※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント継続中。

今更ですが前話に加筆修正有り(2025/7/9)、話が繋がらないと思ったら確認をお願いします。

アンケート実施中、本能のままに選んで下さい。


幽かな不穏

 宴会場で酒造長を筆頭に、酒造所の人達と大盛り上がりしていた当主代行とお義母さん。二人は陽出酒を酒造所の人達に振る舞い、ある意味で文化交流を果たしていたらしい。

 酒造所の人達は陽出酒、その中でも清酒に分類される物を口にして材料や製法を分析している。その姿は正に職人と言えるな。

 虎熊夫妻の二人も二人で酒造所の人達から『ワールウィンド』の酒造について話を聞いていて、領内の蔵人に製法を伝えて陽出國流の酒を作る算段らしい。

 酒神様はこの辺の製法の伝授には全く制限を掛けてない、むしろ積極的に広めてより多く新しい酒が生まれる事を望んでいる程だ。なので、この場の事に俺は口出しが出来ない……何だか髭面のマッチョに心配すんなと肩を叩かれた様な気がする。

 

「いや、すまないタタラ殿」

「そちらはそちらのやるべき事が有ったんでしょうから、特に気にしてないですよ」

 

 そんな文化交流(酒宴)が終わったのは昼を過ぎて少し経ってからだ、酒造所の人達も酒造りに戻る必要がある為惜しみながら解散した。当主代行とお義母さんは結構な寄進をして、見返りとして大量のお酒を譲られたらしい……素直に買ったって言うべきだな。うん。

 謝る当主代行の顔は少し赤くなっている、流石は鬼と言うべき酒の強さである。少なくとも一人で樽を四つは空けてたはずなのに全く酔った気配が無い。

 

「タタラさん、蒸留器の作成は依頼出来ますか?」

「ちょっと都市長からの許可が無いと駄目かも知れないですね」

「そうですか……交渉、するしかないですね」

 

 此方は顔色一切変えてないお義母さん、恐ろしい事に当主代行の倍である八樽は空けてたと思うのだが全く表に出てない。それだけ取り繕っているのか、アルコールの許容量が凄いのか……絶対後者だなコレ。伝え聞く四葩の酒の強さ、お義母さん譲りなのでは?

 三人連れ立ち商店区の近くを歩く、小腹が空く中で屋台から漂ってくる美味しそうな匂いに胃が刺激されて思わず腹の虫が鳴る。それも二重奏。

 

「すみません、俺です。腹減ったので屋台で何か買い食いするのを提案します」

「すまない、儂だ。腹が減ったのでそこの出店で何か買うことを提案する」

 

 俺と当主代行が同じタイミングでそう口に出す、思わず互いを見合い目が合う。そこからはほぼ無意識、互いに手を差し出し合ってハイタッチをかました。

 

「……その、私もお腹が空きましたので二人の提案に乗ります」

 

 賛成三、満了一致である。さて、何を食べるか。食べる場所はステージ近くに広がるテーブル席がいいだろう、今日はよく晴れて風も心地良いからより美味く感じる筈だ。

 串焼きを筆頭に海鮮焼きやホットドッグ、焼きそばならぬ焼きパスタ等を買ってくる。飲み物はクラフトエールを見付けて購入、虎熊夫妻は各家庭でスパイスを配合してクラフトドリンクを作っているという『ワールウィンド』の風俗に驚いている様子だ。まぁ、俺の家では基本的に出さないから知りようも無い事だからな。

 俺は好物であるジンジャーベースの物にした、俺からフレーバーを聞いたお義母さんはシナモンベースを選んでいる。当主代行は戸惑いながら俺と同じジンジャーベースだがより辛味の強いフレーバーを選んでいる。うん、確かあのフレーバーって酒飲みが好むって話を聞いたことが有るな。らしいと言えばらしいチョイスだ。

 テーブル席に着き、卓上に広げられる屋台メニュー。三人とも手を合わせて頂きますの挨拶をして早速食べる。

 ホットドッグはソーセージにかなりのスパイスを使っている。独自配合なのだろう、中々癖の強いやや臭みの出る配合だ。しかし、この臭みは飲み物が欲しくなる……具体的には酒が欲しくなる癖だ。そこでクラフトエールを呷れば、生姜の風味と見事なマッチを魅せて来る。別々の店で買ったと言うのに、懐の深いスパイス配合である。肉汁を閉じ込める茹で焼き具合もまた旨味を発揮させている、コレは当たりを引いたな。まぁそもそもこの出店郡に店を出せるってのは相当な腕を持ってないと無理なのだとか、商会長の審査が厳しいとよく聞く。

 串焼きを試しに口にした当主代行は驚きの表情だ。この前買って帰った串焼きは若干冷めていたし、改めて出来たてを食べるのは初めてだろう。

 

「驚いた、屋台でこれ程の味とは」

「この前ご紹介した商会長が厳しく審査していまして、ここに並ぶのは並々ならぬ努力が要るみたいですね」

「成る程、激戦区なのですね此処は」

 

 俺の説明に対して納得した様子のお義母さん、その手にはツイスターポテト。赤い色を見るに唐辛子系のフレーバーを使った物だろう……アレも酒飲みが好むやつだったような。

 

「だが、海鮮焼きは少々物足りぬな……」

「醤油での味付けが最強なので仕方ないですよ、国交が始まりましたし暫くしたら醤油ベースの味付けも出て来る筈です」

 

 海鮮と醤油の組合せを越えるスパイス配合は残念ながら見付かって無い、コレはコレで美味いのだがバターとスパイスよりもバター醤油の方が残念ながら旨味は上だ。

 とはいえ、コレはコレでエールが進む味だと思う。お義母さんも気に入ったのか次々と摘んでいる。

 俺は『ワールウィンド』の屋台の定番とも言える焼きパスタに手を伸ばす。焼きそばの亜種、柔らかく茹でられたパスタをオリーブオイルと玉葱、キャベツそして複数のスパイスと一緒に炒める物だ。ソースで作る焼きそばとは別物だが、塩焼きそば系列だと思うと十分に美味い。『ワールウィンド』の屋台は食材の保存と、満足感を上げる為にやや辛味を強くする傾向が有る。今回選んだ焼きパスタもその方向の味付けで、食欲を刺激しつつも味を複雑化させる事で量としては控えめだが満足感が凄い。

 

「いかんな、陽出人の悪い癖だ。醤油を欲してしまう」

「お義父さんはなんでそんな海鮮関係ばっかり選んでるんですか」

「釣るのも食べるのも好きでな、釣りたてを捌いて食うのが止められんのだ。結果、屋台で海鮮を見るとついつい、な」

「この人、小さな瓶に醤油や塩を詰めてよく釣りに行くんですよ。余ったら持って帰って来てくれますが、連れてってはくれないんですから」

 

 食事の最中で交わすのが何だか家族のそれに感じて仕方ない、四葩を差し置いて俺がこんな事をしてていいのだろうか?

 そんな事を考えていると、頭をくしゃくしゃと撫でられた。

 

「思い悩むな、タタラ殿。義理の息子となる相手と食事を取る事に、なんの問題が有ろうか」

「それでも、本来の家族との団欒だって有ったのに」

「お主は気にし過ぎだ。その程度で崩れる絆では無い」

 

 そう言って笑う当主代行に、何故か安堵を覚えた。

 

 食事を終えて、途中で何時もの服屋に寄って二人の服を買う。当主代行にポロシャツとジーンズを贈ったら筋肉質な身体が目立って凄かった、同じ服の色違いをお義母さんにも買ってペアルックにしてみる。お義母さんはそっと当主代行に寄り添って満足そうな笑みだが、当主代行は緊張しているのか鯱張っている。

 そのまま数着此方で主流の服を買い、帰路を歩く。着替えた上でも目立つ二人だが、向けられる視線は夫婦仲を示すペアルックに対しての微笑ましい物な気がする。

 

「むぅ、注目されておるが……」

「御二人が同じ服を着てるから、ですね。此方ではペアルックって言って、仲のいい男女がよくやるんですよ」

「成る程、タタラさんとエテルさんの服が偶に同じ意匠だったのはそのためですか」

 

 それは俺も意図しなかったもので、エテルがこっそりやってる事ですお義母さん。

 

「む、それなら一華も似た意匠の服を着ていたぞ?」

「……正直に言うと、好きな服を買ってやろうとしたら俺の服に似たものを持ってきまして」

「成る程、そうやって外堀を埋めに掛かったのですね」

 

 当主代行の疑問に答えると、お義母さんが納得と言った具合に頷く。一華の行動に計算高さを感じるのか、それとも健気さを感じるかは分からない。

 

 そうして雑談を交えて家に着くと、都市長の所の鳥型ゴーレムが門の所に佇んでいた。サイファーが役目を代わってから初めて来たんじゃなかろうか、嫌がってたしもう来たくないだろうに都市長もゴーレム使いが荒いな。

 

「久し振り、今日はどうした?」

 

 俺が呼び掛けると、鳥型ゴーレムは肩に飛び乗って来た。その足には手紙が括られている。

 

「確かに預かった、ありがとうな」

 

 都市長から報告は都市祭が終わるまで控えろと言われているので、礼だけ伝えてゴーレムを解放しようとした。しかし、鳥型ゴーレムは飛び立たず俺に何かを催促している様子だ。はて、何だろう?

 

「今は報告する事は無いぞ、つか都市長から止められてるし。それに、何か有ったら俺の所のゴーレムが手紙を届けるし大丈夫だ。もう俺の所に来なくてもいいから、な?」

 

 そう言うと、鳥型ゴーレムが気落ちしたような、項垂れたような姿を見せてから飛び立った。何処か飛び方が不安定で、フラフラと中枢へ向けて飛んでいく……何だか感情に目覚めてるみたいな挙動だな?

 ゴーレムの挙動を心配しつつ、手紙を拡げる。内容としては明日の朝に客人が来る事、内容としては武器の製作依頼らしい。俺が持ち込みでないと魔法金属関係は魔鉄や形状記憶合金くらいなのは説明してるのかな?

 制作物の内容によっては明日は探索見送りかなコレは。

 

「手紙の内容を聞いても?」

 

 考え込んでいた俺にお義母さんが声を掛けてくる、流石に手紙に気を取られすぎたか。

 

「いえ、明日都市長から俺に客があることを伝えて来ただけですね。武器を作って欲しいみたいですけど、細かい内容は書いてないです」

「ふむ、タタラ殿に製作依頼を回す相手とは中々に重要な相手ではないか?」

「まさか、それなら都市長自身が製作しますよ」

 

 忙しいから難しいとしても、VIP相手なら都市長は時間を作ってでも作成するだろう。それこそ、相手から俺が直接指名されていない限り(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)はあり得ないだろう。

 そんな会話をしつつ庭先に向かうと、糞野郎とバカが向かい合って高速で型稽古を取っている。肉体を傷付けない事を良いことに、より効率的に剣を急所へ当てる事に最適化しているようだ……なんでビビらずに出来るんだあのバカ。

 そこから少し離れた所で、一華と雛菊さんが模擬戦をしている。と言うか、糞野郎達と同種の刀を持ったからか一華の攻撃を受ける方向で稽古をしているらしい。これなら雛菊さん用の刀も作らないと駄目か。

 

「ふむ、酒を抜く為には儂も動くか。宗矩に相手をさせるか」

 

 酒で身体が火照ってるのかそんな事を零す当主代行、糞野郎は御愁傷様といった具合だ。

 俺は雛菊さんと打ち合い続ける一華を眺める、服装は昨日俺が作った忍び装束で早速動きを確かめているのだろう。『飛行』を獲得した影響で、空中へ逃げる雛菊さんへ空を蹴る事で追いすがっているのはシンプルにエグい。

 

「駄狐、お前はこれ程に至るか!」

「雛菊も剣技の鋭さが増してるでござるよ、コレも愛の力ってヤツでござるか?」

「はっ、お前もだろうに!」

「当然、拙者の身体はご主人の愛で満たされてるでござるよ!」

 

 恥ずかしい言葉の応酬をしながら、戯れと言うにはあまりにも鋭い剣技の応酬が続く。一華は物理攻撃上昇がランクアップ出来るようになったら『性魔術』を取得するって目的を覚えているんだろうか?

 

「愛されてますね、タタラさん」

「その分愛してやれてればいいんですけどね」

 

 俺に対して誂おうと思ったのかそんな事を言ってくるお義母さん。まぁ、そんな風に傍から見ても分かる愛情を向けてくれている一華に愛を返せていればいいんだが。

 

「そう言えばお義母さん、何か作って欲しい魔導具とか有りますか?」

「唐突ですね……」

「簡単な物なら概念武装でもいいですよ?」

「タタラさんにとっての難易度ってどうなってるんですか?」

 

 複雑な構造を構築する魔導具も、世界から認知を得る概念武装も似たり寄ったりだと思うのだが。まぁ、コレは何方も作れる俺の感覚か。下手に理解して貰おうとか考えない方がいいな。

 お義母さんは少し考えてから、一つ頷く。

 

「魔導具と認識されるかは微妙ですが、四葩や一華のような防具が欲しいですね」

「防具、ですか」

 

 お義母さんの顔を見ると、何処か覚悟の決まった目をしている。コレはもしや、学生運動の時に参戦するつもりでは?

 

「実は私、戦装束を持っていないのですよ」

「普通、貴族の伴侶が持つものではないのでは?」

 

 いや、うちの国の皇族ならその限りではないけど。むしろ戦装束持ってない側室が居ないだろうし。いや、うちの皇族以外でも貴族令嬢とか基本的に戦装束持ってるわこの世界。そう考えると貴族で戦装束を持ってないことの方が異端なのか……?

 

「四葩と同じタイプ……は抜きにしても、正直異性の防具は作りたくないんだよな」

「あら、何故でしょう?」

「相手の身体を採寸する必要が有るからですね、四葩や一華は親しいからこそ出来ましたけど……流石にお義母さんは当主代行に対して礼を失するので」

 

 貴族は平民に身体を見られても気にしないかも知れないが、俺は庶民なので気まず過ぎる。義母の身体を見るのは更に気不味い。そんな俺を見てお義母さんは困った表情だ、理解されないかなコレは。

 

「タタラさんは私の肌に欲情するのですか?」

「するしないの問題じゃなく、当主代行が伴侶の肌を他の男が見る事にいい気持ちがしないでしょうよ。俺だってエテルや四葩の肌を他の男に見られたら気分悪いですし」

 

 自分が嫌だから他人にしないなんてのは当たり前だと思う、愛する人が関わるなら尚更。

 

「何やらご主人が困ってる気配を察知したでござる」

「一華、最高のタイミングだよ本当」

 

 そんなタイミングでシュタッと音が聞こえそうな速さで一華が俺達の側にやってくる。庭先を見ると雛菊さんと一華が戦っている……え、分身したの?

 

「拙者は忍者でござるからな、分身くらいはするでござるよ」

「うん、自然に心を読まないでくれ」

 

 一華は何故俺の考えを読めるのだろうか、助かる場面も多いけど。

 

「おそらく、エテル様と同じでござるよ。魂から相性が良い故にご主人の考えが伝わってくるでござる」

「うん、なんだそれ」

「わかり易く言うと以心伝心ってヤツでござるな」

「文字通りに伝わるとか想定してねぇよその言葉」

「……拙者の目を見て本心を言い当てるご主人も十分おかしいんでござるけどなぁ」

「そうか?」

 

 俺の心を読める理由を一つ挙げる一華だが、あまりにも信憑性が無い。夢魔のパートナークラスに相性が良い相手など、そう何人もいないはずだ。それに、俺が一華の嘘を見抜けるのは一華の目が嘘を吐け無いからだ。瞳孔の開きや瞳の色は正直で、一華自身が本心では嘘を嫌ってるから表に出やすいのだ。

 

「まぁ、俺と一華の相性がいいってのは一先ず置いておく。それはそれとして、お義母さんの採寸を頼めるか?」

 

 俺の言葉に一華は首を傾げる。

 

「拙者や四葩は直接測っていたでござるよね?」

「恋人自身の身体は測れても、その親とか無理だろ倫理的に」

 

 俺の言葉に一華は苦笑いする、そんなに変だろうか?

 

「ご主人が困っているので今回は助けるでござるよ。ささ、奥様向こうで測るでござる」

「ええ、そうですね」

 

 お義母さんも釣られて笑っている、コレは俺だけが変なのか?

 

「……華澄がすまないな」

「って、当主代行!?」

 

 あれ、糞野郎と酒を抜く為に模擬戦するのでは?

 

「まだ暫く宗矩と彼の稽古が続きそうでな、興味深いやり取りも有って少し見させて貰っていた」

「ああ、そういう……」

「うむ。で、華澄なのだがな。どうもタタラ殿を身内判定してしまっているらしく羞恥心が働かん、アレも生まれが貴族故に召使いに身体を見られ慣れておるのも有るだろう」

「それは……」

「正直、タタラ殿が普通に羞恥心が働く事に助かっておる」

 

 当主代行は一通り語ってから溜息を吐く、今までもそれなりに苦労が有ったんだろうな。

 

「あの、お義母さんからの依頼だからって戦装束とか作って大丈夫でしたか?」

「良いか悪いかで言えば悪いだろうな、必要であったなら帝から贈られてくるだろう」

「……改めて、お義母さんの陽出國での立ち位置重くないですか?」

「重いぞ。建國からは多少ズレるが、それでも國有数の古き祭事を執り行う立場故な」

 

 そんな重要人物のフットワークが軽いの、本当なんとかして欲しいな。いや、世界法則(システム)やら祖神やら国のトップやらが気軽にこの家へ来るけれども。

 

「國の最高位者から品物を贈られる相手に、俺から何か作って贈るのは流石に憚れますか……」

「まぁ、それも物次第だと思うがな。タタラ殿の場合、帝の宝物庫に眠る物より上のものを造りそうだしな」

 

 不安を零す俺に対して慰めともつかない言葉を送って来る当主代行。俺の場合は概念武装が下手したら国宝認定を受ける代物らしいから、その言葉を否定しきれないのがなんとも。

 

「当主代行から見て、例えば俺が贈った釣竿とかって」

「アレは家宝だが?」

 

 いきなり圧が強くならないで欲しい。そんなに釣り竿が気に入ったのか、当主代行。

 

「いや、その……陽出國の帝にとって國宝に値するかなと」

「価値として見るなら十分だろうな。タタラ殿としては感覚が麻痺しているかも知れぬが、真銀とは本来希少な代物でありそれで作られた物は家宝や国宝足り得る物なのだ」

 

 それは食器や釣り竿にまで適用される法則なのだろうか?

 

「お待たせしました、タタラさん」

「お待たせでござるよご主人」

 

 当主代行との会話をしている最中、お義母さんと一華が戻ってくる。一華は細かく計測した数字の書かれたメモを俺に渡してくれる……のはいいのだが、バストサイズのアンダーとトップを書くのは控えてほしかったな。

 

「それでは、コレなら作って行きますけど……四葩の『紫陽花』と同じ構造でいいですかね?」

「あら、母娘のぺあるっくというのは珍しいのですか?」

「いえ、母娘コーデってのも普通に有りますから」

 

 髪色が違う為に印象は大分変わるが、実際四葩とお義母さんの面差しはそっくりである。色違いで同じ服を着たら血縁なのは即座に分かるだろう、母娘よりも姉妹だと思われそうではあるが。

 

「属性を付与する箇所に希望とかってありますか?」

「それでしたら、上は火で薄桃色にして袴は水で濃紺に出来ますか?」

「まさかの色指定」

 

 流石に試したことは無いが、頼まれたならやるのがクラフターだ。とは言え、四葩の『紫陽花』とは違い鎧では無く着物のようにするしか無さそうだ。

 早速工房に入り、作成を開始。お義母さんと当主代行も気になったのか見学に入っている。分身していた一華は鍛錬に集中するつもりらしくドロンと消えた。

 ミスリル銀糸を王玉で強化し、複数の属性強化を果たしたミスリル銀糸を用意する。それを織り布を作成、ただし上と下では作成方法が少し違う。

 薄桃色を生むために火と素のミスリル銀糸を織り交ぜて布を作る。属性なら氷が白を生むのだが、反対属性なので下手したら打ち消しあってしまう故にこの方向だ。セントミスリルにしても良かったかも知れないが、妖怪と天使族のオーラでは相性が悪そうなので却下した。

 色合いを出すのが難しく、薄桃色と言うか桜色になってしまった。属性吸収の効果は保っているが、お義母さんの要望に添えているか微妙だ。

 

「あら、綺麗な桜色ですね」

「う、すみません」

「安心するといいタタラ殿、華澄は桜の花が特に好きなのだ」

 

 当主代行の言葉に思わず振り返る、その目には気休めの色などは見えず真実を語っているのが分かった。

 

「その、私の歳では桜色は痛いかと」

「普通に似合うと思いますよ、見た目若いし」

「華澄はいくつになっても美しいのだ、胸を張れ」

 

 歳を気にして指定しなかったらしいが、普通に似合うだろう。この人の見た目で歳を指摘したら、都市長やシスター・カレハにぶっ殺されかねない。それと多分、レイチェルさんならアルバートさんとお揃いで着る。

 そんなやり取りをした後は、袴の布を織る。此方は水の王玉で水属性を得た銀糸と、土の王玉で土属性を得た銀糸でそれぞれ布を織り表に水、裏に土の布を重ねる事で深い青を生み出す。此方は上手く濃紺が作れたので個人的には満足だ。

 そして此処から着物を作るのだが、なんとお義母さんが直々に指導してくれた。陽出國では布から服を作るのは女にとって必須の技術らしく、かなり厳しいが的確な指導でかなり上等な着物を作れた。帯は風の属性の銀糸を織って作る。最後にミスリルの銀糸で上着に桜、袴に白波の模様を造り完成だ。

 センスの無い俺としては、結構な自信作だ。優れた指導者の下で作ると出来栄えが違うな。

 

「お義母さんのお陰で上手く作れたと思います、着物の作り方まで教えて貰ってありがとうございます」

「いえいえ、私もこんな素晴らしい装束を作って貰えるなんて思いもせず……ふふ。いくつになっても、新しい服には胸が高鳴りますね」

 

 俺の手から受け取った戦装束に対して少女のように笑うお義母さんに、作ってよかったと心から思う。うん、この流れなら行けるな。

 

「それではお義母さん、それを作ったご褒美をいいですか?」

「あら、タタラさんが珍しいですね。それでは何を?」

 

 俺はチラリと当主代行に目を向けた後、悪戯小僧の様な笑顔で言う。

 

「コレから当主代行の魔導鎧『大紅蓮』を作るので、人工筋肉と術式の調整をお願いします」

「はい喜んで」

「ちょっと待てい!?」

 

 俺の言葉に光速で返答したお義母さんを見て、当主代行が焦りの声を上げる。俺とお義母さんはそんな当主代行に不思議そうな表情を揃って向ける、何か息ぴったりだな?

 

「どうしました、貴方?」

「魔導鎧とはなんだ!?」

「あ、機動鎧の方が良かったですかね。魔導具なので魔導鎧なんて言ってますけど、動力積んで動かしてるから機動鎧『大紅蓮』でも」

「格好良い呼び方だが論点はそこでは無いぞ!?」

 

 少し誂いを含めた俺の論点ずらしに、盛大にツッコミを入れる当主代行。お義母さんは当主代行の死角に入って声を殺して笑っている。

 

「う、別の呼び方がいいですかね。アーレムも念動甲冑って呼んでたら商会長から『重々しくて子供が離れる』って言ってきたんですけど」

「む、儂としては『念動甲冑アーレム』は物語の表題のようで好みではあるが……ってそうでは無い!」

「なら『機動具足ダイグレン』は?」

「おお、心が躍るな……でも無い!」

 

 連続してツッコミを入れた為か当主代行の息が上がる。さて、そろそろ主目的を話すかな。

 

「さて、この魔導鎧『大紅蓮』についてスペックデータをお話しますね」

「いや、それは気になるが……何故いきなり『大紅蓮』を」

「見せて貰った時に『解析してより高性能な物を用意する』と、そう約束しましたから」

 

 手伝ってもらう上で焚き付けはしたが、協力してくれたお礼は初めから決めていた。そもそも、当主就任の祝いとして鍛造ミスリル製の鎧を一領贈ることは前々から決めていたのだ。多少タイミングが早くなろうと、敵対している派閥でもなければ当主代行が持っても問題に思う事は無いだろう。

 

「わざわざ嫌がる俺から無理やりアーレムを100万で買ったんですから、これくらいはいいですよねぇ?」

「タタラ殿、笑顔なのに圧が強いぞ!?」

 

 笑顔というものは本来攻撃的な物で、牙を剥く動作が元なのだとか。真実は知らんが、今の俺は確実にそれを体現しているだろう。

 

「それじゃ鎧作成の為に採寸するんで」

「む、そうか」

「お義母さん、剥いて下さい」

「よしきた」

「儂が自分から脱ぐんじゃなくて華澄に剥かせるの!?」

 

 驚き戸惑う当主代行にお義母さんが組み付き、服を脱がせていく。当主代行は抵抗している様子だが、完全に実力で負けているらしく一方的な様子。コレ、お義母さんかなり高い『体術適性』を持ってるな?

 数分と掛けず褌一丁にされた当主代行は、両腕で自らを抱きしめながらさめざめと泣いている。

 

「貴方、生娘でもあるまいに泣かないで下さい」

「鬼畜かお前は!」

 

 お義母さんのあんまりな言葉に男鬼らしい筋肉質な肉体を怒らせて抗議する当主代行、やはり生物として別規格って感じがするな。

 

「それじゃ、測っていきますね」

「タタラ殿も遠慮や容赦というものをだな……」

「俺は遠慮してるのに容赦なく100万を押し付けられましたが?」

 

 俺の言葉に当主代行の抵抗が止まる。自分のふり見て我が振り直せというヤツだな。動きが止まった当主代行に対して何時もの如く糸で採寸してゆく、剣を振ってる影響か左腕の方が若干長く太ましい。脚も蹴り足になるからか左脚がやや太い、それでも全体的に綺麗なバランスで成り立っているのだから丁寧に鍛えたのが分かる。鬼は長寿だと言うから、何十年いや何百年と鍛錬を続けて来たのだろう。四葩も当主代行の血を引いているから日々の鍛錬にあれだけ真摯に向き合っているのがこの肉体を見て分かった。

 

「……先程までとは顔付きが別人のようだ」

「それだけ真摯に鍛冶へ向き合っているのですよ、剣に向き合う時の貴方そっくりです」

「それではまるで、母娘二代で似た男に惚れたかのようではないか」

「ふふ、あながち間違いでは無いかもしれませんね」

 

 測った数値から鎧の設計をしていたら何か脇で会話をしているのが耳に届くが、製図に集中しているのでイマイチ内容が分からなかった。何となく、真剣に向き合う姿に何か言われた気がするが取り敢えず今は鎧に集中だ。

 アーレムを作る際に読み取った構造や設計理念を念頭に起き、『大紅蓮』を魔導鎧として再設計する。型式は俺の『黒煌』と同じにして、日本甲冑の彼是を作る。

 アレンジとしては大袖、『浮身石』と『感応』の術式を併用してシスター・カレハの盾と同じ浮遊盾として作成する。当主代行の刀術を邪魔する要素を少しでも減らす為だ。

 紐緒は全てミスリル銀糸を撚り合わせて作り、頑強さを上げる。ただ、緊急時に脱がす上で即座に解けるように術式を組んでおいた。術者よりもクラフターの方が対応し易い筈で、何方にも精通したお義母さん用とも取れる。

 元の『大紅蓮』の装甲を真似た為にかなり厚みが出来た、『大紅蓮』に比べると遥かに軽いのだがミスリル製と考えると相応に重い。故に、装甲の裏に『反重力』術式を刻み重量を軽くする。

 

「タタラさん、内部構造に移りましょう。人工筋肉の術式を刻みますので師匠の技を血眼しておろがむといいでしょう」

 

 別にお義母さんに弟子入りはしてないのだが、教えは受けてる身だ。言われたとおりに集中して見る、『概念鑑定』も発動した本気も本気の見学である。見取り稽古と言った方が合ってるか?

 先ずは俺が関節部になる部分を鍛造オリハルコンで作り、そこに隠れて用意していたイヴィルミスリルを張る。当主代行の腕に装着してから、お義母さんが術式を刻んでいく。

 俺の『黒煌』に使った人工筋肉の術式を遥かに越える精緻さと情報量で、これをただ一人愛する人の為に作り上げたお義母さんの愛情の深さに脱帽する。ま、今此処で全て学び取るけどな。

 両腕を終えて、背中や腰、両足と次々に専用の術式を人工筋肉に刻んでいく。そうして中身が出来たなら、愈々装甲を施していく。

 日本甲冑らしい複数のパーツを次々に施し、緒で締める。人工筋肉をそのままにするつもりは元からなく、その上にはミスリル銀糸を織った布を被せた。お義母さんと同じ桜を目立たないように同色の糸で仕立てておくと、お義母さんが俺にだけ見える位置で親指を立てて来た。ラブラブ夫婦だな本当。

 兜は当主代行の角にぶつかるので、前世のハンティングゲームに出た鬘と一体化したような鉢金(ヘッドギア)と面頬のセットだ。

 最後に、王玉による属性付与を実施する。頭部の鉢金と面頬に火の王玉を使用して、炎髪とも言える見た目を生み出す。胴鎧には水の王玉を使用、防御力を優先した。腕には土、『竜舌蘭』は攻撃力が飛び抜けているので此方も防御力を優先。脚には風、機動力を増して吶喊と離脱をし易くする。

 

「……これで、完成ですかね」

「『大紅蓮』と見た目は近いが、完全な別物だなコレは……」

 

 完成した『大紅蓮』を纏った当主代行を姿見の前に立たせれば、兜ではない影響で鬼の姿の体現とも言える威圧感を放つ姿が映った。

 

「タタラさん、この『大紅蓮』に銘は?」

「そのままでもいいと思いますけど……差別化するなら『風林火山』ですかね」

「タタラ殿、前々から思っていたが我が國について詳しすぎやしないか?」

「そうですか?」

 

 ヤベ、某武将の旗印に書かれたやつを出したら疑われた。とは言え、転生云々は信じて貰えないから適当に誤魔化すか。

 

「古文書を漁ってた時にでた戦いの原則みたいな物だったんですけど、それって陽出國関連だったんですかね?」

「む、そう言えばあの武将が掲げた物も大陸から伝わった兵法が元だったか。ならば、此方に伝わっているのもおかしくないな」

 

 よし、誤魔化せた。お義母さんから地味に疑われてるが、特に問題は無いだろう。

 そうやって2人分の防具を作り終え、庭先に戻るとバカと雛菊さんが座禅を組んでいた。糞野郎は監督役で、一華は夕飯の準備中。俺は台所へ向かい、手を洗って手伝いに入る。

 

「待たせた、手伝うよ」

「ご主人来た、コレで勝つるでござる!」

「それ、何処かの方言(語録)か?」

 

 久し振りに聞いたな語録、流し見た一華の顔は満面の笑顔だ。そんな一華に苦笑いしつつ、一華が用意している物を見る。時雨煮だろうか、やや味が濃い目の物になりそうなので俺は薄口の汁物を作るとしようか。白味噌にトマトとキャベツ、そして玉葱の味噌汁だ。トマトの酸味に、キャベツと玉葱の甘味を合わせたさっぱりした物だ。あえて出汁は取らず、野菜の味を引き出して味噌を溶かす事に注力した。大分甘い仕上がりだが、トマトの味が口をさっぱりさせてくれてとてもいい。この中に海老を入れていたらメインにもなれそうだな、烏賊を入れてもいいかも知れない。

 

 

 鍛錬の終わったバカを雛菊さんが送り、糞野郎が中枢へ帰った後、エテル達が帰ってくるのを待ち全員が身を清めた後に夕飯を頂く。箸の使い方を覚え始めたエテルを、更に丁寧に指導しているお義母さんの姿を眺めつつ一華の時雨煮を堪能する。やはり濃くて甘辛い味は米を進ませる、アレンジとして肉に塩コショウ以外でも胡麻を振り掛けていたのだろう香ばしさが増している。適度に弾力の有る肉を噛み続けると、中から肉汁と肉汁が溢れ出して混ざり合い大変美味だ。

 少し口の中が濃くなったところへ、味噌汁を一口。時雨煮の濃い旨味にだいぶ劣るが、その分口の中をスッキリさせる事を意識した味噌汁は口の中を濯ぐ。玉葱とキャベツの甘味の後に、トマトの酸味が届いて口の中を抜けていく。

 

「むむ、ご主人の味噌汁は美味しいでござるが……少し拙者の時雨煮の味が濃すぎて負けてるでござるな」

「あ、なら檸檬の皮を少し入れるか?」

「いただくでござる!」

「タタラさん、私にもそれ少し下さいますか?」

 

 早速サイファーが鉢植えの木からなっていた檸檬を一つ届けてくれたので、皮を少し削って一華とお義母さんの味噌汁の上に掛ける。俺も自分の味噌汁へ入れて啜れば、柑橘系の爽やかな風味がよりサッパリとして後味を残してくれる。

 

「タタラ、妾も欲しい!」

「儂のにも頼む!」

 

 汁椀を差し出してくる父娘に微笑ましく成りつつ、リクエストに応える。エテルも食卓の雰囲気に笑顔を浮かべている。

 今日も我が家の食卓は幸福に満ちている。

 

 

「それでね、タタラ。そろそろステータスアップアイテムが全員の補填が出来そうなくらいに集まってきたよ」

 

 食事の後片付けを終え、食卓に残ったエテルがそう切り出してくる。同じく食卓に残り茶を啜っていた四葩も頷きながら、更に追加してくる。

 

「妾の『盗む』スキルもランクがⅣになった、そろそろ次の候補を考えねばならん」

「早すぎねぇか?」

 

 いくらなんでも覚えてから数日でコンプリートに近いってどうなんだ、エテルの性魔術並みの成長速度じゃねぇか?

 まさか『概念鑑定』で確定にした『盗む』を更に『鍔目返し』の回数増加が悪さして一気に経験値稼いでたりするのだろうか……何倍の経験値になってるんだこれ。

 

「それならトラッちゃんは次に『性魔術』取った方がいいね」

「むむ、魅了対策は『手鞠花』で十分ではないか?」

「いや、ちょっとエテルが昨日恐ろしい事を言い出してな……」

 

 そうして、一華とタチアの脳を俺の『性魔術』で破壊しかけている事を伝える。段々と四葩は頭が痛いのか額を抑えていく。

 

「……タタラ、お主は淫魔に転生しておらぬか?」

「やめてくれ、エテルから一般的な夢魔の5倍とか意味不明な数値を言われて自分でも人間か疑ってるくらいなんだから」

 

 前世のエロゲー・エロ漫画で猛威を振るったマジカルチンポの疑いすら有る己の愚息に、自分でも頭が痛い。四葩も『性魔術』を取得して貰わないと、下手したらその聡明さを失わせてしまうかも知れない。中々に変な問題である。

 

「明日、朝から都市長の依頼で来客対応が有るんだ」

「むぅ、ではタチアと妾達だけでステータスの補填をしてから再度探索へ向かうかのう?」

「俺も早く依頼が終わればそのまま行きたいんだよな、タチアを含めた3人で少し庭先で鍛錬しててくれないか?」

「うん、それくらいなら」

 

 タチアは今日も門限の為に先に帰っているが、『念話』を飛ばせば大丈夫だろう。あ、鍛錬と言えば。

 

「エテル、剣の方はどうだった?」

「え、うん……何か普通?」

 

 歯切れが悪いと言うか、イマイチ自分でも評価が難しいみたいな反応である。四葩を見ると、難しそうな表情だ。

 

「……正直、妾の目ではエテルの剣技に評価が付けられぬ」

「そうなのか?」

「うむ、ハッキリと言えば才覚は次元が違う。まるで斬れる事が前提で刃をその通りに振っているかのようでな、今日一日で何匹の敵の首を落としたか分からぬ」

 

 まるで『概念鑑定』で確定クリティカルを発揮する四葩の剣技そのままの様な説明だ、エテルの技量はそれ程までに高いのか。

 

「しかし、少し問題も有る」

「え、そうなの?」

「問題って何なんだ?」

 

 言葉を続ける四葩に、エテルと俺は同時に身を乗り出す。四葩は一つ頷いてから、言葉を続けた。

 

「エテルは恐らく、人間相手に剣を振るえぬ。相手がモンスターに限るのじゃ」

 

 その言葉を聞いて、俺の中に複雑な感情が湧く。人に刃を振るえないのは良し悪しだ、特に学生運動の近付く今の『ワールウィンド』では尚更。

 

「トラッちゃん、私が人間に剣を振るえない根拠は?」

「疑いは今日戦った『小鬼(ゴブリン)』相手に剣を振るった所からじゃ、そして『豚鬼(オーク)』と『吸血鬼』を相手にした所で確信に変わった」

 

 そうか、人型を取るモンスター相手に剣を向けた時に何か有ったのか。

 

「え、嘘。背後から首を一撃で斬ってたよね?」

「え゛」

「急所を撫で斬り出来るから才能は確かじゃの、何なら確実に妾より上ですらあろうて。しかし、人を斬る才能が有るかは別じゃ」

 

 四葩曰く、剣を振るのは上手いが対人戦の機微を読む事には疑問が残るという事。共感性が強い為、その痛みを想像して刃を振るえない可能性すら有ると言うのだ。

 

「……そう言われると、確かにエテルは人間相手が難しそうだな」

「タタラもトラッちゃんと同意見なんだ?」

「正直、エテルが戦いに向いてる性格とは今でも思ってないよ」

 

 精神的な適性は恐らく低いだろう、バーラルさんがエテルに剣を直接教えなかったのはもしかしたら性格を見抜いていたからかも知れない。

 

「取り敢えず、二人が心配なら護身術としてはコレからも使っていくよ。今日でもうランクも上がってるし」

「嘘だろ?」

 

 此方も此方で早すぎるだろ。

 

「それとタタラ、私にミスリル製の片刃剣をお願い。お父さんと違って、私は片刃の薄い剣が性に合ってるみたい」

 

 自己分析も出来てるのか、バカの評価は間違いじゃ無いなこれ。

 

 

 明日の方針を決め終えて、俺は鍛冶場でエテルの剣を打つ。返ってきた鉄の剣の傷を確認すれば、確かに片刃剣(サーベル)の方が向いている癖がもつ傷の付き方だった。

 早速ミスリルで片刃剣と刀を拵えて、最後に『空裂』を打ち終えて就寝する。エテルの剣技は明日直接見れるといいんだが。

 そして夜が明けて、朝食の準備中に呼び鈴が鳴る。こんな朝早くからもう都市長の依頼対象が来たのかと、出迎えに行けば3人分の人影が有った。

 早速門扉を開けて迎え入れようとした瞬間、相手を見て俺は固まった。

 

「くく、良い朝だなタタラ・ジュロン。今日は世話になる」

「む、あの時の若者か。やはり貴様がタタラ・ジュロンだったのだな」

「うぇぇぇっ!?」

 

 最早見慣れて来た正装姿の『不死の王』、そして都市長と同じくらいの年齢らしい褐色肌で眼帯をした女性。最後に金髪で護衛役をしていた女性が並んでいた。

 あの時の会話でこの二人も関係者って気付いとけよ俺。




※一華の目を見て嘘を判別出来る存在はこの世でタタラ一人だけです。

最近どんどん暑くなっています、皆様体調にご注意下さい。
ええ、脳が茹だって思考能力落ちた結果筆が止まっていましたすみません。もうすぐ投稿開始から1周年なのに情けない。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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