※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント継続中


アンケート実施中です、直感でお選び下さい。


未来へ向かって

 一華から朝食の準備は任せて欲しいと言われたので、一任する。手が必要ならと中たたらと小たたらを何体か出してからソファへエテルと並んで座る。

 夜中には帰っていたサイファーだが、俺とエテルが睦み合ってるタイミングだったらしく止まり木に戻っていたらしい。急ぎの案件が今日は無いので、バカの家の雨漏りを直した後は探索に向かう事にする。

 四葩は庭先で何時もの様に舞の鍛錬を行っているが、今日は唄を口遊みながら行っている。そう言えば、昨日の探索で『歌唱』を取ったんだったか。それなら普段からこうして歌いながら鍛錬をするのも合理的かも知れないな。

 

「タタラ、トラッちゃんの歌に聞き惚れてるの?」

 

 俺の様子を見たエテルがそう言ってきた。どうも俺が四葩の唄に集中していたのがご不満らしい。

 

「ああ、やっぱり四葩の声は綺麗だなって思ってな。エテルもそうだけど、どうも俺の周囲には好きな質の声が集まるらしい」

 

 エテルの少しハスキー掛かった声を筆頭に、四葩の高く澄んだ声も好みだ。タチアの一本芯が通った様な凛とした声も好きだし、一華のやや甘く囁くような声音も良い。都市長は冷たさの中にも心遣いがある声だし、カラムスさんの声は若々しさと同時に大樹が如き安心感を感じさせてくれる。シスター・カレハは全てを包み込むような包容力の有る声をしてるし、お義母さんは底の見えない妖しさを内包した声だ。

 何なら当主代行の低く威厳の有る声も頼り甲斐を感じるし、あの糞野郎ですら透明感のある美声だと認めてる。お師様は矜持を体現したような落ち着いた低音で将来はこんな声になりたいと思わせてくる。

 

「──っと、こんな感じに見てるな」

「そのうち何人の甘い声を聞いてるんだろうねぇ」

 

 俺の声に対する認識に対して、エテルはジト目でそんな事を言ってくる。扱い酷くない?

 

「そりゃ、そういう声を聞かせて貰えては居るけど……エテルのを一番聞いてるんだが」

「うん、私はタタラの奥さんだもんね。いっぱい聞かせて頭の中を染めちゃうよ?」

「もう殆ど染まってるよ」

 

 悪戯っぽく言うエテルに対して呆れ溜息混じりにそう返す。何なら何時間か前にも聞いてるしな。

 

「ご主人、膝失礼するでござるよ」

 

 朝食の準備を終えた一華が一言断ってから膝に頭を預けて来た、最早日課にまでなっていて預けられる重みが心地よい。早速頭を撫でてその毛の艷やかさを堪能する。

 少ししたら寝息が聞こえてくる。それだけ早起きしてくれてる事に感謝しつつも、もう少し寝てても文句は無いのだがと考える。きっと、一華に言ったら好きで早起きしてると言われるな。

 

「おはようなのじゃ、タタラにエテル。一華は……よく寝ておるのう」

「おはよう、四葩。綺麗な歌声だったぞ」

「おはよ、トラッちゃん」

 

 四葩の挨拶に返せば、褒められるとは思ってなかったのか何とも言い難い表情を見せる。

 

「妾より母上の方が上手いのじゃ」

「舞の時にも言ったけど……」

「やめよ、お主の飾らない本音を聞くと腹の奥が疼くのじゃ!」

「なんか悪化してないトラッちゃん?」

 

 何だろう、四葩が箱推し鬼から孕鬼に深化するフラグだろうか……?

 

「おふぁようございまふ、まふたぁ」

「おう、欠伸2連続出しながら挨拶すんなやダリア」

 

 また朝まで夢の中で魔導具談義してたのか眠そうではあるが、何時もより早めに起きてきたダリアにツッコミを入れる。何故今日は早いんだろうか?

 

「今日は機械神様に早めに起きてマスターの事情を聞くようにと神託を受けました」

「……そうか」

 

 つまり、機械神様は俺の事情を汲んでダリアの協力を得ろと言うのか……確かに確実な手段では有るが命が掛かってるから協力してくれってのは少し卑怯に感じてしまうな。

 

 一華の作ってくれた朝食はオムレツなのだが、此方で主要なそれでは無かった。鳥のそぼろを薄焼き玉子で包んだ、前世でよく見たのオムレツである。

 

「ミートオムレツだけど、珍しいね?」

「拙者達の故郷にあるそぼろと言う物を此方の食材を使って調理した物でござるよ、玉葱と人参を刻んだ物を一緒に醤油と味醂を使って炒めてるでござる」

 

 『ワールウィンド』で主要なミートオムレツとは、オムレツの中にボロネーゼを混ぜ合わせて焼くものになる。

 一華の焼いたオムレツに箸を入れる、表面はしっかりと焼かれている上に中身もギッチリ詰まっていて手応えが強い。切り分けてみれば内側の半熟の卵黄が広がる。摘むと、表面を硬めに焼かれた玉子がそぼろの重さに耐えているので運びやすい。茶碗のご飯に一度置き、その後に口へ運ぶ。

 表面は硬めに焼かれているが、内側はトロッとした半熟玉子の卵液が甘味を引き出されている。その奥からそぼろが主張し始めて、鶏肉の脂が醸し出す旨味と炒められた玉葱と人参から伝わる甘味が口内に広がる。そこへ白米を一摘みすれば、白米が醤油の旨味と合わさりともすればくどくなりそうな味を抑える。

 噛めば噛むほどに強くなる旨味を飲み込んだ後に、味噌汁を一啜り。熟成された大豆のコクと鰹出汁の旨味を感じた直後、熱が口内を満たした。

 

「あちち!?」

「タタラ、猫舌なんだから気を付けな?」

「ご主人、そういう子供っぽいところを見せられると疼くので気を付けて欲しいでござる」

 

 疼くってなんだ一華、何が疼くんだ。

 疑問を持つが気にしたら負けだと思い、食事を続ける。口内が火傷まではいかずともヒリヒリするので、水気を多く含んだサラダに手を伸ばす。レタスとスライスオニオン、そしてポテトサラダと言う朝から手の込んだ代物だ。マヨネーズは前に作り方を聞かれた事が有るので見せた事が有るから、その時に覚えたのだろう。レタスで少量の玉葱とポテトサラダを包んで口にすれば、レタスの水気と水にさらされて辛味を抑えられた玉葱の食感の後にマヨネーズの濃い味が伝わってくる。俺が作る物より粘度が高くポテトサラダによく合うマヨネーズだ、馬鈴薯も丁寧に潰されていて舌触りが良い。クリームチーズも入っているのかかなり濃厚である。

 

 

 そんな風に朝食を楽しんだ後、片付けをコーンレムと中小のたたらに任せて食卓に集まる。

 

「エテルに言われて席に着いたままではおるが、何が有ったのじゃ?」

 

 代表して四葩が問い掛けてくるが、事情の説明はタチアを待ちたい。流石に何度も同じ話をするのは気が滅入る。

 

「ちょっと、な。私事と言うかなんというか」

 

 俺の誤魔化しを聞いてエテルが頬を膨らませている。この後キチンと話すから、頼むから怒らないでくれ。

 俺とエテルの様子を見て何かを察したのか、四葩の表情が険しくなる。

 

「エテルは先に知っている、というかエテルが知ったからこそ妾達に話せと言った……そんなところのう?」

「……御明察だ」

「エテルが知らなければ妾達には黙っている腹積もりか、流石にそれはどうなのじゃタタラ」

 

 四葩の俺を咎めるに心が痛くなる。心配させない為に黙ってようと思ったらこうなるとは、つくづく俺は駄目だな。

 

「……マスター、もしや昨夜の事が何か関係有るのですか?」

 

 会話を一通り聞いて問い掛けてくるダリア、食事で頭も動いたらしく言葉がはっきりしてる。

 

「昨夜?」

「タタラ、何のこと?」

 

 疑問を抱く四葩とエテルが言葉を零す中、俺はやられたと感じる。ダリアには以前口止めしたが、俺に対して重大な何かが発生したと判断したなら約束を反故にもするだろう。それに、俺と関わりの有る超越存在などダリアには他に心当たりが無いだろうし。

 しかし、事此処に至っては誤魔化しも無理そうだな。『看板娘』に対する認知について、この世界では直に関わった奴以外の物はほぼ無いと見て良い。ダリアがそうだったように、初見ではただの天使族に見えるのだ。

 

「はぁ……俺が父さんと母さんを亡くす前から、付き合いのある天使族っぽい人が居るんだ」

 

 下手に誤魔化す訳にもいかず、正直に話し始める。本当はタチアが来てからの方が効率が良かったのだが仕方ない。

 

「本当に天使族かは不明、その人の言葉は俺にしか分からないのはダリアで知ったくらいに不思議な人だ」

「……ダリア、本当に?」

「はい、見た目は間違いなく天使族です。しかし、あの力は神族と言われても納得します」

 

 ダリアが初めて見た相手が『天使長』だからな、姉妹の中で特に強い力の持ち主と出会ったのが印象として強く残っているんだろう。

 

「……その人、どんな人?」

「天真爛漫で心遣いが上手くて、相手に尽くすのが好きな人だな。世界の事に詳しくて、エテルの身体について相談した事も有った」

 

 エテルからの問い掛けにそう返す。

 

「もしや、お主がこの世界から追放されると教えたのも……」

「ああ、同じ人だな」

「……何でそんなに詳しいんだろう?」

「多分、見た目が天使族なだけで本質は神と同じく世界法則側の存在だからだろうな」

 

 凄く人間臭い世界法則(システム)だが、俺はそんな彼女達が好きだ。

 

「続きはタチアが来てからでいいか?」

「確かに、纏めて聞かねば二度手間にはなるのう」

 

 一先ず、タチアが来てから全てを話すことを告げて納得してもらう。そうして10分程待っていると、呼び鈴が鳴る。玄関へ向かうと、タチアとバカに糞野郎が並んでいた。

 

「おはよう……タチアは兎も角、後ろの二人は随分と早いな?」

「おはよう、タタラ殿。先程そこで出会ってな」

「オッス、タタラ。今日から都市祭の準備期間だから、ミッチリ時間を掛けたくてな」

「おはよう、朝食集れたらなって早く来ちゃった♪」

「最後のやつは帰れって言うべきかコレ」

 

 三者三様の理由に軽く頭痛を覚える。まぁ、糞野郎の朝飯は一華がオムライスおにぎりを念の為に用意していたので大丈夫だった。普段は食ってきてたらしいのだが、何となく思う所が有ったらしい。

 

「……で、何でこんな早かったんだ?」

 

 小声で、糞野郎にだけ届く声で問いかける。

 

「この街のピリついてる原因、多分末端だろうけど行政に入られてるよ」

「……マジか」

 

 糞野郎の台詞にそう返す。糞野郎は意外と言った様子で俺を見る。

 

「嘘だって疑わないんだ?」

「お前の嘘はもっと多弁に成るってか煽りが入るのは何となく分かってる。今のトーンなら本当の事だろ」

「ふぅん……どうすんの?」

「一番偉い人に直接手紙を送る」

「そっちが腐ってるかもよ?」

「もしそうなら俺をもっと上手く使ってるだろ」

 

 一連のやり取りで、糞野郎は愉快そうに嗤う。どうも此奴は俺の反応が面白いらしい。

 

「いいよ、一回だけ言う事聞いてあげる」

「……どういう風の吹き回しだ?」

「君の答が面白かったからさ、つまんなかったらこんな事は言わないね」

 

 ニヤニヤと嗤いながら、しかし目だけは俺を見定める為に冷酷な光を宿している。此奴の本質はこう言った所なのだろう、本当に質が悪い。

 

「なら、俺達の陣営を裏切るな」

「……そんなのがお願いなわけ?」

「一番怖いのはお前が愉悦の為だけに敵に回ることだ。性能だけならダリアが上回るが、技量と駆引きでお前に勝てる可能性が低い……ならその芽を摘むのが一番だろ」

 

 俺の答に心の底から嗤う糞野郎、やっぱり此奴は油断ならん。

 

「いいよ、そのお願いはキッチリと聞いてあげる」

「よろしく頼む」

「くくっ……それにしても、僕をそんなに評価するとはね?」

「あのトリモドキに刃を通してる時点で嫌でも理解すんだろ」

「そうかそうか……君がもう少し強かったなら、下についても良かったかもね」

 

 最後にそんな事を言い残して、糞野郎は台所で飯を受け取りに行った。先行しているバカは雛菊さんと合流して庭先に向かっている。

 さて、タチアを食卓へ付かせてから話しを始めようか。

 

「タチアには悪いが、少し俺の事情を聞いてもらいたい」

「ふむ……余程の事態、なのですね?」

 

 俺の言葉、そしてエテル達の表情から真剣な内容だと察したのだろう。タチアの表情は真剣な物である。

 

「言われたのは昨日だが、まぁ結論から言うと俺はこのままだと数カ月以内に死ぬ」

 

 色々端折った結論だけを言った瞬間、一華の姿が席から消えて俺はその場で押し倒された。

 

「タタラ様、何故ですか!?」

「落ち着け一華、コレから説明するから!」

 

 口調を保てず、本来の物に戻っている一華の姿を見て伝え方を失敗したと悟る。その両目からは涙が溢れて俺の顔を濡らしている。うん、考え無しに伝え過ぎた。

 

「タタラ、お主この世界から追放されるとも前に言っておったな?」

「ああ、その可能性も残ってる」

「厄ネタが渋滞しておるのじゃ……」

 

 四葩が額に手を当てて溜息を吐くのが見えた。苦労を掛け過ぎてるな。

 一華を宥めながら再び席に着く、一華は席に戻らず俺に抱き縋っている。流石に引き離せないのでこのままだ。

 

「俺の死ぬ理由としては、俺が『クラフト』した物に由来する」

「……毒素でも発生したのですか?」

「いや、この世界に無いものを作る……摂理や法則を越えた行動を取った事で俺の魂が肉体の許容量を越えた事が原因らしい」

 

 俺の言葉に何となく納得した雰囲気が流れる、そんなに俺は無茶苦茶してるかな?

 

「それをさっきダリアが言ってた人達が伝えて来たの?」

「ダリアが居ない所で、後から来た人にな」

 

 ダリアは以前『天使長』と会っているから、誰が俺に伝えたのかを推測したらしい。何となく『彼奴か』みたいな顔をしているのが見えた。

 

「回避方法は有るのですよね、マスター?」

「有る」

 

 確信を持って問いかけて来たダリアに答えると、場の雰囲気が更に変わる。俺に抱き縋って居た一華の耳もピクリと動くのが分かった……耳の先端で顎下を擽られるとこそばゆいのだが。

 

「俺が『存在昇華』を行えば、それだけ寿命は延びる」

「一度の昇華で何年じゃ?」

「10年」

「たったそれだけ、ですか……」

 

 四葩の問い掛けに答えれば、タチアが苦しそうな表情で零す。

 

「しかし、もう50階層は目の前じゃ。それならタタラの『存在昇華』も目前じゃな」

「言ってなかったが、俺の現時点のレベル上限は60だからな。俺の延命が目的なら60階層が最初の目標になる」

 

 四葩の言葉に俺が被せる様に情報を開示すれば、場の空気が重くなった。

 

「そう言えば、潜るだけなら50階層迄は行ってたんだっけタタラ」

「俺はあのボスに何もしてないから、その時は条件を満たしてないぞ。と言うか、俺は生まれ付き人よりレベル上限が10高かった」

 

 エテルを筆頭に、俺の生まれに付いての話は初めてだな。

 

「多分、父さんと母さんが俺を妊娠してる最中に50階層ボスを倒したのが影響してるんじゃないかとは予想されてた。本当のところは分からないがな」

 

 多分、転生した事が理由の一つだとは思う。確証はないが、それでも信じて貰えない事象より可能性の一つとしてコレを挙げた方が良いだろう。

 

「それなら、拙者も向かえば……?」

「無理をしないのであればいいが、俺は家で待っていてくれると安心出来るな」

 

 俺の言葉に一華は俯く、視線が自らの腹部に向いてる様に見えるが……お願いだから無理はしないでくれ。

 

「んで、だ。コレとは別件で俺はダンジョンの最深部を目指したいんだ」

「自分の死にまつわる事を無視するで無いわ、たわけ!」

「いや、そもそも最深部はコレから話す事情から元から目指すつもりだったんだ」

 

 四葩のツッコミに返すと、訝しげな表情になる。

 

「この事情を教えてくれた人、その妹の一人が教えてくれた事なんだがな。この都市はどれだけ先かは分からないが、消滅ないし吹き飛ぶ可能性が有る」

 

 俺の言葉に、全員が一斉に身体を乗り出す。そりゃ、『ワールウィンド』が無くなるってのは聞き捨てならんからな。

 

「ど、どういう意味じゃ?」

「順を追って話そうか」

 

 語り出すのは以前『料理長』から言われた事、即ち『天使長』がダンジョンの最奥に潜む何かを封印し続けている事だ。

 

「あの人が最奥で何を封じているかは分からない。だが、俺が生きている限りには封印を続けてくれると言うのは裏を返せば俺の没後……子供や更にその子供達の命が危ぶまれる可能性が有るって事だ」

 

 俺自身も『天使長』が何を封じてるのかは分からない、もしゲーム時代と同じならば『天使長』が封印する程の脅威では無い物の筈だ。そして、世界の法則そのもので有るはずの『看板娘』ですら倒せないと言うその異常性。まるで過去作にて神殺しの主人公が打ち倒した世界法則そのものを味方に付けた存在のようだが、アレはあの時に完全消滅させている筈。仮にアレが復活するとして、それが『常闇の洞』に切っ掛けが有るとはならない筈だ。

 

「あの人の妹が俺に最奥を目指せと言った事から、俺なら最奥の存在を討滅できる可能性が存在している事になる」

 

 世界最強の『天使長』でも倒せない何か。いや、もしかしたら『天使長(・・・)だから(・・・)倒せないのか。

 

「だから俺は最奥に居る何かを討滅する」

「……タタラはそれを一人でやるつもり?」

「まぁ、な。流石に巻き込む訳にもいかないし」

「阿呆じゃな、それは既に妾達全員の問題じゃろうが」

 

 エテルの問いに答えた俺の言葉を四葩が一刀で切り捨てる、見渡せば卓を囲んでいる全員が同じ表情をしている。

 

「この都市から離れれば、そのいずれ訪れる災厄に関わらずとも良くなるでしょう。しかし、タタラ殿はそれに納得出来ないのでしょう?」

「なら、拙者達の力も合わせるでござるよ。幸い、子守役には事欠かぬでござるからな」

 

 タチアの言葉に続いた一華は、コーンレムの頭を一撫でする。

 

「マスター、忘れないで下さい。私は『幸せ』を探す事を条件に、貴方からこの『卵』を受け取りました。その『幸せ』の条件に貴方が居る限り、私は貴方の進む道を共に征きます。命令を、マスター」

 

 ダリアの言葉に、1度目を閉じて深呼吸をする。再び開いて全員を見渡し、告げる。

 

「皆の力を貸してくれ。子供達の未来の為に」

 

 俺の言葉に一斉に頷く仲間達、その姿に心強さを感じた。

 

 

「……で、あの様に決意表明をしておいてやる事が雨漏りを直すこととは何故かのう?」

「やる事は決まってるけど、急ぎ過ぎても違うだろ。先ずは都市祭の準備をしつつ、60階層攻略が目標だ」

 

 一華を抜かしたメンバーで向かうのは、幼馴染であるバカの家ことカラー邸だ。俺が住む区画から離れた農耕区に有る家で、畑と果樹園が隣接されている為に土地は広い。しかし、居住している家は築40年を越えて老朽化が目立つ。サニーちゃんが雨漏りすると言ってくるのも仕方ないのだ。この『ワールウィンド』は建物が頑丈に作られると同時に日本の梅雨に近い季節があり、20年もすると傷み始めて雨漏りくらいはする。嵐が滅多に起こらない気候なのは救いだ。

 

「着いた、此処だ」

「……広いですね」

 

 タチアの感想の通り、カラー家の土地は広い。果樹園と畑が其々家の3倍は広さが有る。柵で囲まれたその土地にポツンと建っている一戸建てがカラー邸だ。色あせた青い屋根に遠距離から『鑑定』を掛ければ、結構な個所に傷みが見える。家全体の構造も読み取ってしまったが、コレ壁とか柱なんかも直さないとヤベェな?

 

「農具も幾つか直したほうが良いかもな、魔導具も点検するか」

「そういうのが見逃せないのがタタラがクラフターって言える所だよね」

 

 ふと零した言葉を聞いたエテルがそんな事を言ってくる。まぁ、こういう所でクラフターって思われるのは誇りにも思えるな。

 柵の外に呼び鈴なんて物は付いてないので、門をくぐって玄関へ向かう。途中、吹いてきた風の中に芳しい香りが混ざっていた。

 

「良い匂いですね」

「匂いに相応しく、おじさん達が育てた野菜や果物は滅茶苦茶美味いんだ。銘柄品としてかなりのブランド料が付くんだぞ」

「ふふ、タタラは彼の事を褒める時本当に楽しそうに言うよね」

 

 タチアにこのカラー家がどれだけ凄いのか説明していたら、エテルが笑いながらそんな事を言ってきた。俺とバカは幼馴染なのだから、その凄さを一番知っているのは俺だ。なら、彼奴の凄さを伝えるのは俺の役目だろう。

 そんなやり取りをする中で、玄関の前に着く。呼び鈴を鳴らせば中から女性の声で応答が有った。

 

「は~い、どちら様……で……?」

 

 中から出て来たのは明るい茶髪の少女、次女のニーナちゃんだった。普段着なのか、前のキメッキメなギャルファッションでは無く落ち着いた色合いの平服だ。ニーナちゃんは昔、引っ込み思案で大人しい女の子だった。俺はギャル風より此方のほうが本来の気の休まる雰囲気が出て好きだが、ニーナちゃんがしたい恰好を否定するつもりは無いので口には出さない。

 

「おはよう、ニーナちゃん。ちょっとアルバードさんとお話ししたいんだけどいいかな?」

 

 俺が挨拶しながらそう言うが、ニーナちゃんは固まっ(フリーズし)ている。どうしたんだろうか?

 心配になって顔を覗き込むと、ニーナちゃんは再起動。慌てて扉を閉めた……何で?

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁ!?」

 

 次の瞬間、扉の向こうから物凄い悲鳴が聞こえた。え、何が有った!?

 

「どうしたのニーナちゃん!?」

「どうした、ニーナ!?」

 

 俺の声と同時、扉の奥からアルバードさんの声が聞こえた。

 

「タタラくんが……タタラくんがぁ!!」

 

 扉の向こうからは泣きそうな声で俺の名前を叫ぶニーナちゃん……え、俺が原因?

 戸惑いつつ振り向くと、何とも言えそうに無い様子の面々がいる。え、俺が悪いのコレ?

 

「マスター、悪いのはマスターでは無く間です」

 

 淡々とダリアにそう言われた。間の悪さはどうしょうもないが、そもそも回避不可じゃねぇかなこれ。

 と、そんややり取りをしている間に扉が開く。その先からは鬼の形相で伐採用の斧を持ったアルバードさんが出て来た。

 

「タタラくん……少し、お話ししたいんだけど良いかな?」

 

 ヤベェ、『不死の王』戦並に死の気配を感じる。

 

「ええっと……とりあえず、おはようございます」

「うん、おはよう」

 

 普段通りの口調だけど、声の圧が桁違いなんだけど?

 

「ちょっと今日はサニーちゃんのお願いを叶えようとお伺いしたんです」

「へぇ、サニーの?」

「ええ、最近雨漏りが凄いみたいなんで直そうかとお伺いしたんですけど」

 

 俺の言葉に、顎に手を当てて首を傾げるアルバードさん。尚、その顔は般若のままだし斧を保持したままである。

 

「正直、助かるんだけど……お金あんまり無いようち」

「ああ、サニーちゃんのおかげでクラフトのアイデアが貰えて成功したんでその御礼なんですよ。なので、お代はいりませんし何なら払うつもりも」

「タタラくん、そんなに軽弾みに技術を使っちゃ駄目だよ。君もプロだろう?」

「……正直、サニーちゃんがくれたアドバイスの影響って4桁万の金額に届く程には重大な物なので何ならリフォームしてもいいくらいなんですよ」

「……マジ?」

「マジです」

 

 触れたら何でも切る刃の鞘を作るための切っ掛けなのだ、本当にリフォームしても都市長は納得すると思う。

 それとアルバードさん、そろそろ顔と声を戻して怖い。

 

「それで、何でニーナが悲鳴を上げたのかな?」

「いえ、それが分からなくて……」

「分からない……?」

 

 アルバードさんの怒気と言うか殺気が膨れ上がる。怖い。

 

「その、扉を開けてくれたニーナちゃんに挨拶したら閉められて悲鳴を……」

「嘘を吐くなぁ!!」

 

 猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑う。いや、猜疑には歪んでるけどせせら笑ってはいないな。

 

「あぁっと……少しよろしいだろうか?」

 

 そんな時に割って入る四葩、おじさんはそんな四葩を見て瞳孔の開い(ハイライトの消え)た目を向ける。怖い。

 

「娘殿は、その……タタラに油断した姿を見られた事が原因だろうと思うのじゃ」

「……油断?」

 

 四葩の言葉に疑問を持って首を傾げるアルバードさん、その内心は俺も同じだ。油断ってなんぞや?

 

「好きな人には綺麗な自分を見て欲しいから、ね」

「乙女心を理解せず、当人の好きな恰好を褒めるタタラ殿には伝わらないでしょうけど」

「マスターの場合、服装に向ける努力よりもそうやって頑張った当人しか目に映りませんからね」

 

 エテル、タチア、ダリアがそんな事を言う。つまり何か、ニーナちゃんは油断した服装を俺に見られて悲鳴を上げたのか。いや、この流れだとニーナちゃんが俺を好きみたいに聞こえるんだが。

 俺の疑問を他所に、アルバードさんは熟考。1分ほどして盛大な溜息を吐いてから、改めて俺と向き合う。

 

「ごめん、お客さんにとんでもない対応しちゃったね。とりあえず話は中で聞こうか」

 

 雰囲気を平常時に戻したアルバードさんが、家に招いてくれる。とりあえず、案内に従い家へ上がらせてもらった。

 リビングに着いてからアルバードさんと向き合ってから来た目的の説明をする、それに対してアルバードさんは難しい表情だ。

 

「……タタラくんの心遣いは嬉しいんだけどね、やっぱりお金は払わないと駄目かなっておじさんは思うんだよ」

 

 そう言ってくれるアルバードさんだが、はっきり言うとコレはお金を取る訳にはいかないのだ。

 

「第一、サニーがタタラくんに与えたアイデアの影響ってそんなに大きいのかい?」

「この都市に大量破壊兵器を解き放つ可能性を無くした程度には大きいですね」

「うん、思った以上に大き過ぎるね!?」

 

 当主代行の『竜舌蘭』の鞘を作る切っ掛けなのだ。アレを家に保管してて盗まれましたなんて事になったら、連続斬殺事件の発生に繋がりかねなかった。

 

「なので、アルバードさんには悪いんですけどコレは俺にとって正当な報酬なんですよ」

「うぅん……そう言われてもハイって言えないんだよね。他に何か無いの?」

「リフォームするから只で住めって迫るのとどっちがいいですか?」

「規模が大きくなるの!?」

 

 4桁万の価値、等と言っているが出来上がった物の概念で言うなら本来は億に届いてても文句が出ない物だ。あの刃を封印出来る物と言うのなら、他に危険な概念武装が出来ても応用が利く。

 だからこそ、サニーちゃんに与える報酬は妥協の一切を許されない。

 

「でもね、タタラくん。流石にそこまでされたらボク達も萎縮しちゃうんだよ」

 

 まぁ、アルバードさんは俺よりも遥かに歳上で立派な大人だ。子供からの施しは心情的に嫌なのだろう。

 

「そんな事されたらもう娘達を嫁がせるくらいしか報いれないと言うか」

「話が飛躍し過ぎてて無理なんで戻って来てくれません?」

 

 発想が大気圏に到達してんぞ、戻って来い。

 

「それに、作業が始まれば1日は家から出なきゃならないだろうしね。そうしたら宿泊費も必要だろう?」

「家の修繕なら1時間弱、リフォームなら2時間で終わらせますよ?」

「うん、意味不明だね?」

 

 ゴーレム達の力を借りれば修繕箇所を同時に直せるのだし、家を建てるのなんてそれこそ復興時に2時間でやってる。寧ろ、時間は余裕を持ったものの為により短縮出来る可能性すら有る。

 アルバードさんが思い悩んでる最中、部屋に入ってくる影が有った。

 

「ぱぱ〜おはよ〜」

 

 目を擦りながらそう言って、三女のサニーちゃんが入ってくる。それまで真面目な顔をしていたアルバードさんがデレッデレの表情になる。

 

「おはようサニー!」

 

 抱き締めて頬擦りする姿に、いずれこんな親バカに自分もなれるかなと思いつつ微笑ましく見る。サニーちゃんは嬉しそうに悲鳴を上げながらされるがままだったが、ふと此方を見て俺達に気付くと輝くような笑顔を向けて来た。

 

「たたらちゃん、おはよー!」

「うん、おはようサニーちゃん」

 

 俺が笑顔で挨拶を返すと、アルバードさんの腕から逃れて抱き着いてくる。尚、娘を取られたアルバードさんの表情は一瞬の絶望から般若に変わる。怖いわ。

 

「きょうはどーしたの?」

「前にサニーちゃんが天井から水が落ちてくるって言ってたからね、直しに来たんだ」

「ほんと!?」

 

 質問に答えたらサニーちゃんは滅茶苦茶嬉しそうに笑った。アルバードさんはその様子に複雑な顔である。

 

「はやくはやく、なおしてたたらちゃん!」

 

 サニーちゃんの要望を聞いて、アルバードさんを見る。最早諦めの境地と言わんばかりの表情に申し訳なく思いつつ、大義名分が出来たと内心ほくそ笑む。さぁ、俺に生活幸福度を上げさせるんだよ!!

 

「はぁ……タタラくん、お願いするね」

「はいっ!」

 

 心の中で勝訴と書かれた紙を掲げつつ、俺はサニーちゃんに断って離れて早速作業を開始する。

 改めてカラー邸を『鑑定』すれば、ガタが来ている箇所が無数に見えた。俺はインベントリからゴーレム達を呼び出して、作業を開始する。

 

「な、なんだあの小さなタタラくん達は!?」

「すごーい、かわいい!」

 

 そんな言葉を背に受けつつ、小たたら達は早速家中に散らばって作業を開始する。

 

「おわ、何だこれ……タタラくん?」

「ち、ちいさなタタラさんがいっぱい!?」

「た、タタラくんがちっちゃくていっぱい居る!?」

 

 残ってた兄妹達の声が聞こえる中、俺は早速屋根の上に上がって作業を開始する。使うのは魔石のみ、剥がして新しく屋根を張り直す等という事はしない。『クラフト』スキルで屋根の素材を一度分解し、再構成する。新品同然の状態になったところに魔石を砕いた防腐剤を塗る。防腐処理以外にも撥水性を高め、かつ多少の破損や劣化なら自然魔力を吸収して埋めてしまう高性能な代物だ。コレで向こう50年は雨漏りしないだろう。

 家中に散らばったゴーレム達から壁や柱を直したと言う情報が流れてくる。なお、何体かは姉妹に捕まってしまい作業が出来ないらしい。SOSを求める意思が伝わるが、作業を優先した。必要な犠牲だった。

 屋根から降りたら、農耕用の魔導具の様子を診る。10年以上使用している為、多少のガタは見えるがそれでも丁寧に整備されているのが分かる。早速それぞれを分解して整備を開始、摩耗しているギア等のパーツを手持ちの鉄で作り直して入れ替える。詰まっている細かい泥を落とし、油を差して試運転をすれば快調に起動する。鍬や鋤、鎌に鉈等の道具も整備していく。

 

「……家がレイチェルと結婚する直前くらいの状態に戻ってる気がするよ」

「父さん、タタラくんがはっちゃけて少し先に予定してた魔導具のオーバーホールとか不要になってる」

「……成る程、コレをタタラってるって言うのか」

 

 アルバードさんとクロードのそんな会話が聞こえて来た。取り敢えず、魔導具の調子とか見てもらおう。

 

「ごめん二人とも、直した魔導具の様子見て欲しい」

「うん、分かった」

「タタラくんは加減を覚えるべきだと思うな……」

 

 悟りを開いた様な表情のクロードと、苦笑いしているアルバードさんが印象的だった。

 だいたい30分くらいで作業を終えて、出来を確認して貰う。

 

「どうですかね?」

「コレで文句言ってたら恥知らずだよ」

 

 家の年齢を10年くらいは若返らせたと思うが、アルバードさんは何とも言えない表情である。ま、取り敢えず無料だから得したと思って貰おう。

 

「……で、3人とも悪いんだけどさ。そのゴーレム達を解放して?」

 

 振り返ってそう言った先には、三姉妹がそれぞれ小たたらを抱き締めて立っていた。

 

『いや!』

「シンクロしないで」

 

 その様子に少し頭が痛くなりつつ、どうするか悩む。エテルが三姉妹の様子を見て瞳孔が開い(ハイライトが消え)ているから穏便な解決法を考えなければ。

 

「3人とも、タタラくんも困っているみたいだしね?」

『そんな事を言うお父さん嫌い!』

「ぱぱ、やー!」

 

 声掛けを実施したアルバードさんが、娘からの拒絶を受けて崩れ落ちた。真っ白な灰になってないかアレ。

 さて、解決策……専用のゴーレムを作ってあげるか。そう決めた俺は、ミスリルを複数取り出して『ゴーレムクラフト』を使用。早速中たたら型を一体作る。何故か麦わら帽子にオーバーオール(カルビーのカールおじさん)姿の、如何にも農夫と言った俺の姿が出来上がる。核は『卵』にして早速起動、更に小たたら型で核を魔導コンデンサーに変えた物も5体作る。

 

「ほら、3人とも。この子達をあげるからその子達を離してくれ」

 

 俺の言動に新規ゴーレム達がギョッとした顔で俺を見てくる。すまんが、犠牲になってくれ。

 三姉妹はたたらゴーレム……ファーマーと合わせてファーレムと呼ぼうか、ファーレム達に視線を向ける。

 

「の、農夫スタイルのタタラさん……」

「コレはもう合法なんじゃないかなタタラくん」

「かわいいー!」

 

 アンナちゃんとニーナちゃんは何か鼻を抑えてるが、サニーちゃんは嬉しそうに中ファーレムに抱き着く。ファーレムは逃げず抱き返す……なんか、諦めに似た感覚が伝わってくるな。

 三姉妹の腕から逃げてきた小たたら達は、速やかに俺のインベントリに飛び込んで避難していく。そんなに嫌だったのか、お前達。

 

「取り敢えず、『お前達はこの人達を手伝うように』」

『たー!』

『喋った!?』

 

 俺の命令に答えたファーレム達を見て、驚愕の声を上げるカラー家の人々。出来れば無茶は捺せないで欲しいな。




『たたらファーレム・リーダー』
 体力   600
 魔力   100
 技力   100
 物理攻撃 60
 物理防御 60
 魔法攻撃 0
 魔法防御 60
 速力   35
 運    10
 移動力  3
 特殊能力『指揮能力』『クラフトⅢ』『魔力充填』『体力回復Ⅴ』『魔力回復Ⅴ』『技力回復Ⅴ』

 タタラがカラー家専用に用意した農耕目的のたたらゴーレム。
 普通のミスリルを使用している為、たたらゴーレムよりも耐久性が低い。

『たたらファーレム』
 体力   300
 魔力   0
 技力   0
 物理攻撃 20
 物理防御 40
 魔法攻撃 0
 魔法防御 40
 速力   25
 運    10
 移動力  3
 特殊能力『クラフトⅠ』

 タタラがカラー家専用に用意した農耕目的の小たたら。
 普通のミスリル製かつ、魔導コンデンサーを使用している為にたたらゴーレムの中では脆い。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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