってみたいのう」
「成る程、次に丼物作る時は四葩も大丼にするよ」
「頼むのう」
俺の言葉に嬉しそうに反応する四葩、お嬢様だからこそ自由に出来る時間が楽しみなのかも知れない。
少しして一華が風呂を終えて席に着く、早速食事の開始だ。
「豊かな醤油の奥に感じる酒の深みと味醂の甘み、それらを閉じ込めた鮪の旨味の強さよ。乳草の甘みと玉葱の辛味、摩り下ろしてから間もない鮮烈な香りと辛味を発する山葵の風味により口内を一口毎に洗い次の一口を常に新鮮な物にする事で感動を与えてくれる。白米も酢飯にされているのがまた心憎い、炒り胡麻を振られている為に香ばしき風味も加わり、味の広がりがより豊かになっている。卵黄を崩せば卵のコクと旨味が加わりまた別の美味しさが顔を覗かせ、飽きのない食を提供する一丼満足間違いなしの鮪漬け丼ですな」
「絶好調でござるな」
「最近、コレを聴かないと違和感を覚えるようになっちゃった」
雛菊さんの無意識食レポを聞きつつ、各々で鮪漬け丼を楽しむ。食べる前に画像を撮ったので魔導ワードプロセッサでお義母さんに送っておいた。この後は今の雛菊さんの食レポを録音しているので、雛菊さんがバカと付き合うことになった報告と共に送るつもりだ。
俺も鮪の漬けと玉葱をレタスで包むようにして口に含む。レタスと玉葱のシャキッとした歯ごたえと、鮪の柔らかくも確かに噛み応えを残す身。その奥から溢れ出るタレと野菜の水分が混ざり合い甘辛さを醸し出す。我慢出来ずに酢飯を口にすれば、甘酢の柔らかい風味が口に広がり鮪漬けの旨味と合致する。少量の塩味が味の主張を抑え、それが上品な味として漬丼を演出している。我慢が出来ずに黄身を崩し、鮪漬けと絡めてかき込む。醤油ベースの浸けダレと卵の相性は凄まじい、少し高い濃厚な味を持つ卵を使っている為に卵の旨味が浸けダレに負けていない。
一旦味噌汁を口に含むと、玉葱の甘味と白味噌の柔らかい風味の奥から臭みのない出汁の味がしてとても上品な味わいになっている。ふと目を向けると、四葩が味噌汁を飲んでいて懐かしそうな表情をしている。出汁の取り方、虎熊邸と同じだったのだろうか?
勢いで鮪の漬けを食べ切り、酢飯と野菜が残る。其処で一華の玉子焼きが光るのだ。玉子寿司と同じ味わいを届けてくれる出汁巻き玉子と酢飯、この組み合わせは前世で子供の頃大好きだった味わいそのものだ。デザートのように上品な甘さをした一華の出汁巻き玉子も完食して、ご馳走様でした。
洗い物を手早く済ませ、洗濯物を各員の部屋に持っていかせた後に再びリビングに集まってもらう。さて、此処からは俺達による雛菊さん脱干物の作戦会議だ。雛菊さんとバカが付き合い始めたのはいいのだが、其処はゴールではなくスタートラインだ。無事に結婚出来て中盤戦、同じ墓に入るのがゴールである。
あのバカは5人兄弟の長男であり、面倒見が良い。多少の干物は受け入れる度量は有るが、それでも人間なので当然限度が有る。その限度を遠ざける、またはリセットする為に負担を無くせなくても減らす事は必要だろう。その為の会議を行う。
素面ではやってられないので以前買ったアルバードさんの農園から採れた林檎を使ったシードルと、クリームチーズの鰹節&煮干し和えを出す。
「さて、先程雛菊さんから俺の幼馴染である彼奴と正式に付き合う事を報告された」
俺の言葉の意味を聞いたエテルと四葩は一瞬意味を理解できなかったらしく、一拍置いて驚愕した表情になった。特に四葩は干物化著しい雛菊さんを見ていたせいか、半ば諦めていた様子で驚きもひとしおと言った具合だろう。
口々に雛菊さんへの祝辞を贈るエテルと四葩を見つつ、俺は咳払いを一つ。本題は此処からだ。
「そこで、雛菊さんが愛想を尽かされないように脱干物化……具体的に言うと家事スキルの取得に関して相談したい」
「あの、タタラ殿……流石にその扱いは私も思うところが」
俺の議題に対して文句が口に出る雛菊さんだが、当人を除いた全員が重苦しい雰囲気になる。
「家事全般にマイナススキル持ちみたいなの、どうすべきだろうか?」
「マイナススキルみたいな効果のスキルの打消し装備とか作れない?」
「雛菊さんが実際にスキルを持ってれば出来なくは無いけど、アレはスキル無関係の不器用さとものぐさ人生の合わせ技だと思う」
「ご主人の見解で合ってるでござるよ、陽出國住まいの時に雛菊は家だと完全に気を抜いて家事をサボり続けてこのザマでござる」
「逆に、家事をこなせる何かを作って渡せぬのか?」
「ゴーレムって事なら作れそうだが、根本的に解決になって無いんだよな……」
「散々言いますね、終いには泣きますよ?」
エテルの立案、一華の情報、四葩の提案に答えるが解決策が思い付かない。台所を破壊されかけ、洗濯機を溶解されかけた。なんでただ洗濯するだけの機械が溶ける事になるんだ?
家事技能が0越えてマイナスの天元突破、宇宙怪獣と戦う努力と根性が標語の二人乗りで炎になるロボットが持つビームの-1億度並に物理法則無視な代物だ。虎熊家のお嬢様である四葩でも皿洗いで無駄に力入って皿を割ったり、絡まる洗濯物を解こうとして破るに留める失敗だと言うのに。ソレも今じゃキッチリ治ってるんだぞ。
「ゴーレムって、いつの間に?」
「昨日の襲撃で罠とかを『創製魔法』で作ってたらコンプリートしてな、それで『ゴーレムクラフト』取って今日の復興で活躍して貰った」
エテルの質問に答えつつ、インベントリからゴーレムのリーダーとチビ数体を呼び出す。ずんぐりむっくりな俺のデフォルメ姿が現れて、エテル達へ向けて手を上げて挨拶する。
「すごっ、カワイイ!!」
「可愛いか、コレ?」
「可愛らしいじゃろ、タタラの特徴を捉えて愛らしく手を加えておる。妾も一体くらい欲しいのじゃ!」
何やら絶賛されている。何だこの複雑な気持ち?
「たー!」
『たー!』
と、そんなエテルや四葩に向けて挨拶をするゴーレム達。その光景を見て一瞬固まり、ついで口を開く。
『きゃぁぁぁぁぁぁ喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
其々込められた感情が全然違っているが、全く同じ言葉が飛び出ている。
エテルは両手を顔の横で組むポーズで、目を輝かせてゴーレムのリーダーを見ている。コレ、ムゥ
四葩は驚きで声を上げた感じだが、これも何方かと言うとエテルのに近い感情だ。一体のゴーレムを手に乗せて、顔の前に近付けている。ゴーレムは四葩の鼻筋を撫でている。
一華のはどうも
そして雛菊さんだが……めっちゃ驚いてるだけのヤツだなコレ。
「タタラ、タタラ! この子達はなに? 凄く可愛いし喋るし一体くらい貰えない? ゴーレムが無理ならこの見た目のぬいぐるみでも良いから欲しい! タタラらしさを保ちながら愛らしいずんぐりむっくりとか反則だよ!! 動きまでちょこちょこしてて可愛いって何かな? コレはもうお持ち帰りしても赦されるよね!? ちゃんとお世話するから、ね? 一体ちょうだい!!」
「落ち着けエテル、ダリアや雛菊さんみたいになってんぞ」
エテルの魔力枯渇での性欲暴走以外の暴走状態って初めて見たな、可愛さに関して起こるのか……一応覚えておこう。
「ご主人、この傀儡は何故この様な姿なのでござるか?」
「全く持って不明、スキル使って作成してたら自然とこの見た目になった」
敢えて言うなら神像作成時の作用みたいな感覚でこの姿を自然と取っている、何故なのかは本当に分からない。何となく『天使長』や『料理長』の言葉を思い出すなら、この姿は世界に認知されている物になる。何を切っ掛けに世界に登録されているのか、と言うか何故俺のデフォルメ姿が世界に登録されているのかって問題だが。
「この小さきタタラ達はどの様な事が出来るのじゃ?」
「初期ランクとは言え『クラフト』スキル持ちだからな、復興作業中は遺品を分けて集めたり都市長の執務室で書類整理したりお茶淹れたりしてたから結構やれる事は広いと思うぞ?」
「優秀過ぎんか?」
四葩の質問に答えれば余計にゴーレムなのか存在が分からなくなる。それに、本来ゴーレムは魔力の補充等は必要としないのだがこの小さい方のゴーレムはリーダーからの魔力補充を必要としている。スキルを所持しているのが理由だとは思うが、それにしてもコアの魔力生成が間に合わないレベルと言うのがよく分からない。もっと別の事で魔力を消費しているのだろうか?
「た、タタラ殿!? 何故此等は喋っているのですか!?」
「分からない。出せるのは単音で『た』と『ら』だけって事しか判明してないの」
「言葉までタタラなんだね!」
「それはどう言う意味なんだエテル?」
微妙に言いたいことが分からないぞ。
「この中たたらと小たたら達に雛菊さんの生活サポートしてもらいつつ矯正してもらうとか?」
そんな何処ぞの子供の時にだけ見える隣に居る不思議なモフモフ怪異みたいな呼び方しないでくれ。
「それで矯正出来ればいいんだが、何故かサポート中の事故でこいつらが壊れる未来が見える気がするんだが」
「否定出来ないでござるな」
俺の未来予想に一華は肯定的な意見を出す、一番長い付き合いの一華にコレを言われるって。
「わ、私もやれば出来るんですよ!?」
「ならばやるのじゃな雛菊、お主そもそも陽出で出来ておったんじゃろ?」
そう言えば一華が『公私ともに隙なしの高嶺の花に見えていた』とか言ってたよな?
「あ、アレは……」
「ご両親にお世話してもらってた、とか?」
「いや、エテル。流石にそれは無いだろ」
「……」
「図星、でござるなコレ」
うん、本当に家事サポート用ゴーレムを嫁入り道具で持たせないと駄目かもなコレ。
「……タタラ、今の心境はどうなのじゃ?」
「小さな絶望の積み重ねが、やがて諦めに変わる……かな」
「タタラをして絶望させるって何なんじゃ」
まぁ、シードル片手に本音のぶっちゃけ大会化してるから半ば解決策なんて出るものじゃ無いだろうが。しかし、本当おじさんの果樹園で採れた林檎のシードル美味いな。クリームチーズと出汁殻の和物も良い感じだし。
「で、今日はタチアを捕まえられなかったのか?」
雛菊さんの家事技能矯正が半ば絶望的な事実から目を逸らす為に話題転換でそうエテル達に質問する。この面子で追い掛けて逃げ切られるとか、タチアはどんな手を使ったんだ?
「今回はタチアに一杯食わされたのう」
「うん、まさか騎士服じゃなくて女の子らしい平服着て行動してるなんてね」
「待て、タチアが平服……?」
どうしよう、想像が出来ない。騎士服を何時もキッチリ着込んでいるタチアが女の子らしい服って。
「胸元がそこそこ開いておったのう、谷間が見えておったのじゃ」
「谷間が見えてる」
「泥棒猫2号の、タタラ風に言うならギャル風に近いかな」
「ギャル風タチア」
「スカートはエテル様程の長さでござったな、しかも髪を結っていたので印象をさらに変えられていたでござる」
「ショートポニーでミニスカ」
次から次に出て来る情報が脳内で完結しない、『クラフト』スキルを使用して頭の中で構築するも何と言うか……可愛いがコレジャナイ感がすると言うか。
「そんなじゃから人混みに紛れ込まれると判別しにくくてのう」
「形振り構ってられない感じだな……」
誇りにまで思ってた騎士服を脱いでまで逃げ切る決意をしていると考えると、何か申し訳なく感じてしまう。
「タタラ、お願い。チーちゃんを捕まえる為に協力して欲しいんだ」
「……俺に、何が出来るんだ?」
「中たたらと小たたらでチーちゃんの事を探し出して追い詰めて欲しいの、出来る?」
エテルの頼みを聞いて悩む。コイツらは群体として働けるのが強みだが、ステータス上致命的にタチアと相性が悪い。
「……コイツら、多分タチアに追い付けないぞ?」
「え、そうなの?」
「移動力は総じて3、しかも動き方がテチテチちょこちょこしてるし足も短いから何かに躓くとぺちゃってなる」
「なにそれ可愛い」
都市長の執務室で手伝いしてる中、少し動きが遅い子が居てそんな風になってるのが見えた。直ぐに他のゴーレム達に助け起こされてたが、アレで追跡は難しいだろう。
「相手を発見、追跡するなら……『来てくれ』」
呼び寄せるワードを口にすると、止まり木から俺の腕に飛んでくる猛禽型ゴーレム。腕を掲げると止まってくるが、爪が俺を傷付けないように気を使ってくれる。
「都市長との伝書の為に作ったゴーレムだが、探索能力が高く出来てるコイツに頼った方がいいだろう」
「デカぁぁぁぁぁぁいッ説明不要でござる!!」
おう、
「コイツなら例えタチアが『アーラ』を装備しても余裕で追い付ける、多分今の『ワールウィンド』内で振り切れるのなんて雛菊さんかフル装備状態のダリアくらいだ」
移動力の高さもさることながら、コイツの速力はかなり高い。
「……『鑑定』する限り、速力でギリギリ雛菊が上回っておるのう。移動力はこのゴーレムの方が上のようじゃな」
四葩の言葉に引き合いに出された雛菊さんが驚きの表情を浮かべる。確かに烏天狗最速と言われてる事から普通なら考えられない程の高さなのだろう、俺としてもあのトリモドキ戦で完全に翻弄してた姿からもっと上回ってると思っていた。
「この猛禽型ゴーレム、名前はサイファーって言うんだがコイツで上空からタチアを探して追跡する」
「そんな事も出来るんだ?」
「ああ、姿をごまかされるとつらいが……そうだな」
会話しながらインベントリから取り出したのは一本の剣、俺が『アンドレイア』を打つまでタチアが使っていたボスドロップのエストックだ。その中に残留しているタチアの魔力をサイファーに覚えさせる、コレで服装を誤魔化しても発見出来る筈だ。
「どうだサイファー、追えるか?」
確認してみれば一声鳴いて可能だと伝えてくる、優秀だな。
「後はこのゴーレム達にも何か……そうだな」
そうして試しに作るのは『浮身石』を細長いミスリル板にくっつけ、姿勢補助用にハンドルを取り付けた代物。トリモドキ襲撃の際に作ったホバーストレッチャーと似せた構造で作るホバーキックボードだ。
「コレに乗って、ちょっと床を蹴ってみてくれ」
「たー!」
エテル命名の小たたらに渡して頼むと、了解と言わんばかりに返事をしてボードを持って床に降りる。そのまま乗って片足で床を蹴ると、スイーッと言った具合に進んで行く。
「……遅いから追跡は無理かも知れないが、転んで見失う事はないか?」
「これ、人間用の大きさにして売ったら流行りそうじゃの」
「流行るとは思うが、内政長に法整備して貰わないと事故多発で禁止されると思う」
実際、前世で歩行者との衝突やら様々な問題が発生した代物のオマージュである。子供が調子に乗ってスピードを出し事故る可能性は相当に高いと思う……子供にも限らないか。
「後はコイツらが乗れる大きさの動物型ゴーレムを作るって手も有るが……正直効率が悪い」
小たたら達を乗せて走らせるより、動物型の方に索敵能力と追跡能力を持たせる方がいい。猫科の動物にすれば、ぱっと見た時に違和感も覚え難いだろうし。
「まぁ、コイツらは『クラフト』スキル持ちだから文字通り逃げ道を防ぐって方向なら役立てるとは思うけど」
俺の言葉を聞いたエテル、四葩、一華の3人は『流石に其処までは出来ない』と言った雰囲気だ。普通に都市内でやろう物なら自警団の人達に捕まるだろうし、やれと言われてもやらないだろう。
「少しコイツらに追跡の練習とかさせるか?」
出来る出来ないは分からないが、取り敢えず練習くらいはさせてもいいだろう。
「え、出来るの?」
「家の中でエテルか一華の後ろをついて行かせるとかなら出来るだろ、誰かちょっと普通に歩いてみてくれ」
俺の提案に驚くエテル、外は無理でも家の中でやらせる事くらいは出来るだろう。
「じゃ、私が歩くね」
「分かった。悪い、『エテルを追跡してくれ』」
「らー!」
進んで名乗り出てくれたエテルを追跡するように命令をすれば、気合の入ったと思わしき声で了承した一体の小たたら。早速普通に歩くエテルを追跡し始める。
「……何と言うか、絶望的に足が遅いのう」
「単純に小さい故に移動距離が短いでござる。一生懸命走ってるでござるが全然追い付けて無いでござる」
「……あの、こう見てて胸が痛いのですが」
簡単に置いてけぼりにされる小たたらを見た四葩達の感想である。雛菊さんの言う通り、子供かペットが一生懸命親か飼い主を追い掛けて居るように見えて心が痛い。そして
「たー!?」
足をもつれさせて小たたらが転ぶ。ぺしょっと効果音が出そうな頭から行く倒れ方だ。
先を行くエテルの足が鈍る。うん、気になるよな。
「たー、たー!」
直ぐに立てなくてエテルに手を向けて待って待ってと言わんばかりに声を上げる小たたら、なんか今にも泣きそうな雰囲気だがお前達ゴーレムだよな。なんでそんな反応が生々しいの?
そして、その声を聞いたエテルは速攻で小たたらに駆け寄り抱きあげる。頬擦りしてゴメンねと謝っているが……どうしようかコレ。
「……恐ろしいのう、あんなのは見捨てておけぬじゃろ」
「無視したら鬼畜外道の誹りが待つでござるな」
「それで無くても子供の泣き声に似た声音は心が痛みますしね」
作戦では無く天然ぽいのだが、それが余計にヤバい気がする。しかし、あえて言うが防御力的に傷一つ付いてないからな?
「小たたらに追跡は無理そうだな、下手したら人混みに紛れ込まれたのを追跡したら他の人達に蹴られる可能性も有るし」
小たたらの大きさは全長50cm程、重さはミスリルとコアの重さから530g程だ。人によっては見えないし軽いので蹴飛ばされる恐れが有る。
「そうだね、ごめんね無理させちゃって」
「たー!」
「赦してくれるんだ、優しいね」
エテルの呼び掛けに元気よく返す小たたら、微笑みながらその頭を撫でるエテル。小たたらが俺に似た見た目の為になんか複雑だな。
「タチアを止める為に飛び付かせても、確保が出来るかも怪しいな。飛びかかった瞬間に空を飛ばれたら地面にぺちゃってなるだろうし」
「それ、逆にタチアが罪悪感で降りて来たりせんかの?」
流石にどうだろう、見た目が俺に似てるからってゴーレムだし。
「心理的圧力がどれくらいか試すか……雛菊さん、協力をお願いします」
「え、ええ……では庭へ」
了承した雛菊さんが庭に出たので、インベントリから小たたらを大量に出す。全ては無理なので取り敢えず20体、雛菊さんを囲ませる。
「それじゃ『確保』!」
『たー!!』
俺の命令に従って一斉に飛びかかる小たたら、それに合わせて空へ飛んだ雛菊さん。案の定小たたら達は地面にぺしょっと落ち、その上に後続の小たたらがどんどん積み上がって山になる。
「わわわわわわ!?」
慌てて降り立った雛菊さんが小たたら達を立ち上がらせていく。一番下で下敷きになってた小たたらも抱き上げた時、ソレを隙と見て他の小たたら達が雛菊さんに抱き着く。全体で10kg程だが、雛菊さんは勤めて冷静な表情で言ってくる。
「タタラ殿、流石にコレは無いです。心理的な面で破壊力が高過ぎます」
そう言って来た雛菊さんを下から眺める小たたらや、翼に抱き着いて楽しそうな声を上げる小たたら。遊んで貰えたのだと思ったのかやたらと楽しそうに雛菊さんの手を握ったりする様が見て取れる。
多分、敵味方の認識はしてるから天然で雛菊さんを味方認定してんなコレ。タチア相手でも変わらなそうだ……コイツらに確保は無理だな、うん。
「そう言えば、このモノ達と復興したのでござったなご主人?」
「え、ああ。コイツらの協力で復興が約6時間で終わったぞ」
「意味不明な作業時間すぎるのう……」
一華の質問に答えると、四葩が意味不明だと溢す。言わば100人のクラフターで作業をしたような物で、アレだけクラフターが揃えばコレくらいは出来るはずだ。
「明日からはお手伝い妖精の噂が流れたりして」
「いや、無いだろ。作業中は商店区を封鎖してたし」
流石に危険だから封鎖したままで作業をしていた。作業中、外から覗く人間迄は気にしてないが其処まで噂になるような人数は来てなかったと思う。
「周囲に見られてたのなんて……そう言えば復興作業後に都市長の所へ向かう最中、リーダーがインベントリ入りたくないからって一緒に歩いたな。テチテチ後に続いてたからカルガモみたいに思われてたかも」
偶々近くに来ていたリーダーの頭になんとなく手を乗せて撫でるように動かす。リーダーはされるがまま「たー」と声を上げるだけだ。
「その時に可愛いとかの言葉を漏れ聞いた気がするな」
「うん、遅かれ早かれ噂になるね」
「そうか?」
手を止めると「たー!」と催促してくるリーダーの頭を撫でながら、じっと此方を見詰めてくるエテルの言葉に返す。酒が入ってるせいかあまり思考を回せてない気がする。
まぁ、遠からず噂になるのはこの中小たたらよりも法務長に渡したラジコンな気がするけどな。
全員何だか思考力低下が著しいので、その場は解散となった。雛菊さんに続いてエテルが風呂へ向かい、土で汚れたゴーレム達を洗うと息巻いていた。いや、それは庭でホースから水をぶっ掛けた方が早いと思うんだが……指摘するのも何なので取り敢えず放っておいた。
俺は鍛冶場と工房にて軽く所用を終える、そろそろ帰ってくる頃だ。
「ただいま、マスター」
ダンジョンから戻って来たダリアが工房に入ってくる。
「おかえり、随分長く潜ってたな?」
「はい、それでは此方を」
淡々と答え、ドロップ品を俺に差し出してくるダリア。随分と雑多だが、タチアが居ないと大体こんなものだろうとも思う。
「……複数属性の核石が有るって、お前今回何階層まで潜ったんだ?」
属性の核石は『精霊種』のドロップ品だ。『深く深い闇の先で』のメインダンジョンである『常闇の洞』では45階層以降に姿を見せ始めるモンスターで、強力な属性魔法を撃ってくるのが特徴。しかし、対になる弱点属性の魔法を当てるとほぼ即死するくらいに体力が低く、強力な魔法属性攻撃でも消し飛ばす事も可能。ダリアの場合は魔力刃と『サザンカ』で大体解決出来るレベルの敵ではある。
「49階層迄です、40階層のボスは其処まで脅威では有りませんでした。臭いのはアレでしたが」
「だろうな」
ダリアの戦闘能力なら80階層迄は苦戦らしい苦戦も無いだろう、あえて言うなら50階層のクソギミックボス相手に手間取るくらいだろう。まぁ、アレはギミックさえ理解していれば勝てなくは無いのだが。
「火、水、土、風、雷、氷……六属性が揃ってるのは凄いな」
「低位の核石ですが」
「新しい魔導具の取っ掛かりには成るんだよ」
第一、50階層迄で高位の核石などタチアが居る時くらいにしか出会わないだろう。精霊種のレア敵である『精霊王』を倒す必要が有るし、しかもアレは各属性に居るからコンプリートを目指すのはもっと深く潜ってからにしたほうが効率的だ。
「魔石も……うん、色々使って減ってたから助かるわ」
「復興作業と聞き、以前マスターが魔石を混ぜた建築材の話をしていたのを思い出したので可能な限り集めました」
「マジで助かる」
それでなくともトリモドキと戦ってる最中でもホバーストレッチャー等を作って減っていたしな、大分補充出来た。
「ダリア、頼みたい事が有る」
「はい、夜伽ですね」
「ちげぇよど阿呆、疲れてんなら明日の朝に回すからそう言え」
「……イケズですね、マスターは」
半眼になり俺を見てそう言うダリア、何だその反応は?
「明日、昼迄に中枢へ届け物をしてもらいたい。それと、都市長の手伝いだ」
「届け物と手伝い、ですか?」
「ああ、コイツ等をちょっとな」
そう言ってダリアが帰ってくる直前に作り終わったケースをインベントリから取り出す。ケースを開くと『ルーエ』と簡易転移門に魔導マーカー、そして厄切の懐刀が収められている。
「……マスター、コレは」
「都市長からカラムスさん用にと頼まれた魔導剣『ルーエ』、簡易転移門と魔導マーカーの試作品と『厄切』の概念武装だ」
「この魔導剣は私も欲しいのですが」
「素材が足らん、依頼主から預かった素材から作ったからネコババすんなよ?」
俺の言葉に不満そうな表情を見せるダリア、まぁ魔導具好きなコイツならこうもなるか。
「で、都市長の手伝いってのがこの簡易転移門と魔導マーカーについてだ」
「まさか、私が此等のテストを行うのですか?」
「流石に察しが良いな、術式の粗や突発的な異変に対応出来るのが機巧乙女であるダリアが適任だから貸して欲しいってな。都市長のテストを手伝ってくれないか?」
俺の言葉に身を震わせるダリア、何となく察して耳を塞ぐ。
「素晴らしいです、マスター!!」
乗り気なようで何よりである。
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない