既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント発生中
アンケート実施中です、都市祭開催を以て終了となります。
タチアへ性的暴行を行おうとした糞どもが蔓延る塵箱宿舎を焼き払う為に『黒煌』と、都市長に開発を止められた特殊燃料火炎放射器『メルフラフスピンテール』の試作品をインベントリから出したら一華、ダリア、タチアの3人に組み付かれて止められている。
パワーアシストで無理矢理前へ進もうとするが、素の能力が存在昇華で下がっている上にダリアの膂力が純粋に全装備の俺より高く脚が動かない。
「3人に勝てるはずが無いでござろう!?」
「馬鹿野郎お前、俺は勝つぞ!」
尚も前へ進もうとする俺に一華が無理だと言うが、俺はそれでも前へ進む意志を声に出して返す。何だか非常に汚いやり取りな気がするが、そんな事を気にしてられない。
事実として前には進めて居ないが、俺は諦めない。
「大丈夫です、ロード!」
「……本当か?」
「見られたのは下着で済みましたから大丈夫です!!」
「殺す」
タチアの言葉が俺の心に燃料を注ぐ。『黒煌』は今こそ俺の怒りに呼応してスーパーモードを発動して欲しいが、そんな機能は付いてないので当然出力は上がらない。唯一俺の身体だけは怒りでリミッターを外して力を発揮出来るが、反動も大きい。まぁ、それをやっても3人を振り切れたとは思えないが。
遂に俺は引き倒され、ダリアの魔導具支配能力により『黒煌』を停止され脱がされた。更に上からタチアが抑えに掛かって来て、本格に身体が動かせなくなる。
「何を……」
「マスターの抵抗力を奪う為に脱がさせて頂きました、暴れないで下さい」
淡々とダリアにそう言われ、歯噛みする。ただでさえレベルのリセットに伴いステータスか落ちていて、更にはステータスが上限に届いているダリアが相手だ。当然勝ち目なんて初めから無かったが、僅かな可能性すら奪われた。
「……タタラ殿、何故貴方を傷付けた私の事でそこまで怒るのですか?」
静かに問い掛けてきたのはタチアだ。上から覆い被さる様に肩を押さえて来た格好のためその豊かな乳房が俺の目前に広がっている、そのせいか乳が喋ってる様に見える。
「……傷付けられた事は確かに赦せる事じゃない」
タチアの問に答える。思い返してしまえばあの時の怒りが再燃して、タチア達3人に対しての好意が嫌悪に変わるだろう。俺自身、顔を合わせたタチアを除いて他の二人の顔を思い出そうとしないよう意識してるのはこの辺を自覚しているからだ。
「怒りはまだ残っている、だが同時にまだ3人へ向ける好意も残っている……だからタチアを汚され掛けて怒りが湧いた」
「……面倒な性分ですね、タタラ殿」
「自覚はしてるよ」
「自覚が足りないですよ、圧倒的に」
俺の言葉に何処か呆れた空気で言うタチアに、少しずつ冷静さを取り戻す。押さえられて言葉を交わし、頭が冷えて来た。
「……悪い、今突っ込むのは控える。ただ、さっきのタチアがくれた情報も含めて騎士学校の生徒が強姦未遂を行ったことは都市長に報告させて貰う」
「ええ、それなら構いません」
俺の言葉を聞いて、タチアが俺の上から退く。一華とダリアも俺から離れて自由になる。
身体を起こした俺はサイファーを呼び、手早く手紙を書いてから大至急都市長へ届ける様に指示を出す。サイファーは一つ頷いてから外へ飛び出して行く。早ければサイファーに返信の手紙を持たせてくれるはずだ、今が一番忙しい時期だとは思うが流石にコレに勝る緊急性は無いと思う。特に敵国の軍事的な介入、間違いなく極刑行きの事案だ。証拠が不十分になるかも知れないが、外交長の仕事如何では本国の軍が動ける証拠を掴めるかも知れない。視察団の中に王族が居るのだとしたら、この情報から護衛に最精鋭の部隊員を追加してくれる可能性も有る。少なくとも『ワールウィンド』内に居る対人戦闘に慣れてない人員より、遥かに相応しい人員が来る事になる筈だ。
「……取り敢えず、暫くタチアはこの家から騎士学校に通うといい」
「良いのですか?」
「強姦未遂かます奴等と一つ屋根の下で過ごすよりずっといいだろ、流石に教師連中だってこの話をされて認めなければ法務部と防衛部から即時強制査察になる事くらいは分かるだろうしな」
学生運動を行う世代を育てた教師という事で信用は置けないが、それでも最低限頭は回るはずだ。此処で判断を誤ってくれた方が楽では有るのだが。
「では、好意に甘えさせて頂きます」
「客間は空いてないからエテルの部屋を使ってくれ」
「それは……」
「今は居ないんだから問題無い」
「……わかり、ました」
四葩に貸していた部屋も考えたが、あの部屋にはベッドが無い。慣れてない相手を布団で寝かせるのは流石にどうかと思うし、それならエテルの部屋を使う方が合理的だ。もう少し土地でも有れば、客人用の別棟でも建てるのだが……生憎と周囲の土地は全て持ち家付きである。何となく、居住者がまだ増えそうな気がするんだよなぁ。
「……そう言えばタチア、一つ聞きたいんだけどいいか?」
「なんだろうか?」
檜風呂へ向かおうとするタチアを呼び止める、聞きたい事が一つ有ったのだ。
「謝罪も無しに俺に協力要請して断られるって考えなかったのか?」
俺の質問に対してタチアは苦笑する、信じて協力した奴の言葉では無いか。
「門前払いも覚悟していました、あの日のダンジョンと同じ様に私を認識してくれないのではとも」
「普通はそうだろうな」
「けれど……人間関係の狭い私では貴方以外に考え付かなかったのです」
確かに、消去法で俺になるか。タチアはもう少し他の人達と関わらせるべきかもな。自警団の班長さんや副長さんと顔見知りなら、そっちを頼る事も出来ただろうし。
「……それなら、何故マスターに謝罪をしないのですか?」
俺とタチアのやり取りの中で、横から質問を挟むダリア。現時点でも謝罪は無い為になぁなぁにするのかとそんな意図を含めた言葉だと思う。尤も、今の俺はタチアに謝罪されても真面には受け取れない可能性が有るが。
「一つ訂正を。謝罪をしない、のではなく出来ないのですダリア殿」
タチアの返答は意図を汲むのが難しく、ダリアも訝しんでいる。タチアはその様子から少し悩みつつ、言葉を紡いでいく。
「私はまだ、あの時に何故タタラ殿が怒ったのかを正確に理解している訳では無い。その状態で謝罪をするのは、逆に怒りに油を注ぐ行為になるでしょう。なので、今はまだ謝れないのですよ」
成る程、タチアはタチアなりに俺を理解している訳だ。相手の怒りの理由を考えずに、ただ赦されたいとそれだけで謝るのなら俺が見限る事を正確に予想している。その言葉に嘘は見えない。いや、そもそもタチアは俺に
「……ですが、全てでは無いですが謝らねばならない事は分かりました」
「……それは?」
タチアの言葉をダリアが促す。するとタチアは俺に向き直り、頭を下げてくる。
「あの時仲間である私達がタタラ殿の言葉を信じなかった事、そして複数で囲み心無い言葉を浴びせた事……心より謝罪します」
そう謝罪された。この言葉を疑う事も出来るが、本心だろう。そもそも、あの設定が適用されているならタチアは俺にだけは嘘を吐けない筈だ。
「……つまりタチアは、俺が仲間に信じて貰え無かった事と複数から童貞煽りをされた事で怒ったと?」
「真実を聞き入れない……それも信頼している人からの裏切りに近い行為、そして複数から囲まれて攻撃されるのがタタラ殿に取って赦せない行為なのだと思います。あの時、前世が童貞である事を馬鹿にされたのはそこ迄では無いはずです。しかし、私達という貴方を信じて共に歩む筈の者達が貴方の言葉を疑った事……それも自ら聞き出してそう言った行為に至った事が怒りを誘発したのは分かりました」
正確に俺がキレた理由を理解している。意外と言えば意外だが、同時に人の言葉を鳴き声にしか聞こえていなかった時代から推理や推察する力を鍛えて居たからこその結果だろう。
もう少し早くそれを発揮してほしくもあったが、エテルや四葩に引き摺られたのだろう。対人経験の薄さ故の浅慮だろう。
「……その謝罪を受け入れる、よく俺の事を理解してくれてるな」
「これでも、貴方の騎士で在りたい気持ちは変わってないのですよ……ロード」
少し怖がりながら、俺をロードと呼ぶタチア。その事に対して拒絶はしない、正しく謝ってくれたなら俺も心から赦せる。我ながらチョロいなと思うが、俺は怒りを長く続けられるタイプでは無いのだろう。タチアは赦してもいい、そう思ってしまった。
そして、一度そう思ってしまえば俺はもう怒りを抱けない。
「呼び止めて悪かったな、タチア」
「いいえ……私も、赦して貰えるとは思えませんでした」
「そうか、まぁ俺もあっさり赦せたなとは思う。けど、多分……次はもう無い」
今回は赦す事が出来た、しかし次に同じ事があった時は多分今回の事も含めて相手を見る。人は間違える生き物では有るが、同じ事を繰り返す相手を俺は赦せない。多分、前世から続く俺の性質だ。
「ええ、我が魂と誇りに刻みます。もう、貴方に対して裏切りも猜疑も向けないと」
「……疑いくらいは持っていいと思うぞ?」
「一も二もなく、私の言葉を信じてくれた貴方に対してですか?」
先程の即時即答した信頼の言葉がタチアを縛っているのだろうか、我ながら何をしているやら。
「少なくとも、僅かだけでも疑いを持った方がいいぞ。俺だって誰かに洗脳される事が有るかも知れないしな」
「なら、先程は私が洗脳されている事を考えましたか?」
「例え洗脳された結果の嘘だろうと、お前を疑うより信じて痛い目に遭う方がマシだって判断した結果だ。盲信とは違うぞ」
「いえ、盲信でしょうそれは」
失礼な。信じて行動した結果それが無意味だったとしても、信じずに備えなかった結果取り返しが付かないよりかはマシだと冷静に判断した結果だよ。
それに、タチアを信じる理由はまだある。
「……盲信なわけが有るか、タチアは俺に対する嘘は
「言わない、ではなく
そう、言わないんじゃなくて言えない。
「タチア、お前が思っている以上に騎士の誓いは重い。それも
「……それも、前世の知識ですか?」
「ああ」
忘れていた原作世界のネタの一つ、騎士の誓いについて。
神を前に己の主を定める故か、騎士は己の主に嘘を吐けなくなる。頭のいいというかずる賢い奴は敢えて本当の事を言わなかったり、言葉を欠けさせたりで勘違いを誘発させたりはするが根本的なところで嘘が言えないのだ。
「タチアの言葉は
「それなら、私もタタラ殿との付き合いから嘘は無いと判断出来ます。貴方は、このアクセサリーを手にする私に対して嘘も誤魔化しもしなかった。出来たはずなのに、私に言えないと正直に言ってくれた……だから貴方を信じます」
意見は平行線で解決は無さそうだ、これ以上はやめておこう。
「……一華の頼みで、70階層のボス迄は倒すって事に決めた。明日は挑むがタチアはどうする?」
「行きます。私は貴方の盾だ、苦難も困難もその全てを防ぐのが私の役割なのだから」
「そうか、分かった」
タチア自身も存在昇華をさせるべきだろうか、一応先にボスを撃破しておけば一度60レベル上限を挟みはするが70迄の解放は出来るし保留にするか?
タチアのポジションを考えると、体力と魔力が最大を叩いて無いのが中々に痛い。要求される数は多いし、学生運動が終わるまでは50のままで居てもらった方がいいかも知れないな。それに、下手にレベルを下げて初期ステータスよりも低い状態で挑ませるのも危険だろう。『鍔目返し』なんかのスキルをランクアップさせつつ、レベルアップさせるのが安全かな。
心のなかでこれからの方針を描きつつ、タチア達と離れて休む。一人になると途端にエテルと四葩の事を思い浮かべそうになる、下手に意識すれば深みに嵌る上に怒りが再燃して二人を嫌いかねない。深呼吸をしつつ思考をリセット、意識を切り替えて深く眠るように自身に『睡眠』を掛ける。以前『龍舌蘭』の鞘を作る上で術式を覚えた影響から、自分に掛けるくらいなら問題無く使えるようになっていた。思考をしないよう、深く眠る。
夢を見ない程に深い眠りから覚めた朝、カーテンの隙間から入る日差しが顔に掛かるのが鬱陶しい。
身を起こして台所へ、朝食の準備を始めるとすぐに一華がやってきた。
「おはようでござるよ、ご主人」
「おはよう一華、コーンレムもおはよう」
「たー!」
一華とコーンレムに挨拶をしつつ、準備を進める。朝食は昨夜のカツに使った豚肉が残っているので生姜焼きにする、一華には目玉焼きを用意する旨を伝えると少し寂しそうな表情の後に了承された。うん、夜は玉子焼き作ってもらおう。
砂糖、味醂、酒、醤油と摩り下ろした生姜でタレを作る。玉ねぎを半月切りにして、豚肉は昨日のカツ用に切られていた物を筋切りしてそのまま使う。
豚肉に片栗粉をまぶしてからラードを溶かしたフライパンへ、表面の色が変わってきたタイミングで玉ねぎを投入して一緒に火を通す。玉ねぎが透明になって来たらタレを入れて、豚肉と玉ねぎに絡ませながら水気を飛ばしていく。豚肉の表面の片栗粉がタレの水分と混ざり、少しとろみが出て来る。肉汁を閉じ込める目的も有るが、とろみの有るタレの方が食べる際に味わいが良くなる。タレに林檎の摩り下ろしを混ぜても良かったかな、アルバードさんの林檎は酸味と甘味のバランスがいいし砂糖と味醂の代わりに使っても美味かったと思う。
上手くタレが肉と玉ねぎに絡んだのを見て、皿に移す。人数分と考えて居たが、エテルと四葩にお義母さん分を用意してしまった。今は居ないのだと考えたら胸が痛くなり、俺の様子に気付いた一華が静かに寄り添ってくれた。この良妻狐には多分、一生勝てないだろうな。
一華が用意してくれたキャベツの味噌汁、そしてキャベツの千切りを用意。昨日の夜に一華が用意していたご飯も予約した通りの時間に炊けて、最後に焼きたての目玉焼きを生姜焼きの上に乗せれば朝からご機嫌な朝食の完成だ。ちょっと豪華過ぎたかな?
「……タタラ殿、朝からこんな豪勢で良いのか?」
「今日は探索に潜りますからね、栄養をつけとかないと」
当主代行からの確認に、軽い調子で返す。豪勢というが、朝から探索に入るならコレくらいは摂らないと体力が保たないと思うのだ。まぁ、食い過ぎると逆に死亡率が上がるのでそこは調整するけどな。
タチアは朝から重い料理かと少し迷っていたが、醤油の深い味わいと味醂や玉ねぎの甘味が引き出された旨味に満足そうだ。キャベツの千切りを肉で包んでいたり、目玉焼きの黄身を潰してタレと絡めたりと楽しそうに食事をとっている。
因みに雛菊さんの食レポは割愛する、飯食ってる時に腹減らしたくないしな。
全員が食事を終えて、俺と一華で食器を片付けてから四人で家を出る。バカの監督役に当主代行を残す形だが、糞野郎と雛菊さんが護衛の役割も果たすだろう……果たすよな?
受付を終えて、何時ものように入り口から入ろうとするタチアを連れて帰還する際の出現スポット近くへ。首を傾げる一華とタチアを前に、ダリアは何をするのか察したのかワクワクしている。
「あの、タタラ殿?」
「ちょっと新しい魔道具を使うから……あ、一応脱出の時みたいに俺に触れておいてくれ」
疑問を口に出そうとしたタチアを通じて全員にそう言うと、それぞれが俺の身体に触れてくる。それを確認し、リターナーの受信機を作動させる。ダンジョンに残したマーカーからの感応波を受け取って、簡易転移門を起動。直後、目の前の空間に孔が開きその先に前回俺が途中で探索を辞めた場所が見えた。
「マスター、簡易転移門なのでマスターの転移結晶とは挙動が違いますよ?」
「知ってたんなら言ってくれ、恥ずかしいだろ」
「合法的にマスターと触れ合える機会を逃がす訳がないですよ、きっとお二人もそうだそうだと言ってくれます」
ダリアからの言葉に返せば、二人を共犯にしようとする。まさかと思い目を向ければ、スイッと目線を反らされる。うん、成る程な。
「……仕方ないから今回は無視しよう」
俺の言葉に何処かホッとした雰囲気が生まれる。促すかたちでダリアを先頭に一華とタチアが転移門を潜り、俺が最後に通過する。その直後に門が閉じた、ダリアが先導したのはやはりリターナーの受信機側の通過で門が閉じるからか。何となく俺も考えていたが、この辺の仕様については俺と都市長の思考は近い物が有るな。
荘厳な雰囲気のダンジョンの様子に、初めて降りるタチアは気圧されているように見える。しかし、直ぐに気を取り直したのか装備を変える。準備が整ったのを確認してから階段を降りた。
斥候役は一華が請け負い、エテルよりも慣れた様子で先導する。下手したら見失いそうな程に見事な隠行は流石のNINJAだろう、移動力はエテルと比べると遥かに低いので今度アイテムで補わせよう。
一華先導で進むうちに、壁の角から先を伺った一華が俺達に警戒を促す。一瞬尻尾が膨らんだように見えたのは、それだけ警戒したからだろう。多分、レア種が居るな。
近付き、そっと伺うと案の定『天使』族が居る。それも『第九位天使』なぞ比べ物にならない相手だ。
その背に白と灰色の猛禽の翼を一対ずつ持ち、頭上には三日月のような光輪。輝く鎧を身に付けているが、その下に布地は見えない。裸に鎧とはマニアックだが、あの鎧も『天使』族の魔力で編まれている物だ。波打つ豊かな金髪で、美しい相貌のその敵は『天使』族のレア種『第六位天使』、または『
『かなり強そうな『天使』族でござるな?』
念話で飛んでくる一華の声は怯えこそないが、強敵で有ることを察しているのか何処か硬い。
『まぁ、実際に強めでは有るが前に戦ったアレよりは位階が下だ。勝てない敵じゃないさ』
実際、ダンジョン内の理性を無くした『第六位天使』はまだ弱い。理性と知性を持った『天使』は脅威そのもの、身体能力が近くてもその戦闘能力は光の女神様が人類守護の為に生み出しただけは有り、他と比べても上位に位置する。地上で戦ったスィーブはアレで俺達を殺すつもりが最初は無かったから、手加減している。つまり、手加減していてもあの時点での俺達が総力戦を仕掛けなければ勝てなかった存在なのだ。ただ、問題が有るとするならば──
『流石に6体は多過ぎると思いますよ、タタラ殿』
『あの位階の天使があの数固まってたら国が動く案件だわな』
軽く数えたタチアの念話に、俺も半ば諦めの混じった念話を返す。戦闘能力で此方を上回り、その上で数も上回るのだ。流石はタチアの確率反転スキル、今日もいい仕事をする。
『俺と一華で背後から2体を殺して、タチアも1体に『突撃』を使用して短期決戦かな』
『マスター、私は?』
『悪いが、俺のレベルアップを優先させて貰うからフォローを頼む。タチアの防御を抜かれる事は無いと思うが、レベルが下がってる俺の防御は疑問が残るしな』
『……戦力分析の為にご主人には1体だけでも『鑑定』をお願いしたいでござる』
『確かにな』
作戦を立てる中で、一華から情報が欲しいと言われて確かにと思う。初見の敵を相手に情報を取らないのは愚の骨頂だろう。
天使族『第六位
体力 300/300
魔力 250/250
技力 120/120
物理攻撃100+28
物理防御100+18
魔法攻撃100
魔法防御100+20
速力 100
移動力 3
状態異常 無し
特殊 『光属性』
装備 『天使の光剣』『天使の聖鎧』
強いな、単純にダリアの1/3の戦闘力と思えばかなりの物だろう。スィーブに比べて低いとは言え、普通の人間なら勝てる存在では無い。尤も、此方も普通のパーティでは無いがな。
三人にステータスを共有し、初撃は先程の作戦と同じだ。尤も、一華は兎も角俺は次の攻撃が入れにくい。少し工夫が必要だろうな。
俺と一華は先行して手近な『
武器命中10+222−100=122命中判定。
物理攻撃60✕【不意討ち】1.75✕【闇討ち】1.75−118=65致命打判定✕2。連続攻撃✕12。
運増加の影響でクリティカルが発生したのはいいのだが、12発が全弾命中した『第六位
一華は狐火を纏わせた刀身で更に『鍔目返し』による連続攻撃を入れて『第六位
タチアは多分、『突撃』と『渾身』の併用だ。身体ごとぶつかるような刺突を『鍔目返し』による2連撃、身体が動かなくなるデメリットをダリアが庇う事で形で補っている。初手から全力を出して倒しているが、多分100mの助走距離さえ有れば今のタチアなら倒せると思う。この辺は慣れて貰うしかないか?
次の『第六位
武器命中10+222−100=122命中判定。
物理攻撃500−118=382。
鉄杭の一撃にて即死した『第六位
そんな硬直した俺に向かってくる無数の剣、光属性上位魔法の『
魔法命中130+100−224。命中判定。
やはり上位の範囲魔法は避けられないか……回避運動を取らずに防御するつもりの俺が言えた事では無いか。
光属性攻撃100+【光剣】40−386=0。
咄嗟に防御姿勢を取ったが、取らなくても問題は無かったなコレは。俺が魔法を受けきった姿に動きを止めた『第六位
武器命中25+223−100=248命中判定。
物理攻撃248−118=248。
どうも一華の呪いにより防御も出来ないらしく、俺の攻撃をそのまま受けた『第六位
「敵も強いですね」
「一応、レア種だからな此奴ら」
なんでもないように言ってくるタチアへ対してそう返す、『天使』族が光の女神様の手で生まれた種族故かステータスが一律同じなので大分やりやすかったな。スィーブとの戦闘では此方も戦力が整ってなかったとはいえ、今なら俺一人でもなんとか出来るかも知れない……まぁ彼奴が殺す気で来たら対人戦闘の才能が無い俺では危ういだろうが。
それに、確率反転しているとは言え『天使』族が現れるこの階層からは隠しボスクラスのヤベェ奴等が出現する。強さで言うとあの『不死の王』とすら並ぶであろう『天使』から『魔神』に堕ちた原作ゲームではエンドコンテンツに分類される理不尽の権化、あれらに出会わなかったのは幸運以外の何物でも無いだろう。
それからも問題無く雑魚敵が如く湧く『第六位
そうして65階層に降り立ち、周囲の空気が変わる。光量の低い暗い雰囲気の造り、純黒に近い色の壁には血管のように赤い模様が浮かび明滅している。
そして、面倒な事にその場には俺一人しか立っていない。まさか転移罠で味方がバラバラになるとは、運の関係で起きないかと思ったのだが。
『ご主人、何処でござるか!?』
『マスター、ご無事ですか!?』
真っ先に飛んでくる一華とダリアの念話で二人の無事を確認出来て安堵する、しかし一番レベルが低いタチアからは念話が飛んでこない。
『俺は無事だ。タチア、そっちは?』
『生憎と、危機的状況ですね』
危機的状況とタチアが言うのなら、敵が目前に居るのだろう。この65階層から出現する敵は夜闇の眷属が主になるが、その種族は多岐に渡るので特定が難しい。エテルと同じ『夢魔』族も居れば、バーラル氏と同じ『悪魔』族だって居る。マップの中に水源が有れば『スキュラ』や『リザードマン』等も出現するので、何を相手にしているかは聞き出すしかない。
『何が居る?』
『恐らくは悪魔族ですね、角と蝙蝠に似た翼が生えてます』
特徴は確かに『悪魔』族だ、目視が可能な大きな角が生えてるとなるとやはりレア種の『
まぁ、人から掛け離れた姿をしているのは確かに恐ろしいがまだ許容範囲内だ。コレが人に近い姿をしていたら最悪ダリアが居ても負ける可能性が有る。
『肌の色は何だ?』
『え、白……ですかね?』
白、いや普通に考えると無いな。現実に成った上で属性が増えたにしても氷が得意で無ければ光属性の『悪魔』族になる。複合属性が得意な『
『武器は持っているか?』
『ええ、両手持ちの大剣ですかね。かなり豪奢な装飾を施されています』
うん、豪奢な装飾の大剣持ちの『
一つは俺が知らないこの世界で増えた『
『確認するが、そいつは腕四本生えてて裸だよな?』
『いえ、完全な人型で貴族服を纏ってます』
「今直ぐその場から離れて逃げろ!!」
思わず念話では無く声が漏れていた。最悪だ、最悪中の最悪に当たる可能性を引き当てた!
白皙の美貌に貴族服、豪奢な大剣を持つはぐれ魔神……初代RPGの主人公が一度打倒したが時を置いて復活した『剣の魔神』が今タチアが確認している存在だ。
この世界の元になったゲームにて、『悪魔』族が出現する階層にて出現率が上昇する隠しボスの中でもトップ3に入る程に強い敵が出てきている。
原作ゲームである『深く深い闇の先で』というか、元のゲームを出した会社の傾向として過去に登場した敵が隠しボスとして登場する。それは魔王だったり、上位の天使だったりと様々で漏れ無く強い。しかし、特徴としてそれらは世界の残滓が生み出した影でしか無い。
だが、その中でも例外が存在している。
その筆頭が初代RPGの主人公が打倒し、キャラ総選挙と呼ばれる人気投票で敵部門で堂々の1位を獲得し総合でも10位圏内から落ちなかったというエロゲーなのにプレイヤーからの人気を手にした男キャラである『剣の魔神』である。
見た目は華奢、と言うか一見してスカした美形に見えるタイプなのだがその中身は本物の武人。女子供には基本的に手を出さないが、一度武を認めればその認識が外れ全力を出して殺しに来る。
初代RPGの主人公はイベント戦闘でタイマンを張り、しっかりと育てて居れば勝利を得る。しかし、タイマンとしてのステータス減少等の措置は無くマジでフルメンバーですら負けかねない程の力を持つ敵と主人公はタイマンをする羽目になる。
そりゃもうエグい戦闘能力で、レベルは最大の200に届かずとも最低で150を越えないと文字通りワンパンで沈む。戦闘の難易度だけで言えば他の隠しボスよりも遥かに高かった。勝った結果『人界最強の剣士』の称号を貰えるが、全てのプレイヤーが『あ、アンタほどの実力者が言うなら……』と納得するしかなかった。
なんなら此奴に勝てた結果、ラスボスがヌルゲー呼ばわりされる始末。いや、確かに主人公一人で挑んであっさり撃破出来て首を傾げた経験が俺にも有る。なんなら公式からも『消化試合』とすら言われる文字通り頂上決戦を経験する事になったのだから当然ではあるのだが。
そんな魔神だが、撃破の時に魔神核を破壊する事が叶わなかったので時間を掛けて復活する事が公式から告知されていた。何なら、後の作品で出て来る際は初代RPGの主人公に負けた為に弱体化していると明確に言われる程だ。
それでも尚、『深く深い闇の先で』に於いては此奴と戦うのは危険極まりない行為だった。
はっきり言って『天使長』を筆頭とした『看板娘』の最終装備を揃えレベルを最大にした状態で挑んでも勝てるとは明言出来ない、純粋にステータスも高ければ使用する専用技も含めて全てが高性能。エテルで魅了を掛けても通じない可能性の方が高いだろうし、四葩が『概念鑑定』を使用してギリギリだろう。
ダリアが『フォルジュロン』を使用した上ですらギリギリと俺は見ている、剣技で勝負したら確実に負けるだろう。
それだけ、この敵はやばい。
『……余程、危険な相手なのですね?』
『危険なんてもんじゃない、そいつはあの御伽噺で神殺しに負けてなお最強の魔神と称えられる『剣の魔神』だ。ダリアの防御力でも下手したら一刀で……』
【ほう、随分と詳しいな?】
……え?
【先程から念話が飛んでいたので介入させて貰った、お前の仲間は無事だが……何故貴様は私に詳しい?】
嘘だろ、念話に介入できるって何だよ此奴。魔道具間だけの双通行回線だから秘匿性だけなら相当な代物だぞこれ!?
『……前世でアンタの活躍を見ていたから、そう言えば納得するか?』
【ふむ、成る程……前世か】
何処か納得と言った雰囲気で俺の言葉を咀嚼する『剣の魔神』だが、俺は内心で冷や汗が止まらない。
【いわゆる転生者と呼ばれた者か、世界とはかくも残酷な運命を強いるものだ】
『詳しそうだな?』
【私も神殺しに敗北し、魔神核から復活しているからな。転生と変わらんよ】
ジョークなのだろうか、中々に笑い難い。
『交渉して見逃してくれと言ったら見逃してくれるか?』
【ふむ……我が剣の糧になり得ぬのならその交渉に応じよう】
『判断基準は俺の姿を見ること、そんな感じか?』
【察しが良くて助かる】
タチアの所へ急ごうにも場所が分からない、時間制限を掛けられたら詰む。
【そうさな、この場所は丁度この階層の中央に位置している。特に時間制限は設けぬが……雑魚に負けるなら再会は叶わぬぞ?】
『は、上等!』
かの最強からの挑発に、俺は心の底から湧き出る恐怖を噛み殺して応えた。
没案:鎧を脱がされた後
「やめろ、離せ……俺を脱がして何をするつもりだ!」
抵抗しつつそう質問をすると、一瞬一華が止まる。俺の身体をじっくりと見た後に、涎を啜る音が聞こえてきた。
「待て、本気で待て一華」
「待たぬでござる!」
目的を見失った一華に脱がされそうになり、抵抗するがマウントを取らている為にまったく出来てない。急に発情し始めた一華を見てダリアは戸惑っているが、タチアは切なそうに俺の身体の一部を見ている。もしや、一度しかシて無かったから発情し始めたのか?
捕食者に食われる様な背筋の寒くなる感覚に陥った次の瞬間、一華が当主代行に拳骨を貰って止まる。肩が大きく上下していて、更に発汗も多い。コレ、トラウマ刺激されたヤツか?
「当主代行、助かりました」
「いや、いい。昔を思い出して思わず手が出た」
そう言えば夢魔に襲われて死にかけたって話を聞いたっけ……うん、それなら仕方無いわ。
一華は気絶はしなかった物の、頭の痛みで正気に戻れたらしい。お腹に子供が居るからと我慢させ過ぎたか、もう少し構ってやらないと駄目か。
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない