既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
アンケート実施中です、直感でお選びください。
都市祭の開催を持って終了とさせていただきます。
※このお話を読む時は、気を明るくして、登場人物の心情から離れて見て下さい。
手の中にある何の変哲もない……と言うには色使いや編み方の綺麗さが目立つ花冠に対して、身体が震えそうになる。
一応、ゲーム時代にも運を上昇させるアイテムは存在していた。キャラ本体のステータスは100までだが追加出来る装備は有ったし、店売りで買える物も有った。しかし、それらの上昇幅は5や最大でも30程でしかなかった。
そこに来てこの花冠は+100、限界値そのまんまである。どんなインフレしてんだよ。
更には特殊能力の『成長促進』もヤバい気がする、詳細は調べられてないが『成長』と付くものが弱いとはとても思えないのだ。俺達が使う『地母神シリーズ』にも其々『成長補正強化』と『成長補助』が付いている。この『成長促進』がどんなものか検証する必要がある、二つ目以降が手に入る気がしないが、
「……タタラ、何やらとんでもない物を貰ったようじゃの?」
「いや、本当にな。運が増加するのもそうだけど『成長促進』ってなんだよ」
「タタラ殿でも分からないのですか?」
「俺は別に博識でも何でもないぞ、世の中知らない事ばっかりだ」
これは後で『天使長』に確認するべきかも知れない……呼び出せる訳でも無いのだが。いっそ『料理長』の冗談を試して空に向かって『天使長』へ好きだって言ってみるか?
まぁ、そんな冗談はおいて探索を続けよう。しかし、ゲーム時代はこの階層で出る種族が出てこないな。本来は『ドライアド』や『アルラウネ』等の『植物』系が出て来る筈なのだが、全く出てこないな。此奴らを倒す事で『地母神シリーズ』の素材が集まるのだが、まさかパーティ内で一定数所持してると出ないとかなのか?
そこから、探索は少し変わった。いや、敵は大きく変わったりしないのだがどういう訳か青い『ムゥ
逃げるのかと思えばどの『ムゥ
「……タタラ、大人気だね?」
「その花冠、あの河馬達にとってなにやらとんでもない物みたいじゃな?」
「どの妖精も礼をしていきますね……」
どうも『ムゥ
「敵と戦えないから装備の『成長促進』の効果も分からないしな、とは言え外すのもちょっと」
流石に運+100はぶっ壊れ過ぎてて外し難い。それに、俺の頭に乗せて来た時の推定『ムゥ
「……っ、皆伏せて!!」
と、新たな部屋に入った瞬間にエテルが叫び声を上げる。思考するよりほぼ反射でその場に伏せると頭上を何かが通り過ぎていった。今のは植物の蔦か?
「ごめん、周囲の木に擬態されてて分かんなかった。此処、今の攻撃してきたモンスターの巣みたい」
「成程、周囲の木が全部モンスターって思った方が良さそうだな」
噂をすれば影が差す、と言う訳では無いと思うが思考に上げたら出て来るとは中々嫌らしい。不意討ち故に危うかったが、警戒状態なら例え鞭を振るわれても視認は出来る。
故に、次に飛んできた蔓の鞭は捕らえる事が出来た。
武器命中30+100−245=130。命中判定。
物理攻撃90−203=0。
頭の横で掲げた腕に蔓の鞭が当たり巻き付くが、防御力で受け切る。そのまま鞭を掴み、思い切り引き寄せる。
力比べは此方が勝ち、蔦の先に相手が見える。表皮が樹皮になった老婆の姿、頭部から生える蔦と枝で構成された髪の一本が俺の腕に巻き付いている。『エンシェントアルラウネ』、植物系のモンスターのレア種だ。
「タタラ!」
「問題無い!!」
心配の声を上げるエテルに短く答えて、右腕の魔導砲撃を起動。炎属性の砲撃を最大稼働させて、撃ち出す。
武器命中0+245−100=145。命中判定。
炎属性攻撃2✕215−90=125致命打判定✕2。
魔導砲撃が直撃し、『エンシェント』が燃え上がる。しかし、クリティカルが出たが即死させるには至らなかった。
そこにエテルと四葩が近付き、重ねるように剣を一閃。『エンシェント』はその攻撃で倒れた。腕に巻き付いた蔦が燃え、灰になっていった事で死亡が確認出来た。
