既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中。
アンケート実施中です、直感でお選び下さい。
何かを選択すると言うことは、選ばなかった何かを切り捨てると言うこと。
対『不死の王』用の武器を完成させた安堵から疲労が顔を覗かせる、朝から鍛治に探索そしてコレの作成と彼是やり過ぎたな。
思い切り身体を伸ばしてから作業台から離れる、エテルが部屋に来なければ今日はもう休んでしまおうか。都市長には明日の予定をサイファーに伝えなければなと考えつつ、商会長にも当主代行を連れて行く旨の手紙を書かないとと考えて工房から出る。
リビングのソファに座って都市長と商会長宛の手紙を書き、サイファーに渡す。高く一鳴きした後に窓から飛び立ち、二人の下へ向かっていった。そう言えば都市長は俺の家に虎熊夫妻が泊まりに来てる事を知っているのだろうか……外国からの使者の来訪を知らない筈が無いよな?
疲労からか頭が上手く動かない、中々こんな事が無かったので注意が散漫になる。
「……タタラ、大丈夫?」
そんな俺に心配そうに声を掛けてくるのはエテルだ。俺の顔を覗き込んできて、変わらず整った美貌を近付けて来ている。眉に八の字を描かせている自分が恨めしいが、同時に此処まで心配してくれる愛しい存在がいる事に誰に宛てたかも分からない感謝を贈る。
そっとエテルを抱き寄せて、胸元でその髪を撫でる。ゆっくり丁寧にその触り心地を堪能する。
「……擽ったいよ、タタラ」
何処か仕方ないなといった意思が感じ取れる声音で、俺を抱き返してくるエテル。ソファの上に仰向けになる姿勢を取り、俺の上に寝転がらせる。
「ふふ、昨日イッさんにしてた恰好だねコレ」
「そうだったかな、疲れて頭動かなくて思い出せないんだ」
「もう、タタラはちょっと無理し過ぎじゃない?」
俺の疲労具合を察したのか、エテルが責めるような口調でそう言ってくる。コレは俺も相当に心配掛けてしまっているな……とは言え、この疲労具合は滅多に無いレベルだ。
「何でこんな疲れてるか自分でも分からないんだよな、普段なら問題無いくらいだし」
「……今日作った何かが影響してたり?」
エテルにそう言われて、今日作成した物を思い返す。当主代行のアーレム『大紅蓮』は問題無いだろう、『吸血槍ワラキア』も大した影響は無い……『ブラッドオリハルコン』は確かに存在して無かったがアレの影響を特に感じ無い。
となると、やはり最初に鍛えた『空裂・白銀』が影響しているのだろう。お師様が鍛治を1日1回と定めた理由はおそらくこれか、世界法則から外れた力を持つ『空裂』を鍛える上で、身体に溜まる疲労が大き過ぎるのだ。確かにコレは1日一本しか鍛えられそうにないな。
そんな事を考えていると、エテルがそっとキスして来た。重なった唇から温かい何かが流れ込んでくるのと同時に、眠気に襲われる。
「いま、私の『性魔術』でタタラに力を分けたから。それと、睡眠誘導もさせてもらったからね」
その言葉に返事をしようとして、急速に睡眠へと身体が引き摺られる為に口がまともに動かない事を理解した。最後の気力でエテルの髪に触れている手を動かして一撫でしてから瞼が落ちた。
なんとなく、少し離れた所に四葩が見えた気がした。まさか箱推し鬼化してなかったか彼奴?
目が覚めたのは顔に日差しが当たったからだった。どうもリビングのソファで一晩眠りっぱなしだったらしい、それとエテルまで俺の上で寝たままだった。起こさないようにそっとエテルを抱き寄せて、頬を合わせる。少し呻く様な声がエテルから聞こえたが、すぐに穏やかな寝息に戻る。
滑らかなエテルの肌の感触が、何とも心地良い。エテルの良い匂いを堪能しつつ、弱い力で背を叩く。鼓動に合わせて拍を取り、ありと汎ゆる方法でエテルを感じる。完全に変態の思考だなと心の中で苦笑いをしつつも止める事が出来なかった。
少しするとエテルが動き、両腕を俺の背に回してくる。
「……タタラさ、起きたなら起こしなよ」
「悪い、エテルを堪能してたかった」
「発想が変態さんみたいだよ」
まぁ確かに、思考が大分変態っぽかったな。
そして、エテルが起きた故か俺の身体がエテルを求め始めた。固く勃ち上がった愚息が、エテルの太腿に擦れる。
「エテル、すまん」
「もう、タタラのえっち」
俺の発情を感じ取ったエテルが文句とも誂いともつかない声で囁く。
「自室なら躊躇いなく始めてたんだけどな」
「私は構わないよ?」
「俺が構うんだよ、行為の最中で当主代行が来たらどうすんだよ。つか、エテルの裸を他の男に見せたくねぇ」
将来息子が出来たのなら許せるとは思うが、流石にそれ以外は許せる気がしない。
「もう、しょうがないなぁ……」
呟いてからエテルは俺の背から手を離し、両腕を支えにして俺を見下ろしてくる姿勢を取った。慈愛とも情欲とも取れる潤んだ視線を向けてきて、口を開いた。
「お風呂、行こっか」
夫婦風呂に二人で入り、一度で済まず三度は体位を変えてセックスをした。二人暮らしの時代なら、このまま一日中爛れ続けて居たかも知れない。そんな風に思う程に互いに求め合った。
着替えてリビングに戻ると、四葩とお義母さんが並び庭先で舞の稽古をして居る。当主代行は和笛を吹き、舞の曲を奏でていた。いや、そんな特技有ったのかあの人。
驚きつつも台所へ視線を向ける、一華の姿はまだ無かった。
「一華はまだ起きてないのか」
「珍しいね」
そんなやり取りを交わしてから二人で台所へ並ぶ、当主代行とお義母さんは居るがエテルが作りやすい此方の食事を作らせて貰おう。パンを焼きつつ俺はベーコンをフライパンで焼く、エテルはスクランブルエッグを作る為に卵を溶いていっている。ベーコンは表面に焼き目が付く程度に抑えて、人数分の皿に焼いたら並べていく。コンロをエテルに譲りつつ、フライパンは洗う為にシンクに置く。テフロン加工などされていない故に水で冷やして表面をさっさと洗ってしまう、その手の加工が有っても俺の場合はクラフトで張り直せばいいだけだしな。エテルは玉子焼き専用のフライパンにバターを敷いて、溶けた中に卵液を流して手早くかき混ぜる。エテルのスクランブルエッグが焼ける前に皿にレタスや人参等の野菜を並べて、エテルはスクランブルが半熟に焼けたら小分けにしていく。丁度二人の作業が終わる頃、トーストが焼き上がったので此方も分ける。
「きゅうん、寝坊してしまったでござるよ」
丁度俺とエテルの支度が終わるタイミングで一華が入ってくる、申し訳無さそうな雰囲気に見える。が、多分今日のコレはわざとだ。俺を独占してしまったお詫びとして、エテルと二人で台所に立たせたのだろう。
気の使いすぎ、とは一概に言えない。俺ではなくエテルの方がストレスを溜めやすいだろうから、一華の気遣いに甘えるしか無い。距離が近付き過ぎてエテルの扱いが雑になっている可能性が高い、自分の大雑把な性格が嫌になる。
「スープはまだ手付かずだから、イッさんにお願いしていい?」
「分かったでござるよ、エテル様。コーンレム、一緒にやるでござるよ」
「たー!」
二人がそうやり取りをした後、俺はエテルに腕を引かれて台所から離れる。代わりに一華とコーンレムが台所に入り、早速調理を始める。そう言えば、エテルがオニオンスープを作ってなかったな……この為だったか。
エテルと俺は朝まで一緒に寝ていたソファに並んで座り、四葩達の朝稽古を眺める。
四葩とお義母さんの動きは、長年の鍛錬の差でやはり明確に違いが見える。お義母さんの動きは洗練されていて、一切の淀みが無い。対して、四葩の動きは少しのぎこちなさが見て取れる。何となく、指先にまで意識が集中出来ていない感じとも言える何かだ。
ただ、四葩の動きは感情がよく乗っている。剣を振るうのもそうなのだろう、舞を踊る事も本当に好きなのだと伝わってくる。
「タタラ、本当にトラッちゃんの踊り好きだよね」
俺が虎熊家の舞を眺めていると、エテルからそう声を掛けられる。
「……やっぱり、分かるか?」
「前にトラっちゃんのお母さんに言った通りだっていうのは分かるかな、何処が好きってのはちょっと分からないけどね」
俺の視線の熱からどうも四葩の舞を好んでいるのを理解されたらしい、恥ずかしいのでエテルだから出来た事であって欲しいところだ。
「それで、何処が好きなの?」
少し口元がニヤついているエテルの質問に、どう答えるべきか迷う。何処、と明確に言えない。
「あくまで好みってのは感性の部分だからな、何処がと言われても困るぞ?」
「むぅ、それを何時も言語化して相手を口説くのがタタラじゃん!」
「待って、何の事!?」
偉い風評被害ってか勘違いをされてないか俺、口説いた記憶は無いぞ?
「エテル様、ご主人は無意識で褒めるので自分から言語化しようとしても上手く出来ないでござるよ」
そんな事を言いながらやって来た一華は、慣れた動きで俺の膝を枕にしてくる。余りにも自然な動作で普通に違和感無かった、何ならエテルと一緒に頭撫でてるし。
「むう、イッさんはそう思ってるんだ?」
「そうやって飾らず口にするから心が蕩かされたでござるよ」
エテルの不満気な声に対して、嬉しそうに俺の膝に頬擦りをしながらそう答える一華。なんと言うか、こそばゆい。
「エテル様も経験が有るのがではござらんか?」
「……私、タタラからは褒め言葉殆ど貰ったこと無いし」
「その分愛の言葉を貰ってるでござろう、拙者はそっちの方が羨ましいでござる」
なんだか互いが無い物ねだりしてる感じに見える、確かにエテルに対して褒め言葉って全然言ったことが無いが……前にもこんな話題やった気がするな?
「相手を褒めるってそんな頻繁にしないんだが、そんなやってる印象持たれてるのか俺は」
「タタラは事実を言ってるだけのつもりなんだろうね」
「それか褒め言葉になると思ってないのが色々とご主人って感じでござるな」
俺の扱いっていったい何なんだろう?
そんなやり取りをしていたら、舞の稽古を終えた虎熊一家がリビングに上がってきた。寄り添う俺とエテルを見た四葩が鼻息荒くなる姿を見て相変わらずの箱推しかと思うが、俺の膝上で甘える一華を見た当主代行の驚愕っぷりがヤバい。
「おはようございます」
「おはようございますタタラさん、凄い状況ですね?」
一先ず挨拶をすれば、お義母さんが返してくれた。
「だいたい朝はこんな感じになりますね、今日は一華が起きてて珍しいですが」
「むぅ、ご主人は拙者に寝てて欲しいでござるか?」
「毎朝起きて朝食作ってくれるんだからそうやって休んでくれると安心するな」
「気遣いなら仕方ないでござる」
俺の言葉にむくれる一華だが、本心を伝えると納得して力が抜ける。そのまま頭を撫でる手を受け入れるので、下手したらこのまま寝そうだな。
「……まるで飼い主を得た柴犬だな」
「拙者は犬では無く狐でござるよ。ご主人の従順な雌犬になるなら構わぬでござるが」
「一華、俺はお前に尊厳を捨てて欲しい訳じゃ無いって想いは伝えたと思うんだが?」
当主代行の言葉に対して一華がとんでも無い言葉を放つ。口を大きく開く当主代行を無視して一華に注意すれば、聞こえないと言わんばかりに俺の腹に頭を押し付けてグリグリと動かしてくる。擽ったいな。
「まぁ、イッさんもお嫁さんなんだけど……ペットみたいにもなっちゃってるよね」
「……否定出来ないでござる」
エテルの苦笑いしながらこぼした言葉に、何処か拗ねた様な声音で一華は呟くのだった。
朝食を済ませたタイミングで、当主代行に話しかける。
「すみません当主代行、今日は少し付き合って欲しいんですが」
「む、儂にかね?」
俺の言葉に疑問を抱く当主代行だが、今日の俺は商会長と都合を合わせて1日拘束される。内容はおそらくアーレム関連だと思うし、何ならそれを抜きにしてあの『大紅蓮』のお値段を付けて欲しいのだ。
その旨を伝えると、当主代行の目が強い光を放ち始める。うん、ずっと欲しかった玩具を買ってもらった子供の目だコレ。
「タタラさん、それは私も同伴して宜しいですか?」
「えっと、多分当日の催しに巻き込まれますけど大丈夫ですか?」
「この際、夫と合わせて国交樹立を喧伝するのもいいかと思いまして」
ふむ、一理ある。それなら、少し別の協力も頼もうか。
「アーレムの紹介と同時に、陽出産の名産品を宣伝出来るかやってみましょうか。当主代行の『大紅蓮』が振るう刀や、陽出鎧の意匠に興味を持って貰ったなら資料を配るみたいな」
「そうですね、そう言った事なら私も協力出来ます」
実際の交渉は虎熊夫妻と商会長でやって貰う必要は有るが、多分これは大きな市場の開拓になる。商会長なら無碍にはしないと思う。
エテル達は何時ものごとく探索に向かって行くので、エテルにはインベントリ内で小たたら達が作り続けていた特殊弾頭2869発を持たせた。流石に小たたら達も作り過ぎである、インベントリ内に有った中サイズ以下の魔石が全滅してたぞ。
そうして俺は虎熊夫妻を伴って一度商会へ向かう。流石に陽出國の衣装である着物は目立ち、衆目を集めてしまった。
「すみません、二人とも此処では珍しい服装で注目を集めさせてしまって」
「む、儂は特に気にしておらん。元々領内を歩けば大なり小なり注目を集める故な」
「私もですわ。それに、異国情緒を眺めて歩くのも楽しいですしね」
見世物みたいになってしまった事を謝れば、本気で気にして無さそうな声で返す当主代行と気遣いが含まれたお義母さんの言葉が有った。言外に子供が気を使うなと言われた気がして、とても勝てないなと感じる。
そうして商会に辿り着き、受付業務をしていた商会長の秘書さんへ挨拶をする。
「おはようございます、本日は商会長と予定が有るんですが」
「あ、タタラ・ジュロン次期工匠長。お待ちしておりましたが、後ろの御二人は?」
俺をしっかりと認識してくれていて助かったが、予定にない虎熊夫妻に対して疑念を抱かせてしまった。
「少し、今後の市場に関してお話出来そうな御二人を連れて来ました。多分、損にはならないと思います」
「成る程……分かりました、商会長には来たらお通しするよう言われていますのでそのまま執務室へお進み下さい」
「すみません、ありがとうございます」
謝罪と感謝を伝えれば、営業スマイルで返された。
そのまま言われた通りに執務室へ向かい、扉を叩く。
『はい、開いてんね』
「失礼します」
返事に対して一言添えて、扉を開ける。すると執務机に着いていた普段と違い作業着姿の商会長が出迎えてくれた。
「おはようさんね、タタラはん。今日は宜しくね!」
「おはようございます、商会長。はい、今日は1日宜しくお願いします」
嬉しそうに挨拶してくれる商会長に、俺も心からの笑顔で返す。商会長が挨拶をしてくれると何か元気になれるんだよな。
「ところで、うしろん御二人はんは?」
「あ、すみません。此方は陽出國から国交を開く為に来ました虎熊領の領主夫妻です」
商会長の疑問に答えると、商会長の目が驚きで僅かに開く。流石に遠い異国からの客人を紹介するのは驚かれたか。
「お初にお目に掛かる。陽出國は帝都守護の一方面の領主代行を務めておる虎熊信綱と申す、以後お見知り置きを」
「同じく、妻の虎熊華澄でございます。以後よしなに」
礼として頭を下げる二人に、商会長が慌てる。
「あ、頭を上げんてね!?」
そうか、俺は前世で慣れてるけれど商会長は頭を下げられるのに慣れてないし陽出國の礼が分からないから混乱するよな。
「商会長、一応此方と違って頭を下げるのが陽出國の挨拶なので慌てなくて大丈夫ですよ?」
「タタラはんは慣れてん知らんけど、ボクん慣れてなんね!?」
意外にこう言うのが苦手らしい、慌ててる商会長を宥めていると当主代行とお義母さんが頭を上げる。
「ふむ、此方の礼に不慣れな故に慌てさせてしまったようだ。済まない」
「あ、あー……ボクん小市民から気にせんね欲しいん。改めてこの都市ん商会の長勤めてん、宜しんね」
何とか落ち着いた商会長が改めて挨拶をする、自国の挨拶として握手を求めれば当主代行もそっとその手を取る。鬼だから、下手に力を入れると握り潰しそうだしな。
「ほいで、タタラはん。なんしてこん御二人連れてきてん?」
「アーレムについてと、市場についてですね」
「へぇ」
商会長の雰囲気が鋭くなる、場に緊張感が広まった。
「先ずは、先日作ったアーレムに値段を付けて欲しくて」
「うん、普通ならタタラはんのブランド無いんねそのまま素材の値段付けんよかね」
「それがちょっと訳ありでして……当主代行、お願いします」
「うむ」
俺の頼みに対して一つ頷いた当主代行が、商会長の執務机の上にアーレム『大紅蓮』を置く。商会長は此方では見ない意匠の甲冑に大きく目を見開いた。
「陽出國の名物甲冑『大紅蓮』を元にしたアーレムです」
「大紅蓮……」
俺の言葉に小さくこぼす商会長、その造形を悉に確認し一つ頷いた。
「うん、此方ん無い意匠のアーレムんデザインな。コレは少しお値段高くなるんね」
「そうですか、どれくらいになります?」
「魔鉄ん使ってんから35万が本体ん製作技術料、此方ん無い意匠も合わせん……100万ね」
「うそだろ」
軽く3倍近い値段になってんのは何なんだ。それと当主代行、わが意を得たと言わんばかりに取り出した百万を押し付けないで下さい。その『ほれ、儂の言った通りだろ』って感じのドヤ顔がウザすぎます。
暫く攻防が続いたが、遂に俺は諦めて百万を受け取る。
「そんで、こん陽出國んアーレムでなにすんつもりなんね?」
商会長の確認の言葉、放った商会長の圧が強まっている。
「アーレムのお披露目イベントで盛り上げ役となって貰おうと」
「へぇ、ボクらだと足りんて?」
商会長は法務長と成金さんを合わせた3人では足りないと言われた事に不満を持ったらしい、まぁマネジメントと言うか宣伝の手腕を疑われたらいい気はしないよな。
けれど、俺もコレを世に送り出すなら最大限の注目と熱狂を人々に与えたい。
「足りない事は無いかも知れません。けれど、俺もアーレムには流行って欲しい」
「それはなんね?」
「大人も子供も一緒になって遊べる、そんな娯楽を提供したいからです」
この世界には娯楽が少ない。直近では多数の大道芸人達が都市祭で訪れるが、そもそもこの都市内には劇場等の娯楽を主とした施設が無い。俺は図書館と呼んでいるが本来は資料館だし、学生等の確かな身分が無いと入館が出来ない。
日々仕事に追われ疲れ切ってしまう人達に、少しでも潤いになる何かを与えたい。比較的豊かな生活をしている俺がそれを提供するのは傲慢かも知れないが、それでも何かの楽しみを見出して欲しい。語り合う事が学校や仕事以外に、アーレムの試合の感想が増えても許されないだろうか?
「親子のコミュニケーションツールとしてアーレムが流行っていけるように、子供と大人の心を強く掴む……そんな印象が欲しい」
「そなら、陽出國ん鎧なんはなんね?」
「この『ワールドウィンド』に馴染みが無いからです」
俺の言葉に、商会長の片眉がぴくりと反応する。興味を引けたか?
「正直言うと、俺が最初に作った『フォートレス』『ロウフル』『玄武』のデザインは『ワールウィンド』内では有り触れています」
「先ずその認識捨てよか?」
「そんな3体がお披露目されている中で突然乱入する異形の甲冑!」
「続けんね、と言うか聞こえてないねんね?」
「3体が力を合わせるも、敵は強く大暴れ!」
「なんね、ワクワクしてきた」
「大立ち回りを魅せつけた『大紅蓮』、そしてそんな強い國と国交樹立が成されたのだと堂々と喧伝します!」
「強大な敵ん仲間んなんね……熱いんね」
「そして、そんな異国の小さな物産か展示をアリーナの特設コーナーで展開!」
「成る程、商機!」
「そのためにこの御二人をお連れしました」
「分かったんね、了承」
『軽いな!?』
商会長、結構ノリノリで茶番に乗ってくれたな。了承の返事に対して虎熊夫妻が思わずツッコんでる。
「アーレムん使った人形劇、タタラはんはアーレムん競技以外に使うのんみせたんね」
「それくらいしないと心を掴めないかなって」
使用方法が動かして戦うだけ、となれば実はそこ迄注目を集められないと考えている。アーレムは例えば爆発物の処理等にも使えるポテンシャルは有る、より出力を上げたモデルを用意すれば炭鉱夫の代わりにもなれる。職を奪いかねないというなら、炭鉱夫達にアーレムを配ればいいだけだしな。そうなるとよりアーレムの操作が巧い人間に高額な給料が支払われる形になりそうだが。
「ま、細かい所んボクらで話すんね。タタラはんはちょい付いてきて作って欲しいもんあんね」
「やっぱり、アリーナ……アーレムのバトルフィールドですね?」
「御明察、少し曰く付きん場所なんね。買い手付かんて屋敷取壊って新しい施設作るん話出たん、そこでボク達商会で土地ん買い取って競技場作ろてね」
曰く付きの土地多くないかな、此処ってそんなに呪われてる土地だったか……いや厄ネタの数は中々だったわこの都市。サイドクエストの八割は厄ネタだったわ。
「あ、建物の設計とかって……」
「事前に出来とんよ」
「ちょっと見せてもらますか?」
「ええんね、ほい」
間取図をインベントリから取り出した商会長から早速受け取り、広げる。部屋の位置やら配線関係を確認し、俺なりに修正案を出しつつ銅10kgと小型の魔石10個を追加で用意して貰う。大型のモニター4枚は俺から素材を出そう、少し商会では用意出来ない素材を使うつもりだし。
「あの、ちょっとわがままを何点かいいですか?」
「あんまり難しいんは無しなんね、それで?」
「強化銅10kgを追加で使用して内部の魔力導線を強化したいのと、売店を増やして欲しくて」
俺の言葉に口元へ手を当てて悩む商会長、そんなに難しいのかな?
「ちょう予算厳しかんね」
商会の言葉は結構切実な物だ。そこで俺は強化銅を10kg用意するように言ってる事に気付いた、確かに銅の8倍の値段がする強化銅10kgは予算的に厳しいだろう。しかし、俺はタタラ・ジュロンである。事コレに対しては即座に対処出来る。
「銅と魔石が有ればその場で強化銅にしますので、そこ迄予算を掛けさせませんよ」
「……タタラはん、ずっこいの出来んね」
「個人商店とはいえ一店舗の主ですからね」
俺の言葉に苦笑いする商会長、そのまま質問を続けてくる。
「そいで、も一つは?」
「アーレム関連のパーツを扱う売店を増やして欲しいんですよ、お披露目が終わった後から開店して買う人の傾向を知りたいですし」
「成る程ね、商会とアリーナ内の売店でアーレム関連商品売るんは良か考えなんね」
商会長も納得と言った具合に頷く。いや、多分始めから考えては居たのだろう。俺の意見って形で何かしらの実績を作らせたかったんじゃないかな?
そんな会話をした後に、俺達は商会長の案内で目的の場所へ向かった。商会からはそこそこ離れていて、場所は貴族区とあだ名されている区画に建つ屋敷の前だ。豪奢なのだが、手入れをされていないのか門は錆が浮いていて屋敷には所々蔦が這っている。
「何年か前ね、此処ん貴族が爵位ん取り上げられたんね」
商会長の話に耳を傾ける、何年か前に爵位を取り上げられた貴族に何か引っ掛かる。少し見回せば重なる剣と天秤の聖印が見付かった。アレは軍神様の聖印であるが、そこには大きく斬りつけた様な✕字の傷が有った。破門とされた証であり、一家全員が軍神様の宗派から永久追放された証でもある。その隣にはグリフォンと交差する槍の紋章、コレは恐らく家紋だろうな。
「その際ん財産の没収が都市長サマから言渡されん、しかん聖人サマまで動いて抵抗した私兵含めて全滅なん」
いや、カラムスさん相手に軍神の教徒が反抗するって馬鹿だろう。あの人、少なくとも教皇に継ぐ地位な上に一人で異端審問とか判定とか出来るのに。主神により保証がされてるから、逆らったら根切りにされても文句言えないぞ。ただでさえ教会でも桁違いに強い人なんだし。
「そうして残されたんは土地と、この屋敷なんね」
「確かにそりゃ買い手が付かないわ」
貴族が馬鹿やったとせいだとは言え、教会から敵として認定を受けた奴の家とか土地なんて普通に誰も買いたくないだろうな。
ただ、この広い土地を遊ばせてるのは勿体ないのは確かだ。
「そんでね、此処ん新しくアーレムの競技場作って軍神様ん人々の活気と戦いを奉納すんね。そすれば、ちょう軍神様ん許してん思ったんね」
「そうですね、子供達も揃って遊べばきっと喜ぶと思いますよ」
そもそもが子供好きな神性だ、子供がアーレムで楽しくバトルをしていたら大喜びだろうな。
「そんでねタタラはん、今日一日貰ってんは此処ん工事なんね」
「分かりました、更地にして地盤強化して立派な競技場を建てますね」
「やれない訳では無いのだな、タタラ殿……」
商会長の依頼に了承を伝えると、今まで黙っていた当主代行がそうツッコミを入れてきた。いや、俺一人なら難しいけど俺には頼りになるゴーレム達が居るのだ。早速インベントリから全てのゴーレム達を出す。
「行くぞゴーレム達、忌まわしき記憶と共に」
『たー!』
「……忌まわしき記憶とは?」
すみません、赤い人の台詞を言ってみたかっただけです。
とは言え、俺も率先して働いたが先ずは屋敷の解体作業に入る。商会長から家財は全て運び出されているのでド派手に壊して大丈夫と言われたので、ゴーレム達と共に囲み『クラフト』スキルを同期させて屋敷を分解する。素材別に分けられた瓦礫を一度インベントリにしまいつつ、先ずは地盤を改良する。
80体の小たたらで地面に空間を作り、残りのゴーレムと俺で砕いた魔石を混ぜたコンクリートを大量に作る。地下も作るのでかなり深く掘られた地面をならす。地盤が弱い所には等間隔で穴を掘りコンクリートを流して固まらせる。『鑑定』を掛けながら地盤の強度を確認して、耐久が震度7の地震に対しても液状化現象を招かず割れない事を確認出来てから次の作業へ。
水道工事はそこ迄難しくは無く、排水関係を作れば終わる。水は水精霊の核石を商会が降ろしてくれるので、水道工事は直ぐに終わる。
基礎工事に移りコンクリートを流す。俺とゴーレム達の『クラフト』で形を整えながら乾かす中、一部の小たたら達は魔力がなくなりかけた為に中たたらの側へ行き手を繋いでいる。魔力補充を考えると結構時間掛かるなコレ。俺も装備を『錬金術師の卵』に変えて、魔力を補充しながら作業を続ける。規模の広さから1時間ほど掛かったが、何とか基礎が出来上がる。
「……流石に時間掛かりましたね」
「いや、十分に早いからな?」
俺のボヤきに当主代行がツッコミを入れてくる。とは言え、ゴーレム達に協力してもらった上で1時間は掛かりすぎだと感じるんだが。
「タタラはん、コレもしや本当ん1日で終わん?」
「俺はそのつもりですけど……え、複数日掛けるつもりでした?」
話し掛けて来た商会長に対して意思疎通がズレていた疑惑が出て来た、いやちょっとどうなんだこれ?
前世でもこの手の施設は数ヶ月とか数年とか施工時間が必要だったけど、スキルやインベントリなんていう便利な物が存在してるのだし1日で作れると思うんだが。
「タタラはん、普通ん100人クラフターいてん1日で終わなんね」
「それは確かにそうですけど……」
「けど、なんね?」
「俺とゴーレムですよ、施工してるの」
『説得力』
商会長だけでなく、当主代行とお義母さんまで声を重ねて来た。因みにこの会話の最中もゴーレム達が作業してくれているので着々とアリーナは出来上がっている。
途中要望を聞きつつ、建築は進んでいく。ゴーレム達の魔力充填の為の休憩を挟みながら、大きく作業が滞る事無くアリーナは完成に向かっている。
改めて施設の広さを確認するなら1500人程の収容が出来る程の大きさだろう、1万人規模の物でも作らされるかと思っていたが流石にそんな規模のアリーナが『ワールドウィンド』の土地内で作れるはずも無い。
皇族の目に止まって本国帝都の方で作る場合は3万人規模の特大アリーナが作られそうではあるけど。
作業が進み、外観が完成する。施工時間は5時間程でコレと考えるとかなり時間をロスしてるだろう。やっぱり100体はゴーレムを作らないと大規模な建築は難しいかも知れない。
「僅か5時間でこれだけの規模の建築物が作れるのは異常だと思いますよ、タタラさん?」
「……もしかして心読みました今?」
お義母さんからそう言われて思わず反応する、外観が出来ただけなのでそれを遅いと思っていたらこんな事を言われてしまう。
いや、コンクリートが速乾なので前世の工事より遥かに早いのだ。それに意思統一した100人の作業員が効率良く動いているのだからコレでも遅いと思うのだが。
続いて内装に着手する。目玉のバトルフィールドは4m²で操作する選手のスペースを含めて半径6mの円形のスペースを確保。そこから壁を作り階段状に高くなるように観覧席を作っていく。
椅子は後々商会から運び入れるとの事で、そこは任せる事にした。照明を吊るし、バトルフィールドの上にモニターも吊るす。カメラ機能の魔道具から『念話』を飛ばし『感応』で受け取ったモニターで表示する。人間大なら兎も角、アーレムサイズはこれくらいしないと細かな動きを追えないだろう。何なら、席を取れなかった人の為に別の場所でモニターを立ち見出来たり観象出来るスペースを用意するのもありかな。後で商会長と相談しよう。
選手入場用の出入り口を作り、その先には控室。アーレムの最終確認が出来るように作業台の用意をした、ミーティングが出来るように6畳程の大きさなので作業台くらいはスペースを圧迫しなかった。
スタッフルームを作り、更にトイレ等も作る。男性用の小便器はこの世界にも有るが、大便器の方は俺がウォシュレットを設置したら初見の商会長から疑問に持たれた。そう言えばコレ、都市長は特許申請したんだろうか?
取り合えず操作法や効果を教えると、商会長は取り合えず数台商会で試すと言ってくれた。正式にこのアリーナを開くのは2週間程先の都市祭なので、それまでにウォシュレットを身近で試してから採用するかを考えるのだとか。都市長とも商会で扱うかの相談も有るらしい。
門と柵は何体かのゴーレム達が取り壊して作り直していた。素材が魔鉄に置き換えて、高さは5m程になっている。不法侵入を許すつもりは無いって強い意志を感じるな。学生運動の時、避難所としても活用出来るかも知れない。
そんなこんなで作業時間は10時間程、日が暮れ始めたタイミングで作業がだいたい終わった。
「……本当に1日で終わったな」
目前のアリーナを前に当主代行がそう呟く、呆れとも恐れとも付かない声だった。
「まだ細かい所は残ってますけど、後々確認すれば大丈夫だと思いますよ」
「うん、それは分かんね。でもタタラはん、途中途中で仕様変更持ち掛けんはどうね?」
「それでも商会長は認可してくれたじゃないですか」
「食堂や軽食の売店を設置するなんてお金になる話をしたらそうなりますよ、タタラさん」
作業の途中で前世でも有ったアリーナのあるあるを持ち掛けて了承を貰ったりしたのだ。商会長は元々アーレムの試合だけしか想定しておらず、売店も雑貨の扱いを前提としていたらしい。なのでポップコーン等の軽食とドリンクを買える売店と、カフェとレストランを経営出来るスペースを作らせて貰ったのだ。
キッチンを数カ所作り、下水道に少し手を入れる事になったが、相応に利便性は増したと思う。カフェはオープンカフェとしても出来るように、貴族邸時代の庭園を流用している。コレ、庭師を雇うかこの施設を管理するゴーレムを作らないと拙そうだな。後で商会長に相談しよう、管理費として月に少しお金を貰えば商会長と都市長も納得してくれるだろう。
「後は、陽出國の展示スペースですね」
「そちらはコレより商会長殿と我々で話を詰めよう」
「タタラさんはそろそろ帰宅して、四葩達に顔を見せてあげて下さい」
陽出國関連について話をしようとすれば、虎熊夫妻にやんわりと帰るように言われる。商会長に目を向ければ、頷いて虎熊夫妻に同意していた。
「タタラはん、ボクもちょう虎熊ん人達と相談あんね。今日はもう大丈夫よ」
やんわりと、此処からの商談は俺を外すと言われている。まぁ、仕方ないか。
「あ、ゴタゴタして忘れてました。お義母さん、算盤って教えられる人に心当たりあります?」
「そろばんなら私と四葩も教えられますよ。それと一華も出来るでしょう、あの子は色々出来ますから」
そう言われて納得する。四葩はお嬢様だし様々な教育を受けているだろう、家事は教えられていないが教養は相応に高い。一華は潜入等の都合でその手の技能を教えられたのだろう、絡まれるのが嫌で適当に済ませておいてしっかりと習得しているのが思い浮かぶ。
商会長は俺の質問の意図を察したのだろう、笑いかけて来た。商会長なら算盤教室を開く交渉くらいは出来そうだ。
「取り敢えず、商会長の1日拘束が必要な依頼はコレで完了ですかね?」
「うん、後は商会で細かく調整すんね。ありがとねタタラはん」
「いえ、アーレムは俺の開発物ですからこれくらいは当然ですよ。何か施設に有ったら言って下さい、時間を作って見に来ますので」
「うん、頼りんしとんよ」
前と同じように俺の手を握って大きく振る商会長、後のことは任せて俺はその場を立ち去る。
後でサイファーに二人の案内を頼まなくちゃな、迷子になりそうだし。
『タタラアーレムアリーナ』
最大収容観戦者1500人。
入場料:大人1000 子供500
売店4箇所
カフェ『オタクガタリ』 店内席30人 店外席40人
レストラン『ムセル』 客席50人分
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない