※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント継続中。


アンケート実施中です、直感でお選び下さい。



小さな一歩

 恥ずかしがる一華に姿を隠せるような外套を渡す、以前エテルを男達の視線から隠す為に作った物の試作品である。

 

「その……見苦しかったでござるか?」

 

 俺の行動に不安を覚えたのだろう、そんな事を言ってくる一華。

 

「逆だ逆、そんな姿を他の奴等に見せたくないから隠させるんだよ。それに、一華はそう言った露出が多い物が苦手だろ?」

 

 浅ましい独占欲も有るが、一華が好まない物であることが一番の理由だ。自覚しているかは分からないが、耳と尻尾がずっと垂れていた。そんな姿を見たらこんな装備をさせる事に罪悪感しか湧かない。

 一華は俺の言葉に対して驚いたような反応をした後、おずおずと外套を受け取って身に纏う。肩のアーマーが広いので上から被れないが、肩アーマーだけ表に出すスタイルならできる。

 しかし、一華は直ぐに外套を外して俺に返してきた。

 

「悪い、気に入らなかったか」

「いえ、その……肌を隠すと装備が力を失ってしまって……」

「うそだろ」

 

 何でそんな所に無駄な力入ってんだこの鎧、作った奴は助平かよ。……助平でなければ作らねぇか。

 

「ふむ、今はそれのままの方が良かろう。次へ進むのじゃ」

「鬼畜か己は」

「生まれながらの鬼じゃからのう。それと、そろそろマスクを外したらどうじゃ?」

 

 四葩に言われてマスクを外す。息苦しさから解放されて気分が上向くが、一華の事を考えるとまた下がる。心配になって一華を見れば、マスクを外そうとしてない。

 

「どうした?」

「その……この姿で顔を見せるのは恥ずかしいでござる」

 

 おう、その姿で俺の部屋へ突撃してきたエテルがそこに居るぞ。

 しかしこう、顔はマスクで隠してるのに身体は特に隠してないのは変態性が増すな。

 

「でもイッさん、身体は隠してないのに顔だけ隠すのはちょっと変態さんっぽいよ?」

「おいばかやめろ」

 

 俺が思ってた事をストレートに伝えるんじゃないよエテル。ほら、一華がショック受けて膝から崩折れたじゃん。両手を地面について項垂れてるし……どうすんだコレ?

 

「……タタラ様も、エテル様と同じ意見ですか?」

 

 素の喋り方になってる辺り相当ダメージ食らってるなコレ。どう答えるべきだろう、正直同じ事考えてたからとてもフォロー出来ない。

 そんな俺を見て察したのか、一華はマスクを外した。その下の顔は赤く、羞恥心が強く出ているのが分かる。そう言った初心な反応にちょっと唆られるが、それ以上に心配が勝る。

 

「……一華、後で装備を作るよ」

「……お願いします、タタラ様」

 

 忍び装束をミスリル銀糸で作って、その上で王玉で強化すればいいだろうか。空を飛ぶ機能として『ハーピークィーン』がドロップする『女王の風切羽根』を使用してもいいだろう、一華の機動力上昇は戦力上昇に直結するだろうし。

 そんなやり取りをして降りた先の41階層から敵は『ハーピー』に変わる。エテルと一華の二人が先行して進むと、以前と同じように『クィーン』が奇襲を仕掛けてくる。

 が、今回は一華がいた事……というか一華に俺がミスリル銀糸の武器を渡した事がとんでもない事態を引き起こした。

 反射的にミスリル銀糸を網目状に展開して防御を実行した一華、そこへ突っ込んだ『クィーン』は結果的に細切れになった。見た目はもはやサイコロステーキである。

 細切れになった死体は即座にダンジョンへと吸収され塵となったが、エテルと一華はモロに『クィーン』の血を頭から被った。取り敢えず、普通の布では無いから血の染みは付かないが後で洗濯しないと臭くなるなアレ。

 エテルと一華は血で濡れた姿のまま俺達の所へ戻って来る、インベントリからタオルを出して手早く二人の頭を拭いてやればタオルは真っ赤になって廃棄が確定した。

 

「ご主人……身体を拭くどさくさで乳を触ったりしないでござるか?」

「精神的に傷付いてる仲間に対してそんな鬼畜な事が出来るか阿呆。それと俺は頭だけだ、身体は自分で拭け」

「むぅ……優しくないでござる」

 

 目が死んでる一華からそんな言葉が飛んでくるが、とてもそんな気分になれない。むしろ憐憫でそんな目を向けられなくなってる……所謂『かわいそうなのは抜けない』ってヤツだろう。

 

「ある意味着替えててよかったな、一華。忍び装束が血で使えなくなってたところだぞ」

 

 俺の言葉に一瞬キョトンとなり、理解してから盛大に安堵のため息を吐く一華。洗って何とかなるレベルでは無かった可能性も有るからな。

 

「むぅ、私も大丈夫じゃないんだけど?」

「確かにそうなんだが……エテルのソレ、ベースがミスリルだからこの手の汚れが付かないからな」

 

 新しく取り出したタオルで髪を拭きながらエテルに応える。

 ミスリル銀の特性として、魔力による保護が常に掛かっている。その為に撥水性や防汚性が次元違いの高さを誇り、自然と綺麗になるのだ。現にエテルの装備は自然と血が流れ落ちて、汚れてるのは髪や肌だけになっている。流石は医療現場等でも使われ清潔の代名詞にもなる魔法金属だ。

 俺の言葉に不満そうだったので、ご機嫌取りとしてその豊かな乳房を軽く揉む。悩ましい甘い声を漏らすエテルに下半身が反応しかけるが全力で抑制、こんな所で盛っていられないのだ。

 

「あの、御二方。こんな所で始めないで下さいね?」

 

 エテルの声が聞こえたのだろう、タチアに注意される。分かってるんだが、此処でエテルの機嫌取っとかないと後で酷い目にあうんだよ。具体的に言うとベッドの上で。

 機嫌を直したエテルの先導により問題無く探索していく。『クィーン』に対して最早無敵となったエテルの空中戦は圧巻の一言、翻弄された『クィーン』に追撃を掛けるタチアも凄まじい火力を出している。四葩は『白刃流し』で『クィーン』の攻撃を避けつつカウンターで『盗む』を使用、風切羽根を毟り取っている……痛そうだなアレ。俺は一塊になっている所へ砲撃を撃ち込んで経験値をチマチマと稼いでいる、そろそろ50レベルに届きそうだ。一華は俺の護衛をしつつ、時折『白刃流し』によるカウンターを使っている。スキルレベル上げなのだろう、『卵』による回復を前提として惜しみなく技を使っている。

 そして、45階層に到達して敵は『精霊』種へ。複数属性の『精霊王』を相手に積極的に仕掛けて経験値を稼ぐ。少ないが確かに経験値が溜まってる、49階層迄には50に上がるだろう。

 と、此処でタチアがとんでもない提案をして来た。

 

「あの『精霊王』達は属性攻撃が主体です。なら、全て攻撃を受け続ければ物理か魔法の防御スキルを安全に上げられませんか?」

 

 正直に言おう、ドン引きした。確かに一華を抜かした俺達の装備は属性攻撃を吸収できる。しかし、ソレを利用してスキルレベルを上げる発想は無かった。ゲーム時代ならやってただろうが、此処は現実だ。殴られる事、魔法を受ける事には多少の恐怖心がある筈だ。ソレを抑えて攻撃を受け続けるのは普通は難しい、タチアの発想はタンクとして攻撃を受ける立場だから出た言葉だろう。

 

「出来るとは思うが、正直推奨したくないんだが」

「まぁ、タタラの場合妾達が一方的に殴られたり魔法を撃たれたりする姿を見続ける事になるからのう。精神的に耐えられそうに無いのじゃ」

 

 俺より装備の防御力が上だったエテルへの攻撃を俺が引き受けてきたんだ、今でも見逃すのは無理だと思う。正直な話、『オリハルコンゴーレム』に殴られ続けるタチアも普通に気分が悪かったくらいである。

 

「魔法防御ならエテルの『ロニセラ』を1時間くらい受け続けても安全にスキルレベル上げられると思うが……」

「それ、私の精神的負担考えてないよね?」

 

 別の案を上げれば今度はエテルからツッコミを入れられる。うん、流石に仲間を撃ち続けるとか普通に嫌だよな。とは言え、最低出力の『ロニセラ』なら正面から受ける限り俺達の魔法防御を突破出来ないのだ。安全にスキルレベルを上げる手段として覚えてはおくべきだ。

 

「なにはともあれ、タチアの意見は一旦却下でよかろう。この先被弾する事も少なくないじゃろうしな」

「また『不死の王』みたいなイレギュラーにぶち当たったら嫌でも上がるだろうしな」

 

 四葩の意見に乗っかる形ではあるが、タチアの提案は却下にさせてもらう。イレギュラーとの遭遇は割と本気で来ると俺は思ってる、地上ではスィーブなんて言う厄ネタも出た事だしな。

 タチアも俺と四葩からの反対を受けて納得したのか、提案を取り下げた。コレで一安心かな。

 その後、『精霊王』に対して容赦なく攻撃を与えて自身の攻撃系スキルを育てて行った。『卵』での回復を挟み、惜しみなくスキルを使う事で成長を促す。俺も俺で数を倒した影響でレベルが50に届き、『魔法防御上昇』を取得する。

 45階層が終わるタイミングで、四葩が俺に声を掛けてきた

 

「タタラ、妾の『鑑定』がコンプリートしたのじゃ」

「早すぎねぇか?」

 

 俺、コンプリートするのに『早熟』込みで生まれてからの時間費やして最近ようやくなんだけど?

 

「使用回数が凄まじいからのう、そこで相談なんじゃが」

「空きスロットに入れるスキルだな、俺としては『速力上昇』か『忍び足』の何方かを勧める」

「ふむ、妾に『忍び足』か」

 

 今でこそ問題は無いが、先の階層には暗闇の中音で此方を捕捉してくる敵が現れる。足音も当然此方を認識する物になるので、それを可能な限り殺す『忍び足』は相手の奇襲を防ぐ物になる。俺も後々取る予定では有ったが、四葩は存在昇華前に可能な限りスキルを取得して貰おうと思う。それに、四葩の火力を伸ばす上でアサシンビルドの一つを今の内に取らせるのも良いのではないかと思うし。

 

「惹かれる物はあるのう、しかし今回は『速力上昇』を取るのじゃ。単純にステータスを上げて対応出来る状況を増やす方が必要そうだしのう」

 

 そう言ってステータスを操作する四葩、基礎ステータスの中でも速力が高ければ攻撃回数や安全性が増す。四葩は対生物に関しては最強と言えるが、『概念鑑定』の通らない対象には素のスペックで戦うしかない。フィジカル面はいくら強くしていても足りないのだ。

 そうして先へと進むうちに、エテルとタチアもレベルが50になった。以前にタチアもステータスアップアイテム取得の為に『盗む』スキルを取得すると言っていたので、そちらは直ぐに終わった。

 問題はエテルで、アサシン関係のスキルは全て取り終えている。狙撃手としてもスキルは完成しているので、何を取らせるか悩む。

 

「のう、タタラ。エテルに近接武器の適性を取らせてはどうじゃ?」

「え、近接武器!?」

「……成る程」

 

 四葩の進言に驚くエテルと納得する俺。つまり四葩は『ロニセラ』を筆頭に魔銃が使えない状況を想定してエテルの近接戦闘を可能にするようにと言っているのだ、確かに武器如何ではアサシンビルドと相乗して凄まじい火力を叩き出せるだろう。それこそ『鍔目返し』を取得したとして、背面からなら初期から2.5倍の火力で2連撃を叩き込めるのだからその最終火力は恐ろしい事になるだろう。

 

「その、トラッちゃんの意見はわかったけど……私は前に筋力不足で片手剣でも両手使ったって持てなかったんだよ?」

「エテル、レベルも上がってる今なら多分大丈夫だ」

 

 あの時は平均にも届かないステータスだったし、今は『地母神シリーズ』の恩恵でステータスが相応に伸びている。これなら多分大丈夫だろう。

 それに、俺は気になっている事が有った。

 

「そうだな、エテルには『剣適性』を取ってもらいたい」

 

 あのバカが、最高の才能と称するエテルの剣才。それがどれ程の物なのか。今なら家にお義母さんも居る事だし、握り方などの基礎の基礎を学ぶには丁度いいだろう。

 

「その、何で剣なの?」

「四葩やタチア、今ならお義母さんも居るし基礎の基礎を学ぶには丁度いいかなって思ってな」

「そう、なんだ……」

 

 エテルの反応は芳しく無い、何が有るのだろうか?

 

「何か剣が嫌な理由って有るのか?」

 

 気になって聞いてみる。エテルは少し悩む様子を見せた後

 

「タタラはさ、私のお父さんが探索してたのは知ってるよね?」

「ああ、父さんと母さんが参加した大討伐で肩を並べてたらしいな」

 

 防衛長が言っていた事やバーラル夫妻を弔った際の霊体から聞いた話から推察した結果だが、あの大討伐で父さんと母さんはバーラルさんと一緒に戦っていた筈だ。何ならあのバカはバーラルさんの詳しい情報を知ってる可能性も高い、探索者マニアだし。

 

「お父さんが探索の時に使ってた武器が剣でね、小さい頃お庭でお父さんが剣を振って鍛えてたのをずっと見てたんだ」

 

 訥々と語られるエテルの思い出、まだ乗り越えて無いからと殆どその口から聞けたことは無かった。両親の事なんて尚更。

 

「お父さんの真似をして木の棒を一緒に振ったりしてね、危ないからやめなさいって笑ってたなぁ」

「そう、か」

 

 懐かしそうに語るエテルだが、その右手は心臓の近くの布を握っている。俺と同じで、亡き両親の事を思い出すと胸が痛むのだろう。それでもエテルは言葉を続ける。

 

「自分で自分の身体を叩いちゃったりして、お母さんが笑ってそんな私を手当てしてくれて。お父さんが大きくなったら剣を教えてくれるって約束してくれたんだ」

 

 少しずつ震え始めるエテルの声、これ以上は続けさせられないと判断して止めようとする。しかし、エテルがそれを拒否した。

 

「わた、わたしはあの時お父さんに隠れるように言われて。クローゼットの中に隠れて……お父さんが兵士の人達を沢山斬って、でもお母さんが捕まって……お父さんが剣を捨てたら兵士の人達が槍でお父さんを刺して!」

 

 バーラル氏が家族の為に戦うのは以前予測した通りか。エテルの目の前で強かった父親が殺されてしまったなら、剣は握れないか。

 

「そしたらお母さんの服を兵士の人達が破いて、目の前で……っ!!」

「もういい、エテル。もう思い出さなくていいよ」

 

 深いトラウマとして残されている両親の死を連想させる切っ掛けを作った自分が嫌になる、何故こんな無神経に言えたんだ俺は。

 そっとエテルの頭を抱き寄せる、普段なら心音を聞かせているところだが今は『黒煌』を纏っている為に出来ない。

 しかし、そんな俺達に対して四葩は違う言葉を向けて来た。

 

「エテル、つらい記憶を呼び起こさせた事は謝罪する。しかし、今一度確認するが……お主の父君が使った剣術をそのままこの世から無くすつもりかのう?」

 

 厳しい言葉だ。エテルは四葩の言葉を聞いて身体を震えさせる、本来なら四葩を止めるべきであろう。しかし、心の何処かでそれは駄目だと止める声がする。俺がエテルを守り続けるだけで、彼女から立ち上がる切っ掛けや強さを奪う事が本当に正しいのか?

 きっと、それは違うのだ。手を差し伸べる事は親しい人間なら誰でも出来る、しかし立ち上がる力はその本人だけの物だ。

 エテルが全てを諦めて人形のように過ごす事を望むなら俺はそれを受け入れる、それがあの時に助けた責任だから。たが、立ち上がる切っ掛けを奪う事は無責任だ。

 バーラルさんには怒られるかも知れないが、俺はエテルに立ち上がる切っ掛けをくれる四葩という得難い友の想いを無為にする事は出来ない。しちゃいけないと強く思う。

 

「お主が生きる限り、お主の両親はお主が覚えていられる。しかし、お主が死ねばこの世に生きた証はお主の血を引く子供のみじゃ。より多くの人々へお主の父君の剣術を伝える事で不滅の物へ変えはせんのか?」

「お父さんの、剣術……?」

「実戦は兎も角、基礎の技をお主は全て見ておるはずじゃ。それならば伝えてゆける、お主の父君を生かし続けられるのじゃ」

 

 人が死ぬ時は人に忘れられた時、前世でそんな事を言っていた漫画が有ったな。四葩の考えはまさにそれだろう、エテルが剣術を伝えそれが途切れない限りバーラルさん達の生きた証は残り続ける。それは、きっとエテル本人にも言える事だろう。

 四葩の言葉を受けて、エテルの震えは少しずつ小さくなっていく。心が定まってきているのだろう。やがて震えは止まり、ゆっくりと俺から離れて四葩と向き合うエテル。

 タチアも一華も静観している、流石に余計な言葉は挟めない。

 

「お主が思い出の中で死蔵し、この世に残さぬか。その心の痛みを乗り越え、永遠に残し続けるか……決めよエテル」

 

 四葩の言葉は強い、同時に優しさも秘めている。エテルの克己心を刺激するつもりなのだろう、性格をよく知るが故の揺さぶりだ。

 エテルは俯き、肩を震わせている。その拳は力強く握られていて、爪が掌の皮を破りそうだ。エテルは俯かせていた顔を上げて、徐ろにステータスを操作する。何となく、何をしたのかは分かった。

 

「私、お父さんの剣術を思い出すよ」

 

 静かに決意を込めたエテルの声が耳に届く。

 

「つらいけど、つらいだけの思い出じゃ無いから」

 

 そう四葩に言った後に俺へ向き合うエテル。その目は赤く、涙を流していたのが分かった。

 

「タタラ、戻ったら剣をお願い」

「分かった。エテルのお父さんがどんな剣を使ってたのか教えてくれ、出来る限り再現する」

「うん!」

 

 何処か堪えるような表情だったが、エテルは笑って返事をした。四葩には精神面で勝てる気がしないな。

 俺がそんな事を考えながら四葩に視線を向けると、何処か誇らしそうな笑顔を向けられた。本当に、勝てる気がしないな。

 

 パーティ3人がレベル上限に達した為、3人には『卵』を装備して貰いスキルレベルを上げる事に徹して貰う。タチアの運を直ぐに100まで上げて、『精霊王』から王玉を盗んで貰い俺がトドメを刺す流れが出来た。途中で何度も俺に魔法の集中砲火が起こり、意図せずにタチアの言っていたスキルのレベリングが発生する。何気にコレで取得したばかりの『魔法防御上昇』が1ランク上がる事になり有用性だけは証明される事になった、あくまで有用性だけであるが。

 49階層を掃討する間に俺のレベルは51になった、理由としては複数体の『精霊王』に眷属の召喚を行われたからなのだが。恐ろしい事に召喚されたものが下位『精霊』ではなく『精霊王』だった。この『精霊王』が別に『精霊王』を召喚し……っと続いた為に意図せず経験値が溜まりレベルが上がった。何気に基礎ステータス上昇系のスキルも成長して、ランクⅤになった物も有る。

 全部コンプリートしたら次はアサシンビルド関係を取ろうか、この先一人で潜る事になったら必要だろうし。

 ボス部屋の前に到着し、転移結晶で脱出する。タチアはまだ門限が厳しくなっているらしく、悲しそうに途中で別れる事となった。

 

「一華、タチアにお弁当とか渡してやりたいんだけどいいか?」

「構わないでござるよ。と言うか、拙者もあんなにご飯が恋しそうにされたら罪悪感湧くでござる」

 

 寮のご飯があまり合わないと以前言っていた事を思い出して一華に確認してみれば、了承を貰えた。一華からしてもタチアの事が哀れに見えるのだから相当だろう。

 帰宅途中で一華が一部調味料が足りない事を思い出して、全員で商店区へ。野菜なんかの食材は定額サービスを頼んでいるが、調味料の類は対象外である。『ワールウィンド』はクラフトが盛んである影響で、香辛料は現世の価格に近いくらいには安い。都市外に持ち出すと値段が爆発的に上がるので、他市場を破壊しない為に輸出を禁止されてたりする。まぁ、都市内でクラフト食品が流行ってるので都市内で消費を満たせるから問題は無いみたいなのだが。

 調味料はエテルも強い拘りが有り、一華と並んで彼是と選んでいる。俺も知らなかったのだが、二人には其々贔屓している専門店が有って互いにお勧めの調味料を勧め合ってる。俺も俺で個人で楽しむクラフトエールのスパイスを選んだり、オリジナル配合のスパイスを試したり楽しんだ。

 四葩は七味等の見慣れた香辛料が無いことを改めて確認して驚いている、この店も陽出國との国交が活発になれば取り扱う日が来るんだろうな。その時が今から楽しみだ。

 

 店から出て屋台が並ぶ区画を抜けて行くと、見覚えのある人達から声が掛かる。商会長から算盤を頼まれた日、広場の使い方で揉めていた屋台の店主や大道芸の人達だ。俺も軽く挨拶を返しつつ、当主代行やお義母さんが酒のつまみに出来そうな串焼きを見繕って買って帰る。大道芸の人達はエテルを筆頭としたパーティメンバーと俺を交互に見た後に囃し立ててくる、そこに悪意は見えない為に思わず赤面してしまった。

 そんな中でエテルが素早く俺にキスをして来て、思考が停止して硬直しまった。大道芸の人達は大盛り上がりで、そちらには四葩も混ざって大はしゃぎしていた。あの箱推し鬼め。

 

 色々と有ったが、問題無く帰宅した。どっと疲れた気もするが、どうせ気疲れみたいなものだ。大人数にああいった反応をされたら誰だってこうなるだろう。

 庭先ではまだ鍛錬が続いている、珍しいというか意外な事にバカと当主代行が模擬戦をしていた。多分、模擬戦。いやだって型稽古が互いに剣をぶつけ合う物である筈が無いだろ。

 

「あら、おかえりなさい」

「あ、ただいま帰りました」

「ただいまなのじゃ」

 

 お義母さんの挨拶に対して俺と四葩が代表して返事をする。何故かお義母さんの膝の上では中たたらとコーンレムが鎮座して撫でられている……どういう状況?

 

「お友達の修練はまだ続きそうですよ、汗を流してきては如何ですか?」

「そうですね、そうします」

 

 お義母さんに言われて俺は夫婦風呂へ向う、俺に着いて来ようとしたエテルを四葩と一華が檜風呂へ連れて行く。正直助かった。

 探索でかいた汗を流してからリビングへ戻ると、模擬戦は終わっていた。軒先で座るバカは汗をタオルで拭きつつ、檸檬の蜂蜜漬けの水割りを呷っている。当主代行も軽く汗をかいたらしく、手拭いで汗を拭いていた。うん、あの糞野郎を疲労困憊にする当主代行に汗を流させるってマジで何なんだコイツ。

 当主代行も満足そうな顔をしている辺り、バカの刀術が意味不明な伸びを見せているって事なのだろう……ダンジョン潜らずに強くなってるの本当に意味わからん。

 

「やっほ」

「……よう、彼奴の刀術教えんのに限界が見えてきたか?」

 

 考え込んでいた俺に軽い調子で声を掛けてくる糞野郎は、俺の言葉を聞いて苦笑する。余程だな、この反応。

 

「彼、身体機能は人間なのに技量だけで僕らの剣を対処するの何なんだろうね?」

「改めて聞いてるとヤベェな、彼奴の才能は信じてたけど此処までとは思ってなかったぞ」

「僕も、ちょっと見誤ったね……君に殺せない刀を頼んで無かったらとっくにどっちか死んでたよ」

 

 それだけマジになったって事か、本当に何なんだ彼奴。

 

「あと、感覚的に彼の刀術は完成に近付いてるよ」

「……流石に早すぎないか?」

「教えてるのが僕ってのも有るけどね、それ以上に逸材も逸材だよ彼。単純な術理の組み方に天禀が見える……正直、身体機能が同じだったら僕でも負けかねないくらい」

「いや、お前……」

「冗談でも忖度でも無い、アレは一種の化け物だね」

 

 糞野郎の言葉を聞いて、バカへ視線を向ける。雛菊さんと剣術談義をしているのか、楽しそうに話している姿は何時ものそれだ。しかし、その身に宿る剣才は隣に居る剣鬼をして逸材と称するレベルときた。

 その事実に、思わず口角が上がる。お師様と初めて打ったあの刀を預けるのだから、それくらいになってもらわないと困る。この都市で剣聖と呼ばれる男にでもなって貰わないと、俺も困る。

 

「……嬉しそうだね、君」

「ああ、嬉しいさ。あの刀を預けた相手が正しく化け物なんだ、刀鍛冶冥利に尽きるだろう?」

「はは、イイね。君もイイ感じに狂ってるわけだ」

 

 俺の言葉を聞いて心から嬉しそうな表情を浮かべる糞野郎、どうやら俺とあのバカは此奴に同類認定を受けたようだ。

 

 それから少しして糞野郎は中枢へと帰り、バカは雛菊さんに送られて出て行った。

 普段家事を引き受けてくれている一華が共に探索へ出た為に、今日はエテルと二人暮らしをしていた時のように料理を始める。

 カラスの行水が如き俺とは違い、女性陣は入浴に時間が掛かる。それに、一度汗を流した後に再び汗をかくのは嫌だろうしな。

 さて、何にしようかと思った所で作務衣に着替えた当主代行が台所へ入ってきた。その手には生蕎麦と海鮮が多数……成る程、天せいろか。

 合点がいった俺はその場で天麩羅の衣を作る、以前も作ったので準備は手早く終わる。その間に当主代行は海鮮をシメて、水分を布巾で取っている。鮪を解体していた時から分かっていたが、手際がいい。今度『海鮮切り』の刺し身包丁を打って贈ろうかな。

 油を温めつつ、湯も沸かす。蕎麦を茹でる為であるのだが、同時に蕎麦汁が無いことを思い出す。しまった、前世の感覚で居たから作り置きとか無いぞ。

 

「ふふ、タタラさん……コレですよね?」

 

 そんな俺に、台所の入り口からお義母さんが声を掛けてくる。振り向けば、一升瓶を掲げていた。いや、まさか?

 

「今さっき転移門から虎熊領に行きましてね、専属料理人から蕎麦汁を分けて貰ってきました」

「最っ高です、お義母さん」

「ふん、我が家内なので当然の心遣いよ」

「それでも、感謝は忘れたくないですよねお義父さん?」

んんっ!?」

 

 当主代行が空咳してる、この辺埃でも舞ってるのか?

 

「……タタラさん、先程主人を何と呼びましたか?」

「え、当主代行……ですが」

「成る程、無自覚」

 

 無自覚とはいったい?

 そんな会話をしつつ、天麩羅を揚げて蕎麦を湯掻く。この世界、アレルギーが無いから安心して食を提供できるのが強みだよな。神様からの『好きな物食べろ』って加護が働いてる……内に毒を溜める河豚とか血に毒素の有る鰻みたいなのは駄目だけど。

 

「河豚の唐揚げとか試してみたいけど、肝に毒が有るからなぁ……」

「それなら、『厄切り』を持って食べてみるのは?」

「お義母さん天才ですか?」

「珍味な上に美味と聞くが、そこまでして食うのは止めておけタタラ殿」

 

 俺のボヤキに答えるお義母さんの案に乗ろうとすれば、当主代行からツッコミが入る。もし両親が生きていれば、こんな感じだったんだろうか?

 わいわいと楽しみながら夕食を作っていれば、女性陣達が風呂から上がってきた。早速温か冷かを確認を取り、蕎麦を用意する。俺は冷たい方が好きなので天せいろで、四葩も一緒だ。エテルと一華そして虎熊夫妻は温蕎麦で天麩羅を載せている。 

 挨拶をして早速蕎麦を啜る。麺汁に浸けずに先ずはそのまま、素材の旨味と蕎麦の香りが口の中を抜けて鼻を通る。前世では感じた事の無いほどに芳醇なその香りは、良質な蕎麦粉を十割りで打ったことを伺わせる。続いては虎熊家の専属料理人が作ったという麺汁に半分浸した後に啜る、途中で噛み切らず最後まで啜った上で噛み締める。出汁の旨味の効いた麺汁は、十割り蕎麦でなければ蕎麦の旨味も香りも殺しかねない程に汁の味が強い。それ故に、双方の味が高次元で一つとなった味の広がりは筆舌にしがたい。

 繋が無ければ簡単に噛み切れてしまう蕎麦は、次々と胃の中へ収まっていく。気付けば天麩羅に手を付けることも無く蕎麦を半分以上食べていた。

 コレでは駄目だと天麩羅を摘む、南瓜や獅子唐等の野菜のない海鮮だけを揚げた天麩羅。その中で鱚の天麩羅を選んだ。麺汁の中へ浸し、一口。汁を吸った衣のふわりとした歯応えと柔らかな身の食感は口の中をを楽しませ、淡泊な味の白身魚に麺汁の出汁が旨味を上乗せして口の中を満たす。小骨を取る等の手間暇は掛けていないが、確りと咀嚼すれば小骨も砕けて嚥下できて喉に刺さることも無い。

 口の中に天麩羅の味が残る内に蕎麦を一啜り、蕎麦の風味が海鮮の旨味と混ざり合ってとても美味い。

 鱚の次は烏賊の天麩羅だ。白身魚とは比較にならない程の噛み応え、生ならば粘りすら感じる程の物だが適度に火が通ればその様相を変えて小気味よい歯応えになる。麺汁に浸けず、塩を着ければ揚げ物特有の油のくどさを引き締めて味を引き立たせる。次は麺汁に大根おろしを追加して、更にサッパリとした味わいに変えて楽しむ。

 最後は王道、海老の天麩羅だ。蕎麦汁に軽く潜らせて一口、確りと浸した訳では無い為に衣の硬さをある程度残しつつ表面に汁の旨味を纏わせる。サクリとした衣の後に海老のプリッとした歯応え、旨味という点で海老という食材を越えられる物は数少ない。トマトやチーズと合わせたピザを焼くのも楽しそうだな、今度庭に窯作って焼いてみるか。

 

 そんな風に食事を楽しみ、蕎麦汁の蕎麦湯割りを飲みつつ一休み。この後は明日の納品の為に蒸留器を作らねばならないし、エテルの剣や一華の銀糸も作らねばならない。

 

「あ、そうだ。当主代行、明日って時間作れますか?」

「うむ、儂か?」

 

 明日は酒蔵に行くのだ、当主代行は酒好きだし此方の酒を楽しんで貰いたい。

 

「ええ、俺は明日仕事で酒蔵に行くんですけど一緒にどうかなって」

「ふむ……ぜひとも付き合わせて貰おう」

「タタラさん、私は?」

 

 悩んでるように見えて一切の迷いなく行くことを決めた当主代行と、誘われずに居ることに対して抗議してくるお義母さん。

 

「えっと……お義母さんってそこ迄お酒好きだったかなって」

「大好物ですよ」

 

 うん、思い返せばたたきとか出した時に酒欲しがってたな。夫婦揃って呑兵衛か。

 

「でしたら、明日は御二人を酒蔵へ案内しますね。一応、酒神様の教会の役目も担ってますので御留意願います」

「承知した」

「ふふ、でしたら我が陽出國の酒も奉納せねばなりませんね」

 

 夫婦揃ってウッキウキなのが伝わってくる、酒蔵の人達なら快く新たな呑兵衛仲間を迎え入れてくれるだろう。多分。

 

 

 洗い物を終えて、工房へ。今回依頼されている蒸留器は相当に大型の物である、72リットルの蒸留を可能とする酒蔵でも最大サイズの蒸留器だ。こんなに必要なのかと疑問に思うが、以前納品した際は『どんだけ多く作っても酒神様と共に飲む限り足りる事はない』と赤ら顔で言われたな。

 さて、追加という事なのだが実は今回少し問題が有ったりする。事前に言われていた蒸留器は素材を渡されていたのだが、今回のは緊急の為に素材の持ち込みが無い。ならば自然と俺の持つ素材から出す必要が有るのだが、以前の蒸留器と同じ鋼製を作るには鋼や鉄が足りない。ならばどうするか、俺の手持ちで最も多い素材を使うしかないだろう。

 という訳で取り出すは大量のミスリルインゴット。水分を揮発させる為の熱源はダリアが取ってきてくれた火の核石にて対応し、装置の規模を少しでも小さくする。蒸留釜は縦長にし、中間地点でジェットエンジンの噴霧器の構造を利用して発酵液を噴き出す構造にする。棚段を複数作り、分離効率を高める。

 冷却構造は氷の核石を使用、冷やし過ぎて凍らせたりアルコールの味を変えてしまわないように調整可能にする。蒸留釜内と冷却器の温度は『鑑定』を機能させ、細かい温度を見れるようにする。こんなところでミーアに頼まれた魔導具の技術が活きるとはな。

 冷却器内の蛇管は丁寧に巻いた、以前アルコールの雑味を無くす為に重要だと教えられた事が有ったので此処は他より更に丁寧に扱った。……そう言えば、俺は誰にこの事を教わったのだろう?

 蒸留したアルコールを複数の樽へ分配できるように管の先を切り替え可能にした、コレで多少は作業が楽になればいいな。

 連続式蒸留器にしてもよかったかな、と思うが流石にそこ迄高純度のアルコールを生成する機構は何方かと言えば研究所や病院に置いておくべきだろう。今度都市長と相談しようか。

 依頼を受けた物そのものでは無いが、事情を話して一時的にでも預かって貰おう。同じ物は商会で素材を買った後に再度作れば問題無いと思いたい。

 

 続いては一華のミスリル銀糸だ。まぁ、やる事は決まってるのだが。一華にダンジョン内で渡した武器を、火事場の炉に入れて一度溶かす。再度成形してインゴットにして、『ノーブルブラッド』で強化を行いブラッドミスリルを生成。形状記憶合金と同じ性質になるのを応用し、オリハルコンをリング状にして繋げる。オリハルコンはブラッドミスリルとの親和性を高める為に『ノーブルブラッド』で強化、ブラッドオリハルコンにする事でより反応が良くなったみたいだな。

 ミスリル銀糸を織って布を作成、更に手袋を作り五指のを根元に先に作成したブラッドオリハルコンのリングを嵌める。ブラッドミスリルの糸を巻くことで手袋が赤く染まる。想像以上に鮮やかな赤は、鮮血を思わせる。

 

「一先ずは完成だけど……なんて名付けようか」

 

 脳裏には血の伯爵夫人(バートリィ・エリザベート)の名前が浮かぶが、流石にそれは装甲悪鬼(永倉さよの手袋)過ぎるので却下だろう。

 吸血植物として寄生花のラフレシア辺りは候補になるだろうけれど、流石に腐臭を放つ花の名前を一華に贈るのは気が引ける。

 

「……ご主人、今は大丈夫でござるか?」

 

 思い悩んでいる最中、一華が工房の入り口から覗き込んで声を掛けてきた。

 

「おう、どうした?」

「作業に没頭していて帰って来れなくなりそうなので声掛けでござるよ。それと、何か思い悩んでる気配を感じたでござる」

 

 どんだけ高性能なレーダー搭載してるんだ?

 

「それで、何に悩んでいるでござるか?」

「……一華の銀糸の名前だよ」

 

 正直に伝えると、一華は驚いた後に笑う。

 

「拙者の為に悩んでくれているのでござるね」

「何も考えずに名付けるのはなんか違うって思うんだが」

「その心遣いが大事でござる」

 

 作業台の上に鎮座していた無銘の手袋を手にとって、一華は口を開く。

 

「ならば、この子の名は『衝羽根』でござるよ」

 

 笑ってそう名前を付ける一華。『衝羽根』は白檀科の植物の一つで、寄生植物の一種だ。その花言葉は『愛情』である。

 花言葉を知っていて付けたのなら、何ともむず痒い物である。




 特殊『衝羽根』

 物理攻撃 45
 魔法攻撃 25
 最大射程 3
 特殊能力『吸血Ⅲ』『結界術:鋼糸』

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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