「まだ居ます、警戒を!」
タチアの叫びの後、音の壁を突破する鞭特有の音と鉄を打つ音が聞こえて来た。振り返ればタチアが盾で鞭を防いで、俺の背中を守ってくれたらしい。
「助かった!」
「貴方は私が守ります、貴方の騎士ですから!!」
俺の感謝に答えるタチアの横を抜けて、新たな『エンシェント』へハンマーを構える。技の『連撃』を起動し、『エンシェント』へ叩き付ける。
武器命中20+245−200=64。命中判定。
炎属性攻撃2✕(260+【連撃】10)−90=450致命打判定✕2。連続攻撃。
叩き付けらたハンマーが『エンシェント』の身体を削る、焼け爛れ黒ずむ身体を砕き木片へと変えその生命力を削りきって灰にした。残ったドロップアイテムを拾い顔を上げる、案の定次々に『エンシェント』が姿を現す。
「来いよ行き遅れども、妊活が必要無くしてやるよ」
前世で買ったアートブックによると、この『エンシェントアルラウネ』と言うのは男に恵まれず子を成せなかった結果枯れる事も叶わずに千年生きた『アルラウネ』の成れの果てなのだそうだ。
恨み辛みにより醜い年の取り方をしたのだそうで結果として男を誘う美しく若い容姿を失ったのだとか。逆に愛を得た『アルラウネ』は次代を残して早くに枯れるか、同じ『エンシェント』になるにしても優しい容姿の老婦人になるのだと言う。比較として出された絵はそりゃもう格差が酷かった。
故にプレイヤーからのあだ名は『行き遅れ』、出会ったプレイヤーは苦労しながらも冥府に落として彼女達の千年妊活を終わらせるのを使命として与えられる。尤も、馬鹿に出来る程に弱くは無いのだが。
俺の行き遅れに反応したのか、隠れていた『エンシェント』が続々と出て来る。その目はそりゃ恨み辛み更には俺の発言に対する怒りで満ちて、俺を貪ってやろうと言う意思が見えた。
女の恨みは怖いなと思いつつ、俺は『エンシェント』を迎撃する。
結果として、10体程の『エンシェント』を俺は倒す事になった。タチアも援護に入ってくれたのでコレだけで済んだが、明らかに20体以上は湧いて出て来ていた。流石に多過ぎるだろう。
そして、此奴らを倒す中で集まるドロップアイテムがある意味でヤバかったりする。
「タタラ、この『大地の輝石』と『慈母の微笑み』と言うドロップアイテム……前に聞いた気がするのじゃが?」
何処か引き攣った表情の四葩が俺に確認してくる、エテルとタチアは分かってない様子だ。まぁ、コレに関しては四葩にしか話して無いから仕方ない。
「そうだな、俺達が使う『地母神の微笑み』と『地母神の祈り』に其々必要な重要素材だからな」
「やっぱりか!?」
以前、四葩にだけ『地母神シリーズ』の製法を教えた時に素材の名前も伝えていたのだ。この『アルラウネ』種の素材を使用して作中屈指のチートアイテムである『地母神』装備は作成出来るのだ。
実は『大地の結晶』なら採掘出来たりもするのだが、今のところ魔法金属ばかりで採れていなかった。今回の戦闘で集まった数を見ると、多分20セットは作れるな。
俺の言葉を聞いていたパーティメンバーは挙ってドロップアイテムを俺に押し付けてくる、そりゃ価値を知れば持っていたくは無いよな。
「それはそれとしてタタラ殿、防御を抜けないと確信していたかも知れませんが敵の攻撃をわざと受けるのは感心しません」
「いや、まぁ……でもああしないと敵を引き摺り出せなかったし」
「それでも、私はこのパーティの盾なのだ。一言は言わせて欲しい」
苦言というか、心配が勝って言い方がキツくなってるタチアの言葉だ。俺の背に向けられた鞭を防いだり、本当に俺を守る為に働いてくれていた。心配させてしまったのは素直に謝らないとな。
「そうだな、お前の誓いを踏みにじるような行動だった。すまない」
「……いえ、私も心配だったとはいえ言い過ぎました」
タチアも心を落ち着けられたからか、互いに謝ってこの一件は終了だ。心配性とも言えるが、以前に『貫通』持ちの敵が出る話をしたのだから警戒しているのだろう。どの敵がそうなのか、分からないと言うのが一番不安か。探索を続ける上で、タチアやエテルにも『鑑定』を取ってもらうべきか?
それからも『ムゥ
レベルアップが2度起こり、俺のレベルは57になった。何となく、本当に何となくだが『成長促進』は経験値ボーナスなのではないかと思う。敵の数が多いとはいえレベルアップの速度が速すぎる。更に何度か『エンシェント』の攻撃を受けて引き摺り出す戦法を取ったからか、『物理防御』上昇のレベルが上がりランクアップできた。どうも『成長促進』の推定経験値ボーナスはスキル経験値にも適用されるらしい、純粋にヤベェよ。
「ついに55階層だね、此処までちょっと長かった感じがするよ」
「敵が多いから時間が掛かるしな、いや殲滅するのをやめればいいんだろうが」
54階層の階段前でエテルが零した言葉に、俺はそう答える。探索のリソースに余裕が有るからと殲滅しているが、本来は早期に階段を見付けて下へ降りるのが基本的な探索の方法だ。
「じゃが、妾達には今必要なのは強くなる為の経験値じゃ。妾の『鍔目返し』もそろそろランクアップ出来そうじゃしの」
「私も『突撃』がそろそろランクアップに指が掛かりますし、『渾身』も順当にレベルが上がってますね」
「最後の一体に対して積極的に『渾身』使うの正直見てて怖いんだが」
四葩の言葉に続くタチアだが、一分間動けなくなる事を念頭に安全な状況で『渾身』を使いレベル上げをしている。『突撃』と『渾身』の組合せで敵が消し飛ぶのは見ているのだが、正直スキルがスキルなので見てて怖い。反撃を許せば防御力0の確定会心なのだ、タチアにさぱっと死なれたら嫌だ。
「さて、この先は何が出て来るのじゃ?」
「いや、俺に聞かれても……50階層までしか知識は無いぞ?」
本当なら前世知識で最下層まで敵の配分は覚えているが、誰にも信じて貰えないので言う気は無い。防衛長や父さん達の話でも50階層以降は聞いたことが無いのでとても誤魔化せないし、父さん達の手記は基本的に50階層までで止まっている。そんな中で誰よりも正確な情報など出せば、どんな風に思われるか分かったものじゃない。
それに、此処から出て来る敵がゲーム時代と同じなら初見殺しは無い。
降り立った55階層は少し変わり、先程の熱帯雨林から森林に変わっている。何方かと言えば41階層の雰囲気が近いだろうか、吹き抜ける涼やかな風の心地よさと花の匂いが溢れている。
「これはまた、随分と変わったのう?」
「湿気が殆ど有りませんね、先程の階層が肌に張り付くような空気だったのに対して過ごしやすいまで有ります」
四葩とタチアが思わずといった空気で感想を零す。
55階層からの階層は少し深い森の中といった風情になる、自然豊かな此処からの階層は多分過ごしやすさとしては上位にくる空気感を持っている。ゲーム時代でこのマップは花畑や泉等が存在していた上に、一部特殊なヒロインイベントの舞台になる場面も有った。まぁ、この階層まで来るのが大分難易度が高いので見れない事の方が多いのだが。
そして、この階層から出て来る敵は『妖精』種になる。『妖精』が過ごしやすい環境がこの緑萌える森林という地形と言う事になっている。代表的なのは『フェアリー』や『ピクシー』、そして堕ちた『エルフ』と『ドワーフ』もこの領域には出て来る。ただし、レア種は『フェアリー』系のモノになるが。
「それじゃエテル、先行してくれ」
「うん、分かったよ」
何時もの如く前に出て行くエテル、俺達はその後をついて行くが段々俺の移動時の音が無くなって来ている。これ、『成長促進』で『忍び足』スキルが物凄い勢いで成長してないか?
早々に戦闘系と探索系のスキルを揃えて、後は『裁縫』や『薬学』等のスキルを取得するのがいいかも知れない。『クラフト』スキルが総合的な製作に適応しているので意識を向けて来なかったが、特化スキルを取得したら色々出来る事が増えるかも知れないし。いや、今の『クラフト』でも十分な気もするが。
と、そんな事を悩んでるうちに先行するエテルから念話が届く。どうもこの階層の新しい敵を見たとの事で俺と四葩は『鑑定』の為にその横に立ち覗き込む。
そこに居たのは一人の女性、しかし人間では無い。豊かな若草色の髪に色とりどりの花が咲いている、右手には鈴蘭の花を持ち背には蝶の翅。何よりもその大きさだ、全長は僅か60cm程で人間としてみるなら大分小さい。この階層に現れる『妖精』種のレアエネミー、『妖精女王ティタニマキア』だ。戯曲に出て来る妖精女王のティターニアとギリシャ語の戦争を意味するマキアを合わせた戦の女王、巨人戦争のティタノマキアとも被せてるんだろうなこの名前。
前世のゲーム時代だと、魔法に寄った万能型で近接も強い。身体が小さい上に速いので攻撃が当たり難い上に体力も300は有ったので非常に面倒臭い。
『……『妖精』、じゃろうか?』
『まぁ『妖精』族って考えると真っ先に浮かぶ姿だよな、アレは』
『綺麗だけど……なんか冷たい感じがする』
四葩の疑問に対して賛意を伝えていると、エテルがそんな事を考えていた。冷たい感じ、というか表情が硬いせいで生気が感じられないのだろう。見た目も人形じみてるし、何となく納得する。
『取り敢えず、『鑑定』をしてみよう』
『そうじゃな、妾もするかのう』
そう思念で送りつつ、四葩と揃って『鑑定』を使用する。
妖精族『女王ティタニマキア』
体力 300/300
魔力 350/350
技力 150/150
物理攻撃 80+15
物理防御 60+12
魔法攻撃 98+15
魔法防御 108+17
速力 88
運 30
移動力 6
特殊能力『四大属性強化』『妖精魔法』『風属性』
装備 『鈴蘭の杖』『妖精の王衣』
大分面倒くさいステータスをしている。風属性では有るが四大属性強化持ち、全属性の魔法が威力を上げて使える敵専用の特殊能力なので見掛けの魔法攻撃力より2割増の火力と見るべきだろうな。
『エテル、他に気配は?』
『上手く隠れられてたら分からないけれど、一応あの一人だけだよ』
『分かった、ありがとう』
対象を1と仮定して、先ずは俺が突っ込んであの『ティタニマキア』を倒す。倒せれば良し、駄目ならエテルに後詰めを頼む。更にまだ隠れていたのなら、四葩とタチアに出て貰いコレを撃破。この流れに対して納得して貰い、早速突っ込む。
俺に気付いた『ティタニマキア』が反応して魔法を使おうとするが、先に俺の槌の方が早く届く。
武器命中20+247−88=179。命中判定。
炎属性攻撃2✕272−72=472致命打判定✕2。
ハンマーが直撃した『ティタニマキア』はバットでフルスイングされたボールが如き勢いで吹き飛び、近くの木に当たり砕けた。
それを目で追っていると、周囲から一斉に魔法が飛んでくる。属性は複数、きっちり四属性で俺の弱点を見に来たらしい。
魔法命中90+88−247=−69。回避判定。
魔法命中40+85−247=-122。回避判定。
魔法命中60+90−247=−97。回避判定。
魔法命中50+87−247=-110。回避判定。
俺を囲む魔法はしかし、僅かな隙間を縫う事で回避出来た。範囲魔法だと相殺が起きたであろう事から、単体魔法で囲ったのだろうが見事に全部回避出来た。まぁ、当たった所で属性魔法なら吸収出来るから問題は無いが。
姿を現した新たな四体の『ティタニマキア』に対して、控えていた三人が駆け出す。俺も三人の行き先を確認後にフリーの一体へ向けて吶喊する。『ティタノマキア』は手に持っていた鈴蘭を構え、迎撃するつもりらしい。悪いが、想定が甘いぞ。
武器命中25+247−90=172。命中判定。
炎属性攻撃2✕272−70=474致命打判定✕2。
最後まで反撃を狙っていた『ティタニマキア』の覚悟を無視してフルスイング、今度はその場で砕けた。バラバラになった四肢と翅がその場で風に散るように消えていく。残ったのは花の種のような形をした宝石が一つ。
これは『ティタニマキア』のドロップアイテム『夢の欠片』という素材だ、多分かの有名な戯曲『夏の夜の夢』に掛けた名前だと思われる。何処かの剣術指南役のせいで何か汚いモノを思い出しそうになったが、取り敢えずは無視だ。
「まさか、エテルの探知を掻い潜るとはのう……」
「ごめん、姿を現すまでは本当に察知出来なかった」
「あれは仕方ないことだと思います、姿隠しとも違う様子でしたし」
四葩の呟きに謝るエテルと、それをフォローするタチア。今回はタチアが正解とも言える。
「今回のは仕方ないと思う、『鑑定』で見た限りで持ってた『妖精魔法』が影響してるんだろう。妖精の悪戯の中に有る神隠しは、彼奴等が住む妖精郷へ移動する魔法を使った物って研究資料が有った。世界の位相が違えば、流石に探知は無理だろ」
姿隠しの魔法も有るには有るが、その場合はエテルの『索敵Ⅲ』で十分発見が出来る。今回はより上位の転移魔法による奇襲と見る方が正しいだろう、部屋にマーカーを設置して侵入者へ魔法を叩き込む。挙げ句、仲間の一体を囮にして格上の相手でも魔法の一斉砲撃で殲滅……大分エグいな。
そこからも『ティタニマキア』の囮戦法は続き、俺の先行して魔法を誘発する戦法は継続された。俺自身のレベルは順当に上がり上限の60へ届き、『忍び足』と『移動力上昇』がランクアップした。『隠密』はあと1レベルでランクアップが可能だが、『不意討ち』と『闇討ち』は正面戦闘しか出来ていないのでレベルアップすらしてない。それでも問題が無いのは『祝福の花冠』で運が爆増しているからだろう、現状確定でクリティカルが発生しているので大きな問題が無い。
そうして、俺達は60階層のボス部屋の前に立っていた。
「さて、此処のボスは未知の敵だ。傾向から言って『妖精』種だろうが、50階層の『ヤヌス』からそのまんまって可能性は低いと思ってる」
俺の前世知識を是迄の傾向として変換して伝える。実際、この階層に出て来る敵は『宝石樹』という『妖精』種と『植物』種とが合わさったような存在である。まぁ、正しく言うと妖精を生み出す機構として樹木の姿を取っているだけの『精霊』とも言えるのだが。
「……今まで敢えて聞かなかったが、タタラ。お主、此処に座すボスの情報を持っとらんか?」
俺の言葉を聞いて少し考えた四葩が、疑わしそうにそう聞いて来た。まぁ、そうなるよな。予想として『妖精』種である事は言えたとして、それが別の姿を取っていると言うのは少しおかしいだろう。今迄は一度探索した事があると伝えてきたので納得して貰えたが、今回のはやり過ぎとも言えるか。
「実は俺、転生者でさ。前世の知識が有るんだ」
「タタラ、その冗談よく言うよね」
俺の真実を伝えたとして、こうして冗談と取られる。だからもう言う気は無い、冗談と取られるならこんな真実は言う必要も無い。
だが、四葩はこの言葉を深く検分する。口元に手を当て、眉根を寄せて思考している。
「……なら、タタラよ。お主の前世はこの迷宮を何処まで潜っておる?」
ややゆっくりと、四葩はそう聞いてきた。俺は半ばヤケクソ気味に、真実を開示する。
「最下層。愛龍を亡くしその復活の為にかつて倒した魔神の骸から魔力を奪い蘇生魔術について研究を続ける、騎士だった魔人の真実まで知ってるさ」
俺の言葉に対してエテルは訝しむ。地上には残っていない情報で、この事は何処にも記録に残っていない。ゲーム時代では最下層にて迷宮の主と戦う際に長々と語ってくれたので覚えている。
この騎士と愛龍は恋人同士と言うか夫婦だった様子で、魔神と相討ちになった龍を蘇らせる為にダンジョンが生まれたというのがこの『常闇の洞』が出来た由来だ。
実力は有るのだが、どう考えても此奴に対して『天使長』が封印措置だけで済ませるのが分からない。故に俺は、この魔人の先に在る魔神の骸に何かが有るのだと予想してる。
そんな俺の姿をじっと見詰めた四葩は一つ頷き、口を開く。
「信じるのは難しい事じゃが、それを一つの事実として話を進めよう。その知識に基づくならば、此処にいる敵は何じゃ?」
「此処にいる敵は『宝石樹』、『妖精』が産まれる卵を生らせる樹木の姿をした精霊。弱点属性は炎、ただ物理防御も魔法防御も高いから中々にしぶといボスだな」
情報を開示して、反応を見る。エテルとタチアは淀み無く答えた俺に驚愕と言った表情だが、四葩は俺からの情報を聞いて頷いた。
「分かった、タタラの情報を前提として作戦を練ろう」
「……いいのか、虚言かも知れないぞ?」
「何も情報が無いよりもマシじゃな。少なくもタタラは、妾達にダンジョンについて嘘の情報を伝えた事はないじゃろ?」
そんな四葩の言葉に、俺は苦笑いする。真正面から信じられるのは何というか、こそばゆい。
「なら、追加情報を一つ。此処の敵は『妖精』の母体である為に魔法攻撃が得意だが、物理攻撃が低い訳でもない。攻撃には十分警戒してくれ」
「うむ、情報感謝じゃ」
快活に笑って俺の情報を聞いてくれる四葩に、少しだけ救われる。さて、後の2人にも一応伝えておくか。
「タチアは初手から最大威力の攻撃を念頭に置いてくれ、弱点属性は有っても防御力と体力が高いから削り難いからな」
「……分かりました、『渾身』は控えますが『突撃』は最大威力が出せるように調整します」
タチアは少し考えたが、俺の言葉を騎士として受け止めて疑問を脇に置いてくれた。その目は疑念を押し殺し、俺を信じる事だけを考えている様子だ。この愚直さには感謝しか無いな。
そして、改めてエテルに向き合う。俺の事を真実だと受け止める事を今迄しなかったが、此処に来て自身よりも先に四葩が信じた事に戸惑っているらしい。
「エテルは攻撃が通りにくいと思う、無理はしないでくれ。攻撃するなら『エリンジウム』を使って狙撃を頼む、樹木だから相手には背面って概念が無いから背後を取ろうって考えは捨てて射線だけ考えてくれ」
俺の言葉を聞いたエテルは戸惑うばかりだ。俺の言葉を冗談として受け止めてきたのに対して信じた四葩との差、そこに思うところが有るのだろう。最愛を自認している自分が信じず、四葩が受け止めた事に対してどんな感情が働いているのか。
四葩に対する嫉妬か、俺に対する独占欲か。それとも真実を話していないと切って捨てた自信への憤りか。
「……タタラ。さっきの転生者って事なんだけど」
「別に信じてくれなくていい、もう慣れた」
言葉に出してから言い方を失敗した事に気付く、俺の言葉を受けたエテルが泣き出しそうな表情を浮かべている。
「ただ他の人間よりも情報を持ってるだけ、それだけだから気にしないでくれ」
これ以上会話を続けても良くない方向に進むのが感じ取れたから、会話を切り上げる。
背中を向けて扉へ向かおうとした俺の袖をそっと掴み、エテルが意思表示してくる。立ち止まって振り返り、俯いたままのエテルへ視線を向ける。エテルは消え入りそうな声で俺に問いかけてくる。
「……タタラ、は。私やお父さん達のことを知ってたの?」
「いや、知らない」
間髪入れずに否定する。何故事件に関係する事に知識が有ると思ったのだろうか?
「俺が知ってるのはあくまでも迷宮の事とか、『クラフト』の素材やスキルの組合せについてだ。人の人生や事件の事なんて殆ど知らないよ」
俺が知る『ワールウィンド』はあくまで原作主人公のスミスとクリエイトキャラが知れる範囲内でしか無い、それを越えている面としては会社で共有されている世界設定の一部に留まる。
エテルも四葩もタチアも、俺の原作知識には存在しないファクターだ。だからこそ、多少の下心は有れども単純に助けたいという意思でエテルに手を伸ばしたし、タチアの人外思考へ本気で怒ったのだ。
それに、もしそんな事件の事を知っていたら俺は誰よりも先ず両親を救うことに全力を出していた。絶対に死なせないように、俺はもっと上手くクラフターとしての力を発揮していた。
前世知識を持っていたとして、変えられない運命だって存在している。
「それじゃ、最後にこれだけは教えて」
何についてきかれるのだろうか、エテルは一つ大きく息を吸った後に決意を秘めた眼で俺に問いかける。
「タタラの前世って童貞!?」
「ど、どどどど童貞ちゃうわ!?」
「童貞じゃの」
「童貞ですね」
あまりにも酷い質問に否定したが、四葩とタチアに嘘だと暴かれる。いや、確かに見栄はったけどそんなにすぐバレる物なのか!?
俺の反応を見たエテルは安堵の溜息を吐いた。
「良かった、タタラの初めてが私で」
「何をおっしゃいますかエテルさん、俺の前世は童貞等ではございませんが!?」
「童貞じゃの」
「童貞ですね」
「そこ、違うって言ってるでしょうが!?」
確かに前世は人間関係の構築が苦手で、異性とは深い関係になる事は無かった。男友達の方が多いし気安かった、だから女性関係が面倒臭過ぎて忌避してた事もある。
前世も今世も性格は変わってない筈なのだが、生き難いことこの上なかった。喋れば何か変な反応されるし、今世では人誑しとか女誑しとか言われるの本当なんなんだ。
「タタラは一般受けしない性格なのじゃろう、面倒事を抱える女である程に惹かれてしまう物が有りそうじゃ」
「実際、エテル殿を筆頭に面倒事を抱えている私達が惹かれてしまいましたからね」
そこの2人は冷静に分析しないでくれ、何で俺の分析を始めてるんだよ畜生。
「うん、タタラの前世が童貞なら私が何か言う事は無いよ」
「だから、俺は童貞では無いと……」
「否定の仕方が童貞っぽいよ、タタラ」
もう泣いていいかな、流石に硝子の心が砕け散る手前だよ。
「もういい、えてるなんかきらいだ」
「おおっと、拗ねてしまったのじゃ」
「これは大変ですね」
「おまえたちみんなきらいだ!」
このまま存在昇華やめて緩やかに死のうかな、生きるの辛い。
「あはは……ごめんねタタラ」
「いいよもう、此処でボス倒しても存在昇華しないでそのまま死ぬから」
何の為に生まれて、何をして生きるのか。少なくとも童貞弄りの為では無いよな、そんな人生なら嫌過ぎる。
「本気で拗ねておるのう、そろそろ機嫌を直せ」
「うるさいな、どうせ何ヶ月かしたらそのまま病死して終わるんだからいいだろそれで」
「むぅ、本格的に拙いなこれは……」
何が拙い、言ってみろ。
「その、タタラ殿……」
「なんだよ、前世から変な女に絡まれて童貞拗らせたアホに何のようだよ」
「め、面倒臭い……」
面倒臭くて結構、普通に接してたらいつの間にか付き合ってる認定されて職場の中心で叫ばれて意味不明過ぎた上に退職に追いやられましたよ。その後に間違いだと発覚したとかで元上司やら元同僚に謝られたけど、謝罪するなら慰謝料の一つも払えってんだよ。戻って来てくれとか言われても誰が信用を無くした所へ戻るかってんだよ、俺を捨てたのはお前らだろ図々しい。
「あっと、ごめんねタタラ」
「いいよもう、どうせエテルは俺を笑いたかったんだろ」
「違うよ、私は……」
「エテルもエテルの事を馬鹿にしてた奴等と一緒だろ、優位に立てる事で相手を馬鹿にして」
「あっ」
本当に嫌になる。出来ないと泣く新人の為に業務マニュアルを作って渡し、自分が出来るようになったら次に入ってきた新人を弄って辞めさせていったあのクソな後輩共。
少し出来るようになったからって調子に乗って俺を馬鹿にしてきて、俺の作業量の1/3程任せたら泣きながらパワハラとか言い出す奴等。
上司も上司で俺に対してのみ注意してきて、減給だのなんだのと。問題を押し付けられたから辞めたが清々したのが懐かしい、そういえばあの会社その後はどうなったんだろう。社長さんはそこそこいい人だったし続いてるんだろうか?
最後に教えた後輩、俺の能力を引き継いでくれそうだからまぁ職場は回ると思うけど……上司も同僚も仕事を押しつける先が無くなったからの謝罪だったろうし辞めたかな?
「タタラ、そろそろ辞めよ」
四葩が俺に注意してくる、何をやめろと?
「妾達も誂うような事を言ったのは申し訳無い、お主の心を慮らず傷付けるような事を口にした。しかし、お主の言葉の刃を振るい続ける理由にはならぬのではないか?」
「それは加害者の理屈だろ、被害者の心情を軽く見るな」
「……それなら、お主の言葉で泣いている今のエテルをどう思う」
言われて、エテルに視線を向ける。俺の言葉に傷付いて、俯いて目元を拭い続けている。そんなエテルに寄り添うタチアは慰め方が分からず戸惑っているのだろう、俺に助けを求める視線を向けてきた。
「何も?」
「何も、じゃと!?」
「逆に聞くけどよ、三人で寄って集って俺を馬鹿にした事に対して何も思わなかったのか?」
俺の言葉を受けて、四葩の言葉が詰まる。
「自分が言われるのは駄目で、他人に言うのは良いのかよ。それは流石にダブルスタンダードが過ぎないか?」
「それは……」
「『ワールウィンド』で流行った物語の中にこんなのが有るんだ、『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』と……言われるのが嫌なら最初から言うな!!」
本当、あの反逆なロボアニメで有名になった元は私立探偵の台詞は真理だと思う。加害者になるなら、自分がやり返される覚悟を持てよと。
確かに俺の技術に追い付けないクラフターを俺は無意識に下に見てるかも知れないが、同時に俺を越えて過去の遺物として俺を見下して来るのを待っている。
技術の進歩、技術者の進化を待ち望んでいる。
「本当の事を言って、冗談と取られ続ける事の辛さは分かるか?」
最初にエテルへ転生者と伝えたのはいつ頃だろうか、初めて『常闇の洞』へ潜る前に知識を与えた時だろうか?
その時に言って冗談だと受け止められて、言うのを控えた記憶が有る。
「何度も言って信じて貰えないから言うのをやめたさ。今回、四葩が形だけでも信じたから伝えた。そしたらこれだ、もう二度と俺は俺の真実をお前達に伝えない。死ぬ事の回避もどうだっていい、ただ一華の腹に居る子供の分は生きてやる。だが、もうお前達との間に子供が欲しいとも考えない。好きな所へいけよ」
四葩が傷付いた表情を浮かべ、タチアが唇を噛みしめる。
「信じないのはいい、慣れたから。だが、その事で何かを馬鹿にする奴を赦す気は無い」
俺の言葉は虚しく響く、その場には俺の声の反響とエテルの啜り泣きだけが音として存在してる。
「なぁ、四葩。答えてくれ」
「……なん、じゃ?」
「寄って集って一人を馬鹿にするのは気持ちよかったか?」
俺の問いに、四葩は力が抜けたのかその場に膝をついた。何を思っているのだろう、初めから心を察する事なんて出来やしないが今はより顕著だ。
「俺も人間だ、怒りを溜め込むんだ。解消して当たり散らさないように気を付けているし、発散するのは『クラフト』とか探索中に敵へ向けたりしてるんだよ」
少しだけ落ち着いてきた、怒りで腸は煮えくり返っているがもういいだろう。此奴等に感情を向けるのすら勿体ない。
「それでも限界はあるんだよ、人間だから。だからさ、何時までも甘えんなよ相手の寛容さに」
「……すまない」
「それは何についての謝罪だ?」
「……」
「そうか、だんまりか……反射的だろうと心にも無い言葉は虚しいな?」
好きだった相手を此処まで傷付けているのに心が動かない、もう俺の中にその手の感情が無いのだろうか?
分からない、大切だと思っていた事は事実だがもうそれがよく分からなくなってる。俺は、壊れているんだろうか?
「取り敢えず、俺は此処のボスを殺してくる。お前達は好きにしろよ」
扉に触れて開く。もう振り返る事はしなかった。
《システムアナウンス、『天使長』がイベントについてお教えします! 本日のイベントは此方、じゃじゃん♪》
『花守の騎士』
《『DAWN〜深く深い闇の先でRe:make〜』にて追加されたダンジョン内で起こるランダムイベント。51〜54階層の間でのみ発生するものになります。レアモンスターである『ムゥ
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない