※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント発生中


気付けばクリスマスイブ、年が明けるまで後わずか


多分、好きになれない理由の一端

「のう、ここのボスは何故こうなのじゃ?」

 

 70階層のボスを倒した折、四葩がそう零す。目の前で殺し合いをするボスの姿を見た故の反応に、まぁそうなるよなと感想が浮かぶ。このパーティなら正面から戦っても普通に勝てるが、労力削減の為に瀕死まで眺める漁夫の利戦法を取ったところ四葩が暴れ足りない雰囲気を出している。

 

「不倶戴天の敵だからな、『天使』と『悪魔』は」

 

 光の女神様と姉妹神である闇の女神様、その関係はなんと言うか拗れている物になる。この二柱は人間が生き残るのに苦しかった時代に庇護者として『天使』族を作り遣わせた光の女神様と、その身体を作り替えて環境に適応させ『夜闇の眷属』にした闇の女神様という別アプローチで挑んだ神性である。

 方や庇護者(管理者)を送って人に信仰を求めた光の女神様。

 方や本人を適応させ(改造し)て眷属に信仰された闇の女神様。

 何方にも理は有り、何方にも問題が有ると俺は思う。ただ、何方も優しさからその行動を取ったことは理解している。

 まぁ、闇の女神様が居なければエテルとは出会えなかったし光の女神様が居なければタチアと出会えなかった。俺には何方も必要な存在なのだと思う……何故か、この思考を読まれたら大変な気がする。具体的に言うと主神主催による宗教戦争(大喧嘩)が起こるみたいな。

 

「エテルとタチアは仲良く出来ているが、それはその個人に他種族を排斥する思考が無いからだ。亜人種というだけで嫌悪する奴も居るし、人族というだけで下に見る奴も居る。思考や思想はそれぞれだけど……それを他者に押し付けると諍いに、最悪戦争にもなり得る」

 

 俺の考えを聞いているメンバーは神妙な顔をしている、別にそんな深い話をしてる訳でも無いんだがな。

 

「それに俺も鬼だからと四葩を悪様に言われたらキレるし、皇族の血筋だからと祀り上げてタチアの意思を無視する奴等に嫌悪を抱く。けど、鬼を恐れる感情自体は否定できないし、皇族に理想を見る事も悪いとは思わない。肯定意見には否と唱えるけど、同意を求められたら一部は同意してしまうしな」

「む、同意をするのかのう?」

「純粋な力では鬼に勝てないし、夢魔と『性魔術』勝負に出られたら絶対に負けるんだぞ。普通に知らない相手なら警戒はするだろ?」

『……警戒?』

 

 俺の言葉を聞いた瞬間に、その場の全員が俺に警戒心が在る事を疑ってくる。失礼な、俺だってダンジョン内やエテルの夜の思い付きには警戒してるぞ。警戒しててもショタ化されたり互いに子供になって初体験ごっこしたりと不可避の事案に持ち込まれてるだけで。

 

「しかし、話を聞く限りには光と闇の女神様は其々手段は違うとも目的は同じなのですよね。何故そこまで?」

「いや、実は闇の女神様は敵視してないんだよ。光の女神様が一方的に糾弾してるだけで」

 

 コレは過去作の中でも出て来た情報で、更には複数のビジュアルファンブックにも書かれていた情報だ。

 光の女神様は闇の女神様による人体改造に対して凄まじい嫌悪感を見せ、『天使』族の攻撃対象に『夜闇の眷属』全体を設定しているのだ。この全体というのが曖昧に過ぎて、遂には闇の女神様を信仰している人間にも適応されてしまっている。闇の女神様は『夜闇の眷属』に『天使』族を敵対視するような教えなどしなかった為、最初は眷属が一方的に殺されていたのだとか。遂には『夜闇の眷属』側が反抗を始め、そうしている内に素質の有る者達から魔王や魔神が生まれるに至ったという。

 超自然派の光の女神様が遺伝子改良をした闇の女神様を嫌って攻撃し続けてきた結果、『夜闇の眷属』から蛇蝎の如く『天使』が嫌われる歴史の出来上がり。こう考えると光とか闇って分類はどうなんだろうと思う、やってる事の邪悪さは光の女神様の方が上に思えるから始末に悪い。

 

「なんと言うか、その事実が知れ渡れば信仰をへし折れそうな話じゃのう?」

「とは言え、俺の前世知識由来だから証明する為の証拠が無いんだけどな」

 

 この辺は多分、この世界に文献が存在しないだろう。壁画等は探せば有るかも知れないが、共通言語とはいえ時代により変化しているし文字という文化が生まれる以前の時代の筈だ。それこそ最強の答え合わせである『天使長』に頼る手段は有るが、そもそも彼女の声は現時点で俺にしか伝わらない。それでは俺の言葉が確かである事の立証など不可能だ。

 それに、神の声を聞ける聖職者でも神が見栄を張って嘘を言ったら真実など伝わらない。少なくとも人間には光の女神様が『夜闇の眷属』達を迫害した事実しか残らないのだ。

 

「まぁ、人が神様に振り回されてる典型例として扱われる事案だな。外で吹聴したら光の女神様の信者に狙われるかも知れないから言わないようにな?」

 

 俺の言葉に其々了解の返事をしたのを見て、転移結晶を取り出す。

 

「む、戻るのかのう?」

「ああ、この先もレアモンスターが出て来るならちょっと準備が足りなくてな」

 

 この先71〜74階層は床が無い崖部分が多い。出て来る敵は二種類居て空を飛ぶ『飛妖種』と呼ばれる種族で代表的なモンスターは空飛ぶ石像こと『ガーゴイル』、そして『ジャイアント』を筆頭とした『巨人』族という中々に面倒な構成をしている。

 先ずこの地形を何とかする為にも俺と四葩には空を飛ぶ為の細工が必要になるし、『巨人』族は総じて巨石を投げてくる『投石』を所持しているので遠距離で撃退する必要が有る。つか、モンスターはインベントリが無いはずなのにあの攻撃の際に投げてくる岩って何処から取り出してるんだろうか?

 そして75階層からは視界が一切効かなくなる。原作ゲームではこの階層はかなり面倒で、視界は1マス先しか見えない状態で進む事になりマッピングもまともに出来なかった。暗いなんてレベルでは無く光を飲み込む階層になり、ランタンを持ってようが10m以上先には光りが届かず、地形や敵の把握には『聞き耳』スキルが必要になる。唯一『聞き耳』を持つキャラは線画のような形で周囲を認識できたのだが、それでもレベル×2までの距離だけの認識だった。更に面倒なのは75階層以降で出て来る敵の『邪影』種と呼ばれる種族だ。

 何が面倒って此奴等、影なので普通だとこのマップに同化してて見えないのだ。それも低級の『シャドウ』は実態を持たないので『聞き耳』すら誤魔化す上に倒す為に必要なのは魔法攻撃力依存のダメージになる。そしてレア種の『インビジブル』は実体は有るが透明で姿が見えない、その上『貫通』も持っていて結構な確率で防御を無視して来ると言うかタチアの天敵っぷり。その上『聞き耳』スキルが無ければ回避判定も発動しないと言うクソ仕様なので下手をすれば四葩ですら一撃で沈む可能性を持っている。更に80階層のボスは此方のステータスを写す『ドッペルゲンガー』とこれまた嫌らしい敵だ、まぁ此奴等は基礎ステータスこそ模倣出来るがスキルや装備は模倣出来ないのでそこが狙い目では有る。尤も、四葩や一華の『ドッペルゲンガー』など俺が勝てる存在では無いのだが。仮に70レベルの四葩なんてどう相手にしろと?

 

「──とまぁ、こんな感じで俺達全体がスキルの不足で戦える土俵に立ててないんだ」

「地味にご主人の情報精度は凄まじいでござるね」

「スキルの相乗効果と言い、国に伝えれば一生遊んで暮らせる報酬が貰えると思うのじゃが」

 

 まぁ確かに、この世界でも検証が必要だろうが立証出来たらそりゃもう凄まじいアドバンテージになるだろう。尤も、なりたい未来と本人の素質は別物だろうけどな。

 

「その、地味に思ったのですが『剣術』や『騎士剣術』にも相乗効果の有るスキルの組合せが有るのですか?」

「有るぞ」

「……有るのですか」

 

 当然の疑問を投げ掛けるタチアに答えれば、落ち込んだ様子を見せる。まぁ、探索に重要な物やその時に必要としていた要素を教えていたのでその辺りの相乗効果を伝えていなかったのでは有るが。

 内約としては『剣術』の持つその威力を正しく伝える為の『物理攻撃上昇』と正確に操る技量を維持する為の『技力上昇』と『体力上昇』、そして正確に当てる為の『速力上昇』それらを支える土台である肉体全体を頑丈にする『物理防御上昇』を揃えていくと成長が早くなる。こうしてみると分かるが『剣術』以外にも五つ、しかも基礎能力上昇系のスキルを5個必要とする完全な脳筋ビルドである為に戦闘職以外の選択肢が殆ど無くなる。その分戦闘力と言う点では保証されるモノにはなるが、レベル20まで他をコンプリートするまで有用な戦闘系スキルが取れないのも痛い。何なら回避・反撃系の代表的なスキル『白刃流し』や命中に補正を掛ける『騙し討ち』は武器スキル全般に相乗効果を持たないとか言う謎仕様の為に、武器スキルを鍛えるのなら効率を捨てる方が探索向けとか言う状態だった。

 俺達のパーティが基本殲滅して進んでいるだけで、探索は本来限られたリソースの中で遣り繰りするのが基本でモンスターとの戦闘は避けられるなら避けるのが普通だ。しかし、そうなると基礎能力上昇系で固められたスキル構成ははっきり言って役立たずにしかならない。正直に言えば、探索にはアサシン系ビルドやシーフ系のビルドが一番役立つまで有り戦士系の出番はそれこそボス戦くらいの物だ。四葩やタチアよりもエテルと一華の方が仕事が多いのは目に見えている事実だろう。

 コレがダンジョン内で氾濫したモンスター討伐となると話は別だが、それは特異な状態で有るために常に前提とする物ではない。

 

「と、なるとタタラ殿は探索向きのスキル構成を私にしていたのですか?」

「いや、その時点でタチアの要望に沿う物を挙げていただけだ。聞かれたら常にどんな風になりたいかを確認して、それに合致したスキルを教えてただろ?」

「……そう、ですね。騎士に相応しい物を聞かなかったのは私だ、パーティの役に立つ物を前提に意識していた為に気にしてませんでした」

「正直、騎士学校では生徒全員のスキルを統一する意向も有るだろうから俺が教えていいものかも迷いはしたんだぞ?」

 

 俺の言葉にタチアは少し考え込み、苦笑いを浮かべる。

 

「……思えば、学校の教官にも『スキルスロットが空いたら申告しろ』と言われていましたね」

「それを聞いたらタチアの学校での評価が怖くて聞けねぇんだが」

 

 亜人種の血が薄い為に言葉が通じて無かったであろう教官には同情する。タチアの体質もそうだが貴族主義を拗らせて暴走する他の学生達も相手にしなきゃならないのなら、こんな感じで取り零すのは必然とも言えるだろう。今のタチアで無ければ騎士になるの無理だろうし、俺の居なかった場合のタチアがどうなってたのか考えるだけで頭が痛い。

 

「騎士の取立ては無いかも知れませんね……」

「まぁ、国からは無いかも知れないけど既にクラスとして『翼騎士』は戴いてるんだ。国に仕えられなくても卒業したらウチに来ればいいだろ」

「ふふ、まるで嫁ぎ先みたいな扱いですね?」

 

 あまり否定出来ない気がするのは何故だろう、少なくともパーティメンバーは内縁の妻みたいな立ち位置になるよなコレ。なんだろう、法務長とか内政長に指摘されたら詰みな気がするのは。

 

「ご主人、延々と此処で話し続けるのは辞めてそろそろ戻った方が良いと思うでござるよ」

「確かにそうだな、んじゃ帰ろうか」

 

 一華の言葉に頷いて転移結晶を取り出す、早速メンバーが思い思いの場所へ触れてくる……のだが。

 

「……一華、なんでソコに触るんだよ」

「……ご無沙汰なので、つい」

 

 俺の愚息に触ってきた一華に思わずツッコミを入れる。以前は違うところに触れていたような気がするのだが、一華自身が言うように欲求不満なのだろうか?

 途中でステータスを上昇させたりと足踏みはしていたが、探索自体は早く終わってまだ空は明るいままである。コレなら帰宅してから汗を流して、夕飯の準備は余裕で出来そうだ。そんな事を考えつつ帰路を歩く、交わす会話は主に夕飯に付いてだ。明るいうちから、とも言えるが早めに準備しとかないと食いたいものを食えないのだ。朝は『ワールウィンド(こちら)』風の食事だったし、夜は陽出國向けの味付けにする方が良さそうだ。何より、一華の玉子焼きを俺が食いたい。

 そんな時だ、バタバタとした足音が迫って来た。

 

「ど、どいてどいてどいてぇ!?」

 

 そんな幼さを残す少年の声に対して、思わず顔を向ける。

 シルバーグレーの髪をした少年が、半泣きになりながら此方へ近付いて来る……その背後に自警団の人達を連れて。つか、追われてるの原作主人公のスミスじゃないか?

 

「……子供を追い掛けているのは何故でしょうか?」

「後ろの団体は自警団の人達でござるな、拙者も初日以外は店の場所を丁寧に教えて貰ったから良い人ばかりの筈でござるけど」

 

 タチアの言葉に一華がそんな事を伝える。一華はあのトリモドキとの戦いで共闘もしているし良い人認定しているらしい、何だかこの街を褒められているようでちょっと誇らしいな。

 それはそれとして、自警団の人達はそれはもう怒りの表情でスミスを追い掛けている……何をやったんだアレ?

 スミスは背後を気にして何度も振り返り、前方に対しての注意が疎かだ。その為、前に出て来た人影に気付かずに追突する。盛大に悲鳴を上げながら縺れて倒れる二人、どうやらぶつかった相手は女性らしい。

 

「ちょっと回復薬が必要か見てくるわ」

「あ、ご主人っ!」

「アレはおそらくタタラの自警団推しの影響じゃ、落ち着け一華」

「……ダリア殿が以前に楽しそうに話してましたしね」

 

 俺がスミス達の所へ向うと、後ろからそんなやり取りが聞こえてくる。ダリア、間違っちゃいないけど何を話してますかね?

 俺がスミス達の所へ着くのと、自警団の人達が着くのは同時だった。自警団の人達は以前班長さんと一緒に行動していた人達で、顔見知りだった。

 

「あ、お疲れ様です」

「タタラさん、お疲れ様です!」

 

 互いに挨拶を交わしながらも、俺はスミスの足を『創製魔法』で簡易的に作った足枷で拘束する。そのまま巻き込まれて倒れていた相手の隣に膝をつき、そっとスミスから離す。

 

「勢いよく転んでましたけど、大丈夫ですか?」

「う、痛っ!?」

 

 どうも転んだ拍子に打身や擦り傷が出来てしまったらしい、インベントリから回復薬を取り出して相手に使う。直ぐに痛みと傷が消えたらしく、目を瞬かせている。

 

「勝手だけど回復薬を使わせて貰いました、他に怪我は無いですか?」

「え、あっはい。ありがとうございます……?」

 

 横から追突されて怪我を負い、それを直ぐに治されて頭が混乱しているらしい女性……というか俺よりも少し年下っぽい少女は戸惑いのままに俺を見てくる。

 腰まで届きそうな濃紺の髪に、ツリ目がちで碧色をした瞳。全体的に勝ち気な印象を受ける顔立ちだが、戸惑っている表情は幼さをを印象付ける。

 

「立てそうですか?」

「あ、ちょっと待って下さいね」

 

 足に力を入れて立とうとしたのを補助する、立ち上がって身体の調子を確認した少女は笑顔で俺に顔を向ける。

 

「ありがとうございます、大丈夫みたいです」

「それなら良かった」

 

 此方も笑顔で返す。しかし、何処かで見覚えが有る少女だ。何処で見たのだろうか?

 隣では騒いでいたスミスが自警団の人達に取り押さえられて捕縛された。その様子を見た少女は笑顔を怒り顔に変えて、スミスへ近付く。

 

「ちょっとアンタ、そこの親切な人に治して貰ったけど怪我したじゃないの!」

「うぇ!?」

 

 かなりの大声で怒鳴る少女の剣幕に、戸惑いを見せるスミス。なんだろう、この光景と言うか空気感を知っているような?

 あれ、この子もしかして──

 

「自警団に追い掛けられて何をやっているの、他の人の迷惑を考えなさい!」

「ち、違っ!」

「何が違うのよ!?」

「俺はちょっと知的好奇心と探究心を満たそうとしただけで!!」

「何が知的好奇心と探究心だ、覗きと下着ドロの何処にそんな要素が有る!」

「女体は男にとっての永遠の神秘だろ!!」

「最っ低! 何が知的好奇心よ、恥的好奇心じゃない!!」

「誰が上手いことを言えといったでござるか」

 

 一連のやりとりにいつの間にか俺の隣に来ていた一華が思わずと言った雰囲気でツッコミを入れる、語録混じりだが俺も同じ事を思ったぞ。

 

「この性犯罪者、私を怪我させたんだから傷害罪も追加よ!!」

「お前が横から飛び出して来たからだろ貧乳!!」

「私は普通に歩いてただけよ、侮辱罪も追加ね変態!!」

「変態の何が悪い! 仮に俺が変態だとしても、それは変態と言う名の紳士だ!!」

「結局は変態だろうがこの悪ガキ!!」

「あべっ!?」

 

 アホな事を吼えたスミスに自警団の人が拳骨を落とす、少女も侮辱はしてるのだが先に怪我を負わされた被害者なのでその場の誰もツッコミは入れない。つか、貧乳って言われたときにちょっと悲しそうな表情が見えてしまった。何気にこのやり取りで四葩から殺気が漏れているのはパーティの中で控え目だからだろうか?

 

「紳士ってのはそこの人みたいに、見ず知らずの怪我人に回復薬を使ってくれるような人を言うのよ!」

「偶々持ってただけだろ、それで紳士扱いするか!?」

「偶々でも誰より早く助け起こして心配してくれたなら、それは立派な紳士じゃない!!」

「タタラ殿、また誑しているのですね」

「またとか言うな」

 

 意図してねぇし、なんなら普通に心配しただけだぞタチア。

 

「それに、回復薬の金とか請求されたらどうすんだよ。それでも紳士か?」

「請求すんならお前にだぞ、変態小僧」

「ゔぇ!?」

 

 何を当たり前の事を言っているのか、事故を起こした張本人に請求するに決まってるだろこんな事。

 

「な、なっなな!?」

「安心しろ、相場の150だけの請求にしてやる。それなら払えるだろ?」

「や、その……お金が。そうだ、代わりの回復薬を!」

「いや、現金だけ受け付ける」

「え、なんで!?」

「済まないが、変態には容赦するなと家訓が有ってな。子供だろうと変態には容赦しないぞ俺は」

 

 まぁ、そんな家訓は無いのだが。

 このスミスをある程度矯正する為にはこの辺キッチリしてないと駄目そうなので容赦はしない。現物を納める事を許さないのは、教会でシスター・カレハに頼んで譲って貰ったりする事を防ぐ為だ。

 仮に原作のサブイベントが起こったとして、シャムスとエストに最悪の結末を此奴の選択肢で起こされたらたまった物じゃ無いので変な狡賢さは早めに潰しておきたい。

 

「序に言わせて貰うなら、この子を怪我させた事は別問題だ。治ったからチャラ、なんてのはこの子が決める事だからお前に言及する権利は無いぞ」

「え」

「怪我させたのはお前、治したのは俺の回復薬。お前にこの子を治療した実績は無い、分かったか?」

「そ、そんなの……」

「ああ、嘘だの虚偽だの言うなら軍神様の神官に声掛けするからな。公平と公正を齎す為に嘘を許さず真実と事実を詳らかにする魔法とか持ってるから、この子に証言して貰えば一発だ。なんなら証言に俺が参加しても構わないからな」

「それなら俺達自警団も証言しよう、お前の余罪含めて正しく裁いて貰うからな!」

 

 俺の言葉に自警団の人も乗っかり、逃れられないと理解したスミスが項垂れる。悪の栄える試し無し……まぁ、悪と言うか魔神が多いのでコレを言える世界とも言えないのだが。そうして観念したスミスを連れて行く自警団の人達を見送ると、少女が俺に向き直ってくる。

 

「その、怪我の治療とさっきの証言についてとか本当にありがとうございます」

 

 先程の怒りの雰囲気は何処へやら、落ち着いた雰囲気で改めて礼を言う少女。俺は何でもないという雰囲気で言葉を返す。

 

「いいえ、単なるお節介ですから気にしないで下さい。何か有りましたら開発区の『Forgeron』ってクラフト店まで、そこの店主やってますのでお手紙を貰えたらお手伝いしますよ」

「親切にありがとうございます」

 

 少女は口元を手で隠すようにして笑う、所作に躾が見えて育ちの良さを感じるな。なんだかそれが余計に少女への既視感を齎すのだが、本当に誰だろうこの子。

 

「ご主人、そろそろ帰るでござるよ」

「そんなに時間食ってたか?」

「10分程じゃが拘りすぎると少女の男性観を破壊しかねんからな」

「俺の扱い酷くないか?」

「少なくともこの場の3人分は破壊してますから妥当ですね」

「……ふふ」

 

 俺達のやり取りを見ていた少女は思わずと言った風に笑う。

 

「彼女さん達に嫉妬させてしまいましたね」

「いや、そんな重い物じゃ無いが」

「成る程、店主さんは鈍感さんなんですね」

「分かってくれるかのう?」

「何となくですけどね」

 

 あれ、また俺の味方が居ない流れかこれ?

 

「それでは失礼しますね」

「ええ、帰り道には気を付けて下さい」

「ふふ、年下に敬語は不要ですよ店主さん」

「……そうか、なら気を付けて帰れよ。あの変態が抜け出してまたぶつかるかも知れないからな。それと俺にも敬語は要らん、歳もそこまで離れてなさそうだしな」

「あはっ、そうするね!」

 

 やり取りが面白かったのか、楽しそうに答える少女。

 

「そうだ、私はカトレア。お兄さんは?」

「俺はタタラだ」

「タタラさんね、バイバイ!」

 

 最後に自己紹介を挟んで俺達は別れた。しかし、カトレアか……原作ヒロインじゃねぇか。

 カトレア・ルドベキア──それが彼女のフルネームだろう、原作では髪型がツインテールだったが髪色は同じ。戦闘スタイルはゴーレムクラフターで、彼女自身は魔法使いとしての才能は高くない。しかし、クラフターとしてはそれなりに才能が有り『ゴーレムクラフト』スキルと合わせて『クラフト』スキルを合わせると非常に頼りになるキャラだった。個人的にはスミスが持つ作中で言及されなかった何かしらの才能を抜きにすれば、スミスよりもクラフターとしての才能は高かったように思う。キャラの役割としてはスミスの変態行動を諌め、叱るキャラである。正直キャラの性格としてはヒロインで一番好きな部類だった。

 まぁ、これから先関わる事は殆どないとは思うが。

 彼女がスミスの店に訪れる切っ掛けは確かゴーレムの素材欲しさだった筈、店の立地から高額で希少な素材が取り扱われている裏の店と勘違いしたカトレアがやってきた事が切っ掛けだ。そこで女と見れば発情するスミスがナンパを敢行して彼女を怒らせ、盛大な喧嘩の果てに一緒に探索して素材探しを手伝う流れになる。

 他のキャラと違い攻略には30階層の『オリハルコンゴーレム』を倒して特殊なアイテムを入手する必要が有るので、高等部卒業課題の20階層を越える必要が出る事も印象に残る。

 仮に俺の店に来たのなら正式に探索者として依頼を受ける必要が出るだろう、俺達ならほぼ苦戦しないとは言え普通に考えるなら『オリハルコンゴーレム』は強敵なのだ。確か彼女の実家は太かった筈だから、依頼料を払えなくは無い。それにバカが受ければ依頼達成に問題は無いだろう、原作のようにスミスに関わったらどうかは分からないが逃げ道は有る。

 

「ご主人、さっきの女の子についてでござるか?」

 

 少し考えに耽っているのが伝わったのか、一華が声を掛けてきた。

 

「ああ、変態の証言を頼まれたら時間作らなきゃなって」

「……実はご主人、家の警戒をしている時に何度か覗こうとしてた連中の中にあの変態が」

「コロス」

 

 子供だろうがなんだろうが、やっちゃいけない事って有るもんだよな。エテルを筆頭に家に居る住民を覗こうとした犯罪者は処さねばならない。『電動鋸(ドレッドノート)』で削るか、『火炎放射器(メルフラフスピンテール)』で火炙りかの何方がより相応しいか。

 

「おう、タタラ。怨念纏うのはやめるのじゃ」

「そうですタタラ殿、落ち着いて欲しい。私の時の様な暴走は駄目です」

 

 そうだ、あの騎士見習い達にも鉄槌を下さなきゃならないのを忘れていたな。やはり滅ぼさなければならないな。早速インベントリから武器を取り出す、商店区からなら騎士学校も大して離れていないし早速燃やしに行こうか。

 

「ご主人、止まって欲しいでござるよ」

 

 そんな俺の前に立って制止してくる一華、その目は何かを成そうという決意が見えていて何をしててでも俺を止めようという意思を感じる。

 

「止めるな一華」

「いいえ、止めるでござる。何をしててでも止めさせて貰うでござるよ」

 

 四葩とタチアも俺を取り押さえようとしている。ダリアは居ないが四葩と一華は存在昇華も果たしていて筋力が増して居る。俺を取り押さえるのに足る身体能力を発揮するだろう。

 

「もし、止まってくれないのなら拙者にも考えが有るでござるよ?」

「へぇ、何をするって?」

「泣きます」

「……へ?」

「泣きます」

 

 一華のその言葉に呆気に取られてしまう。一華が泣く、俺のせいで泣くのか?

 

「いや、一華?」

「そりゃもう大声で拙者とお腹の子を捨てるのかと叫びながら縋り付いて泣きます」

 

 頭に登ってた血が一気に下がるのを感じる、一華を泣かせた挙句にそんな事を言われたら精神的にも社会的にも死ぬ。

 

「い、一華よ……もう少しこう手心というやつをじゃな?」

「四葩、今の拙者なら嘘泣きでも何でも無く本気でご主人に泣き縋れるでござるよ?」

「本気でやめい」

 

 四葩と一華のやり取りからは本気しか感じられなかった。俺はいそいそとインベントリに武器を戻して、一華に向かって頭を下げる。

 

「やめるので本当に勘弁して下さい」

「分かればいいでござるよ」

 

 エテルに続き一華に一生勝てない事を刻まれた気がする……尤も、一華がこんな事を言い出すのは俺がやらかしてる時に限るだろうけど。

 

 

 そんなトラブルが有りつつも帰宅、汗を洗い流した後に俺と一華はキッチンに入り夕飯の準備を始める。四葩とタチアはバカ達に合流して稽古をしている、タチアが誘った様子だが恐らくは学生運動時に備えた対人戦の訓練だろう。一応、俺も誘われたがカラムスさんに逃げろと言われる程に才能が無いので辞退させて貰った。いざとなったら砲撃でも焼夷弾でも何でも使うので俺に必要なのは容赦の無さだけと言ったらドン引きされた。尚、一華は『投擲』スキルを活かしたいからと俺に焼夷弾を注文してきた。後で作って渡す事を約束している。

 夕飯の準備としてオーブンを温める、温度は200から250℃の間に設定。その間に鍋を二つ用意してお湯を沸かしつつ鶏肉と玉葱、人参を一口よりやや小さめに切り分ける。沸いたお湯に塩を一摘み入れてからマカロニを投入、茹で上がったら笊に挙げてからオリーブオイルを少量掛けておく。もう一つの鍋では馬鈴薯を茹でて、茹で終わったら冷水に浸けた後に皮を剥く。次にフライパンに油を敷き、中火で熱してから鶏肉を入れて焼く。焼き目が付き始めたら玉葱を入れ、火が入り始めたら人参を追加して火を通す。一旦火を留めた後に小麦粉を振りかけた後にバターを投入、弱火に掛けながら小麦粉とバターを馴染ませつつ具材に絡ませる。小麦粉の白い色合いが無くなるまで火にかけた後に牛乳を入れて、火を少し強めてから軽く混ぜながらとろみが出るまで火を入れたら追加で牛乳を投入。同じ工程を計3回行ったら、理想的なとろみになるまで混ぜつつ火にかける。適切なとろみになった所で火を留めて塩と胡椒を振り、マカロニを入れる。マカロニがくっつかないように軽く解したら具入りホワイトソースの完成。

 耐熱容器に馬鈴薯とホワイトソースを入れ、その上に細かく切ったチーズを乗せてオーブンで焼く。表面に焼き色が付いたらグラタンの完成だ。早めに作ったが、今日はバカや糞野郎にも喰って帰って貰おうと思っての判断だ。……陽出國の料理にしようと思ってたのに、スミスとの接触ですっかり頭から抜け落ちてたな。

 出来上がったタイミングで外を見れば、丁度鍛錬が終わっている。思った通りのタイミングなので心の中でガッツポーズをする。

 蒸しタオルは難しいがお湯で濡らしたタオルを絞り用意する。

 

「夕飯が出来た、全員分用意したから汗拭いたら食ってくれ」

 

 そうやって声を掛ければ全員の顔が明るくなる、其々がタオルを取って身体を拭いていく。

 

「いやぁ、温かい布で汗拭くの気持ちいいもんだね?」

「蒸しタオルの方が丁度いいんだけどな、飯の用意優先したから濡れタオルで我慢してくれ」

「いや、コレでも十分に心地良いぞ」

「シャワーは難しいけどコレなら手軽だしな」

 

 豪快に上を脱いで半裸になった男勢はそんな感想を言いながら身体を拭いていく。糞野郎すら嫌味でも何でも無く感想を零している辺り、本気で気持ちいいのだろう。

 因みに女子勢は檜風呂へ入って身体を拭いているらしい、男勢が脱ぎ出した時点でその場から立ち去った辺りに恥じらいが見える。

 

「しかし……君、胸の筋肉が育ったんじゃない?」

 

 糞野郎がバカの身体を見てそんな感想を言う、俺も確認するが全体的に大きくなった印象なので胸筋を強調する必要が有るのか疑問だ。

 

「そう言う宗矩も腕が太くなったように見えるが」

 

 当主代行がそんな糞野郎を見た感想がコレである。

 

「そんな事を言うご当主も腕の筋肉また硬くなってないですか?」

 

 そう答えた糞野郎は当主代行の腕を触った後、続いてバカの腕を触って笑う。

 

「それに比べて君はまだまだ柔らかいね……それとも柔軟の影響かな?」

 

 うん、なんかよく分からないけど薔薇の香りがして来た気がする。何だこれ?

 

「ふむ……何時身体を鍛えているのかね?」

「えっと、家族が寝静まった後に……ですかね」

 

 当主代行の質問に答えるバカ、何だこれ。何でこんなに危うい雰囲気が出てるんだ?

 

「……飯が冷めるんで会話は飯の時で良いですか?」

 

 俺の言葉に3人はハッとなり、慌てて身体を拭いていく。何時迄もそのままじゃ風邪をひくだろうし、あの変な空気をさっさと霧散させて欲しかった。

 

 

「素晴らしい、焼けた乾酪の下に牛酪と牛乳による濃厚な甘みを含んだ出汁! 茹でられつつも形を残す馬鈴薯はそぉすに旨みを追加し、更に具材も風味を齎す為に味に深みを持たせている! 内に入れられたまかろには歯応えを残しつつもそぉすを纏う、この為にそぉすを喰むと言う愉しみを齎しています!! 粘性を持ったそぉすが舌を包み逃れられない旨味の檻へと捉えて離さず、繊維が解けていく鶏肉や溶けるように消えていく人参の何と素晴らしい歯応えか!!」

「最早慣れましたわね、雛菊の食事賛歌」

「三日もすれば慣れる物なのですね」

 

 なんだかんだ聞き続けていると慣れるというか聞かないと物足りなくなる雛菊さんの食レポ、そう言えば糞野郎は初聞きだけどどうなんだ?

 

「その語彙力を育成に活かせれば稀代の教育者に成れたかもね……」

 

 割りかし本気で言ってそうだな。そう言う此奴はグラタンに対して静かに味わって食べている……マグロの時は変な絡まれ方こそしてたけど、食ってる時は結構行儀良いな此奴。

 

「雛菊さん、こうしてくり抜いたパンの中にグラタンを入れて食べても美味しいですよ?」

「なんと……むむ、コレは食べ易く成りつつもぱんの旨味が追加されて素晴らしい!!」

 

 お供として用意したバターロールをくり抜いてグラタンを詰めたパン、よくグラパンなんて呼んで一緒に食ってたやり方を雛菊さんに教えるバカ。言葉は少ないが称賛する姿にバカも御満悦である。

 そんな二人の姿を難しい顔で見るいばらさんと、微笑ましく見守る三葉さん。何処で差が付いたのだろう、二人とも婚期逃してるのだが。

 

「四葩、久し振りの此方の飯はどうだ?」

「んむ、やはりタタラの作るご飯は美味じゃのう。コレ、鶏肉以外に……鮭なんかにしても美味そうじゃの?」

「おぉ、お目が高いな。魚介を使ったシーフードって種類も有るぞ、鮭以外でも海老や烏賊なんかを入れても美味いんだ」

「むむ、寒い季節にそちらも食べてみたいのじゃ」

「その時は醤を出汁として使ってもいいでござるな」

「夕飯を食べているのに腹が減る会話をするでない」

 

 四葩に感想を聞けば別のレシピの事に広がってしまった。一華もノッてアレンジを提案するくらいだが、当主代行は困った表情で俺達を諌めてくるのだった。

 

 後は焼くだけで終わるグラタンをバカに持たせて、雛菊さんに送って貰う。同じタイミングで帰る糞野郎だが、多分アレはバカの奴の護衛も兼ねているのだろう。途中で別れるとはいえ、雛菊さんより強いであろう彼奴が一緒なのは安心感が有る。

 パーティメンバーの装備の整備をして、日課の『空裂』を打ち終わってから入浴。汗を流した後に自室に戻る、明日も予定は無いので探索に向うかな。スキルレベルを上げるのもそうだが、ステータスアップアイテムを集めてタチアの存在昇華に備える必要も有る。

 そんな事を考えていると、控えめなノックが聞こえて来る。何かと思い扉を開けると、そこにはバスローブ姿の一華が立っていた。

 

「一華か、どうした?」

 

 俺の問い掛けに対して、一華はバスローブの前を開く事で答える。今日の探索で手に入れた『えっちな下着』を装備して、蕩けた表情をした一華は言葉を紡ぐ。

 

「タタラ様、お情けを下さい」

 

 その言葉に、俺の中で何かがキレる音がした。




滲み出す愛液の染み

不埒なる叡智の器

勃ち上がり、否定し、滾り、扱き、眠りを妨げる

破瓜する鉄の処女

絶えず自慰するエロの人形

結合せよ、反応せよ

恥に満ち、己の無力を痴れ‼

理媚道の九十六

『黒下着』‼‼


オマケ

「えへへ、『グラディウス』……僕のパートナー!」

 名付けたアーレムを抱き締めて、少年は笑う。心の底から幸せだと伝えるような、見ている側も幸せになるような笑顔だ。作った店主としてもここまで喜ばれるとは思っておらず、謎に低い自己肯定感が刺激されて御満悦である。

「アーレムの公式大会はまだ先だから、近いうちにアリーナで試運転するといいかもね」
「試運転……ですか?」
「そう」

 店主の言葉に疑問を持った少年に、店主は説明していく。
 出来たばかりのアーレムは、コアからの魔力を流す事に慣れておらず非常に動かし難い。殆どの持ち主は興奮のあまり家で軽く動かすなどして試運転をしていたが、出回り始めてすぐの頃は手に入れた子供が興奮して暴れ回らせた果てに家屋を半壊させるような事件が何度もあった。それにクレームを貰った開発者は『先ずは子供を躾けろよ』と思いつつ、安全策として魔力からの年齢確認とアリーナのバトルフィールドから発せられる特殊な波長の魔力を受けなければアーレムが動かない機能を追加した。余談だが、『大人のやらかしまでは知らない、自己責任』と突っ撥ねてたりする。
 とどのつまり、少年はアリーナに行かなければアーレムを動かす事が出来ないのだ。

「そ、そうなんですね……」
「うん、だから近いうちにアリーナでアーレムを動かして魔力を馴染ませてあげるといいよ。君の相棒はまだまだ赤ちゃんみたいなものだから、先ずはハイハイを覚えさせるつもりでね」
「あの、よく分からないです」

 この少年、子沢山な世界の割に珍しい一人っ子である。その為に店主の例えはかすりもしなかった。

「そっか、まぁ取り敢えず相棒と息を合わせる為にアリーナで動かしなさいって事だよ」
「はいっ!」

 説明に困った挙句やや雑に店主は要点を伝え、少年は素直に返事をした。
 それから少し日を跨ぎ、少年は都市内最大のアリーナまで来ていた。『タタラアーレムアリーナ』という世界で初めて出来たアーレムの施設に圧倒された少年は、入口前で呆けたように建物を見上げていた。

「こ、此処が……」

 世界で初めて作られたアリーナと言うある意味でアーレム関係者の聖地を前に、少年は震えていた。感動からなのか、それとも畏れからなのかは分からない。分からないが、少年の鼓動は高鳴っている。

「コレから僕もアーレムマスターに」
「おい、邪魔だ!」
「うわぁ!?」

 固まっていた少年を後ろから来た誰かが突き飛ばす、悲鳴を上げてつんのめる少年だがなんとかバランスを取って背後に振り返る。
 そこには少年より頭一つ分程の身長で人相の悪い少年が取り巻きを連れて立っている。

「危ないじゃないか、何するんだ!」
「……なんだ、クラスのチビじゃねぇか」

 文句を言う少年に対して誰かを認識するまで時間が掛かった大柄な少年は、面倒そうに言った。

「危ないって言うけどよ、入口前で立ち止まるやつも迷惑だろ。俺はそれを退かしただけだぞ?」
「だからって突き飛ばすことはないだろ!?」

 何方の言い分も一定の正しさは有るが、公共施設の入口を塞いでいた少年の方がやや悪いだろうか。因みに、少年には聞こえて無かったが大柄な少年は取り巻き達とのそこそこ大きい声で会話しながら歩いていた上に立ち止まっていた少年に三回ほど声を掛けてたりする。コレを加味したら少年の方が悪いだろう。

「突き飛ばされたくなけりゃ往来の邪魔すんな、面倒臭い奴だな」

 嫌な表情をしながらそう言い残して大柄な少年はアリーナに入っていく、心底面倒臭かったのが見て取れる。そんな大柄な少年を睨んでいた少年だが、少ししてからアリーナへ入っていく。

「いらっしゃいませ、ようこそアーレムアリーナへ!」

 受付のお姉さんにそう言われ、少年が何度目かの緊張状態に入る。

「あ、あのあのあのあの!?」
「はい、どうしました?」

 焦る少年に受付嬢は笑顔でゆっくり問い掛ける。ここ何年かでこう言った子供に対応してきた為だろう、とても慣れた反応だ。

「は、初めてアーレムを試運転で動かすのですが!」
「はい、フィールドの使用ですね。入場料は子供料金で500リラになります」

 因みに、入館料は大人1500リムで子供500リムに統一されていてフィールドの使用は基本無料で終日利用可能だ。大会が開催されて無ければ誰でも自由に使えるのでかなり良心的だと思われる。
 少年の上擦り意味が重複している言葉に微笑みを崩さず答えた受付嬢に対して、少年は財布から500リムを取り出して渡す。受付嬢は金額に誤りが無いことを確認し、改めて少年へ顔を向ける。

「丁度頂戴いたしました。それでは……ようこそいらっしゃいました、新たなアーレムマスター。貴方の進む苦難の道の先に、誇りと栄誉のあらん事を」

 そう言葉を告げて送り出す。尚、コレはアーレムの開発者が一生懸命考えた初めてアーレムをフィールドで使う相手に向けて言うサービスである。このアリーナの受付嬢の条件として、この台詞を馬鹿にせずかつ恥ずかしがらずに言える事が条件に含まれていたりする。

「誇りと、栄誉……」

 難しい言葉は分からないが、少年は心が沸き立つのを感じた。コレから自分がアーレムを操るアーレムマスターとなるのだと、胸の鼓動が強くなっているのを感じる。
 胸の熱に促されるように進み、そこへ辿り着く。

 高い天井、広々とした空間。その中央に用意されたフィールド。
 自由にアーレムを操り調子を見る者、脇に寄って戦う者、装備の組合せを試す者と様々だ。
 自分もコレから此処でアーレムを動かすのだと、遂に憧れの舞台に立てるのだと少年は胸を躍らせて歩み出す。

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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