※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント継続中。


アンケート実施中です、心に従って下さい。
自分自身を決められる、たった一つの部品だ。無くすなよ。


国交樹立の立役者

 両腕を広げまるで抱擁を求めるかの様に語り掛けてくる『不死の王』の姿を見て、俺は思考を回す。

 はたして、俺がインベントリから装備を出す間を与えてくれるのか。人間に討ち滅ぼされたいと願いながら、その為には全力で足掻く事を辞さないとある種の矛盾を抱えた目前の存在は相当に面倒くさい物である。

 

「一国の王が不法入国してまで、一人の人間に執心するのは違うと思うんだがな?」

「なに、今朝方にはこの国の帝都にお邪魔して会合を終えたさ。国交樹立の立役者は……お前だ、タタラ・ジュロン」

「全く嬉しくねぇ……」

 

 お気に入りの人間に殺されたいから国交を結ぼうとか言われて、皇帝陛下やその家臣団の人達はどう思ったやら。

 しかし、国交が成されているのなら困った事になる。仮に正当防衛だとしても、相手国の王を殺してしまうのは下手をしなくても戦争案件だろう。いや、何度殺しても蘇るから本当に面倒くさいんだけどさ。

 

「なに、此処で事を構えるつもりは無い」

「……本当だろうな?」

「くくく、確かに以前私から不意を打たれた故にお前が疑うのは正しい。しかし、今回は信じて欲しいものだな」

「……ふぅ。分かった、信じよう」

 

 完全にでは無いが、警戒を解く。『不死の王』は少し驚いた雰囲気を出した後、その顔をほころばせる。

 

「信じてくれるとはな。嬉しいぞ、タタラ・ジュロン」

「別に、下手に戦うと近所迷惑だから諦めただけだ」

 

 俺の答えに笑い出す『不死の王』、何だか何時も笑ってるなこの王様。

 

「しかし、こんな夜まで何をしていたのだ?」

「商会の長から直接依頼を受けて色々、最後にはちょっとこの都市の恥になる部分が」

「ふむ、商会となると……横領か?」

 

 気付けば並んで歩きながら雑談をしている俺と『不死の王』、今日の仕事に付いてや都市祭に付いて話すと興味深そうな反応をする。

 

「私を殺せる武器を作ってるのかと思いきや、都市への貢献とは中々に忙しい身のようだな」

「そっちは吸血鬼殺しの手段を探してるから余計に見付かんねぇっての、『魔槍ワラキア』の時点でかなり無理した代物だしな」

 

 本来は存在しなかったモンスター素材の武器なんてものを無理矢理作り出したのだ、そこから更に進化させるなんてどうすれば良いのか考えてる最中だ。

 

「それに、少し急ぎ目で潜らなきゃならないしな」

「ふむ、その年で中々に深い階層へ潜っていると調べれば出て来たのだが?」

「取り敢えず、60階層まで潜ってボスを倒さないと数ヶ月で俺は死ぬ」

 

 俺の言葉に完全に硬直する『不死の王』。何歩か置き去りにして進んでしまい、立ち止まってから振り返る。その顔はまるで迷子になった子供のようだった。

 

「貴様は、死んでしまうのかタタラ・ジュロン?」

「お前と戦った時も死にかけたんだが?」

 

 何を言うのかと思わず目が細まる、お前と戦った時が多分人生で一番死にかけた場面だ。

 いや、ごめん嘘吐いた。初めてエテルが暴走した時が一番生命の危機を感じてた。

 

「……理由は有るのか?」

「俺が本来この世界に無いものを手軽にクラフトするかららしい、その影響で魂の大きさが肉体って器の大きさを越えるから崩壊するんだってさ」

 

 俺の言葉に対して目を瞬かせる『不死の王』、予想外の事に脳が理解する事を遅らせてるらしい。いや、確かに普通ならそんな事が起きる筈も無いからそうなるか。

 少しして理解したのか、腹を抱えて思い切り笑い出した『不死の王』の頭を思わずスリッパで引っ叩く。

 

「近所迷惑を考えろ、声量を落とせ!」

「ククク、悪い悪い……予想外の理由過ぎて喜劇にしかならんな!」

「力強く言うなよ……気持ちは分かるけどな」

「当事者なのに分かるのだな!」

 

 益々笑いが大きくなる『不死の王』に呆れの感情が芽生える、殺し合いから始まった関係なのに何故俺達は談笑をしているのやら。

 

「ククク……うむ、そうだな。一つ聞きたいが、今もお前は私の剣を持っているか?」

 

 何とか笑いを抑えた様子の『不死の王』の質問に、俺はインベントリから『名剣アルカード』を引き抜く事で答える。

 

「成る程、持ち歩いて居るのなら重畳だ」

「……コレに込められた魔力を追ってきたんじゃないのか?」

「……ふむ、その手が有るか。次からの参考にしよう」

「やべ、余計な事言っちまった」

 

 俺の反応に満足そうな笑みを浮かべる『不死の王』に、辟易といった反応をするも面白そうな表情を見せるのみだ。

 まぁ、この剣の事を聞かれたと言うなら返還を求められたと言う事だろう。このまま差し出そう。

 

「ふむ、何の真似だ?」

「え、返還して欲しいんじゃないのか?」

 

 俺の言葉に『不死の王』は俺と剣を交互に見つつ戸惑った様子だ。

 

「……要らんのか?」

「いや、有れば嬉しいが……これ何か大切な物だと思ったんだが」

「お前の槍を私が持ち帰ったのだ、私の剣はお前が持っていろ」

「……よく分からんが。まぁ、預かっておく」

 

 インベントリに『名剣アルカード』をしまえば、『不死の王』は満足そうに頷いた後に自身のインベントリから鞘を此方に投げてくる。これ、下手したらGPS発信器持たされたようなものなのでは?

 

「さて、楽しく喋れたので御暇させて頂こう」

「唐突に現れて唐突に帰るな」

「普段堪能出来ぬ自由を、存分に堪能出来る最高のタイミングなのだ。こんな時くらいは我儘に振舞わせて貰うさ」

「……王様ってのも大変なんだな」

「ああ、大変だとも。タタラ・ジュロン、お前もいずれ体験するであろうよ。では、また運命の交錯する時に会おう。さらばだ」

 

 俺の言葉に楽しそうに笑って返した『不死の王』は、その身体を無数の蝙蝠へと変えて飛び去って行った。シュレディンガー理論で汎ゆる場所に現れるとかの特殊能力は無いらしい、有ったら本気で勝ち目が無いので少し安心した。

 

 

「ただいま」

 

 そのまま真っ直ぐ家に帰って挨拶をする。すると奥からちょこちょこと走ってくる小さな影。

 

「たー!」

「ただいま、コーンレム」

 

 出迎えてくれた一華専用のゴーレムであるコーンレムの頭を、身を屈ませて撫でる。嬉しそうに頭を擦り寄せるコーンレムの姿に和みつつ、靴を脱いで家に上がる。

 リビングまで進めば、一華がソファでうたた寝をしていた。掛けられているタオルケットは恐らくコーンレムだろう、視線を向けると褒めてと目を輝かせる姿に追加の撫で撫でを食らわせてやる。

 一華に近付き、そっと耳元で囁く。

 

「ただいま、一華」

「……おかえりなさいませ、タタラ様」

 

 俺の言葉に一拍置いて目を覚ました一華。しまった、起こすつもりは無かったんだが。

 

「直ぐにご飯を温めますので……」

「いや、ゆっくり休んでくれ。無理に働こうとするなら押し倒してキスするからな?」

「……働きますね」

「おい」

 

 脅しを掛けたら逆にやる気を出した一華、仕方無いのでその場で抱き締めてキスをする。耳と尻尾がピンと伸びるが、直ぐにヘタった後に抱き返してくる。

 

「休むこと、いいな?」

「ふふ、御意でござる」

 

 素の口調から普段のござる口調へ戻った一華の膝にタオルケットを掛け直してから、俺は台所に入る。夕飯は俺の分だけ残っていて、先に全員が帰っている事を確認する。

 今日の夕飯は大きなおにぎり二つと、小鉢に入った肉じゃがに味噌汁。探索が無い時はコレくらいで満足出来る俺の胃をよく把握している物だと感心する。

 おにぎりを一口齧る。油断した、ただの塩むすびかと思えば酢と昆布出汁を混ぜて炊いたご飯だ。更にはきんぴらを具として包んでいて、甘辛いきんぴらの味が炊き込みご飯とよく合う。

 肉じゃがから馬鈴薯を一つ摘み口へ放る。出汁が染みた馬鈴薯は舌で押し潰すと内包していた出汁を口いっぱいに広げ、旨味をこれでもかと伝えてくる。甘みが強い肉じゃがの出汁は、酸味を多く含むおにぎりの米とよく合う。

 次々と口に含んでいれば喉が渇く、そこで味噌汁を一啜り。俺が好きな玉葱と蕪の味噌汁は、白味噌の柔らかい風味とよく合い甘みを強く感じる。

 そうして次々と口に運び、夕食は恙無く終了する。

 

「ご主人、重くないでござるか?」

「いや、逆に軽すぎると思うが……」

 

 夕食後、一華を抱き寄せてソファに横になる。一華は心配そうに聞いてくるが、感覚としては軽すぎると感じてしまう。胸部はとても重量感が有るが。

 仰向けの俺の上にうつ伏せになる恰好故に、その豊かな乳房が俺の胸部で潰れている。愚息が反応してないのが奇跡だ。

 

「ふふ……ご主人を独り占めでござるな」

「家事をやってくれてる正当な報酬って思ってくれ」

「きゅうん、ご飯を食べて貰えた上に撫でて貰えるでござるか……拙者の業界ではご褒美でござるよ」

「なら丁度いいな」

 

 身を擦り寄せて来る一華の髪を撫でる、変わらず触り心地の良い丁寧に手入れされた髪の毛だ。なんというか、一華の周囲に花が舞ってそうな雰囲気である。

 少しして、一華から寝息が聞こえて来る。朝までヤッてたから疲労が残っているのかも知れない。無理をさせ過ぎたかな。

 

「ふーん、奥さんを放って浮気かな?」

「その奥さん公認の仲なんですけどね」

 

 風呂上がりらしいエテルが俺と一華を見て嫉妬の籠った台詞を向けてくる。一華をこのままにしてやりたいが、俺も少しやりたい事が有る。どうするかな。

 

「……駄狐が此処まで気を許すようになるとは」

 

 予想外の物を見たといった反応で言葉を漏らしたのは雛菊さんだ。一華が殆ど警戒しなくなった事に思うところが有るのだろう、警戒心が強かった時代を共に生きていたのだから当然か。

 

「そうだ、雛菊さん」

「む、何でしょうか?」

「一華を部屋まで運んでやってくれませんか?」

 

 俺の頼みに複雑そうな表情を見せる雛菊さん、少し考えて頷いてくれた。

 

「分かりました、タタラ殿と連れ添ったら我慢の限界から弾けそうですので引き受けます」

「理由が酷い」

 

 その場合は俺の自室へ連れ込んで、馬乗りパイズリでもさせて貰うだろう。そんな考えを脇に置き、一華を雛菊さんに預ける。自由になった俺は身体を軽く動かして、鍛冶場に向かう。

 

「むぅ、タタラはお嫁さんを蔑ろにし過ぎ!」

「いや、今日の朝までと言うか朝も愛し合ったんだから少しは時間を置こうぜ?」

 

 下半身は大分回復してるので普通に出来はするが、流石にやりたい作業が有る。サイファーは都市長と商会長からの手紙を持ってきていないので、明日は1日自由になる。明後日は商会長からの依頼が有るので実はそこ迄時間に余裕も無かったりする。

 

「後で部屋に来てくれ」

「むぅ……これから何をするの?」

「鍛冶場の拡張。王玉が手に入ったからやってみたい事が増えちまってな」

 

 お師様のように星から魔力を借りる事は出来ないが、現象そのものである精霊の王が持つ力を活用したのなら近い事は出来るはずだ。その為には鍛冶場内の魔法術式にも手を加えなければならないだろうし、王玉も一つ二つで済む数では無いだろう。

 本当は昨日のうちにやろうと思ってたのだが、風呂で延々と快楽を貪ってしまったので出来なかった。若いとこの辺りの衝動を抑えられないな。

 

 鍛冶場に入り、先ずは炉を改造する。取り出した王玉に『クラフト』と『錬金術』を使用し、精錬する。合計して8個の火の王玉を精錬し終わり、炉の中へ設置する。精錬した事で王玉の出力が均一になり、内部の炎の出力が一定になる。更に炉内の術式を弄り、熱が一定になるようにする。

 更に風の王玉を配置してふいごの役割を追加、均等に熱を上げる為に王玉同士の干渉を計算して配置する。

 以上2種類の王玉が均等に魔力を得られるように術式を最適化、炉を起動してみれば王玉同士が相互して炎が蒼く染まる。

 想像以上の効果で思わずガッツポーズをするも、慌てて止める。炉が自身の熱で溶け始めたのだ、耐久力の計算を忘れてた。

 持っているアダマンタイトの大多数を鍛造し、炉の内部に張り巡らせる。更に水の王玉を使い冷却しつつ、火の王玉を使用し火属性を吸収するミスリルを裏に張る事でアダマンタイトの熱を極限まで奪う設計にする。結果として炉の耐久性は爆発的に上昇し、溶け出すことは無くなった。

 次に焼き入れを行う水槽、内側に水の王玉を設置して龍脈から汲み上げた魔力で水を生成する術式を組む。水槽から水が溢れ出ない様に内側に目印を刻み、その先まで水が増えないように術式を追加。更に炉と同じ構造を用いて急激に上昇する水の温度に耐えられる様にした。試しに炉で熱したミスリルを入れてみたが、問題なく水槽は耐え切った。

 最後に金床である。アダマンタイトではなく此処はオリハルコンを主にして、お師様から教わった分量のアダマンタイトとミスリルを混ぜる。床と金床を土の王玉でつなぎ、金床に流れる龍脈の魔力をより馴染ませる。

 こうして、四大属性により空間を満たす鍛冶場の強化が完了した。試しに一本刀を鍛えれば、それまでと段違いな魔力との親和性を見せた。

 ただ、保有していたアダマンタイトはほぼ全て使ってしまった。絶対にエテルや四葩に怒られるだろうな。

 作業が一通り終わり、浴室へ向かう。汗を流してスッキリしてしまおうと思い、夫婦風呂へ入る。

 

「で、結局こうなるんだよな」

「タタラは私を寂しくさせたんだから、スキンシップを多めに取らせないとダメだからね?」

「仰せのままに」

 

 俺と向かい合う対面座位で、だいしゅきほーるどまでかまして完全密着状態のエテルが頬を膨らませながら腰をくねらせる。翼で包む事も含めた密着っぷりで、全身から『性魔術』によって発情を促されエテルの膣内に挿入されている愚息は痛い程に勃起している。

 

「タタラとイッさんが仲良いのはいいんだけど、時折私よりもお似合いに思えちゃって……」

「いや、そういうのは積極的に言ってくれ。不満は溜め込んだらダメだ」

「……タタラのココ、直ぐに溜まっちゃうから?」

「俺は別に我慢出来るからな」

 

 最悪、一人で処理すればいいし。そんな俺の首筋に噛み付きマーキングを試みるエテルだが、物理防御が高くなり過ぎて痕すら付かなくなっている。

 不満そうに口を尖らせたエテルは、次に唇を付けて思い切り吸った。今度は鬱血痕が出来て満足そうである。

 俺はお返しとばかりに鎖骨の辺りに口を付けて吸う、俺の首筋と同じように鬱血痕が出来たのでエテルに向けてニヤリと笑う。

 

「エテルにもマーキング」

「むう!」

 

 俺の言葉に不満そうな声を漏らしたエテルは、自分の乳房を下から持ち上げて俺に突き出してくる。どうやら吸うなら此方を吸えと言いたいらしい。お望み通り、硬く尖ったその両方の先端を纏めて吸う。態と音を立てていやらしく感じるようにする、羞恥心を掻き立ててやればエテルは甘い声を漏らす。

 その反応に気を良くして、エテルを下から突き上げる。エテルの反応はより大きくなり、膣内も活発に蠢く。強まった刺激により俺も限界になり、エテルの腰を押さえ付けて射精する。

 互いに身体を震わせつつ、深く唇を重ねた。

 

 

「偶に思うんだが、俺ってセックス依存症なんだろうか?」

 

 二人で湯船に浸かっている時に口を付いて出たのがこんな言葉である。以前、夢魔とのセックスを経験した者はその異次元の快楽により依存症になりやすいと聞いたことがある。

 そもそもとして『性魔術』なんて物がある世界なので、セックスによる脳内麻薬の分泌量が何倍も上だろう。そうなれば、依存症と言うか中毒になる人間も多くなるだろう。

 俺は初体験の相手がエテルな上に、結構な頻度で食われていた時期も有った。今はエテルの夢魔としての衝動が抑えられているが、恋人との触れ合いを求めて互いが互いを貪っている始末。

 更に一華とタチアと言う別の相手まで出来ているのだから、俺は自分を依存症ではなくても片足を突っ込んでるのではないかと疑っている。

 

「私がタタラ依存症なだけだと思うけど、触れ合って無いと偶に不安になるし」

「……偶に?」

 

 エテルの返答に引っ掛かる、偶にっていうか結構な頻度で不安になってなかったかな?

 まぁ、不安にさせる俺に落ち度が有るのだが。四葩の事や一華の事、タチアの事でも不安にさせた訳だしな。

 

「偶にだよ、常に不安だったらタタラのこと監禁してるし」

「サラッと恐ろしい事を言うなよ」

 

 監禁されたら生活費稼げ無いぞ……いや、ホイホイとトリモチの特許料を節約して使えば十分出来るか。魔力は家庭用魔力炉を使えば問題は無いし、食材は定期購入しているし支払いは月で10万程だ。二人の時は5万だったが人が増えて消費量上がったんだんだよな、監禁されたらどうなるんだろう?

 

「でも、今はそれやっちゃうとタタラが死んじゃうんだよね」

「数ヶ月で病没って言われたからな、どんな死に方かは分からんが段々弱っていって……」

「やめてよ!」

 

 悲鳴を上げて縋り付いてくるエテルに、やっちまったと思う。

 

「何で怖いこと言うの!?」

「悪い」

「タタラが死んじゃったら私……」

「エンゲージリンクで一緒になっちまうよな」

「無くても寂しくて後を追っちゃうからね!?」

「……それ、まだ有効だったのか」

 

 恐怖で震えるエテルの頭を撫でて慰めつつ、身体の柔らかさで愚息が反応する。空気ぶち壊しだな。

 エテルは硬くなった愚息を自ら受け入れて腰を振り始める。恐怖を紛らわせるように口吻を交わす、絡めた舌に涙やら何やらが伝って少ししょっぱい。雰囲気をぶち壊しそうだが、夢魔の体液なので愚息はガッチガチになっている。状況だけ見ると俺の状態は変態のそれだな。

 湯を汚さぬようにエテルの膣内へ射精し、そのままエテルの心が落ち着くまでセックスを続けた。エテルが体力切れを起こして眠りにつくまで頑張ったが、俺も良く耐えられたと思う。死んでてもおかしくなかったんじゃなかろうか?

 

 エテルの身体を拭いて、部屋に寝かし付けてから部屋へ。結局サイファーが都市長と商会長から手紙を運んで来る事はなかった。『不死の王』の国との国交が始まったのだから、何か一言が有りそうだと思ったのだけどな。

 明日は探索に向かうと決めて、床につく。夢を見たのだが、少し不思議な夢だった。

 何処かで見覚えの有る恵比寿顔の男性と、髭面で筋肉質の男性が酒盛りをしている。恵比寿顔の男性が何やら自慢げに髭面の男性へ見せていて、髭面の方はそれを羨ましがりながらも手に入った事を祝福している様子だ。

 それを遠目で眺めていると、二人は此方に気付いたのか其々手に持っている盃を掲げて挨拶してきた。俺も何だか嬉しくて手を振って返すと、そこで夢が覚めた。

 身体を起こして、ゆっくり寝れた事で調子が良くなっている身体を確認する。一つ頷いてから台所へ、ここ最近一華に頼り過ぎているが俺も料理をしよう。元々好きだったのだが少し離れ過ぎている気がする。

 

「おはよでござる、ご主人」

「おはよう、一華」

 

 調理中に背後から声を掛けられて返す、一華は俺の様子に苦笑いしつつ隣に立って調理に参加する。

 

「今日は焼き魚が主食でござるか?」

「ああ、なんか白身魚の塩焼きが食べたくてな」

「その割に味付けはそこそこしっかりやってるでござるな?」

 

 塩焼きと言いながらスパイスを少し配合しているのに気付かれた、一華は妖狐故に鼻が良いからそりゃ気付くな。

 

「陽出は水源が豊富だろうから新鮮な魚が捕れると思うが、此方は内陸だから捕れるのが川魚だしな。しかも基本日持ち優先で保存用の加工するから塩気が強過ぎるんだよ。だから一回酒で洗い落として、その後に多少は塩気を緩和する為にスパイスを使うんだ」

「むむ、それで偶に焼く魚が想像より塩っぽかったでがざるか」

「知らないのに一華は食べやすく作れてたのか……純粋にスゲェよ」

 

 一華の料理の腕は純粋に高いな、しかも此方の調理法や料理を学んでレパートリーを増やすから頭が下がる。

 

「あら、おはようございます。今朝はお魚なのですね」

「あ、おはようございますお義母さん。はい、焼き魚です」

「おはようでござるよ、奥様」

 

 朝の挨拶をして来たお義母さんに返事をして、再び調理に向き合う。人数が多い事を忘れてたな。

 

「……ん?」

「どうしたでござるかご主人」

「いや、違和感が……」

 

 はて、何かがおかしい。俺は今、誰に挨拶を返した?

 一華も気付いたのか、俺と一緒のタイミングで背後を振り返る。そこには食卓に付き、自ら淹れたお茶をのほほんと啜っているお義母さんが居た。いや、何で?

 

「ど、どうしてお義母さんが!?」

「奥様!?」

「あら、少し気付くのが遅いのですね?」

「馴染み方が自然過ぎて違和感無かったでござるよ!?」

 

 驚愕する俺と一華に柔らかい笑みを向けてくるお義母さんに混乱する。昨夜は『不死の王』で今朝はお義母さんってどんなエンカウントだよ?

 取り敢えず、気を取られると朝食が台無しになるので今は料理に集中だ。

 

「あ、あの人も居るので二人分追加でお願いしますね?」

「なんで当主代行まで来るんですかねしかも事前連絡無しに!?」

 

 爆弾みたいな情報を出されて悲鳴を上げつつ、俺と一華は料理を続けた。混乱してても狂わなかった手元は半ば奇跡だろ。

 

 

「……お父さんにお母さん、何で此方に居るか教えて欲しいのじゃが?」

 

 少しして鍛錬の為に起きてきた四葩が、食卓に並んで座っている両親を前に頭痛を覚えたかのように額を押さえてそう言った。うん、頭痛くなるよな。

 対してお義母さんは着物の裾で口元を隠して笑うだけ、対して当主代行は気不味そうな表情を浮かべている。

 

「実はですね、昨日陽出國と此方の国が正式に国交を結んだのですよ」

「此方の国では朝方か、その場では少し有ったが問題無く交流を始めている」

 

 此方も昨日からか、帝が出張るとは思えないから正式に顔見せしたのは恐らく当主代行が面会に来た感じだろうか?

 

「少し有ったとは、何が有ったでござるか……」

「うむ、少しおいたをしようとした無礼者と……な。タタラ殿の刃で斬れては居たが、殺せなんだわ」

「何で相手国の謁見の場で剣抜いてるんですか」

 

 その場で開戦が決まってもおかしくないだろそれ。

 

「いやなに、我等より先に謁見をしていた国の王が暴走してな。国交樹立せぬならこの場で家臣と陛下を害すると申したので介入したまでよ」

「一歩間違えれば国際問題で笑えねぇ」

「……タタラ、うちの国の皇帝陛下の血族って喧嘩っ早いんじゃ?」

「だから、一歩間違えれば国際問題なんだよ……」

 

 そうなれば、四葩を交渉材料として確保しようと本国の人間が家に来たかも知れない。そうなっていれば、俺はエテルと四葩を陽出國に送って居たかも知れない。

 

「一つ前の国って、何を言って問題にしていたのですか?」

「うむ。なんでも地方都市のいちクラフターに己を殺させようとして居たらしい」

「ぶふっ!?」

 

 心当たりが有りすぎる、つかそいつ間違いなく『不死の王』だろ……何で国交の要求が俺に殺される事なんだよ意味分かんねぇ。

 

「妙な要求じゃな」

「ところでタタラ、そんな反応するって何か心当たり有るの?」

 

 訝しむ四葩と、俺の反応に疑問を持つエテル。意外に気付かれないものなのだろうか?

 

「一応、エテルと四葩は出会ってるぞソイツ。俺は昨日、商会からの帰り道で出会したしな」

 

 俺の言葉に心当たりが無いらしいエテルと四葩、対して当主代行は鋭い目付きで俺を見ている。

 

「……え、心当たり無い」

「ほら、前に39階層で殺し合ったあの王様」

「おお、そう言えば『不死の王』と名乗るだけでなく国を治めておったような……マジか」

「あのタタラのお尻狙ってた!?」

「ご主人の菊座!?」

「落ち着けお前ら」

 

 記憶を引き出そうとしたらヒデェ勘違いを誘発した。ホモ疑惑とか流石に可哀想だろ。

 

「タタラ殿、もしやその王から何か受け取らなかったか?」

 

 当主代行から重々しい声でそう問われる。受け取ったと言うか、押し付けられたと言える代物は一つ有るな。

 

「えっと、剣を一本……預かったというか」

「アレはその場に置いてった感じだよね、タタラに覆い被さって被弾した後に消えたから忘れていったようにも見えたし」 

 

 俺の言葉を補足するエテルの言葉に、当主代行が眉間を揉む。その様子を見ていたお義母さんが代わりに言葉を紡いだ。

 

「彼の国の王ではなく従者の言ですが、その剣は彼の国において相当な由来が有るものらしいのです。王はその相手に譲ったと言っているのですが、真意は分からないのですよ」

 

 譲ったってのはどうなんだろうな、殆どボスドロップとかそんな感じの入手だったのだが。まぁ、『不死の王』自身は殺し切れ無かったからボスドロップと言うよりイベント報酬にも見えるが。

 

「一応、昨夜顔合わせして返そうとしたら駄目でした。俺に預かっていろと言ってましたけど」

 

 益々眉間の皺が深くなる当主代行と、困った表情のお義母さん。なんだろうこの微妙な雰囲気。

 

「タタラさん、覚悟をして聞いて下さい」

「え、何だかスゲェ怖いんですけど」

 

 お義母さんの前置きに緊張を覚える、何を言われるんだ?

 

「その剣、銘を『名剣アルカード』と言うそうです。その剣は彼の国を建国するまで王が振るい続けた王家の象徴の一つとのこと。彼の国の御伽噺にも活躍が描かれ、子の名前として贈られる事も多いそうです。そして、その剣は王権の証としての側面が有るそうです」

「……はい?」

 

 つまり、王位継承剣って事か。喧しいわ。

 

「彼の国の王はそれをこの国のクラフター……おそらくタタラ殿へ譲ったの一点張りでな、従者の返還要求を王自らが却下している始末。更にはタタラ殿に討ち滅ぼされる事を望んでおってのう、殺し合いをする場を寄越せと要求しておったわい」

「何で俺にはこんな厄ネタばっかりやってくるんだよ!?」

「そう言う星の下で生まれたのだろうよ」

 

 当主代行の言葉に頭を抱えて叫んだ瞬間、別の方向から声が届いた。振り向けば赤い外套はそのままだが、黒いパジャマで赤いナイトキャップを被った『不死の王』がリビングのソファに座って居た。優美に紅茶を飲んでる姿を見て、俺は激昂した。

 

「お前ぇ、よくもヤベェ由来の剣を押し付けやがったな!?」

「ククク、それを持ってお前が私を殺せば晴れて一国の王だぞ?」

「いらねぇわそんな立場、生まれながらの小市民舐めんな!?」

 

 管理職など出来る筈も無い、俺には決定的に素質が足りないのだ。

 

「つか、俺を国交樹立の立役者とか言ってるが何か変な脅し入れただろコレ!?」

「失礼な、私は真面目にお前がいなければこの様な国に興味は無かった。お前の存在が我が国との国交を樹立させたと言っても過言では無いだろう」

「過言だわ!」

 

 一人のクラフターに固執して国の交流始めるとか誰が思うか、しかも怨敵とか呼ぶ相手は少しクラフトが出来るだけの半人前の小僧だぞオイ。

 そんな俺と『不死の王』のやり取りを見て、当主代行が微妙そうな顔をしている。

 

「……一国の王だと言うに、随分とただの青年に固執するのだな?」

 

 意外というか、あり得ない物を見て思わず口を付いたかの様な反応をする当主代行。そんな当主代行を見て『不死の王』は愉しそうに笑って答える。

 

「なに、少し前に偶然出会った際に幾度と無く私を殺してくれたからな。その性根、その思考は私の好みに合ったが故に私は殺されたいのだ」

「昨日、お主を斬ったな。確実に殺したと思ったが生きておる……どのような絡繰りだ?」

「単純に生きてきた中で食らった命を溜め込んでるだけですよ、当主代行。俺達が戦った時で100万前後有ったらしいので、それだけ殺せば死んでくれますよ」

 

 俺の言葉に当主代行は信じられないモノを見る目を不死の王に向ける、流石にコレは面倒臭いよな。

 

「ククク、ネタバレとは酷いじゃないかタタラ・ジュロン?」

「知られても殺し切れるような手札じゃないだろ」

 

 俺の言葉に対して、『不死の王』はチラと当主代行に視線を向けた後に改めて俺を見る。何故か『不死の王』の中で俺に向ける執着が強くなった気がした。

 

「いやいや、お前のようにコレを知って尚も折れぬ者を探しているのだ。試金石のような物だからな」

「普通は心折れるだろ、俺だって絶望してるぞ?」

「生きるのを諦めなかったお前が言うか、タタラ・ジュロン?」

 

 何を言うやら。

 

「大切な相手が居て諦める馬鹿が何処にいるよ」

「ならばその可能性は幾らだ?」

「万に億、兆に京……いや。例え那由多の彼方だろうと、存在するなら十分過ぎるだろ?」

 

 俺の言葉に『不死の王』の笑みはどんどん強くなる、何で悦んでるんだ此奴。

 

「人間は不可能と呼ばれる事象に手を伸ばして可能にする生き物なんだ、那由多に一の可能性だろうと掴むさ」

 

 真っ直ぐに『不死の王』を見てそう告げる。そんな俺を見た『不死の王』は、堪え切れないと大笑いだ。

 一通り笑った『不死の王』は俺を見て、何処か穏やかな表情で口を開く。

 

「素敵だ、やはり人間は美しい」

「ちげぇよ、人間が美しいんじゃ無くて今を生きる命が美しいんだ」

 

 俺の言葉に何処か満足気に頷く『不死の王』、手に持っていた紅茶を飲み切ってから立ち上がる。

 

「朝早くから邪魔をして悪かったな」

「本当にな、次からは先に触れを出せ」

「ククク……『吸血鬼』を客として招くか」

「言葉が通じるならな」

「そうか……ならば、また運命の交錯する時に会おう。さらばだ」

 

 俺の言葉に楽しそうな笑顔を向けてから蝙蝠に転じ、換気のために開けていた窓から出て行った。不法侵入についてはもはやツッコミは入れる気も起きないな。

 

「……タタラ殿」

「ああ、すみません当主代行」

「いや、一つ言いたいのだがよいか?」

 

 真剣な面差しで言われて思わず身構える、何を言いたいのだろうか?

 

「誑す相手は選びなさい」

「誑して無いが!?」

 

 女誑し扱いだけじゃ無くて男も対象扱いなのかよ、余りにも不名誉過ぎる。




おまけ

 夜闇の国『ナーハズヒト帝国』。かつて存在した王国を一人の夜闇の眷属が征服し、数多くの国を併呑して成り立った大陸でも一二を争う巨大国家である。
 口さがない者はその成り立ちから簒奪国家と呼ぶ者も居るが、幾多の魔神を討ち滅ぼす事に貢献し世界を救った国家でも有る。
 そんな国家における謁見の間にて、二つの国の代表が向かい合う。
 玉座に座すは現皇帝、プロテア・ナーハズヒト。
 対するは常闇に広がる千年王国の主、『不死の王』。
 威厳を秘めた表情の現皇帝に対し、『不死の王』は何処か余裕の見える笑みを浮かべていた。

「お初にお目にかかる、ナーハズヒト皇帝。我が名は既に遠き歴史に消えた故に名乗る事叶わぬ無礼を詫びる、『不死の王』や『真祖』等と呼ばれて居る故好きに呼んで頂きたい」

 礼を取る『不死の王』はそう名乗りを上げる。
 それを聞き届けた皇帝もまた、挨拶を返した。

「此方こそお初に御目見えする。我が名はプロテア・ナーハズヒト、以後宜しく頼む」

 王としての作法を幼少から叩き込まれた故に、その動作に淀み無い。その所作に内心感心する『不死の王』は発言の許可を目で求め、皇帝は頷く事で許可を出す。目配りを傍らの女従者にした『不死の王』に応え、その口が開かれる。

「我々が謁見を願ったのは、我が国と帝国との間で国交を開きたいからに成ります」

 国交、その言葉に皇帝に侍ている家臣達が思わず声を漏らす。
 かつての王国時代から記録だけは残されていた『吸血鬼』を中心に夜闇の眷属が集う国、闇の女神の祝福により常夜となったと伝えられる場所に広がる広大な国家。そんな伝説とも言える国と国交を開く、それはかなり大きな事象だった。

「失礼ながら、何故我が国と国交を開きたいと?」
「失礼を返そう、たった一人の人間への執着だ」

 家臣の一人が放った言葉を、従者より先に返したのは『不死の王』だ。慌てる従者をよそに、何処か恋焦がれるかの様な表情で『不死の王』は続ける。

「先日、偶然と事故が重なりこの国に所属する地方都市の迷宮へと紛れ込んでしまってな」

 その言葉は従者も知らない事情だった。先日いきなりこの国と国交を開くと、長年傍らに有った剣を失い禍々しい槍を片手にした主君が言い出して、即座に手紙を飛ばして相手に無理矢理謁見を調えさせた無茶苦茶具合の発端が相手国への不法入国とは。
 従者も『吸血鬼』ながらストレスで胃が痛くなる、尤も『吸血鬼』なので例え胃に穴が開こうと秒で塞がるのだが。

「その際に殺し合いをした人間が居てな。私を殺せるならばあぁ言った人間であるべき、そう運命を感じたが故に国交を開かせて貰いたい。出来れば、その人間との殺し合いの場を設けて欲しいのだが……そこ迄無理は言わん」
「初手から無茶を言うな」

 皇帝は自分の破天荒な父に向けるツッコミを思わず口に出す、因みにその前皇帝は息子のツッコミを聞いて影で腹を抱えている。

「我が国の臣民を犠牲に差し出せと言われ、簡単に通ると思うか?」
「まぁ、無理であろうな。名前を言えば確実に」

 皇帝の問いに対して、何処か楽しそうに答える『不死の王』に疑念が湧く。名前を言って拒否が確定する臣民、そのような者が居ると言えば居るが果たしてどのような人物か。

「敢えて問おう、その者の名は?」

 皇帝の質問に対して『不死の王』は笑う、まるで宝物のように大切な物を自慢するかの様子でその名前を告げた。

「タタラ・ジュロン。迷宮都市『ワールウィンド』に住まうクラフターだ」

 その言葉で、場の空気が変わる。動揺を顕にする家臣達に『不死の王』は若いなと内心で苦笑いする。
 かつて迷宮の中で吸ったタタラの血からナーハズヒト帝国の情報を一部取得した『不死の王』は、タタラ自身の記憶を第三者視点から見てその立ち位置を把握していた。
 間違いなく、当人が気付かぬだけで技術者として金の卵。帝国内でも相当に扱いが難しい部類であると、王としての視点も併せて理解していた。

「……タタラ・ジュロンから聞いたのですかな?」
「いいや、偶然に奴の血を飲む事が有ってな。記憶を見させて貰ったのだ」

 家臣からの質問に軽く返答する『不死の王』、情報を漏らした等と思われてタタラの立場が悪くなるのは『不死の王』としても面白くない為に真実を告げる。

「何故、彼に執着を?」
「奴が紛うこと無く人間だからだ」

 一人の言葉に答えた『不死の王』の中に、先日の殺し合いが浮かぶ。

「諦めが可能性を殺す、絶望が人を堕落させる。しかし奴は、タタラ・ジュロンは違った!」

 語られていく『不死の王』の語りを聞きながら、皇帝は内心で思う。ヤベェのに目を付けられたな、と。

「私を見て始めから絶望していた、敵う筈が無い戦力差だと!」

 開戦迄の舌戦のうちに先手を取るための策を巡らせていたのを血の記憶にて読み取った。

「だと言うのに諦めず足掻いていた、大切な者達を守る為に!」

 傍らに居る女達、その全てを大切に思い守る為前へ出ていた。

「果てには己の限界すら越えて魅せ、我が命をたった一つの槍で百度も奪った!」

 この世界の法則すら乗り越える自身の特性を自覚し、本来は有り得ざる事象を引き寄せて見せた。

「あれこそが人間だ、我ら化け物を倒すべく存在する正しき人間だ!」

 最後に背中から不意を打ち、死の手前まで行っていた。それでも尚、相打ち覚悟の攻撃を行なってきた。死を惜しみ、自らが盾になる程に心を動かされた。あの時、間違いなく『不死の王』は人間に敗北していた。魂の輝きに魅せられ、自らの生命を捧げたのだ。コレを敗北と言わずに何と言うのか。

「……狂っているのだな、お前は」
「くはっ、私の狂気を保証するか。ならば、貴様らの正気は誰が保証すると?」
「そんなもん、お前の大好きな人間だろ」

 皇帝の言葉に狂気に染まる笑みを浮かべる『不死の王』に対して、まるで言い捨てるかのような言葉を掛けた者が一人。
 気配を消して柱の裏に隠れていた前皇帝、建国帝カラン・ナーハズヒトが姿を見せる。

「……ほう、何故そう言い切れるか簒奪王よ」
「今の世を生きる者たちに狂気も正気も判断出来る訳が無い、後の世を生きて客観的に俺達を見た者がそれを判断する。死ねない化け物ではなく、代替わりして次代を繋ぐ人間達が判断するんだよ」

 前皇帝の言葉に『不死の王』は堪らず笑い出す。

「確かに、我等を直接知らぬ者達が我等の感情を度外視して挙動を評価してこそ我等は狂気と正気を判断される……コレは盲点だったな!」

 その反応を冷静に見詰める前皇帝は、外套の下で静かに愛剣の柄を握る。『不死の王』が纏う雰囲気が変わったのを察し、静かに相手が此方を敵と認定した事へ対処する為に。

「……しかし、ならば問おう簒奪王」
「何だ『不死の王』?」
「貴様の建国に至るまでの道は、正気であったか?」

 その言葉に、前皇帝は一瞬でその人生を振り返り口を開く。

「狂気に浸らねば侵略など考えんし、正気で無ければ国を治められん。何方でも有り、何方でも無い。人間なんてもんは、一側面だけで語れねぇよ」

 それは、彼が人生で学び取った答えの一つ。カラン・ナーハズヒトからして、タタラ・ジュロンの在り方の理解する側面だ。
 天秤が揺れ動くように、人の心も状況で揺れ動く。
 ならば、この揺れこそが感情で人なのだとカラン・ナーハズヒトは思っている。

「ああ、そうか……それがお前達(人間)俺達(化け物)の差か」

 その言葉に『不死の王』も理解を示す。コレが全てでは無いだろうが、人間達の王として立ち続けた者の意見として納得出来る物だった。

「礼を言おう、建国帝よ。永き時を生きて尚見いだせぬ人としての一端に触れられた」
「そうか、それは重畳」

 礼に答えると同時に身構える、『不死の王』の殺気が膨れ上がった。

「ならば俺は化け物らしく、我を通させて貰おう」
「本気で狂ってんのかお前は」

 目配せして、皇帝を下がらせる。家臣達は即座に動き、自らを盾にしながら皇帝を謁見の間から下がらせようとする。
 しかし、そこへ乱入者が現れる。

「先程から聞いておれば勝手気ままに言いおって、義息子に手を汚させるつもりは無いぞ」

 静かに、されど激情を秘めた声と共に拳が振るわれた。
 従者も咄嗟に反応出来ず、『不死の王』が殴り飛ばされた。一瞬、なにが起こったのかも理解できなかった一同は声の主を見る。
 ナーハズヒト帝国内では見ない、異国の服装をした居丈夫だ。特徴として、その額から二本の角が伸びている。
 陽出國からの使者である鬼、彼の國で四大貴族の一つとして封じられている『虎熊家』の当主代行虎熊信綱がその場にいた。

「無礼を承知で介入させて頂いた」
「……構わぬ、助かった」

 当主代行の言葉に、礼を返す前皇帝。報告書の中にこの虎熊信綱の娘とタタラ・ジュロンが深い関係に有ると記されていたのを思い出したのだ。
 彼も彼で国交を樹立させる為に来たのであろうに、それよりも身内の情を優先する。為政者としては落第だが、人としては合格点と前皇帝は評価する。息子である皇帝には後で口添えしようと内心で決めた。
 一方、殴り飛ばされた『不死の王』は笑いながら立ち上がる。
 当主代行の容姿を見て、ダンジョン内で殺し合った中に近い容貌の娘がいた事を思い出す。あの随一の戦闘力を持つ娘の父親と当たりを付けた上で楽しめそうだと心に浮かぶ。
 従者はそんな主の前に立ち、戦闘態勢を取る。此方が悪いとは言え、主を殴られたのだから行動を起こさねばならない。主に比べれば遥かに弱いとは言え従者なのだから、コレくらいはしなくてはならない。

「くく、下がれ」
「いや、でも」
「俺の愉しみを邪魔するな、下がれ」
「あ、はい」

 主に言われてそそくさと下がる従者、その姿に少し呆気に取られる前皇帝と当主代行。

「それでは、少し戯れに付き合って貰おうか」

 そう告げる『不死の王』の姿が変わる。国の正装であった姿から、タタラ達との戦闘をした時の姿へ。
 剣を抜いた前皇帝の横で、当主代行もインベントリから一本の剣を取り出す。静かに鞘へ手をかけて、言葉を紡ぐ。

「『眠りの鞘より解き放たれよ、遍く断つ刃。彼を断ち我を絶ち敵を裁て』」

 その言葉と共に、鞘に施された封印が解かれる。拘束が外れたのを確認し、愛刀である神刀『竜舌蘭』を抜き放つ。
 その造りを見た現皇帝は驚愕し、『不死の王』は狂喜する。

「それがタタラ・ジュロンの概念武装とやらか、是非とも相対したかったぞ!」
「それはよかった、二度と無いであろうから堪能してゆけ」

 前皇帝はタタラに聞くことが増えたと思いつつ、予想以上の助っ人に内心高揚する。
 新たな仲間と共に未知の敵へ相対する、かつて仲間と駆け抜けた騒乱の日々のようだ。

「さぁ、臆せずして掛かってこい。この俺を殺しきってみせろ!」

 その言葉を受けて、前皇帝と当主代行は駆け出した。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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