※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント継続中


後の人気ホビー『アーレム』の始まり

「さて、工匠長。よろしいですかな?」

「あ、はい。甲冑の調整ですね?」

 

 言い合いを続ける成金さんと猫娘さんを横目に語り掛けてくる法務長に咄嗟に応えると、法務長は苦笑いを浮かべつつ頷いた。

 

「早速行いますか?」

「ふむ、しかし時間がかかるのではないかな?」

「基本的に10分で終わりますよ」

「早すぎる」

 

 取り敢えず、他にお客さんも居ないので手早く調整を済ませてしまう。法務長に甲冑を着てもらい、各部位を動かしながら状態を合わせていく。首、腋、腕、腰、腿、膝、足首と順次法務長の動きに合わせて調整をする。より自然に動きを阻害しないよう、果には剣と盾を構えて貰い一通り型を取って貰う。所要時間10分で宣言通り調整は完了する。

 

「如何ですか、法務長。上手く出来たと思うのですが」

「いや、コレは凄い……甲冑ではなく貴族服を着ているかのように動きやすい」

 

 調整が完了して改めて型を取り、素振りをする法務長。その動きは流麗の一言で甲冑もあまり音を立てない程、動きに無駄が無い。つか、何で法務長かつ貴族でそんなに鍛え上げたんだこの人?

 

「その状態でハンガーに乗れば、後はハンガーがその状態を記録してくれるので何時でもその状態に出来ますよ」

「……工匠長、あのハンガー60万でも安すぎるのでは?」

「革新技術使ってない自動で着脱を手伝ってくれるだけの鎧置きにそんな大金頂けませんよ」

「……ねぇ、これ私がおかしいの?」

「多分、おかしくないと思う」

 

 喧嘩というか言い合いが止まった猫娘さんと成金さんが何やら俺の言葉に思う所が有るらしい。

 

「申し訳無いが工匠長、外套を一着頂きたい」

「そうですね……少しお待ち下さい」

 

 フル装備状態の法務長が外を歩くのは流石に目立つから嫌なのだろう、隠して帰宅する為に外套が欲しいっぽい。さて、流石にミスリル銀糸の外套なんて手軽に売れないしミスリル商品なので売る許可が降りてない。なので、『ジャイアントバット』の翼膜を『クラフト』スキルと『錬金術』スキルの併用で1つに繋げてから裁断、縫合して外套を作る。

 色はそのまま、暗い茶になるので外を歩いても目立ち難いだろう。

 

「此方でどうでしょうか」

「然りげ無く翼膜を1枚に繋ぎましたね?」

「『クラフト』スキルと『錬金術』スキルのおかげですよ、慣れれば誰でも出来ると思います」

「ねぇ、アレ出来そう?」

「私が『クラフト』と『錬金術』取って10年修行したら取っ掛かりは掴めるかも知れないわね」

 

 成金さんと猫娘さんがなんか言ってるけど、コレで食ってる身としては簡単に真似できる技術では無いと自負してる。その分魔法関係は術式の効率化等は出来ても実戦で操れるきがしない、カラムスさんから対人戦の才能無しとお墨付きを貰っているのは伊達ではない。

 

「……ふむ、全く問題無しですな。色を変えれば式典にも出られそうだ」

「今回は目立たない事を優先しましたので。家紋とご指定の色を教えて頂ければ後日対応しますよ?」

「アフターサービスも手厚い、と」

 

 法務長は何やら悩んでる様子だ。もしや、御家の指定するクラフターにしようとか考えてないか?

 自由にダンジョンへ潜れなくなるのは嫌だな、『料理長』の言ってた最深部到達の事も有るし。

 

「……取り敢えず、そちらの甲冑も調整しますね」

「うぇ、あっと……お願いします」

 

 考え込んでいる法務長を一先ずおいて、成金さんの甲冑を調整しようと決めて声をかける。声を掛けられると思って無かったらしい成金さんは戸惑うも、インベントリから甲冑を取り出して着込んでいく。俺が手伝おうとすれば、それより先に猫娘さんが手伝って成金さんに甲冑を着せている。何となく、恋人と言うより夫婦みたいな距離感に思える。

 そうして着用が終わったのを見計らい、法務長の時と同じ様に全体を調整していく。身体の動きを阻害する要素は可能な限り取り除き、特に足回りを重点的に弄る。全体の重量が増しているので僅かでも足捌きに支障が出れば、それだけ成金さんの被弾が増すだろうから少しでも怪我の確率を減らせればいい。

 俺の手元をジッと見ている猫娘さんだが、どうもある程度は対応出来るようにしたいと意思が感じられる。来店出来ない状況でも探索が有るだろうし、その場合でも可能な限りベストコンディションで探索させたいのだろう。此処まで心配されるなら、次は魔導鎧での自動調整機能を勧めたくなるが流石に値段が跳ね上がり過ぎる。アレ、一番安いのでも1000万を越える価格帯だしな。何なら俺の『玄武』の元になる魔導鎧の『黒鉄』が素材は兎も角として新機軸の技術を使用しているからと1000万丁度の値段と言われている。よくよく考えると、純粋な防御力は初期の『黒鉄』よりもこの甲冑の方が上なんだよな。物理攻撃と速力にボーナスは無いとは言え、こんな所で自分の成長が分かるのは何だか気恥ずかしいが嬉しい。もし注文されたら、この甲冑をベースに作るのもいいだろう。

 そんな事を考えてるうちに成金さんの甲冑の調整が完了する。

 

「どうでしょう、中々の物と思いますが」

「……店主さん、この出来で中々は流石に謙遜が過ぎますよ」

 

 俺の作業終了を意味する言葉を受けて身体を確かめる成金さんは、そんな言葉を溢した。早速インベントリからシールドソードを取り出して構えるその姿は、城壁のような安心感と威圧感を感じ取れる。

 

「そう言えばジュロン、気になった事が有るんだけれどいい?」

「あ、はい。なんでしょうか」

 

 動きを確かめる成金さんとその動きに対して甲冑がどんな擦れを起こすのかを確認していると、猫娘さんが声を掛けてくる。はて、気になること?

 

「さっき小父様……法務長様があんたの事を工匠長って呼んでたのはなにかしら。今の工匠長は都市長が兼任している筈でしょう?」

「ああ、それですか。次を内定されてるんですよ、学生だから正式に就任はしてないですが」

 

 俺の言葉に猫娘さんの目が細まる、疑いが混じっている様子だがそれも仕方ないか?

 

「工匠長の条件って分かるかしら?」

「少なくともこの『ワールウィンド』において最高のクラフターである事、ですね」

「そうね、合ってるわ。確かにあんたの甲冑は素晴らしいし、この『死霊王の衣』を用意できる事も評価出来るわ。それを踏まえて言うわね、あんた……何処まで出来るの?」

 

 曖昧な問い掛けだが、実績を示すって意味では必要か。別に猫娘さんに認められる必要は無いのだが、この人分かってる人だしな……何を示すべきだろうか?

 

「実績って意味なら、特許を管理している中央図書館で俺の名前を探すのが速いんですけど」

「……まさか、あんたが“あの”タタラ・ジュロンなわけ?」

「少なくとも同年代で他にタタラ・ジュロンを知りませんけどね、俺は」

 

 遡れば何人か出て来そうでは有るけどな。

 

「アレの一番古い特許ってどれだけ前か知ってる?」

「10年くらい前ですね、魔導鎧の稼働術式か魔鉄のどっちだったかな」

「稼働術式よ。アレ、発表された時期考えるとあんた初等部の頃よ?」

「子供ながらに簡易魔導鎧を作ろうとしてましたからね、我ながら無茶をしました」

「……天才(ジーニアス)じゃなくて天災(ディザスター)って呼ばれる訳だわ」

 

 猫娘さんは俺の言葉で納得したらしい、盛大に溜め息吐いてる。そこから真っ直ぐに俺を見直して、口を開いた。

 

「クラフターとしてより此方、更に言えば錬金術の間であんたが有名なのって知ってる?」

「何となく理由は分かりますよ」

「なら、物って有るの?」

「ええ、コレですよね」

 

 簡単な問答を挟んでインベントリから『卵』を取り出す。猫娘さんは大きく目を見開いて息を呑んだ様子だ。

 

「コレが彼等の悲願だったものなのね……」

「レシピは公開済みですが、都市長も作るのが無理みたいですね。帝都の王立錬金術研究所でも再現出来ないとか」

「独りで真っ向から国の天才が集まる集団に勝ってんじゃ無いわよ天災……」

 

 疲れ切った声色でそう悪態をつく猫娘さん。俺達のやり取りを見ていた法務長は苦笑いだ。

 そんな中ドアベルが鳴る。別のお客様が居る中で来店が有るのは珍しい、普段はゲームシステム宜しく一組一組の来店なのだが。

 

「いらっしゃいませ」

「お邪魔すんねタタラはん」

 

 珍しい来店者は商会長だった、珍しいな本当。

 

「どうしたんですか?」

「あっとね、コレ」

 

 そう言って商会長がインベントリから取り出したのは一抱え程の箱、受け取ると大きくは無いが少し重い。

 

「なんだろう……」

「開けんね閉店後のほうオススメよ」

 

 箱の中身は閉店後に見るべきなのか、商会長の事だから俺を気遣った物だろうし本当にその方がいいんだろうな。

 

「……商会長、工匠長に何か物騒な物でも?」

「いやいや、法務長はんそんね疑うのひどね。ボク、タタラはんには誠実なつもりよ?」

「ふむ、では何故閉店後と?」

「そんね……」

 

 商会長が渡してきた物に疑いを持ったな、商会長は中身を言うのを嫌がってる……成金さんと猫娘さんをチラッと見たから長以外が居るのを気にしてる?

 

「ふむ、工匠長?」

「はい?」

「その箱の中身、検めさせていただいても?」

 

 商会長と法務長ってそんなに仲が悪かったかな、俺が関わるからって線も有るか?

 

「……俺が預かったので、俺がこの場で開けます。商会長、お気遣いありがとうございます」

「……しゃあないね、ボクのタイミングが悪ぅねこれ」

 

 商会長が反省を滲ませた声でそう言う。気遣いに感謝しつつ箱を開けると、中身が目に入る。

 

「……手紙?」

 

 それも一通二通どころではなく、数十通に届く量だ、徐ろに一通手に取り、開いて読む。

 

「……タタラはん、それがあの時の仕事の結果よ」

「……あぁ、ちくしょう。あとであければよかった」

 

 一文を読んで、意味を理解したら涙が流れてきた。なんだよ、本当。なんでこんなに数が届くんだ。

 

「商会長、何を……」

「これね、商店区の人んタタラはん宛ん手紙」

 

 感謝を伝えてくる文を、文字を読むだけで耐えられなかった。

 守りきれなかった身で感謝なんて、そう思う心と感謝を伝えられて俺自身が救われたような感情で心の中がグチャグチャだ。

 

「昨日1日だけで避難してん人、帰れたんタタラはんのおかげなんね。それ、ボクに渡して言う人ん多くてね……取り敢えず昨日ん1日分なんねそれ」

 

 子供が書いたのか辿々しい文字で大きく『ありがとう』とだけ書かれた手紙が有った。達筆な文字で感謝を伝える手紙も有った。びっしりと、家を直した人から沢山の思い出が綴られた手紙だって有った。タレが残ったお陰で露店を引き継げると遺族からの手紙も有った。

 1枚1枚に心が込められた手紙、こんな素晴らしい物を受け取れるのか俺が。

 

「タタラはん、銭は絶対嫌がん。なら、コレが一番の報酬なんね」

「……いいんですかね、おれなんかが」

「タタラはん以外の誰ん受け取れんねコレ、タタラはんにだけ資格あるん」

 

 あの場で人を救えなかった罪が有る身なのに、こんなに沢山の感謝を受け取る事に罪悪感も有る。だが、それ以上に喜びの感情の方が勝る。なんて現金な人間なんだろうな俺は。

 十分程掛けて心を落ち着かせて、手紙を丁寧に戻して箱ごとインベントリにしまう。

 

「……ありがとうございます、商会長」

「ええんね、タタラはんへの報酬なんね」

 

 改めて感謝を伝えると、商会長は擽ったそうにそう返してくる。何かお返しがしたいが、流石に厄切をいきなり渡すとかは拙いだろうしな。そうだ、法務長も居るし俺の計画を相談しよう。

 

「御礼ってのも何ですが、商会長に商談……では無いな。少し新しい市場になりそうな話をしたくて」

「へぇ?」

「法務長も法令についてアドバイスをお願いしたいんですが」

「ふむ?」

 

 俺の言葉に雰囲気が鋭くなる商会長、法務長にも頼めばそちらも雰囲気が鋭くなる。

 

「……コレ、私達が聞いてて良いものか?」

「次期工匠長が他二人の長に新技術持ち込む場面よね、他に漏らしたら消されないわたし達?」

 

 成金さんと猫娘さんが不安混じりにそんな事を話している。別に軍用技術って訳でも無いし……そうだ、猫娘さんは協力出来るか?

 

「あの……」

「え、わたし?」

「はい、申し訳ないんですが『ゴーレムクラフト』スキル持ってませんか?」

「え、一応取ってるけど……」

「なら、少し意見をください」

「はい?」

 

 外部協力者ゲット。そしてゴーレムと言う言葉に得心を得たのか、法務長の目が光る。

 

「工匠長、もしやアレですかな?」

「はい……あ、やべ。手元に作ってないな」

「それならば私のをお見せしましょう」

 

 こう言って法務長はカウンターに念動甲冑を置く。何時も持ち歩いてるのかな?

 商会長は念動甲冑を確認して、首を傾げる

 

「すんごい細かくて綺麗な鉄像なんね、これがタタラはんの新しい市場なん?」

「ええ」

「このくらいの鉄像なんちょいちょい見掛けんね……」

「いえいえ、商会長。この甲冑の本質は此処からですよ」

 

 疑い深く言った商会長の前で、法務長がハンガー部を掴み魔力を流す。すると、念動甲冑が自立し動き始める。

 

『はぁ!?』

 

 その様を見ていた商会長と猫娘さんが素っ頓狂な声を上げる、法務長は悪戯が成功したみたいな笑顔をしている。

 

「俺が『ゴーレムクラフト』を取ってから練習で作った新商品の念動甲冑って言います」

「え、ゴーレムなんね!?」

「命令権を譲渡してる……いえ、それだけじゃ口頭での命令が必要な筈。それに、ゴーレムのマスター権は原則譲渡不可よ?」

 

 俺の説明に対して商会長が驚愕し、猫娘さんは分析を始めている。元々は研究職志望なのか、細かく問題点を見ているようだ。

 

「コイツはゴーレムですが、コアが従来の物とは違う事に合わせてこのハンガー型のコントローラーからの『念話』を甲冑本体に刻んだ『感応』で受信して操作を可能としてます。コアの出力が低い為かマスター権はこのコントローラーそのものに有って、その為他の人に譲ることが出来ます」

「……なんてデタラメ」

 

 俺の説明を聞いた猫娘さんはそう呟いて額に手を当てる。

 

「人に譲れる……つまり、販売が出来るんね?」

「はい、俺の提供する新たな市場はこの念動甲冑をゴーレムクラフターを巻き込んだ新たな市場にしたいってことです」

「……成程ね。そで、そん新しいコアいうんはなんね?」

「はい、此方です。とある魔導具を稼働させる為に研究して作った代物の『魔力コンデンサー』って言います」

 

 複数作っていた物の1つを商会長に渡す、腕時計のボタン型電池サイズだがコイツは中型魔石を圧縮して作られている。充填に時間は掛かるが、その出力は相当な物だ。まぁ、主目的が簡易転移門のエネルギー源なので当然だが。

 

「コレは魔石を外部から充填する事で再利用が出来る物です」

「そんな便利なんね、こん小さんに」

 

 掌に乗せたコンデンサーを見ている商会長、その脇から猫娘さんも覗き込んでいる。

 

「で、タタラはんは何を売りたいん?」

「都市長との協議が必要ですが、その『魔力コンデンサー』とコントローラーです」

「ふむ、甲冑そのものでは無くコアを売る……それでゴーレムクラフターを巻き込んだ市場(・・・・・・・)と言う訳ですか」

 

 俺の言葉から理解に至ったらしい法務長がそうこぼす。商会長は顎に手を当てて考え込んでいる。

 

「……商品としては面白いんよ、だけどそれだけん弱んね」

 

 面白い商品だけでは弱い、確かにその通りだ。日の目を中々見ないゴーレムクラフター達の新しい商売と言うが、ただの娯楽品ではそう判断されるのも当然だろう。ただ、商会長──

 

「……さっきから法務長の念動甲冑を羨ましそうに見てますけど、欲しいんですか?」

『めっちゃ欲しい!!』

 

 俺の問い掛けに商会長と成金さんが全力で返事をする。猫娘さんが呆れ顔で溜め息を吐いてる。そんな猫娘さんの反応を見て照れた様子を見せる成金さんと商会長、やっぱり欲しくなるよなコレ。

 

「つまり、男の子が好きな物なんですよねコレ。このコンデンサーとコントローラーを安値で売って、ゴーレムクラフターに鉄や鋼を持ち込んでゴーレム化してもらう。そうして作った自分だけの念動甲冑を動かして戦わせる」

『戦わせる!?』

 

 法務長、商会長、成金さんの声が被る。猫娘さんは俺の言葉に目を細めて考えを巡らせている様子だ。兵器転用も可能なこと、気付いたか?

 

「はい、そこそこ広いフィールドを用意して一対一の決闘とか軍団戦とか……何なら競争でもいいですね。そんな感じで戦わせるというか競わせる、俺が目指す市場はコレです」

 

 要は前世で流行っていたホビーだ、ミニ四駆やベイゴマ等の対戦系のホビー。そこに男の子が一度は通るブンドドを組み合わせた念動甲冑による対戦だ。

 商会長と法務長は即座に思考を回し始める、発生する利益と問題点をそれぞれ頭の中で並べているのだろう。

 

「仮に、仮によタタラはん」

「はい」

「これで大会を開くとするんね、ルールは?」

「参加資格って点なら例えば『コンデンサーは商会が販売した純正品に限る』とか『年齢制限』、後は競技によって『重量で分ける』なんて」

 

 この手の対戦はルールにもよるが、基本的に重い方が有利とされる。ボクシングの階級が細かく分けられている上に徹底的に管理しているのは、その僅かな体重差が致命的だからだ。尤も、この世界では魔法金属と言う物が有るので重い=強いと言うのも当て嵌まらないのだが……流石にこの手のホビーに本気になってミスリルやオリハルコンを持ち出す奴は居ないと信じたい。

 

「ほか、そんでさっきタタラはんが商会に売りたいんはコレ言ったんね」

「はい、本体はそれぞれの工房でクラフターが誇りを掛けて作ると思うので商会を潤すならって。そんな浅知恵ですよ」

「ええんね、浅知恵。そのノリはボクも大好きねんね」

 

 そう言って笑う商会長。何だか頭の中ではどうやって宣伝しようかと考えを巡らせてるようにも見える。

 そんな商会長の隣で挙手をして意識を集める法務長。

 

「大会のルールは置いておくとして、販売時の制限は如何するのですかな?」

「対象年齢を設けるとか。親が買い与えるって抜け道が出来ますけど」

 

 俺の対策を聞いた法務長は商会長を見る。販売時の確認を徹底する等の対策を取るつもりであるらしい商会長だが、それでも対応が出来ない場合も有るだろう。

 

「正直、子供の方がこぞって欲しがるでしょコレ。そのコンデンサーなんて言う最新技術も高価になるだろうし、第一量産出来るのコレ?」

 

 猫娘さんの疑問も有る意味で尤もだろう、なら俺が出来る事を言うだけだ。

 

「俺が商会のみに独占して卸すってだけなら、素材を考えなければ多分100くらい」

「月で?」

「1日で」

「バカなの?」

 

 猫娘さんの顔から感情が抜け落ちた。割とマジで馬鹿って言われてるなコレ。しかし、単純に中型魔石を圧縮・洗練して金属の小さな箱に収めるだけなのだ。素材だけが問題になる。

 

「それで、その……」

「わたしでもゴーレムに出来るかって点ね、コンデンサーは貰えるの?」

「実験の協力に対する謝礼って事で1つ」

「分かったわ……その、魔鉄って買える?」

 

 さて、困った。俺は商会と都市長から魔鉄そのもの販売を許されてないのだ。魔鉄装備を売る、または素材から作製するのは許されているのだが。

 

「……タタラはん、特別に商会からこの場でゴーレム作るに限んね許すよ」

「いいんですか?」

「うん、商会長の権限でええね。その代わり、この時この場でゴーレムクラフトに限るんね」

「はい、それじゃ」

 

 取り出すのは鉄のインゴット5kgと小型の魔石5個、早速魔鉄に加工してから3kg分を『クラフト』で甲冑を作る。見た目は成金さんの甲冑と同じにしている、成金さんはそれに気付いて目を輝かせている。甲冑の中に『感応』の術式を刻んでからコンデンサーを入れて、猫娘さんに渡す。

 

「……アイアンゴーレムを作ろうとしたら素体まで作られるとは」

「あ、すみません」

「いいわよ、何だか目的まで見透かされてるのが気に入らないけど」

 

 そりゃ、何となく猫娘さんが成金さんを好きなのは伝わって来たし。俺を疑ってたのも女と思ってた事の嫉妬と、俺の作品の出来に対してってのが今なら分かる。是非とも上手くいって欲しいな。

 猫娘さんが新しい甲冑を念動甲冑化してる横で、俺は残った2kg分の魔鉄でハンガー型コントローラーを作る。甲冑の『感応』の術式と波長を合わせて、他のコントローラーと混線しないようにするのは何気に面倒な作業だ。

 

「……ふぅ、ほら出来たわよ」

「え、私に?」

 

 猫娘さんが念動甲冑を差し出すと、成金さんは驚いた様子だ。

 

「御生憎様、わたしは女の子だから技術以外に興味無いのよ」

「女の“子”?」

「ぶっ飛ばされたい?」

 

 頬を赤らめつつ言っていた猫娘さんが、成金さんの不用意な一言で瞬時に無表情になる。いや、確かに女の子と呼ぶには発育が良すぎると思いますが。

 

「……そう言えば、魔鉄って幾らするの?」

「1kgで3万ですね。今回は5kgで15万です」

「……コレ、鉄の二倍は性能が上なのよね?」

「そうですね」

「安くない?」

『安過ぎる』

 

 俺と猫娘のやり取りで、魔鉄の値段に対して商会長と法務長の声が被った。そんなに安いだろうか?

 

「タタラはんが銭稼ぐ気が無いんね、どんな言っても最低値でしか扱わんね。3万いうねん素材持ち寄りの上なん、今回タタラはんが素材出してんねお値段は1kg70000で35万よ」

「それでも安くない?」

『安過ぎる』

「あの、私の稼ぎでは十分高額なのですが?」

 

 商会長の説明を受けて尚、猫娘さんは魔鉄を安いと言いそれに賛同する商会長と法務長。尚、中堅探索者っぽい成金さんは高額だと声を上げる。猫娘さん、実家太いなコレ……法務長の息子である成金さんの幼馴染だし貴族かやっぱり。

 

「鉄や鋼ならもっと安く済みますよ、今回は法務長のとお揃いにするべきって判断でしょう?」

「ええ、そうね」

「子供が買うなら無理した魔鉄より、鉄や鋼の安いのを買うでしょ。そっちならゴーレムクラフターでも一般的な物になりますし」

 

 俺がそう言う中、猫娘さんは考え込んだ後に口を開く。

 

「これ、普通にゴーレムを作るとそこまで流行らないと思うわ」

「え?」

 

 猫娘さんの言葉に疑問を持つ、普通のゴーレムだと流行らない?

 

「ジュロン、あんたそこそこ深く探索してるんでしょ?」

「ええ、35階層迄なら問題無く」

「なら途中でモンスターのゴーレムは見てるわよね?」

 

 その言葉で得心がいった。つまり、普通の『ゴーレムクラフト』では見た目がダサくなると言いたいのだ。

 

「ある程度大人になるとそう言う無骨さも味に感じるけど、子供なんて九割見た目でしょ。あんたのこの甲冑の見た目だから良いけど、普通のゴーレムとか子供が嫌がるわ」

「成程、デザイン性の問題か」

 

 コレは考えて無かったな、なまじ俺が一人で全部出来るから生じた弊害かも知れない。

 

「一般的なクラフターはこの手の小さな甲冑とか作らないよな……」

「あまり余裕が無い工房も多いでしょう、小物専門のクラフターに掛け合うのは?」

「それならボクの出番なんね」

 

 俺と法務長が悩む中、声を上げるのは商会長。

 

「その手のクラフターなら商会に登録されてん、ボクから掛け合うんね」

「いいんですか?」

「そんかわり、タタラはんには仕事を頼むんね」

「仕事?」

 

 はて、何だろう。

 

「タタラはん、全力で念動甲冑を1体作ってん」

「……えっと?」

「都市祭の3日前、それ迄に作ってんならボクがこの『ワールウィンド』で流行らせる切っ掛けになるんね」

 

 それは決意とか自信に覚悟、そんな物を滲ませる声だった。商会長は果たして、何故それだけの決意を滲ませてるのか?

 

「なら作りますけど……デザインってどうすれば?」

「法務長とお子さんのヤツ、元はあんね?」

「ええ、お二人にお売りした甲冑が元ですけど」

 

 それを聞いて考え込む商会長、新しくデザインを起こすべきか?

 

「タタラはんの鎧とかあるん?」

「ええ、ちょっと出しますね」

 

 商会長から言われて『玄武』を取り出す。黒い装甲が光を反射する中で、専用のハンガーがアームを動かして固定していく。

 

『相変わらず格好良い』

「なんて技術の無駄遣い、ステータスが表示されるって何よこれ」

 

 商会長は俺の玄武をじっくり見てから1つ頷くと、商会長が俺に振り返り口を開く。

 

「絶対コレでお願い!」

『ズルくないか!?』

 

 商会長の本気の声と、法務長と成金さんの抗議の声が重なる。猫娘さんは呆れつつも、俺の魔導鎧を見ている。

 

「……どんな超技術突っ込んでんのよ、コレ」

「概要を送った都市長が都市祭終わるまで報告禁止にするくらいの、ですかね」

「具体的な事は一切分からないのにヤバいことだけは分かるのが嫌ね」

 

 猫娘さんは溜め息を吐いてる。その横で俺はさっさと商会長の依頼を済ませる事にした。

 重さは前の2体と同じにして、デザインは俺の『玄武』そのまま。ただし、肩の砲撃機能付きのシールドは砲撃機能をオミットする。ついでに、頭部というか兜も無いのでそちらも新規でデザイン。丸い頭頂部尖ったひさしの奥にツインアイ、口元はマスクで顎もシュッと尖っている。性癖が出て見た目が復讐者の黒百合みたいになってしまったな。

 

「……工匠長、流石に自分の鎧だからと頭部を美化し過ぎでは?」

「私達の甲冑の兜は一般的な物なのに、何故こんな格好良いデザインをご自分にだけ?」

「いえ、コレ実際に被る事を想定してないですからね?」

 

 こんなマスク実際に着けたら呼吸不可だよ、何なら前世の知ってる限りのロボフェイスを念動甲冑でお出しするか?

 そんな出来たての念動甲冑を矯めつ眇めつ確認して、溜め息を1つ吐いた後に大切にインベントリへしまってから俺に向き合う商会長。

 

「タタラはん、ボクの依頼って覚えてん?」

「都市祭の前に念動甲冑を1体用意して、でしたね」

「なんで即日納品なん?」

「早いほうが計画が楽かな、と」

「気遣いの方向音痴……」

 

 失礼な、俺は虎熊家(方向音痴)の血は引いてないぞ。末娘に愛されてはいるが。

 

「まぁ、コレでボクも宣伝し易くなったん。ありがとね」

「いえ、俺も新しい市場とかわがまま言いましたし」

 

 商会長の感謝に対してそう返すと、苦笑いされる。

 

「あとね、流石に念動甲冑って名前が重々しいんね。気軽に呼べる名前とか無い?」

 

 おっとぉ?

 

「え、じゃあ……『アーマー』と『ゴーレム』を混ぜて『アーレム』で」

「なるほど『アーレム』……呼びやすくてええんね」

 

 念動甲冑改めてアーレム、コレから『ワールウィンド』が発信していく新しい趣味……になればいいな。

 

 

 そうして完成した代物を持って退店していく四人。去り際に猫娘さんが35万を渡して来た、成金さんのアーレム分の代金だが忘れられてると思ったのだがしっかりと覚えられてたらしい。

 そうしてお客様が居ない店内でカウンターの裏にてタブレットを起動する。すると俯瞰視点で追跡劇が見えた。

 サイファーはしっかりと役目を果たしているらしく、タチアの魔力を追っている。その先々に控えていた小たたらが連係してタチアの姿を見付け、動きをタブレットに送ってくる。画面を100分割をしたりせず、タチアを捉えた視線だけを送ってくる辺り本当に優秀である。

 タチアは小たたらを見付ける度に道を変え、俺の家の近辺に追い詰められていく。時々小たたらに近付いて頭を撫でてから離れているのは余裕か、それとも根っ子に可愛いもの好きが有るのか。

 時折タチアの視界内にエテル達が姿を見せて、道と思考を誘導している。何だこの狩りの場面、本気出し過ぎだろ。

 別の小たたらから視界が送られてくる。タチアの今日の服装はなんというか清楚な物だった。何となくアンナちゃんが好みそうな露出が控え目な物で、色味も落ち着いている。肩出しの白いトップスに七分丈のデニム。靴は走りやすいようにか靴は飾り気のない実用的な運動靴だ。髪形はいつも通りだが、赤いリボンをあしらって印象を変えている。パッと見た時、下手したらタチアと気付けないかも知れない。

 

「本気出し過ぎだろ、お前」

 

 服装で此処まで大きく印象を変えられたなら、そりゃ昨日エテル達が見逃す筈だ。ただ、それも今日は叶わないだろう。

 追い詰められ、遂にタチアは店の前に辿り着く。慌てていたらしく、直ぐ近くに有った俺の店へ飛び込んで来た。

 

「失礼する、店……主……っ!?」

「いらっしゃい、タチア」

 

 俺を見て大きく目を見開くタチアに、俺はそんなふうに声を掛けた。さて、風から逃れきれると思うなよ俺達の翼よ?




念動甲冑『アーレム』
 アーマー(鎧)とゴーレムを掛け合わせた名前を持つ『ワールウィンド』の一大娯楽。大人から子供まで自分が思う最高のゴーレムを作り、動かし、競わせる遊び。
 大天才にして天災工匠長タタラ・ジュロンが生み出し、当時の商会長が宣伝して大流行した。始めは風当たりも強く、批判もされていたが後に都市祭にて国際大会が開かれる迄に至る。
 ある年の都市祭にて発表され、始めは大きな工房の中や小物を扱うクラフターの中で細々と小型の甲冑が作られていた。が、都市祭で行われた初代大会から熱狂が始まり遂にはアーレム専用の工房を開くクラフターまで現れるに至る。
 アーレムの始まりであるタタラ・ジュロンが作った3体の念動甲冑は根強い人気を誇り、レプリカモデルが数多く出回っている。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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