※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント継続中。


アンケート実施中です、心に従ってください。


都市祭準備期間・商会騒動

 研究所から出て商会へ向かう。時間には大分余裕は有るが、家に戻らず商店区を抜けようかと思う。

 ミーアの表情が頭に残っている、俺は以前あんな表情を何処かで見ている気がするのだ。バカの奴がミーアは昔から俺を見ていたと話してくれた事が有る、初等部でバカが気付いただけでそれより前に俺が彼女と出会っている可能性も有る。

 そう、記憶の片隅に引っ掛かる何か。ミーアの表情もそうだが、俺の名前をくん付けで呼ぶ誰かが昔居た気がする。

 どうにも思い出せない、『鑑定』の使い方に目覚めた時や『クラフト』を初めて使った時の古い記憶は呼び起こせる。しかし、それだけ強い印象の有る記憶以外は大半を忘れている。

 あの日、『天使長』を助ける為に剣を打った時より以前の記憶が薄い。もしかしたら、俺は昔ミーアと出会って遊んでいたのかも知れない。

 もしそうなら、俺が忘れてしまった事にミーアは何を思うだろうか?

 とは言え、何もかも今更だろう。俺はエテルと関係を深めて未来を定めている、俺の薄まっている記憶の中でミーアとどんな関係を結んでいたとしても俺は既に選択してしまっているのだ。

 四葩やタチア、一華のような例外は普通は起こり得ないからこそ例外なのだ。

 

「タタラはん、目ん前で起きたん信じやんと。受け入んね現実」

「もう少し現実逃避させて欲しかったんですけど」

 

 ミーアの事を考えて目前で起こる出来事から意識を反らしていたのに、商会長が現実に引き戻して来た。

 今、俺達が居るのは商店区。俺とゴーレム達で直した区画だ。そこで行われている大道芸人と屋台の人達による言い争いを前に途方に暮れていた所だ。

 都市祭にてパフォーマンス大会を行う予定である大道芸人達と、常と変わらず営業する屋台組で場所取り問題が発生しているのだ。まぁ、内容は余りにも口出しし難い所なのだが。

 

「我々は祭りの間だけの間借りに来ているのだ、屋台の方々が普段の場所から動く必要は無い!」

「いいや、違うね。年に一度の祭りだからこそ普段やらない人達が目立たなきゃなんねぇんだ!」

 

 互いが互いの主張する所は『目立つ場所はそちらが使え』である。アンタ達、なんで人の良さで喧嘩してんのさ。

 特設ステージの設置場所を選定する際に屋台が並ぶ区画の一部を退かし、広場の中央に届く程に大きな半円型のステージを作る計画が商会から出された。それを聞いた屋台組は八割程の賛成者を出して計画が可決、大道芸人達には当日の彼是を説明する為に現地での説明を商会長を筆頭とした面々に説明を受けていたらしい。

 そして発生したのが大道芸人達の主張、屋台組の景観はこの街で行われている優しく活気が溢れる生活が分かる物の為にそれを崩す訳には行かないと言い出した。

 対して屋台組は新しい風を招いてこの街の良さを広く伝えたいと主張、大道芸人達の素晴らしいパフォーマンスでこの街の新しい良さを見せて欲しいと言い出した。

 

 お前ら、なんで喧嘩してんの?

 

「これ、中央広場に発表用のステージ作った方がよくないですか?」

「タタラはん、中央広場にかつて見世物んした悪魔の貴族はんの呪い有るん噂知らのん?」

「何それ初耳なんですが」

 

 悪魔の貴族が見世物……もしや、エテルの両親の事か?

 

「何年か前ん悪徳貴族のやらかしで星んなってん悪魔の貴族はんの呪い、中央広場んを青い炎で燃やしたん噂なっねん」

 

 どうしよう、心当たりが有る話だ。

 

「一夜にん悪魔の貴族はんとその奥はんの遺体焼いてん、そのまま広場ん焼いて大変やったんよ?」

「そ、そうですか……」

「更ん悪魔の貴族はんの屋敷ん同じ日ぃ焼かれてんね、だから商いやるん人ぉあの近くやりたがんねんね」

 

 商会長の言葉を聞いて中央広場とバーラル邸を焼いた時にやり過ぎた事を今更反省する、流石に流体魔石の燃焼力を甘く見過ぎていた。

 

「……タタラはん、汗凄んけど大丈夫?」

「ええ、研究所から此処まで来たので汗かいちゃったみたいですね」

「無理はいけんよ、若いっても人それぞれんやね」

 

 咄嗟に嘘を吐いて誤魔化してしまった、商会長の話に心当たりと言うか俺のやらかしが突かれたみたいだったとかとても言えねぇ。

 

「ところで、この言い争いどうするんです?」

「どっちの主張も優しさからくんね、平行線すぎん口出しでけんよ」

 

 俺と商会長は同時に溜息を吐く、何方の側にも立ち難い。商会長が片方に肩入れすれば直ぐに終わる、禍根が残るだろうがソレが良いだろう。とはいえ、何方を優先しろと言うのかこれは。

 正直、ステージを囲むように席を用意してその周囲に屋台を配置するくらいしか出来ない。ステージの分減る屋台も、都市祭中は商売をしないと言っている屋台組が居るのでその空白だけで間に合う。大道芸人達の主張も分かるが、空いた場所を使いたい商会の話も理解して欲しい。

 

「タタラはん、物の数分でステージの設立と撤去って出来ん?」

「ゴーレム達と協力すれば出来なくは無いですけど」

「出来んねんね……」

 

 確実に行うなら中たたら1体と小たたら10体は追加かな、複数の指示系統が欲しい。ミスリルが集まったら中たたら1体と小たたら99体をもう1部隊作ろうかな。それとも中たたらを2体作って、今居る中たたらを総隊長として扱おうかな。

 

「大道芸人達のパフォーマンスの時だけ特設ステージを作るってやれなくは無いですけど、慌ただしくなっちゃいますからね?」

「分かんよ、でも両方の話ん纏めんとそうなんね」

「コレだけに集中させてくれればやりますけど……」

「タタラはんもまだ学生はんなんね、イイ人とデートくらいよかよね」

「まぁ……はい」

 

 エテルや四葩達と都市祭を回る、それくらいはしたい。学生運動はタチアの話を聞く限り本国の視察団が来たタイミング、または視察団への挨拶をした後に引き起こされるだろう。

 都市の創立記念日に合わせられるだろうから、少しだけ余裕が有る筈。本当なら年頃の遊びくらいは許されるだろうに、使命感で探索や都市の問題に関わって貰っているのだから。

 

「で、どうするべきなんねこれ」

「商会長がどっちかに肩入れすれば何とかなると思いますよ、多少の禍根は残りますけど」

「それなんね……」

 

 現実逃避から目前の問題に戻れば、やっぱり商会長自身は解決策を思い付いているらしい。

 コレならいっそ、コンテナトラックみたいな物を作るべきか?

 商会長には悪いけど、俺から質問させて貰おう。

 

「あの、少しいいですか?」

 

 譲り合いをしている一団に声を掛けて、ヒヤリングと言うか妥協点を探す。商会長は良い人過ぎて難しそうだったから、俺が技術で補える所で妥協点を探ろう。

 俺が持ち得る前世の概念であるコンテナトラックの荷台の話を掻い摘んで話し、コレで行えるパフォーマンスの範囲を伝える。そうすると大道芸人達と屋台組で出来る範囲を擦り合わせ始めてくれた。景観を崩さないギリギリ、当日不参加の屋台を退かして得られるスペースを有効活用出来る点を突き詰めて出来上がるコンテナステージとも言うべき物の概要が出来上がる。

 

「──と言うのを用意出来れば、双方とも共存が出来ますか?」

「ああ、そんな好都合な物が有るなら俺達は屋台で買った美味しい物を楽しみながらパフォーマンスを見てもらえる」

「此方もだ、パフォーマンスをより楽しめる美味いモンで感動をより強く出来ると思う」

 

 双方とも相手へのリスペクト強過ぎるんじゃないかな、なんでコレで平和にならねぇんだこの世は。

 

「タタラはん、さっきの話のやつ作れるん?」

「作りますよ、俺はクラフターなんです……誰かの求める物を作れずして名乗れません」

 

 ワードプロセッサを取り出して頭の中で組み上がった概念を設計図へと落とし込む。他の人達にも見てもらえるように空間に投影し組み上げて行く。大道芸人達と屋台組が大きく目を見開き、出来上がっていく新たなステージの姿に驚いている。

 約10分程で設計図は完成し、必要な素材を商会長へ振る。

 

「商会長、大体コレくらいの素材が欲しいんですけど」

「予算内ん抑えれんよう出来そ?」

「やってみます、先ずは必要分を商会長が算出して貰えれば」

「ちょう待っとね」

 

 俺と商会長が高速でやり取りを行い、そして商会長は5分程の時間を置いて一つ頷く。

 

「やれんね、ちょう急ぎ素材取って……」

「俺が行きます、コレでも探索者として機動力を持ってますから全力で走れば直ぐです」

 

 軽く屈伸を行って準備運動をする、商会長は戸惑いながらも取り出した紙にサラサラと文字を書く。

 

「こんメモを受付ん子に渡して、ボクん署名有るんね大丈夫と思う」

「ありがとうございます……じゃ、行ってきます!」

 

 そこから商会へ向けて全力疾走、一呼吸で150mを駆け抜ける今の俺なら5分もすれば往復が出来る筈だ。途中に居る人達の脇を通り抜け、商会へ駆け込む。

 

「すみません、素材が欲しいんですけど」

「え、あっはいっ!?」

 

 アホみたいな速度で駆け込んで来た俺に戸惑っている受付の人に、申し訳無いが混乱を無視してメモを渡す。受付さんは戸惑いつつもメモに目を通し、一瞬で表情を真剣な物にして裏へ向かう。そうして3分程で戻ってきた受付さんは俺に手を差し出す。

 

「商会長からの緊急の依頼品です、お確かめ下さい」

「はい」

 

 その手を握り、受付さんのインベントリから素材を受け取る。

 メモに書かれていた素材をキチンと受け取り、礼を述べてから再び商店区へ向けて駆け出した。

 

「戻りました!」

「早すぎん?」

 

 地面を削るようにブレーキを掛けてそう言えば、商店長からツッコミが入る。解せない。

 

「早速作業に入ります……あ、屋台退かさないと」

「任せな、おうやるぞ!」

 

 俺の言葉に屋台組の人達が早速動く、商会長も率先して動いて安全な位置に屋台を動かしてくれる。俺はインベントリからゴーレム達を呼び出して、屋台の跡を掃除しつつ都市祭が終わった後に元の位置へ戻せるようにバミり番号を振り分けて屋台側にも同じ番号の札を張る。

 そうして場所を確保したなら、俺の『クラフト』の出番になる。素材を取り出してから一気に組み上げる、普段なら色々と方法に途中で手を加えるのだが今回は純粋に『クラフト』スキルだけの使用だ。この世界には無いステージトラックのコンテナなんて物を作るのだ、俺のイメージをダイレクトに変換した方がこの場では早い。移動を助ける車輪、その上に作り出す土台。四方を囲む壁が可動し音響も照明を助けるものになる舞台を作成、天井は急な雨粒を凌げるように庇を延ばすようにした二重構造。壁がスロープとなって地に降りるパフォーマンスを助ける構造にし、一先ずは完成。

 何度か可動して正常に動くのを確認してから商会長へ視線を送る。

 

「出来ました」

「早すぎん?」

 

 商会長は何やら宇宙を背負っている様子、解せない。

 

「こ、こんなすごいステージでやらせて貰えるのか……」

「閉じてる時は屋台のデザインに寄せたんで、此処の伝統の一つみたいに馴染めれば幸いですが」

「ありがとう、めちゃくちゃテンション上がる!」

 

 大道芸人達の代表みたいな人がめっちゃ笑いながら俺の手を握って上下に振る。いや、此処まで喜んで貰えるのは素直に嬉しい。

 屋台組の人達はステージを見てから俺に寄ってくる。

 

「これ、閉じてる時に看板とか付けられねぇかな?」

「重くなければ大丈夫ですけど」

「ならよ──」

 

 屋台組の代表の人から言われたのは『千両役者』を意味する言葉の書かれた看板だった。見た目がより屋台っぽくなり俺も外装を木目模様に塗装してそれっぽさを更に出す。

 

「タタラはん、こんなん作れん?」

 

 そこで商会長も声を掛けて来て、紙に書かれた物を見る。15cm程の高さの長方形の台だ、このまま一つでも作れるが、正方形の台を複数作ることで対応する形に設計図を起こす。積み重ねる事での格納、更には様々な形で活用出来るようにする為の変更だ。商会長に話してみたら了承を得られたので俺が変更した形で作る。

 そうして出来た台をステージの足場から延長する形で設置する。そうする事でより観客に近い位置までパフォーマーが近付けるようにとの事だ。俺も高さ50cm程の設置できる柵をクラフトして仕切りにする。観客が乗り上げないように、更にはパフォーマーが誤って落ちないようにと意図を伝えれば皆に納得して貰えた。

 ステージの内装はこの後日にパフォーマーと商会でやるとの事で、俺と商会長はこの場から離れる。俺と商会長へ大きく手を降ってくる大道芸人達と屋台組に手を振り返し、二人で商会へ向かう。

 

「いやぁ、ありがとうねタタラはん」

「いえ、俺もステージコンテナ作るの楽しかったんでお相子ですよ」

 

 鼻歌を歌いそうな程に上機嫌な商会長に苦笑しつつ、俺も今回色んな人の意見を聞きながらクラフトするのが楽しかった事を伝える。ミーアの時もそうだったが、誰かと共同で作業するのはとても楽しい。

 

「それで、今日はどんな用件で呼んだんです?」

 

 俺の言葉に商会長は今思い出したような反応をする、さっきの騒動で頭いっぱいだったかな?

 

「そんね、頭から抜けっとんな。今日呼んだんはタタラはんに作って欲しモン有るんよ」

 

 さて、商会長が俺に頼りたいと言う仕事の内容は製作依頼か。俺に直接お願いするっていったいなんだろうか?

 

「計算機、言うて分かる?」

「ええ、分かりますけど」

 

 さて、計算機と一口に言っても色々有る。俺が生きていた時代でメジャーだった電卓も有れば算盤(そろばん)も計算機の一種だ。ついでにこの世界で電卓はまだ一般的では無い。空中戦艦等はコンピューターではなく魔法の術式による制御なのだ……意味分からんな。

 

「タタラはんが交流あるん陽出國ん計算機、有れば欲しいんよ」

「と言うと算盤ですか」

「そう、それね」

 

 さて、算盤の物自体は無い。そもそも陽出國にある事は知っているが、それ自体を見たことが無いのだ。まぁ、過去作の中で虎熊家のヒロインが家計簿付けてるシーンで登場はしてたから違いは無いんだが。

 

「物は持ってないですけど、作れはしますね。商会に着いたら作りますよ」

「ありがとうね」

「ところで、何桁くらい計算出来るの作ればいいですかね。13桁くらいですかね?」

「それは財務長んとこに渡してあげて、此方は10桁も有れば十分よ」

「いえ、算盤は桁数が奇数になるんで」

「そうなん?」

 

 取り敢えずの桁を言ったら素で返された、とは言え構造を説明する上では桁数は奇数になる。

 それはそれとして、財務長への差し入れとして一華特製の胃薬と算盤を贈るかな。

 会話を続けていると、気付いたら商会の目の前だった。二人揃って正面から入れば、俺に素材を渡してくれた受付さんが商会長を見てパッと笑う。

 

「あ、商会長!」

 

 元気に声を上げているが、若干の焦りが感じられる。何だ?

 

「先程、商会長のサインを持った若い男性が素材を大量に持って行ったの……です……が?」

「あ、どうも」

 

 商会長の隣に並ぶ俺を見て、声が尻窄みになっていく受付さん。そりゃ、さっき素材持っていった奴が上司と一緒に来たら混乱するわな。

 

「え、あれ?」

「ああ、こん人が持ってたサインはボクんで間違いないよ。急ぎで作って欲しんな、此方まで取りんお願いしたん」

「あ、そうなんですね……え。でもさっき持っていったばっかり」

「こん人んクラフトん早さ、おかしいから」

 

 然りげ無くヒデェ扱いされてるが、まぁタタラってるとか動詞にされてるからもう受け入れるしかないだろうな。

 

「え、でも此処に来たの30分くらい前ですよ?」

「行って帰んまで5分とかね、現役ん探索者ん足早すぎんね」

「それでもクラフトに掛かった時間が短か過ぎるんですが……」

「タタラはんやからね」

 

 取り敢えず、俺は俺で商会長の依頼を済ませたいのだが。

 

「おっと、ボクんお願いで来てもらってんね。部屋でお話してってん、なんか有ったら言ってね?」

「はい!」

 

 商会長が会話を切り上げて俺を執務室へ案内してくれる、先程聞いた算盤だろうから手早く作るかな。

 商会長の執務室は、何処か都市長のそれと似ている。華美な物は無く、調度品は落ち着いた雰囲気で居心地の良い空間を演出している。ただ、俺の目には使われている素材やら壺に華美さは無くとも存在感を放つ作品だったりで目利きの出来る相手には示威になると見て取れた。

 外交長とは別の形で外からの“客”を相手にする故か、実力を測る為の仕掛けがされている。

 

「まま、タタラはん座って座って!」

 

 恐らく商談や面談に使うであろうソファを勧められて座る、沈み込む感覚からかなりの高級品なのが感じ取れる。軽く『鑑定』してみたらドラゴンの翼膜で出来ていた、幾らするんだコレ。

 

「それじゃ、早速お願いできん?」

「分かりました、素材は俺の方で出しても?」

「ええん?」

「まぁ、アーレムとかで無理なお願いしてますし」

 

 そう言いつつ、インベントリから取り出すのは一番量の多いミスリルだ。確か、ミスリルの鉱石言葉には『清廉』とか『誠実』なんて言葉が含まれていた筈。

 商会長の商売へ向ける誠実な姿から、俺はこれこそが相応しいと判断した。

 

「え、ちょっ」

 

 戸惑う商会長を無視して、『クラフト』スキルでミスリルインゴットを分割する。しまった、調子に乗ってインゴット3つは使いすぎた。23桁の計算が出来る形になってる……まぁ、いいか。枠と梁、そして串と珠を形作る。枠と梁には串を通す穴を空け、天に串を挿す。串は『クラフト』で固定し、先ずは五珠を一つずつ入れる。梁と上下を固定して、一珠を4つずつ入れた後に地を嵌めてから『クラフト』で固定。梁に1の位から3桁区切りで定位点を刻む。

 一通り終わったら一先ず試しに弾き、全ての珠に異常は見られなかった。算盤は問題なく完成した。

 

「はい、商会長。予定より大きくなってしまいましたが、コレで如何でしょう?」

「いや、如何でしょうって……」

 

 俺が差し出した算盤におっかなびっくり手を伸ばす商会長、何故そんなに怖がるのか。少なくとも今座ってるドラゴンの翼膜のソファよりかは遥かに安いのだが。

 商会長は手に取った算盤の珠を弾く、どう動かすのかを試している。

 

「……タタラはん、コレ使い方は分かん?」

「軽く触りだけなら」

 

 とはいえ、前世の小学校で軽く触れただけだ。大まかに足し算と引き算を教えるだけで限界だろう、この辺はお義母さんに少し相談しようかな?

 算盤の各種名称と、使う上での姿勢を教える。確か、長時間机に向かっていても疲れ難く集中が続く姿勢だったはずだ。そこから定位点の意味と、軽い足し算と引き算のやり方を教える。

 

「知識不足で掛け算と割り算のやり方が分からなくてすみません」

「ええよ、足し算と引き算繰り返せばやれんかんね」

 

 うん、コンピューターの演算みたいな力技だな。確実では有るけど。

 商会長は俺の目の前で何かの資料を取り出して、早速算盤を弾き始めた。片手でメモを取りつつ最初は辿々しかった算盤の運用が段々と加速し始める。うん、ヤベェな。

 凡そ15分程で束になっていた資料を終えて、そのメモを見つつ何かを思い出している様子だ。もしかして、過去の決算書類を再計算したとかじゃないだろうなこれ?

 

「……うん、かなり正しん計算出来んね」

「あの、それ過去の決算書類とかですか?」

「うん、そうよ。商会ん事務方総動員でやるんねん大分ムラ出んね。それをほぼ一人で正しん答出ん、コレは良かね」

 

 確かに話を聞いてたら計算機欲しくなるわな、と言うかなんでこの世界は計算機の類が生まれなかったのか。慢心、環境の違い……魔法の有無だろうか?

 

「もし良かったら、家に居る陽出の姫から算盤のより深い使い方が出来る相手の有無を確認取りましょうか?」

「……お願い出来ん?」

「確認は取りますけど、教えられるかは分からないですよ?」

「ええんね、出来れば練習ん問題集でも有ればもっかもんなんね」

「確かに、この手のは実戦形式で問題解くと習得早いですよね」

「あ、タタラはんも分かんね!」

 

 共通事項が有ると話が盛り上がる、性質的に相性がいいのかな。俺は考古学として古書を読み取った時の経験で、商会長は学生時代に読み漁った計算の問題集で同じ様な経験をしていた。互いの成功体験や失敗談を語り合うのが面白く、会話が止まらない。

 暫くして控え目なノックの後に、一人の女性が入ってくる。確かこの人、商会長の秘書をやってるんじゃなかったかな?

 

「商会長、少し宜しいですか?」

「あ、うん。なんね?」

 

 秘書さんは俺に一瞬視線を向けて、気不味そうな顔をする。まぁ、前にあんな事が有れば仕方無いよな。とは言え、気を取り直した秘書さんは用件を伝える。

 

「帳簿で合わない所が有りまして、お手伝いをと……」

「ええんよ、何時ん有ったん?」

「はい、三日前の──」

 

 仕事の話が始まったので、俺は努めて耳と意識を逸らす。流石に機密に関わる可能性がある物を覚えるのは不味いだろう、部外者なんだし。

 

「……成る程、帳簿皆で見んね」

「はい、それでは」

 

 秘書さんから帳簿の写しであろう資料を受け取る商会長、早速デスクに置いて算盤を用意する……俺の目の前で。

 

『いや、ちょっ』

 

 俺と秘書さんの声が重なる。明らかに部外者の前でやっちゃ駄目でしょそれ、秘書さんと心が400%のシンクロを見せた気がする。かと思えば、商会長は秘書さんへ向けて一言。

 

「同じん、タタラはんにも用意して」

『はい?』

「急いでんね」

「は、はいぃっ!?」

「ちょっと!?」

 

 商会長がご乱心とすら思える指示を秘書さんへ出す。

 

「いや、俺みたいな部外者が見たら駄目でしょ!?」

「タタラはん」

 

 俺の言葉に、商会長は静かに俺を見る。普段は糸目のように細まっている目が微かに開き、その奥の碧眼を俺に向けている。

 

「タタラはん、ボクら裏切ん?」

「俺自身は商会長も都市長も更に言えばこの『ワールウィンド』を裏切るつもりは欠片も無いですよ、でも洗脳やら拷問やらで思わず吐いちゃうかも知れないですか!」

「そう怖がる限り、ボクはタタラはんを信じんね」

 

 商会長の声音は優しい。しかし、全幅の信頼を持って俺の心を縛るそれだ。この人の恐ろしさ、人心掌握術の一端を見た気がした。

 

「そんにね、帳簿の付け間違いくらいなんねんて。此処からネコババ分かん限りタタラはんが気にすん事なぁんも無いんね」

「……分かりました、計算を一緒にやるだけですよ?」

「それでこそ!」

 

 嬉しそうな商会長に苦笑いをしつつ、魔導ワードプロセッサを取り出す。生憎電卓機能は付けて無いが、数字を羅列すれば俺自身で計算できる。メモ機能を使えば、計算ミスはほぼ無い筈だ。

 秘書さんが届けてくれた資料をワードプロセッサのメモに片っ端から入力し、一覧を作る。最終的に出た物を売上のタイミング毎に纏め、そこから原価計算と割引の算出を実施。この辺の割引関係は後で商会長か秘書さんに確認する為に一端脇に置く、ひたすらに売上の分別と一覧製作に当たる。

 ただ、この時点で少しおかしい事に気付く。算出される数字が変にズレるのだ。帳簿の何処かしらの計算がズレているのか、相手から受け取る金と渡す金が見合わない。それも、一定の数字がズレていく。

 

「……これ、売ってる物の値段が違う?」

「……タタラはん、どうしてそう思うん?」

 

 思わず呟いた言葉に、商会長が反応する。顔を上げれば、商会長は真剣な顔をしている。

 

「売上を時間毎に分けて計算してるんですけど、一定の金額でズレているんですよね。何か売るべき物の値段が違ってないとこんなズレ方しないと思うんですよ」

「……多い、少ない?」

「多いですね、でも最終売上の金額は売上より少ない……ガメてないとこんなの起きないですね」

「……はぁ、タタラはんが言うんならボクの方も当たってんね」

 

 商会長が俺に見せてくる計算した金額は、俺の物と一致している。算出したズレは二桁万の金額に届く。かなり大きいなコレ。

 

「タタラはん、どう見んね?」

「横領、だと思います。俺はこの商会の中を知らないんで口出し出来ませんけど、商会長の部下でやる人が居るとか思えないんですよね」

 

 正しくは、思いたくないんだが。人間は魔が差してしまう物だから、真面目な人達が道を逸れてしまう可能性は有る。

 

「ありがとう、タタラはん。協力は此処までなんね」

「それは……はい、そうですね」

 

 俺はあくまで部外者だ、商会内部の事件に関わるのは違う。

 

「……そんな泣きそな顔しなんでね」

「でも、商会長はコレから信じてた部下を疑わなきゃならないんですよね。そんなの辛すぎるでしょう?」

「それでも、責任持つんが“長”って役貰ってんボクらん仕事なんね」

 

 商会長は微笑みを浮かべながら俺に語り続ける。

 

「タタラはんが工匠長ん役就いたら、きっとこんな事いっぱい出会うんね。けど、忘れんね。ボクら皆、正し限りタタラはんの味方だから」

 

 俺が正しくある限り、商会長や都市長は味方であってくれる。それは、絶対に裏切ってはいけない信頼だろう。俺は心の中で誠実であろうと誓う。

 

「俺も、商会長が正しくある限り味方になります。まだまだ若輩で大した力もないですけど、やれる限りの事をやります」

「うん、加減してね?」

 

 わりかしマジな表情で加減しろと強く言われた。え、なんで?

 

 商会長はコレからの仕事の為にやる事が有ると、俺を部屋から送り出す。

 ふと、思い立ってミスリルのインゴットを取り出して『クラフト』を掛ける。商会では商売神様を信奉している、ならばここなら出来るはずだ。俺が知る中で一番の商売人である商会長を思い描き、更にその先の商売神様を思い描く。そうして出来上がったのは、所謂恵比寿顔の男神像だ。恰幅体形だが、その手には子供へ渡す為の玩具や勉強道具を持っている。恵まれない者達に、等しく機会を与える為に財を求め使う。ソレが商売神様の在り方だ。もしかしたらこれも不敬な神像かも知れない。けれど商会内で神像を見付けられないならコレに頼るしか無い。

 一人商会長と商会の無事を祈っていると、正面から不思議な雰囲気の人が来た。不思議な形の帽子に、恰幅の良い体形。商会長に似たにこやかな雰囲気を醸し出す細い目。何となく、信じたくなる様な雰囲気をしている。

 その人は俺の前で立ち止まって、一礼して去っていく。何だったんだろう、同じ様な何処か浮世離れした雰囲気を以前に感じた覚えが有る。

 

「……って、アレ?」

 

 手の中に有ったはずの神像が無くなっている。何がどうしたんだコレは?

 不思議な現象に疑問を抱きつつ、商会から外に出た。

 

 いつの間にか太陽が隠れて月が顔を出している中、その光を浴びながら歩いていく。そして、人の気配を感じて足を止めた。

 恐らく50m程先に、長身痩躯の男性。暗闇の中でも映える赤い外套に黒い礼装、幅広い帽子を被り目元は色眼鏡で隠れて居る。

 

「今晩は、良い月だと思わないか?」

 

 聞き覚えの有る、色気の有る低音。何処か愉快そうな雰囲気を見せるその声音に、警鐘が鳴る。

 何故、と考える。

 やはり、と感じる。

 俺のインベントリに収められている剣が、嘲笑うかの様に震えたのが感じ取れた。

 

「良い月だが、気分は最悪だ」

 

 目前の男に答える、最悪な気分なのは嘘偽りの無い本心だ。

 

「そう言うな、タタラ・ジュロン」

 

 口元をまるで三日月のように歪める目前の存在、鋭く尖った犬歯が覗く。

 

「会いたかったぞ、愛しい怨敵。我が運命よ」

 

 遥かに遠くに有る吸血鬼の国、そこを治める王。

 かつて殺し合いをした『不死の王』がそこに居た。




途中操作ミスで1100文字程吹き飛んだ時は執筆辞めようかと思った、付いてて良かった自動保存機能。運営に感謝。

おまけ

 目前に座っていた善良な青年を見送って、溜息を一つ吐く。商会長を任ずる男は自身が仮面を被り続けられたか不安ではあったが、それでもやりきれたと小さな自負を持っていた。
 タタラ・ジュロン。心優しく誠実で、献身的な高い技術を所持する青年。

「ほんと、やり難いなんね」

 真っ直ぐ過ぎて商売の世界で生きてきた自身と相容れない性質を持つ青年と関わる事、商会長は内心嫌がっていた。
 青臭い昔の自分を見ている様で、そんな古い鏡を見せられてしまえばどうしても格好つけたくなる。彼の前で、情けない大人では居たくないと見栄を張ってしまう。
 自分自身は汚れていても、彼の憧れを汚すのは己が許せない。
 人をヒーローにする彼の心根は、本当にやり難い。

 故に、商会長はタタラ・ジュロンが苦手である。

 知らず己が微笑んでいる事すら気付かない商会長の執務室に、控え目なノックが届く。

「入れ」

 それは、タタラ・ジュロンと共に居る時とは全く別の声音だった。冷厳なその響き、普段のお国言葉すら無い言葉を聞けばタタラ・ジュロンは同一人物かを疑うだろう。
 しかし、これこそが商会長の仕事姿である。

「失礼します」
「し、失礼します……」

 入ってきたのは二人。一人は商会長自身が見出した優秀な秘書、もう一人は三十代の半ばを過ぎたであろう商会所属らしく身なりは整えられている女だ。

「さて、何で呼ばれたか分かるか?」
「いえ、その……」

 己の問い掛けに煮え切らない答えを返す女に、商会長は舌打ちを一つ。商売に身を置き、多少は気を長くしているが元来の彼は気が短く喧嘩っ早い。
 態々楽しいヒーロータイムを削られ、此方を心配していた青年の顔を見せられた故に何時手が出てもおかしくない。

「これはな、三日前の帳簿だ。違和感が有るって報告入って再計算したら案の定、特定の品物を売り買いしてると二桁万のズレが出てるんだよ。最後にレジ内の金は正常なのにな、売上を追ってると大きくズレてんだ。意味わかんねぇよな?」
「は、はい……」

 商会長の尋問を受け、冷や汗をかきながら視線を彷徨わせる女。

「三日前のレジ関連を担当してたのはお前だよな、この異常な金の流れキチンと説明しろ」
「それは、その……」
「説明しろと俺は言ったぞ、聞こえなかったか?」

 静かに、上から叩き潰すが如き威圧でもって声を掛ける。

「俺達商会はな、この都市に住まう人々の信用と信頼が有って存続してられんだよ。お前の浅墓な行動一つでそれが全部失墜したら解体される、そんくらいに危ういバランスで成り立つ組織なんだよ」
「そ、それは……」
「現に一部のクラフターや商店は個で探索者と契約して素材を集めたり、自ら潜って希少な素材を独占してんだよ」

 脳裏に浮かぶのはタタラ・ジュロンだ。ただ一人、自由な素材での売買を禁じられたクラフター。
 新たな素材を作り、未知の技術を持って都市内全ての商店を潰しかねない程に個の強さが突出した個人商店の主。
 インベントリにしまったミスリル製の算盤、あれ程気軽に出したと言うのは商会長がそれだけ彼に取って好ましい存在だという証明。そして、ミスリル程度はどれだけ使っても惜しくは無いと言う事の証明だ。

「一部には、商会じゃ取り扱えないような高額で希少な素材も有るだろう。だがな、俺達に金を落としてくれる筈だった商店にも信用されず大きな損失を出してんだ。分かるか?」

『実は、子供の頃に鉄を買おうとしたら誂われて。それから苦手意識出来ちゃって通ってなかったんですよね。情けないでしょ?』

 笑い話の様に語っていたタタラ・ジュロンの表情を商会長は思い出す。
 鉄が足りずに探索していたなんて話の中で言われた、商会で買えなかったと言うエピソード。何とも浅墓な話だろうかと商会長は思った。
 彼の中では、復興支援の時まで商会はそのような人間の集まる場所であると印象付けてしまっていた。商会長はどれだけ大口の商売を逃したのか分からず、話を聞いた晩は強い酒を飲んでも憤りで酔えず眠りにつけなかった。
 商会長が個人的な繋がりの有る商店の店主やクラフターも、大なり小なり同じ様な経験が有ると言う。商会長自身とは繋がりは持てても、組織としての商会は苦手意識を持たれている。

「お前がやったゴミみたいな横領でな、その数百倍どころか数千倍の負債がのしかかんだよ。責任負わずに逃げるテメェにはわかんねぇだろうがよ!」

 思わずデスクに拳を叩き付けた商会長の声に、女は身をすくませる。黙りならば逃れられると思い込んで居るのか、説明をする姿を見せなければ何の行動も起こそうとしない。

「何とか言えよ、犯罪者がよ!?」
「そ、その……お金が足りなくて!」
「足りねぇから盗んだだ!?」

 商会の給金は相当に高い、それはこう言った横領等を防ぐ為である。他の公的な機関の給金の1.5倍はする金額で、中枢の役人よりも商会に勤める方がエリートとして見られる程だ。

「テメェがやったのはただの盗人だ、自覚あんのか!?」
「で、ですが生活費が……」
「テメェが買い漁ってる高級な帝都の銘柄品を取り寄せたり、男娼通いを辞めてりゃ終わる話だろうが……身の程を弁えろこのクソがァ!!」

 都市内に出回らせたいからと、自身への利益を度外視で特許料を設定した青年を思い出す。少しでも当人に儲けさせようとしたら圧まで掛けて防いだ姿は、今でも商会長の背筋を凍らせる。
 しかし、そんな彼だからこそあのホイホイやトリモチは都市内に出回ったのだと商会長は心から思う。
 そんな彼の特許料よりも高い給金を得ていて、生活費が足りないとのたまい盗みに手を出す。度し難いと商会長は思う。

「分かってんだよな、即座に補填しろ」
「そ、そんなお金……」
「わずか三日で数十万の金を溶かすか……腐ってんのかお前の脳は?」

 目と声に宿っていた熱が冷える。何処までも底冷えするような圧を放つ商会長は秘書へ視線を向け、命令を下す。

「自警団を呼んで此奴を渡せ。俺の鳥型ゴーレムを使って良い、最速の手段を使え」
「承知しました」
「そんな!?」

 秘書の受諾した声と、女の悲鳴が同時に上がる。商会長は虫を見るような目で女を見る。

「自業自得だ、お前の財産も差し押さえさせて貰う」
「そんな横暴が許される筈が……っ!?」
「お前の行動が横暴では無いと?」
「もっと給金が有ったならこんなっ!」
「語るに落ちるな、お前よりも収入が少なくても正しく生きてる奴のほうが多いぞ」
「なんで……私、女なんですよ!?」
「それが?」

 商会長は目前の他責思考をする猿を、どう処分するかを考える。自警団に突き出し、法務に掛け合い財産の差し押さえを正式に許可してもらうのは大前提。補填が出来ないのなら、次はこの女の血族にその責を負ってもらうだけ。
 無慈悲な商売人の側面が、目前の女の潰し方を次々と弾き出す。

「女だとか何だとか関係なく、自分の責任は自分で負えよ。人間なんだからさ」

 商会長の言葉を聞き、女は発狂する。暴れようとする女に溜息を一つ吐いて、幼馴染である自警団で班長に上り詰めた男から習った逮捕術で女を取り押さえる。

「本当、なんでお前みたいなカスの為にタタラはんとの楽しい時間潰されんね。割に合わないんね、本当」

 思わずお国言葉が溢れる商会長、耳障りな鳴き声を自警団が来るまで聞くことになる現実に溜息を吐いた。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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