既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント発生中。
それではアンケートを締め切らせて頂きます、ご協力ありがとうございました。
都市長の言葉に悲鳴を上げるのもそこそこに、早速アーレム所持者四人による段取りと言うかリハーサルを兼ねた打ち合わせを開始する。当日の演出は俺のゴーレム達でやろうと思っていたのだが、商会長が知り合いの劇団の人達を連れてきたらしく演出を任せるとの事だ。
餅は餅屋、専門家に演出の事を任せるとして、シナリオは俺達で考えなければ駄目だろう。先ずはお披露目する上で何が重要かと言うところから始めるべきだろうか?
「商会長、法務長……ご相談が」
「皆まで言わんて大丈夫よ、発表の優先度なんね?」
「一番の重要案件は国交樹立ですが、しかしそれはサプライズとして最後に持ってくるからこそ印象を強くする。さりとてアーレムそのものも衝撃が強い……何かでアーレムの前に一度軽く衝撃を与えるべきですが」
言いたい事を察して貰えて大変助かる、とは言え解決案が浮かばないのも事実なんだよな。アーレムの技術は今の『ワールドウィンド』どころか世界的に見ても特異な物だ、都市長が言っていたように常識を無視したというか破壊した物である。当然、そんな技術の発表はクラフターと関わりが深いこの都市の住民にはそこそこの劇物になる。
となると、このアリーナの別の役割についてを先に言うべきか?
「そう言えば、この建物に例の家庭用魔力炉を設置すると?」
「タタラはん、その家庭用魔力炉ってなんね?」
以前直接見ていた法務長の問い掛けに対して、初めて知る商会長は疑問を持っている。確かに、説明する必要は有るか。
「はい、法務長は以前に見ましたけど商会長は初めてでしたね。俺が作った小型の魔力炉で、ソレを設置してこの施設をある程度独立させようかと思ってます」
「小型の魔力炉……家庭用って話んね、耐えられん?」
「家庭用と言うのも大きさが小型だから、ですね。魔力量の話なら1000軒の家庭が消費する1日の分を保有できますし、一分間にその半分の魔力量を回復します」
「家庭用とは?」
商会長に説明するとまるで宇宙を背負ったかの様な表情になる、まぁ俺も自分で作ってなければ同じ顔してたと思うけど。
「この魔力炉により独立したこのアリーナは、そのまま災害時の避難所としても活用できます。アーレム発表前に、この事を宣伝すれば施設そのものの受け入れは出来るかなって」
俺の言葉に二人の長は顎に手を当てて考える、ない頭を捻って出した案なのでこの二人にはどう取られるか。
「……内政長にも許可が必要ですが、都民の避難場所として設定するのは私も賛成ですな」
「ボクもなんね、前の仮設住宅設立前に此処ん避難してもらうんはいい事思うよ」
二人からはいい感触の反応が返ってくる、コレで一先ずは安心かな。
「次に、アーレムの発表に移るんですが……」
「そん為に専門家呼んどんよ!」
待ってましたと声が大きくなる商会長に反応して、少し身なりの良い人が進み出てくる。貴族っぽいけど、お金は無さそうな気配がする。もしかして、コレが芸術家ってやつの雰囲気なのかもしれない。
「お初にお目にかかります、この度このイベントの演出を任せられました劇団ハカンサスの座長を務めているハルマート・ハカンサスでございます」
「初めまして、タタラ・ジュロンです」
まだ一学生でしか無いので名乗れるのはこれくらいだったりする、まぁこのアリーナを作ったってのは言うべきかもわからないが。しかし、見た覚えは無いが……劇団ハカンサスは過去作に居たような?
「タタラはん、どうしたん?」
「ああ、いえ……劇団ハカンサスって聞いた覚えがあるような気がして。古いそこそこ歴史がある劇団だったような?」
「知っているのですか!?」
商会長の質問に答えた所、劇団長さんが超反応した。いや、そんな反応する?
「ええと……微かに記憶に引っ掛かるようなレベルですが。歌姫の……リート・ラヴァって人が居た劇団ですよね?」
俺の言葉に劇団長さんが大きく目を開く、商会長はよく分かってない様子だが法務長は知っているのか劇団長さんに目を向けている。
「そんな……なんでそんな事を?」
「なんというか、偶然ですかね」
リート・ラヴァは過去作に出て来る主要キャラの一人で、攻略対象でもある女性キャラだ。少しずつ思い出して来たが、この劇団長さんの率いる劇団ハカンサスは過去作の主人公が立ち上げた劇団だ。まぁ、最初はサーカス団として立ち上げたのだが。
サブヒロインのリートを筆頭に、メインヒロインの猛獣使いの少女やピエロを演じる親友にナイフ投げが得意な元暗殺者などを集めて作られた劇団だった。ゲームとしては劇団運営シミュレーションで、その無駄に凝った作りでお出しされたゲーム難易度は劇団ハカンサスの名前を捩った劇団ハサンデスを生み出しヒロイン達が娼館に買われる事多数。何度も心が折られ、歴戦のファンからすらもクソゲー扱いを受けた逸品である。
かく言う俺も前世で遊んだがメインストーリーを進める条件を満たせずにゲームオーバーした事多数、ランダムイベントの理不尽で劇団が潰れ幾度も発狂した事がある。後々にパラメーターがおかしかったと難易度を下げるパッチが配られたが、そうでなければクリア出来た自信が無い。
うん、忘れてたんじゃなくて記憶を封印してた類いだコレ。
さて、此処で話題を上げたリート・ラヴァと言う女性だが実はこの国に取ってはそこそこ重要な立ち位置にいたりする。正しくはこの劇団ハカンサスそのものが重要ではあるのだが。
皇家に輿入れした人が居るとかそんな訳では無いのだが、リート・ラヴァが歌った唄がとある土地に封じられていた魔神を封印していた為に間接的にこの国の存亡に繋がっていた。
この魔神……と言うかその力と肉体が封じられて無力な精神体として自由だった自意識が、零細劇団を運営する主人公の姿に興味を持ち触れ合いやがて惚れてしまい、リート・ラヴァの歌と猛獣使いの少女に宿っていた異能の力にて肉体と自意識を切り分けて魔神の肉体を滅ぼす切っ掛けを作った。
この時に肉体を滅ぼしたのが何を隠そう我が国の建国王こと前皇帝陛下とその一行である。因みに、リート達が娼館に買われるバッドエンドだと魔神の封印が解けて国土の1/3が焼け野原になってしまうのだとビジュアルファンブックに書いてあった……いったいどれだけのハサンデスがこの国を焦土にする事になったのか。
そして、ビジュアルファンブックの言葉が正しいのならこの世界の正史はこの魔神の精神体も含めたハーレムエンドだった筈。つまり、目の前に居る劇団長は過去作主人公の子孫の一人である。
尤も、零細劇団を盛り立てた才覚は無く今では過去の栄光を持つだけの劇団になってしまっている様子だが。何故サーカス団じゃなくなった事は特に言及されてなかったな。
「こ、この劇団の歴史を知ってる人が居るなんて」
まぁ、原作知識というか前世の記憶なのだが。しかし、偉く感動されてしまっているな。因みに、リート・ラヴァの名前は皇国になる前の王国時代の事ではあるが、魔神討伐という偉業に連なる為にそこそこ詳しい歴史書には載ってたりする。ただ、彼女の歌は音楽史に置いても芸術の神に愛された才能として十指の内に入るとして名前が載ってたりする。名前ばかりが一人歩きして、所属していた劇団ハカンサスの事は全く有名では無い辺りが悲哀を感じる。
因みに、歌が得意な為に胸筋が発達していて胸に脂肪が付かなかった為に貧乳である。巨乳担当はナイフ投げ担当の元暗殺者だ、そりゃもう投げる度にバルンバルン揺れていたらしい。
「まぁ、それは別にいいんですけど……演出について良いですか?」
「はい、任せてください!」
気合十分な様子だが、はたして大丈夫だろうか?
過去作の描写的に、主人公って演出の才能は殆ど無くて他人の才能を見極める目をしていたからこそ何とかなったみたいなテキストだったんだけど。
そんな不安を持ちながら、少しずつ話を始める。のだが、不安は的中した。
いやまぁ、派手な告知は分かるのだが屋内での花火とかは違うと思う。それと、劇団員の活躍を入れたいのだろうけど今回は演劇ではなくアーレムの発表なので使わないと話にならないのだ。
コレには商会長も苦笑いである、売れない理由を見たって考えてそうだ。ただ、俺は少しだけこの劇団長さん個人の力を借りたい部分ができたりする。
「その、すみませんが劇団の宣伝は今回やめて貰えると……」
「え、あ……はい」
途中で割り込むと劇団長さんは肩を落としてしまう、目立つ演出は悪くないのだがTPOや資金問題を弁えない派手さ特化では意味がない。屋内で花火飛ばせば観客の火傷やら立ち込める煙による被害が起きる可能性も有るのだ、この辺原作主人公と同じような間違いをしてるので血筋なのだろうな。
「ただ、劇団長さんには協力して欲しい事があります」
「え、俺いや私にですか?」
「ええ、貴方にです」
この人、声が良いのだ。喋り方の抑揚も上手く、とても聴き取りやすい。
「貴方に求めるのはマイクパフォーマンス、言葉でその場にいる人達を魅了するその力を借りたいんです」
俺の言葉に訝しむ劇団長さんだが、商会長は成る程と得心したように頷いている。
「次期工匠長、マイクパフォーマンスとは?」
「そうですね……商会長、昨日の録音って持ってますか?」
「勿論!」
法務長の疑問に対して、俺は昨日の録音の提出を商会長に頼む。嬉々として答えた商会長は昨日の録音結晶……ではなく録画結晶を取り出して来た。そっちを持ってるのは予想外だ。
俺達の会話を聞いていた当主代行と、気になったのか成金さんどころか全員が集まってくる。そして再生される昨日のマイクパフォーマンス、自分の声を録音で聞かされると違和感が凄い。
会場を巻き込み熱狂を誘うように頑張ったのは見えるが、やはり素人仕事で粗が目立つ。観客席のノリに助けられてるな。
再生が終わり、全員が何故か俺を注視してくる。
「と、こんな感じに会場を巻き込んだ熱気を生み出して欲しいんですよ」
「無理だが?」
劇団長さんは真顔で否定してくる。いや、プロなら出来ると思うけど。
「大丈夫ですって、素人の俺が何とかやれるんですから。プロの劇団関係者なら余裕ですよ」
「いや、無理だが?」
2度目の否定である。
「タタラ、この扇動って何か元があるのかしら?」
まさかの扇動扱い、都市長には少し言葉を選んでほしいところだ。
「いえ、元と言えるようなのは特に。その場のノリで周囲の人達を巻き込む事を意識したくらいですね」
「成る程、天性の煽動家……」
成金さん、その扱いはどうなんですかね?
「マスターはゴーレムに対して演説も行っていましたよね、クラフトに次ぐ得意分野なのでは?」
「いや、アレは元ネタ有るからな」
ダリアの言葉に答える、当主代行とダリアだけなら前世関連と言えるのだが生憎と他にも人が居るので控える。ただ、何となく二人は察してくれたように思う。
「あら、演説なんてしてたの?」
「はい、此方です」
「なんでデータがあるの!?」
興味を持った都市長に対してダリアが自然に記録結晶を取り出す、なんで撮ってるんだお前。
そして結晶から流れてくる先程アリーナ前で行った演説、流石に元ネタが良いだけ有って完成度が無駄に高い。
聞いていた都市長を含めた大人達は段々と真剣な顔に変化していく。うん、責任のある大人達には刺さるよねコレ。
「中々に、良い演説をするではないかジュロン」
「いえ、コレは元ネタ有るので」
「ほう、このように未来を守る大人を激励する者が居たのですが」
頼もしそうに笑って話しかけてくるカラムスさんに答えれば、法務長が引用と知って興味を抱いてくる。やばい、
「タタラはん、昨日ん演説より此方やってほしんね……」
「昨日のは昨日ので悪ノリの結果ですので」
「これも悪ノリと言うかね?」
「悪ノリです」
商会長と当主代行にも答える……話が進まない。
「……そろそろ、話を進めるべきでは?」
そんな状況を見兼ねたのか外交長が諌めてくれる、いや本当助かります。
「兎角、俺は素人仕事にしかならないので何とか場の空気にノセるのが限界です。劇作家として実際に仕事をする人達とは経験値の差が有り過ぎて、実際の現場で上手く出来るとは言えません。それなら、プロの人達に任せる方がいいかなと」
「何度も言いますけど、無理だが?」
「劇団長さんはもう少し頑張って?」
仕事を任せようとしても劇団長さんが拒否してくる、折角の仕事なのだから頑張ってほしい。
「で、でしたらタタラ・ジュロンさんが考える演出を一通り見せてください。それできっと劇団の必要の有無を測れますから!」
「あっ、はい」
なんと言うか、過去作主人公とヒロインの駄目な所を合わせたような性質だな。自信の無さが猛獣使いの、相手にぶん投げるところが主人公の上手くいかなかったところまんまだ。
さて、やれと押し付けられたなら一先ず頭の中に有るものを出力しようか。先ずは成金さん、法務長、商会長のアーレムをバトルフィールドの中央に背中を向け合う形で並ばせる。そして場内の照明を落とし、3台のスポットライトを司会者へ向けて一斉に点灯……となった所で問題が発生した。
スポットライトがイメージ通りの場所と台数が向かない、思い返すとスポットライトとカメラに番号を振ってないので改めて1台1台に番号を振り、『暗視』と『念話』の術式を刻んだ魔導具をスタッフ分作り渡す。改めて『念話』で指示を出すと今度は上手くいった。尚、手軽に作った魔導具を見て都市長とダリアの雰囲気が変わるが今は勘弁して欲しい。
リハーサルなので軽く適当な台詞を言ってもらい、1分半程の時間でフィールド上のアーレムを手で示してもらう。それに合わせて3箇所のライトで順次照らしアーレムを暗闇の中から浮かび上がらせる。
光を受けてその姿を見せたアーレムに其々ポーズを取ってもらう。成金さんは両手で大剣を眼前に掲げる礼式で、商会長は片手で眼前に長剣を掲げる騎士の礼。が、商会長は得物が無いので上手くポーズを取れなかった。
取り急ぎ武器を作る事になり、商会長の希望で槍というか
三体の紹介をしていざ向かい合い戦う様を見せようとしたタイミングで独特な風切り音が響く、周囲を確認するが正体は直ぐに見付からず……いや演出組が早々に照明を当ててしまってこの乱入が演出なのが察せられてしまう様な状況になる。
とは言え、カメラワークとして相手を一旦追い越した後に改めて焦点を当てるというのは口で説明しても分かりづらい。俺の言わんとしている事が分からない面々は何か問題かと疑問を持ってる様子……ここは実践するしかないだろう。
作業が終わっているゴーレムを確認すればカメラとスポットライトの台数分は空きが出ていたのでその分を呼び寄せて、カメラとスポットライトに着かせる。そして俺のイメージを受けたゴーレム達は、場内にサーチライトよろしく照明を巡らせてダリアの操るVTOL機を一旦追い越した後に戻って焦点を当てる。この時にカメラのフォーカスを操作してボヤケた像からハッキリと写すというそれはもう浪漫溢れる演出をしてくれて、ソレを天井から下げている大型モニターに映した場面はそりゃもう盛り上がった。
この追い越し演出は相手のスピード感を、フォーカスの操作は正体不明の不気味さを演出するのに適している。
そして、吊り下げられたボックスをフィールドに降ろしてからVTOL機は去っていく。集中するスポットライトの光の中で、ボックスに仕込んでいた『炸裂』の術式を遠隔で機動。下から上へと爆竹宜しく弾けた後、ボックスの壁が倒れて鎮座している当主代行の『大紅蓮』が姿を見せる。
「えと、此処からは四人で殺陣をやって欲しいんですが……」
やりたい事を詰め込んだ俺の演出を前に、ダリアが滅茶苦茶キラキラした目をしている。うん、よくあるロボアニメ演出の詰め合わせだけどダリアならこの良さが分かってくれると信じてた。
と、法務長が俺の肩を勢いよく掴んで来た。力が入ってて痛い。
「工匠長、何故虎熊家の方をアレだけ贔屓するのですかな?」
まるで地の底から響いてくるかのような低音だった、商会長からも言われたけれどやっぱり空挺は卑怯な程に格好良いか。
「その、店主さん。流石に我々の印象が薄くなってしいます」
「ほうね、もっと言ってん。タタラはんはもうちょう皆の活躍をバランス良くしてね」
流石に三人に言われると辛いものが有る、贔屓してると言うか乱入と言えば空挺ってのがロボ物のセオリーと言えるので踏襲しているだけなのだ。コレだけ文句が出てしまったのなら空挺はやはり諦めるかな。
「国賓とは言えこの場で主役としてしまったら、帝国との国交が陽出國の優位に取られてしまうわ。あくまでも対等である事を示す必要が有るから、もう少しバランスを取るのは必須ね」
都市長からも注文が入り、悩む。どうしようか、ネタは有るのだがこの場で使える物があまり無い。フィールドそのものに手を加えて対応するにしても3時間程潰してしまう。
「でしたら、私のアーレムも参加するのは如何でしょうか?」
「却下、お前のアーレムとかどう考えても顰蹙買うだろ」
二重構造で空中機動が出来るとか、他の面々に比べて技術がぶっ飛び過ぎてる。下手したら法務長がみっともないお願いをしてきて精神にダメージを入れてきかねない。
ダリアのアーレムが気になるのか商会長達が視線を向けて来る、だがダリアには絶対に出すなと念押しする。VTOL機とは違った空輸ハンガーとか絶対に駄目だろ。
思い付く限りに前世のロボット物の発進シーンを考えるが、どうしても専用のギミックが必要になるものばかりが浮かぶ。小型のプールを割って現れたり、三機の飛行機が空中で合体したり、カタパルトから射出されたり、地面からレールが伸びて高速で上がって来たり、戦艦の中央が開いて腕組みしながらゆっくり現れたり、専用のトレーラーが荷台を持ち上げたり……フィールドに手を加える必要が有るものを却下しても、どうやっても登場シーンで印象付けするのが難しい。
「……空輸をやめないと印象でどうしても負けるかな?」
「タタラ、さっきっから魔導具でシチュエーションを見せてるせいで周囲が殺気立ってる事に気付きなさい?」
都市長に言われて振り返ると、商会長と法務長そして成金さんの俺を見る目が血走っていた。
見なかった事にしたいが、どうしようかなこれ。
「……お目汚し失礼しました」
『それで済むわけないだろう!?』
三人に詰め寄られる、駄目だ勝てる気がしない。
「再現したいとは俺も思っていますけど、今回は間に合わせられないと言うか」
「一日掛からずこの施設を作っておいて!?」
「少なくともこの会場を作り直さなきゃいけないってことは理解して下さいね?」
魔石を混ぜたコンクリートで作った礎にも手を加えなきゃいけなくなる上に、周囲に粉塵を撒かない様に気を付けなきゃいけないこともあって出来なくは無いが非常に面倒くさい。
俺の言葉を聞いた三人は納得しきってはいないが、多少は理解した表情を浮かべている。まぁ、勢いよくツッコまれたらやれると返してしまいそうなので踏みとどまってくれたなら助かる。ただ、勿体ないというか悲しそうな表情をされるのは心が痛い。
「別の所でテーマを決めたフィールド入りを行うアリーナでも作れればいいかも知れませんね」
「それね!」
「そんな土地は無いから諦めなさい」
俺の言葉に反応する商会長に対して、冷静冷徹に不可能を叩き付ける都市長。慈悲も心遣いも無いな。
「タタラ、印象付ける為に空輸というか空挺というか……あの演出を入れること自体は私も賛成なのよ」
意外と言うか、都市長は方針に異を唱える。いや、都市長はバランスを取ることが重要と言った。それに対してロボアニメの発進シーンを示した訳だしな……それなら、発進シーンを別撮りにしてしまうか?
「あの、少し思いついたんですが」
俺の提案に耳を傾ける三人、リフトアップ系とカタパルトによる射出の演出を別撮りにして別方向から其々フィールドに飛び乗る格好で登場する方法だ。発進シーン自体は天井から吊り下げているモニターに映す形で観客に見せるようにするつもりで、この時の発進シーンの動画は販促にも使えると俺は見てる。
「──と、言うのはどうでしょうか?」
「悪くは無いですな、むしろいい」
代表して賛成を示してくれたのは法務長、他の二人も乗り気であり大変助かる。
「それじゃ、小道具を作りますね。御三方はどの発進シーンが良いですか?」
聞き方が悪かったので三人が一気に要望を伝えて来て、対応にてんやわんやしてしまう。三人にはじゃんけんで順番を決めて貰い、其々の発進シーンを別の部屋で撮影して行く。
映像に問題は無いかを確認し、大型モニターで映して画像の粗さを修正して動画は完成した。その後は発進シーンに合わせてアーレムを射出、フィールドに着地する練習に入る。アーレムの操作は成金さんが一番上手く、法務長と商会長が同じくらいだ。一発目から着地を成功させた成金さんに
「もしかしたら私は、アーレム操作の天才だったりします?」
「否定は出来ないですね、俺もこんなに上手く操作出来ませんし」
自惚れとも取れる成金さんの発言に、俺は肯定的な意見を返す。お世辞でも何でも無く成金さんの操作技術は群を抜いている、下手したら機巧聖女の特性を持ってるダリアにすら並びかねない程だ。
俺の言葉に対して成金さんは照れてしまったようだ、発言は大言だったが内面は謙虚なままで好感が持てる。
しかし、こうして見てるとアーレムにスラスターを装備させたくなるな。ガスの噴射と共に姿勢を制御して着地するのは格好良いのだ。
そのまま練習を見ていて、少し後悔する。法務長のアーレムにマントを着ければ良かったな。
「ふむ、次期工匠長。私のアーレムに何か?」
「いえ、飛んでる姿を見ていてマントが有れば映えたなって」
「成る程……」
俺の言葉に少し考えこむ法務長、徐ろにハンカチを取り出してアーレムの左腕を隠すように結ぶ。その後に射出させれば空中でマントがはためいて非常に格好良い。シンプルな騎士型であるからこそ出来る追加装備だろう、商会長の『玄武』では肩アーマーが邪魔だし成金さんのアーレムではゴツすぎる。
「ふむ……次期工匠長、マントの作成と画像の撮り直しをよろしいかな?」
「分かりました」
「素材にはあのハンカチを。色を赤に染め直して我が家の家紋を入れて欲しいのですが」
「それはいいんですけど……法務長の家紋を知らないんですが」
俺の言葉を聞いた法務長は額に手を当てる、完全に失念してたなコレ。流石にいくつも有る貴族家の家紋までは覚えていない、都市長の物ですら俺は知らないのだ。
「すっかり教えている物だと思い込んでいましたな……此方になります」
そう反省しながらインベントリから取り出したのは銀の懐中時計だった、蓋には正面から見た
あれ、コレって『深く深い闇の先で』のサブイベントに有った気がする……確か物語開始の何年か前に市民を守って散った親と弟を持つ貴族がこの紋章を掲げてたような?
内心、引き攣りそうになる表情筋を無理矢理抑え込みつつ紋章を記憶する。転生してからも褪せない魂に記録されているであろう前世知識だが、流石に原作未登場のキャラ迄はカバー出来てる筈も無い。とは言え、サブキャラの親族と関わってるとかまでは予想外に過ぎた。
サブイベントは話としてはポピュラーな、墓前に添える物を用意したいと言った感じのお使いイベントだ。
ある日身なりの立派な男性が訪ねて来て家紋を彫った剣と盾を注文されるなんてありふれた依頼を受けるスミスだが、下半身直結脳な此奴が身分と金さらには見た目も良い男を前にマトモに取り合う筈も無い。その後、スミスの為人を調べた貴族が娘に代理となって貰い依頼を出して受けて貰うなんてそんな始まりのイベントだ。
この時の娘がこのイベント限定で顔を出す儚げな美少女で、スミスは依頼を受けてあわよくば一発致せないかとそんな下衆な思考で受ける。まぁ、条件を満たすとヤれはするのだが……その場合はイベントを挟んだ後にバッドエンド。俺は普通にプレイする限りはこの娘と致すには至らず、何なら親に気に入られて常連になって貰うグッドエンドばかりを引いて攻略サイトを頼った程だ。
いや、大好きだった祖父と叔父の墓前で泣きながら犯されるとか普通に胸糞過ぎてバッドエンドで喝采したな。本当、選択肢次第とは言え胸糞悪い主人公だわ。適度に誠実で適度に糞な選択肢を選ばないと辿り着けないのもアレなところだった。
そんな思考を脳の片隅でしつつ、記憶した法務長の家紋を赤く染め直したハンカチにミスリルの銀糸で縫い付けていく。『裁縫』はスキルを持っていないのだが、流石の『クラフト』スキルがカバー出来る範囲だ。俺もスキルを取ってレベルを上げれば更に複雑で難しい術式を縫えるようになるかもしれない、卒業後にでも取ってみるのもいいかもな。
「……タタラ、あんたそれ」
「すみません都市長、今ちょっと集中してるので後でお願いします」
途中で話し掛けられるが、作業中はやめて欲しい。目の前の物事に集中するのはクラフターの基本、ソレを教えてくれたのは都市長なのだし。
紋章を縫い終え、縁にされていた飾り縫いもミスリル銀糸で再現した所で次はマントを付ける為の部分を作る。アーレムに直接手を加えるのではなく、重量バランスを崩さない為に最軽量の素材であるミスリルを使い左肩に装着させる。一応、単純なアクセサリーなのでコレを着用したままだと左腕が上手く使えない。戦闘の時は右手で掴んで外して貰う必要が有るのだ。
しかし、マントを脱ぐのはロマンが有る。アクセサリーとする事で逆に全力を封じた手加減状態に出来て、実力を認めた際にパージするのは演出として格好良い。そんな事を説明したら法務長は凄い乗り気と言うか気に入ってくれた。
後にこのアクセサリーは『リミッターマント』として一定の人気を誇る定番の装備の一つになるのは完全な余談だ。
撮り直した発進シーンの動画に法務長は大変満足してくれたし、かなり目立つのでその点でも納得してくれた。
「タタラはん、法務長んそこまでサービスすんね?」
と、一仕事終えた所で今度は商会長から恨み節が。そうだな、こうなったら此方も取り直そうか。
「それなら、俺は商会長に二つの選択肢を出します」
「ほう、豪華なんね?」
一つは、大型の盾にも似たボードの上に乗る方法。もう一つが遠距離から強襲を掛ける為の追加アーマーに似たものを装備させる方法。まぁ、着陸する際に軽くガス噴射をして減速するだけの代物なのだが。俺の『玄武』を元にして居るので背中と腰に追加装備を可能にするハードポイントが存在する商会長のアーレムは、本体に大きな手を加えなくても追加装備を可能にしている。圧縮したガスを噴射して減速するスラスターを腰に、同じく圧縮したガスを使う偏向ノズル型のブースターを背中に付ける。操作の難易度は上がったが、とても目立つ物だ。そのまま発進シーンを撮り直して、商会長には着陸の練習をして貰う。
こうなると、成金さんのも何かしたくなるな。
「あの、練習が終わる所で申し訳ないんですけど」
「え、私もですか……本体のデザインが気に入ってるので追加の装備とかは要らないんですが」
成金さんはどうもアーレムはアーレムで使いたいらしい、そうなると一つやって欲しい挙動が有るのだ。
「空中で高難易度のアクロバット、やってみて貰えませんか?」
「ええ、聞きましょう」
操作難易度の話になるとやる気を出してくれる、意外に分かりやすいな。
俺が提示するのは愛用の武器である大剣を使った空中サーフィンだ、その為に足裏に電磁石を用意して、魔力の作用によりON/OFFを切り替えられるようにしたい。そう伝えると成金さんは乗り気で応えてくれて、早速アーレムをプチ改造する。
その後、射出から空中の姿勢制御さらには空中で離れ背中に大剣をマウントしつつ三点着地と言う無駄に難しい連続挙動をお願いしたところ、流石の成金さんも苦戦した。本番迄にはモノにするとやる気に満ちた表情で言ってくれたが、探索とかはいいのだろうか?
心配になりつつも、発進シーンを撮り直す。コレで三者三様に個性の有る登場が可能になったと思う。
コレで一通り仕事が終わったと息を吐いた所で、背後から肩を掴まれる。物凄い握力を発揮する相手を確認すれば、都市長が額に血管を浮かせながら笑っていた。滅茶苦茶怖い。
「タタラ、座りなさい」
「はい」
ド低音で言われた言葉に0.1秒と掛けずに正座する。そのまま一時間のお説教を受ける中、俺の身体は縮こまるばかりだった。
そうして劇団員の人達に案内放送の指導や実況についてレクチャーしつつ、アリーナでの仕事が終える。外は大分暗くなってしまっていて、時間を忘れて全員がイベントの成功に全力だった事が伺える。
「昼飯も忘れてこんな時間までアーレムに掛り切りなんて……」
「そう言う割には、満足そうに見えるが?」
「そんなお義父さんも楽しんでたでしょう?」
「うむ、全く否定出来ぬな!」
楽しそうに答えた当主代行の言葉に、二人揃って声を上げて笑ってしまった。一歩遅れて付いてくるダリアからは呆れた雰囲気が伝わってくる。明日もまた当主代行とダリアはアリーナに顔出しして欲しいと頼まれたが、俺はフリーだったりする。さて、明日はどうしようかな。
あまりの空腹に耐えきれず、帰り掛けにポテトコロッケを買って食い歩く。連日行儀が悪い事だが、男子が二人揃って腹を空かせて居たならばこうなるのも自然の摂理だ。賄賂としてダリアにも買って渡したら、空腹を自覚したのか小さく齧り付いている。
丁寧に潰された馬鈴薯の中にバターとチーズが混ぜられているのだろう、少しクリーミーな舌触りで濃厚な牛乳のコクを与えられたタネが粗いパン粉を使われた歯ごたえの良い衣の奥から顔を出し、口いっぱいに旨味を広げる。揚げたてで熱く、口の中から熱を逃がす為にハフハフと言った具合に空気を送っていると当主代行も同じ挙動をしていた。
口の中にコロッケが有るので噴き出す訳にも行かず、それは当主代行も同じようで二人揃って飲み込むのに苦労した。
楽しい気持ちで家に着く、俺と当主代行は揃って帰宅の声を上げた。
『ただいま!』
「お帰りなのじゃ、二人とも」
その声に、感情が急速に冷える。玄関の先、リビングの入り口にて佇む一人の影。その姿を認めた瞬間、ダリアが俺の前に立って殺気を放つ。
あの日、喧嘩別れした仲間の一人……虎熊四葩がそこに居た。
オマケ アーレム登場シーン没案
天井のモニターから、気迫のこもった3人の発進シーンが3分割されて映される。直後、アリーナに3色の煙が立ち昇る。
一瞬で晴れた煙の後には三体のアーレムが背中合わせに並び立って居る、そして──
『帝国守護団、参上!!』
思い思いに構えを取り、3人の声が重なって名乗りを上げる。
後に、チームバトルにて様々な者達が真似をするタタラの前世知識によりこの世へ降臨した伝説の名乗りである。
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない