既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
大興奮しているダリアをなだめ、明日の朝に備えて早く寝るように言い含めて部屋へ戻す。俺は俺でダリアが持ち帰った素材でやる事も出来たしな。まぁ、その前にダリアの『トリテレイア』とインナーマッスルアーマーやその他装備のメンテナンスだ。
トリモドキとの戦闘から余裕が無くて整備出来てなかったが、鑑定してからそこそこ異常が見つかって鳥肌が立った。下手したら戦闘中に機能が停止してダリアの足枷になる可能性も有った。人工筋肉は何箇所か焼き切れる直前、装甲の一部が歪んで干渉しかけていた。自動修復機能は有るには有るが、恐らく大まかな部分だけで細かい所は違うのだろう。取り敢えず人工筋肉内で路が潰れかけている所を直していく。装甲の歪みは『クラフト』スキルで直せたので作業自体は早く終わる。ジェットエンジンも内部に魔力塵が少し有ったくらいで簡単な清掃で終わった、フレームやフィンが歪んでなくて良かった。
武器はチェーンソー事『ハイマツァーンラート』がそこそこ酷かった。潤滑油が古くなって黒ずんでいるのは良いとして、外で何を切ってきたのか血錆が見え隠れしている。一度バラして内部を完全に清掃、油も差し直しチェーンも伸びて無いか点検し『クラフト』スキルで元の状態にする。ちゃっかり強化されより凶悪な物に成ったが、取り敢えずコイツは終わり。
次に魔力刃……そう言えばコイツに名前無かったな。それはそれとして、此方もバラす。過剰な魔力を流した事によるロスが原因の塵が溜まっているのと、路が焼き切れる手前なのが見つかり頭が痛い。内部の清掃の後に路を直し、更に術式の効率化を行う。此方も強化が入って攻撃力以上に魔力の消費量が減ったが、ダリアには特に意味が無いと言うのが悲しい。
さて、今回ダリアが持ってきた核石で思い付いた強化を実施しよう。実験がてらダリアの『サザンカ』を改修しよう。
一度完全に分解して内部機構から手を入れる。術式と魔力を送り込む構造の間に空白を作り、その付近を大幅に改造する。イメージとしてはリボルバーの回転弾倉方式、素材は鍛造ミスリルで弾丸の代わりに核石を仕込む。七つの薬室のうち一箇所は空にし、内部に魔力をより圧縮する術式を書き込む。弾倉と薬室にマーカーと番号を振り、属性の切り替えを行う上での目印にする。ギアとシャフトを取り付け、弾倉の回転機構を完成させる。核石に触れるように術式を双方から挟み込む機構を追加する。内部機構の追加で複雑化したが、元々改造を前提としていたので外観は変わらない。『トリテレイア』側の制御術式にも少し手を加える、追加装備の『ファイヤーワークス』の『エリンジウム』を改修型の『サザンカ』に載せ換えたとしても問題なく機能するように術式を組み換える。
大きな改修をした後に細かい点検を行い、パーツのヘタリや緩みを直し細かい汚れを落としてダリアの装備は終了だ。さて、まだ核石は有るからまだ本番へ挑む前に次を試そう。
今回ダリアが潜った際に『アイアンゴーレム』と大量に出くわしたらしく、鉄が40kgも手に入っていた。皆には悪いがうち10kg程を使わせて貰う、更にはミスリルも5kg程使用する。作るのはウォーハンマーに近い魔導具で種別は『エレメンタルハンマー』と呼ばれる物だ。魔導具とは言うが
で、俺のアレンジは先程ダリアの『サザンカ』改修の物と原理的には同じだ。ハンマーのシャフトに回転弾倉に近い物を取り付け、作用する属性の核石を入れ替えて全属性に対応する代物である。核石を『卵』の作成よろしく『錬金術』で合わせていく事も考えたが、最終的に出来上がる物が何となく『天使長』案件な気がしてやれない。
構造としてはミスリルを芯にして、周囲を魔鉄で覆う形式である。芯のミスリルを先ずは鍛造、配分としてはシャフトに4kgでヘッドに1kg分。魔鉄はヘッドのみに10kg全て使う。鍛造ミスリルの芯はT字型に整える、打撃面は皿状の円形に成形。ヘッドを魔鉄で覆い、打撃面とは反対側は円錐状にしてピックを形成する。ヘッドとシャフトの繋ぎ目になる部分に円形のパーツを取り付け、圧縮・成形した核石を取り付ける。シャフトの回路と合致した核石が反応して属性を纏わせる構造を構築、確実な動作をさせる為にギアを繋いでダイヤル操作式にする。動作を確認する為にダイヤルを回しハンマーに魔力を送る、打撃面のミスリルが属性に合わせてその色合いを変えるのを見て作成は成功と判断する。コレで属性付き攻撃が可能になるので、『死霊系』の敵に対して有効打を与えられるようになる。
さて、此処までで核石の使い方は大体把握したので本命の加工に移る。工房の端、可能な限り見付からない所に設置した所に有る金庫を開ける。中から出て来るのはミスリル塊、かつてバーラル家から回収しエテルの『ロニセラ』を作成する際に使用したミスリルである。500g程取り、残りはまた金庫にしまう。エテルから整備の為に預かった『ロニセラ』を取り出し、即座に設計図を構築する。全体的に大型化、フレームの剛性及び魔力許容量の増加、そして特殊機巧の増設。形としては前世の回転式弾倉拳銃に近付け、『サザンカ』や『エレメンタルハンマー』のように属性弾を撃てる形にする。
何となく、練習として一丁鉄で作成する。しかし、うまく行かなかった。確認する限り銃身、弾倉、撃鉄で其々術式が離れてしまっているのが原因らしい。今までの『ロニセラ』が一体型だったので問題が無かったが、回転式弾倉の構造を取り入れた為に起きた弊害だ。『サザンカ』は大型の機巧である為、余裕を持った設計で接続機構が出来ていた。ハンマーは機構が単純で有るから接続に問題が無かった。魔導銃であるからこその弊害と言うべきか。
悩みつつ、再設計を開始する。回転式弾倉を無くす案は無しだ、やろうとすればマシンピストル並の大きさになる。自動装填式も無し、核石を再装填するのは手間になる。そしてふと思い出す、前世の荒唐無稽な特機アドベンチャーゲーム。エテルの『グロリオサ』の元ネタの相方である拳銃、オートマチックリボルバーと言う特殊な構造。銃身と撃鉄が一般的な物とは違い、下に寄る構造になっている。『サザンカ』の内部構造を真似る上で、此方を使う方が良いかも知れない。
早速再設計。上部のスライドと連動して撃鉄部を稼働させ、弾倉の固定を解除し弾倉を回転可能とする。弾倉を目的の属性に合わせた後にスライドを戻し撃鉄部を固定。撃鉄で弾倉を銃身に押し込むようにして挟み込む形で固定させる事で術式を接続し、魔導銃としての機能する機構を設計する。一通り設計を終らせた後は鉄を使用して試作、実際の稼働を確認する。不具合を洗い出し、問題点を修正。パーツの形を変えて、完成させる。
その完成形を元に、エテルの『ロニセラ』を作り直す。グリップパネルとその奥のバーラルさんの霊核を取り外し、元のフレームを内部の魔力が抜けないように気を付けつつ溶かし新しいミスリルと混ぜ合わせる。元から有る魔力と追加された魔力を馴染ませる。バーラル家の魔力どうしなので反発する事は無く、ただ魔力の総量が多くなっただけだ。お師様の金属の中から内在魔力を抜く打ち方とは逆、内在したものを余さず閉じ込める打ち方は上手く行ったらしい。
そうして出来上がる鍛造ミスリル板を切り分け、パーツ毎に『クラフト』スキルで形成する。精度0.0001mmのズレで作り、誤作動を可能な限り減らす。
パーツの作成が終われば次は術式の書き込みだ。元の術式をお義母さんから教わった効率化し、更には属性変換の効率を上げる物を弾倉に増やす。実際にパーツを合わせ、ズレが生じ無い事を確認し書き込みを続ける。俺では本来の威力を発揮できないが、それでも魔力を流すことは出来る。魔力の流動が正常に行われ、術式が正常に稼働するのを確認する。俺の魔力でも少し攻撃力が発揮されている、術式の効率化で自然と火力が上がったのか……コレも都市長へ報告かな。
パーツを全て組み上げて完成させていく。点検以外の事で弾倉を引き出す必要は無いので弾倉をスライドする機構は無くす。機構が複雑化したので誤作動の恐れは必ず残るので、その可能性を0.001%でも無くせるように只管動作点検。油を差して動作を繰り返し馴染ませ、余分な油は拭き取り完成。明日の朝にでもエテルには最終調整の為に試射して貰う事に決める。
出来上がった新生『ロニセラ』だが、当然の如く以前の物とは違うと判定されている。『鑑定』するも名前もステータスも確認出来ないのだ。何となく、基本的なダメージは術式から考えて10と言った所で魔力によりダメージが増える感じがする。
そう言えば、エテルからぬいぐるみを頼まれていたな。中たたらを呼び出して、作業台の上に立たせる。全体のサイズを『鑑定』で確認し、フェルトを取り出して裁断開始。色は全て『クラフト』スキルで色素に干渉して弄る。そうしてパーツ毎に必要分切り分けたら裁縫開始。中にビーズクッションを詰めつつ縫って繋げてと繰り返すこと30分、たたら人形が出来上がる。中たたらが自身にそっくりなぬいぐるみをつんつんと突いているが、動かない事に対して首を傾げている。そいつはゴーレムじゃ無いから動かないぞ?
何となく興が乗って次にサイズが同じのエテルの人形を作る。たたら人形がムスッとした表情なのに対して、えてる人形はニコニコと笑っている。中たたらが抱き着いているのを見て、結局コイツも俺なんだなと変な得心がいった。そのままよひら人形とたちあ人形、そしていちげ人形も作りインベントリにしまう。えてる人形を手放したく無さそうな中たたらの為にもう一体えてる人形を用意して先に出来ていた方を持たせてやる。インベントリに中たたらを帰した後、もう一体たたら人形を作っておく。もしかしたら彼女も欲しがるかも知れないし。
一通り作業も終わり入浴後に就寝、エテルはどうもタチアを捕まえようと頑張った為か疲れ切って先に眠ってしまったらしい。起きていても俺がまともに対応出来たとも思えないのでコレでいいかと思うが、少しエテルにマッサージをして貰いたくも有った。
翌朝、起き抜けに朝食の準備に取り掛かる。今日はタチア捕獲の為に色々やるだろうから朝食も少し重めにする。食い過ぎても動き辛くなるので、前世で言うクラブハウスサンドを作ろうと思う。使う具材は肉を鶏ベーコンと豚ベーコン。野菜はレタスとトマトに玉葱。そして卵だ。先ずはマヨネーズを作る、少量のマスタードを混ぜてピリ辛に仕立てるのが今回の拘りだ。トマトと玉葱は1cm間隔の薄切りにし、レタスは食べやすい大きさに千切って玉葱と一緒に水に晒す。鶏ベーコンは細切り、豚ベーコンは薄切りにする。卵は目玉焼きにするが黄身を潰して焼く、白身が軽く固まったら塩胡椒を振りその上にベーコンを乗せてから水を垂らし蓋をして蒸し焼きにする。30秒程したら蓋を外し、両面に焼き目を軽く付けるように焼く。
トーストを焼き、マヨネーズを塗ってからベーコンエッグを乗せる。もう一枚トーストにマヨネーズを塗ってから野菜と鶏ベーコンを乗せて更にもう一枚トーストを乗せてから串を二本打って固定し、包丁で半分に切る。殆ど抵抗無く斬れる包丁の切れ味により、トマトの繊維は潰れずに中身が溢れる事がない。綺麗な断面を魅せるクラブハウスサンドの完成だ。個人的にはケチャップを作って入れば目玉焼きに合わせて、更にチーズも追加しても美味かったかもと思う。
と、クラブハウスサンドに集中し過ぎていて忘れていたスープを用意しないと。そう思って見てみると、エテルがコーンスープを作ってくれていた。『忍び足』と『隠密』で気配が完全に察知出来なかったのだろう、本気で驚いた。
「それでね、今日はチーちゃんを此処に追い詰めようと思うんだ」
朝食中にそう切り出したのはエテル、どうやらずっと作戦を考えていたらしい。
「此処って……俺の家にか?」
「うん、チーちゃんはこの家までの道は知ってるけど多分周辺の地理までは完全に覚えてないと思うんだよね」
まぁ、エテルがそう思うのも仕方ないか。この辺ダンジョンと中枢からそこそこ離れてるせいで区画整備が中途半端になっている、その為慣れないと迷いやすいのだ。
「空からはタタラの鳥型ゴーレムで監視してもらって、地上からは小たたら達が監視する形で現在地を常に割り出し続けるのね」
つまり、
「タタラ、私達のアクセサリーに小たたらと鳥型ゴーレムからのイメージとか送れない?」
「出来なくは無いがお勧めしない、同じのはタチアも持ってるしな」
「あ、そっか……」
落ち込むエテルを前に、ミスリルと魔石を4つずつ取り出して『クラフト』スキルを使用する。ミスリルを板状にして『感応』の術式を刻み、その片側の表面を薄く伸ばした魔石で覆う。その魔石硝子に猛禽型ゴーレムとたたらゴーレムネットワークからの情報を表示するように術式を組んで完成。魔導式タブレットの完成だな。
「今、簡単に作った物で悪いな。小たたら、悪いが『視界を借りる』」
「たー!」
俺の言葉に応えた小たたらは自身の視界を俺達の手元に有るタブレットへ共有する、すると小たたらが見ている景色……俺達を捉えた物がタブレットに浮かび上がる。
「コレで街中に点在させた小たたらからタチアの動向を追う形にしよう。上空からは猛禽型が発見してくれる……出来るか?」
俺の言葉に猛禽型ゴーレムが一鳴きして応える、タブレットの画面の半分には猛禽型ゴーレムの視界が映っている。
「タタラ、この絡繰の魔力はどれ程保つのじゃ?」
「所有者の魔力次第だな、一応最大で充填した場合の許容量は小さな魔石1個分の魔力になる」
まぁ、一般家庭で消費する1日分の魔力ってのもよく分からないがな。コイツの消耗がどれくらいになるかまでは分からないし。
「問題は小たたらの魔力がどれだけ保つかだな、魔力切れ起こすと動けなく成るが魔力の充填が出来るのは中たたらだけだからな」
「そう、なんだ……充填が難しいのは大変だね」
自然と魔力を回復する手段でも有れば良いのだが、多分この形式になっているのは世界が定めた現時点でのゴーレムの限界だろう。ゴーレムコアの出力では足りない形にしたのは、問題を解決した場合このゴーレム達が切っ掛けで俺が異世界に追放される可能性が存在したからな気がする。何となく、この世界も俺を無理矢理追放したい訳では無さそうな気がするのだ。
それに、小たたらの大きさで『卵』の搭載も恐らく出来ない。出力過剰で破損する筈だ、せいぜいが念動甲冑に積んでいるコンデンサーを取付けてやるくらいしか出来ないだろうな。
そんな時、猛禽型が俺の頬に頭を擦り付けてくる。甘えるのも有るだろうが、何となく任せて欲しい事が有りそうだ。
「……もしかして、中たたらを運んでくれるのか?」
俺の言葉に一鳴きして答える猛禽型、魔力切れを起こした小たたら達の所へ中たたらを連れて行って充填するのだろう。呼び出した中たたらに事情を説明すると、任せろと胸を叩く……頭いいなコイツ等。
「なら頼む。タチアを俺のところへ連れてきてくれ」
『たー!!』
俺の言葉に応えた中小のたたらと猛禽型が声を上げて、家から飛び出して行く。中にはぺちゃって転ぶ子も居たが、近くの小たたらが助け起こして駆け出して行く……大丈夫かな?
「そうだ、エテル」
「え、なに?」
タブレットで中たたらの視界を確認していたらしいエテルが、俺の呼び掛けに少し気が抜けた感じに反応する。何だか前世の猫動画にハマるタイプに見えるな。
「コレ、庭で試してくれ。調整が必要なら即座に言ってくれ」
「え、コレ……『ロニセラ』?」
驚いた様子で俺が差し出した発展型『ロニセラ』を受け取るエテル、完全に様変わりしているが宿っている魔力から悟ったらしい。早速構えて様子の確認、銃把の感触から大型化して延長する事になった銃身のバランス等を確認していく。
「……ちょっと重くなった?」
「ああ、フレームを頑強にする上でミスリルを追加してる」
「そうなんだね、分かりにくいけれど安心感の有る重さだから驚いちゃった」
「それと、発射口の位置が下がってるから感覚がズレると思う。庭で少し試して欲しい」
銃把はどうもぴったりらしく、文句は出なかった。エテルは殆ど食べ終えていた朝食で、残っていたスープを一息に飲んでから庭に向かう。
「其奴の弾倉には属性の核石が入ってる、撃鉄横のスイッチを押すと弾倉が回転できるから各属性を試して見てくれ」
「分かった!」
試射用のスペースにやや駆け足で向かっていくエテルを見送る。そんな俺達を見ていた四葩がニヤニヤと言った雰囲気で笑っている。
「おう、仲が良いのう?」
「そりゃ、エテルの魔銃は今まで強化しか出来てなかったからな……明確に進化したらアレくらい燥ぐだろうさ」
「わざと逸らすでない、アレを作るためにかなり根を詰めたじゃろ?」
「うぐ……分かるか」
「当たり前じゃ、妾だからのう。それに、一華も気付いておる」
四葩に言われて一華を見れば、少し心配そうな感情が見て取れた。心配させてしまったとな……ご主人失格かな。
「ご主人、あまり無理はしないで欲しいでござる」
「うん、分かってるんだけどな……学生運動が近いからつい」
俺の言葉にそっと寄って来て手を握ってくる一華。不安になるとスキンシップが増えるのだろうか、もう少し触れ合いを増やすか?
「……おはようございます、ますたぁ」
そんな時、リビングの入り口から寝坊気味に起きてきたダリアが声を掛けて来た。今日のお使いを果たすためだろう、眠気は有るみたいだが身形は整えていた。
「おはよう、ダリア。眠気は大丈夫か?」
「もうしわけございません……きょうが楽しみでちゃんと寝れませんでした」
「おう、子供か?」
ダリアの言葉に真っ先に返したのは四葩だった。うん、そう感じるよな?
「あっと……渡したい物が有るけど大丈夫か?」
「アフっ……渡したいもの、でふか」
欠伸混じりの姿を心配しつつ、整備した『トリテレイア』を取り出して渡す。ダリアは受取ると手早く点検をして、一つ頷いてインベントリへしまう。寝惚けてるくせになんて手早い点検だ。
「続いてコイツだ、取り敢えず今回の損傷で見えた問題点は改めたから」
「……レポート提出はまだでしたよね?」
「破損状況から装甲その他の再設計だ、使用者の要望は入れてないからまだまだ試運転が必要なんだよ」
「成程……都市長様にお伺いを立ててみます」
「直ぐに許可は下りないと思うけどな」
目が覚めて来たらしいダリアに安心感を抱きつつ、本日の目玉になりそうな代物を取り出す。
「んで、お前は見てないがエテルの『ロニセラ』の技術検証の為に作った……というか改修しただな。属性変換試作型魔力砲……『サザンカ』の改修型だ」
「……」
俺から巨大な砲を受け取ったダリアは呆然とした表情で改修型の『サザンカ』を確認する。静かな稼働音が改修型『サザンカ』から聞こえて来るので機巧乙女の能力で確認しているのだろう。
「昨日ダリアが拾ってきた核石で魔力をそのまま撃つだけじゃなくて属性の付与が出来るようになったからな、今まで純粋魔力を撃ち出すだけだったから今度からは属性弾も撃てる」
「……」
「あのトリモドキとの戦いの時、お前が居なかったらこの都市が無くなってた可能性も有った。お前があの時駆け付けてくれたから俺達は生きてる……コレはせめてもの礼だと思ってくれ」
実験兵器に礼もクソも無いかも知れないが、それでもこの方がダリアも喜ぶだろう……喜ぶよな?
「……マスター」
「なんだ、もしかして気に入らないか?」
「いえ、この改修型魔力砲の名前をお願いします。純粋魔力砲の『サザンカ』とは別なので、新しい名前を」
「うぇ、えっと……『ランタナ』かな」
「『ランタナ』ですね、分かりました」
ランタナ、花言葉は『七変化』。6属性と無属性の計七つの属性弾を切り替えて撃つ為に付けた名前だ。
ダリアはそのまま『ランタナ』をインベントリにしまい、食卓に着く。そのままクラブハウスサンドを手早く食べて、そそくさと家から出ようとする。
「マスター、取り敢えず都市長様の所へ行って魔導具の実験をしてきます」
「あ、ああ」
珍しくダリアの『素晴らしい』と高速詠唱が無かったな。
「速やかに終らせますので、『ランタナ』の試射その他は帰ってから行います」
「正気かお前」
威力絞らないとお前の魔法攻撃力分の砲撃とか危なくて使えんぞ。
「今の私は複数の新作魔導具に囲まれて絶好調なのです、この情熱を全て費やさねば……魔導具愛でこの都市が燃え尽きてしまいます」
「本当に起こりそうで怖いな」
普段から無表情のダリアだが、現在はそれに合わせて
「此方が手早く終われば、マスター達の用事にも参加します」
「……出来るのか?」
「話は聞いていませんが、恐らくタチア様の復帰に関する企みであると予想します」
「よく分かるな?」
「マスターのパーティを見てきたのです、その関係の深さも知っています。それなら、欠けたピースを埋めるために足掻く事も分かります」
改めて俺達に身体を正対させてダリアがカーテシーをしてくる。
「私、ダリア・ジュロンはマスターを中心としたパーティメンバーを好んでいます。分かりづらいかも知れませんが、私とてタチア様が好きなのですよ。欠けたままは寂しいのです」
礼の姿勢から正し、真っ直ぐに俺を見て言う。
「マスターも迷わないで下さい。大切なものはしっかりと掴み、手放さないで」
「分かった。お前のマスターとして恥じない選択をするよ」
「Yes my Master」
何時もの返事を残して家から出ていくダリア、何とも精神的に強いものだな。
ダリアを見送る中、俺達のやり取りを見ていた一華が少し複雑そうな表情をしている。
「ご主人、ダリアの事を義妹と従者の何方で見ているでござるか?」
「え、ダリアのことをか?」
一華の質問に思わず聞き返してしまった、ダリアをどう見ているか……そんなのは決まっている。
「俺はダリアをダリアとしてしか見てないぞ、義妹とか従者とか関係無いな。一華を一華としてしか見てないのと同じだ」
そう真っ直ぐ目を見て返すと、一華は一瞬驚いたように目を開いてから思わずといった具合に笑い出した。
「そうでござるな、ご主人はそういう人でござった」
一華の反応に四葩も苦笑いを浮かべている、何か言いたいことが有りそうだが……また誑しとか言いそうだな。
「タタラ、コレ凄く面白いね!」
そんなタイミングでエテルが庭先から戻って来る、どうやら魔力弾に属性を持たせるのは上手く行ったらしい。
「気に入ったのならいいが、まだエテルの魔力が馴染みきってないから前みたいな火力は直ぐに出ないからな?」
「うん、分かったよ。それでこの新しい『ロニセラ』の名前って?」
俺の注意を軽く流され、進化した『ロニセラ』の名前を聞かれる。さて、どうするかな?
「一応、そのまま『ロニセラ』を通すか別の名前を付けるかで悩んでてな」
「へぇ、何て名前なの?」
「『リンネ』だ」
「ふむ、輪廻とはまた……」
「四葩、恐らく違うでござるよそれ」
俺の案を聞いて四葩が思わず呟くが、一華にツッコまれている。多分、俺の聞き間違いじゃなければ別の意味だよそれ。
「なら、2つ合わせちゃおう。この子は『ロニセラ・リンネ』で」
その言葉とともに、脳裏に何かが繋がる感覚がした。どうやら正式に命名されたらしい。改めてその手に握られている魔銃に『鑑定』を掛けてみる。
魔導銃『ロニセラ・リンネ』
魔法攻撃力 10+X
消費魔力 5〜15
射程 5
特殊能力『悪魔族バーラルの血族専用』『血族使用時魔法攻撃力に消費魔力✕2の値を追加する』『オーバードライブⅡ』『属性変更可:7属性』
何かとんでもない能力になってるような気がする。消費魔力が調整出来る為に必要最低限の魔力で敵を倒せるのはかなりエグい。そこに属性による弱点攻撃や状態異常誘発を考えると有用性が高過ぎてドン引きのレベルである。最大の魔力消費で属性弾で威力40って中位魔法クラスの威力だぞ?
「コレでチーちゃんを捕まえる……のは無理かな?」
「雷属性で痺れさせるか氷属性で足を凍らせるくらいか、石畳の上でやると怪我しそうだが」
雷属性攻撃により発生する状態異常:痺れと、氷属性攻撃により発生する状態異常:凍結は何方も対象の行動を阻害する事が出来る物だ。面白い事に、双方とも水属性による状態異常:濡れ時に使うと確率や威力が上がる点。他にも火属性で状態異常:火傷にした後に痺れにすると動け無い間に体力を削れる等のコンボも存在している。まぁ、火傷状態に対して濡れや凍結にすると火傷が治ったりなどの治癒に近い効果を発揮したりもするが。
「やっぱり、タタラの居る所へ誘導してセックスするまで出られない部屋を作るしか無いかな」
「改めて聞くと頭の悪さが凄い作戦だよな」
仲間の手を再び取るためにセックスしろってのが意味不明過ぎる。こんなのエロゲーやエロ漫画でしか許されないだろうよ、此処はエロゲー世界だけどさ。
「タタラの『性魔術』とタタラ棒でチーちゃんをメロメロにすればもう離れる事は無いから大丈夫!」
「その根拠は何処から来るんだよ、俺の経験なんて基本エテルだけだぞ……うん」
本番無しなら四葩と一華もだが、満足させられた自信は無い。
「その……ご主人は自信を持っていいでござるよ」
「そうじゃのう、あのような鬼包丁……男として壮健である証じゃ」
一華と四葩が顔を赤くしてそう言ってくる。うん、明け透けに言うのはやめようぜ?
つか、エテルは把握してるのかそれ。
「ほら、トラッちゃんとイッさんもこう言ってるし」
「いや、そう言われてもな」
この答えからは分からんが、そう言えばエロ関係を見抜くエテルが持つ夢魔の能力ならその辺把握出来てそうでは有るな。
そんなこんなで始まるタチア捕獲作戦、エテル達はタブレット片手に家から出て行った。因みに、雛菊さんは会話に参加するつもりが無いのか両手で耳を塞いで居た。尤も、髪の間から見える項が真っ赤だったので漏れ聞こえて居たっぽい。本当すみませんでした。
取り敢えず、店を開く。昨日別れ際に言ったが成金さんと法務長の甲冑の調整が出来てないので今日にでも来てくれると助かるのだが。連日開いても流石に成金さんは来ないかな。そう思った矢先だ。ドアベルを鳴らして3人連れの来客が有った。
「いらっしゃいませ」
「店主、傷薬を有るだけ貰いたい!」
「かしこまりました、現在の在庫は4009個になります」
「あ、減ってるんですね」
「一昨日、被災した人達へ向けて1000個提供しましたので」
「それは……誇り高い数字ですね」
「ええ、それで助かる人達が居ますから。クラフターとした誇れる数字だと思ってます」
常連である成金さんが何時もの注文をして、俺が答える。このやりとりが無いと店を開いた気がしないな。
「本日は傷薬をお包みしますか?」
「いえ、今日は店主さんが言っていた甲冑の調整を頼みたいのと……ほら」
「ちょっ!」
来店した3人……先頭で入ってきた成金さんと最後尾の法務長の間に居た小柄な女性が前に出される。見覚えが無い人だが、誰だろう?
「あ、あんたがウチのリーダーに傷薬とか防具を売った店主ね!?」
リーダーって言うことは成金さんのパーティメンバーか、黒髪のツインテールで大きなアーモンド型の目。瞳の色は珍しい紫だ。少し大きめのローブを纏い、背中には大きな杖を背負っている。服装からして魔法職か?
口調から気が強いというか勝ち気な人っぽいが、はたしてどんな用件だろうか?
「何時も何時もリーダーが嬉しそうに言うからどんな人かと思えば男なのね」
「え、えぇ……嬉しそうに何を仰っているのか気になりますが。生まれてこの方男として生きています」
エテルの『性魔術』で近い将来に性転換されそうだが。
「あんた、名前は?」
「あ、タタラ・ジュロンですが……」
「へぇ、ジュロン……学生?」
「はい、今年度認められれば卒業にはなりますが」
「そうなのね……この魔力、魔法職かしら?」
「いえ、前衛を張ることがメインですね。才能は無いですが」
「ふむふむ……」
成金さんのパーティメンバーは俺の事を値踏みしている様子、成金さんは慌てているが多分俺への態度がアレだからって感じだろう。しかし、この人かなり観察眼高いな。魔力から後衛って判断したのは肉体を見つつもクラフターとして生計を立てているから、ダンジョンに潜っている事は成金さんから聞いて知っているだろうから後衛だと判断した感じか。
「……私、魔法職なのよ。それで、杖とかの触媒は有るかしら?」
「魔法触媒になりそうな素材があいにく持ち合わせが有りませんね、扱えて鉄や鋼あとは変わり種くらいしか販売出来ないので」
「そう、販売
「ええ、販売
さて、気付くか?
「……店主さんが扱える素材って何処までなのかしら?」
「経験だけなら魔法金属はアダマンタイトまで、ですね」
俺の言葉に大きく目を開く成金さんのパーティメンバー……長いから猫娘さんって呼ぶかな。なんか猫っぽいし。
「そう、販売出来ない理由って言えるかしら?」
「都市長と商会長からの通達ですね」
「そう、差し詰め
うわ、怖えこの人。なんで分かるんだよ。
「魔法職の私が多少無理して買うのなら、何を勧めるかしら?」
「杖の場合はお持ちでしたらミスリル、または世界樹に連なる樹木ですね」
「それなら、防具は?」
「レアモンスターの素材になりますが、『死霊王の衣』を」
「……それ、1000万とかしなかったかしら?」
「今は最低値250万ですよ」
何だか楽しいなこの人、スキエンティア並に知識が有るぞ。
「それで、もし私が『死霊王の衣』が欲しいって言ったら出せるかしら?」
「在庫は二つ有りますのでお出し出来ますが」
「……マジ?」
「マジです」
俺が参戦しなかった間に増えに増え、スキエンティアに売った以外にもまだ2着有ったので売れる。しかし、250万だが買えるのか?
「……400万までなら即金で出せるわね。で、幾ら?」
「250万ですね」
「……商売する気、有るの?」
「元はただで手に入った素材ですからね、それに……求める探索者の足下見て値段吊り上げるの大っきらいなんですよ俺」
そう言うと、猫娘さんは驚いた表情を見せる。後ろの成金さんと法務長は苦笑い気味だ。
猫娘さんはニヤリと笑い、言葉を紡ぐ。
「いいじゃない、気に入ったわ。『死霊王の衣』買っていくわ!」
「ありがとうございます」
早速『死霊王の衣』を取り出すと、猫娘さんも財布を出して250万を取り出す。中堅のパーティって聞いてたが、成金さんの出自的に貴族な人だったりするんだろうか?
「確かに、物は間違いなく『死霊王の衣』ね。凄いわコレ、魔力の巡りが良くなって魔法攻撃力が上がるのね」
「ええ、お買い上げ出来る魔法職の方にはお勧めさせて頂いてます」
贋金も数え間違えも無し、本当に貴族かもなこの人。
「その、店主さんすみません」
「いえいえ、確かな品をお買い上げ頂けたので素晴らしいお客様ですよ」
「当たり前じゃない、誠実な店主の店なら誠意を持って応えるでしょ」
何となく、猫娘さんとガッチリ握手する。この人なんだかとても気が合う。
「なんでそんなに早く仲良くなれるんだよお前」
「あら、彼がやたらと相性良いからよ。あんたが人柄に惚れ込んだ理由、よく分かるわ」
「幼馴染だからって、好む人格まで被るか普通……」
何だか成金さんの口調が雑になっている。幼馴染って猫娘さんが言ってるが、それだけで此処まで気安い間柄になるだろうか?
リンネ→リンネソウ:花言葉『夫婦円満』
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない