既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中。
アンケート実施中です、都市祭開始とともに締め切りとさせていただきます。
タチアの居る区画へ向けて、全力で走る。途中で出会すのは待ち受ける『剣の魔神』の影響か、軒並み『
持っている『忍び足』と『隠密』を活用して、最低限の接敵だけで済ませる。
悪魔族『
体力 400/400
魔力 150/150
技力 150/150
物理攻撃180
物理防御130
魔法攻撃100
魔法防御 80
速力 70
移動力 3
状態異常 無し
特殊 『闇属性』
装備 無し
目視した1体の『
どうしても避けられない個体だけ、背後から『オウトエイズル』で撃破しつつ進む。マップは無いので中央へは当てずっぽうでは有るが、レベルアップで出来たスキルスロットに入れた『索敵』を活用して部屋と通路の形状から位置を割出した。
ダンジョン自体に『鑑定』を掛ければ間取りを確認出来るだろうが、ダンジョン全体の構造を把握しようとすれば下手したら脳がシャットダウンする。下手したら無防備なところを襲われるのでとても出来ない。
いくつかの部屋を越えて、広い部屋に到着する。その部屋の中央にはタチアと、並んで立つ男性が居た。
身長は180cm半ば程か、俺よりも身長は低く肩幅も狭い。側頭部からは一対の夜にも似た暗色に赤い罅のような模様が入った捻れた角が伸びている。その背には美しい光沢の蝙蝠の翼が生え、己の身をマントのように包んでいる。得物と貴族服は伺えないが、その姿は貴公子にも武人にも見える。
コレがかの神殺しを成した初代RPGの主人公にとって消えない記憶とした刻まれた最強の魔神、『剣の魔神』にして『魔剣の王』と呼ばれた者か。
「……ほう、本当に来るか」
「当たり前だろ、大切な仲間を見捨てられるか」
何処か意外といった雰囲気の『剣の魔神』の声に、気合いを入れて応える。漏れ出る威圧感だけで背筋が寒くなるが、タチアが危ういのに逃げられる訳がない。
「ふむ……運動能力的には恵まれているが、少々筋肉が付きすぎているな。身体を大きくする事が趣味、か?」
「いや、俺はクラフターだ。毎日鎚を振るい続けた結果がこの肉体だ」
「成る程、な。齢は幾つの頃から鎚を握った?」
「五つの時からだ、ある時期までは毎日一本剣を打っていた」
「それを辞めた理由は?」
「最愛の存在が出来たからだ」
「……ほう」
俺を知ろうとする目前の魔神に嘘偽り無く返していく、彼我の距離は20mは離れているが、俺やタチアですら一呼吸も無く詰められる距離でしか無い。当然、あの魔神には有ってない距離でしか無いのだ。
「お前の鍛冶の師は誰か聞いても?」
「天目一箇命、海を越えた島国に居る現神だ」
「……剛刀修羅一文字を打った、かの祖神か?」
どうやら、この魔神すらもお師様を認識しているらしい。しかし、『空裂』では無く剛刀修羅一文字か。俺が知らないだけで相当に有名な物らしい、お師様の作だし一度は目にしてみたいな。
「生憎、お師様からはその剛刀修羅一文字の話を聞いたことが無い。俺はせいぜい刀の打ち方と向き合い方を教わっただけだ」
「かの刀匠がその在り方を教えたのだ、相応に才は持つのだろうよ」
「さぁ、どうだかな。俺は俺自身を不出来な弟子だと思ってるよ」
お師様の技を教わりはしたし、皆伝として鎚を貰っている身ではある。しかし、今の俺は『空裂』を打てるようになり概念武装も作れるがそれだけだ。
それに、『天使長』が俺には転生した際に与えられた役割が存在していると言った。ならクラフターとして俺は誰かに何かを造り、渡さなければならないのだ。
「かの刀匠が才を見誤ったと?」
「確かに作刀については学んだし、技術を理解出来て再現もした。だが、俺はその技術をまだ昇華出来てない。コレを見てくれ」
インベントリから『厄切』を取り出して、目の前の魔神に向かって放る。放物線を描いて宙を舞った『厄切』を掴み、鞘から抜き放った魔神はその刃を見て眉根を寄せる。
「かの刀匠の作か」
「いや、俺の作品だが」
「……そうか」
抜き放った『厄切』を鞘に納めた後、魔神は俺に再び目を向ける。
「その懐刀の素材はミスリル、鍛造して概念武装として生み出した」
「……人の身で、か?」
「作例が有るなら再現くらいは出来るだろ、技術なんだから模倣できて当たり前だろう?」
「かの祖神を含め、ミスリルを鍛造した存在の話は寡聞にして聞かぬ。そもそも、お前の技術を模倣出来る存在の有無はどうだ?」
「学生の身として、後輩に一部の技術は教えてる。鍛造は見せただけだがな」
「……何故かその後輩には同情すべきではないかと、私の勘が囁いてくるな」
何やら魔神がエストとシャムスに同情的な発言をする、それから手にした『厄切』を掲げて口を開く。
「コレを打てるようになったのは?」
「つい最近だな」
「そうか」
「お師様から鍛冶を学んで5日くらいの頃か、後輩や義両親の安全を願って打った」
「……かの刀匠の弟子、なのだろう?」
「ああ、一週間しか学べなかったけど弟子と認めて貰えた」
「それ程の短期間でかの祖神から皆伝を言い渡されるものか」
魔神は険しい表情を浮かべる、俺の言葉を虚偽と受け取ったかも知れない。確かに、傍から聞けば眉唾物だが実際にそうなのだからどうしょうもない。
「生憎とクラフトが好きなだけの、普通の人間でな。今の言葉を信じて貰う為の証拠を提示しようにも記憶を見せる魔法も魔道具も持ってない。此処から出たあと、目の前で鍛冶の一つでもして示せって言うなら喜んで見せるが……どうだ?」
俺の言葉を聞いて、魔神は少し考えてから頷く。見た後に虚偽と判断したなら斬ってしまおうと考えたのだろうか。いや、確かにこの魔神一人で帝国の総戦力を凌駕する程に強いが。
「ならば、見せてもらおう」
「分かった、転移魔法が使えるなら俺の魔力を目印にして欲しい。何なら転移門の座標を渡す」
「転生者だということを差し引いても、これ程の刃を打てる人間であり個人で転移門の所持が出来る者を普通というのは同意しかねるな。人間社会には慣れていないが、それが普遍的な家庭ではないことくらいは分かるぞ」
うん、なんで俺の扱いって基本的にこうなるんだ?
「そもそも、かの刀匠から学ぶまで誰に鍛冶を習っていたのだ?」
「あえて言うなら『クラフト』スキルそのものから」
「……成る程、お前は『神匠』か」
以前、お師様達も言っていた『神匠』をこの魔神からも聞くとはな。『クラフト』を伝える為に神から遣わされたとも、技術を『クラフト』スキルに昇華されたとも言われる存在。
この魔神すら認知しているのなら、この『神匠』と呼ばれる存在は相応に凄いものなのだろう。俺もそれに類するとされるのはよくわからないが。
「その神匠っていう存在がよく分からないんだ。お師様はこの世界でスキルとして昇華される技術の持ち主だったと語るし、義母からはこの世界に『クラフト』スキルを広める為に神々から遣わされたって話をされた」
「確かに、そこの線引きは難しい。が、それは私よりも遥かに詳しい存在が居る」
「……いや、確かに詳しいヒトが居たわ」
気になるなら『天使長』に聞けば一発だな。
「お前の纏う気配から、かの存在とも縁が有ろう。とは言え、言葉を交わせる存在では無いがな」
「……そうだな」
そうか、どこかしらで『天使長』と接触した事が有るのか。過去作で隠しボス扱いの『剣の魔神』相手に『看板娘』と一緒に戦った誰かが居たのだろう、それで認知される『天使長』達も可哀想だ。
「それでは、お前の仲間は解放しよう」
そう言って、傍らのタチアを促して俺の側に歩かせる『剣の魔神』。姿を見せた事と言葉を交わした事で一先ずはこの難局を抜けられたか?
「タチア、大丈夫か?」
「ええ、剣を突き付けられる事も覇気をぶつけられる事も有りませんでした。ただ、タタラ殿との語らいで口を出さない事を条件として出されただけです」
偉く紳士的な対応だ。いや、初代RPGの主人公相手でも使徒を人質にしてやった事がこういった語らいだったな。
「……漏れ聞いた名前だけで、自己紹介を怠っていたな」
俺とタチアのやり取りを見ていた『剣の魔神』は失念していたとそんな事を今更に口に出した。
「そう言えばそうか。俺はタタラ・ジュロン、迷宮都市『ワールウィンド』で学生兼クラフターをやってる」
「む、先に名乗らせてしまったか。すまないな、若き鍛冶師よ」
先に名乗ったらなんか謝らせてしまった、妙に謙虚なのはなんなんだろう。それに、若干天然入ってるっぽいな。
「俺が御伽噺として認知していたから仕方ないんじゃないか?」
「そうは言うが、武人として名も名乗らずに語らいをするのは礼儀に悖るだろう?」
何だろう、性根が良い奴だからか中々に気を使ってしまうタイプに思える。何となくこういったタイプに弱いんだよな俺。
「なら、アレだ。波長が合って友好を深めてしまったみたいな」
「む、魔神を友と認知するのは流石に人間として難しいのではないか?」
「いや、俺の大切な人は夢魔だし……そもそも俺を好きだと言ってくれる人達は人間の方が少ないまで有るぞ。その辺りの偏見は特に無いよ」
「むぅ、珍しい人間だなお前は」
逆に『剣の魔神』が悩んでしまった様子だ、困らせるつもりは無かったんだけど。
「では、改めて。遠き過去より『剣の魔神』等と呼ばれている」
「ああ、宜しく頼む『剣の魔神』」
「此方こそだ、タタラ・ジュロン。そちらの女性の名前は聞いてよいか?」
「はい、翼騎士のタチアと申します」
「ふむ……その齢で騎士の号を持つか、将来が楽しみな逸材だな」
まかり間違っても、お前と剣を向け合うなんて事態は勘弁して欲しいけどな此方は。俺の作る装備で戦力差を覆すなんてどうやればいいのか分からないレベルなんだぞお前。
「それでは失礼しよう、ジュロンは後程にな」
「ああ、茶の一つでも用意しておくよ」
「それはそれで楽しみだな、さらばだ」
そう言って『剣の魔神』は得物を一振して次元を切り裂く、そこに生じた裂け目を通り俺達の前から姿を消した。あれ、確か純粋な剣技で次元の裂け目作ってるって話なんだよな。お師様から教わった『空裂』といい極まった技術は意味分からん状況を生み出すんだよなこの世界。
目前から『剣の魔神』が去った直後、タチアの緊張の糸が切れたのかその場に膝を付く。レベル差やステータス差から来るであろう圧力によく今の今まで耐えてこれたもんだな。
「大丈夫か、タチア?」
「申し訳ない、ロード。あの存在から感じる圧が消えて緊張が解けたらこのザマです」
「寧ろ、よく今の今まで耐えたな」
「貴方が誇れる騎士である為の痩せ我慢です、間違ってもアレと戦場で相対したいと思いません」
「それはそう」
あの『不死の王』と違い矛を交えることは無かったが、今の戦力で戦っても勝ち目どころか生き残る姿が見えない。此方側最強のダリアにしても、俺の作った魔導鎧の性能を引き上げてもまるで足りない能力差が横たわる。マジで『天使長』を筆頭とした『看板娘』勢揃いでトントンと言ったバランスはなんなんだよ開発陣。
そうして少しすると、一華とダリアが部屋に入って来る。二人とも相応に敵を倒して来たのだろう、髪型や服が乱れている。
「ご主人、無事でござるか!?」
「マスター!」
「おう、俺もタチアも大丈夫だ」
二人とも俺を最上に置いているとは言え、タチアの心配をしてないのはちょっと可哀想だと思う。
「二人とも、消耗は?」
「拙者は『卵』のおかげで疲労その他は問題無いでござる」
「私も剣で対応しましたので弾薬の消費は有りません」
頼もしい事この上ないな、俺と同じようにタチアの影響で蔓延る敵は『
合流してからは前の階層と同じように役割を振り分けて探索を再開する、タチアのスキルの影響で『最上位悪魔族の霊核』が面白いように手に入るので仮にこの先仲間に悪魔族が増えて魔導鎧を作る事になっても動力については心配が無い。仮に最上位の魔導鎧を作る必要が出たら魔神核くらいは必要になるが、そんな必要性はこの先無いだろうしな。
そんなこんなで70階層まで降りる、俺は『忍び足』と『隠密』のランクが上がった。問題は現在の俺のレベルは68で存在昇華の条件を満たせて居ないことだろうか。
「ロード、この先のボスの情報は有りますか?」
少し悩んでいると、タチアから質問を受けた。
「前世の知識と変わってないなら、この先に居るのは2体のボスだ」
「それはいったい?」
「『天使』族と『悪魔』族、それぞれが『第五位』と『魔王』になる」
「……はい?」
そう、この先に居るボスは2体編成で更に言えばランダムエンカウントのボスを抜かせば位として最上級になる『
原作のゲームをやっている時、初見で絶望したのが懐かしい。
「ご主人、第五位となると地上で戦ったあのトリモドキと同じ程度の強さでござるか?」
「基本的なステータスだけは、な。ダンジョン内だから理性が溶けてるもんだからアレ程に強くは無いが」
タチアの目の前で実の母親をこの扱いってのはどうかと思うが、正直剣を交えた俺としては名前も呼びたく無い。会話を横で聞いているだけのダリアが、『エリンジウム』の照準調整を静かに行なっているのが少し怖い。
「弱点は其々が闇と光で真逆になるが、問題は一華の呪いくらいしか俺達には闇属性の攻撃手段は無いし光など以ての外だ」
「霊核での属性付与は出来ないのですか、マスター?」
「出来なくは無いと思う。しかし、それで属性を追加出来るのはこの中でタチアだけだ。俺のハンマーやダリアの『ランタナ』は今から分解して組込むにしても術式を弄らなければならなくなる、流石にエラーが出る可能性が有るから此処ではやりたくない」
タチアや四葩の武器に似たような事はやっているが、此等は構造が単純である故に簡単な変更で行えたのだ。精密機械で同じ事をやると、術式が狂いそうで作業をしたくない。
生憎と今回の探索で手に入った素材では『天使』族のモンスター武器の『ディバイン』と『悪魔』族のモンスター武器『マンイーター』は作成が出来ない。特に『ディバイン』は片方のボスに対して特効なので、通常の4倍火力で殴れて助かるのだ。
「今回は経験値を無視してダリアに殴ってもらうのが正解だろうな」
「ようやくマスターのお役に立てるのですね」
「まだ過剰火力気味なのは確かだけどな」
対ボス火力として考えてもダリアの特性で強化された『エリンジウム』の時点で相当な物だ、確定で発動する『貫通』による防御無視と500を越える「750です」……750を越える火力は素直に火力として優秀だ。
「ダリア、モノローグに割り込むのは一華だけにして欲しいんだが」
「拙者、モノローグを語った事は有っても割込みはしてないでござるよ」
それもそれでどうなんだろうな?
「申し訳ありませんマスター。しかし、250の打点は小さく無い間違いと思い訂正させていただきました」
「そりゃまぁ、1.5倍の火力なら計算が全く変わるし言う通りなんだが」
今更ながら、体力の最大が999の世界で防御力無視で750の打点が出せるってあまり考えなくても無法な存在だよな。スィーブの時はあの障壁を割る事で威力が減衰したのだろうが、あの障壁が無ければスィーブは半ば即死していたと思う。つくづく意味不明な火力してるなダリアは。
「相手は『天使』族と『悪魔』族である為に有翼だ。近接戦闘をするなら同じように飛べるか、ワイヤー系のアイテムで引き摺り下ろすかの何方かだ」
「マスターが鎧にワイヤーアンカーを追加したのはそれが理由ですか」
「ああ、ダリアの『トリテレイア』にワイヤーアンカーを着けた理由もコレが主になる。弾頭を回収できる上に、相手も引き寄せられる……今は飛べるからそこまで重要では無くなったけどな」
俺の言葉で装備の意味を理解したのか、ダリアは『トリテレイア』の腰に付いているワイヤーアンカーに触れている。俺が一緒に探索する上でダリアが『トリテレイア』を使っていた事は今まで無かった為、普段どう使っていたのか……そもそも使っているのかすら分からない。武器以外にも岩盤に撃ち込んでから巻き取る事で高所に登ったりと多目的に使える装備ではあるのだが、『トリテレイア』より前の『アルストロメリア』の時に潜っていた階層で使用する必要性は無かったんだよな。
「ふむ、これなら拙者は呪術で『天使』側を攻撃するべきでござるな」
「……そう言えば、呪術とか狐火とかって闇属性が入るのか」
原作ゲームでは『呪術』スキルを取得出来るキャラが全体でも少なく、プレイヤーメイドのキャラでも取得する上で条件がそこそこ厳しかった。俺自身もスキルでは取得出来るだろうが、売りである多種多様ななデバフを取得するには他の属性の魔法と同じく呪術に関する資料が無いと無理だ。この『ワールウィンド』に黒魔術の資料は有っても呪術は希少に過ぎるので、仮に取得出来ても大した事は出来ないのだ。そう考えると、先天的に『呪術』を取得して更に幅広く呪いを取得している一華はかなり特殊な存在だ。
「なら、一華には『第五位』を相手にしてもらうか」
「分かったでござる」
「タチアとダリアは『魔王』の方で、初手でダリアの『エリンジウム』で決着がつけばそれでよし。無理だったら後詰めでタチアが『突撃』でトドメを」
「Yes my Master」
「Yes my Lord」
方針は決まった。では、少しだけこの先の事を伝えよう。
「ボス戦が開始されたら一分か二分その場で待機してほしい」
俺の意図不明な頼み事に対して3人は疑問符を浮かべる、まぁ何も言わなければそうなるのは普通だな。
「百聞は一見にしかず、取り敢えず少しの間待って欲しい」
俺の言葉に訝しげな表情の3人をそのままに、俺は扉に向き合う。鉄に似た素材で出来た扉には向かい合い其々槍と剣を突き付け合う天使と悪魔のレリーフ、思えばコレが既に伏線なんだよな。扉に手を添えて押せば、重々しい音を立てながら扉が開く。
今までなら開くのに合わせて部屋に灯りが点るが、今回は開く前から部屋は明るかった。直線で100㎡をゆうに超える広々とした部屋の中央、そいつらは居た。
六枚の黄金に輝く猛禽の翼に、光で編まれた法衣と鎧。同じく光で作られた長槍を持つ金色の短髪女性の『
地上において選ばれた者しか傷付ける事の叶わない強者が、
『……へ?』
「まぁ、初見だと戸惑うよな」
普通なら相対した場合絶望の二文字を叩き付けられる上位の『天使』族と『魔王』に至った夜闇の眷属という組合せだが、同時に不倶戴天の敵である故に勝手に殺し合いを始めるのである。
互いが互いを全力で潰しにかかるので、5ターンもすると片方が死んでたりする。そこで残った方を撃破すれば晴れて攻略……とはならない。
どうも両方を倒さなければフラグが成立しないらしく、攻略失敗となり再度挑み直さなければならなかった。当然先に進む事も存在昇華出来ず、完全な骨折り損のくたびれ儲けと言った具合だ。卒業証の腕輪がなく、リターナーも回収している俺達ではまた1から潜り直さなければならない。そうなれば当然あのクソボスとの再戦も有るので、流石に面倒臭い。あの第二形態が発生した場合、ダリアの『フォルジュロン』の最大出力で消し飛ばすくらいしか無さそうだ。
「天敵同士で削りあって貰って、漁夫の利でトドメを刺す……コレが現状で一番早い」
「やってる事が卑怯この上ないですね」
目の前で俺達そっちのけで相対する敵を撃滅する為に全力を発揮している『天使』と『魔王』を尻目に、横から殴ってトドメを刺す方針を挙げればタチアからそんな事を言われた。しかし、普通に戦おうとするとこの2体は非常に強いのだ。
地上で同じ位階のスィーブに打ち勝てたのは、外れ値と言える一華や雛菊さんを筆頭にあの糞野郎やダリアの到着が間に合ったからだ。俺やエテルだけでは負けていた可能性の方が遥かに高い、と言うかほぼ確実に負けていただろう。都市最強のカラムスさんが来れたのならまだ見込みは有るが、あの『神罰』の詠唱を許した時点で手遅れだ。勝敗云々ではなく、都市壊滅規模の攻撃に対してどれだけ損害を抑えられるかの話に変わる。
「うわ、アレ俺がスィーブに使われた魔法だな」
「全身貫かれてて泣きそうになったでござるよ」
無数の光の短剣が『魔王』の全身を貫く姿を見て思わず言葉が溢れた、改めて自分が使われた魔法を見ると死なない程度に加減されてたんだなと理解出来る。納得は出来ないが。
相応に体力を削られ、光刃に内臓を傷付けられたのか『魔王』が吐血する。が、今度は『魔王』が左手の内に黒い魔力塊を生み出して『第五位力天使』に叩き付ける。闇の上位魔法『
「ダリア」
「発射」
咄嗟にダリアの名前を呼べば、部屋に入ってから構えたままだった『エリンジウム』の銃爪を引いた。放たれた弾丸は『魔王』の頭に当たり、そのまま跡形も無く消し飛ばした。当然、生物として機能を完全に停止した『魔王』は力無く地に落ちてくる。
その姿を見つつ、俺は駆け出す。頭部は無くしたが『魔王』はその核を抜き出すか破壊するまで死ぬ事は無い。更に言えば半身は無くしてるが『第五位力天使』は生きている、トドメを刺さなければ次は俺達が狙われるのだ。
武器命中20+235−150=255命中判定。
物理攻撃190+【重撃】50−150=90致命打判定✕2
その見た目だけは美しい顔を目掛けて、技を乗せた鎚を振り下ろす。床と鎚に挟まれた頭部は一瞬の抵抗の後、見事に潰れて脳漿を撒き散らす。残った身体が痙攣し、その後に光となり消えていく。
落ちてきた『魔王』の肉体は残ったままで、頭部を失ってなお生存しているという恐ろしい程の生命力だ。肉体的には死んでいても、核を失うまで彼等は再生し復活する可能性を秘めているのだ。
俺はそんな『魔王』へと近付き、胸部へ手を突き入れる。
武器命中0+235−150=235命中判定。
物理攻撃165−150=15即死判定。
胸の奥に有る霊核を引き抜き、その生を終わらせる。今度こそ光となって消えていく『魔王』を見据える中、脳裏にファンファーレが響いた。コレで残り1レベル、71階層に潜るか悩むのは一瞬で今回は退く事にする。
「討伐成功、ボスドロップの宝箱を開けて帰ろうか」
「いや、流石に軽くないでござるかご主人」
「サラッと両方倒してますが、タタラ殿はもう少し私達を頼ってよかったのでは?」
仲間たちに振り返って言えば、一華とタチアにそう言われた。確かに俺だけで2体討伐は駄目だったかも知れないな。
「そうだな、『魔王』はタチアの突撃に任せてもよかった」
俺の言葉に何と言えばいいのか迷っているらしいタチア、少ししてため息を吐いた。
「いえ、今のは私の我儘でした。少しでも貴方の役に立ちたいが故の失言です、ご容赦を」
「いや、気に病まないでくれ」
騎士の誓いを立てたタチアの意志を蔑ろにしていると言われたらあまり否定も出来ない、俺はどうも自分でやろうとする癖が抜けきれて居ないみたいだ。
鎮座しているボスドロップ宝箱からアイテムを取り出すのは俺が押し付けられた、出て来たのは『天使喰らい』と言う名の長剣で特性として『天使族特効』が付いている。このタイミングで手に入るあたり、なんだか『天使』族と戦う事になりそうだな?
問題は、俺達のパーティでこれを使うであろう人間が離脱中ということだろうか。俺が使うと確実に砕くしな。
一先ずはダンジョンから脱出する事に決めて、転移結晶を使って離脱する。思い思いに俺の身体に触れてくるのを確認し、脱出した。
途中で食材を買いつつ、帰宅。上層の攻略が無い分早く帰れたので昼を少し回ったくらいだ。風呂で汗を流した後に一華と二人で夕飯の仕込みに入る、今日の夕飯は魚のフライにする。鯵が有るなら安く脂も乗ってるアジフライがいいのだが、生憎と『ワールウィンド』では手に入らないのでそこは諦める。赤身魚にカレースパイスを馴染ませて冷蔵庫へ入れる、臭みはコレで無くせるし時間を置けば味も馴染む。
一華は付け合わせの煮物を作っている、椎茸や筍を当主代行が持ち込んでいたらしく強奪していた。人参や里芋、更には昆布等を白出汁で煮込んでいる。隣で漂う匂いを嗅いだだけで空腹が刺激される。
仕込みを終えた後は鍛練をするバカ達の見学だ。一華は縁側で座る俺の膝に頭を乗せて爆睡している、妊娠してから段々と体力が落ちてきているのかもしれない。大切にしないと。
タチアは鎧から着替えた後、当主代行に頭を下げて指導を受けている。刀術では無く対人戦の戦闘理論が主なようで、自身の習った騎士剣術への対策を練って貰っているらしい。
多分あれ、同じ騎士見習い用の対策を作ってるんだろうな。まぁ、強姦しようとした糞共に慈悲も人間扱いも必要無いけどな。
欠けたままで夕食を終えて、工房に入る。探索で使用した仲間達の装備を点検・整備してから奥の鍛冶場へ。『剣の魔神』に対する実力の証明として何を作るか、お師様からの奥伝たる『空裂』を打てば納得されるかと悩む。しかし、あの魔神に対して『空裂』とか渡したら世界が崩壊しそうな恐ろしさが有る。
仮に渡すとなれば、対抗措置として神殺しを探して同じく『空裂』を渡すしかないのではないかと不安になる。
結果として世界を断つ剣戟がぶつかり合って世界が消滅とかなったら洒落にならんな、うん。
「何を悩んでいるのだ、若き鍛冶師よ?」
「いや、お師様の弟子だと証明する為に何を作って見せるべきかをな……やはり最後に伝授された『空裂』かなと」
「仮にそれを作られ渡されても私は拒否するぞ」
自然と会話をしている事に気付いて振り向くと、空間の壁を裂いて渡ってきた『剣の魔神』が立っていた。
「いらっしゃいませ、今お茶淹れますね」
「……普通、真後ろに魔神が立っていたら驚かないか?」
「いや、背後取られるのは慣れてるので。そもそも殺気も何も無いし」
「……少なくとも、その反応は普通しないと思う」
反応に困ると空気が漏れている『剣の魔神』に対して、お茶を淹れる。用意したのは陽出國産の緑茶、『剣の魔神』は戸惑いながらも一口含む。
「……色に驚かされたが、渋味の中に甘味を感じる茶なのだな」
「陽出國でも結構高級な銘柄の茶なんだとか、紅茶とは違う美味しさで結構好きなんだけど口に合うみたいでよかった」
「……なんか気安いな、鍛冶師よ」
なんというか、探索時は余裕が無くて気付けなかったが雰囲気がバカに何処となく近いんだよなこの魔神。距離感がバグる。
「悪い、幼馴染となんとなく似ててな」
「そうなのか?」
「そいつは人間なんだが、空気感というかな……」
軽くバカの事を話していると、『剣の魔神』は興味深そうにしている。自身が知る中で剣技が最も優れる人間であると伝えると、何処となくワクワクしてる様子だ。
「鍛冶師は、その剣士を好ましく思っているのだな」
「そりゃ当然、幼馴染だし……苦しい時に救って貰った事も有るからな」
「そうか……その友を大切にするといい」
「言われなくても」
今日初めて会った相手と交わすには、あまりにも気安い会話だ。何故、俺はこの魔神とここまで仲良くなっているのだろう?
「何故、私と鍛冶師は旧来の友のようになっているのだ?」
「俺が聞きたいよそんな事」
思わず苦笑いすると、『剣の魔神』はキョトンとした表情だ。
なんというか、一度死んで復活した影響なのか情緒が幼い気がする。
お茶のお代わりをしてからもバカの事や『ワールウィンド』の事を話し続けた、『剣の魔神』も気になる事を聞いてきてそれに答えると感心したり驚いたり笑ったり……普通の人間と変わらない反応をしてくる。
「……ふむ、大分楽しい話を聞けたな」
おそらく、30分くらい話した所で『剣の魔神』が会話を締める。確かに、俺もそろそろお師様の弟子だと証明するべきだろう。
「正直、天目一箇命の弟子である事がどうでもよくなるほどに楽しい話を聞けた。が、元の目的を蔑ろにするわけにもな」
「そうか、そうだな……」
俺も調子に乗って話し過ぎたと思う、反省しつつもインベントリから鎚を取り出す。
「それじゃ、早速作るが……どんな概念武装を作ればいい?」
「……目的が別で作れるのか?」
「ある程度は……例えば人を殺せない概念とかも作れるぞ」
「それを『ある程度』で済ませるのは違うと思うぞ、タタラ」
呼び方が鍛冶師からタタラに変わっているな、あの神殺し相手に負けた後でも『神殺し』呼びしてたのにどういった心境だろうか?
「ふむ……汎ゆる物を斬る概念はどうだ?」
「特殊な鞘が無いとインベントリにもしまえない代物になるが」
「既に経験済みか」
何なら今、この家に担い手が居るけどな。
「それなら成長する剣は?」
「狙って作るのは無理だな、作ったことは有るけど」
「……再現性は?」
「たった一人の事を想って打ったら結果的にそうなった代物でな、再現性は今のところは無い」
「つくづくおかしいな、タタラの鍛冶は」
それを言うならただの剣技で空間の壁を切り裂けるお前もおかしいと思うんだけどな。
「うむ……こうなると何を頼めばいいか分からないな」
「なら、自身に降りかかる厄を払う剣とか」
「あの時の懐剣か、ソレが切っ掛けでも有るし丁度よいのか?」
「まぁ、持ち主の安全を願って打つだけだし難しくは無いな」
「……そもそも、時を得て概念に目覚める筈の物を何故その場で?」
「今更過ぎないか?」
溜息を吐きつつ、『厄切』を作成する準備に入る。鍛冶場の設備が動き出し、空間を魔力が圧迫していく。
「成る程、コレだけの設備が有れば概念武装も作れるのか」
「こうなる前から作れたぞ、確かに龍脈から魔力は引っ張って来てたけど特に関係は無いと思うし」
「……タタラ、こう言った困惑した時に言うべき言葉が思い付かないのだが」
「最近は俺のやる事に対して『タタラってる』とか言うのが『ワールウィンド』では流行ってるみたいだな」
「成る程、タタラってるな」
「早速使うのかよ」
呆れつつも、『剣の魔神』が持つ大剣を頭の中でイメージする。『厄切』の概念を付与する為に小さくデフォルメするが、どうせなら同じデザインの物を渡したい。
世界有数の強者を相手に何をと思われるかも知れないが、俺は既にこの魔神に友情を感じてしまったのだ。なら、その安全を願ってもいいはずだ。鎚を振るい、短剣を作る。
お師様から教わったのは確かに作刀だが、技術を修めたのなら応用は効く。打ち上がっていく剣を見て、『剣の魔神』が驚く気配がする。
そうして1時間で出来上がる『厄切』の短剣、拵えを終わらせてから魔神に渡してやる。
「……確かに、これほど見事な物を作れるのならタタラはかの祖神の弟子なのだろうな」
何処となく俺の作品を見て苦笑いをしている雰囲気の『剣の魔神』、どうやら認められたようだ。
「しかし、良いのかこれを受け取って?」
「素材がミスリルってのが珍しいかも知れないが、正直余る程に持っててな。市場に流せば経済的に打撃がデカいから無理だし、特に問題は無い」
「改めて価値観がおかしいな」
何処か諦めたような雰囲気を出しながら、短剣をインベントリにしまった『剣の魔神』は空間を切り裂いた。
「もう行くのか、『ストームブリンガー』の整備くらいするぞ?」
「……この魔剣の銘も知ってるのだな」
「何ならお前の本名も知ってるぞ」
今でこそ『剣の魔神』と呼ばれる目前の相手にも、ちゃんと名が有る。各種ゲームには登場しないが、ビジュアルファンブックの製作者インタビューの中にキチンと名前が出ていた。
「私自身ですら忘れてしまった名だ、聞いても分からないだろう」
「……そうか」
「だから、お前は覚えていてくれ」
俺に何処か願うかのようにそう言い残して、『剣の魔神』は去っていった。せいぜいが20年程しか残りの命が無い身ではあるが、その言葉を確かに心に刻んだ。
尚、原作ゲームのDLCで『剣の魔神』は二郎系ラーメンの詠唱やコーヒーメニューでフルカスタマイズ注文をさせられていたりする()
今日この時をもって、お前達はゴーレムを卒業する!
お前達は立派なクラフターだ!
どうだ、嬉しいか!?
たー! たらったー!
お前達はこれから試練を受ける!
全てを得るか、地獄に落ちるかだ。どうだ、楽しいか!?
たー! たらったー!
お前達の得意な事はなんだ!?
たー! たー! たー!
お前達の好きな事はなんだ!?
たー! たー! たー!
お前達はクラフトを愛しているか、ワールウィンドを愛しているか!?
たっらー! たっらー! たっらー!
作業準備!!
たー!
エセ昔話『オオカミ少年』
昔々、とある限界集落にタタラと言う青年が居ました。
「久々にやると思ったら……限界集落ってなんだよ」
タタラは村で唯一の若者であり、働き者でした。しかし、一つ悪癖が有ったのです。
「狼が来るぞっ!」
切羽詰まったタタラの声が村に響き渡ります。その声に従い、村人達は村から離れて身を守るためにタタラが作った古龍の一撃にすら耐えるシェルターの中に逃げ込むんだのです。
暫くして、シェルターの外からタタラの声が聞こえました。
「──なんて、嘘でした!!」
コレがタタラの悪癖です。村人に対して村に脅威が迫っているから逃げろと叫び、彼等がシェルターに逃げた後に暫くして嘘だと告げるイタズラ癖が有ったのでした。
「またタタラの嘘か」
「まぁ、タタラの作ったシェルターに逃げるだけだしな」
「ちょうど仕事を休めるし、何ならタタラが手伝ってくれるから収穫には問題無いしな」
村人達は慣れた物で、タタラのイタズラを軽く咎めると日常に戻って行きます。
タタラはその様子を何処か安堵の籠もった笑顔で見送るのですが、その頭頂に拳骨を落とす女傑が1人。
「痛っ!?」
「このバカ息子、またやったわね!?」
タタラの亡くなった両親に代わり面倒を見る村長、御歳四十路です。その傍らには高貴な生まれである彼女の身を守る役割を担う騎士のカラムスが居ました。
「い、いやぁ……皆が慌てふためく姿が楽しくてつい」
「つい、で仕事の邪魔をしない!」
ぐうの音も出ない正論を前に、タタラは身をすくめます。根が素直で働き者のタタラは、正しく叱る大人に滅法弱いのです。
「さっさと邪魔をした人達の仕事を手伝いなさい、駆け足!!」
「はいっ!?」
村長から罰を言い渡され、すぐさま村人達の仕事を手伝いに行くタタラ。その後姿を見る村長は、何処か泣き出しそうな表情を浮かべるのでした。
翌日、タタラの切羽詰まった声が響きます。
「オオカミが来るぞ、皆避難しろ!!」
何時もの言葉に、村人達は急ぎシェルターに逃げ込みます。今日も誰一人家に残らず、シェルターに避難した事にタタラは安堵しました。
そうして、村に施した迎撃機構を起動させます。限界集落とは思えないような攻性結界、対魔獣迎撃用の魔導具達。
それらを従え、迫りくる魔獣達に魔導加速式投射砲『エリンジウム』を構えたタタラは呟きます。
「皆の変わらぬ明日の為、お前達には嘘になってもらう」
その目は冷徹で、村人の敵を見据えて続けます。
「俺はオオカミ少年、俺は嘘吐き……ソレが全てだ」
そして、開戦を告げる弾丸は放たれました。
シェルターの中で、タタラの母親代わりを務める村長は必死に祈ります。その姿は真摯で、悲壮感すら漂います。
いえ、祈っているのは村長だけではありません。村人達全員が祈っています。
全員の願いは揃ってタタラの無事です。
タタラの嘘は村人全員が承知していました。
村唯一の若者で、広い世界に出て名を馳せるであろう才能を持ったタタラ。育った村の人達が好きだからと、たった一人で数多くの災厄を退ける姿を村人達は全員知っているのです。
自身の戦いを嘘にして、村人達に安寧の日々を送ってほしい。そんな彼の願いを叶えるために、今日もタタラの下手くそな嘘を聞き入れます。もう戦えない老いた身を何度とも知れない憤怒の業火に焼かれながら、タタラの笑顔を守る為に騙されるのです。
「……我が主、申し訳ありません」
「いいえ、貴方は悪く無いわカラムス。貴方は私を守る以外の戦闘行為を軍神様に禁じられているのだから」
国どころか、所属する軍神様の宗派でも指折りの戦闘者であるカラムスが戦えない理由がコレでした。彼女が主を頂き、集落に共をした時に主神から言い渡された誓約がコレでした。
本来なら、村に迫る脅威とも戦えた筈なのにその誓約は村長に死の危険が迫らないと戦えない程に強く縛られました。
そして、タタラが足掻く限りにこの縛りを抜けられません。軍神様はタタラが生きている限り、村長へ死の危険が迫る事は無いと判断しているのでした。
「お願いします軍神様……どうか、タタラが今日も嘘吐きになれるように守ってください」
タタラの無事を祈り、村長は涙を流しながら祈ります。
安寧の為に嘘吐きになる少年。
少年の嘘に気付きつつも受け入れる大人達。
この日々の終わりは、直ぐそこまで来ているかも知れません。
─完─
「久し振りのエセ昔話なのに、なんでこんなシリアス風味?」
「……私、二度目でもタタラの母親役なのね」
「サラッと我が主神がジュロンに試練を与えてるのだが、解釈違いだ。軍神様なら疾く駆け付けよと激を飛ばすぞ」
「そうです、タタラくんの危機なんですからむしろ率先して行けって言いますよ!!」
エセ昔話『オオカミ少年?』
鬱蒼と茂る森の中、一人の青年が息を切らして走る。
青年の名前はタタラ・ジュロン、過疎化が激しい村の中で唯一の若者である。
彼は森の中でとある痕跡を発見し、急いで村へ戻ろうとした。
そして、その折に発見されてしまったのだ。
村へ近付く滅びに。
村まであと少し、僅かな安堵を覚えるタタラの上空から音も無くそれは襲いかかった。
タタラと比べて遥かに非力で華奢なそれはしかし、タタラに触れた瞬間にその身体から力を奪う。
急速に力を奪われたタタラは足をもつれさせ、転倒する。しかし、残る力を振り絞り声を上げようとする。
「夢魔だ、夢魔が出モガっ!?」
必死に声を上げようとするが、口を手で塞がれる。抗おうと体をよじるタタラだが、抵抗する力をどんどんと奪われて動けなくなっていく。
俯せだった身体を仰向けにされ、衣服を破られるタタラ。村仕事で鍛えられた肉体を見て、夢魔は舌舐めずり。夢魔の仲間らしい天使族と鬼族、狐の獣人などもやってきた。そして──
帰りの遅いタタラを心配し、村人達が森を調べると直ぐにその痕跡が発見された。
引き裂かれた衣服、そしてそれらに付着した匂いから村人達は全てを察した。もう、タタラは帰ってこれないのだと。
母親代わりの村長はその事実を理解し、崩折れる。
姉代わりだった女騎士は、戦えぬ己に怒りを抱く。
村人達は息子のように大切にしていた者を失い呆然となった。
森から離れた所にある山の中に有る洞窟、その中でタタラは貪られ続けていました。
夢魔は最初にタタラへ襲いかかった時に孕みましたが、その後もタタラを貪る事をやめませんでした。
鬼族はタタラを味わった後、色に狂いました。
天使族はタタラと交わった後は奪われぬように、騎士の真似事を始めました。
狐の獣人はタタラと初めて交わった後から、甲斐甲斐しく世話をして愛情表現をしました。
タタラは続く地獄にやがて考える事を止め、肉欲を貪るだけに堕ちて行くのでした。
─姦─
「ひどい、あまりにも酷い」
「メインヒロインの久し振りの出番があとがきかつ台詞無しって酷くない?」
「それと妾が即座に色狂いになるのもどうなのじゃ?」
「挙動だけなら本編と変わらない私はいったい……?」
「拙者、此処でもご主人の世話を焼いてるでござるね……」
「私、台詞無しで息子を奪われて泣いてるだけなのだけれど?」
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない