既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中
アンケート実施中です、直感でお選び下さい。
都市祭の開催を持って終了とさせていただきます。
開いた扉の先で明かりが灯る。部屋の中央には巨大な幹、そこから伸びる枝からは宝石が垂れ下がる。魔力の影響か、その巨樹は明滅を繰り返している。視界に入ったそれを早速『鑑定』する。
妖精樹『宝石樹』
体力 600/600
魔力 300/300
技力 300/300
物理攻撃 95
物理防御 100
魔法攻撃 105
魔法防御 110
速力 50
運 15
移動力 1
特殊能力『四大属性強化』『妖精魔法』『風属性』
装備 無し
基礎ステータスのうち、三つが100越え。防御が揃ってそれと言うのは少し面倒に感じる。体力が高く魔力もそこそこ、四大属性魔法を撃ってくるとしても、まぁ問題は無い。問題が有るとしたら『妖精魔法』だろう、魔法防御を抜かれる可能性は僅かだが存在している。
ハンマーを構えて駆け出す、属性は誂えたかのように炎だ。防御を考慮して、連続攻撃の【連撃】を使用。駄目押しとは言わないが、『騙し討ち』も使用してスキル経験値を稼ぐ。
武器命中20+250+【騙し討ちⅢ】23−50=223。命中判定。
火属性1.5✕(275+【連撃】10)−100=327。連続攻撃。
火属性1.5✕130−110=85。
二撃叩き込んだ瞬間に『宝石樹』から悲鳴が上がった。そして半ばから折れ飛ぶ巨樹は、やがて光の塵になり消えていく。
なんて脆くて食いでのない奴だろうか、鬱憤の一つも晴らせねぇや。コレならあのクソボスを相手にしていた方が気持ちがスッキリしただろうな。
ボスを撃破した事で現れた宝箱を蹴り開けて、中の品物を取り出す。アイテムは杖で、恐らく宝石樹の枝を使って作った代物だろう。内包した魔力でゆっくりと明滅を繰り返している、猫娘さんかミーアに売ろうかな?
「……終わったのじゃな」
「簡単に終わって拍子抜けした」
怖ず怖ずといった雰囲気で声を掛けていた相手にそう返す。このまま存在昇華して70階層を目指そうかな、少しはスッキリ出来そうだし。
「地上に戻るのですか?」
「存在昇華して更に潜るか考えてる。流石にスッキリしないし」
また別の奴から声を掛けられる。弱った姿で潜れば多少は緊張感と達成感が楽しめるだろうな、それはいい考えっぽい。
早速、ステータスを開いて確認する。レベルの項目が『存在昇華可能』の文字で上書きされているので、躊躇いなくタッチする。
瞬間、身体の中から魔力が噴き出す感覚がする。体内から奔流するそれを感じながら、内側の何かが広がっていく感覚。強烈な多幸感と万能感、初めて体験したが癖になりそうだ。
流れる時の中で、特殊な感覚が走る。目前には二つのスキルスロット、片方には『早熟Ⅰ』の文字が有る。コレが転生……もとい、存在昇華用のスキル選択画面か。
躊躇わず『早熟Ⅰ』をタップし、ランクアップを選択。『早熟Ⅱ』へと変化する。コレで終わりだと思ったが、まだ選択画面は消えない。何かと思い空いているスロットをタップするともう一つスキルが選べた。ゲーム時代だと一つずつだったと思ったが、まぁ現実だし多少は違うのだろう。二つ目のスキルは以前から考えていた『限界突破Ⅰ』を取得した。
この『限界突破』はランク✕20ステータスの上限を上げる。最大のⅤにすれば限界値が100増える、只人である俺でも最大に届けばダリアに並べるくらいには強くなれるスキルだ。
その後はスロットが5個に戻った事で残すスキルを選別する、『ゴーレムクラフトⅣ』『隠密Ⅱ』『考古学Ⅴ』『移動力上昇Ⅱ』『忍び足Ⅱ』の5つを残す。『隠密』『忍び足』『移動力上昇』は移動しているだけでも経験値が溜まるので、早期に最大まで育つだろうという判断だ。『ゴーレムクラフト』は途中で『ゴーレム』が必要になった時用で、『考古学』は何となく外せなかった。
ステータスはだいぶ下がったが、背面から殴れば3倍かつ弱点を突けば殺せるだろう。繰り返すうちに『隠密』と『忍び足』が育てば、より的確に背面攻撃が出来るようになる。育ちきれば外せるし、コレがベストチョイスだ。
準備を終えて、視界の先にある階段へ向かい歩き出す。
「待て、待つのじゃタタラ!」
声を掛けられてふと、背後の奴等には帰る手段が無いことを思い出す。インベントリから転移結晶を取り出して、後ろに放り投げる。感覚から長身の奴が取ったのが分かったので、そのまま進む。丁寧に殺していけば40くらい迄はすぐに上がるだろう、一人ならレアな敵とも会う可能性は低いし。そう言えばボス戦用に『錬金術師の卵』と『厄切り』に装備を替えてたな、元の『地母神シリーズ』に替えておかないと。
ソロでの探索は久し振りだ、最近はパーティを組んでる方が多かったしな。昔に戻っただけだし、思うままに探索を楽しむとしよう。
そんな俺を背後から抱き締めて止めようとする誰か、細い腕と背中の柔らかい感触から一番付き合いが長かった奴だと判断する。
「まって、たたら……おいてかないで」
「悪い、邪魔」
丁寧に腕を解いて再び歩き出す。別にいいだろ、今は独りにしてくれよ。感情がまともじゃ無い今だと嫌いになるかも知れないんだから。今はそばに寄らないでくれよ。
背中に啜り泣く声を聞きながら、俺は階段を降りていく。
溢れそうになる後悔に見ないふりをして。
降り立った61階層の様相はまたもや変わり、荘厳と言うか神聖な雰囲気が醸し出される。此処から出て来る敵は『天使』族で、地上で戦った奴よりも下位の存在達が跋扈する。一番下の敵は『エンジェル』で、他の表記では『第九位天使』とも呼ばれている。メインは弓による遠距離攻撃で、下位の光魔法を使えるが全体的にステータスは低い。ドロップするのも魔石と『天使の弓矢』と言う素材だ。天使族の霊核が出るのは更に上、第六位からだ。地上で戦ったスィーブが第五位という位階である為、その一つ下の『天使』族は相対的に弱い。
尤も、今の俺のステータスではいい勝負が出来るか否かと言ったところだろう。『黒煌』のおかげで全ステータスが130弱では有るが、せいぜいが拮抗状態だ。『天使』族は単純に階層の数値が基本ステータスと考えるべきで、位階が上がるとそこに上乗せされると考えればいい。単純に考えて『第九位天使』は全ステータス60で、『第六位』天使は全ステータス100程と考えるのが簡単か。尚、第四位は全ステータス200越えとかインフレが激しいので普通に人間が勝てる存在かと問われたら疑問が残る。
俺みたいに前世知識から最高効率でステータスを上げたとして、更にステータスアップアイテムとスキルに頼った上でも70レベルの時に迫れる程度だろう。
俺は久し振りにソロ探索で、ゆっくりと進んでいく。壁伝いに進み、角を覗き込んでから慎重に進んでいく。少し長い道を歩いた先に開けた場所、中には『第九位天使』が複数。
波打つ金色の長髪、背から生える一対の猛禽の白い翼。薄い布に覆われた身体は豊満だが、欲情は覚えず何処か包容力を感じさせる。恐らく、『天使』と聞いて大多数の人間が想像するものだろう。決して目隠しボンデージとかがデフォルトでは無い。
本来『飛行』が標準装備の『天使』族だが、『エンジェル』は戦闘時にその力を発揮出来ないと言う不具合が有る。上手く飛べず、精々が『浮遊』や『滞空』に留まるのが限界だというのだ。
本来の『飛行』なら飛ばれて届かないが、『浮遊』や『滞空』なら近接戦闘も届く。あとは背面から一撃で片付ければ、手早く終わる。
早速手近な一体に『鑑定』を使用する。
天使族『
体力 100/100
魔力 90/90
技力 60/60
物理攻撃 60+15
物理防御 60+6
魔法攻撃 60
魔法防御 60+3
速力 60
移動力 2
状態異常 無し
特殊 『光属性』
装備 『天使の弓』『下級天使の法衣』
典型的なステータスをした『第九位』である、コレなら確りとやれそうだ。少し遠回りして、視界から逃れながら一体の『第九位』の背後に立つ。そして、大きく槌を振りかぶる。
武器命中20+178−60=138。命中判定。
物理攻撃203−60=143。致命打判定✕2。
特に抵抗も無く、砕け散る『第九位』、翼が散って羽が舞い散る様は少しだけ幻想的で美しかった。そんな中で脳裏にファンファーレが響く、やはりレベル差があり過ぎて一体でレベルが上がるか。
まだ気付かれていないことを良いことに、俺は次の獲物へ向かう。ゆっくりと動き背後に付き、ハンマーを振るう。一度行った事を繰り返す単純作業、砕けて数を減らしていく『第九位』に暗い愉しみを見出す。
遺された『第九位』は気付けばいなくなっている同類を探している様子だが、構わない。既に背後は取っているのだから。
また一体の『第九位』を潰して、一息吐く。倒したのは7体、上がったレベルは9だ。『早熟Ⅱ』の影響で経験値が4割増しになった影響だろう、3体倒す毎に4レベル上がるから大分早い。そしてレベルが10に届いた故にスキルスロットが一つ空く、スキルを埋めなければ勿体ない。早速『騙し討ちⅢ』をスロットに入れて探索を再開する。
少しずつ『忍び足』と『隠密』が育っていく、影に紛れ視界から逃れそうして背後から『天使』族を打ち倒して次へ進む。
運良く『第九位』とのみ出会し続け、一段階上の『第八位』すら出現しない。運が向いていると言うべきだろうか?
20、30と『第九位』を殺し続けてレベルも上がっている。既に想定していた40レベルを越えて、44に達している。最早『第九位』なら正面から普通に倒せるステータスになっている。それでも背後に回って殺し続けた。途中で増えたスキルスロットに『闇討ち』『不意討ち』『技力上昇』を取って、スキルレベルも上げてもいた。
一つの階層から敵を殲滅して、次の階層へ降りる階段の前でふと空腹に気付いた。朝から何時間とこの迷宮に居るのか正確な時間は分からない、空腹に気付いてしまえば集中力は保てなかった。溜息を一つ吐いて、インベントリから魔導具を取り出す。
ダリアから預かった『リターナー』を起動、魔力源は途中で拾った中型魔石。地面に置かれた『リターナー』は、まるで蓮の花が咲くかのように展開する。その中心部には指輪が一つ、どうもこれが『リターナー』の発するマーカーを受け取る物らしい。サイズが合うので右手の人差し指に嵌めた。
もう一つ中型の魔石を取り出して『クラフト』を使用、転移結晶をこの場で作り上げる。
術式に問題が無いのを確認して、俺は地上に戻る。明日は此処から続きを始められるのだと考えると、都市長のこの魔導具はかなり便利だ。魔力の関係で一度きりしか発動しないというが十分だろう、これの開発にダリアが関わっていると考えると少し誇らしくなる。
地上に戻り、帰路を歩く。
戻った際に職員が俺が一人という事にひどく驚いていたのが印象的だった。指に嵌った魔導具から生存はしているのが分かるので、それだけは伝えておいた。転移結晶は渡したし、先に迷宮から出ていると予想したが外れたか。
黄色い月の下、ゆっくりと歩いていく。静かな時間は嫌いじゃ無い、耳に届くのは小さな笑い声や食器を洗う等の生活音。人の生活圏でのみ感じられる生命の音だ。
道を進んでいく中で、無意識だったのか普段と違う道を歩いていた。遠回りどころか、家には着かない道程。何故俺はこの道を歩いているのだろう?
進んだ先は小さな広場、ずっと昔から有る住宅地区の中の空地。家と家の間にある何故か埋まらない空白地に、その人は立っていた。
「……こんなところでどうしたんですか、『天使長』」
その背に13本の剣で出来た翼を背負い、後ろ手で手を組み空を見上げていた『天使長』は俺の呼び掛けに振り向いた。
《あら、タタラさん。お久しぶりですね!》
何時もの能天気というか、朗らかな笑顔を向けてくる『天使長』の姿に少し気が抜ける。特に閉鎖のされてない空地に俺も入り、『天使長』の側に行く。
「こんな所でどうしたんですか、何か有ったんですか?」
同じ質問をすると、『天使長』は微笑んでから空を見上げる。
《今日は綺麗な満月だったので、ちょっとお月見に来たんですよ。ほら、月が綺麗でしょ?》
言われて空を見上げる、改めて見ると確かに綺麗な満月だ。青でも赤でも無い黄色月、二柱の女神が介さないありのままの月とされる物。
「確かに、月が綺麗ですね」
あれ、この言い方は拙いか?
チラッと『天使長』を見れば普通に笑って一緒になって月を見上げている、どうやら彼の文豪の逸話は通じないらしい。内心で安堵する。
《ふふ、さっきよりも綺麗に見えますね。タタラさんと一緒だからですかね?》
「そういう勘違いを誘発させそうな事は言わないほうがいいですよ、ただでさえ貴女は無防備なんだから」
本当に通じてないのか疑問になってきた、あの文豪の文脈はつまり好きな人と見る光景は美しいって意味になるものの筈だ。『深く深い闇の先で』の『看板娘』イベントで、勘違いストーカーに翼を奪われる切っ掛けってこの人のこう言う所なんだが……歴史が繰り返されないといいが。
《タタラさんの前くらいですよ、地上で私が無防備になるのなんて》
「深く意味は聞きませんけど、そういう所は直して下さい」
思わず溜息が溢れるが、『天使長』はそんな俺を見てクスクスと笑っている。
《そう言えば、タタラさんは私に聞きたいことがあるんじゃないですか?》
「そう言えばそうですね、この花冠の『成長促進』について聞こうと思ってたんだ」
ダンジョン内で手に入れたこの『祝福の花冠』に付いている『成長促進』の効果、レベルアップの速度から何かしらのボーナスが有るのは分かるが正体が分からない。なので確認を取りたかった。
《その『成長促進』はお察しかも知れませんが経験値のボーナスになります、具体的には経験値に5点追加する物ですね》
「予想はしてたが強過ぎねぇかなこれ」
この世界のレベルアップは一律100点の経験値を貯めれば1レベルが上がる。敵とのレベル差で経験値が変わり、+10以上のレベル差なら100点が入る。逆に−5のレベル差が付くと1点まで下がるので、雑魚を100匹狩る労力さえ費やせば必ず1レベル上げられる。そこに確定で5点追加となればその強力さが分かると言う物だ。
尤も、『早熟』の経験値割り増しのチート具合には霞むが。
《でも、それを貰えるのは妖精から祝福を受けれるだけの功績が無いと駄目なんですよ。その事実が最早幸運の証明です》
「……まぁ、何かしらの偶然が重ならないと無理でしょうね」
雌雄の『ムゥ
《それで、聞きたいのは本当にそれだけですか?》
そう言って『天使長』は真っ直ぐ俺の目を見てきた。何処までも澄んだ翠の目は、心の底まで見透かすかのようで──
「……俺、は」
《はい》
「俺は何をやってるんだろうな」
思い出すのはダンジョン内での事、大切な相手である筈の三人から囲まれ誂われて前世のトラウマを刺激された結果の暴走。
事の経緯を『天使長』へ話していく、『天使長』はただ静かに俺の話を聞いているだけでそれだけでも助かった。ダンジョン内の事もそうだが、転生の事を信じて貰えなかった事の辛さまで語っていて改めて俺がその事を重く見ていた事を自覚する。
別に、童貞弄りはどうでも良かった。最初の反応も反射的に出た物で、前世でも有名なネタの台詞だったから。問題は、その事を三人が繰り返し弄り続けた事。前世で起きた俺に仕事のミスを押し付けた奴等による多対一の対立構造で、結果的に俺一人に全てを押し付けられた事に対する怒りとトラウマを刺激された事。
その時に責め立てた連中は全員俺が仕事上でフォローをしていた人間達で、俺の仕事が杜撰だからという理由でミスが発生したと言い訳してきた奴等だ。口裏を合わせられ、民主主義らしい多数決で俺が一人悪にされた事例。
それ以来そいつらのフォローは全て辞めて俺は俺の仕事だけに集中した、結果として仕事全体が滞った。上司からはフォローを命じられたが、奴等曰く杜撰な仕事をする人間が入っても仕事が駄目になるだけだと拒否した。
結局納期に間に合わず、先方からは上司が怒られる事となったのを見ていた。何故か俺がその後に怒られたが、録音して人事と社長そして労基に送ってやったが。
善意で助ければ食い物にされ、学んで離れても攻撃される……何よりもその事を学んでいても、結局誰かが困っているのを見ると手を差し伸べたくなるのは性分なのだろう。結局、手を差し伸べたつもりのあの三人ですら結託して俺を攻撃するのだから本当に学べてない。
《タタラさんは、誰かを助ける事に後悔してるんですか?》
「何度もしてる。それでも懲りずにこの手を伸ばしてるんだ」
自嘲が浮かぶ。お人好しなのか、それとも別の何かなのか。
俺の根源に何が有るのかは分からないが、この衝動はきっと何度生まれなおしても治らない物だと思う。
そんな俺を見詰める『天使長』は何処か優しい笑顔だ。
《ふふ、それでこそ私の好きなタタラさんですね》
本当、この人は無防備にこういう事を言うな。きっと『天使長』のプロフィールが有ったら、好きな物の欄には皆とか書かれてるぞ。
《そういえばタタラさん、此処って何処だか覚えてますか?》
「此処……?」
妙な言い回しで、改めて見渡す。この空地は昔から有る場所で、中央図書館から俺の家に向かう時に300m程短縮出来る近道だ。昔は何度も通った道の途中で──
「此処ってもしかして、『天使長』と初めて会った場所ですか?」
《あ、思い出せました?》
悪戯っ子のような微笑みを向けてくる『天使長』に少し戸惑う。何でそんな嬉しそうなんだこの人は、傷付いて泣いていた記憶だろうに。
《タタラさんと初めて出会って、タタラさんのお陰で帰る切っ掛けを貰えた場所なんですよ》
懐かしそうに目を細める『天使長』を見詰める、悲しみと痛みの記憶だけでは無いと言いたいのだろうか?
《タタラさんは優しいから、目の前で困っていたり泣いてる誰かをほっとけ無いんです。その事を当たり前にしてしまうから、皆が当たり前と思って甘えてしまう……私も甘えてしまうから分かります》
そう語る『天使長』は透明な笑みを俺に向ける、そこに宿る感情は読み取れない。
《タタラさんはもっと怒って、感情を表に出さなきゃ駄目なんですよ。溜め込んで、我慢して……そうして心を壊すくらいなら嫌なことに嫌と突き付けなきゃ駄目なんです。それを上手く出来ないから、誰かに利用されたり……好きな人を傷付けてしまうんです》
そう語りながら『天使長』は俺の頬に両手を添える、真っ直ぐ目を見て語りかけてくる。
《本当はエテルさん達にそんな事を言いたくなかったのに、普段怒らないから感情に振り回されて言いたくなかった事まで言ってしまう。エテルさん達もタタラさんが普段怒らないから、やり過ぎてしまったんだと思います。嫌なことは嫌って言って下さい、痛いことは痛いと訴えて下さい。それを見て嗤う悪意ある人達も確かに居ます。けれど、そんなタタラさんに寄り添う人達も居るんです。エテルさん達は本来そういう人達の筈ですよね、だってタタラさんが好きになった人達なんですから》
まるで慈母のような微笑みを浮かべる『天使長』の言葉が頭に響く、心にじんわりと染み渡る。
「……そう、なんだ。大切なんだ。けど、だからこそ……ああいった言葉が嫌だった。好きな人を嫌いになりそうだから聞きたくなかった」
気付けばそんな言葉が漏れていた、自然と『天使長』を抱き締めて言葉を紡ぐ。
「俺は何を間違えてたんだ、エテル達からあんな風に言われない為に何をしてれば良かったんだよ。嫌なことは嫌だって伝えろって言うなら、どうやって伝えれば良かったんだ。転生した事を冗談に取られて、凄く嫌だった。本当の事を疑われるのは辛かった。子供っぽいかも知れない……けど、大切な人に嘘つき扱いされるのが嫌だった」
俺の腕の中の『天使長』はそっと抱き締め返して背中を擦ってくれる。それが昔、風邪を引いて辛い時に頭を撫でてくれた母さんの手付きに似ていて涙が出て来る。
「怒ったりするのは嫌だ、俺が辛いから。悲しいのも苦しいのも嫌だ、誰かが泣くから」
《そうですね、辛いですよね》
「こんな風に思うなら、独りの方がいい」
《違いますよ、タタラさんは誰かと一緒じゃないと駄目です》
俺の言葉に対してそう否定する『天使長』、そういえばあのバカにも俺は一人じゃ支えられないと言われたな。
《タタラさんは一人だとただの機械になってしまいます、感情のないただ生み出して終わるだけの機械に。タタラさんを人たらしめるのは、側に誰かが居るからこそです。それは、多ければ多いほどいいんです》
やや興奮気味にそう伝えてくる『天使長』は、俺にどれだけ他人が必要かを熱弁する。
《タタラさんのこの世界に於ける役割は『創造者』です、誰かの為に何かを創り出す者として役割を与えられました》
それは、はたして誰に与えられた役割なのか。それに、なんだか『天使長』の雰囲気がおかしい。
《貴方の魂がこの世界へ訪れる際、本来与えられる役割は別に有りました。しかし、貴方は意思にてその役割を破棄して別の役割へと手を伸ばしました》
目の前の『天使長』の言葉と表情が段々と無機質になっていく、
《貴方は貴方が本来果たすべき役割では無く、その役割に就く者が手にする道具を創り出す役割に就きました》
何を言っているのだろうか、俺がクラフターとしてこの世界で生きたいと願った事が何を引き起こしているんだ?
《故に貴方は一人で生きる事は叶わず、貴方本来の役割を引き継ぐ者を選定し、相応しき器を与えるのです》
「……その役割を果たさないとどうなる?」
《貴方は全てを失うでしょう》
世界は人に役割を、運命と言う形で与えているというのはゲーム会社の過去作で語られていた事の一つだ。
以前語られた神と交わる事で
《貴方は既に、
淡々と語られるその言葉は、俺を責める物だ。
《それにポンポンと
責めるのは分かるんだが、表情に若干怯えがないか?
《御伽噺を実現させて、長い時間を掛けて存在を定着させる概念をポンと創り出して……毎度毎度心臓が止まる思いですよ》
以前、シャムスとエストに『真理なんて物が有るなら、俺は怖がられる側』と話した事が有るが本当にそうとは思わないだろ。
「……
《言葉の文ですが、何なら星の心臓を止めましょうか?》
「勘弁して下さい」
冗談は通じないのか、冗談と分かってより凶悪な冗談で返されたのか微妙なところだな。
《貴方の行動の結果、用意された器の許容量を越えるとは此方も想定外でした。貴方、何でそんな自殺願望高いんですか?》
「その認識なのか俺」
《思い付きと知的好奇心、更には前世の発想や法則を応用して此方の世界で再現するのは控えめに言っても自殺志願者の発想ですよ。世にいる天才がその命や運命力を使って新たな法則を世界に敷き、その結果魂が成長して器を破壊するのですよ?》
「成る程、佳人薄命ってのはそういう理屈なのか」
《関心していますが、貴方が存在昇華をする必要性が出た理由なのですよ?》
存在昇華か、今回は一度行ったがこの先は迷うな。
《……貴方の大切な人達を置いて逝くつもりですか?》
「もう自分の心もよく分からないんだよ、傷付けて泣かせても何も思わなかったくらいにな」
今でもエテルを泣かせ、四葩を傷付けた事に対して何も思えない。いい気味とも思えないし、申し訳ないとも感じない。
《一先ず、その三人は忘れなさい》
考えを読んだらしい『天使長』……と言うか『世界法則』はエテルや四葩を一度忘れろと言ってくる。
《貴方の子を宿したあの亜神族の血を引く妖、そして貴方の作った霊核で生き永らえさせた者を思い出しなさい》
そうして思考を誘導する先は一華とダリア、その2人にも生きろと言われている。あの三人は抜きにしても、一華とダリアには申し訳なさが湧く。
《更にこの都市を治める者と、永遠者を思い出しなさい》
その次に都市長とカラムスさんか、親代わりと姉代わりを務めてくれた2人。この2人にも申し訳がないな。
《怒りの矛先を向ける者達は一度置いて、貴方が死ぬ事で悲しむ者は殊の外多いのですよ。例えば、この端末──》
「その人を、モノ扱いするんじゃねぇよ世界風情が」
思わずそんな声が漏れた。自然と殺意が沸くが、目前に立つその身体は『天使長』のものだ。手を出せないのがもどかしい、それとも俺の持つ概念武装の中に繋がりを絶てる物が有るだろうか?
《……この身体は、
「もう一度言う、その人をモノとして扱うんじゃねぇ……俺の追放と引き換えにして世界をひっくり返す物を作るぞ」
《すみませんでした》
制限が掛かっているこの身体だが、逆に世界への影響をどれだけ大きく齎すのかが直感で分かるようになっている。何を作ったらこの世界から追放されるのか、確実に追放されるレシピ自体は幾つも浮かんでいる。
その中でも特大の物を作り出せば、目の前の存在に悲鳴を上げさせることくらいは出来る筈だ。
俺に謝罪をしてきた
《何を作ろうとしているかは何となく分かりました。お願いですからやめてください》
「お前が恐れるって事は本当に世界をひっくり返せる代物なんだなコレは」
《貴方なら、今作ろうと考えている物が何かは分かっているでしょう?》
俺が作ろうとしている物は『錬金術師の卵』の対になる物だろう、これも架空の物質だが正直『卵』が既に存在するのにそこまで恐れられる理由は無いと思ってる。まぁ、あくまで俺の感覚の話だから参考にはならないのだが。
「単なる第五元素とか呼ばれてるだけのもんだろ、そもそもこの世界には魔力って要素が有るんだから今更だろうが」
《認識が軽過ぎる》
「世界と『天使長』なら俺は『天使長』を選ぶぞ」
《コレだから技術も覚悟も精神も発想もタタラってる存在は》
「……世界からもそれを言われんのか俺は」
今ならゲームで用語集開いたら『タタラ(動詞)』の項目が有るんじゃないか?
《仕方ないので、この身体は元の持ち主に返します》
「さっさとしろ、でないとお前のいない所でお前の似姿の神像造るぞ?」
《嫌がらせの極致ですか?》
「俺に『料理長』と『清掃長』のエロフィギュアの情報流して来たヤツが言うなよ」
《すみません。よくわかりません》
「急に精度の悪いAIになるな」
此奴が世界なら、俺達の『クラフト』の情報を管理してる張本人になるだろう。つまり、『天使長』や神々のフィギュアでの俺の介在しないイメージを送ってきているのは此奴になる。無表情だが目線が泳いでるから、本当に此奴が送ってきたイメージなのだろう。神像の不敬な姿と言い、此奴は何がしたいんだ。
「そもそも、何で今回は『天使長』の身体を乗っ取って来てんだよ」
《……この身体の持ち主が、貴方の為に道を踏み外しそうだったからですよ》
俺の質問に対して、何処かバツの悪そうな雰囲気でそう答える
《私達が貴方達へ伝える
おいおい、『天使長』は何をやってんだよ。
《この子の貴方への感情を軽く見ないで下さいね?》
「いや、なんだそれ?」
《
おいおい『天使長』を越えて
《それと、貴方の本来の役割は──》
「聞いたら
《……横暴な人間ですね》
「世界そのものが理不尽だからな、多少横暴に我を通さないと生きられないのが悪い」
《ああ言えばこう言う……》
「おら、さっさと帰れ。帰らないと神像造るぞコラ」
《長く存在してますが、
嫌な初めてかも知れないな、今迄俺のように直接会話出来た人間がいないのだろうか?
「なぁ、聞きたいんだがいいか?」
《何でしょう、この肉体の情報なら上からひゃ》
「ちげぇよ『天使長』のプライバシーを公開すんな!?」
今、100とか言いそうにならなかったか?
いや駄目だ、気にしたら『天使長』を変な目で見てしまいそうだ。
「俺が聞きたいのは俺が『天使長』達の言葉を聞ける事に付いてだ、泣き声なんかは他の人にも聞けるみたいだが言語は俺にしか聞こえてないだろ。その理由が知りたいんだが」
《単純に
俺の質問に、
《貴方がタタラ・ジュロンであり、貴方の魂が貴方だから私達と直接会話が出来るのですよ。外来の魂の持ち主、所謂転生者は今迄も居ましたが言葉を聞き取れたのは貴方だけですから》
「嫌な特殊能力だな……まさか、これが俺の本来の役割に関係してるのか?」
《いえ、まったく》
即答すんのな、そこ。まぁ、本来の役割とか知る気が無いからこれ以上は聞かないが。
「俺は『創造者』って役割らしいが、それだから『クラフト』スキルの制限が無かったりしてたのか?」
《それも単純に貴方だから出来た
うん、大分ヤバい橋渡ってたのか俺。
《それなのにこの子の
「誑した覚えは……何でこれ何度も何度も言ってんだろうな」
散々誑しって言われて来てるのもよく分からないんだよな、聞いてみるか。
「散々誑しって言われるが、コレも役割に拘る物なのか?」
《貴方が単純に特定の存在達に特効入れる天然誑しなだけで、
「あっ、はい」
ややキレ気味の雰囲気で言われてしまった。つか、俺が話し掛けるせいで『天使長』から出ていかないな此奴。
《貴方が話し掛けるから時間が掛かりましたが、それでは
「ああ。次に用件が有るなら『天使長』達の身体を使わないで自前ので来いよ。何なら作ってやろうか?」
《本当に作れる人間が冗談でも言わないで下さい》
その言葉の直後、『天使長』の身体から力が抜けて倒れ込んでくる。咄嗟に抱き締めて地面に倒れる事は防いだが、『天使長』は意識を失った状態だ。さて、どうするかな?
《……今なら無抵抗なのでえっちな事も出来ますよ?》
少しの間支えたままで居たら、『天使長』からそんな言葉が届いた。
「しねぇよ阿呆、起きたならさっさと自分で立ちやがれ下さい」
《むぅ、タタラさん流のえっちな事が気になるのに》
思い切り否定したら不満そうな言葉と共に態勢を整えてその場に立つ。
「それで、もう大丈夫なんですか?」
《はい、
身体は大丈夫と確認が取れたが、『天使長』は寂しそうに帰ると言ってくる。
《最後にお教えしますね。タタラさん達転生者はこの世界で役割を担います、その為に最適化したスキルを与えられてこの世界に生まれる筈でした》
「……つまり、転生直前でキャラクリエイトした俺が異質過ぎたと」
《はい、その為に
まぁ、うん。俺に背負わせる
納得は出来ないが。
《結果として、タタラさんの役割をこの世界に生きる他の者に移しその手伝いをタタラさんにさせる……それが
「……いいんですか、そんな内部事情話して?」
《良いか悪いかで言えば、完全に駄目な事ですね》
「うん、知ってた」
要は会社の守秘義務違反と同じ事を『天使長』はしているのだ、外部に漏らしたら駄目な事を伝えて来ているのだから下手したら懲戒になる。
《怒られるだけで済めばいいですけど》
「もし職場から追い出されたら家に来て下さい、雇いますから」
《ふふ、そしたら永久就職してしまいましょうか》
その時は人格やらが消されてしまっているかも知れない、そうしたらいよいよ持って俺の考えうる最大の発明を行うだけだ。
《タタラさん、今はまだエテルさん達に対して心を定めてないかも知れません。赦せる精神状態に無いかも知れません。いっそ赦せるまで時間を置くのも、赦さずにいることも必要な事です。ご自身の心に向き合って下さい……その先にしか、納得出来る答えなんてきっと無いですから》
そう言って、『天使長』は微笑む。戸惑う中で笑い返そうとしたら不意に目を塞がれて、唇に柔らかい感触が伝わる。
頭の中が真っ白になった瞬間に、『天使長』は影すら追い付けないような速度でその場を去っていく。
いや、『
天使長《タタラさんが
おまけ。存在昇華前タタラ最終&存在昇華後ステータス
レベル 60/60
体力 600(600)
魔力 360(360)+100
技力 360(360)+5
物理攻撃 120(120)+50
物理防御 120(120)+11
魔法攻撃 120(120)+50
魔法防御 120(120)+21
速力 120(120)+50
運 100(100)
移動力 20 (99)+2
スキルスロット
『騙し討ちⅢ』8/10
『闇討ちⅠ』1/10
『不意打ちⅠ』1/10
『ゴーレムクラフトⅣ』1/10
『隠密Ⅱ』1/10
『早熟Ⅰ』
『考古学Ⅴ』1/10
『移動力上昇Ⅱ』1/10
『忍び足Ⅱ』3/10
『物理防御上昇Ⅱ』1/10
『魔法防御上昇Ⅲ』1/10
『技力上昇Ⅰ』5/10
スキルコンプリート
『クラフト』
『錬金術』
『鑑定』
『槌適性』
『性魔術』
『創製魔法』
『物理攻撃上昇』
『魔法攻撃上昇』
『速力上昇』
『魔力上昇』
『採掘』
レベル 1/70
体力 240(720)
魔力 144(440)+100
技力 144(440)+5
物理攻撃 48 (160)+50
物理防御 48 (160)+11
魔法攻撃 48 (160)+50
魔法防御 48 (160)+21
速力 48 (160)+50
運 40 (100)
移動力 20 (99)+2
スキルスロット
『ゴーレムクラフトⅣ』1/10
『隠密Ⅱ』1/10
『考古学Ⅴ』1/10
『移動力上昇Ⅱ』1/10
『忍び足Ⅱ』3/10
『早熟Ⅱ』
『限界突破Ⅰ』
スキルコンプリート
『クラフト』
『錬金術』
『鑑定』
『槌適性』
『性魔術』
『創製魔法』
『物理攻撃上昇』
『魔法攻撃上昇』
『速力上昇』
『魔力上昇』
『採掘』
控えスキル
『騙し討ちⅢ』8/10
『闇討ちⅠ』1/10
『不意討ちⅠ』1/10
『物理防御上昇Ⅱ』1/10
『魔法防御上昇Ⅲ』1/10
『技力上昇Ⅰ』5/10
転生回数:1
存在昇華回数:2
状態:非童貞
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない