※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

151 / 183
タチアイベント進行中
『看板娘』イベント継続中


アンケート実施中です、作中で都市祭開始を持って終了とさせていただきます


レディ、ファイト!

 レストランの内装を作り終え、アリーナの目玉であるバトルフィールドへ向かう。周囲の客席が準備されていくのを眺めて思う事は、都市祭まであと数日を残している中で進みが遅いと言う事だ。

 

「タタラはん、客席眺めてんどしたのん?」

「いえ……少し進みが遅いかなって」

 

 失礼とは思いつつ、進捗の遅さが目に付いた事を伝える。商会長は俺の言葉に気を悪くする事もなく、恥じらう様子で答えてくる。

 

「たはぁ、やっぱタタラはんからはそう見れんね?」

「あっと、その……俺はこのアリーナを1日で作るので比較したら駄目だって思っては居るんですけど」

「ええんね。実際、想定してた作業ん進みよりずっと遅んね」

 

 どうも商会長からしても作業が上手く進んで無いらしい、残り僅かな日取りで席の用意が全体の1/4も出来てないのは流石に遅い。

 

「客席が規定の数用意出来てないのだろうか?」

「そです、調理器具やカフェとレストランん設備用意したん間に合ってなんね」

「すみません」

 

 原因俺じゃねぇか、カフェは兎も角レストランの方がデザイン決まってなかったのコレが影響してたのか。いや、この規模の設備を建築・運用するのに年単位でスケジュール組まずなほぼぶっつけでやる事が先ずおかしいんだが。

 

「足りないのって椅子そのものですか、それとも人手ですか?」

「どっちもなんね、クラフターが揃わんが問題なんよ」

「つまり、二百人程クラフターが増えれば解決(・・・・・・・・・・・・・・・・)しますね?」

「流石にその数増えたん十分……タタラはん?」

 

 人海戦術なら今の俺のお家芸だ、早速インベントリから全てのゴーレム達を出す。

 

「前んより増えとんね?」

 

 人目で分かる数が増えた故に、商会長は顔を引き攣らせながらそう言った。ゴーレム達はバトルフィールドの上やその脇に立つ形で俺と向き合う。さて、号令を掛けるか。

 

「今日、この時を持ってお前達はゴーレムを卒業する。お前達は立派なクラフターだ、どうだ嬉しいか!?」

たー(サー)! たらったー(イエッサー)!!』

「タタラはん?」

「タタラ殿?」

 

 俺とゴーレム達のやり取り(コール&レスポンス)を聞いて戸惑う商会長と当主代行。二人を置いて俺とゴーレム達のボルテージは上がっていく。

 

「お前達は今日試練を受ける。全てを得るか、生命を落とすかだ。どうだ、楽しいか!?」

たー(サー)! たらったー(イエッサー)!!』

『死ぬの!?』

 

 俺の言葉に揃って素っ頓狂な声を上げる二人を無視して、俺とゴーレム達は佳境に入る。俺は深く息を吸って、問い掛ける。

 

「お前達が得意な事はなんだ!?」

たー(製作)! たー(製作)! たー(製作)!』

「お前達が好きな事はなんだ!?」

たー(製作)! たー(製作)! たー(製作)!』

「お前達は手抜き工事をしないか、職人魂を持っているか!? 」

たったー(ガンホー)! たったー(ガンホー)! たったー(ガンホー)!』

「製作準備!!」

「たー!!」

 

 俺とゴーレム達とのやり取りに、作業をしていた人達まで何時の間にか注目していた。全員口が開いてポカーンと言った表情をしている。そう言えば、俺はもう慣れてしまったが普通はゴーレムって喋らないんだよな。そりゃ戸惑うか。

 俺は商会長に向き直る。

 

「コレで人手不足は解消出来ると思います」

「いや、まとかタタラはん」

「彼奴等一体一体が『クラフト』スキルを所持してます。総勢二百飛んで一体のゴーレム、活用して下さい」

「ごめん、脳の処理おっつかん」

 

 俺の説明に対して頭痛でも覚えたかのように額に手を当てる商会長、そんな彼の肩を当主代行が優しい手付きで叩いている。どういう事だろうか?

 因みに、客席数の全体が1500に対して俺の用意したゴーレムは201体。先に準備していた職員さん達が資材の用意が間に合わなくて悲鳴を上げる速度で『クラフト』をこなしたゴーレム達は、10分程で作業を終了した。

 それを尻目に俺はバトルフィールド周辺に手を入れていく。リングアウトを想定して柵は建てず、その周辺はアーレムを優しく受け止められるようにミスリルで編んだネットを設置。更にフィールドを写すカメラを設置した四隅にポールを調整、手持ちの素材で『念話』の術式を刻んだカメラを調整して天井から吊り下げているモニターの『感応』と同期を確実にさせる。試しに『グラジオラス』を置いて、大型モニターに問題なく映るかを試す。4箇所のカメラは正常に稼働したが、正直これだけでは物足りない。

 更に追加として俯瞰でバトルフィールドを写せるカメラを8台設置、それぞれに拡大・縮小出来る望遠機能を付ける。追跡機能を付けられないか迷ったが、公平に写す為にはゴーレム化でもしないと無理なので断念。台座を可動型にする事で人手で動かせるようにはしたが、この世界でテレビカメラマンみたいな技術を磨いて貰わなければ宝の持ち腐れになる。

 手の空いた小たたらに頼んでカメラワークを脳内で描いて指示を出し、演舞をする『グラジオラス』を追跡させる。場内での盛り上がりを考慮してサーチライト宜しくステージ用のスポットライトを作成、カメラと連動させて追跡させる事で演出が出来るようになる。

 

「お義父さん、ちょっとあっちのゲートから入って来て貰えませんか?」

 

 カメラとモニターの調整のため、入場を写したくて当主代行にそうお願いする。当主代行は頷いてゲートを潜り、その後堂々とした歩みで入場してくる。カメラとスポットライトを向け、モニターの映像を確認しながら光量を調整。試しに録画して、それを近寄ってきた当主代行に見せる。

 

「ふむ、中々にキマっているのではないか?」

「お義母さんが見たら惚れ直しますよきっと」

「この、上手いこと言いおってからに」

 

 満更でも無い当主代行は照れながら肘で俺をつつく。商会長は何かトンデモナイ事を聞いたと言わんばかりの表情だ。

 その後も『拡声』と『感応』の術式で作ったスピーカーと、『念話』を刻んだマイクを作成し音響を揃える。

 

「あー、あー……本日は晴天なり本日は晴天なり。あめんぼあかいなあいうえお」

 

 マイクチェックをしていると、作業が終わって手隙になったゴーレム達がやってくる。興味津々にマイクを見てきたので、複数作って実況その他の状態を確認しようと渡してみる。

 

「たらららららたららららたらららららたらららら」

「たーたーらったったったったらったたー」

「たーららたーらら」

「たたららたたたたたたっ」

『たーたーたーたーたらららたーたーたらららーたらたーららーたららたらーたららららーらーたららっらっらー』

 

 どう聞いても某機動戦士の一角獣のテーマである、何処で覚えてきたんだマジで。

 

「なんというか、勇壮かつ神秘性を持った曲調だな。此方ではこう言った楽曲が流行っているのか」

「……まぁ、此方で主流の楽器を想定した曲では有るので間違っては無いですね」

 

 商会長が側に居るので前世の音楽とは話せないので、取り敢えず誤魔化す。商会長は聞いたことの無い曲なので首を傾げていた。

 

「そんでタタラはん、このスピーカーでなにすん?」

 

 おっと、商会長……だけでなく当主代行も分かってないなこれ。なら実際に体験してもらった方が分かりやすいかな。

 

「じゃあ、当主代行はさっきと同じゲートへお願いします。商会長は逆のゲートへ、声を聞いてタイミングを合わせて入場して下さい」

 

 俺の言葉に訝しみながら、二人は其々のゲートを潜る。さて、即興だがやってみるか。

 俺はマイクを口元に寄せて、軽く息を吸う。

 

「レディース&ジェントルメン、本日はアリーナへ起こしいただき誠にありがとうございます!」

 

 高らかに、堂々と声を上げる。恥ずかしがれば台無しになる、例え吃ったりとちったりしても勢いで押し通る。演劇でも音楽の発表でも失敗して止まり表情に出す事が一番やってはいけないのだ。

 

「此度は史上初、念動甲冑アーレムによる対戦を行う事となりました!」

 

 作業をしていた商会の人達が俺の語りに対して興味を向けて来た、更にはバトルフィールドの外に居た作業員の人達も何事かと集まってくる。

 巻き込め、この人達を味方に付けろ。

 

「それでは選手に入場頂きましょう、初めに!」

 

 マイクを持ってない左手でゲートを指す、それに合わせてゴーレムがスポットライトを照射する。

 

「東の門より入りますは遥かな東方、陽出國より来たりし武辺者!!」

 

 俺の言葉に導かれるように当主代行が門を通る。威風堂々とした立ち姿を目にし、一部のノリの良い職員さん達が歓声を上げる。戸惑う職員さん達も拍手で迎え入れた。

 

「陽出國は虎熊領領主、かつては剣鬼と恐れられ今は剣聖と称えられしその御業が『ワールウィンド』に降臨する!!」

 

 俺の言葉に導かれるようにバトルフィールドへ歩み寄る当主代行、スポットライトはそれに合わせて動く。カメラはキッチリと当主代行を写し、モニターにその歩む姿が映る。

 

「挑戦者『虎熊 信綱』、操りしアーレムその名を……『大紅蓮』!!」

 

 名前を呼ばれた当主代行が腕を掲げれば歓声が上がる、段々と盛り上がって来たな。

 

「迎え討つは此の方、我等が『ワールウィンド』の守護者!!」

 

 対するゲートにスポットライトが当てられ、商会長が歩み出てくる。普段は細められた目を開き、闘志に燃える双眸を覗かせている。

 

「この都市の流通を守り幾多の飢饉を乗り越えてきた立役者、市井の生活を守る黄金の盾が此度の挑戦者を退けるのか!?」

 

 俺の言葉に合わせて歩み出す商会長、ゴーレム達はカメラとスポットライトを当主代行の時と同じように使えている。

 

「『ワールウィンド』代表ファイター『商会長』、操りしアーレムその名は……『玄武』!!」

 

 当主代行とは違い腕を掲げる事は無いが、フィールドの側で腕を組み堂々と立つその姿は正に王者の風格。その姿に商会の職員さん達は大盛り上がりの大歓声だ。

 当主代行はアウェイの中だというのに、これから始まる戦いが楽しみで仕方ないと言った雰囲気だ。

 

「双方、アーレム準備(レディ)!!」

 

 鋭くそう言うと、二人は待ってましたとばかりにインベントリから其々のアーレムを取り出しフィールドに置く。

 それを見届けて、俺は会場に居る観客達へ呼び掛ける。

 

「さぁ、お前達……歴史の目撃者になる準備は万全か!?」

『はい!』

「おいおい、声が小さくて聞こえないぞ……準備は万全かっ!?

『はいっ!!』

「よし!」

 

 会場を盛り上がりに二人の闘志は高まっていく、正に最高潮と言った具合だ。

 

「さぁ、会場の皆さんも一緒に……カウント3!!」

 

 俺が指を3つ立てた腕を掲げると、観客達も吊られて腕を上げる。いい一体感だ。

 

『3!!』

 

 響く声。

 

『2!!』

 

 外れる拘束。

 

『1!!』

 

 目に光の灯る2体のアーレム、そして一瞬の静寂。

 

「Fight!!」

 

 俺の言葉を切っ掛けに駆け出す2体のアーレム、そして爆発的に広がる歓声。当主代行と商会長も雄叫びを上げ、2体のアーレムは今激突──

 

「って盛り上がりの為にマイクとスピーカーを用意しました、お付き合いありがとうございます」

『ふぇぁ!?』

 

 俺の熱を無くした声に戸惑いの声を上げた当主代行と商会長はアーレムの操作を誤り、盛大に転けさせる。フィールドを削りながら滑るその様は芸術的ですらあった。

 

「た、タタラ殿!?」

「タタラはん、ここでお預け!?」

「いや、どう使うかの話でしたし……」

『そうだけども!?』

 

 史上初のアーレムバトルをやろうとした二人は止められた事に不満である、何なら観客になってた職員さん達も不満そうだ。

 

「そりゃ、お二人を気兼ねなく戦わせてあげたくも有りますけど」

『ならっ!!』

「まだ設営作業中なんですよね、今」

『……あっ』

 

 俺の言葉にその事実を思い出したのは二人だけでなく、会場中の職員さん達もだった。うん、まぁ盛り上げようとした俺も俺だけど皆熱中しすぎだと思う。

 

「それに、バトルは後でちょっと段取りしないと。今のやっつけ仕事で盛り上がって貰ったのは嬉しいですけど、そもそも俺はその道のプロでもなんでも無いですから」

『あれで?』

「全部即興なんですよ、ちゃんとした演出家に手直しして貰って下さい」

 

 一応、一連の流れは小たたら達が録画してくれていたりする。近寄ってきた小たたらが録画結晶を商会長に渡すと、何とも言い難い表情を浮かべている。

 

「それじゃ、当主代行と商会長はお話に付き合って下さいね。職員さん達もお付き合いありがとうございました、気兼ねなく作業へお戻り下さい」

 

 俺の言葉でバトルの続きは無いのだと理解したのか、肩を落として其々の作業へ戻っていく職員さん達。ちょっと悪い事をしたかな?

 それはそれとして、バトルフィールドの傷とか直さないと。

 

「お二人ともアーレムを回収して下さいね、フィールド直すので」

『はい……』

 

 気落ちした様子でハンガーに戻る二人のアーレム、後で少し整備しよう。転んだ拍子にパーツが歪んでるかも知れないし。戻ったのに合わせて『鑑定』を使用、フィールドの細かい傷を確認するが破片が見当たらないので『創製魔法』で周囲の床から少しずつ集めて傷を埋めた後に均一にならす。

 無事に修復が終わった後で当主代行と商会長からアーレムを預かって整備、案の定転んだ拍子にパーツが曲がったり歪んでたりしていた。『クラフト』スキルで軽く元の形に戻して二人にアーレムを返して、話し合いに移る。

 

「それで、当日のお話をしようと思います」

「まかせんね、先ずさっきのタタラはんみたいな語りんする人探すとこかんね」

「うむ、当日に限りタタラ殿が担当してくれてもよいが後進を育てる必要も有るな」

「違う、そうじゃない」

 

 目的の話と掠りもしない話題を出された。

 

「俺がしたいのは当日、陽出國との国交樹立の宣言も兼ねたアーレムお披露目についてですよ。当主代行は乱入して貰うって話でしたよね?」

『……あっ』

 

 こいつら、完全に忘れてやがった。

 

「お二人とも?」

「し、仕方ないであろう!?」

「あんな盛り上がんことされん、色んなんぶっとぶねんね!?」

「そうだそうだ!」

「子供みたいな言い訳をしない!」

『はい』

 

 子供を叱る母親みたいな事をしてるな俺、肩を落としてしょんぼりする二人に溜息を吐いて気持ちを切り替える。

 

「当日なんですけど、お披露目をされる商会長と法務長それとその息子さんの3人のアーレムをフィールドの中央に集めてそこへスポットライトを当てる感じでどうでしょう?」

 

 言いながら『念話』で小たたら3体に指示を出し、フィールドの中央で背中を合わせるようにして3体が並ぶ。スポットライトが段階を得て3体を照らし、モニターも小たたらを映す。

 

「成る程ね、これは目立つんね」

「ふむ、注目を集めるならこの方法が良さそうでは有るな」

 

 概ね好評って感じだな、よくあるお披露目方法だが王道の演出故にそこまで否定される要素が無いのが助かる。

 

「そして、一通りアーレムの説明をした所で当主代行に乱入して戦って貰うんですが……」

「何が問題なのかね?」

「乱入方法ですね」

 

 幾つも案は浮かぶのだが、一つに決められない。当主代行に決めてもらおうかな?

 

「例えば、当主代行の大紅蓮に姿を見せないようにボロボロの布で外套を被せるんですよ」

「む、姿を見せぬのか……」

 

 姿を隠すことに難色を示す当主代行、駄目かなコレ。

 

「その状態でゲートから大紅蓮を走らせて、フィールドに飛び入りします」

「む、怪しい敵ん登場なんね」

「先に居るアーレム達はそれを迎撃する為に武器を取り、応えた大紅蓮も刀を抜きます」

「むむ、以前言っていたアレであるな?」

 

 話を続けたら途端に当主代行の目がキラキラ光りだした、やっぱりこう言うの好きよね。

 

「始まる切合、連携を取る3体に対して一歩も引かない……どころか余裕すら見せて捌く大紅蓮」

「やはり、戦上手の虎熊はんには付け焼き刃の連携ん駄目ね」

「余裕を見せているだけだ、内心では冷や汗を流しておるよ」

 

 アレ、なんか別のドラマ出来てる?

 

「3体の連携を捌く中で、大紅蓮の外套は少しずつ破れその動きを阻害していく……」

「やはり、3体1で余裕を見せるのも限界か」

「でも、僕らん攻撃も外套を破くだけなんね」

 

 あの、熱中されてる中申し訳ないですがこれ単なるアイデアってだけですよ?

 

「そして3体を下がらせた当主代行の大紅蓮は、自ら破けた外套を掴み投げ捨てその姿を晒します」

「現れる異形の鎧!」

「傷一つ無く立ちはだかるその姿!」

「ノリノリですね」

 

 当主代行と商会長は物語の虜になっている、どうしようかなこれ。

 

「再び剣を構える大紅蓮に、果敢にも攻め込む3体のアーレム!」

「重なる剣戟!」

「舞い散る火花!」

『太刀振る舞い刃鳴散らす!!』

 

 いや、仲良しだな当主代行と商会長。置いていかれてちょっと寂しいぞ。

 

「とまぁ、こんな感じで外套は外せないと言うか」

「うむ、やはり印象を強くする為に最初は隠すべきだな」

 

 うん、ノリノリですね本当。

 

「乱入ん方法決まっとんね、コレで良くない?」

「いえ、実はまだ案は有りまして」

「む、儂はこの流れが好きであるが……他の案とは?」

「はい、当主代行のアーレムを空輸します」

『空輸』

 

 あんまり馴染みがない故にピンと来ないのだろう、少し時間を貰おうか。

 

「この場で空輸用の魔道具作って実演したいんですけど、ちょっと諸々調整が必要なので俺の鳥形ゴーレムに協力を頼みますね」

 

 そう断って『念話』を使いサイファーを呼び出す、ものの数分で到着したのは正直能力の無駄遣いだと思う。

 

「アーレムは傷が心配なので、今はゴーレムに代わりをさせますね」

 

 そう言って、小たたらの一体の肩をサイファーに掴ませて飛ばせる。そのまま入場ゲートよりずっと上、ライト等が設置されているスペースへと上がらせる。

 

「こうして最初は見えない位置に隠れて貰って、商会長達のアーレムのデモンストレーションが終わった時に登場させます。サイファーは鳥形なので無音ですが、用意する予定の魔道具はちょっと特徴的な音が出るタイプです」

 

 そうしてサイファーに向けてライトが向けられ、サイファーは悠然とフィールドへ小たたらを運ぶ。ライトが追跡するのでとても目立つ。

 

「此処でアーレムから固定具を外して落下着地させるか、ゆっくりと地面に降ろすか」

 

 サイファーは小たたらをある程度の高度から離して着地させるのを見せてくれた。直ぐにもう一度持ち上げた後に、今度は静かにフィールドへ降ろす光景も実演してくれる。

 

「この時に大紅蓮そのままにするか、ハンガーと一緒に降ろして展開する場面も見せるか……でも飛び込み乱入が良いみたいですしこの案は無かったって事で」

「待てぇい!?」

 

 焦った当主代行の声と共に肩を掴まれる、力の加減が出来てなくて痛い。

 

「こんな案が有るとは聞いてないぞ!?」

「ええ、今言いましたからね」

「タタラはん、流石に虎熊はんのアーレムを贔屓し過ぎなんね?」

「でも、印象付けるならこれくらいの登場でもしないと」

「僕らんアーレムが印象薄んなんね!?」

 

 むう、確かに劇的な登場をする当主代行に全部持っていかれてしまうだろうか?

 

「なら、空輸案は無しの方向で……」

「いや、待とうかタタラ殿。話そう、話せば分かるはずだ」

 

 焦り過ぎではないだろうか当主代行、そんなに格好良い登場がしたいのか。……まぁ、したいか。俺だってやるならこれくらいの登場演出したいし。

 

「それと、国交樹立の宣言の事なんですけど」

「む、タタラ殿の発案だがどうかしたのかね?」

「外交長の許可取らず勝手に知らせていいんですかね、コレ」

「あっ」

 

 俺もど忘れしてた外交関係の最高責任者の許可の有無、商会長もすっかり忘れていたらしく疑問を呈したらそんな声を漏らした。

 

「外交関連ん話なんね、確かん外交長も交えんとあかんね」

 

 額に手を当てて空を仰ぎ見る商会長に、俺も配慮が足りなかったなと反省する。これはまた人を集めないと駄目かな?

 そう考えていると、商会長は俺に顔を向けて聞いてくる。

 

「タタラはん、明日んまた来てもらうん大丈夫そ?」

「ええ、今から言ってもらえるなら明日は予定を空けておきます」

「ふむ、流石に儂等も暴走が過ぎたな」

 

 3人で反省しているが、実は一番許可を取らなきゃいけない相手は都市長だと思うのだけれどどうだろうか?

 いやまぁ、ちょくちょく手紙は送ってるけど基本的に報告書は全部終わってからにしろと言われてるしタイミングが取りづらいんだよな。一報だけ送っとくか。

 そんなこんなで俺と当主代行の役割は終わった。

 

「なんか今日はあまり役に立てなかったですね、申し訳ないです」

『え?』

 

 立ち去り際にそう言うと、当主代行と商会長が凄い顔で見てきた。なんでそんな反応?

 

「タタラ殿、今日やった事を上げてもらえるか?」

「え、ええと……レストランの内装関係ですよね。小たたらに任せですけど観客席の手伝い。カメラとスピーカーの調整。バトルフィールド回り……これくらいですよね?」

『いや、十分に働いてるからな?』

 

 今日の仕事を振り返り、一通り上げてみたらなんか十分と言われる。だが──

 

「そうは言いますけど、一応次期工匠長なんですからもっと働け無いと駄目ですよ」

「タタラはん、工匠長は過剰労働者の意味と違うんね」

 

 俺の言葉に対して商会長はわりかしマジの表情でそう言った、解せぬ。

 

 

 昼を少し過ぎた程の時間だが、当主代行と並んで帰路につく。途中で屋台を二人で周り、昼食を買って食べながら歩く。行儀は悪いがそこは男子二人、こう言う事が大好きなのだから楽しく味わった。

 

「昼頃なら三葉が昼食を作っているかも知れんな」

「そう言えば家事が出来るんでしたっけ」

「花嫁修業と言い出してから目的が逆転してな、結婚よりも家事をする為に花嫁修業をしておる」

「……大変ですね」

「家格も有って相手が見付からん、いっそこの国の皇帝陛下に打診も視野に入れんとならんかな……」

 

 家の愚痴を溢すのは珍しい、四葩には兄も居るとの事なので後継者問題は無いと思うが。……そう言えば、お義母さんがその兄についても愚痴ってたっけ?

 

「いっそ、家を出て家事代行の仕事でも始めればいいのでは?」

「成る程、此方にはその様な仕事も有るのだな」

 

 冗談で家事代行の話をすれば、当主代行も乗ってきた。そのまま掃除用の魔道具について話をしながら家に着く。

 

『ただいま』

 

 当主代行と二人揃って玄関を潜る。

 

「おかえりなさいませお父様、タタラ様。早速ですが私、この家の子にさせていただきます」

『……は?』

 

 出迎えたのは三つ指ついて頭を下げる三葉さん、余りにも予想外の光景に思考が止まる。

 空回りしながら再起動した脳は、現状を正しく認識してないながらも何とか言葉を紡ぐ。

 

「いきなり何を言い出してんだお前!?」

「タタラ殿の言う通りだ、何を考えてそうなった三葉!?」

「何を……?」

 

 俺と当主代行の言葉を聞いた三葉さんは身を起こし、首を傾げる。

 

「この家でお世話になろうかと思い、ご挨拶をと」

「結論だけ話さないで貰えませんか!?」

「そうなった経緯を話せ三葉、お父さん怒らないから!?」

 

 駄目だ、会話が成り立たない。テンポが若干ズレてる感が否めない。俺と当主代行の言葉を聞いて、更に考える三葉さん。一つ頷いて口を開く。

 

「家賃代わりに身体を差し出す事も厭いませんよ?」

『違う、そうじゃない!』

 

 駄目だ、本当に会話が成り立たない。

 

「三葉さんの中では此処で暮らす事が決定事項みたいですけど、そうなった経緯を話して貰えませんか!?」

「帰ってきた直後にいきなり娘から出家する話を聞かされて儂はどうすればよいのだ!?」

 

 チグハグな会話で俺と当主代行も言いたい事と聞きたいことがバラバラである、流石に三葉さんも会話の運びが拙かったと理解したのか考えている。

 

「……一先ず、腰を落ち着けてお話しましょう。居間へお願いします」

 

 そう促されて俺と当主代行は従う。リビングに着くと三葉さんはテキパキと準備をして、俺と当主代行の前にお茶を用意する。

 

「……早速キッチンを使いこなしてますね」

「それは、タタラ様の用意した台所が素晴らしい機能性を持っているからです」

 

 余りにも高い順応性に感心すると、その理由を言われる。確かに今は亡くなった母さんに無理言って改造したシステムキッチンではあるが、それを差し引いても使いこなせるようになるにはそこそこ時間が掛かるはずだ。

 

「確かに俺が改修したこの『ワールウィンド』でも他に無いシステムキッチンですけど、そこまで順応するのは簡単じゃないと思いますよ?」

「あら、一華様もそうですけど多少家事に慣れた者なら半刻も有れば使いこなせますよ?」

 

 そう言えば、一華はウチのキッチンを何時の間にか使えてたな。違和感無くて気付かなかった。

 

「……もしや、台所が素晴らしいから此処に住みたいのか?」

「あら、流石の理解力ですねお父様」

 

 当主代行が恐る恐ると聞いてみれば、それが正解だったらしい。どうしようかな、これ。

 

「虎熊邸の台所をウチのと同じ物に改装すれば帰りますか?」

「魅力的ですが、流石に邸の台所に手を入れるのは我儘に過ぎますしね」

「いや、他所の家に住むのも十分に我儘だろ……」

 

 俺の提案を却下する三葉さんの言葉に、当主代行も呆れと疲れに襲われたらしい。思わずと言った具合に溜息を吐いている。

 そんな当主代行の姿に小首を傾げた三葉さんは、目を瞬かせてから言葉を紡ぐ。

 

「あら、四葩の結婚相手なら他人とも言い切れませんよね?」

「いや、確かに身内判定も仕方ない距離ではありますが……」

 

 三葉さんの言葉に頭を悩ませる俺だが、当主代行は違ったらしい。

 

「……三葉、それは誰に聞いた?」

 

 それまでの家族の顔が消えて、威厳に満ちた当主代行としての顔を覗かせる。何だろう、四葩と俺の関係は家ですら秘されて居たのだろうか?

 

「特に、誰かに聞いたわけではありません。タタラ様も秘密であると認識して態度に出して居ませんでしたし、私も確信を持っていた訳では有りません。ですが、何となくタタラ様へのお父様とお母様の態度でそう言った関係なのだろうと思いました」

「……何となく、で隠し事を暴かれるとはな」

 

 当主代行は苦々しそうに溢すが、三葉さんは何処吹く風と言った雰囲気で飄々としている。

 

「いばらも気付いているのか?」

「いえ、お姉様は気付いて居ませんよ。流石に末の妹に先に嫁がれると知ってしまえば、この家が瓦礫にされてしまいますし」

「なんて?」

 

 とんでもない事を言われたぞ今、この家が破壊されるとかどんだけ婚期に敏感なんだよ。

 

「タタラ様、どうでしょう。この際に私達姉妹全員嫁ぐと言うのは」

「素直に国交を深める為に皇帝の子供との婚姻に止めて下さいお願いします」

 

 冗談なのか本気なのかも分からない空気で言われた事に、テーブルに手を付いて頭を下げる程に丁寧な御断りを入れる。姉妹でとか流石に背徳が過ぎるだろうよ。

 

「そうですか、残念ですね。魔導炊飯器やお湯と水の温度調節が可能な蛇口等、私の身体を差し出しても仕方ない程の代物ですのに」

「お金を頂けたなら邸でも新しい家でもなんでも付けてあげますから、本当勘弁して下さい」

 

 頭を下げたまま御断りする、当主代行ですら頭を抱えている雰囲気が伝わってくる。

 

「そこまで嫌ですか?」

 

 俺の散々な断りを聞いてか、少し傷付いた雰囲気が出ている。

 

「四葩よりも肉感的で男の方達を惹き付ける身体だと自負が有りますが……お好みでは無いのでしょうか?」

 

 下から自身の豊満な乳房を持ち上げてそんな事を溢す三葉さんに、本気で勘弁して欲しいと思う。当主代行からも威圧されるし本当、なんでこんな事になるのか?

 

「正直、身体付きは好みの部類ではあります」

 

 正直に答えはするが、俺の中には極地とも言えるエテルが居座っている。好みだからと言って惹き付けられる訳では無い。

 

「ですが、四葩の姉だからだとか身体付きが好みだからと言って無節操に相手を受け入れる訳では有りません。申し訳無いですが、俺は貴女をよく知りません。そんな相手を直ぐに受け入れる程、俺は無警戒では無いです」

「あら、その割には唐突に現れた私達に家を預けましたね?」

「当主代行が、貴女達の父君が保証したからです。そうでなければ一華達に残って貰ってますよ」

 

 俺とのやり取りで、少し三葉さんの表情に笑みが見えた気がする。この人、表情が乏しくて感情が読み難いな。

 

「ふふ、四葩が貴方を好んだ理由を少し理解しました」

「……そんなに分かりやすいですか?」

「ええ、だってあの子は私と好みが似ていますから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 なんか、物凄い爆弾を落とされた気がする。チラッと当主代行を見ると怒り心頭……では無く本気で頭を抱えている。

 取り敢えず、この家に住み着くにしても部屋も足りないし色んな問題が出るから回避しなければ。

 

「あの、三葉さん」

「あら、お義姉さんでいいですよ?」

「三葉さんで」

 

 いばらさんに聞かれた挙句に家を廃墟にされたくねぇよ。

 

「三葉さんは家を出たいんでしょうか?」

「そうですね……お父様の前で言うのもなんですが、自立はしたいと思っています」

 

 家族大好きな当主代行の前で言うのは確かに控えたい内容か、当主代行的には家に居てもらっても構わないだろうし。

 

「自立するとして、仕事等は考えてますか?」

「家事が得意ですし、そこそこの家格の家へ給仕として働くのも手かと考えています」

 

 確かに虎熊家の令嬢で行儀作法もしっかりしている、それならこの考えも十分にアリだろう。

 

「三葉、そこまで焦って自立せんでも」

「あら、私も80を越えているのですよ?」

「鬼にとってはまだ80だろうに」

 

 ……うん、妖怪って長命種なんだったな。すっかり忘れてた。

 

「その、三葉さん。もし家を出て働くならこの『ワールウィンド』で試してみませんか?」

「あら?」

 

 俺の言葉に疑問と興味を持ったらしい三葉さんが俺の方を向いてくる。さて、説得出来るかな?

 

「先程ご自身で言っていた給仕の仕事ですが、実際にやるとなると身分の証明と同じくらいに家同士のコネも必要になります」

「ええ、そうですね」

「そこで、一般庶民の家の家事を代理で行う『家事代行』などはどうでしょうか?」

「『家事代行』……詳しくお聞きしても?」

「はい、先ず──」

 

 前世で有った家事代行に付いて話すと、三葉さんは興味津々に聞いてくれる。途中途中で当主代行も参加して、女性1人では危ないので何かしら手を打つことも必要だと伝える。

 

「ふふ、タタラ様ったら。私も鬼ですよ?」

「それでも女性です、男に付き纏われる可能性を考慮して下さい」

「私のような暗い女にそんな心配──」

「お言葉ですが、御自分の美しさに自覚を持ってください」

 

 俺の言葉に三葉さんは絶句する。四葩の姉なのだから美しいのは当然だろうに、自覚が無いのはなんなのか?

 

「よいか三葉、コレがタタラ殿だ。油断すると危ういぞ」

「……もう少し早く知りたかったのですよ、お父様」

 

 うん、なんか見慣れた反応だな。

 

「もし此方で一人暮らしをするのなら、俺が家を建てます」

「あら、大丈夫なのですか?」

「タタラ殿は大型の施設をゴーレムと共に5時間で建てるのだ、一軒家などすぐだろう」

「一応、2時間で2件の家を建てた実績は有りますよ」

「成る程……たたらっている、というのはこう言う事ですか」

「なんて?」

 

 なんで三葉さんがそれを知っているのだろうか?

 

「タタラ様のお友達が『タタラが意味不明な事をしたらタタラってるだけなんで気にしないでください』と」

「あの野郎……っ!」

 

 外来の人達に対して無闇矢鱈と広めんなよ、『剣の魔神』に対して俺も教えた上に速攻で使われたけどさ。

 

「大変に魅力的なお話ですね……お父様、宜しいですか?」

「娘の一人暮らしなど安易に許可を出せる物では無いだろう」

「この近くに空いてる土地を探して貰って買い取って貰えれば、何なら庭の転移門も有りますし帰省も簡単だと思いますが」

 

 都市長と法務長、それと外交長からも許可が要るかな。今滞在している事も都市長に伝えなきゃいけないけど、そうすると都市長寝込みそうだが大丈夫かな?

 セキュリティを心配する当主代行に対してセキュリティの強固さをこの家と同じくらいにすると言ったら認められた、龍脈が無かったら家庭用魔力炉を設置しよう。数十億の値段になるけど住宅ローンを組んで貰えばいいしな。結局、数年以内に三葉さんは『ワールウィンド』で独り立ちする事を決めた。

 当主代行からはいざとなったら俺に世話をするよう頼まれた、まぁ将来的に義理の姉になる人だし構わないが。




四葩とタタラは同い年です。鬼は大体20歳頃まで年齢通りに成長し、そこから緩やかに見た目が老けていきます。当主代行の年齢も300程だったりします。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。