※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント継続中


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転生者はかく語りき

 一人帰路を歩きながら、先程の『天使長』を思い出す。唇に当たった柔らかい感触、『看板娘』はそう言った接触は禁じられていた筈だ。

 ラッキースケベの胸揉みは『料理長』で有ったし、着替え中を見てしまうのも『清掃長』で有った。パンチラなら『バイト長』で有ったが、アレは超ミニスカなメイド服着せてるから会社の方針で多少の助平を許したのだろう。しかし、『天使長』にはそう言ったのは無かった。

 徹底的なガードの硬さを持っていたのが『天使長』で、それ故に最後まで清純さを貫いた『看板娘(アイドル)』である。

 それがまさか、唇を許すとか──

 

「……いや、言葉の方を考えろよ俺」

 

 大分動揺しているみたいだ、今更初恋の相手がそんな行動取ったからと言って感情を引っ張られてしまうのは違うだろう。

 彼女は俺に『直ぐに赦さなくてもいい』と言った、時間を置いて考えて定めるべきでもある事だと。謝罪を受けると、相手を赦さないとならないって精神性になるだろう。

 責められた苦しさから抜け出したくて、反射的に相手へ謝る事も有る。そうして形だけでも謝罪したのなら赦しを与えなければならない、周囲からも赦さない事を責められる形になるだろう。

 それで納得出来る訳もないし、許さなければならない側にも痼が残る。そんなので今後上手くやっていけるのか、いずれ忘れるかも知れないがなあなあで済ませたらまた同じ事が起きかねない。

 そんな堂々巡りの思考をしていると、家の前に着いていた。

 二人は先に帰っているだろうか、顔を合わせるのが怖い。数度深呼吸を繰り返し、意を決して扉を開く。

 

「ただいま」

 

 挨拶をして家に入ると、挨拶が少し遅れて届いた。

 

「おかえりでござるよ、ご主人」

 

 エプロンを身に着けた一華が出迎えてくれる事に少し安堵する、お義母さんや当主代行相手だと気不味かった。

 いや、後で顛末を正直に伝えないと駄目だな。不誠実に過ぎる。

 

「ただいま、一華。夕食って食べれるか?」

「温めに少し時間を貰うでござるから、風呂で汗を流してくるでござる。大丈夫、ご主人は安心して入っていいでござるから」

 

 うん、なんでそこを念押ししたのか。……一人で帰ってきた事の理由を察しているからか?

 

「分かった、風呂で汗を流してくる。臭いだろうしな」

「拙者は大丈夫でござるが、娘が生まれたら……」

「……ああ、うん」

 

 即死魔法『ぱぱくさい』の事だろうか、愛した子供に言われたら凄そうだな……それを聞けるまで生きれないだろうが。

 それを話す前に気分を変えようと風呂へ向かい、シャワーで汗と汚れを流す。湯船に浸かるのは後にする。食事とこの先の存在昇華について話した後、思い切り『クラフト』してストレスを発散したい。槌を振るって、金属を鍛えて物を造る。世界から追放される物を造るつもりは無い、鍛造した魔法金属で造りたいものが有る。大製造を、一心不乱の大製造を!

 ……駄目だな、脳内で『クラフト』愛の演説とかしてたら『不死の王』がログインしてきかねない。何となく馬鹿笑いしてる『不死の王』の姿が浮かぶ。思い切り冷水で顔を洗い頭を冷やすと共に無理矢理追い出した。

 入浴を終えてリビンクに戻ると、一華が料理を並べて待っていた。お義母さんと当主代行の姿は見えない、これは運が良いのだろうか?

 

「ささ、ご主人沢山食べるでごさるよ!」

 

 そう言われて席に着くと、本日の夕飯らしい大丼から蓋を外した。

 大判型のきつね色をした揚げ物が、煮込まれた玉葱と共に半熟の卵に綴じられている。

 カツ丼だ、紛うことなきカツ丼。

 味噌カツ丼やソースカツ丼と差別化で呼ぶならカツ煮丼になるか、個人的な認識だとスタンダードなカツ丼はこのカツ煮丼になる。

 

「ふふ、少々贅沢に油を使わせて貰ったでござる。此方の料理のシュニッツェルの揚げ焼きとは別の調理法でござる、下味は醤油と白胡麻を使ったでござるよ」

 

 一華の言葉に生唾を飲み込みつつ、カツ煮を白米と共に摘み一口。上面は硬さを残したザクリとした食感、パン粉は粗めで食感優先と言った所か。対し出汁を吸っている下部はふわりと柔らかな食感の後、衣が吸っていた出汁が溢れ出た。醤油、味醂、料理酒だけのシンプルな味付けの出汁、そこへ煮込まれた玉葱やとろりと半熟を保った玉子。咀嚼を続けると肉に含まれた出汁醤油と表面にまぶした白胡麻の香ばしさが口を満たしていく。

 嚥下した後、汁椀を手に取り味噌汁を啜る。今日は玉葱と馬鈴薯、白4の赤1の合わせ味噌。溶けた玉葱の甘みと鰹出汁の風味、僅か溶けた馬鈴薯の味が溶け合い飲みやすい。

 次に小鉢によそってあるきんぴらごぼうだ。人参と牛蒡を一摘みして口に含めば甘辛く味付けされつつも硬い歯応えを保った食感が口を満たす。甘辛いと思ったが、改めて味わうと辛味の方が強い。今日の主菜や味噌汁が甘めの味付けが強いので、この辛めの味付けが口の中を雰囲気を変える。何より、丼のカツ煮の汁をまとったご飯との相性もよく更に食が進む。

 

「本当は、鶏肉も揚げたりを考えたでござるよ」

 

 その言葉に咀嚼しながら考える、この献立に添える鶏肉の揚げ物か。

 

「唐揚げか?」

「むむ、分かるでござるかご主人」

 

 竜田揚げとも迷ったが、唐揚げで正解の様だ。この献立に追加されても嬉しい物として考えた事と、カツ煮に小麦粉を使っていたからだ。料理をする上で共通の材料を使った方が効率がいい。

 一華の反応に気をよくして、食を進める。気分が良くなった故か、さっきよりも味が更に良くなった気がした。

 

「ご馳走様」

「お粗末様でござるよ……って、ご主人!」

 

 俺の挨拶に応えた一華が、食器を洗おうとする俺の姿に慌てる。

 

「飯を作ってもらったんだ、コレくらいはさせてくれ」

「むぅ……拙者の良妻賢母計画が」

「計画も何も、何処に出しても恥ずかしくない良妻だろお前は」

 

 こんなに尽くされるとドロドロに溶かされて依存させられそうだが、もしやそれが目的だろうか?

 ならば俺は風呂やトイレの掃除をやったり、偶に料理も手伝おう。単に尽くされるだけの男と思ってほしくは無い。

 

「ご主人、そのままでいいから質問いいでござるか?」

「集中が乱れなければな」

 

 大丼と汁椀、そして小鉢を一つと箸。一人分の食器だから大した手間でも無し、今度は油鍋やその他の洗い物も手伝ってやれたらいいな。

 

「今日の探索、何が有ったでござるか?」

 

 そんな予想外の言葉を受けて、手が止まる。

 

「先にエテル様と四葩が目を腫らして帰ってきたでござる。ご主人を欠いた状態でその言、一瞬最悪な想像が過ったでござるがその場合ご主人の亡骸がない事がおかしいでござる。そこで話を聞いてみたら──」

「俺がキレた、か?」

「はい、曰く『タタラを怒らせた』と」

 

 そう、怒らせたと正直に伝えたんだなあの二人は。

 

「……ああ、少し不快な事をされて感情が抑えられ無かった」

 

 洗い物を再開して、そう答える。力加減を間違えそうになるのを制御して、食器を洗う。何とか箸を握りつぶさないで済む。

 

「普段、身内に怒れないご主人がでござるか?」

「俺、お前への当たりがキツイと思ってるんだが」

「駄狐でいようとした拙者の行動に対してなら正当でござるよ、拙者に怒りを向けたのはそれこそ──」

 

 一華との応酬が少し途切れる。視線を向ければ、一華は胸に手を当てて言葉を続けた。

 

「それこそ、拙者に此処へ居ろと言った時にござる。本音を言えない私の為に、強く言ってくれたあの時です」

 

 まるで大切な宝物を見せるかのように、一華はそう言ってくる。何ともむず痒くなる、そんなに格好良い話でも無いのだが。

 

「教えて下さい、タタラ様。探索中に起きた事を」

「……わかった。一応言っておくが、お前の中のご主人像を壊すような事だぞ?」

「構いません」

 

 予防線を張るも毅然と答えられて苦笑いが浮かぶ、一つ息を吸ってから話し始める。

 60階層のボス部屋前に辿り着いた時に起きた彼是、俺が転生者という事。前世の話はほんの僅かだが、その後に起こった3人による童貞弄り。それが前世でのトラウマを刺激し、精神的に限界を迎えたこと。

 それらを話し終えて、少しスッキリする。出来るだけ事実だけ伝えたつもりではあるが、俺の主観故に3人を悪しざまに言ってしまっている可能性も有る。どう取られるかは分からない、一番信じていた相手からも嘘と言われるような俺の語りだ。聞き手にとって嘘臭い可能性が高い。

 

「……先ずは、転生者がどういう事か聞いていいですか?」

「そうだな、単純に前世の記憶が有るってだけだ。この世界とは理自体が違う世界のな」

「……具体的には?」

「俺達只人種(ヒューマン)くらいしか人間種が存在しない、一華みたいな妖怪はそれこそ御伽噺の存在だ。他は魔法や魔力が存在しないで、電気を主な動力として発展した科学世界って感じか?」

 

 動力周りは燃焼機関なんかも併用してるし説明が難しい、ダリアなら気になって突いて来ると思うが一華はスルーしてくれると信じたい。

 

「……俄には、信じ難い内容です」

「……そうだな」

 

 確かに、普通なら信じ難い事だろうな。俺でも第三者から話されたら多少は疑うが、身内なら信じるだろう。俺自身がそうだと言う事も有るが、人生に関する話をするのだから受け入れてやりたい。

 

「ですが、それは第三者相手の話。私は信じます」

 

 そんな俺の思考を読んだかのように、一華の答えが俺のものと重なる。

 

「他の者の言葉なら疑いますが、誰でもないタタラ様の言葉。それなら……私は信じます」

「……虚言、かも知れないぞ?」

「虚言なら、タタラ様はそんな諦めた表情をしません。今迄信じて欲しい相手から尽く理解をされない状況が続かなければ、そんな表情は出来ません。何よりも……タタラ様だからこそ、私は信じます」

 

 そんな言葉を真っ直ぐな眼を向けられながら言われ、目の奥が熱くなる。情けなくも涙が流れるが、一華はそっとその涙を拭ってくる。

 

「教えて下さい、前世の事を。何が好きで、どんな傷を負ったのか……沢山話して下さい」

 

 優しい声でそんな事を言われてから、堰を切ったように言葉が溢れ出る。前世の趣味であるロボットの事や、好きな料理の事。家族の事、友人達の事。仕事の事、トラウマの事。次々と話していく。

 

「もう、前世の名前は思い出せないから教えられない」

 

 間に挟んだその言葉に一華は寂しそうな表情をする、俺の全てを受け入れようとしてくれている優しさに報いれないとは情けない。

 全てを話し終えた時に自分でも引くくらいに溜め込んでいたのだと、今更ながらに気付く。

 

「タタラ様は複数人で囲んで相手を貶めるのを厭うのですね」

「そうだな、そういうのは嫌いだな」

「そして信じていた相手に裏切られる事も」

「そう……だな、そういうのも嫌いだ」

「なら、エテル様達への今回の怒りは正常かつ正当です」

 

 そんな一華の言葉に、いつの間にか俯けていた顔を上げる。

 その表情はあまり見ない怒りの様相、普段は精々が苛立ちで止まる一華なのでとても珍しい事だ。

 

「そもそもとして、エテル様は最初にタタラ様から前世の事を告げられています。それを初めから信じず、更には四葩が信じた事に対して嫉妬し前世で負った心の傷を抉る行為……私がその場に居たらエテル様どころか四葩とタチア様も殴り飛ばしていました」

「そこまで、か?」

「タタラ様も自身でなくエテル様や四葩が同じ目に遭っていたら殴ってでも止めたでしょう?」

「いや、流石に……」

 

 無い、と思いたいが客観的に見るとやりかねないのが俺なのだろう。正直、自己評価が宛にならない。

 

「タタラ様は普段からもう少し怒るべきです、でなければ優しさに慣れてタタラ様も一人の人間だと言うことを忘れてしまいます」

 

 その言葉に背筋が粟立つ、当たり前と認識されて何を言ってもいいと思われる……その状況は確かに危うい。

 

「タタラ様自身も忘れないで下さい、貴方は尊ばれる一つの生命であることを」

 

 そう言われて、少し難しいと感じる。俺は一度転生を経験している影響で俺自身の生命を軽視してる可能性が有る、前に出て攻撃を肩代わりするのも恐らくは根本にこの思考が有る気がする。一華はそんな俺の一瞬の逡巡を見て悲しそうな表情になる、こんな1秒にも満たない反応を見逃さないのは流石と言うべきか。

 俺の生命を大切にしてくれる相手に応えられない、報いれないのは我ながらに狂ってるなと思う。本格的にカウンセリングを受けるべきだろうな。

 

「そっか……そうだな、ありがとう一華。難しいけどやってみるよ」

「そもそも、普通の人間なら自身の生命を最優先するものでござるよ」

「ふふ、口調が戻ったな。やっぱり一華はその話し方でも可愛いぞ」

「むぅ、誂って……」

 

 感謝を伝えたら素の状態から普段のものに口調が変わる、聞き慣れて来たせいか一華のござる口調が可愛く感じるのは事実だ。

 

「まったく……そういえば、まだ何か話してない事はござらんか?」

「ああ、一華とのその子供を最期にして死のうかなって」

「はぁ?」

 

 ヤバい、盛大に一華の地雷を踏んだ。地雷と言うか俺の生命を軽視した発言にキレたよなコレ……直前にアレを言わせてコレなら確かにキレるか。

 冷静にそんな事を考えつつ、一華を見る。怒りで術の制御が出来なくなっているのか髪の色が金と茶とを反復横跳びし、尾が増えたり減ったりを繰り返している。

 

「タタラ様、何をどうしてそのような結論に至ったのか説明して欲しいでござるですよ?」

 

 怒りで口調が混ざってる、本気も本気でキレた一華なんて初めて見たぞ。

 

「いや、一華との子供が初等部に入って暫くは生きようとは思うぞ?」

「それ以降は生きるつもりが無いと聞こえるだござるますが?」

「いや、その……」

 

 エテルの為だけに生きるつもりだったのが、その理由を無くしたから生きる意味を見出だせない。一華とそのお腹の子供には悪いが、俺は長く生きる事を苦に感じてしまうだろう。

 突き放したと思っても、結局俺の中で一番はエテルのままなのだ。未練がましい。

 

「そこまで縛られるのでござるか、エテル様に。私では埋められないでござるか、その虚ろを……その孔を!?」

 

 怒りのあまり涙を流す一華を、そっと抱き寄せる。

 

「憎い……憎い、その胸の裡を満たして止まぬあの女が妬ましい!!」

 

 心の底から怨嗟の声を漏らしているのだろう、放たれる呪詛にインベントリの『厄切り』が反応してるのが分かる。落ち着かせる為に頭をゆっくりと撫でる、呪いが可視化されて粘ついて見えて触れた手に絡み付いて見えた。

 

「怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨──」

「うん、そろそろ怖いから落ち着け?」

 

 蝉の鳴き声みたいに怨の一言を繰り返す一華に段々と恐怖が湧いてくる。自分の為に怒ってくれるのは嬉しいが、流石にホラーは苦手だ。

 

「タタラ様、我が身の主は貴方様唯一人。その存在が早々に生命を終える決断をした痛み……文字通り半身を奪われる理不尽、その決断をさせた相手に怨讐を誓うのは当然です」

 

 俺の胸に埋めていた顔を上げ、真っ直ぐ眼を見て口を開いて出たのはそんな言葉。

 

「俺の為に怒ってくれる事は嬉しいが、それで身を呪いに浸す必要は無い」

 

 なんだか呪いが粘ついた挙句、一華の毛を黒く染めてるような気がするが気にせず語りかける。蛇みたいに蠢いて身体に巻き付いたり頬を舐められていたりするが無視だ、呪いまで愛情表現してるとか気にしたら負けだと思ってる。

 俺の言葉を受けた一華は眉根を寄せて口を尖らせる、拗ねている様子なので両手で頭をくしゃくしゃにするように撫でた。

 

「俺の事でお前が堕ちる必要は無いんだ、短いかも知れないが子供とは愛情を持って接する……何なら一華となら二人目を作っても良いから」

 

 二人目と言った瞬間に一華の目がギラリと光った気がする。うん、早まったか?

 

「能天気に笑ってくれとは言わないから、その呪いで俺の好きなお前自身を歪めないでくれ」

 

 頭に触れていた手を頬に添えて、そっと唇を重ねる。呪いが粘ついた黒から桜色に変わり散っていく……なんだろう、本当に呪いだったのかアレ?

 

「……ご主人は狡いでござる」

「かも知れないな、お前の好意に甘えているのは狡いだろう」

 

 本当に狡い男なのだろうな、俺は。エテルへ呪いを向けさせないようにこんな手を使うのだから。

 尤も、コレがかつての最愛を守る為か目前の愛しい存在を堕ちさせない為かは分からないが。

 一華は両頬に添えた俺の手に、自分の手を重ねる。

 

「……狡いご主人に、お願いをいいでござるか?」

「難しい物じゃ無ければな」

 

 恐る恐る聞いてくる一華に軽く返す、軽いものであって欲しいがこの場面だとそこそこ重いか難しい物がくる気がする。

 

「最下層までは望みません、せめてもう10年延ばして元服までは見届けて下さい」

「……元服って15でいいのか?」

「はい」

 

 一応、『ワールウィンド』の初等部・中等部の期間は前世の義務教育と同じだ。この国では18を節目として成人として扱うので、少しだけズレが有る。

 

「そして、余った時間を私と一緒に過ごして下さい。少しでも思い出を……生きるに足る物を下さい」

 

 ござる口調を保てないのか、本来の言葉で伝えてくる。俺はその願いに対して拒否する事を思い付け無かった。

 

「……分かった、あと10年だけ延ばすよ」

「ありがとうございます、本当にありがとう……」

 

 了承を伝えると、一華は泣きながら感謝を口に出して抱き着いてくる。我が事ながらチョロいなと思いつつ、一華をこれ以上泣かせたく無くて抱き返す。

 

「それとご主人、拙者はあの3人を赦せとは言わないでござる。赦したらご主人を拙者が堪能する時間が減るでござるからな。それでももし、赦せる日が来たのなら──」

「……うん、出来れば受け入れてみる」

 

 改めて謝罪が有った場合のみに一考するくらいの確率だが、それはその時にならないと分からない。そんな先の話は、未来の俺にぶん投げよう。

 

 

 工房に入り、只管に鍛造ミスリルを生み出していく。その総数約52kg、単純に小たたら99体と中たたら2体分の材料だ。また大規模な建築依頼を商会からされた際に、効率を更に上げる為に総数を増やす。約200の小たたらと、それを統括する2体の中たたらにて作業効率が上がる見込みだ。

 まぁ、こんだけ増やして出来る事は精々が中規模のダムを一月掛からず作成出来る程度だろう。地質調査なんかは『鑑定』で済むが、問題は素材だろう。必要になるコンクリートや、それに使う魔石の数などどれだけになるのか計算するのも面倒だろう。

 後は、新規にアーレムのアリーナを作成したり『ワールウィンド』の外壁を修繕したりと時間の掛かる作業の短縮。原作ではヒロインのルート内でこの外壁の老朽化問題が顔を出していた。そのルートでは敵国との戦争が始まる機運が高まっていたので、この『ワールウィンド』を守る為に外壁を補修すると言った流れだったのだ。

 別のルートでは敵国との戦争が起きなかったのでスルーされていたが、外壁の老朽化は無視していい問題では無い。工匠長として実力を見せる初仕事を求められるのは、都市長が工匠長に就任した際にも起きた事象だと記録に残っている。俺はこの『ワールウィンド』の為に出来る事を探して、この結論に至った。都市長の時は複数人必要な事案だったが、俺は一人でこなせると示そうと思う。目標は1週間以内での完成、11万人程が住む畑等も入った都市を囲む壁を修繕する上での工期が1週間は認めて貰うのに十分だと思う。

 そんな事を考えながら、鍛造したミスリルを500gづつに分けて『クラフト』と『ゴーレムクラフト』を使っていく。小たたらの核は統一してレア素材の『ゴーレム・コア』、99個以上集まっていたので助かった。『成長促進』と『早熟Ⅱ』の影響か、99体を作ったら『ゴーレムクラフトⅣ』のレベルが最大になっていた。そのままランクアップさせて、中たたら2体の作成に入る。今リーダーをやっている中たたらを総隊長として、99体の小たたらを管理する中たたら2体。合計201体のたたらゴーレムによる作業隊。都市長のお手伝い達を作る前に何をやってるんだと思わなくもないが、単純作業は心を安定させてくれる。

 帰宅途中の『天使長』と、先程の一華の言葉で少しだけ心に余裕が出来た。その上であの三人について改めて考える必要が有る。有るのだが、赦すか否かという前に『天使長』や一華が側に居ない状態で考えを巡らせると怒りが湧きそうだった。その為にたたらゴーレムを作るに至ったのだが、流石に101体追加はやり過ぎたか?

 スキルのレベルとランクが上がった影響で、『ゴーレム強化』のアビリティもⅢになっている。全ステータスが30上がってるのは流石にヤバいだろうと思うが、たたらゴーレム達は戦闘用では無いのでそこまでステータスは高くない。精々が騎士見習い達に体当たりをして一般人を助けられるくらいだろう、俺達には圧倒的に人手が足りてないのでほんの僅かでも数が要る。

 小たたら99体と、中たたら2体を作成したら全てをインベントリの中へ入れる。続いてインベントリから最初に作った中たたらを呼び出した。元気よく飛び出してきた中たたらを作業台の上に乗せて、眼を合わせる。

 

「リーダー、俺は今から『ゴーレムクラフト』スキルのアビリティでお前を強化しようと思う。許可が欲しい」

 

 真っ直ぐ眼を見詰めてそう語り掛ける。自作のゴーレム相手に何を言わんやと思われそうだが、コイツ達にも意思が見えるのだ。それなら誠実に語り掛けて、意思を尊重したい。

 

「……たーっ!」

 

 リーダーは少し時間を起き、意を決したように返事をしてくれた。そうか、お前も強くなりたいんだな。

 

「分かった、具体的な強化プランの話をするな」

 

 魔導式ワードプロセッサを取り出して、設計図を見せる。今回リーダーに施す強化は簡単に言うとオリハルコン製のムーバブルフレームの採用と外装の一部にアダマンタイトを採用する事だ。

 中たたらの大きさから逆算して骨格の重さは6kg程、カルシウムの比重から考えてオリハルコンは30kgほど使用する。しっかり鍛造して、不純物の分減ってしまうが骨格は円筒方式にして内部に流体魔石を流し込む。コレでコアに使用する『卵』から伝わる魔力がより効率化出来るだろう。

 そしてアダマンタイトは1kg程の使用に留める、使用箇所は鎧部分と髪の部分だ。鎧部分は外骨格的に貼り付けるが、髪の部分は混ぜる方向にする。見た目的に俺に近付くが、そこは許して貰った。ただ、アンテナを兼ねてるらしいアホ毛は魔力の伝達効率が落ちるのでアダマンタイトを混ぜれない。アホ毛だけ銀色なの、なんか目立ちそうだな。

 以上の事を伝えた上で、『ゴーレムクラフト』スキルで取得したアビリティ『ゴーレムカスタム』でリーダーの身体を改造する。最初にオリハルコンを鍛造してムーバブルフレームを作成し、その後リーダーの機能を一度停止する。心臓とも言える『卵』を丁寧に外し、ムーバブルフレームの中心部へ乗せて防護用のアダマンタイトカバーで保護。その後元の身体の内部へムーバブルフレームを『クラフト』を使用して設置。関節部等を弄り、へちゃむくれた姿から少しスタイルが良くなる。昔のBB戦士のプラモから、HGSDになったかのようなスタイルの進化だ。

 調整を終えて身体を閉じた後、アダマンタイトを外装に貼り付ける。最期に髪部分にアダマンタイトを混ぜ込んで完成。同時に、脳裏にこんぷりーとの声が響く。再起動を掛けると、少しの時間を置いてリーダーが目を開いた。少し自身の身体を確かめた後、俺に向かっ手を伸ばしてきた。

 

「たー!」

「おはよう、調子はどうだ?」

「らー!」

「うん、よく分からないが元気そうで何よりだ」

 

 此処に『天使長』や『料理長』が居たなら言ってる言葉も分かるのだけど、多くは望まない。ニュアンスはだいたい伝わってくるしな。

 新たな力を得たリーダーをインベントリにしまい、続いては61階層以降の攻略の為の装備を作る。

 先ずは『第八位』以上の『天使』族対策として、中距離攻撃用の追加装備だ。再利用可能な装備としてダリアの鎧にも付けたアンカーガンを俺の『黒煌』にも増やす。場所は両腕と腰の左右の4カ所、ワイヤーの長さは20mにした。

 次に新規の武器として杭を射出する物を用意する。前世で見たミサイルコンテナに似た形状で、魔鉄製の杭を最大六本同時に射出出来る。此方はアンカーガンとは違い杭は使い捨てで、射出の機構は風の王玉から魔力を風魔法に変換・圧縮した空気圧を解放する形をとる。『黒煌』から魔力を供給する形を取り、消費魔力を抑える設計が上手く嵌った。同じ物をもう一基作成、両脚の脹ら脛に装着する。

 

「……コレで、一先ずは70階層のボスまでは対応出来るか」

「新規に魔導具を必要とする程の敵なのですね。でしたらこのダリア、次の探索では共に往きましょう」

「ぬわだっ!?」

 

 油断していた所に声が届き、思わず変な声が出る。振り返れば、何時ものメイド服を着用したダリアが立っていた。

 

「気配を消して入ってこないでくれ、流石に驚いたぞ」

「申し訳ございません、マスター」

「本当にお前は……それはそれとして、おかえり」

 

 久し振りに見るダリアのメイド服姿に妙な安堵を覚えつつ、帰ってきた事を嬉しく思う。ずっと都市長の所でリターナーのテストを続けていた故に帰ってきた際は疲労で倒れてしまったのだ、今こうして普段通りに出来てるのは素直に嬉しい。

 俺の言葉にきょとんとした後、ふわりと笑うダリア。鉄面皮は何処へやら、大分表情が面に出てきている。

 

「ただいま、マスター。マスターも無事に帰還できてよかったです」

「ああ、無事に存在昇華出来たぞ」

 

 俺の言葉に満足そうに頷くダリア、今回のニードルランチャーも気になるらしくチラチラと視線を向けている。

 

「そんなに気になるか、このニードルランチャー?」

「それはもう、私達機巧乙女は新しい魔導具の誕生が気になるのが最早生態ですから」

「お前が言うと説得力が違うな……」

 

 ダリアの反応に苦笑いをしながら、ニードルランチャーについて説明をしていく。手に入れた王玉の話で『ランタナ』の強化について意見が出ると思ったが、そこはスルーされる。

 ダリアは何方かと言えば『黒煌』の方を気にしている様子で、特に属性を吸収する機能についてだ。まぁ、俺自身の研究では無くて素材の影響という点で興味を無くしてしまったが。こればっかりは王玉の持つ特異性なので概念武装でもないと再現は出来そうに無い。

 そうして一通り俺の魔導具について話を続けて、会話が途切れる。ダリアはそんな中でも俺を見ていて、何かを聞きたい様子だった。

 

「……何か聞きたいんだよな、ダリア?」

 

 そんな俺の声に少しだけ迷う様子を見せた後、ダリアは口を開く。

 

「……奥様方と何が有ったのですか、マスター?」

 

 やや硬い口調で、そう問い掛けてきた。

 

「どうしてそう思った?」

「マスターが一人で帰って来た事が一つ、そして奥様方が華澄様とのやり取り後に陽出國へ連れ出されたが故です」

「……なんだって?」

 

 エテル達が『ワールウィンド』に居ない事を初めて知る、家にお義母さん達が居ない事に気付けない己の限界具合の自覚も出来てないとは。

 

「私も家に誰かが戻る気配を感じる迄は眠り続けていたので大分曖昧ですが、奥様方が戻った時にマスターの気配を感じなかった為に違和感が有りました。急いで戦闘準備を終えてリビングへ降りれば、奥様方が華澄様へと説明している場面でした。マスターが無事である事は把握出来ましたが、その後華澄様が奥様方を叱責するのを確認。その姿があまりにも恐ろしく撤退しました」

「……お前でも怖かったんだな、お義母さんの説教姿」

「はい、実家の母を思い起こす程に」

 

 母は強し、これは世界共通か。

 

「その後、華澄様曰く『互いに同じ家で過ごすのは悪手、一度虎熊の邸へお二人を連れて離れます』と宣言し庭先の転移門を使用していきました」

「……そうか」

 

 確かに俺達の間で冷却期間が必要になるだろう、この辺は年の功と言うべきか?

 

「マスター、言い難いかも知れませんがあえて確認します。ダンジョン内で何が有ったのですか?」

 

 ダリアが踏み込んでくる、誤魔化すべきか一瞬悩む。しかし、『天使長』や一華の事を考えてから伝えるべきだと判断する。例え理解を得られなかったとして、俺にはもう信じてくれている人が居るのだ。今ならきっと大丈夫。

 

「……ダリア、最初に伝えておく事がある」

「はい、なんでしょうか?」

「俺は転生者だ」

 

 真っ直ぐにダリアの目を見てそう伝える。ダリアは5秒程俺の言葉を咀嚼してから、口を開いた。

 

「その転生についてで、今回奥様方との間にトラブルが発生したのですね?」

「ああ、転生者である事を伝えた後に少し地雷を踏まれてな」

 

 顛末を話していくうちに、自分の中でも整理が始まる。俺が一番嫌だった事は、集団による攻撃である事は変わらない。前世からエテルに出会うまでの童貞の事実は特に大した物でも無い、それよりも信じて貰えてなかった事のほうが心が痛かった。

 信じて貰え無かった事の辛さはあの場で爆発しただけで、積み重なって来たものが許容量を越えたのが原因だ。

 改めて自分が面倒臭い人間だと認識出来るな。

 

「ダリアは俺が転生者だと信じるか?」

「マスターが私に転生者だと伝えたのなら、それを是とします。私は貴方の言葉に対して疑いを基本的に持ち得ません」

「……それはそれで危険だろ、仮に俺が変態貴族にお前を求められて殺せと言ったら殺すのか?」

「……そこで身体を差し出させるのではなく、殺せと選択肢を出す時点で大概だと思いますが」

 

 ダリアの表情は何方かと言えば呆れのそれだろう、鉄面皮の筈だが何となく表情が読めてきたな。

 

「お前が相手に好意を抱くならそれも選択肢だが、それを無視して殺せって命令だぞ?」

「持ち得るか否かの時点では否でしょう。マスターも既に私が好意を持ち得ないと判断しています、恐らくはマスター以外に私が好意を持てない事を理解しているからです」

 

 そうなのだろうか、俺の無意識下の傲慢な判断の可能性ではないだろうか?

 

「マスター、私は機巧乙女であり唯一の機巧聖女です。我等が神たる『機械神』様もマスター以外の存在と結ばれる事を想定してません」

「うん、神様にも認識されてんのか俺は」

「お疑いになるのなら伝えろと『機械神』様から言われていますので伝えますが、マスターを世界に繋ぎ止める楔の一つは『機械神』様が担っています」

 

 マジか、どの神様が楔になっているかは分からなかったが『機械神』様はその一柱なのか。感謝しないとな。

 

「理由としては、私を救った事の比重が重い様子です」

「当たり前の事をしただけなんだがな……」

「その当たり前が難しいのですよ、マスター」

 

 普通や当たり前が難しい事、前世からもそんな風潮が有るがどうなのだろう?

 

「その為、マスターの寿命が尽きるその日まで側で侍る……コレが『機械神』様から告げられた私の最優先事項です」

「……お前の自由意志を縛るなら、そんな物は捨てっちまえよ」

「ご冗談を。マスターを好ましく思わなければあのムカつくトリモドキと決着を付けた時点で旅立っています。此処に残り貴方の側に居ること、これは私の意思です」

 

 真っ直ぐに強い気持ちを伝えて来るダリアに、何故そこまでという思いが湧いてくる。此奴の中には格好良く理想的な俺の姿が有って、それに憧憬を抱いているのではないだろうか?

 俺はそんなに格好良い存在では無いのだが。

 

「……お前の中の俺は随分と格好良いのかも知れないが、俺は憧れられるような男じゃないぞ」

 

 俺のそんな言葉を聞いて、ダリアは黙ったまま続きを待っている。意を決して口を開く。

 

「俺の前世は此方とは少し形が違うがクラフターだった、一点特化で今みたいに彼是とやれてはいないがな」

「マスターらしいですね」

「だがな、今ほどにどんな問題も解決出来る程の能力は無かった。集団で事に当たる為に全体のフォローや調整をやって、新人に教育して……そして人に下に見られる」

「……マスターを?」

「能力的には俺の方が上でもな、意味不明な万能感で見下す奴が居たんだよ」

 

 前世の話を始めれば、かなり愚痴交じりになる。ダリアが適度に合いの手を入れるので、中々に話しやすい。

 

「組織に所属してそうやって仕事を続けていたある日、俺の新人教育やフォローを勘違いした奴が出た。何故か俺がその女に気が有ると認識され、仕事中にそいつが盛大にやらかしてな。周囲はそいつと俺を恋人だとかこじつけ、俺がそいつを蔑ろにしたとかで攻撃を始めた。最初は耐えていたが限界が来てブチギレ、その組織からは足抜けして業界からも離れたよ」

「……マスターが今回、奥様方に対して踏まれた心的外傷はその集団からの攻撃ですか」

「そうだ。そもそもが他人に対して興味が薄い人間性なのは前世からだが、より薄くなった原因はこのトラウマからだろうな」

「その割には人を助けてますよね?」

「困っている人間が居るのに手を伸ばさない人間の方がおかしいだろ」

 

 何故かダリアは俺の言葉に呆れている、そんなに変だろうか?

 

「マスター、そうやって人嫌いなのに誰でも彼でも助けるから勘違い女や見下し連中が現れるのでは?」

「……え?」

「相手に好きだから手助けしてくるとか、何でもかんでもやってくれるから親の有難みを忘れる子供の挙動……前世のマスターの姿から察するにそういった連中が多かったのでは?」

 

 少し困ってるのを手伝ったり、呆れて仕事を手伝う事で勘違いするって普通有るか?

 相手に感謝したりするし、多少の引け目や負い目……自分が仕事を出来ないと認識されてるって事を考えたりはするかも知れないがそんな思考の変換とか理解できないぞ。

 

「そもそも、前世でマスターを助けられる人は居たのですか?」

「仕事上では居なかったな、上司の仕事のフォロー含めて全部やってたし。ある意味で自分の仕事を全う出来る奴等が助けだったか……?」

「これは駄目なヤツですね」

 

 何が駄目なのだろう?

 

「私生活は……あえて言うなら親兄弟か?」

「マスターに兄弟が?」

「仲は普通くらいだったけどな」

 

 偶に一緒に映画行ったり飯食ったり、ゲームやアニメの布教をする程度には仲が良かった。仕事も兄の影響でその道に進んだくらいには普通の関係を構築していたと思う。

 

「最後に面倒見た後輩には仕事辞める際に泣かれたりしたな」

「……その後輩の方の性別は?」

「女だったが……それが?」

「駄目なヤツですね、コレ」

「失礼な、俺の能力をほぼ引き継げるくらいに優秀なヤツだったぞ」

「駄目なヤツですね、コレ」

 

 ダリアが何を言いたいのか分からない、後輩の心を察してない事に対して言われてる気がする。

 そりゃ、一人称がボクだったし入社直後は男物の服ばっかり着てた変わり者だった。俺が教え始めて暫くしたら女性物のスーツがメインになったりしたが、素直で可愛い後輩だったのは一貫してた。

 

「……もしや、マスターの作る魔導具は前世で存在していた物なのですか?」

「家庭用の魔導具は基本的にそうだな、一部はこの世界の理論に合わせて改変しているのも有る」

「……『錬金術師の卵』や『エリンジウム』、魔導鎧に関しては?」

「前世では影も形もない、物語上の存在だな。理論提唱に向うの物語を参照してたりするが、非実在の物ばっかりだ」

「……マスター、多分それが出来るのはマスターだけだと思われます」

「いやいや、発想さえ出来ればみんな出来るだろ。前世から『お前の代わりは幾らでも居る』とか言われてんだし、普通だよ普通」

「……マスターのこの思考を形作った人間は、この世界で最大の功罪を成してますね」

 

 ダリアの呆れたような反応に少し戸惑う。まぁ、発想は有っても形を成せない場合も多いか。俺の特許技術が基本的に再現出来ない為に、俺に対する特許料が支払われて居ないのだし。

 

「マスターが慣れ親しんだ物語とはどういった物なのでしょう?」

「いっぱいあるぞ、多種多様過ぎて俺の一生で何割伝えられるか分かったもんじゃない」

 

 機動戦士や反逆皇帝、宇宙に響く歌声や装甲騎兵に天を衝くドリル。斬魔大聖に装甲悪鬼、鉄の城や意思を持つエネルギー線。汎用人型決戦兵器に勇者王、木星蜥蜴と戦う機動戦艦……適当に思い出したダリアが好みそうなロボ物ですら語り尽くせない。

 

「そんな物語の中に有ったネタを利用していくつか作ってる、俺一人の発想って訳じゃないから工匠長って役割に分不相応な物を感じる事が有る」

「前世の架空の存在をこの世界で実際に再現してるのは、控え目に言って意味不明では?」

「いや、発想の勝利案件というか」

 

 個人的にはカンニングしてる感が否めない。特許申請も技術公開の面が強かったりするのだが、誰も再現してくれなくて遂には此方でも後輩を育ててるのは何の因果なのか。

 

「ダリアの『フォルジュロン』なんて向うの魔術とか魔法の知見と此方の理論の間の子だしな」

「マスターの前世にも魔法が有るのですね」

「いや、無いけど」

「知見とは?」

「無いけど発想自体は物語として存在してんだよ、その中でもメジャーな物を抜粋して応用させてる」

 

 主に使用者の血や髪の毛を使って当人とリンクさせたりとかな。

 魔鉄等は向うと此方の錬金術を比較して、共通項を見出だして作り出した物だしな。この世界がよりファンタジーで、物質の存在に干渉出来る手段が有ったから出来たことだし。

 

「前に伝えた空戦機動、アレとかが正に物語の知識だ」

「あのトリモドキとの戦いの必殺機動ですか、もしや名前が?」

金翅鳥王剣(インメルマンターン)だな、元は人じゃなくて航空機を使った技なんだが……それを空中で戦う剣士が使うとした場合にアレンジされたのがダリアに伝えたヤツだ」

「……『トリテレイア』に最適化していたのは?」

「その場で最適化しただけだな」

「……マスターはやはりマスターですね」

 

 此処まで話してふと、ダリアが俺の言葉を本当に信じてくれている事に気が付く。ずっと俺が真実を話している事を前提にしてくれているのは素直に嬉しい。

 

「ダリア、本当に俺の前世を信じるんだな」

「勿論です、マスター。寧ろ転生者と聞いて納得出来る面が多い程です。それに、最初にマスターの言葉を是とすると宣言した筈です」

「そうか……ありがとう」

「此方こそ、マスターの秘密を教えて下さりありがとうございます」




諸君 私は製造が好きだ
諸君 私は製造が好きだ
諸君 私は製造が大好きだ

鍛造が好きだ
鋳造が好きだ
建築が好きだ
組立てが好きだ
整形が好きだ
研究が好きだ
分析が好きだ
掃除が好きだ
撤去が好きだ

鍛冶場で 工房で
自室で 道端で
冬場で 夏場で
海上で 空中で
戦闘中で 探索中で

この地上で行われるありとあらゆる製造行動が大好きだ
陳列棚にならべた作品のお披露目がいらっしゃいませと共に迎えた客の語彙力を吹き飛ばすのが好きだ
予算から高く放り上げられた客が財布をペラペラにした時など心がおどる

自警団の操るトリモチランチャーが犯罪者を捕縛するのが好きだ
悲鳴を上げて粘つくトリモチから飛び出そうとしてきた犯罪者を盾で確保した時など胸がすくような気持ちだった

砲口をそろえた自警団の横隊が犯罪者の一団を蹂躙するのが好きだ
犯人を確保状態の新人が助けた住民から何度も何度も感謝される様など感動すら覚える

諦め濃厚の後輩達を次の段階に引き上げていく様などはもうたまらない

泣き叫ぶ都市長が私の胸ぐらを掴むとともに金切り声を上げてガクガクと揺すってくるのも最高だ

哀れな犠牲者達が雑多な小火器で健気にも満足してきたのを30mm魔導式加速砲の徹甲榴弾が空中要塞を木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

『看板娘』の専用装備で滅茶苦茶な要求をされるのが好きだ

必死に出来るはずだった作品が制限されアイデア達が埃を被っていく様はとてもとても悲しいものだ

ゴーレムの物量に物を言わせて建築するのが好きだ

小たたら達と走りまわされ1日掛けずに家を建てた事をタタラってると言われるのは屈辱の極みだ

諸君 私は製造を地獄の様な製造を望んでいる
諸君 私に付き従うたたらゴーレム諸君

君達は一体何を望んでいる?
更なる製造を望むか?
情け容赦のない糞の様な製造を望むか?
人智天命の限りを尽くし世界法則の肝を潰す嵐の様な製造を望むか?

『製造! 製造! 製造!』

よろしい ならば製造だ

我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする鉄鎚だ

だがこの暗い鍛冶場で半月もの間堪え続けてきた我々にただの製造では最早足り無い!!

大製造を!
一心不乱の大製造を!!

我らはわずかに一個中隊 百を越える生産者に過ぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している
ならば我らは諸君と私で総兵力10万と1人の製造団となる

我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう

髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう

連中に恐怖の味を思い出させてやる

連中に我々の鍛錬の音を思い出させてやる

天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる

100体のゴーレムの制作陣で

常識を燃やし尽くしてやる

そうだ あれが我々が待ちに望んだ中枢の光だ

私は諸君らを約束通り連れて帰ったぞ あの懐かしの製造所へ あの懐かしの製造へ

『工匠殿!工匠!次期長!次期長殿!次期工匠長殿!』

そして設計図は完成し都市長へと渡る

たたらゴーレム隊各員に伝達 工匠長命令である

さぁ、諸君 新製品を作るぞ

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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