既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
アンケート実施中です、直感でお選び下さい。
聖人。それはヒトが神様より力を与えられ、絶大な力と共に永遠の生命を得た者。
宗派によりその基準は様々であり、人の手では生み出せない者の筈だ。
「私がマスターより『卵』を与えられ、胸に納めたあの時より私の存在は昇華されました。より強く機械神様と繋がれるようになり、この身はその神性を許容出来る器を得た為により強く恩寵を得られたのです」
「……それが、聖人になったって事なのか?」
「はい。我が身がより魔導具を強化出来るようになった事、より死に難くなった事は機械神様による恩恵です。マスターの『卵』の効果がそのまま活きているのは、機械神様が私の身体を最適化したからになります」
ダリアは淡々と語る、傍から見れば何も感じてない様にも見えるが実際は真逆だ。内から溢れる感情を抑え込んでいる事がそこそこ付き合いが長い事から察せられる。
「もしや、お前の朝が弱いのって」
「それは元からです。夢の中で機械神様から干渉は受けますが、内容は『マスターの魔導具良いよね』『良い……』のやり取りに終始して朝まで語っているので」
「お前は神様と何やってんの?」
「それと、機械神様がマスターとの子供を欲しがるので作戦会議が主ですね」
「お前の神様は何やってんの?」
雰囲気がいきなりぶち壊された上に、内容がアレ過ぎて頭が痛いよ。つか、抑える側じゃ無くてお前も賛成派かよ。
「そして、私がこの魔導剣に私の核を使いたい理由。それは、マスターが亡くなった後に整備性を失ってしまう可能性が有るからです」
緩くなった雰囲気の中で語られる、ダリアが魔導剣を選んだ理由。少し先の未来で、ハイマツェーンラートが壊れてしまった時への備えだ。
「此方の魔導剣は私の魔力を集束し維持する為に構造はシンプルです、その為に壊れ難く整備性も特に考慮せずに済みます。仮に私の持つ全てのマスター作の装備が壊れてしまったとしても、この剣ならば直せる可能性が高い。なので……この剣に私の核を使いたいのです」
それは、俺の技術が継承されなかった際の備えなのだろう。まさか此処まで考えてるとは思わなかった。
「一応、別の備えも考えたのですがそちらはマスターが協力してくれそうにないので破却しました」
「……嫌な予感がするんだが、内容は?」
「マスターと子供を作って徹底的にマスターのクラフトを叩き込む事です」
「うん、その為だけに子供は作らんからな?」
「マスターとの子供は私に『幸せ』を教えてくれそうなのですが……」
「泣き落としは効かんぞ」
「それは残念」
しれっと言ってるし誤魔化したが、ダリアが俺との子供を何かしらの形でも求めているのは何となく分かった。俺、お前にそこまで想われる様な男じゃ無いぞ。
「そういう訳で、この魔導剣に私の核を使用して強化して下さい」
「……そうだな、そう言う理由なら仕方ないよな」
丁度今回の探索でオリハルコンを幾つか手に入れているし、強化するのも吝かでは無い。
《……それは、少し理由として悲しいのでは》
「ぬわっ!?」
「存在の発生を感知……対象の存在を以前にも確認しました。対象名『料理長』です。そして同系統かつ同等の力を感知しました」
背後から話しかけられて悲鳴を上げて振り返れば、ダリアの言う通りにあの気の抜けたネコのぬいぐるみを抱いた『料理長』が立っていた。が、その隣に見覚えは有るが見慣れない存在が居た。
『料理長』と対を成すような黒髪に、同じ色の翼。眼鏡の奥の目は伏せられていて瞳の色は不明だが、それはこのキャラのデフォルトだ。身長は女性の平均より高く、男性の平均に近いだろう。ただ、胸は平均より少し下くらい。『看板娘』での登場は2番目で、そのまま次女となったマスコットキャラ。料理が壊滅的に出来ない代わりに、ボロ屋敷だろうと1日掛からず新品同様に掃除するなんていう意味不明な片付け上手。
《お初にお目にかかります、タラシ・ジュロン様。私はこの子の姉となります……差し当たっては、名乗れはしませんので『清掃長』とお呼び下さい》
「はじめまして『清掃長』さん、取り敢えず俺はタタラであってタラシでは無いです」
ナチュラルに俺の名前を間違えたぞ『清掃長』、俺から言われて『料理長』の方を向いてるし、
《……名前が違いますよ?》
《でも、姉様を誑し込む人ですよ?》
《ならタラシですね》
「俺は『天使長』を誑した覚えはねぇぞ」
目前でコントやられて思わずツッコんでしまった、この子ら普段こんな会話してんのね。ゲーム時代はプレイヤーは言葉も聞こえずに主人公のモノローグだけで見てたから、実際のやり取りは大分愉快なのか。知りたくなかった。
「マスター、この私のメイドキャラを脅かす新たな脅威はいったい?」
「いや『料理長』と『天使長』は以前会っただろ、その間に挟まる姉妹っぽいぞ」
「相変わらずマスターだけに言葉が通じる不思議仕様ですか」
やはりダリアには聞こえてないのか、なんだか不思議だな。
「で、『料理長』。何故ダリアの依頼を悲しい理由なんて言うんですか?」
《むぅ、敬語……》
「すまん。で、なんで悲しい理由なんて言うんだ?」
敬語から言い直してみると『清掃長』がすごい顔をして『料理長』を見てる。つか『清掃長』って眼が開くんだな、姉妹揃って翠の眼なの初めて知ったよ。
《その人はタタラさんとの別れを前提にその依頼をしています、タタラさんの生きた証として……形見としてそれを持つと決意しているんです。それは理由として悲しいと思いますよ》
「……それでもな、『料理長』。俺達人間は何れ死ぬんだよ、天寿だろうと病だろうと……事故や戦争だろうとな」
人はいつか必ず死ぬ。いや、人に限らずあらゆるモノは始まりと終わりが1セットだ。それは例え神様だろうと、世界だろうと同じだろう。『料理長』は分かってない様子だが、『清掃長』は納得行ってる様子だ。
早いか遅いかの違いで別れが来るのなら、備えておく……多分これは『天使長』も納得してくれたのではなかろうか?
《……タタラさんは殺しても死なないのでは?》
「いや、死ぬだろ。今日実際に死にかけたし」
《またまた、御冗談を》
「いや、『不死の王』って吸血鬼の王と戦って腹をぶち抜かれたからな。普通に死んでる可能性は高かったぞ」
《……》
俺の言葉を聞いて冗談だと笑っていた『料理長』は、話を聞いてる内に呆けた顔になる。次の瞬間には涙目でぬいぐるみまで放り出して俺に触り始めた。
《やだ、だいじょうぶなのタタラさん!?》
「いや、落ち着けよ『料理長』。大丈夫じゃ無かったら此処に居ないって」
《やだ、やだやだやだしんじゃやだ!》
本当に焦ってるのだろう、何度も俺の身体を触って調べ更には傷を確認しようと服を脱がそうとしてくる。いや、力が強くてまともに抵抗が出来ないな!?
「本当に落ち着け!?」
《やだよ、やだ……タタラさんやだぁ!》
《落ち着きなさい!》
《ふぎゅ!?》
俺の言葉が届いてない『料理長』の後頭部にハリセンが叩き付けられる。もしや『天使長』まで来たのかと思えば、『清掃長』がハリセンを使ったらしい。振り抜いた姿勢で残心してる。
《……姉様から剣を借りた意味が有りましたね》
「それ『天使長』のかよ……」
《本来なら私には使えないのですが、姉様の好意でこの通りです》
《うう……痛い》
「……マスター、私には言葉が聞こえないのでサイレント劇なのですが。と言うか何が有って死にかけた話が出るのですか、私も初耳なのですが?」
しまった、ダリアに今日の事を話すの忘れてた。
「取り敢えず、今日の事を一通り話していくか……」
そうして今日の放課後から行なった探索について話していく。内容を語る内に、ダリアと『料理長』の顔が青くなっていく。ダリア、お前顔色が変わるんだな。
一通り語り終えたら『清掃長』が頭を撫でてきた。
《苦労しているのですね、タラシ様》
「名前の訂正で苦労を増やさないでくれません?」
《失礼、噛みました》
「以前も似た事をやられたんで無視しますね……そんな訳で俺も死ぬ可能性が十分に有るから、形見とかの考えは仕方ないと思う。別に永遠を生きる為の資格が俺にある訳でも無いし、寿命は仕方ないんだよ『料理長』」
《でも……っ!》
まさか『看板娘』が人に此処まで入れ込むとはな、どうやって落ち着かせようか。そう思って周囲を確認すれば、床に転がるネコのぬいぐるみが有った。
「ほら、せっかく友達なんだから捨てたらかわいそうだろ?」
そう言って拾ったぬいぐるみを差し出す。最近のお気に入りなみたいだし、大切にしてやってくれ。
《……うん》
「仮に俺が死んだら、そいつも形見の一つになるんだから。乱暴にするのはやめてやってくれ」
《……うん》
大事そうにギュッとぬいぐるみを強く抱き締める姿に、大丈夫かと不安になる。それはそれとして、今回は何の用事で来たのだろうか?
《では、タラシ様。私達の用件をよろしいでしょうか?》
「ダリアのが先だからそっちを優先したいんですが……」
《いえ、私達の方を優先した方がおそらく貴方がたの為になると思いますよ》
そんな事を言ってくる『清掃長』に訝しむ。
「……マスター、そちらを先に」
「いや、お前が先だろ」
「駄目です。何となくですが、そちらからの方が私達が得をする予感がします」
ダリアがそう言ってしまうと、俺も意固地になれない。溜息を一つ吐いてから『清掃長』に向き直る。
「ダリアがそちらをと言うので、用件を伺います」
《はい、此方の強化をお願いします》
そう言って差し出されるのは一本の槍。全長は2m程で、黒い穂先に金の刃が削り出されている。けら首には黒い翼の装飾、そこから赤い柄が伸び金色の石突が付いている。『看板娘』の次女である『清掃長』は槍を得物とする……まぁ、本来は槍ではなく箒なのだが長物として槍が該当する武器である。目の前のは『深く深い闇の先で』にて『清掃長』用の最終武器の槍だ、ビジュアルが印象的で覚えている。
「コレを強化するにしても、こんな完成度の槍をどうしろと?」
《妹の魔導鎧を拝見しましたが、素晴らしい出来でした。つきましては、負けないくらい強力な掃除機をお願いします》
「槍を出されて掃除機にしてくれは意味不明過ぎないか?」
いや、どうしろと?
頼まれたなら新規に新しい掃除機を作るよ、それこそ余ってる風の核石使って吸引力が変わらないようなの。お願いだから発想をぶっ飛ばさないでくれ。
《すみません、下姉様は天然気味で……》
「いや、本気で分からないから解説してくれよ妹御」
《……全然分かんない》
お前もか。
《何故混乱を?》
「流石に槍から掃除機へのワープ進化は無理です」
《何故槍を掃除機に?》
「貴女が槍を差し出して『掃除機をお願いします』とか言うからでしょうが」
《……あぁ》
なんだろう、テンポが掴み難いと言うか言いたい事を理解し難い。
《槍を掃除機にするなんて無理でしょう。槍は槍、掃除機は掃除機で別ですよ》
『紛らわしい行動をしないで!?』
思わず叫んだら『料理長』と被った、天然といっていいのか分からんなこの人。
「まぁ、槍の強化と掃除機の作成は分かりましたが……どう鍛えればいいんだこの槍」
柄は木製に見えたがおそらくは骨だ、長さから考えてドラゴンの前腕辺りだろうか……素材無いな。穂先は黒から予想した通りにアダマンタイト、削り出して金になるって事はオリハルコンとの複合かな。石突はそのまんまオリハルコンらしい。
《何時ものように無茶苦茶すればいいんですよ》
「俺が何時も常識を壊してるみたいな扱いやめてくれないか?」
「マスター、会話の全容は分かりませんがゴーレムが喋るのもモンスター武器を別物として作るのも無茶苦茶です」
「なんで会話聞こえてないのにピンポイントで内容当てるのお前?」
何故ダリアは『料理長』の台詞が分かったのか。
《……ゴーレムが喋る?》
「え、ああ。そう言えばこれ理由あんのかな……取り敢えず挨拶させるか」
インベントリからたたらゴーレムのリーダーを呼び出して、『料理長』と『清掃長』の前に立たせる。
「ほら、挨拶」
「たー!」
《最近のゴーレムは喋るのですね》
ゴーレムの挨拶に対して『清掃長』は薄い反応である。ただ、何となくだがこの人は感情が表に出て来ないだけで内心めっちゃ反応してる気がする。何故かは分からないが。
対して『料理長』はたたらゴーレムを見て固まっている。プルプルと震えた後、ガバッとゴーレムを抱きしめた。
《この子、ウチのコにする!》
「駄目に決まってんでしょ、そもそもそれデフォルメされてても見た目俺だぞ何考えてんだ」
眼がキラキラの『料理長』がゴーレムを持って帰ろうとするのに対して冷静にツッコミを入れる。尚、抱き締められているゴーレムはジタバタ動いて逃げようとするがステータス差から無理っぽい。
「たー、らー!」
「マスター、本気で嫌がってます」
「見れば分かるが……なんで?」
俺の中で『料理長』の好感度は低くは無いのだが、俺の感情をコピーしてるっぽいゴーレムが拒否してるのが分からない。……もしかして、エテルの側から離れたくないとか?
兎に角、こういう時の為にって訳でも無いが対策は有る。
「ほら『料理長』、此方をやるからゴーレムを離してくれ」
《ふぇ?》
インベントリから取り出したたたら人形を『料理長』に見せると、動きが止まる。じっと人形を見る内に腕の力が緩んだのか、ゴーレムが逃げ出して俺の後ろに隠れる。コイツら本当にゴーレムか?
「取り敢えず、ゴーレムは諦めろ。な?」
《……うん》
ネコのぬいぐるみに代わり俺の人形をギュッと抱き締める『料理長』、取り敢えず落ち着いたでいいのかな?
「先ずはこの槍の強化か……具体的にどうして欲しいんです?」
《そうですね……複数属性を持ち、相手の弱点に最適化する感じで》
「馬鹿じゃねぇの?」
何だその無茶苦茶な装備は、別のゲームにそんな最強武器が有ったけど。
《出来ませんか?》
「核石が有れば案は無くもないけど」
「案は有るんですね、マスター」
『清掃長』の疑問に軽く答えるとダリアからツッコミが入る。
いや、本当に案は無くはないのだ。核石を複数嵌めて、相手の所有する属性に対して音叉が反応するかのように反属性に切り替える術式。色々とやろうにも前例が無いので今は無理だが。
《ふむ……では、此方を素材に使って下さい》
そうして差し出される素材。火、水、土、風の核石と天使族と夜闇の眷属の霊核。そして魔法金属各種だ。雷と氷は無いが、アレは何方かと言うと複合属性みたいな物だから此方の方が正しく六属性になる。素材の量を確認し、コレなら丸々一本新造出来る量である事が分かった。
「一つ確認したいんですけど、強化じゃなくて新造したほうがいいですかコレ」
《作れるのなら、今迄のも残したいのでお願いしたいです》
ふむ、なら作るか。それと、少しお願い出来るか試すか。
「出来れば羽根を何枚か頂けますか?」
《ふむ、いいでしょう》
俺の言葉に『清掃長』は特に悩みもせずに自身の翼を撫でて、10枚の羽根を取った。
《コレで足りますか?》
「ええ、十分です……それにしても綺麗な色だな」
《タラシ》
「え!?」
手渡された『清掃長』の羽根に素直な感想を言ったら罵倒された、『料理長』もそうだそうだと言わんばかりに頷いてる。
解せない気持ちを抱えながら、工房の先の鍛冶場に入る。ダリアと『看板娘』二人も付いてきて見学するようだ。
早速炉に火を入れて、鍛冶場内の魔力を循環させる。この先、精霊王の核石が手に入ったら各設備をバージョンアップしてもいいかななんて考えつつ作業を開始。先ずは穂先に使うミスリルとオリハルコンにアダマンタイトを『清掃長』の羽根で強化する。流石に神核片よりかは難易度が低いが、それでも中々の難しさで魔法金属を強化した。
オリハルコンに糸状になったミスリルを巻き付け、更にアダマンタイトで挟む。それを炉に入れてから『概念鑑定』を使い赤めていく。叩いて伸ばしつつ最適な長さになった際に水へ入れて割る、硬度の違いで分かれたなら積み沸かしを実施。
続いて心金と皮鉄を分けてから仮付して問題無いのを確認してから本沸かしに入る。お師様から贈られた槌は今日も問題なく鉄を鍛える、鉱滓と合わせて余分な魔力を抜いて最適化していく。
一つに固まった所で、鍛錬を開始。十文字鍛えで何度も折り返して強固にしていく。そうして心金と皮鉄が出来上がれば、造込みだ。刀の製法をアレンジして、両刃の槍を作る。心金を2枚の刃金と皮鉄で挟む四方詰めの崩し。そこから沸かしながら打ち伸ばす素延べに入る。
槍の鋒なので今迄とやや勝手は違うが、普通の槍の穂先より少し長い物になった。火造りを行い、焼刃土を塗って焼き入れをする。冷却された穂先を取り出して焼刃土を砕けば、漆黒のその身が姿を現した。
そこから形を整えた後に銘と日付を入れて、刃を砥ぐ。顔を覗かせたのは夜空の月を思わせる静かな輝き。金とも銀ともつかない月の色とも呼べるその刃を見ると、刀身の黒は夜空に見えてくるから不思議だな。
さて、此処からがクラフターとしての実力の見せ所だ。けら首を魔導具として作る、刃が触れた対象の属性を読み取り弱点の属性を引き出す術式。少し難しいが、出来ないことはない。
相手の属性というのは、魔力の波長である。この波に対して逆位相の波を当ててやれば打ち消せる、それこそが属性相性の根本である。ならば、その逆位相を核石から引き出した波を用いて行えばいい。そうすれば相手の弱点を突くという形になる……上手く行けば、だがな。
けら首はやや大型になり、精錬した核石と霊核を六芒星の形に配置している。六芒星は円環で繋がれ、術式により共鳴した属性の逆位相の物が反応するように組み上げる。そうして、出来上がる機構にダリアが眼をキラキラさせて見ていた。
柄は芯にアダマンタイト、糸状のミスリルを巻いた上にオリハルコンを被せた。握った際に滑らないように表面に溝を掘り、石突を付けて完成である。
「ふぅ……出来ました」
《はい、見届けました》
出来た槍を差し出すと、恭しく『清掃長』は受け取った。早速手の馴染み具合を確かめている、満足行ったのか口元がニヤけた。
《良い槍ですね、銘は?》
「考えてないのでお好きにどうぞ」
《流石に丸投げ過ぎでは?》
「基本的に名付けって苦手なんですよ、相手に任せた方がいい」
俺の言葉に『清掃長』は呆れと言うか諦めの表情だ、そんなに名付けさせたいのか?
《妹の魔導鎧には名付けていたようですが?》
「結果として同じ音が三つ並んだ物ですけどね」
《いいと思いますよ、私は。何となく勇者で王だったり最強の破壊神な雰囲気がして》
この人、分かってて言ってないか?
《ぱっと何かないのですか?》
「そりゃ刃が月の色に似てるからムーンライトイエローとか思い付いたけど流石に長いですしね」
《ならムーンライトで》
「いいのかそれで」
《なら月に纏わる何かしらの名前を》
いや、なんか追い込まれてるが……月と聞くと何となく思い浮かぶのは一つあるが。
「……『セブンスムーン』、とか」
由来は新天地を目指して旅する超時空要塞の主題歌、ギターがとても格好良いのだ。一番好きなのは7よりプラスだけどな、
《なるほど、物理を含めた7属性に変わる故にセブンスムーンですか。中々に洒落てますね》
そう言って新たな槍をインベントリに入れる『清掃長』、そこまで深い考えは無いけど黙ってよう。
「後の依頼は掃除機と……フィギュアも今作るべきか?」
《フィギュアは姉様が居る時でお願いします》
なら先に掃除機か、前世で言うところのサイクロン掃除機を風属性の核石で再現しようと思う。
ミスリルで作成して本体重量を可能な限り抑え、動力は俺の魔導鎧の可動術式を応用する。フィルターは神核片で強化したミスリルを折り重ねて作成、浄水設備に使用する『浄化』の術式を応用して排気を可能な限り綺麗にする。
T字ノズルの接地面に絨毯用の毛ブラシを付けて完成、コレで納得してくれるだろうか?
《充填コードが無いようですが?》
「使用中は使用者から一定の魔力を引き出して、内部を循環させる事で術式を起動します。核石の影響で少量は消費しますが、貴女達からしたら微々たるものだと思います」
俺の言葉を確認する為か、掃除機を起動する『清掃長』。吸引力は魔力操作によって微細に変化が可能で、更には防音・遮音の術式で静音性も抜群。ゴミを収めるタンクの容量は大容量の3L、そして本体重量は脅威の800gだ。
まぁ、問題点として使用者がそれなりの魔力と制御力を持っていないと危なくて使えない事だったりする。核石を使って擬似的な竜巻をタンク内で発生させて吸引しているので、誤ってフルパワーで使えば冗談抜きに振り回される。下手したら空も飛べるんではなかろうか?
ダストボックスの説明も行い、満足して貰えたので依頼は完了である。因みにシリーズ名は『ツイスター掃除機』である、ギリギリだなコレも。
《想像以上に良い物を作って貰えましたので、お礼を奮発しなければなりませんね》
「いや、そこまで気を使わなくても」
《奮発っ、しなければなりませんねっ!!》
やべ、意固地にさせちまった。
《今回はそちらの方の強化素材に使える物をお渡ししましょう、此方をどうぞ》
「……オリハルコンが3kgとアダマンタイト2kgは多くないですか?」
《タラシ様のような地上での価値と、私達側の価値は根本的には違うのですよ。この掃除機にはそれだけの価値を私は見出しました、受け取って下さい》
これ以上断ればなんか増やされる予感がする、此処は受け取っておこう。
《今回は満足のいく物を作っていただけました》
「今後も箒や塵取り、はたきにフロアワイパーとか頼んで来そうですね」
《そのフロアワイパーというのを詳しく》
《下姉様、帰りますよ》
満足げな表情から一転、真顔で俺に詰め寄ろうとした『清掃長』を『料理長』が抑え込む。
《それではタタラさん、今日は此処で……下姉様暴れないで!》
《どきなさい、私はまだ新しい掃除道具を──》
最後まで言い切る事なく、『清掃長』は『料理長』に連れ帰られた。うん、ひどい状況だな。
しかし、現状『看板娘』四人のうち三人の武器を作った訳だが……最後の一人の『バイト長』も来るのかな?
来るんだろうな、フィギュア作成の為の面会させに。
「声は聞こえなかったのに騒がしい人達でしたね、マスター」
「言うな、俺には聞こえてたんだから」
ダリアと二人並んで溜息を吐いて、改めて向き直る。
「ダリア、お前の理想は壊れないかメンテナンスが簡単な魔導具でいいんだな?」
「はい、合っています」
「分かった」
心金をオリハルコンにしようと決めるが、ダリアの核石は出力が低くてオリハルコンをあまり強化出来そうにない。少し試してみようかな、ダリアを近くに呼ぶ。
「悪い、少し魔力を借りる」
「かまいませんが、どうやってですか?」
「『性魔術』の応用だ」
了承を得られたのでエナジードレインを使い、ダリアから魔力を貰う。俺の中で混じらせず、その魔力をそのままダリアの核へ送り込む。少しすると、相互の魔力が影響して核の出力が上がる。ぶっつけ本番だが、実験は成功だな。
「マスター、今のはいったい」
「出来るかは半々だったが、成功して良かった。今のダリアの魔力を核に送って、馴染ませる事で出力を上げたんだ。コレで目的が果たせる」
出力の上がった核で先ずはオリハルコン500gを強化する、そうして出来たダリアのオリハルコン……ダリハルコンを心金にして剣を作成する。内部機構と柄にはミスリルを使用して、外装はアダマンタイト。普通の剣に近いサイズになるが、魔力刃を形成できる設計だ。イメージするのは某機動戦士な宇宙海賊の3号機が持つ15本の光剣と一門の砲で構成された妖刀の名前を持つ大剣、とは言え此方はアレと違って魔力刃を発生させる機構を分ける事はない。
要は魔力刃を発生させなくてもぶん殴れる武器と言うのがこの新しい魔導剣のコンセプトになる。例え魔導具として壊れても、剣としては機能し続ける。その為に心金はダリハルコンであり、精神感応金属として機能する限り強度が上がる。
「……概要は分かりましたがマスター、壊れたらどうすれば」
魔導剣の概要を聞いて困惑顔のダリア。そりゃ整備性から選んだ筈の魔力刃型魔導剣が再現性ガン無視の物になってればそうなるか。
「そん時は、そうだな……」
少し考えてから、冗談めかして言う。
「俺を探せ、きっとこの世界の何処かで転生してるだろうから」
一度は出来たのだから、きっと次も。なんてのは希望的観測でしか無い。しかし、この世界は転生してる事例が有ったりするのでそこまで低い可能性でも無いのだ。
まぁ、『天使長』に魂を持ち帰られる可能性が高いんだが。
「……そうですね、マスターらしくない楽観ですがそう言うのは私も好きです」
ダリアも思わずといったい風に笑う、力が抜けた姿から思い悩む事からは逃がせられたようだ。
その姿に余計な力が抜けて、作業に集中が出来る。精神的に最高の状態だ。
「マスター、一つお願いが」
いざ作業に移ろうとした時に声を掛けられる。
「魔力刃としての機能を失っても構いませんので、マスターの全力の鍛冶で剣をお願いします」
魔導具好きのダリアが、その機能を失ってでも俺の全力を求める。その事に異常さを感じつつ、それを越えるやる気が漲る。
お師様からは1日1回の鍛冶と言われているが、今の精神状態を逃せばダリアの最高の武器は作れないと確信がある。それに、やってみたいじゃないか。お師様の鍛冶技術を併用した魔導剣、この都市で最高のクラフターと称号を貰っているならそれに相応しい事をしないとな。
刀鍛冶と同じ手順をしつつ、工程に手を加える箇所が有る。
先ずは普通の鍛冶と同じ手順で進めていき、造り込みまで進める。そして造り込みの際に心金のダリハルコンを挟むようにミスリル、その上から皮鉄と棟金のアダマンタイトを巻く。更に、刃金はミスリルである。
四方詰めの構造に、更に挟んだ構造であるコレの目的はダリハルコンにダリアの魔力をより伝えやすくする為である。本来魔法金属で一番脆いミスリルを刃金にしたのも、魔力刃を発生させる上での触媒として優れる為だ。心金のダリハルコンはダリアの精神に感応してその攻撃力を上げる、これが俺が構想したダリアの新しい剣である。
ダリアに刀術は使えないと思ったのだが、必要なら見て覚えるとの事なので此方も全力で刀を作る。魔導剣として機能するには術式を刻む必要が有るので、俺はそれを造り込みで行う。
一通り普通に鍛冶を進め、そして肝心な造り込みに入った時に『クラフト』でダリハルコンとミスリルに術式を刻む。
打ち延ばすさなかに『概念鑑定』で確認し、『クラフト』で術式を修正しながら鍛えていく。そうして出来上がる魔導剣は、見事な刀の形をしていた。
鍔と柄を施してからダリアに渡すと、ダリアはそっと剣を抱き締める。ダリアの防御力を貫けないらしく、その身体を傷付ける事は無いらしい。
案の定、『鑑定』しても名前や性能が読めない。また新規の魔導具を作成したか。
「温かいですね、この剣は」
「そりゃそうだろ、なんたってお前に寄り添う剣だぞ?」
出来たてだからな、なんてデリカシーが無いことは言わない。この剣はダリアの為に作られたのだから、共に在れば温もりも感じるだろう。
「マスター、やはりこの剣の名前は考えて無いのですか?」
「まぁ、思い付かんし」
やはりって言うのは、さっき『清掃長』の槍の事が頭に残ってるのだろうな。しかし、本当に名前とか思い付かんし。
「では勝手ながら、この剣は『フォルジュロン』と呼びます」
名前にツッコミを入れたくなったが、きっとそれはダリア成りの思いなのだろう。忘れない為にか、亡くしても探し出す為かは分からないが。
「じゃ、その『フォルジュロン』の試験運用をやってくれるか?」
「申し訳ありません、マスター。この場での試験は推奨出来ません」
ダリアからまさかの断りである。この魔導具大好きダリアが断るとなると、下手したら制御不可か?
「近日中に都市長様より都市外試験の許可を取り付ける事を推奨します、この『フォルジュロン』の出力は今迄の魔導具の比ではありません」
え、何この脅し文句。
「どんだけ強力な代物なんだ、コレは」
「マスターの『鑑定』では分からないのですか?」
「名前は分かるが性能が読めない、完全に新規の魔導具扱いだ」
最早慣れてきた側としてそう説明すると、ダリアは顎に手を当てて考え込む。少しして頷き、口を開いた。
「最大出力で無制限に展開した場合、余波でこの都市が半壊します」
「馬鹿じゃねぇの?」
どんな出力と言うか攻撃力してんだよこの剣、ダリア本人は傷付けて無いから魔力刃の方の問題か?
「奥様の魔銃と原理は一緒ですが、私が聖人である為か出力が桁違いになっています。慣れないまま使えば魔力刃は伸び続け、魔力をひたすら放射し続けますので」
「本気でヤベェな」
何処の宇宙すら吹き飛ばす伝説の巨人だ、惑星ぶった切れるんじゃないのかコレ。それに届かないにしても、悪を断つ剣の可能性の姿が使う星を薙ぐ剣にはなりそうだぞ。
「なので、使い方に慣れて魔力を刃の形に留める為の訓練をしています」
「……後で都市長に手紙出しとくわ」
怒られるのは覚悟したが、何故こんなヤバイもんになったのか?
ダリアが部屋に戻った後、都市長と商会長に手紙を書く。都市長には『不死の王』を始め『魔槍ワラキア』やダリアの『フォルジュロン』について、商会長にはエストとシャムスの紹介だ。そして共通の内容として綴ったのが夜9時以降は翌日の仕事依頼を受け付けない事だ。
都市内の手伝いもやるが、それは俺と親交がある物を主にしたい。更に、暇な時は探索をして自分を鍛えたいと言うのが有る。正直『不死の王』とのエンカウントが無ければ、もう1レベルは上がったと思うのだ。それに、『ワラキア』の完成形を作っておきたいと言うのも有る。作れてないと次に『不死の王』とエンカウントしたら地獄が確定するし。
手紙を書き終えた後、サイファーを呼び出して手紙を送ってもらう。嬉しそうに高々と一鳴きした後に飛び立っていく。一通りやる事を終えて振り向く。
「そろそろ来るんじゃないかと思ってた」
音も気配もなく部屋に入ってきた侵入者は、俺の言葉を聞いてその背の翼を少し動かした。
マクロス7の『SEVENTH MOON』は名曲。
尚、コレを聞いた後に『ムーンライト伝説』の緒方恵美さんバージョンは聞いてはいけない。逆もまたしかり。緒方恵美さん自身は非常に歌が上手いのだが、ギターが悪いよギターが()
《……姉様を誑し込むと言ってましたよね?》
《はい、タラシさんは姉様を誑し込んでます!》
《……貴女も大概では?》
《何を根拠にそう言うのですが、私の何処が誑し込まれていると?》
《その腕に抱いているタラシ様人形を手放してから言いなさい》
《え。あっ、これは違っ》
《……お願いですから姉様と一緒に凋落して嫁入りとかしないで下さいね?》
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない