※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント継続中。

アンケート実施中です、後悔のない選択を。


僅かな兆し

 一華の『衝羽根』を仕上げた後、ミスリル銀糸で布を織る、出来上がったミスリル銀布を『クラフト』で裁断し一華の忍び装束を新たに作る為だ。

 改めて一華の身体を調べなければならず、この事を頼むのは気が引ける。

 

「その、一華……」

「む、どうしたでござるかご主人?」

「一華の忍び装束を作るから、身体を見させて欲しいんだけど」

「いいでござるよ」

 

 恐る恐る確認すると、あっさりと了承した一華は着ていた物を全て脱ぐ。そう、全てだ。

 工房の灯りに照らされて、一華の美しい裸身が目前に現れる。少し大きさを増した気がする乳房はその先端がツンと上向いていて、触らずともその張りと柔らかさを感じさせる。細く括れた腰から、肉付きよく安産型な臀部を支える太腿のラインが美しい。

 以前俺を受け入れた秘処には薄っすらと茂っていて、その奥から受け入れの準備を終えたことを伝える為に液が溢れている。

 

「おい!?」

「ふふ、下着までは脱がなくてよいと言いたいのでしょう?」

 

 俺の注意を察していながら、一華は妖艶に微笑む。ヤバい、ムラムラして来た。

 

「私とて若い雌、タタラ様が欲しくて欲しくてたまりません」

 

 口調が本来の物になっていて、ゆるりと動き指先で俺の顎をなぞる。もどかしさを感じさせる触れ方で、背筋が泡立つのが分かる。何より、愚息が一華を求めて完全戦闘態勢である。

 艶然とした笑顔のまま、一華は俺の頬に手を添えた後に唇を重ねてきた。絡み合う互いの舌で興奮を抑えられなくなった俺は、一華を抱えて工作台の上に押し倒す。

 柔らかな乳房を両手で弄びつつ、間に顔を埋めてその肌を音を立てて吸う。

 その刺激に甘い声を上げる一華に更に興奮が掻き立てられて、理性が無くなっていく。もどかしくズボンから愚息を取り出し、一華の秘処へ押し当てる。その奥に自分の子供が宿っているのだからやめろと叫ぶ理性と、そんな事を無視して一華を貪れと囁く本能がせめぎ合う。本能に屈して、一華の膣口を押し広げ愚息の先端が侵入していく。

 

「はい、そこまでね」

 

 と、そんな俺を魔力が包み拘束する。最早慣れたこの感覚はエテルの拘束魔法だろう。視線を向ければ案の定、大き目のTシャツにホットパンツ姿のエテルが立っていた。

 

「エテル……助かった」

「うん、凄いね本当に限界みたい」

 

 抵抗出来ない俺を下がらせたエテル、一華は不満そうに俺達を見ている。

 

「もう少しでご主人とご無沙汰が解消出来たでござるのに……」

「イッさん、自分の身体のこと分かってるでしょう?」

 

 唇を尖らせて不満を零す一華に、少し厳し目なエテルの声が届く。もしや、ここでしてると危なかったか?

 

「多少は問題ないと判断出来たでござるからな」

「今のイッさんがタタラの暴走を受け止めようとすると頭が馬鹿になっちゃうからね?」

「ちょっと待ってくれ、一華の頭が馬鹿になるってなんだ!?」

 

 俺の暴走状態云々も気になるが、受け止めた一華の頭が馬鹿になるってのが理解出来ない。愚息の大きさで下がガバになるってんなら多少は理解するがってやかましいわ。

 そんな俺の疑問に対して、エテルが答える。

 

「タタラの『性魔術』って、かなり強力なのは分かる?」

「一応、コンプリートは終わってるから多少は強いのは分かるが……」

「えっとね、多分一般的な『性魔術』の出力の5倍はするんだよ。タタラの『性魔術』の出力」

『……はい?』

 

 エテルの言葉に俺と一華が呆けた声を出す。待ってくれ、俺の『性魔術』の出力が通常の5倍?

 白い悪魔(RX-78-2)敵量産機(MS-06)の5倍だったが、白いのを出す事とナニか関係がって馬鹿か。

 

 

「あ、この一般的って言うと分かりづらいね。一般的な夢魔の5倍の出力って言うのが正確かな」

「ますます意味が分からんぞ」

 

 エテルが普段の相手である故に、通常よりかは強力であるとは思っていた。それが一般的な『夢魔』と比較して出力が上ってなんだ?

 

「俺の『性魔術』ってエテルを満足させる為に回数を増やす方向に進んでるんじゃないのか?」

「うん、タタラの精液の生産量も増加してるね」

「精液の生産量()、なのか」

 

 副次効果扱いなのか、生産量が増える事が。

 

「タタラは勘違いしてるかもだけど、私達夢魔にとってのパートナーってかなり重い存在なんだよ」

 

 いや『天使長』から『性魔術』の取得を告げられるまで自分の身体のことを分かってなかったエテルがそれを言うのだろうか?

 

「遺伝子も含めた身体的な相性もそうだけど、魂や魔力といった存在規模の相性が良くないとパートナーが務まらないの」

「……何か話の規模がとんでもないでござるな」

 

 俺も思った事を一華が代弁してくれる、魂レベルで相性が求められるって相当だぞ。過去作の神殺しと魔剣の魔神くらいだろ、そんな話が出て来たの。あ、一応第一使徒もそれくらい相性良いんだっけか?

 

「タタラと初体験の時、『性魔術』が無い私はタタラを殺し掛けちゃったよね?」

「やっぱ死にかけてたのか、アレ」

 

 それまでの人生で最大量の射精を促され、終わった後で空きスロットを『性魔術』で慌てて埋めたのが懐かしい。今でこそエテルも『性魔術』を取得して暴走が控えられているが……そうで無かったら今頃死んでいた可能性が高いのではなかろうか。

 

「そんな初体験と、私を満たす為にタタラが頑張った結果『性魔術』がその方面に深化したんだよ。『夢魔』を満足させられる快楽を与える事、それと一人で満足させられる精液の量を作る形にね」

「そんななのか、俺の『性魔術』」

 

 話を聞いている限り、夢魔ってかエテル以外に使うのが駄目なやつじゃねぇかな。もしかして、タチアがМに目覚めた理由って痛みを快楽に変換する際に俺の『性魔術』の出力が高過ぎた事が関係してたりするのか?

 コンプリートしてから便利に使っているつもりだったのが、此処に来て問題を引き起こしてる事を知るとは。

 

「もしや、拙者がご主人を求めるのは……」

「それはイッさんがスケベなだけ」

「おい」

 

 一華の疑問が秒速で否定されたぞ、しかも割かしヒデェ理由も提示されて。それと、なんで一華は微妙に安心してんだ?

 

「むしろイッさんがおかしいんだよ、なんで夢魔でも普通は耐えられないようなタタラの『性魔術』受けて理性保ててるの?」

「新手の洗脳系モンスターの話でもしてる?」

「今日のチーちゃん見てみなよ、拗らせた性欲があんな風に発露したんだよ?」

「あの提案ってそういう事だったの!?」

 

 どんだけ溜め込んでんだよタチアの奴、定期的に身体を重ねないとダメかコレ?

 まぁ、アレは性欲だけと言うより強くなりたいって思いも複雑に絡んだ物だと思うが。物理と魔法の攻撃を同時に担える武器を何か作るか。

 

「因みに、今のチーちゃんはタタラに縛られたり拘束されたりして乱暴にされるのが好きみたいだよ」

「人の性癖暴くのやめてやろうぜ、特に仲間のやつはさ?」

「因みにイッさんは新婚ラブラブえっちとか、我慢出来なくなったタタラに一方的に求められたりするのが好きだね」

「バラさないで欲しいでござるよ!?」

 

 エロが絡むとエテルは無敵過ぎる、『鑑定』も無しに読み取れるのは卑怯だろう。止めようが無いのは本当に何なんだ?

 

「そう言えば、最初の時も何方かと言えば誘い受けだったな一華」

「しみじみと思い出さないで欲しいでござるよ」

 

 顔を赤くして俺の言葉へツッコミを入れる一華、思い出すのも仕方ないだろ可愛かったんだから。

 

「話が逸れまくってる気がしないでも無いが、今回エテルが俺を止めたのは一華の為って事でいいんだよな?」

「そうだね、今回タタラの容赦無い『性魔術』を受けてたらイッさんは人語を忘れて首輪だけしか身に着けずタタラのおちんちんを欲しがるだけの性奴隷(ペット)になってたと思うよ?」

 

 想像以上に尊厳捨ててる姿だが、前にその兆しが見えてたし妥当なのか?

 

「イッさんがこれ以上タタラの『性魔術』の影響から逃れるつもりなら、イッさん本人が『性魔術』を取得する必要があるよ」

「うっ、スキルを取得する為にはどれかスキルランク上げが必要でござるな……」

 

 そう言えば一華はレベルが最大だからレベルアップによるスロット増加が望めないんだよな、スキル構成も分からないし何を変えればいいとかとても言えない。それに、それは一華から求められたら答えるくらいしか出来ないだろう。一華には一華なりの成長計画みたいな物は有るだろうし。

 

「一華、今一番早くスキルランクが上がりそうなのって何だ?」

「きゅうん……『物理攻撃上昇』でござるかな、あと2レベルで最大でござる」

 

 物理防御か魔法防御ならある程度は楽だったが、攻撃系なら攻撃回数が重要になる。保有してる特殊スキルが何かは分からないが、『物理攻撃上昇』が『早熟』込みで育ちが遅い場合は一華の肉体が物理攻撃に向かない事の証左になる。

 

「後は『鍔目返し』もそろそろ最大レベルに届きそうでござる」

 

 成る程、『鍔目返し』が有るならまだ『物理攻撃上昇』は成長しやすいだろう。とは言え、俺なら『鍔目返し』はそのままランクアップさせて攻撃回数を増やす方向にするが。

 

「……一華さ、俺の幼馴染と一緒に少し稽古をしないか?」

「それは、拙者の『物理攻撃上昇』のレベルを上げるためでござるか?」

「そうだ。『鍔目返し』が有るなら刺激を受けやすく成長も早いはずだから、そこ迄長く関わる必要も無いだろう。家に居て出来る運動って言ったらコレくらいだろうし」

 

 自動修復機能を持った『ゴーレム』をひたすらに滅多打ちさせてもいいのだが、今作ると当主代行か糞野郎に持ち帰られそうな気がするんだよな。

 

「それならタタラ、彼が使ってるような死なせない剣を作ったら?」

「成る程、有ると便利だろうな」

 

 エテルに言われて確かにと頷く、アレは確かに対人戦での稽古に最適だ。糞野郎が3本頼んだ上で、一本をあのバカに貸し出して稽古しているのだ。一華もそうだが、四葩と当主代行にも打って渡した方が稽古も捗るかも知れない。

 

「後で打っておくよ。まぁ、それより先に一華の忍び装束が先だが」

 

 話を初期に戻す、一華の新たな忍び装束を作るつもりだったのに欲望に負けたのだ。取り敢えず、身体を調べてサイズを合わせなければ。

 

「イッさん、今度は誘惑しちゃ駄目だよ?」

「うう……耐えられる気がしないでござるよ」

 

 エテルが俺に背を向け、やや身を乗り出すようにして一華に注意をする。自然と、エテルの尻が俺に突き出される形になり……俺の理性が切れた。

 拘束魔法を破壊し、その大きな尻を掴む。ホットパンツとその奥の下着をズラして、前戯なしに押し入る。

 

「ひゃっ!?」

 

 突然の事で反応が出来なかったエテルは驚きの声を上げるが、膣口は俺の興奮を受信していた為だろう受け入れ態勢が万全に済まされていた。

 背後から突かれてバランスを崩したエテルは、一華に覆い被さるような体勢になる。そんなエテルを後ろから抱きしめる様にして、腰を打ち付ける。

 

「ちょっ、まって、タタラ!?」

「ご主人、そんな激しく……」

 

 一華の前で痴態を晒す事に抵抗しようとするエテルだが、筋力では俺に敵わないので振りほどけ無い様子。いや、エテルの場合俺を受け入れた時点で抵抗という概念もないかも知れない。

 一華はそんな俺達を見て、そっとその右手の指を己の秘処へ添える。興奮冷めやらぬ身体を慰めねば耐えられない程に、その身体は飢えているのだろうか。

 抽挿を繰り返し、愚息から伝わる快楽で脳が染まっていく。タチアや一華相手ではどうしても加減してしまう所を、エテルは全て受け止めてくれる。勢いよく打ち付ける腰の音と水音が工房の中に響く。

 エテルも一華も、言葉を発さずに吐息を漏らすだけになる。エテルの腟内が収縮し、俺の愚息を扱き上げて射精を促す。

 快楽に従ったまま、腰を最奥へ突き入れて射精した。勢いよく放たれた精液はエテルの肚を満たし、愚息を引き抜けば中から溢れてきた。

 エテルの内腿を伝い、床を汚していく白濁はあまりにも淫靡な光景だった。

 

「……一華、後始末を」

「はい」

 

 俺の命令を受けて、エテルの股下に潜り込む一華。そのまま膣口に自らの口を当てて、吸い出していく。御庭番衆の修練で得た技術を用いてエテルに快楽を与えつつ、そこに溜まった俺の胤を吸い出し嚥下していく。エテルも一華も、何処か目が虚ろであった。

 

 

「本当にすまない」

 

 90度の角度で全力の謝罪を行う、流石に暴走し過ぎた。

 

「本当だよ、イッさんに吸い出させるとかさ……私はタタラをお腹の中で感じるの好きなのに」

「うん、そこに感覚器無いよね?」

「拙者は、その……上の口でとはいえご主人を久し振りに味わえたので」

「うん、上の口とか言うな」

 

 溜息を吐きつつ、一度射精してスッキリした頭で意識を切り替える。今なら一華の身体を見ても直ぐには反応しないので、忍び装束を作ってしまおう。

 早速糸を取り出して、一華の身体を採寸する。一華が戸惑ううちに全てを済ませ、工房の中の機織り機に向う。ミスリルインゴットを500g程取り出して、『錬金術』と『クラフト』を使用してミスリル銀糸にする。それを機織り機で布へと仕立てていく、一カ所でもミスすれば全てが台無しになるが『クラフト』スキルが極まった影響かミスする自分を思い描け無い。

 10分程で機織りが終わり、幅は1.1mで長さは余裕を持たせて20m程だ。

 

「一華、前と同じだと露出過多で嫌だよな?」

「それは、確かに肌を晒すのは嫌でござるけど……」

「わかった」

 

 なら、魔法的な処理をした伸縮性の高い布も作らなければな。再び10分程で少し織り方を変え、伸縮性の高いシャツに使うような布を織りコレを使ってボディースーツを作成する。

 インナーマッスルアーマーとは違い、身体能力の補正は無いがその分着用の手軽さは上だ。計測した一華のスタイルから算出した数値に布を『クラフト』で分割し、裁縫を開始。

 身体にピッタリとフィットしつつ、身体の重要部はやや厚めに布を重ねて防御力を確保。特に豊かな胸元や、括れた腰。更には股関節付近は丁寧に作成した。可動域の広さもそうだが、胸元は支えをきちんとしないと動きの邪魔になる。それでは一華を危険にさらしてしまうから駄目だ。

 手早く3着ほど作り、早速一着を一華に着てもらう。

 

「……これ、肌は隠れてるでござるが裸よりも恥ずかしい気がするでござるよ」

「いや、あくまでこれはインナーだからな?」

 

 俺にそう言われて、一華はボディースーツを着用する。爪先まで有るタイプなので、着るのにやや時間が掛かる。しっかり上まで着て、最後に両肩部に備えたファスナーを閉じて着用完了である。

 

「……想像以上に着心地がいいでござるね?」

「その代わり、トイレに行く際は若干地獄っぽいけどな」

「コレを着る前には全て済ませてからでござるな……」

 

 身体を動かしてスーツの可動域を確認した一華は驚いた様子だったが、俺に言われた言葉に若干口元を引き攣らせる。まぁ、そうだよな。

 そのまま全てのスーツを試着して、問題が無いことを確認した。スーツには水の王玉を使用して防御力を上昇させつつ、水の魔力が循環する事で清潔な状態をある程度保つ様にした。

 この上に着る服はよくある忍び装束を意識する、エロゲーやらで出るタイプではない普通のそれだ。

 和風の上着に帯、袴そして脚絆だ。上着は袖を分割しメッシュ状にしたミスリル銀糸で袖を繋ぐ。手甲の代わりに『衝羽根』を使い、攻撃力も確保する。ボディースーツを着用しているからこその構造ともいえる。草鞋の代わりにブーツを用意し、風の王玉を使用して機動力を確保しつつ更に女王の風切羽で『飛行』特性を与える。上着に土の王玉で属性を与えて防御力を確保し、以前コーンレムに編んでいたマフラーに近いスカーフを作りそれを火の王玉で属性を付与して赤く染める。

 最後に背中に俺達のパーティシンボルを飾り糸で縫い付け完成だ。

 

「……速すぎるでござるよご主人」

「え、気に入らないか?」

「いえ、出来に関しては文句は無いでござる。むしろコレに文句言ったら袋叩きに合うでござるよ」

 

 試しに全て装着した一華の姿は、それまでと違い堂々たる忍者の姿である。まぁ、このまま外を歩いたら逆に目立ちそうだが。

 

「名前はまだ無いから、後ででも付けてやってくれ」

「ふふ、御意にござるよ」

 

 微笑んだ一華は本当に嬉しいらしく、耳と尻尾が動いている。ボディースーツと忍び装束で何気に一華の尻尾穴を作るのが一番大変だったりする。下手に引っ掛からないようにすると、逆にその一点だけ防御力無くなるし。

 

「後はエテルの剣か……魔導剣を作りたいところだな」

「何か考えが有るの?」

「ぶっちゃけて言うと、ダリアの魔導剣……魔力刃出すヤツに近い物を作ろうかと思ってな」

 

 魔力刃を展開する魔導剣には2種類の型が存在している。魔力量を叩き付けて攻撃する物と、魔法攻撃力を活用する物の二つだ。何方も強力では有るのだが、其々に長所と短所が存在している。

 魔力量を叩き付ける方の長所はズバリその最大攻撃力が長所になる。魔力は基本的に魔法攻撃よりも高くなる傾向が強く、その為最大攻撃力はどうしても此方の方が高くなる。その代わり、使用に大量の魔力を消費する。具体的に言うと総魔力量の3割は1回の使用で持っていかれる。例え魔力が999有っても、3回使ったら空っぽになるのだ。

 対して魔法攻撃力に依存する側の長所は安定性、魔力量に依存しない為に常に一定のダメージを叩き出せる魔導銃の近接版だ。短所はよりステータスに依存している事、魔法攻撃が高くなければほとんどダメージが出ない。更には『天使長』並みのステータスが有ってもクリティカルを出さないとカンストダメージが出せない事。

 個人的には一撃の威力より安定した火力を出し続けられる後者が好ましいが、エテルは何方を選ぶだろうか?

 以上の事を説明すると、エテルは首を傾げて確認してくる。

 

「物理的な剣じゃ駄目なの?」

「そっちだとミスリル系の武器の装備条件が足りてない」

 

 装備条件と一口に言っているが、この世界だと扱いの難しい武器に対する造詣の深さだ。ミスリル系の装備は鉄や鋼よりも圧倒的に軽いため、その扱いが圧倒的に難しくなる。それゆえに『剣適性Ⅱ』以上が求められると言った背景がある。

 俺が魔導剣を作ろうとしているのは、ある程度強力な物を作ってもこの世界に元から存在していない物のため装備制限がないからだ。

 

「そっか、でもそれなら最初は普通の鉄の剣でいいよ」

「え」

「ふむ、一理あるでござるな」

 

 エテルの言葉に戸惑っていると、一華は納得している様子だ。どういう事か視線を向ければ、一つ頷いて説明してくれる。

 

「エテル様の技量は素人もいい所でござる、その為に最初は基本である形の剣から入った方が変な癖も付かないでござるからな」

 

 そんな物、なのだろうか。俺が父さん達から贈られたウォーハンマーは性能の割に必要とされた『槌適性』が低かったし、父さん達から手解きを受けていたから扱いに困らなかった。ウォーハンマーと言うか、槌に類する装備が同じ装備帯から考えて高い攻撃力を持っている為、最近まで武器の更新をしなかったのだ。

 ここ最近で四葩の『手鞠花』や一華の『牡丹』で感覚狂いそうだが、俺のエレメンタルハンマーの物理攻撃+25ですら世間一般から見るとかなりの高さを持っている。改めて思うと、俺の作る武器は性能が破格なのだろう……再認識するには今更過ぎる気もするが。

 

「それなら、一応都市内で共通規格の長剣を渡すよ。エテルのお父さんが使ってた剣の形状が分からないから、最初はこれでな」

 

 インベントリ内にある『鉄の剣』を一本取り出して、エテルに渡す。エテルは握りを数度確かめてから、一つ頷いてから柄紐を巻いていった。その手際は不慣れであるが淀み無く、想像以上に綺麗な仕上がりである。

 

「上手いな」

「昔、お父さんに習ってよくやってたんだ。久し振りだから鈍ってるけど、問題無いね」

 

 そう言って軽く数度『鉄の剣』を振るうエテル、その剣筋は驚くほど美しい。

 

「……お父さんの完全再現はまだ無理かな」

「いや、初手からそれってのが先ずヤベェだろ」

 

 エテル自身の速力の高さもそうだが、それ以上に関節の連動が意味不明に上手い。本気で振ってないのだろうが、切っ先が殆ど見えてなかった。さらに言えば、振り方に対して刃の方向が正しい。刃筋がキッチリ立っているからアレなら問題なく斬れるだろう、今日初めて振ったというのに何故こんなに最適化されてるんだ?

 コレを才能と呼ぶのは理不尽とすら思える。

 

「上層の『ゴブリン』くらいなら問題なく斬れるだろうな……」

「普通、アレだけ綺麗に振れるには数カ月は振ってないと無理でござるよ」

「二人とも大げさだよ」

 

 俺と一華の意見に、エテルは苦笑いだ。お世辞でもなんでも無く、エテルの剣技なら問題無いだろう。問題が有るとするなら実際の戦闘で生きている相手に剣を振れるか、そこに尽きるくらいか。少なくとも俺は、初めてダンジョンに潜った時に『ジャイアント・ラット』に対してウォーハンマーを振るって暫く手に残った感触の影響で戦えなくなった。それだけ、実際に相手に武器を振るうという行為には向き不向きが出る。

 何度も相手に武器を振るうことを躊躇い、自分の命が危うくなって初めて躊躇いが消えた。そんな俺に対して、はたしてエテルはどうなのだろうか?

 もし、『ゴブリン』相手に躊躇してしまいその身を汚されてしまったなら……俺は剣を勧めた事を後悔をするだろう。

 それでも、エテルが前に進む事を邪魔してはならない。それだけは間違えてはいけない。

 エテルと俺はパートナーである。互いに尊重して、一個の人間である事を踏まえて伴に歩いていく関係でなければならない。そこを履き違えれば、俺達は伴侶ではなく主従になってしまう。それでは駄目だ。エテルの人生を背負うと誓ったが、エテルをただの人形にする訳でじゃない。

 彼女が自由意志を持って、生きたい道を進んでいけるように支える事が俺なりの責任の取り方だ。

 

「明日、俺は酒蔵に依頼された代物を納品に行くから探索には不参加になる。気を付けてな、エテル」

 

 内心は表に出さず、エテルに向けてそう言った、エテルは不満そうだが、俺がやるべき仕事に理解を示して頷いた。

 その後、エテル達を部屋に戻して鍛冶場にて概念武装を打ち上げる。四葩の『手鞠花』と一華の『牡丹』、当主代行の『竜舌蘭』に其々バランスを合わせた不殺の刀を鍛え終え、追加で『空裂』を一本鍛えてから就寝した。

 

 翌朝、朝食を準備しつつ皆が起きてくるのを待つ。エテルが夜に部屋へ来なかった為か身体の疲労は完全回復している。虎熊夫妻と酒蔵へ向う為に疲労が抜けているのは喜ばしい、下手したらとんでもない量を呑まされて前後不覚になる可能性すらある。絶対に酒蔵の人達に煽られて飲み過ぎる、去年からそうだったし。

 因みに朝食は昆布と梅干しと一緒に炊いたご飯と、塩鮭と目玉焼きに千切りのキャベツ。玉葱と蕪の味噌汁の予定である。台所に入ってから炊飯の準備をしつつ、漬かりすぎた塩鮭から塩抜きする並行作業。とても味噌汁に手が出ないので一華の手助けが欲しい。

 

「おはようでござる、ご主人」

「おはよう、一華」

 

 そんなタイミングでやってくる一華に内心ガッツポーズである。一華は俺の内心を知ってか知らずか、状況を確認してから味噌汁の下準備に入ってくれた。やはり良妻賢母の素質有り、その素養は誉高いな。

 玉葱をくし切りにする一華の目には涙は見えない、確か切り方如何で涙の原因である汁の飛沫が起きず涙が流れなくなるって前世で見た記憶が有るから、一華もそれを心得ているのだろう。

 そんな事に感心しつつ、俺は炊飯器を作動させて炊飯を開始。やはり自動炊飯機能はいい、お手軽に美味しい米を炊けるのは正義だ。

 

 諸々の下準備を終えて、炊飯が終わった後に塩鮭を焼くためにソファに座る。一華も仕込みが終わって俺の膝へ頭を乗せてくる。っと、そうだ。

 

「一華、先にこれ渡しとくよ」

「……これは?」

「練習用の人を傷付けられない刀だ。一華の『牡丹』と長さも重さも同じにしてるから、家で鍛錬する時に使うといいぞ」

 

 寝そべりながら俺から刀を受け取った一華は、鯉口から刀身を少し引き出して刃を確認する。少ししてから刀を納めた後、刀をインベントリにしまってから俺の腹に抱き着いてくる。尻尾が大きく揺れているから、喜んでいるらしいのが分かる。

 少ししたら虎熊一家がやって来たので、手招きして近くに来てもらう。膝の上の一華を見て納得したらしい四葩が直ぐに来てくれて、虎熊夫妻もそれに乗ったような感じだ。

 

「四葩、コレ」

「む、なんじゃコレは?」

 

 特に何か言う前に練習用の刀を渡す、訝しげにしながらも『鑑定』を使ったのかその表情は段々呆れた物になっていった。

 

「……コレ、野獣指南役が持つのと同じ不殺の刃か」

「ああ、四葩の『手鞠花』と同じに造りにしてる」

「本当、なんでもアリじゃなタタラは」

 

 四葩が苦笑いをする、次に当主代行用の物を取り出して差し出した。

 

「四葩と同じ物です、あえて言うなら『竜舌蘭』と造りを合わせました」

「ふむ……手の馴染み具合も含めて『竜舌蘭』と瓜二つ、凄まじいな」

 

 手に取り、軽く確かめる当主代行は感心した様子でそう言った。その隣に並ぶお義母さんはやや呆れ顔である。

 早速庭先で模擬戦をしようとした父娘だが、お義母さんが背後から後頭部を強打して止めている。二人への説教の内容は四葩の舞を此方に居る内に少しでも稽古する事らしい、まぁ和笛も入れた本格的な稽古は当主代行も居るうちじゃ無いと無理だろうし当然か。

 そのまま眺めていると、炊飯完了を知らせる音楽が流れてきた。膝上で眠る一華を起こして向かおうとしたら、それより早く起きた一華が台所へ向かっていった。今まで寝てたのになんて反応速度だと思いつつ、俺も台所へ。一華が炊飯器のご飯を混ぜ込む隣で塩鮭を上げて、水分を布巾で取ってからフライパンの上に専用の網を敷いて火に掛ける。焦げないように見ながら、じっくりと焼きつつ時に裏返す。時折、身から脂が滴り落ちてジュッという音とともに芳しい香りが漂う。腹減ってきたな。

 ご飯を混ぜ終わった一華はそのまま味噌汁を仕上げに入り、台所は焼鮭と味噌汁の匂いで満たされ空腹が加速する。俺の腹の虫も早く食わせろと催促し、音を聞いた一華が微笑んでいる。

 塩鮭を焼き終えて、目玉焼きを焼こうとしたら一華が玉子焼きを焼いていた。今日は出汁巻きか、予定とは違うが一華の出汁巻きは大好きなのでコレはコレで良しである。

 丸皿に千切りのキャベツ、焼鮭、玉子焼きを盛り付けて一人前の完成だ。茶碗にご飯を盛り、汁椀に味噌汁を注ぐ。ありふれたとは言えないが、十分な朝食だと自負がある。

 

「ゴメン、ちょっと遅れたね」

 

 起きてきたエテルがそう言って声を掛けてくる、配膳を頼み三人で食卓へ朝食を並べてから庭先に虎熊一家を呼びに行く。気付かない内に雛菊さんが起きていて庭先で素振りしていたのでキッチリ声を掛ける。

 

「コレは、素晴らしい朝食です! 塩鮭は元々塩味がキツかったのでしょうが、今は丁度良き塩梅! いえ、少々塩味の強さは有りますが球菜の千切りがその塩味を程よく和らげる!! 更にこの白米、昆布と梅干しと共に炊く事で風味豊かな仕上がり! さりとて主張は控えめ、僅かな酸味が塩鮭の脂を打ち消し口の中をさっぱりさせる! 味噌汁は白味噌の淡い風味に玉葱の甘さ、そして旨味を吸った蕪の見事な調和です!!」

「……朝から元気だな、雛菊は」

「信じられますか……これ、無意識なんですのよ?」

「あの若者はよくコレを嫁に貰ってくれる決心をしてくれたな……」

 

 なんか久し振りに聞いた(書いた)気のする雛菊さんの食レポに、遠い目をした虎熊夫妻がそんなやり取りを交わす。うん、無意識でこんな語彙働かせるの本当に何なんだろうね?

 最早慣れたものである俺達は、その批評を耳にしつつ朝食を進める。出汁と味醂で柔らかい甘味を出す一華の出汁巻きは何時食べても美味いな、エテルのスクランブルエッグといいこの家は卵好きに取って天国だろう。俺限定の天国だとしても、それはそれで良きものだ。

 

 今日は家に残るという一華にバカと雛菊さんに糞野郎達の世話を任せて、残りの面子は家を出る。途中でエテル達とも別れて、俺と虎熊夫妻の三人は酒造所へ向う。

 暫く歩いた先に見えた巨大な施設を前に、虎熊夫妻は心より驚愕した様子だ。

 

「これだけ巨大な施設を、酒造のためだけに用意しているのか……」

「一応、この酒造所が酒神様の教会にもなっている事も理由ですね。礼拝堂って名前の宴会場が入ってますし」

「……普通、逆じゃありませんかそれ?」

 

 当主代行の呟きに俺が説明をすると、お義母さんからのツッコミが入る。普通は逆に思えるんだろうけど、此処は酒好き宴会好きの酒神様を奉る教会だ。此方のが正しい。

 

「お邪魔します、クラフト屋『forgeron』です。商会からの依頼で納品に参りました」

 

 前回は客として来たが、今回は依頼を受けたクラフターだ。丁寧な対応を心掛け、声を掛ける。

 

「あーい……って、タタラっちじゃん!」

 

 赤ら顔のドワーフである酒造長がやって来るなり、俺の顔を見て嬉しそうに声を上げる。本当にこの人は何時も楽しそうだ、見てる俺まで元気になれる。

 

「商会からの依頼ってっと、蒸留器かい!」

「ええ、追加の分も含めて2台お持ちしました」

「うん……うん、2台?」

 

 あれ、依頼されたから追加でもう1台作ったのだが何故依頼元である酒造長が知らないのだろう?

 考えてみると商会長からはお義母さん経由で言伝を預かっただけだ、商会長の事だから手紙で正式に依頼を受けた上で俺に伝えたはずだ。このままだと酒造長以外の誰かが商会長へ手紙を送った事になるのだが、まさか最高責任者の酒造長を通さないなんて事は無いはず。この酒造ギルドからの依頼の手紙には酒造長の封蝋が必須、それに心当たりが無いのは事件に繋がる。

 

「商会長の旦那が手紙も無しに俺達の依頼だって注文する訳はねぇんだよな……おーい、ちょっといいか!?」

 

 俺と同じ疑問を持った酒造長(神官長)が、酒造所にいるメンバーに声を掛ける。なんだなんだと100人近い作業員(神官)達が集まって来た。

 

「今日、タタラっちが去年納品してくれたあの高性能な蒸留器をもう1台納品してくれる運びになったぜ!」

 

 その言葉を聞いて大歓声が上がる。そんなに喜ばれると恥ずかしくなるが、同時に誇らしくもなる。コレだけの人に認められるってのは、胸を張れる事だろう。

 

「ただ、商会長の旦那からタタラっちがもう1台蒸留器を頼まれたらしい。お前達の中で、酒神様へ奉納する酒増やす為って俺っちの封蝋勝手に使った奴は居ねぇか!?」

 

 続いた言葉にその場のメンバーは一気に静まった。漂う空気は戸惑いで、パッと見た中で動揺する人が見当たらない。この場の作業員達にやった人物は無しだなコレは。

 

「……ってなると、やっぱりアレってことか!」

 

 途端に酒造長が嬉しそうな声を上げる、その声に対して作業員の人達も少しずつ喜色を帯びていき……一気に爆発した。

 

「お前達喜べ! 酒神様がまた注文してくれたぞ!!」

『ゥオォォォォォォォォォオオッ!!』

 

 酒造長の言葉に大興奮する作業員の人達。酒造長の言葉を信じるなら、商会長へ依頼を出したのは酒神様本神という事になる。

 

「あの、酒神様から直接依頼が出される事って有るんですか?」

 

 取り敢えず盛り上がってる酒造長へ確認をすると、めっちゃキラキラ輝いてそうな笑顔を向けられる。

 

「偶にだが有るのさ、直近ならタタラっちがあの最新型の蒸留器を納品してくれたヤツ。アレの依頼は酒神様からなのさ!」

「はいっ!?」

 

 え、あの蒸留器の依頼って酒神様から直接的な物なのか!?

 

「まぁ、正しく言うならあの依頼は商会長の旦那のとこへ直接手紙を送ったのが酒神様でな。その依頼がタタラっちのところへ届いたのは商会長の旦那の差配だ」

「成る程、俺への直接依頼って訳では無いから良かったですよ」

 

 工匠長になるとか、『卵』を作る前のいわば無名時代の俺を直接指名していたならヤバかった。だってその場合、なんの実績も無い時代から神の一柱から認知されてる事になるのだから。

 

「ま、俺っち達の中に神託を覚えてられる奴が居ないのが原因なんだけどな!」

「堂々と言わないで下さい」

 

 伝え聞いた話だが、酒神様の神託は基本的に宴会中に届くのだそう。ただ、そんな大切な神託も酒が入っていれば高確率で忘れてしまう。結果として、酒神様からの神託は届いてないも同然なのだ。いいのかそれで。

 

「所でタタラっち、その後ろにいる見慣れない方々は?」

「ああ、この前国交が樹立した陽出國の大貴族である虎熊家の当主夫妻です」

「……まじ?」

「マジです」

 

 ひとしきり盛り上がった酒造長が虎熊夫妻について質問をしてきたので、簡潔に答える。酒造長は軽く思考停止に陥ってしまったらしい。

 

「紹介に預かった虎熊家現当主代行、虎熊信綱と申す。以後お見知り置きを願いたい」

「妻の華澄と申します。夫共々、よしなにお願いします」

 

 二人から丁寧に挨拶をされて、酒造長は完全にフリーズ。従業員達はそそくさと逃げて遠巻きにしている。この人達、結構人見知りなのだろうか?

 再起動した酒造長は慌てて自己紹介を二人にする。普段の話口と全く違う敬語であり、何処か言い慣れていない様子だ。しかし、異国からのお客様なので礼法の違いに言及しないと当主代行に言われて少しずつ元の様子に戻っていった。うん、これなら大丈夫かな?

 

「で、タタラっち。このお二方を連れてきたのはどうしてだい?」

「ああ、この国のお酒を沢山味わって貰おうというのが一つ。この前樽でお酒を買いましたけど、このお二人にも飲んで貰ってます。他に気に入りそうな銘柄が有れば買って貰いたいですし」

 

 俺の言葉に酒造長は「かぁっ!」と息を吐いて、俺の背中を力強く叩く。なんか慣れてきたなコレ。

 

「いいねいいね、ノブっちは本当に強そうだし沢山飲んできなよ!」

「の、ノブっち……」

 

 酒造長の呼び方が大分不敬そうだが、なんだが当主代行はあだ名呼びに偉く感動している様子だ。

 俺は取り敢えず二人を酒造長に任せて、酒造所の奥へと進む。近くに居た従業員の人達に確認して、蒸留器を設置する。

 魔力源に繋ぎ、正常に稼働する事も確認して1台目の設置は完了した。所要時間は5分、やはり動力周りは簡略化しておくに限るな。

 もう1台は従業員どうしで相談している。2台目のスペースを事前に確保していなかったらしい、この辺が神託を忘れてる弊害だろうな。

 

「おう、兄ちゃん。此方だ此方」

 

 と、従業員の人達待ちの俺に声を掛けて来たのは作業服姿で男臭い髭面の作業員だ。なんだろう、以前会ったかな?

 

「もう1台の蒸留器は此方に置いて欲しい、案内するから付いて来てくれ」

「あ、はい」

 

 はち切れんばかりの筋肉が詰まった太い腕、その先のグローブみたいな大きさの手から親指を立てて道を示しつつそんな言葉を送って来たので自然と返事をしてついて行く。

 3分程歩いた場所に、随分と広いスペースが広がっていた。

 

「この広さなら置けんじゃないか?」

「十分、と言うか広すぎるくらいですね」

 

 作業員の人に答えて、インベントリからミスリル製の蒸留器を取り出す。それを見て、驚きの表情の後に凄く楽しそうな表情を浮かべる作業員さん。

 

「スゲェな、ミスリル製か」

「商会から依頼を聞いた時、素材を渡されなかったので一番多い素材を使わせて貰いました。教会への寄進って事で御目溢しして貰います」

「確かに、こんなん買ってたら10年間は何も買えねぇな!」

 

 酒神様の教会は寄進された礼として酒を譲っている、と言った体で酒を売っている。この『ワールウィンド』で唯一の酒造所なので、年間でも相当な売り上げを出しているはずだ。それでも10年間は新しい設備を導入出来ないと判断されるこのミスリル蒸留器、はたして都市長知られたらどんな目に合うやら。

 そんな事を考えつつ、魔力源を繋いで稼働開始。動作は正常だが、想定よりも蒸留する時間が短い。その癖やたらと高純度に蒸留されていた。

 

「とんでもねぇもん作んな、兄ちゃん!」

「すみません、想像以上に蒸留が早いですね」

「構わねぇさ、そんだけより多く酒が造れるって事だからな!!」

 

 豪快に笑う作業員さんに背中を力強く叩かれる。酒造長よりも力が入ってるのか、息が詰まりそうだ。

 ただ、とても喜んでくれた事は素直に嬉しい。

 

「それじゃ、新しい蒸留器が来た事だし乾杯と行こうぜ!」

 

 そう言ってインベントリから小瓶を2本取り出した従業員さん……インベントリから出したよな、別の事をした気配がしたような気がするけど気の所為だよな?

 

「祝の席だ、ほら!」

 

 そう言って小瓶を片方俺に差し出してくる。俺はそれを受け取り、瓶の蓋を開ける。途端に、以前嗅いだ事のある芳醇な薫りが鼻を突く。

 

「ってコレ、秘蔵の……っ!?」

「騒ぐな騒ぐな、取られっちまうぞ?」

 

 悪戯を成功させた悪童みたいな表情を向けてくる作業員さん。俺は周囲を見回し、他に人が居ないことを確認する。

 

「あのな、独り占めとか考えるんじゃなくて俺の心配して周囲を見回すなよ」

「でも希少なお酒じゃないですか、コレ。複数出した所を見られたら襲撃されますよ?」

「……ッたく、本当にお人好しな兄ちゃんだなアンタ?」

 

 そう言ってからデカい手で俺の頭を掻き混ぜるように撫でてくる。なんだが、ずっと昔に父さんに頭を撫でられたときの事を思い出すな。

 

「ま、俺の事なら大丈夫だ。それより早く飲もうぜ?」

「もう……ちょっと待って下さい」

 

 一言断ってから、ミスリルインゴットを取り出してタンブラーを二つ作る。限りなく薄い飲み口だが、二重構造にして真空の空間をタンブラー内に造り断熱構造にしている。片方を作業員さんに渡し、俺は自分の持っていた小瓶からタンブラーに酒を注ぐ。

 すると作業員さんは面白そうに笑って、俺の持ってるタンブラーに酒を注いでくれた。

 

「ったく、俺に酒を注がせたやつなんて中々いないぜ?」

「でも、こうやって飲むのも偶には良いでしょ?」

「ふは、ちげぇねぇな!」

 

 豪快に笑う作業員さんに釣られて、俺も笑う。

 

「んじゃま、何に対して乾杯する?」

「そうですね……適当な物でもいいですよね」

「そうだな、適当でいいな」

 

 一瞬の溜め、そして高くタンブラーを打ち合わせて音を響かせる。

 

『全ての人の幸福を願って』

 

 自然と声は重なって、異口同音の願いが紡がれた。そのままタンブラーを呷り、酒を飲み干す。以前飲んだ時と変わらず、いやもっと美味く感じる酒は多幸感を与えてくれる。

 飲み干して顔を上げると、蒸留器の所で俺は一人で立っていた。視線の先では当主代行とお義母さんが酒造長を筆頭とした酒飲み達と楽しそうに酒を呑んでいる。

 もしかしたらあの中に、酒神様も混ざって呑んでいるのかも知れない。騒がしい事、楽しい事が好きな神性だから人に紛れる事が多いとかなり昔に『天使長』から教えてもらった。

 俺はふと思い立ち、ミスリルのインゴットを取り出して『クラフト』スキルを使用する。作れたのは椅子に座り、豪快に笑いながら盃を掲げるムキムキマッチョの男性。何処か見覚えのある姿だが、多分気の所為だろう。

 きっと不敬な造形になってしまった酒神様の神像を蒸留器の側に置いて、今此処で酒を呑んでいる人達の幸福を願う。

 目を開けば神像は消えていて、きっと酒神様の所に届いたのだとそう思う。

 俺は振り返り、当主代行達の所へ向かって歩く。なんとなく足取りが軽いのだが、あの場所へ行って前後不覚になるまで飲まされない事を願う。

 何処か遠くで、盃を交わした様な高い音が聞こえた気がした。




タタラ→『クラフト』及び『槌適性』における鉱石素材に対する制限無しの特異体質。

最近暑すぎて執筆意欲が落ち込んむことが多い、何でこんなに気温が高いんだもっと雨とか降ってくれ()
一旦投稿しますが、多分追記します。

2025/07/10 4:20 11000→16000加筆修正。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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