※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
「看板娘」イベント継続中。


アンケート実施中です、思うままに選んで下さい。
思うままに、俺は飛ぶ!


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 アリーナの建築現場から離れ、一人帰路に着く。陽は既に落ちて窓から溢れる光が僅かに夜道を照らす中、聞こえてくる微かな家族の会話や笑い声が心を浮き立たせる。

 自然と軽くなる足取りで道を歩く、顔を覗かせた月は青く心穏やかな気分で自然と鼻歌を歌っていた。

 

「そこの青年、少し良いか?」

 

 そんなタイミングで声を掛けられた。周囲に人影はないので恐らく自分だろうと当たりを付けて、足を止めて振り向く。

 

「ふむ、一発で気付くとは中々に見所の有る若者だ」

 

 そこに立つのは二人連れの女性で、声を掛けて来たのはその内の片方の褐色の肌に長いプラチナブロンドの髪を持つ女性だった。女性にしてはやや長身、女性用のグレーのスーツを着てコートを肩にかけている。眼鏡を掛けている為に瞳の色は伺えないが、俺を見る目は鋭そうな印象を受ける。恐らく、声に威厳と言うかカリスマ性を感じるからだろうか?

 そんな女性の後ろで少し背の低い女性がアワアワと慌てたようにしているのは赤い軍服のような服を着た肌の白い癖っ毛な金髪の女性だ。俺と女性を交互に見て焦っているような雰囲気を出しているが、その動きに隙は伺えない。恐らく護衛なのだと思うが、その護衛対象が女傑過ぎて制御出来ていない感じに見える。

 

「えと、自分で良いん……ですよね?」

「貴様以外にこの場に人は居ないだろう」

 

 貴様って中々に聞かない呼び方だな。とはいえ、雰囲気から何処かの貴族様だろう。この辺では見ない雰囲気の人だし、道案内かな。

 

「そう、ですね。失礼しました……道案内で宜しいですか?」

「ほう、何故そう思った?」

「夜道で女性二人連れが男に声を掛けるのは安全性が低いですから、危険性を無視してでもそうしなければならない理由って考えると外部の方が道案内を頼むくらいだと思いまして」

 

 質問に対する俺の答えに、褐色肌の女性は口元をニヤリといった形に吊り上げる。

 

「ほう、中々の推理力だ。それでは案内を頼めるか?」

「構いませんけど……男に宿泊先を知られるリスクは考えた方がいいですよ」

 

 俺の言葉に我慢出来ないと言った様子で含み笑いをこぼす褐色肌の女性……もう女傑さんでいいか、何か凄く圧が強いし。

 

「生憎と、そんな風に気を付けろと警告するお人好しを疑う程に擦れては居ないのでな。それに、何か有れば後ろの此奴が貴様を鎮圧する」

「ど、どうも」

 

 女傑さんの言葉に頭を搔きながらお辞儀をしてくる護衛さん、謙虚な反応だが俺の動きを悉に観察している。隙がないな、優秀な人なんだろう。

 

「……それなら大丈夫そうですね、案内しますが宿の名前は何でしょう?」

「うむ、コレなのだが」

 

 そう言って差し出されるのは一通の書状だ、随分と達筆かつ古い言語で書かれている。つか、趣味で考古学やってるか『考古学』スキルが無いと読めないぞコレ。

 

「……古代文、今でも使う人って居るんですね」

「それを読める若者も珍しそうだがな」

 

 思わずこぼしてしまった本音に対して、誂いを含んだ声で返される。うん、この人に勝てそうに無いな。

 

「場所は分かりました。此処からだと少し離れているので歩く事はご了承願います」

「ふん、自国では無い故に馬車を期待出来んのは承知の上だ。多少は齢を食ったが足腰はまだまだ若者には負けん」

 

 その言葉に疑問を持つ、見た目はそこ迄歳を重ねて居るようには見えないのだが。いや、詮索は止めておこう。

 

 女性二人を伴って商業区近くに有る高級宿へ向かう、俺が歩いていた貴族区からは離れている場所だ。貴族区から近い入管から入ったのだろう、あの辺りはこの時間だと人が滅多に歩かないし下手したら都市内で遭難してた可能性も有ったかも知れない。

 

「……無言で歩くのも退屈だな」

「え、いやその……」

 

 唐突に退屈を口に出した女傑さんと、その言葉に戸惑う護衛さん……普段から振り回されてるのが何となく察せた。

 護衛さんは周囲に意識を向けて襲撃に備えていると感じたが、女傑さんにはその事が伝わって居るのかいないのか……襲撃されても返り討ちにする気なのかも知れない。なんか雰囲気からして強そうだし。

 

「お前に今更面白い話など期待してない」

 

 バッサリですね、コレはコレで可哀想だ。護衛さんも肩を落としてるし……不憫だな。

 

「案内を頼んだ身で悪いが、この都市に付いて貴様の所感を聞きたい」

「え、俺が話すの?」

「すみません、すみません」

 

 唐突に話を振られて戸惑う俺に、護衛さんが頭を下げて謝ってくる。何となく、『不死の王』の元ネタだろう漫画キャラの婦警を思い出すなこの人。苦労性だし。

 

「はぁ……所感と言われても、生まれてこの方この都市の事しか知りませんので」

「それでいい、この都市に住む人間の生の声が聞きたい」

 

 さて、何を話した物か。この都市に住む上で寄り添わなければならないダンジョンの事。探索者とそれを支えるクラフター達の事。ダンジョンを監視する砦を転用して開かれた学園の事。もうすぐ始まる都市祭の事。思い付く限りの話題を次々に挙げて、それらに対する疑問に答えていく。

 護衛さんも気になる事が有れば質問をしてきて、俺の返答に驚いたり笑ったりしている。

 

「ふむ、では貴様の個人的な意見を一つ聞かせてくれ」

 

 一通り話した後、女傑さんからそんな声が掛かる。嘘は許さないと言わんばかりに圧がのしかかるが、何と言うか何処か怯えているかのような雰囲気を感じる。

 

「貴様は『吸血鬼』……いや、広義の意味で言うなら夜闇の眷属をどう思う?」

「特徴の違う人種ですね」

「え、早っ」

 

 女傑さんの質問に対して難しく考える前に、ほぼ反射でそう答えれば護衛さんが驚いた声を上げる。どうやら俺の回答の内容と速度が想定外だったらしく、女傑さんも驚いた雰囲気だ。

 

「……貴様に夜闇の眷属へ向ける偏見は無いのか?」

「そりゃ、自覚の有無は置いておいて多少は有ると思いますけどね。そもそもこの都市が所属する国家が夜闇の眷属に統治されていますし今更というか」

 

 それでなくても俺のパートナーは夜闇の眷属である夢魔のエテルだ、人より優れた能力も有るが劣る面も有る。それら全てを引っ括めて個性として受け止めている、まぁエテルや他のパーティメンバー限定かも知れないが。

 

「……この国が長らく鎖国していた常夜の国と国交を樹立させた事に何か意見は?」

「……『不死の王』のフットワークの軽さは何とかして、としか。お偉方としては国交樹立に何かしらの利益を見た上での判断でしょうし、一庶民としては開戦して甚大な被害が出るくらいなら友好国として交流したいですよ」

 

 あの『不死の王』が治めた国が、果たしてどのような文化や文明を持っているかは分からない。それでも新しい刺激は国に何かしらの影響を齎す。良し悪しはその時にならないと分からないが、駄目なら乗り越えていけばいい。

 

「ふむ、先程のフットワークの軽さに付いて疑問が有るのだが」

「フットワーク軽いでしょ、あの王様。いきなり目の前に現れるしその翌朝には家に侵入して紅茶飲んでるしで自由過ぎて頭痛いっての」

 

 女傑さんと護衛さんが『不死の王』に対する俺の愚痴に信じられない物を見た、と言った表情をする。もしやこの二人、あの王様の関係者か?

 

「そ、それは大変そうだな」

「会話は出来るし何だかんだ波長は合うんですけどね……」

「合うんですね、波長」

 

 空気に同情の混じる女傑さんと、俺の言葉に何処か呆れの混じる護衛さん。いや、マジで『不死の王』の関係者か。

 そんな会話を重ねるうちに、目的の宿に到着する。厄介な相手に捕捉される前に、さっさとお暇しよう。

 

「此処が目的の宿ですね、それでは失礼します」

「む、体感としてはかなり早く着いたな。感謝するぞ若者」

「あ、ありがとうございました!」

 

 二人から感謝を述べられる。特に難しい事では無かったし、何だかんだ会話が楽しかった。もう関わる事は無いと思うけど、一期一会は大切にしよう。

 

 そそくさとその場を離れ、今度こそ帰路へ。今度は誰とも遭遇せずに家に着く。

 

「ただいま」

「おかえりでござるよ、ご主人」

「たー!」

 

 俺の挨拶に答え出迎えてくれる一華とコーンレム、なんだかエテルより此方の方が妻な気がしてくる光景だった。

 

「ただいま、何かあったか?」

「問題は特に無いでござるよ、お友達が抜刀術で雛菊に掠らせたくらいでござる」

「……マジかよ」

「マジでござる」

 

 ステータス差が絶対として横たわるこの世界、それを超えうる可能性が有るならそれは対人戦における駆引きくらいだ。相手の防御力を抜けなくても、相手が剣筋を見誤るなら速力は覆せて剣を当てられる。

 尤も、それが出来る技量ってのは途方も無いものに限るのだが。少なくとも俺は無理だ。

 

「ただ、かなり筋肉を酷使した模様でござったから明日は筋肉痛かも知れないでござるよ」

「むしろ代償がそれで雛菊さんに剣を届かせたとか驚愕するだろ」

 

 鴉天狗でも最速の呼び名を誇る雛菊さんは、恐らく今のエテルよりも速力が高い。人間の限界など遥かに越える数字だろう、例え手加減していようとそんな相手に当てる……あのバカは化け物だろうか?

 

「ところで、ご当主様と奥様はどうしたでござるか?」

「あ、いっけね」

 

 一華に言われて思い出し、慌ててリビングに向かう。止まり木で待機していたサイファーが俺を見て嬉しそうに一鳴きする中で俺は虎熊夫妻の案内役を頼む。

 

「悪いサイファー、これから当主代行とお義母さんが迷子にならないよう『迎えに行ってくれ』」

 

 俺の命令を受けて高く一鳴きした後、窓へ向かうサイファー。閉じられていた窓を俺が開ければ、高く空へ舞い飛んでゆく。

 

「ふぅ、ありがとう一華。頭から飛んでたことを思い出せた」

「どういたしましてでござるよ」

 

 俺の感謝に嬉しそうに答える一華、こういう小さな事を伝えたり感謝するのは大事だなと思う。

 そんな中で一華が数度匂いを嗅いで来た。コレはアレか、汗で臭うか。

 

「ご主人、汗を流してくるでござるよ」

「やっぱり臭うか……」

 

 アレだけ大規模なクラフトと言うか建築をやれば土埃と汗でそりゃ臭くなるか、あの女傑さんと護衛さんにも実は臭ってたのだろうか?

 

「分かった、先にシャワー浴びてくる」

「急ぐでござるよご主人、帰ってきた夢魔が理性を無くす前に……」

「それ、以前も言ってたな?」

 

 エテルの夢魔の体液じゃ無いんだし、汗の(にお)いを嗅いで発情する事が有るのか疑問だ。しかし、一華の言は気にしないとならない。やんわりとだが(くさ)いと言われているのだ、コレが将来娘が出来て言われたのなら即死する自信が有る。うん、今から気を付けて生きよう。

 自室で着替えを取り、手早く2階のシャワーで汗を流す。薬用のボディソープで洗えば身体についていた土汚れが落ちて、流れる泡が土の色で真っ茶色になっていた。こんなに汚れていたか、そりゃ臭くもなるわな。

 シャワーを終えてサッパリした状態で一階に降りれば、俺の背中を流そうと準備していた一華とバッタリ会った。うん、危なかったな。

 

「むぅ……ご主人、普段は使わない2階のシャワーを使うとは卑怯でござるよ?」

「そりゃ普段は一階の夫婦風呂でエテルや一華と入るからな、手早く終わらせるなら2階の方が早いし」

「お背中流せなかったでござる!」

「それを警戒してんだよ」

 

 子供を宿してる相手に我慢出来なくなったら大問題だろうに。

 

「言っておくけど、俺は一般平均から見ても性欲が強いからな。一華と一緒に風呂入ってたら我慢出来なくなる可能性が有るんだよ、今の一華にそんな劣情をぶつけたら大変だろ」

「むぅ、大事を取って大切にされてる嬉しさと触れ合えないもどかしさで頭が沸騰しそうでござる」

 

 俺の言葉を聞いて唸る一華の姿が可愛く見えて、そっと抱き寄せて頭を撫でる。ピンと立っていた耳はだんだんとペタッとなり尻尾が忙しなく揺れる、本気で可愛いなコイツ。

 

「と、そうだ。夕飯とか手伝う事は有るか?」

「無いでござるよ、家事に集中出来るなら3時間も有れば全て終えられるでござる。コーンレムも手伝ってくれるでござるしな」

 

 足元に居たコーンレムが名前を呼ばれて胸を張るような動作をする、しっかりと一華を支えられているようで満足である。

 エテル達と虎熊夫妻の帰宅をリビングで座って待つ、一華は俺の膝を枕に横になっていてその身体には薄い掛布がかけられている。コーンレムが持ってきてくれたのだが、ゴーレムも気遣いを覚えてるんだなと感心した。資料を取り出して以前途中で止めることになったが古文書の翻訳の続きを行う。右手に資料、左手は一華の頭を撫でつつ魔導式ワードプロセッサによる思考入力で翻訳した分をメモしていく。うん、何か捗るなコレ。

 途中で止まっていた古文書と、何冊か別の古文書を翻訳し終えたところ何となくステータス画面を見ると『考古学Ⅳ』が最大レベルに上がっていた。どうやらお師様が帰ってから滞っていた『考古学』スキルのレベルが上がったらしい、古文書もそうだが帰り掛けに読んだ手紙も影響してそうだ。

 このままランクを上げるか、それとも別のスキルを取るか悩む。商会長からの古文書はまだ残っているのでこのまま素直にランクを上げておくか。

 それと『ゴーレムクラフトⅢ』もスキルレベルが最大になっていた。此方もそのままランクを上げる……此方は多分、ゴーレム達とアリーナの建築をやった結果だろうな。ランクの上昇と共にゴーレム達が強化される『ゴーレム強化Ⅰ』のアビリティを覚えた。どうやらゴーレム達の移動力を抜かした基礎ステータスが10ずつ上がるらしいのだが、流石に強力過ぎないだろうか?

 もぞもぞと動いていたせいで揺すられたのか、一華から唸るような寝息が聞こえた。慌てて頭を撫でてやると満足そうに耳と尻尾が動き、寝息が穏やかになる。疲れているならしっかりと休ませないとな。

 

「ただいま!」

「ただいまなのじゃ」

「お邪魔します」

 

 そんなタイミングで帰って来るエテルと四葩、そして夕飯を食べに来たであろうタチアの三人がリビングに入ってきた。

 

「おかえり……どうしたタチア?」

 

 挨拶を返したところで、タチアが心做しか落ち込んでいるように見えた。心配で声を掛ければ、何故かエテルと四葩が胸を張って答える。

 

「チーちゃんも私達と同じだったって証明されたんだよ!」

「妾達は助平同盟としてタタラの下へ集う運命なのじゃ!」

「まるで意味が分からんぞ」

 

 正しくは、分かりたくないだがな。そんな中で嫌そうにタチアがインベントリから装備を取り出す。

 金色の紐と、真白の鎧。白いビキニアーマーであった。

 

 全身鎧『ドラゴンスケベイルアーマー』

 体力  +50

 魔力  +20

 技力  +20

 物理攻撃+15

 物理防御+40

 魔法攻撃+10

 魔法防御+30

 速力  +20

 移動力 +1

 特殊能力『水属性耐性』『風属性耐性』『女性専用』

 

 案の定『鑑定』をしてみればスケベイルアーマーで、属性から見て氷龍の鱗で出来た物だろう。タチアが付けたら聖騎士にも見える配色たろう。……聖騎士と言うには肌色が多いが、何方かと言えばこれじゃ性騎士だな。

 そうやって会話していると、一華が唸りながら身を起こした。しまったな、騒ぎ過ぎて起こしてしまった。

 

「……おかえりでござるよ」

「ただいまイッさん」

「ただいまなのじゃ一華、よく寝ておったのう?」

「お邪魔します」

 

 一華の挨拶に次々と返していく面々。頭が動き出すまで少し時間を置いてから立ち上がった一華は、ゆっくりと台所へ向かう。

 

「これから晩御飯の仕上げに入るでござるから、三人はお風呂に入ってくるでござる」

 

 一華の言葉に了承を伝えた三人は、俺を檜風呂へ連れて行こうとするので全力で抵抗し逃走する。流石に当主代行が何時帰って来るかも分からない中で、そんな事出来るか。四葩と風呂に入ってるなんて知られたら『竜舌蘭』でぶった斬られるわ。

 台所で一華の手伝いに入ると、魚を焼いていた。

 

「……秋刀魚か?」

「流石はご主人、知っていたでござるか」

 

 この都市ではいまいち季節の移ろいが分かりにくいが、どうも陽出國だと今は秋らしい。此方で手に入らない秋刀魚とか絶対に当主代行が釣ってきたやつだろコレ。

 一華の隣に並んで味噌汁を作る。とは言え、一華が下準備をしてくれていたので大した作業は無い。浅利の味噌汁だが、具の浅利は砂抜きが終わっているし滑子も下処理が済んでいる。浅利同士を擦り合わせて表面の細かい泥を洗い落とす、鍋に浅利と滑子を入れ出汁をこれまた当主代行が持ってきたであろう昆布と一緒に取る。煮る最中に出て来る灰汁を取り、煮立つ前に味噌を溶かす。ひと煮立ちしたら火を止めて完成だ。

 隣の一華を見てみれば、見事に焼き目のついた秋刀魚が焼けている。ミスリルで卸金を作り、多分これも当主代行達が持ち込んでた大根を摩り下ろす。かぼすは無いのでリビングの観葉植物になっている檸檬の木から実を一つ取って輪切りにする。やっぱり秋刀魚には醤油もいいが柑橘系の絞り汁も欠かせないだろう。

 

「……ただいま戻りました」

 

 背後から声が掛けられる。振り返ればお義母さんと当主代行が秋刀魚をガン見している。

 

「もうすぐ出せますから、席について待ってて下さいね。お酒はご自身達での持ち込みに限ります」

 

 俺がそう言うと渋々と食卓に着く二人。お前ら貴族だろ、少しは体裁を保て、ちょっとは理解出来るけども。

 少しすると風呂を終えた3人もリビングに来たので、俺達は食事を開始した。

 

「……そういえば、雛菊は居ないのですね?」

「ああ、最近は俺の幼馴染の家で食ってるみたいですよ。外堀埋めて結婚する気なんじゃないですかね?」

「ぶふぉ!?」

 

 お義母さんの疑問に答えると、味噌汁を飲んでいた当主代行が吹き出した。濃かったかな?

 試しに一口啜る、味噌の熟成された大豆の味の奥に浅利と昆布の風味を感じる。小さな滑子が唇の間から口に入り、啜るのを止めて噛み締める。滑る表面のせいで歯から逃げる滑子を舌で押さえつけて、噛む。僅かな噛み応えの後に茸の旨味を感じてとても美味い。自分の作ながら中々だ。

 

「滑子と豆腐でも美味しかったかも知れないでござるな」

「あ、確かに淡白な豆腐の味わいもいいな。一華は油揚げとかも好きそうだな」

「大好物でござる」

 

 一華の言葉にその具材も有りだなと感じつつ、豆腐と言えば油揚げという事で一華に確認したら案の定大好物だった。やはり狐には油揚げなんだな。

 

「何故、食事中に別の料理の話をするのかね?」

「あの、うちの食事ってだいたいこうですよ?」

「うむ、翌日の献立が決まったりするからのう」

 

 当主代行の疑問に対して、エテルが普段の状況を伝えて四葩が捕捉する。因みに、献立に対して一番要望を出すのはタチアだったりする。騎士学校の寮で出される食事はマナー講習もあり堅苦しくしかも量が微妙とのことで、比較的味が薄い物を好む。俺達が普段食べてる物も味は濃いめのはずだが、アレを薄いと感じたらしい。どんだけヤベェもん食わされてんだ?

 逆に食レポする雛菊さんは一番要望が少ない。美味しいものをお願いしますとしか言わないので何でも楽しんでくれて助かる。

 

「当主代行は揚げだし豆腐とか冷奴出せば、陽出酒片手に満足してくれそうですよね」

「タタラさん、この人は塩を出せばそれだけでお酒を楽しみますよ」

「思った以上に呑兵衛じゃねぇか」

 

 途中で口を挟まなかったってことは事実か、健康面とか大丈夫かな……鬼なら問題無いのか。不貞腐れた当主代行は秋刀魚を箸で摘んで食べた後に酒を呷っている、あの呑み方が一番美味いんじゃないかってくらいにいい飲みっぷりだ。

 

「タタラ、この白い雪みたいのってなんなの?」

「それは大根おろしだ。陽出國の根野菜である大根を摩り下ろした物で、脂が多い物と一緒に食べとサッパリするんだ」

「そうなんだ……はむっ」

 

 まだ箸を使えないエテルはティースプーンで少量大根おろしを秋刀魚に乗せて、フォークで切り分けてから口に運んだ。

 

「見た目から甘いのかなって思ったら、少し辛みが有るんだね。でも美味しいねこれ」

「この良さが分かるとは、エテル殿は通だな」

 

 エテルの分析に当主代行はそんな感想を述べる、確かに大根おろしの良さを理解してるのは通だろうな。

 俺は醤油皿に檸檬を絞って汁を溜め。それを切り分けた一部の秋刀魚に掛けて、一度白米の上に乗せて脂を軽く落としてから口へ運ぶ。脂のよく乗った身に、掛けられた檸檬の酸味によりくどさが抑えられている。噛み含めれば溢れる脂は多く、しかし檸檬汁が脂による味の支配を抑える。そこへ白米を一摘み、甘みが脂の味を抑えて更に食べやすく味わい易くする。

 そこへ味噌汁を啜れば、口の中は洗い流され次の一口を新鮮に迎えさせてくれる。

 秋刀魚で驚くべき事は、ただの焼き魚では無かったこと。腸を抜いた後、細切りにした生姜を詰めて焼いたらしく臭みが殆どなくなっていたのだ。そのまま一緒に食べても美味しい工夫は、流石の一華である。

 

 そんな夕食を終えて、一華を休ませて俺と四葩で並んで洗い物をする。調理器具は先に洗い終わっているので、食器だけなのだが秋刀魚の脂が冷えて固まってるのが中々に曲者だ。

 

「むむ、湯を掛けて脂を緩くせんと洗うのも苦労じゃのう?」

「漬け置き用の洗剤に突っ込んで明日の朝俺が洗ってもよかったんだぞ?」

「それでは妾の家事に関する腕が上がらぬ、こういう小さな事から積み重ねを怠れば何も出来ん」

「それは、舞や剣術で培った価値観か?」

「そうじゃのう、恐らくそうだと思う。妾は剣も舞も好き故にどのような細かい物でも受け入れひたすらに磨いておった……思えばある種狂っておったのかもしれぬな」

 

 何処か自嘲している様子だが、それが何か悪いのだろうか?

 

「俺も最初に『クラフト』で剣を作った後、あまりの楽しさに1日一本は打ち続けてたぞ?」

「ふふ、タタラは幼い頃からタタラなのじゃな」

「そんなに簡単に変われないだろ、人間なんて」

 

 幼い頃から『クラフト』三昧である俺に対して思わずと言った具合に笑う四葩、似た者同士と知れたからか雰囲気が軽くなる。

 そう言えば、子供の頃から打ち続けた四千本の剣はどうしたんだろう。お義母さんとクソ野郎で取り合ってたけど決着がどうなったかは知らないんだよな。

 

「楽しくて積み重ねるなんて当たり前で、辛くてもそれが必要だからやる……それが一番着実だからな」

「そうじゃな、お母さんの舞を見てやりたい事と出来ない事に泣きながら、それでも繰り返して覚えたのう。出来る様になるのが楽しくて、小さな積み重ねを楽しむようになる」

「そうしてより大きな事を成功させて、それが楽しくて続ける」

「そうやって出来なかった事を出来る事にする、コレこそが至高の楽しみなのじゃな」

 

 本当に俺達は似た者同士らしい、プロセスがそっくりだ。

 

「なんじゃ、妾達は性根がそっくりじゃのう?」

「だから惹かれ有ったのかもな」

「阿呆」

 

 軽く尻を蹴られる、何か変な事を言っただろうか?

 

「さり気なく口説くで無い、押し倒すぞ」

「口説いた気はないんだけど……」

 

 判定が厳し過ぎると思うんだが、俺の何が彼女達を喜ばせてるのやら。

 

 

 洗い物が終わり、各々で休憩を取る中でサイファーが俺の肩に止まってくる。脚には手紙が無いので、明日は探索に行けるな。

 

「……タタラ殿、その霊鳥はいったいなんなのだ?」

 

 肩に止まったサイファーを撫でていると、恐る恐るといったい雰囲気で当主代行が話し掛けて来た。なんだろう、サイファーが何かしたのだろうか。普通に良い子だと思うのだが。

 

「タタラさん、この人はその霊鳥が目前に突然現れて驚いて剣を抜いてしまったのです。説明をして上げてくれますか?」

「え、あぁ……事前説明してませんでしたか」

「だから、あれ程ちゃんと話すように言ったであろう!?」

 

 いや、はい。本当すみません。当主代行としては突然現れた正体不明の大型の鳥類に警戒、更にはお義母さんを守る為に剣を取ったのだろう。

 そう言えば、初見でシャムスとエストもビビってたな……もしやサイファーって知らない人にとっては怖いのか?

 

「此奴はサイファーで、俺の作った伝書用の鳥型ゴーレムになります」

「……随分と大型な鳥型ゴーレムですね、どうやって飛んでいるのですか?」

「翼に『飛翔術式』と本体に『反重力術式』を使用しているので本体重量がほぼ無く、素材には鍛造ミスリルで核に『錬金術師の卵』を使っているのでそこそこ高い能力を誇っています」

『……そこそこ?』

 

 当主代行とお義母さんの声が重なる。お義母さんは『鑑定』でステータスを見ているのだと思うが、当主代行はどうしたんだろう?

 まさか斬り掛かったけど全部避けられたとかかな……回避に徹した際のサイファーはそりゃとんでもないだろうけど。

 

「土地勘の無い御二人が迷子にならないように送りました」

「正直助かりました、朝と夜では街の様相も違うので記憶の確度が低かったので」

 

 話を聞くとお義母さんが当主代行を止めて、サイファーの誘導に従ってくれたらしい。『鑑定』で製作者が俺である事が分かったのが理由らしいが、お義母さんの『鑑定』のランクが低かったら失敗してたかも知れない。

 

「なんというか、タタラさんには特にそうですが懐っこいのですね」

「あれ、お義母さんにもですか?」

「あ、いえ……私ではなくて」

 

 お義母さんの視線が当主代行に向かう、当主代行は視線を反らしている。どうも、サイファーは当主代行が気に入ったらしい。

 

「い、いきなり肩へ止まってきたり頭を擦り付けてきて驚いたのだぞ!?」

「確かに、情けない悲鳴を上げて居ましたものね?」

「それは言うな!?」

 

 当主代行、鳥が苦手なのだろうか。

 

「まぁ、壊さないでくれたので助かりました。当主代行にお譲りした『竜舌蘭』ならサイファーを一太刀で終わらせてたでしょうし」

「むぅ……」

 

 あまり話を長引かせない方が良いだろうと判断して、一先ず壊さないで居た事を感謝すれば当主代行に唸られた。そんなに気にされても此方も困る。

 

「あぁ、そうでしたわ」

 

 そんな時、お義母さんが何かを思い出して手を叩く。

 

「商会長様よりタタラさんに伝言ですわ。酒造ギルドからご依頼の品物をもう一台追加して欲しいと伝えるように頼まれていましたの」

「酒造ギルドから、ですね。分かりました」

 

 蒸留器を更に一台追加か、来年分は必要数が増加する見込みが立ったかな。シンプルに酒神様からの神託かも知れないが。

 明日は探索に回すとして、明後日に納品に行くかな。

 

 

「タタラ、少しよいか?」

 

 鍛冶場で『空裂』を打ち終えて汗を流そうとしたタイミングで四葩に話し掛けられる、何か有っただろうか?

 

「実はのう、妾は今日の探索でレベルが50に届いたのじゃ」

「マジか」

 

 最前線で殴り合う役割を担っているとは言え、流石に早いだろう。

 

「以前に言った通り、増えたスロットには『盗む』を取得したのじゃ」

「うん、それは助かる」

 

 エテルが率先して盗んでくれているが、一人に任せ過ぎても駄目だろう。

 

「それで、妾のステータスをどう補完するべきかのう?」

「そうか……今のステータスって見ていいか?」

「うむ、よいぞ」

 

 一言断ってから四葩に『鑑定』を掛ける。

 

 レベル  50/50

 体力   500(500)

 魔力   51 (200)

 技力   255(300)+64

 物理攻撃 195(250)

 物理防御 161(250)

 魔法攻撃 39 (100)

 魔法防御 59 (100)+36

 速力   143(200)

 運    47 (100)

 移動力  15 (99) +1

 

 うん、エグいステータスだなコレ。魔力の底上げは諦めよう、多分エテルとタチアに振った方が正しい。インベントリを確認すると、現時点で上げるべきは運だと判断。つか、エテルの頑張りで運のステータスアップアイテムが80個以上有るのは何なのか。

 

「……一先ず、運を上げよう。『盗む』スキルは運のステータスが影響するし」

「ふむ、成る程のう」

 

 補填分53個を渡して、四葩の運のステータスが100になる。スキルランクの影響で確定とは言えないが、四葩の『鍔目返し』が作用して回数分『盗む』の判定が入るから確率は上がるだろう。それに、パッシブアビリティの『強奪』を覚えた場合判定に使われるのは攻撃のステータスだ。四葩の場合は武器も合わせて400以上のステータスが判定に使われるので、エテル以上の確率でアイテムを盗めるようになるだろう。無法に過ぎる。

 

「それで、タタラは明日探索に出るのかのう?」

「行く予定だぞ、俺もレベルを上げていかないと50階層以降で手詰まりに成りかねないしな」

 

 現状、ステータスは全て100を越えるので51階層以降でも渡り合えはするだろう。問題は俺自身の攻撃系スキルが無い事、本来なら俺も『鍔目返し』や『突撃』なんなら『渾身』を取得しなければダメージが伸びない。クラフターとしての不必要性から取得を見送っているが、俺自身の命が掛かっているので本来はそんな事を言ってられないのだが。情けない事に、戦闘をパーティメンバーに依存し過ぎている状態だ。

 

「む、そうじゃ。レベルがこれ以上上がらぬなら何かステータスが上がる装備を借りれぬかのう?」

「ならやっぱりコレだろ」

 

 四葩の言葉で真っ先に取り出したのは最早お馴染みの『錬金術師の卵』である。体力、魔力、技力が上昇して一分ごとに50%回復は流石に越えられる装備が無い。

 

「……最早見慣れておるが、あいも変わらず凄まじい理不尽さを発揮する代物じゃのう」

「それは確かにそう」

 

 四葩の呆れも納得出来る、本当にこの『卵』の性能はイカれている。世界法則(システム)でレベルアップ時のステータス上昇がランダムて無かったら、コレを装備して探索するのが一番安全なくらいだ。

 

「別の装備は現状無いな、『浮身石』で飛ぶくらいか?」

「むぅ、それは今はよいのじゃ。何か魔法防御の上がる装備が欲しいが……」

「属性魔法吸収出来る状況で要るか?」

「……要らぬのう」

 

 まぁ、多少の不安解消になるなら後でミスリル銀糸を織って外套でも作るか。問題は、四葩のステータスをコレから補うくらいにステータスアップアイテムが必要なことか。

 攻撃力で上限叩かせる為に一人に50個以上必要って改めてヤベェな。




FGOで冠位戴冠戦が始まった挙句、古戦場が始まってしまった……駄目だ、逃げちゃ駄目だ。

古 戦 場 か ら 逃 げ る な!!

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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