※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント継続中


夢ロマン、タタラボス殺地獄めぐり〜血煙行脚ぶらり首〜
⇧最初に考えてたサブタイトル


ボス戦地獄めぐり

 あのクソボスに挑む上で問題は味方の火力だ、俺は前回の時より上がっているし挑む事に問題は無い。

 

「一華、今のレベルはどうだ?」

「今は47でござる、ステータスは物理が2で魔法関係と速力が5づつ上がっているでござるね」

 

 いや、強すぎないか?

 単純に考えると一華の最後に見たステータスから計算して殆どが上限に届いてる事になる、装備とスキルを考えるとダリアがもう一人居ると考えて遜色の無い状況だ。

 

「コレならこのボス相手でも問題ないか」

「一応、『鍔目返し』のレベルも最大で止めてるでござる」

「そうか、『早熟』の影響で成長が早いんだな」

 

 元のレベルは分からないが、『鍔目返しⅣ』による4回攻撃と『早熟Ⅲ』による経験値60%上昇による相乗効果で単純に240%の経験値が入るならそりゃ簡単に上限に届くか。コレ、四葩とタチアももう一度クソボス倒したら存在昇華させて51階層から先の敵を倒し続けた方が良いかもな。経験値増加と使用回数増加で攻撃形スキルのレベルアップが早いだろうし。

 

「タチア、『鍔目返し』のレベルは?」

「はい、何とか5まで上げれたので7割にダメージを戻せています」

「成る程、なら行けるか」

「む、妾には聞かぬのか?」

「四葩の場合、半減してようが関係なく殺せるだろ?」

 

 スキルの確認をする中、状態を確認されない事に四葩が不満を零す。が、四葩は元々俺達の中で最強のアタッカーだ。例え攻撃力が半減してようが技も合わせて今の一華と遜色の無いダメージを叩き出せるので心配してない。と言うか、技込みだと三連撃になるのだから大概の敵が死ぬ。

 そんな信頼が察せてしまったのか、四葩が嬉しいような何ともいえない表情をする。口元が笑いそうになるのを堪えているらしい。

 

「そ、それならタタラはどうじゃ?」

「前に挑んだ時よりステータスは上だからな、問題は無い」

 

 問題は既に存在昇華を可能としているが、今やるとステータスが物凄く落ちる事か。今の六割だと一般的な中堅探索者くらいのステータスしか残らないんだよな。一応、今回の戦闘に合わせて『突撃Ⅰ』を取得した。攻撃力が不足気味の俺としては、魔力を全消費して高火力を出せる『バーストエッジ』の方が欲しいので『騎士剣術』スキルを取りたいのだが基礎の『剣術』スキルを取得出来ない故に発展スキルも取れない。魔法を覚えるより魔法と同じ効果の魔導具を作った方が良い……あれ、俺って魔力の持ち腐れかこれ?

 嫌な事実は脇に置いて、一つ息を吸う。最終確認の為に全員を見渡す。

 

「いつか以来の再戦だが、二人ともいけるか?」

『もちろん』

 

 四葩とタチアは迷いなくそう答える、あの時よりも強くなってるからかその目には自信が見えた。

 

「一華、一緒に来てくれるか?」

「当然でござるよ、ご主人」

 

 初めて挑むクソボスに対して不安を確認しようとしたら、揺るぎない自信がその目から伝わってくる。うん、大丈夫そうだな。

 

「じゃあ、行こう」

「待て、タタラ」

 

 振り返り、扉を押して開こうとした時に四葩から待ったが掛かる。向き直ると真剣な表情で俺を見つつ口を開く。

 

「先程までに集まった能力上昇アイテム、お主に使うべきじゃ」

 

 その言葉に驚く、此処で使うと次にタチアへ使うつもりだった分がほぼ消えてしまう。

 

「いや、それをすると体力と魔力それに技力の三つが殆ど無くなる。タチアがこの後に存在昇華する事を考えると、体力は最大まで上げて打たれ強さを確保する方がいい」

 

 特に前で壁役をしてくれるタチアは体力の成長が必須だ、今が1しか上がってない事が異常なくらいで多分存在昇華の後に一気に伸びるようになる。タチアはどうも初期値が高く成長伸びにくいみたいことから、おそらく元々何かしらの運命(シナリオ)を与えられている。おそらく世界法則(システム)はタチアの存在昇華を予期していないだろうから、運命(シナリオ)から脱却する為にも存在昇華は必要だ。

 問題はタチアが存在昇華をすると初期ステータスよりも弱くなる事だ、防御関係はスキル込みで何とかトントンと言った具合だが体力が明確に落ちる。それを考えるとタチアは限界まで強化したい。

 

「タタラ殿、それなら私の存在昇華は学生運動の後で大丈夫です」

 

 俺達の様子を見ていたタチアからそう言われる、戸惑いながらタチアを見れば、何処か強い意思が見える目を俺に向けていた。

 

「だがタチア」

「タタラ殿は何かの根拠から私に存在昇華を求めているようですが大丈夫です、私には貴方が居るのだから」

 

 タチアのそれは根拠の無い信頼だと俺は思う、しかし四葩と一華は頷いている。なんだこの状況?

 

「……分かった、だが暫くはステータスアップアイテムの為に何度も潜る事になるから覚悟しろよ」

「ええ、望むところです!」

 

 渋々了承すればタチアは我が事のように笑って力強く答える、俺は改めて『ムゥ(たみ)』と『死霊王』から荒稼ぎしたステータスアップアイテムを確認する。

 

 体力 134

 魔力 83

 技力 99

 物攻 286

 物防 250

 魔攻 150

 魔防 192

 速力 258

 運  477

 移動 411

 

 元々持っていた分は兎も角、一度は枯渇した魔防が200近く迄集まってるのは流石に笑いそうになる。どんだけ運が偏ってるんだ。続いて自分のステータスを呼び出す。

 

 レベル  70/70

 体力    585(720)

 魔力   348(440)+100

 技力   348(440)+9

 物理攻撃 117(160)+50

 物理防御 117(160)+21

 魔法攻撃 117(160)+50

 魔法防御 117(160)+21

 速力   117(160)+50

 運    100(100)

 移動力  20 (99)+7

 

 今の俺は体力と魔力が最大には届かないか、最大値で成長をしていても上限を叩けないのは流石に辛いな。上げられるだけステータスを上げて改めて準備を終える。

 

「……あんまり釈然としないが、コレで準備は完了だな」

「なに、強くなった分はここのボスを早期に倒す事で取り返せるじゃろう。慣れれば単なる通過点に過ぎなくなるのではないか?」

 

 内心を吐露する俺に明るい声音でそう言ってくる四葩、その言葉に思わず苦笑いが浮かぶ。

 

「それは楽観が過ぎるだろ」

「そうかのう、妾達ならば出来ると確信してるのじゃがな」

「そうですよ、以前言ったように私達は最高のパーティです。出来ないはずが有りません」

 

 四葩とタチアの言葉に対して、エテルが欠けている事は追及しない。今はそう言う場面では無いし、きっと二人は四人が再びパーティを組めると信じてる。俺がエテルを許せるか、そしてエテルの心が成長をするかも分からない。しかし、きっと信じるべきなのだろう。俺も愛した相手が成長する事を心の何処かで望んでいる、ならば今は生き残る事を考えよう。

 

「じゃあ、改めて……行こう」

 

 俺の言葉に頷いた面々を見て、改めて扉へ振り返り開く。扉を開いた事に合わせて室内に灯りが点く。部屋の中央には以前と同じく鎮座するクソボス、そして部屋の四隅に現象から変じて現れる四大属性の『精霊王』。ただ、前回と違う事が有るとすれば──

 

『今回は転移無しか。一華は風に、タチアは土へ向かってくれ!』

『了解でござる!』

『了解!』

 

 属性変換を行える魔導具を付けていない一華を『狐火』のエンチャントが有効な風へと向かわせて、飛べるタチアを土へと向かわせる。指示を出さなかった四葩は真っ先に炎へと向かっていく、どうやら『爆発』を食らった俺の姿が今でも頭に残っているから任せたくないのだろう。俺自身はもう大丈夫なのだが、一度抱いた恐怖は中々乗り越えられないのだろう。此処は任せるのが正しい。

 俺は残った水へと向かう、『突撃』を使用して火力の上昇を狙う。扉からの距離は50m、打点が50上がるのは素直に大きい。探索するならコレからも使っていくべきか……いや、背面攻撃の方が優先度上かもな。思考は一瞬、俺の移動力はコマが抜けたのかと錯覚する速度で水の『精霊王』前に立ち勢いのまま土属性に切り替えたハンマーを叩き付ける。

 

 武器命中20+290−30=280。命中判定。

 土属性攻撃2×(315+『突撃Ⅰ』50+移動距離5×10)−40=790。

 

 ハンマーの直撃を受けた水の『精霊王』は砕け散る、流石に『突撃』はやり過ぎたかも知れないがスキルに経験値が必要なので仕方ないと心の中で言い訳する。

 俺に続いて撃破したのはタチアだ、ランクが上がった『突撃』は多少威力を落とした『鍔目返し』分のダメージを補って余りあるらしく問題なく土の『精霊王』を消し飛ばしている。

 その次は一華が風の『精霊王』を細切れにする。レベルアップで増えたスロットに『物理攻撃上昇Ⅱ』を入れたらしく、攻撃力を上昇させている上に『鍔目返しⅤ』による5連撃が叩き込まれれば弱体化されている『精霊王』ではひとたまりもないだろう。ステータス差の暴力と言わんばかりの活躍である。

 最後に四葩が炎の『精霊王』を斬滅する。久し振りに見たが、やはり剣の冴えに於いて四葩は桁違いである。スキル抜きなら存在昇華した一華を越える攻撃力は流石に意味不明過ぎるだろう。

 そうしてクソボスの封印を担っていた『精霊王』を倒した事でダメージが通るようになる、それを確認して真っ先に俺が向かう。彼我の距離は60m程、十分に『突撃』を活かせる距離と見て使用する。念のために『鑑定』を掛けてそのステータスを確認する。

 

 精霊種『ヤヌス』

 体力  400/400

 魔力  500/500

 技力  100/100

 物理攻撃 50

 物理防御 25

 魔法攻撃 80

 魔法防御 25

 速力   40

 移動力  3

 状態異常 無し

 特殊  『属性無効:物理・魔力・炎・風・水』『属性耐性:土』

 装備   無し

 

 確認出来るステータスは前回に比べて速力が40も落ちている、理由は不明だが前回は俺に向けて魔法を使用していたのに今回は無かったのはこの速力差からなのだろう。体力や魔力を除いたそれ以外の基礎ステータスも軒並み落ちている……前世のゲームよりも弱くないかコレ?

 僅かに疑問を抱きつつ、目前のクソボスに一撃を叩き込む。

 

 武器命中20+290−40=270。命中判定。

 土属性攻撃0.5×(315+『突撃Ⅰ』50+移動距離6×10)−25=187致命打判定×2。

 

 クリティカルが出て尚即死は狙えなかったか、背面攻撃を狙った方が正解だったな。油断した俺はクソボスからの反撃を向けられる。

 

 武器命中0+40−290=0。回避判定。

 

 しかし、ステータス差が有り過ぎてかすりもしない。そんなクソボスに対しては四葩が追撃を入れ、最初の属性を破壊する。反撃で魔法を受ける四葩だが、魔法を吸収する装備は四葩に欠片ほどもダメージを通すこと無く寧ろその身を癒す。

 続いてその背面から全速力の『突撃』を乗せ、更にバーストエッジを使用したタチアがクソボスを撃破する。ダメージが落ちてようが三連撃に増えた『突撃』込みの威力に、全魔力を乗せたバーストエッジを前にしては流石のクソボスも耐えられなかったらしい。

 クソボスの反撃も飛ぶ事で回避飛したタチアに続くのは一華だ。四葩に並ぶ攻撃力による5連撃、更に背面からの奇襲判定でクソボスを簡単に撃破している。

 最後に四葩による攻撃はおそらく『不死の王』に使った技を使用した物だ、無数の銀線が走った後にクソボスは消滅した。ミンチより酷いな今の。

 以前と同じ復活に備えて警戒するが、一分二分と待つも復活する予兆は無くクソボスの居た場所に宝箱が出た事で警戒を解いた。前回より弱っていた上に、その後の龍化も無かった。アレが初回だけのギミックだとするには『天使長』と潜った時には発生しなかったし、本当なんだったのだろうか?

 

「さて、ボスドロップは誰が開ける?」

 

 宝箱を前に確認する。40階層のボスドロップからはじゃんけんに負けて押し付けられた一華が、泣きそうになりながら開いたら素材である龍の髭が手に入った。直接倒さないと手に入らない龍玉や逆鱗に比べればレア度は落ちるが、それでも鱗等を遥かに越える貴重な素材だ。普通は40階層で手に入る物では無いし、スケベイルアーマーでない事に安堵する一華の頭を思わず撫でたくらいに引きが良かった。

 ならば、この50階層はどうだろうか。前回四葩が開いた際には四葩が求めていた全ステータスに補正が入る装飾品だった、次はタチアに開けて貰うのがいいだろうか?

 

「タチア、開けるか?」

「……いえ、私は現時点での装備が最適です。此処で別の武器や防具が出ても扱いに困りますので別の方がいいでしょう」

 

 少し考えた後にそう口にしたタチア、俺もその考えに対して否定出来ない。寧ろ、俺が専用に誂えた装備が50階層のボスドロップ程度(・・)に負けるとは思いたくない。

 

「四葩は?」

「妾は前回開けておるからのう、今回は別に譲りたい」

 

 断る理由が真っ当過ぎて納得しか無い。

 

「一華はどうだ?」

「むむ、拙者でござるか?」

「ああ、嫌なら俺が開けるしどうする?」

 

 最後に一華に振れば、少し悩んだあとに一つ頷く。

 

「なら、開けさせて貰うでござるよ」

 

 そういった後に宝箱に向かい開く、そうして中から物を取り出して──

 

「……拙者、何か悪い事をしたでござるか?」

 

 泣きそうな声でそうこぼした。その手にはスケベイルアーマーによく似た、しかしあちらと違い防御を想定してないであろう布装備が有った。

 

 全身防具『エッチな下着』

 物理防御 50

 魔法防御 75

 特殊能力『性魔術強化』『誘惑強化』『女性専用』

 

 コイツはヒドイ、何がヒドイって性能だけはガチで良い事だ。『性魔術』の強化、そして誘惑の強化というと魅了等に補正が入るのだろう。全身防具って事はスケベイルアーマーと同じ様に他の防具を装備出来ないタイプだろうし、本気でヒドイな開発。

 と言うか、この見た目で物理と魔法の防御が50以上強化されるのは流石にどうなんだ?

 

「一華、取り敢えずそれは預かってくれ。性能だけは意味不明に高いから」

「……本当に、性能だけは凄まじいのうコレ。考えた奴は絶対スケベイルアーマーと同じ奴じゃろ」

 

 俺と同じく『鑑定』を掛けたらしい四葩の言葉に、思わず同意で頷いてしまった。こんなのこのパーティのメンバーに身に着けられたら理性が破壊されるだろう、それこそ大乱交潮吹棒姉妹(スプラッシュシスターズ)が確定してしまう。

 俺と四葩の言葉を聞いた一華は渋々と戦利品をインベントリにしまう、家に帰ったら慰めたほうが良さそうだなコレ。

 そんな事を考えつつ、全員の様子を確認する。大きく問題は無さそうなのでこのまま51階層へと進むか意思確認をしようか。

 

「じゃあ、このまま進もうと思うがどうする?」

「妾は問題無い……いや、此処で存在昇華を済ませておこう」

 

 言うが早いか早速存在昇華を実行する四葩、止める間もない速攻だがまぁ物理的な敵の多い51階層から60階層なら四葩は普通に活躍できるし問題は無い。スキルを選び終わったのか、集中する為に閉じていたらしい目を開いた四葩に話し掛ける。

 

「スキルは何を選んだんだ?」

「うむ、『舞踊』と『歌唱』は一旦外して戦闘用に寄せたのじゃ。『技力上昇』『白刃流し』『騙し討ち』『盗む』の間もなく完了するスキルに、『鍔目返し』とタタラが勧めた『早熟』を取得しておる」

 

 四葩の事なのですぐにコンプリートしそうである、そうしたら優先して『舞踊』と『歌唱』を取り直せば戻った時に怒られず済むだろう。なんなら、20レベル上げてスロットを増やしても良いしな。

 

「タチアはどうだ?」

「私も問題有りません、存在昇華は」

「前にも言ったが、今は控えてくれ。体力が最大になった後で無いとタチアの弱体化が著しい」

「ええ、タタラ殿がそう言うなら従いましょう」

 

 俺の言葉に従うなんて言ってるが、ステータスアップアイテムを俺に使うように進言した筆頭なのはこのタチアだ。何処か悪戯が成功したかのように笑っているのが解せない。

 

「一華は?」

「勿論、問題無く進めるでござるよ」

 

 まぁ、本当に問題無いだろうな。ステータスもそうだがスキルの成長も加速しているのだから、下手すれば80階層まで一華頼みで進めそうだ。

 

「それじゃ、進もうか」

 

 俺の言葉でパーティ全員が階段を下る。そうして何日ぶりかの51階層を探索する。そして、ここに来て凄まじい運が働いた。

 現在は54階層、上層のモンスターが出現する最後の階層の階段前に俺達は居た。

 

「……ここまでの階層、出るモンスターが全部『ムゥ(たみ)』ってどう言う事だ?」

 

 以前はタチアの確率反転スキルが仕事をしても極僅かな出現に収まっていた『ムゥ(たみ)』が、51階層から54階層を占拠していた。花冠のお陰でアイテムは大量に貰えたが、経験値は1点たりとも入っていない。流石に推定『ムゥ(たみ)』の前であの河馬畜生を膾斬りにも出来ないので、本当にアイテムだけの入手だ。まぁ、1階層で上の探索で手に入る分のステータスアップアイテムが手に入ったので実入りだけは桁違いに良かったのだが。

 

「……此処で分配するか?」

 

 いっその事と手に入ったアイテムで強化を考える、かなりいい考えな気もしてくる。今回の探索で何度目かも分からないアイテム確認を行う。

 

 体力 235

 魔力 162

 技力 355

 物攻 491

 物防 337

 魔攻 299

 魔防 215

 速力 388

 運  772

 移動 647

 

 一度は無くなった筈の体力と魔力のアイテムが3桁まで増えていて頭が痛くなる。一華は兎も角として、俺とタチアは体力を最大値に出来る為に其々に配る。魔力は俺に足りてない9個を貰い、残りをタチアに渡そうとする。

 

「いえ、それは取っておいた方がいいかと。先程までの入れ喰い状態はそう何度も有ると考えなるべきでは有りません」

「……多分、心配する必要は無いと思うぞ」

 

 下手したら前回の通常の敵が居る方がイレギュラーな気さえする、それくらいタチアの確率反転は干渉能力が強力なスキルだ。それで無くとも上層階を周回すれば集まるのだから、タチアのステータスを完成させる方向で行った方が多分正解になる。

 

「……では、切り良く150個頂きます。それで魔力も405になりますので」

「改めて見るととんでもない数字だな」

 

 タチア個人で転移門を展開出来る程の魔力量だ、コレで存在昇華してないって殆どバグだろ。それと、現実になってから基本的に上限が無いとはいえ運のアイテムがそろそろ1000に届きそうである。移動の方も含めてこの二つが前世のゲームで特に出なかったのに寧ろ余るレベルなのは何なのか。

 それはそれとして四葩の運を補わせる、共通で最大1しか上がらないので逆算して21個。コレでレベルが最大になれば運は100になる。『概念鑑定』でクリティカルを出すとは言え、この辺はキチンとしておきたい。敵からのクリティカルを回避するにも運は作用するしな。

 

 準備を終えて、更に進む。此処からは『エンシェントドライアド』が敵になるので、気軽に敵を倒していける。相変わらず移動後使用可能マップ兵器持ちの一華が大暴れしているが、討ち漏らしは四葩が積極的に倒して行っている。本来ならステータスが上限に届いた俺も存在昇華をしてレベル上げに勤しむべきなのだが、今回は四葩と一華を優先させる。特に四葩は両親との約束が有るので早期に『舞踊』と『歌唱』を取る必要が有るため、急いで20までレベルを上げるかスキルをコンプリートするしかない。

 

 まぁ、その心配は要らなかったみたいだが。

 

 レベル差から一匹倒せば1レベル上がる状況で技力を出し惜しみせずにわざと敵の攻撃を誘い『白刃流し』を使用し続け、魔力が必要分育ってからは『騙し討ち』を織り交ぜた為にこの二つが即座にコンプリートした。空いたスロットには『移動力上昇』と『速力上昇』を入れ直して、頻繁に技を打っていた為に刺激を受けた為に続いてコンプリートした『技力上昇』とは入れ替えで『魔法防御上昇』を入れ直したらしい。更にレベルが上がって空いたスロットにようやく『歌唱』を取り直すが、その間にコンプリートした『盗む』の後には『物理攻撃上昇』を取得したと報告を受ける。それからもスキルスロットが空くと『舞踊』を取り、レベルが40を越えた現在は『突撃』と『魔力上昇』を入れて戦闘能力を上げている。この時点で物理攻撃と防御が素で存在昇華前に並ぶ程の数値で、鬼ってこんなに強いのかと戦々恐々している。体力と技力はまだまだコレからだが、既に個人の戦闘能力は随一な完成度だ。

 そして、そんな快進撃の結果として俺達は60階層のボス部屋の前に居る。

 

「流石に早すぎないですかね」

「俺もそう思うが、一華と四葩が頑張りまくってたからな。寧ろ、討ち漏らしだけで40レベルを越えてる四葩が意味分からん」

「そうは言うがの、一華の殲滅速度で討ち漏らしを探すのも大変なのじゃぞ?」

「レベル1から拙者に着いてこれる四葩は異常でござるよ」

 

 純粋な人間から見ればどっちもどっちの戦闘力である。まぁ、頼りになる事この上ないが。

 

「取り敢えず、50階層に比べれば遥かに弱いし挑んどくか?」

「そうですね、私は挑んでいいと思っています」

 

 互いに相手を強過ぎると言い合う四葩と一華を一旦無視してタチアに確認すれば、タチアも二人を見て苦笑いをしたままそう答える。前回は此処で仲違いが起きたのだ、四葩と一華を見ると此処には喧嘩が始まる何か特殊な因果でも有るのだろうか?

 

「二人はどうだろうか?」

「拙者は挑もうと思っているでござるよ」

「妾も大丈夫じゃ、なんなら70階層まで進んで存在昇華の条件だけでも満たしておきたいと思っておる」

「む、確かに四葩なら問題は無いでござるね。拙者も70階層まで行くのに賛成でござる」

 

 声を掛ければ二人は喧嘩を止めて普通に答えてくれる、何なら一華は四葩の事を考えて70階層まで行くことを提案してくる。タチアに視線を向ければバッチリ目が合って頷かれた、なら70階層まで行くか。

 

「分かった、此処のボスについて説明する。四葩とタチアは2回目だが、一華は初めてだな」

 

 そう確認して、注目を集めてから説明を開始。弱点属性と防御の偏り方、攻撃方法を一通り教える。その後は四葩からの防御関係の確認と、タチアの攻撃関連の確認が来て其々に細かく説明をする。一華は特に対策無しで問題無いので落ち着いた様子だ。

 

「それじゃ、他に疑問は無いか?」

 

 最終確認に対して全員が頷いて返してくる、俺もその様子に納得してからボス部屋の扉を開く。以前は怒りに呑まれてまともに確認していなかった室内を改めて確認する。

 階層の趣に合わせて、中は森林地帯に似ている。あくまで似ているに留まるのは、中央に鎮座する『宝石樹』の影響かその葉や幹が宝石のような光沢を放っている為だ。その為、何処か宝石細工の店内に居るかのような非日常感が漂っている。

 真っ先に駆け出したのはタチア、『突撃』を使用した全力攻撃を敢行する。まだ最大レベルには達していないらしい『鍔目返し』による攻撃力減衰は有るものの、それでも三連突きになるそのダメージたるや殆どの『宝石樹』の体力を削っている様子だ。

 

 妖精樹『宝石樹』

 体力    36 /600

 魔力   300/300

 技力   300/300

 物理攻撃 95

 物理防御 100

 魔法攻撃 105

 魔法防御 110

 速力   50

 運    15

 移動力  1

 特殊能力『四大属性強化』『妖精魔法』『風属性』

 装備   無し

 

 何となく『宝石樹』を鑑定してみると、完全に死に体である。これ、『アンドレイア』を火属性にするかバーストエッジを使用してたらタチアだけで倒してたな。

 続いたのは四葩で、勢いを付けていると言うことは『突撃』を使うのだろう。例え『概念鑑定』が通らずとも四葩の『突撃』込みの4連撃とか『宝石樹』の体力が万全でもお釣りが来る破壊力だ。

 案の定、ボスである筈の『宝石樹』は消し飛んだ。残った体力に対してどれだけのオーバーキルを叩き込めばあんな風になるのか、怖くて確認もしたくない。

 

「文字通りの瞬殺でござるな」

「俺一人でも倒せたからな、あの二人ならこうもなる」

 

 四葩は言わずもがなだが、タチアが攻撃力を求め始めた時からパーティ全体の攻撃力が過剰とも言えるレベルになっている。その分エテルの攻撃力が不足気味な分、バランスが取れているとも言える。まぁ、そのエテルも武器を魔法攻撃依存の魔導剣にしたら途端に攻撃力が跳ね上がるのだが。

 ボス討伐が完了した事を示すように、周囲の木々が枯れ石材で出来た剥き出しの壁が目立つ部屋に変じた。そして部屋の中央、『宝石樹』が立っていた位置に宝箱が一つ残っている。

 

「それじゃ、今回倒した四葩が開いてくれ」

「……そうなるのか」

 

 俺の言葉に肩を落とした四葩が嫌々ながらも納得して宝箱を開く、中から取り出されたのは常に違う光を反射し続ける宝石だった。

 

「珍しく換金用のアイテムが出おったのかのう?」

 

 そんな事を零す四葩の横から『鑑定』を掛ける。

 

 素材『妖精の卵』

 

「妖精の卵……?」

 

 どうやら同じタイミングで『鑑定』を掛けたらしい四葩から言葉が漏れた、そして俺はこの素材が必要になる原作のサブイベントを思い出している。

 原作サブイベントの中でも選択肢で別の結末を迎える物として存在していた物の一つ……このゲームのサブイベントは大半がマルチエンディングだったな。

 スミスが商会で発見した依頼で、この『妖精の卵』を欲しがっている依頼人が二人居るパターンだ。内容としては研究材料として欲しい錬金術師をやっている男性と、アクセサリーを作りたいという貴族の女性の依頼を見て何方かを選ぶという物だった。何方も求める物は同じで有り、最終的な報酬でかなりの差異が出る。まぁ、このイベントを完走する難易度は全イベントでも五指に入るくらいに難しいのだが。

 この選択式のイベントは連続イベントとなっていて、開始後に次々に欲しい素材が依頼されていくのだ。イベントを始める為の『妖精の卵』から始まり、各種ステータスアップアイテムを十個ずつとか言う鬼畜な素材要求をされる為に大半の人が途中で詰む。実際、俺もプレイ中に足りなくなった事が多数ある。

 そして全ての依頼を達成した際の報酬は、貴族の女性からは凄まじい金額のお金と女性とのエロシーンであった。まぁ、そこそこ美人な高飛車キャラが女性上位なエロをしてくるので結構人気が有ったのは掲示板で見た。

 対して男性の方は新しいアイテムの販売で、それが男性に納品してきた各種ステータスアップアイテムだったりする。1個辺り最低で100万はするので金策に苦労はするが、金さえ集めれば最強のキャラを作れたのでかなり奔走したのを覚えてる。

 あの男性の研究を横から奪う気は無いが、多分コレを研究したら俺もステータスアップアイテムを作成・販売が出来るようになる気がする。まぁ、それをやったら追放かそれでなくても都市長の胃が爆発四散するだろう。あの男性が作ったのなら多分、都市長の胃は無事のはずだ。

 貴族の女性に付いては俺自身興味が無いのでそちらに渡すつもりは無い、正直に言うと俺にはパーティメンバーの方が魅力的に見えてるしな。

 

「タタラ、コレは使えるのかのう?」

「一応、研究者で欲しい人が居ると思う。俺よりもその人に活用して欲しいかな」

「タタラ殿では使えぬと?」

「俺でも使えるけど、他人の研究を奪うのはな……」

 

 四葩とタチアの質問に答える、俺が素材が有るからと研究して原作イベントを潰してしまうのは精神的に嫌だ。何より、頑張ってる人の邪魔をするのは好きじゃない。

 

「なんじゃ、前世の知識に何かあるのか?」

「ああ、あやふやな因果でまだ定まってない事柄だけどな」

 

 俺の言葉に疑問を持った四葩からの質問に、俺は詳細を省いて伝える。四葩は一つ頷いて『妖精の卵』を差し出してくる。

 

「それなら、タタラに預けておくのじゃ。その必要とする研究者が現れたら譲ってほしい」

「分かった、預かるよ」

 

 四葩から『妖精の卵』を預かりインベントリにしまう、あの研究者に渡せば『ワールウィンド』全体の戦力が上がるから長期的に見れば都市のためになる。その時が来るまでは俺が管理しておこう。

 

「さて、このまま先に進むか」

 

 俺の言葉に、全員が賛成してくれた。四葩と一華はまだまだレベルが上限に遠いし、タチアもスキルレベルを上げたいだろう。俺も存在昇華してレベルを初期に戻して、上げ直しを始めようと思う。

 そして61階層、『天使』族が主の階層に降り立つ。四葩とタチアは初挑戦、俺と一華は数日振りの階層だ。

 

「此処の階層からは『天使』族が敵になる、一番弱い『第九位(エンジェル)』は飛行が出来ないから問題無い。ただ、それより上の『天使』族は総じて飛行の能力持ちだ。同じ飛行を持ってない場合、遠距離攻撃に限るから気を付けてくれ」

 

 俺の階層説明に、四葩とタチアは頷く。四葩の『手鞠花』は『空裂』の流れを汲む造りの為、遠距離でも空気の断層を生み出して敵を斬れる為に問題は無い。タチアも本人が『天使』族の血を引く為に飛行能力持ちなので、此方も問題は無いだろう。

 一華は忍び装束の機能に飛行が有る上『衝羽根』なら遠距離の敵も引き摺り降ろせる、と言うか前回の探索でやっていた。ステータスが上がった今、同じ事が出来るかは分からない。俺は鋼糸術に明るく無いので、一華の『忍術』に含まれているだろうその技術がどんな計算式でダメージを算出するのか正確なところが分からない。下手をすれば、引き摺り降ろそうとしてバラバラにするのではなかろうか?

 俺の問題は存在昇華でレベルが1に戻っている事では有るが、最大までステータスを上げていたお陰で全ステータスが初期の四葩よりも高かった。まぁ、ステータスの上限が全く追い付けないので悲しい事になるがそれでも人間の中では超人くらいのレベルにはなれる。それに、今回は前世のスキル配分とは変えて『限界突破』のランクをⅡに抑えて『完全なる肉体』を取得した。全ステータスが10の補正を得たので、敵を撃破しやすくなる。それに、魔力関連も上がるので『クラフト』時の魔力制御がし易くなる。つまり、俺はクラフターとして更なる成長が見込める……次は『大魔導』を取ろうかな。

 そんな事を考えているうちに、レア種の『第六位能天使(パワー)』が複数体居た。前回出会した時と変わらず、工業製品が如く一律同じステータスだった。ダンジョンのモンスターとは言え流石に不気味だな。

 

『取り敢えず、俺は気付かれないように背面から奇襲しないと危うい。先行させて貰っていいか?』

『危うい行動は控えて欲しいところじゃが、大丈夫なのかのう?』

 

 気付かれないように念話に切り替えて俺の行動の許可を求めれば、四葩が心配気味にそう確認してきた。まぁ、前回俺がソロで潜った時の事も有るから余計に心配なのだろう。実際、無事に帰っては居るが離れて過ごしていた分だけ心配が勝ってしまうのだろう。

 

『前回も同じ事をやって無事だったから多分大丈夫だ。まぁ、失敗したと思ったら助けてくれ』

『任せよ』

『いざとなれば私も盾になります、安心して下さい』

 

 四葩とタチアの力強い念を受け、俺の中に熱が灯る。やっぱり、二人が居るのは心強い。一華に視線を向けると、静かに頷いてくる。その反応に更に強くなる熱を持って、此処では死なない決意にする。

 少なくとも、一華との子供が成人する迄は死ぬ予定は無いがそれでも捨鉢になりそうな己に喝を入れて行動を開始する。

 成長している『忍び足』と『隠密』が作用して、気付かれないうちに背面に回ってから空圧式6連装ニードルランチャーを発射する。

 

 武器命中10+236−100=146命中判定。

 物理攻撃60✕【不意討ち】1.79✕【闇討ち】1.79−120=72致命打判定✕2。連続攻撃✕6。

 

 以前の反省を生かして六発だけで済ませる。成長している『不意打ち』と『闇討ち』のスキルにより僅かに威力が上がっている。

 背後からの奇襲をもろに受けた『第六位(パワー)』は串刺しになり即死する。仲間が殺られたにも関わらず俺のスキルによる効果で他の『第六位(パワー)』達には気付かれて無い。頭の中で響くファンファーレを無視して、次の標的を定める。

 俺が二体目の『第六位(パワー)』を倒すタイミングでパーティメンバーも参戦してきて、そこからはもう蹂躙だった。

 四葩の『手鞠花』は空に逃げる『第六位(パワー)』を問答無用で斬殺する、アレは『概念鑑定』も使って防御無視で確定クリティカルの影響も有るだろうが普通のレベル1でやれる事では無いだろう。

 タチアは得意の『突撃』とバーストエッジを使い分けて叩き込み、見事に倒してる。信じられるか、アレで存在昇華してないんだぜタチア。

 そして一華は『衝羽根』で相手を捕縛した瞬間に分解した。いや、多少は予想してたが一華本人が強くなったとは言え以前は引き摺り降ろすのに使ってた武器で即死させるって何なんだ?

 突入前に10体居た『第六位(パワー)』を殲滅した、俺も4体倒して6レベル上がるという『早熟Ⅲ』の恩恵をフルに受けて満足だ。それに、『不意打ち』と『闇討ち』もレベルが2上がっている。コレも『早熟』の経験値増加の影響だろう、背面から6連装ランチャーによる攻撃で六回使用したのと同じ効果を得て、更に60%増しという合計3倍以上の経験値を得てレベルが上がったのだと予想できる。コレなら、今回の探索中なランクアップくらいは出来そうだ。

 そうして俺達は70階層を目指して進む、階層の敵を全滅させてから進む為に俺達のレベルは凄まじい速度で上がっていった。四葩は常に10以上レベルが上の敵との戦闘続きの為にレベル上限に届き、存在昇華が可能な状態になっている。素の物理攻撃と防御はダリアと同じとか言うヤバさだ。流石は鬼と言うべきか、スキル込みの一華の物理関係を越えてるのは流石に引いた。体力が最大値から大分離れているのでまだ存在昇華をしないと言っているが、今の能力でも多分最下層へ潜っても通用するぞ?

 一華は適性レベルに近い為にレベルの上がり方が緩やかになり始め、更に俺と四葩に敵を譲っていた為にレベルは66で止まっている。まぁ、体力魔力技力以外のステータスは上限に届いているので問題は無いが。

 そんな俺達は、本日7回目のボス部屋前に立っていた。





尚、『妖精の卵』は強い妖精の気配がする存在の近くに在り続けると羽化する物である。



 オマケ

 滅びが隣に居る世界、ナーハズヒト。
 そんな世界で一人の青年がとある発明をした。
 大体は人間の1/10程の大きさで、金属で出来ていた。コントローラからの指示に従って動くその小さな人形、アーマーとゴーレムを合わせて縮め『アーレム』と名付けられたその人形は多くの人の心を掴んだ。
 人々はアーレムを数少ない娯楽として楽しみ、拡げていった。
 此処はそんな世界、沢山の笑いと涙に溢れる世界である。


「店主さん、アーレムのパーツが欲しいんですが!」
「……君は元気だね、本当」

 造りは簡素に見えるが素材が良い服を来た金髪の少年に対して、店主である黒髪の青年は苦笑いを浮かべて答える。
 此処は都市『ワールウィンド』に有るクラフト専門店、その名を『フォルジュロン』という。小さいが店主が凄い人らしく、著名な人物が様々な依頼に訪れるのだとか。
 そんな事をよく分からない少年は、かつて店主に助けて貰った事から何かと頼るようになった。今回も、少ないお小遣いを一生懸命貯めて初めてアーレムを揃えようとしてこの店に来たのだった。

「お小遣いはどれくらい有るのかな?」
「聞いて驚いて下さい、なんと4000リムです!」
「それは、頑張ったんだね」

 リムとはこの国のお金の単位である。安いお菓子は大体5リム程で買えて、家族の1日の食費がだいたい250リム。そんなお小遣いをコツコツ貯めたらしい少年の4000リムと大金である。
 尤も、悲しい事実として一番安い鉄製のアーレム本体でも5000リムはする上に、稼働させるコアは中央の商会で1500リムで販売されているので全く足りてないのだが。

「それなら、コアはもう買っているのかい?」
「いいえ、先にパーツを買ってからにしようかと」
「……そうだね、俺の店でパーツを揃えるなら先にコアを買ってくる事をオススメするよ」

 この店主、見た目は大柄な上に無表情に見えて怖いのだが妙に御人好しである。子供の初めてのアーレムをサービス料金で揃えてあげよう等と考えている為にこんな話をしている……ほぼ道楽で店をやってる人間なので稼ぎを考慮してないが、それが彼が多くの人に怒られる理由の大半にあると伝えておこう。

「でも、その……」
「大丈夫、君が来るまで店は開けておいて上げるから。中央の商会までこの店からは遠いからね、帰るの遅くなっちゃうよ?」
「はい、なら先にコアを買ってきます!!」

 店主から諭された少年は勢いよく一礼してから店を飛び出していく、その後ろ姿に『若いっていいねぇ』等と零している店主もその年齢はまだ20代に入ったばかりである。

 少年は急いで中央商会へ向かう、店主の店から片道で40分は掛かる距離なのだが気が急く少年は気にも止めずに走り続けた。初めてのアーレム、お金に余裕の有る友達は既に所持して遊んでいる人気の娯楽品。それを自分で買うならと認められて、一生懸命家の手伝いをして貯めたお小遣い。その全てが少年にとって大切な物だ。
 急いで着いた商会で息を切らせながらアーレムのコアを買う少年、商会の女性職員もそんな姿に微笑ましく感じつつコアを一つ販売する。1500リラと引き換えにコアを渡すと、少年の目はキラキラと輝いて両手で受け取る。
 沢山礼を言ってから立ち去る少年に、気を付けて帰るように言いながら手を降って見送る女性職員。こう言った微笑ましいお客様が増えれば、いい職場なのに等と考える彼女は20代後半の夫・彼氏無し募集中である。

 少年は走る、『フォルジュロン』に向けて全力で。途中で人にぶつかりそうになりながら、それでも何とか避けて突き進む。
 そして、遂に『フォルジュロン』に戻って来る。

「いらっしゃい、ちゃんとコアは買えたかな?」
「はい、コレです!!」

 差し出されたコアを受け取り、刻印されたナンバーから公式な物であると確認した店主は頷いてから少年に問い掛ける。

「それで、何の素材のアーレムが欲しいのかな?」
「魔鉄で!」
「うん、君のお小遣いじゃ無理だね」

 魔鉄とはこの『ワールウィンド』で生み出された人工魔法金属である。今でも作れる人間は限られるが鉄の倍に届く金属特性を誇り、その値段は鉄の数十倍とされている。

「え、そうなんですか?」
「アレ、インゴット一つで何万リムってするからね」

 流石に店主も魔鉄をタダ同然で譲ったとなれば、彼の知り合いに叱られるし少年の為にもならないのでやろうとしない。因みにその手の事は前科があり過ぎるのがこの店主だったりする。
 アーレムに使うにしても高級品過ぎると思われるが、最初に作られたアーレムが魔鉄製である為に憧れる者も数多い。それが魔鉄という存在なのだ。

「え、えっと……それなら何が使えますか?」
「この金額なら鉄かな」
「……一番安い素材ですね」
「アーレム其の物が高級な嗜好品だからね」

 尚、普通なら鉄製でも技術料込みで1万リラ程するのがアーレムである。子供のお小遣いで買えるものでは無い。そう、普通なら。

「なら、鉄でお願いします」
「はい、任されました。デザインの要望とか有るかな?」

 アーレムのデザインは使い手にとって重要である。最初に発売された3体のアーレムデザインを元として、様々なアレンジを加えて己の存在を主張するのだ。

「あの、えっと……」
「うん、ゆっくりでいいよ」

 そのデザインに悩む、というか伝えるのが恥ずかしい少年に対して、店主は微笑ましい目を向ける。そうして5分程して、少年は意を決してインベントリから1枚の紙を取り出した。

「こ、コレを元にして下さい」
「うん、いいよ」

 少年から受け取った紙を見る店主。そこには沢山書き直して作ったであろう、子供らしい絵が有った。絵だけではマッシブな体型かスマートな体型かが読み取れず、さりとて装飾等は無視も出来ない。これでは難しいと判断した店主は、その場で魔導具を取り出して宙空に設計図を投射する。
 読み取った絵からアーレムのデザインを構築し直し、複数の形態を転写する。
 力強い四肢を持つ勇壮なデザイン。全体的に細身で素早い印象を与えるデザイン。四等身程の何処か最底辺な印象を受けるデザイン。趣味に走った騎士の馬たる機体など、少年は自分の絵を元にした多種多様なアーレムの姿に目を輝かせる。

「君の絵を元にしたアーレム達だ、作れるのは一体だけ……ゆっくり悩んで決めるといい」

 店主の言葉に悩み始める少年、どれも自分が想像したものを越えて格好良くなった物故に大いに悩む。そんな姿を微笑ましく見詰める店主。
 やがて、悩み抜いた果てに選んだのはマッシブな物。少年には僅差で力強いデザインが刺さったのだろう、子供の頃は誰もが強さに憧れる物で見た目にも分かりやすい指標は筋肉になる。故に四肢の太いデザインが選ばれたのだろう、店主はその依頼に対して真摯かつ全力で応える事にした。
 公式大会で定められている重量に合わせた鉄のインゴットを用意して、本体とコントローラーを作る。台座代わりにもなっているコントローラーは、出来上がったアーレムを可動式のアームで掴み固定する。

「さぁ、コレが君のアーレムだよ。胸の中にコアを嵌めれば完成だ」

 そう言って少年に目線を合わせてアーレムを差し出す店主、少年は震える手でその胸の中にコアを差し込んだ。すると、開いていた胸部が閉じて、僅かにアーレムの目が光る。命が宿ったかのようなその様子に、少年の目の輝きは太陽が如く力強さを誇っている。

「ほら、受け取ってくれ。このアーレムのマスターは君だ」
「僕が、アーレムのマスター」

 声も手も震えたまま、目の前のアーレムに触れる。店主がそっと手を離せば、少年の手に予想以上に重いアーレムの存在が移る。

「重い……」
「そう、アーレムは重い。君の夢と誇りを背負うがゆえに、アーレムは重いんだ」
「僕の、誇りと夢……」

 知り合いから煽動者等と呼ばれる事も有る店主の言葉に、少年の頭は茹だっている。この年の少年に誇りだの夢だの言えば、特別感に包まれてしまうのは大人であるなら分かるはずだ。
 店主からすれば憧れを手にした少年へのリップサービスのつもりなのだから始末に悪い。

「さぁ、君のアーレムに名前を付けよう。君の誇りある相棒に、相応しい名前を」

 その言葉に少年の頭は更に茹だっていく、世が世なら捕まってもおかしくないような店主の洗脳を受けて少年は名前を口にする。

「『グラディウス』……それが僕の、僕の剣の名前だ!」

 己のアーレムを未来を切り開く剣と例えた少年は、高らかに名前を呼ぶ。

 ここに、様々な困難を相棒のアーレムと共に駆け抜ける少年の物語が始まる。



 ビルドファイターズっぽいのも求められてたっぽいので書いてみました。誰か続き書いて()

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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