※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント進行中

皆様、新年明けましておめでとう御座います。
今年も可能な限り更新を頑張らせて頂きます。


……冬休み気分で執筆休んでたら書けなくなってました、やはり書き続けなければならない。鮪が如く進み続けなければ駄目なんですね。


まるで転がる石の如く

 ガチ凹みしている一華を慰めながら地上へと戻る。時間は昨日よりも少し早く戻れたので空もまだ明るいままだ。今から家に帰ってもやる事は夕飯の仕込みくらいの物で、昼食は三葉さんが作っているだろうから帰ってもやる事が無い。

 

「……帰ってもやる事が無いな」

「む……うむ、みつ姉上が昼食を嬉々として用意しているだろうからのう。タタラと一華がやる家事は無いのう」

 

 思わずこぼした独り言に四葩が少し考えて答えた、やはり四葩としても三葉さんが家事好きで率先して仕事をしている印象みたいだな。しかし、みつ姉上か……ちょっと呼び方可愛いな。

 

「私と四葩殿はこのまま帰って鍛錬に参加するのもよいですね」

「うむ、手加減の有無は兎も角剣を振るうのは大いにアリだのう」

 

 タチアと四葩はそのまま帰ってからバカの鍛錬に参加するつもりらしい、俺は日課である『空裂』の作成は日の終わりに定めているから工房に籠る理由も無い。

 

「……ご主人、ずっと前の約束を覚えているでござるか?」

 

 考え込む俺に一華が声を掛けてくる。

 

「約束?」

「ええ、その……胃薬の素材を一緒に買うっていうのでござる」

「……ああ、財務長に胃薬を分けてくれって頼んだ時のだな」

 

 胃薬と言われて思い出した、確かに一緒に買いに行く約束をしたが色々有って果たして無かったな。

 

「今それを言うってことは、コレから一緒に買いに行きたいって事で良いのか?」

 

 俺の確認に小さく頷く一華、四葩とタチアに視線を向ければ2人も頷いてくる。

 

「分かった、じゃあ2人で行こうか」

「はいっ!」

 

 了承を伝えると満面の笑みで答える一華、探索装備のままなのは色気が無いがそれは次の時にキチンとしよう。先ずはこの可愛い愛狐の笑顔を守る事が優先だ。

 そのままタチアに四葩を連れ帰って貰い、一華と肩を並べて商会へ向う。都市祭期間は飲食店くらいしか店舗が営業してないので、素材の類は商会へ行かないと無い。一華は俺の腕を抱いて、肩に頭を預けて一緒に歩く。覗き見た表情は穏やかかつ幸せそうな笑顔で、周囲からも微笑ましい視線を集めている。まぁ、一部からは怨嗟の混ざった物ではあるが。

 少しして商会へと到着し、胃薬の素材を見る。使う素材は俺にはあまり馴染みがない物で、そこへ香草や香辛料を追加している。飲みやすさはこの香草と香辛料の組み合わせだと思うが、多分薬効も有る物を選んでいる。組み合わせて効果を出す物だとは思うが薬に関しては勉強していないし、スキルも無いのでちんぷんかんぷんだ。俺にはせいぜい乙女様が広めてくれた回復薬や毒消しくらいしか作れないが出来ないところを支えて貰えると思うとそれはそれで幸せだろう。

 

「むむ、ご主人はどんな風味が好みでござるか?」

「そうだな……生姜とか、林檎や蜜柑辺りかな」

「玉子焼きでは無いのでござるね」

「薬に求める味じゃねぇだろ、一華の玉子焼きは大好きだけどさ」

 

 俺から味の好みを聞いて合わせようと思ったのだろう、質問に答えるとそんな誂いの言葉が飛んできた。苦笑いしながら答えれば一華も笑顔を浮かべている、どうやら落ち込んでいたのは持ち直しているらしい。

 なんか物凄く苦い顔をしている商会の女性職員さんから素材を買う一華だが、支払いは俺がする。この辺はもう家計の一つとして計上しようと思う。

 

「あの、ご主人?」

「今後、買った時には領収書を貰って来い。家の帳簿に付けるし補填するから」

「きゅうん……それじゃ拙者が甘え過ぎてるでござるよ」

「家族なんだから遠慮するな、一番稼げるの俺なんだしな」

 

 店を開かなくても最低1000万は収入が保証されているし、税金を引かれるとは言え来年からは虎熊家から年間10億の家庭用魔力炉の使用料が入る形になる。一華とその子供くらいは生涯食いっぱぐれることは無いだろう、それくらいの財産は遺してやりたいし無理なく残せると思う。

 額にぶっとい血管を浮かせた女性職員さんから品物を受け取り、商会を出る。そのまま会話をしながら道を歩くと、ここ最近は降っていなかった雨が振り始めた。2人並んで家に向かって走る中、共有アクセサリーから慌てた雰囲気の『念話』が届いた。

 

『タタラ、聞こえるか!?』

『届いてるが、どうした?』

 

 何時もは冷静な四葩から届いたその焦り声に、意識を切り替える。

 

『先に一つ、落ち着いて聞け……エテルが此方に戻った』

 

 その言葉に、心臓が大きく動く。四葩が戻ってまだ間がない、それでもエテルが戻ると言うのはお義母さんが頑張ったのか?

 いや、あのお義母さんでもエテルの教育を即座に終えるのは不可能だろう。恐らくはエテルの独断で戻って来た筈だ。

 

『……様子はどうだ?』

『少なくとも常の雰囲気では無かった、何よりも戻って来た瞬間に飛び出して行きよった』

『……なに?』

 

 つまり、エテルは家から何処かへ向かった?

 行動が読めない、エテルは何故此方に戻る事になったのだろうか?

 

『母上も此方に一緒に来たが、どうも我が家の転移門を己の魔力で起動させて来たようじゃ』

『エテルの魔力量なら一度くらいは出来るか』

『それにのう、抑えようとした屋敷の私兵の魔力を軒並み吸収してから此方へ飛んだらしい。母上は御守のお陰で無事じゃったが、屋敷に残った兵力は殆どやられたそうじゃ』

『相変わらずの『性魔術』無双だな』

 

 広域のエナジードレインで大貴族の屋敷一つの戦力を行動不能にするとか相変わらずのぶっ飛び具合だ、後でお義母さんに謝らないとな。

 

『問題の一つは、エテルが何処に行ったか分からぬ事じゃ』

『分かった、俺も探す』

『頼む、妾にはこの都市の土地勘が無い』

『一人で探したら迷子にもなるしな』

『帰ったら殴るぞお主?』

『すまん』

 

 軽く茶化せば割と本気で怒られたので素直に謝罪するが、その間も頭の中でエテルが向かいそうな場所を考える。

 エテルは交友関係が狭い、悪い言い方をするなら友達が居ない。この都市の中で仲良く話せる相手が俺と共通する人間くらいで、それも全員と言う訳じゃ無い。エテルに俺の知らない交友関係が有ったとしても、俺には心当たりが無い。最初期の探索時に関わった相手とは二度と組まないと言われたらしいし、学園内で専門実習では仲のいい相手が居ないとバカからも報告を受けている。

 そんなエテルをヒント無しに探す、しかも当人は『隠密』を筆頭に姿を隠すスキルのレベルが総じて高い。探せるのか、突き放した俺に?

 

「ご主人!」

 

 そんな俺を叱り付ける一華の声、その声に思考がドツボに嵌りかけていた事を理解する。

 

「悪い、一華」

「構わないでござる。けれどご主人、此処で迷っては駄目でござる」

 

 俺の頬に両手を添えた一華は真剣な表情で俺を見据える、視線と言葉が俺の心を打つ。止まろうとする俺の心を動かす為に、一華は本当なら言いたくないであろう言葉を俺にぶつける。

 

「赦す、赦さないはご主人が決めることでござる。けれど、今此処で動かないと一生後悔するでござるよ!」

 

 頬に添えられたその手は震えていて、本当なら俺を送り出す事を恐れている。エテルの元へ行って帰ってこない、そんな恐れを抱いている。

 

「……分かった、探しに行く」

「ご主人っ!」

「ただし、一華は直ぐに家に帰ること。雨に濡れて身体が冷えるとか妊婦のお前に良くないんだからな!」

 

 共に連れてはいけないと伝えれば、一瞬の逡巡の後に頷いてくれた。ただ、その表情は不満そうである。

 

「頷いてくれ、そうしないとエテルを探しにいけない」

「……心当たりは有るでござるか?」

「無い」

 

 一華の確認に堂々と答えると呆れた表情を浮かべられる。だが、心当たりも予想もいらないのだ。俺とエテルならきっと。 

 左手の薬指から熱が伝わってくる、エテルと繋がりの証がその存在を教えてくれているかのようだ。しかし、そんな物は要らない。必要ない。これは俺自身が成さなければならない事だ、だから今は引っ込んでろ。その思いを汲み取ったのか、『悠久の誓い(エンゲージリンク)』からの熱が失せる。しかし、不安は無い。

 

「一華、くれぐれも身体を蔑ろにするなよ?」

「もう……分かっていますよ、旦那様」

 

 ふと、本来の一華が顔を覗かせる。そこには少しの悪戯心と寂しさが感じられて、俺は一度だけ唇を重ねてから背を向ける。

 駆ける中で水の跳ねる音を響かせて道を走る、雨脚は強くなって周囲の音をかき消そうとしている。エテルが息を潜めたのなら発見するのはきっと不可能、『聞き耳』スキルは殆ど役に立たないだろう。

 何処を探すべきか、簡単とは言えないが足が自然とある場所へ向う。ここ最近降っていなかった雨が、あの日を思い起こさせる。

 商店区からダンジョンへの道を遡る、雨から逃げて行く人の間を縫って走る。ほんの5分程走って、そこへと辿り着く。周囲には人影は無くて、俺一人だ。

 

 いや、そこに一人だけ別の人影が有った。

 

 建物の間にある僅かな隙間、そこで膝を抱えて座り込む人。水を吸い透ける薄い白の衣服。雨に濡れて体温が下がったのか、不健康な白さを持つ肌が服から透けて見えている。地に届き広がる菫色の髪。腰から伸びて背で畳まれている濃い黒色をした翼。

 

「──おい、そんな所で何をやってるんだ?」

 

 声を掛ければ一瞬身体が震えた。この雨音の中でも声は届いたらしい。

 

「風邪をひくぞ、早く家に帰れ」

 

 あの時掛けた声はどうだっただろう、積み重ねた時間が重過ぎて遠い日の記憶が定かでは無い。

 

「家出か、それとも帰る場所が無いのか?」

 

 呼び掛けに応えない、けれどあの時に近いであろう言葉に僅かに身体を震わせる。いや、身体が濡れたが故の寒さで震えているのかも知れない。

 

「……あの家は、もう帰るに値しないか?」

 

 あの時とは違う言葉を向ける。

 

「お前のそれは恐れか、悲哀か、後悔か……何かはもう俺には分からない」

 

 エテルと離れて、そこから少しだけ俺の周囲は変わった。人との付き合い方、向き合い方……寄り添い方。俺は今までエテルを保護していたが、心を育てていなかった。前世から続く俺の精神はまだ未熟なそれで、育てられるような物では無い。

 

 子供が子供を支えようとして失敗した、それが俺とエテルの現状だ。

 

 エテルの心はあの日、この場所で出会った時から進んで居なかったのかも知れない。他者を慮る下地は有ったが、それだけ。両親が築いた礎だけでそこから俺は探索者としての知識くらいしか与えて無かった、肌を重ねてはいたが情操教育をしていた訳でも無い。だからこそあの時互いに子供の癇癪と同じ事をしてしまった。

 

「答えてくれ、お前は何をしに此処へ戻って来た?」

 

 雨に打たれるエテルは答えない。

 

「何をしたくてあの門を潜ったんだ」

 

 エテルは答えない、俺の言葉に打たれる続けている。

 

「大人に叱られたく無かったのか?」

 

 お義母さんの躾から逃げる理由、親から叱られたくないからなんてそんな子供みたいな抵抗なのか。

 

「居場所を無くすと思ったのか?」

 

 帰巣本能が根差した反射的な行動なのか……頼むから教えてくれお前は今何を考えているのかを。

 

「……黙っていれば誰かが解決してくれるって思ってるのか?」

 

 答えないエテルに向けて次の疑問を投げる。少し、その身体が震えた。

 

「なぁ、あの時……こんな雨の中で俺がお前に手を伸ばした事でお前から自分で立ち上がる力を奪ったのか?」

 

 エテルは俺の言葉を受けて身を震わせるだけ、動き出そうとしない。

 

「……ずっと黙りを続けるつもりか、また違う誰かに手を伸ばしてもらうまで」

 

 違う誰か、その言葉に一際大きく身体を震わせるエテル。何も答えようとしないその姿に溜息が溢れる。

 

「……コレが最後だ、返事が無ければそれを肯定と取るぞ」

 

 軽く息を吸ってから、心の奥に根差す物を吐き出すように言葉を放つ。

 

「あの時、俺がお前に手を伸ばしたのは……間違いだったのか?」

 

 その言葉の直後、胸元に軽い衝撃が走る。飛び出したエテルが抱き着いて来て、そのまま泣き腫らした目を俺に向けながら口をひらく。

 

「間違いなんかじゃない……間違いなんかじゃ無いよ!」

 

 それ迄の姿が嘘のように必死に訴えかけて来るエテル、涙か雨雫かは分からないがその頬を濡らしている。

 

「あの時、タタラに手を取って貰えたから私は私でいられた!」

 

 エテルは懸命に叫ぶ、叫んで俺に心の中を全て曝け出そうとしているかのように。

 

「依存かも知れない、執着かも知れない……それでも」

 

 言葉にして伝えようとすると想いの純度が下がるのがもどかしい、そんな風に思ったのか一度顔を顰めたエテルは言葉を切ってから一度息を吸った。

 

「それでも、私は貴方を愛しているの!」

 

 その言葉の後もエテルは言葉を続ける。

 

「私の知らない貴方の存在が嫌だった」

 

 縋るその頭をそっと撫でる。

 

「私が信じなかった事を信じたトラッちゃんの事が妬ましかった」

 

 その口から放たれる言葉は血を吐くかのように苦しそうだ。

 

「嫉妬に駆られて貴方に心無い言葉を向けてしまった」

 

 衝動がエテルの心を突き動かしているのだろう、あの日にした後悔を口にして自らを傷付けている。

 

「私に、貴方に捨てないでなんて言える権利は無い。そんなのは分かってる……けど、けれど……それでも私は貴方と一緒に居たい」

 

 泣き縋るエテルは懺悔の如くそう続ける。

 

「お嫁さんじゃなくていい、奴隷でも……性処理の道具でもいいから、お願いします……貴方の側に居させて下さい」

 

 その必死な懇願に少し心が揺らぐ、俺の中でエテルはまだ最愛のままだ。しかし、一つだけ引っ掛かっている。俺から話をそらしているのでなんだが、エテルはまだ謝罪をしていないのだ。その事に引っ掛かりを覚えているのは俺の狭量か、それともエテルの中で俺の怒りの理由を理解していないからか。

 もし此処でコレが肯定されれば決定的に決裂してしまうだろう、俺の中でエテルという存在が敵に認定される。

 今の関係を続けるのなら避けた方が無難であろう。しかし、コレを避けて目を背けれ続ければ同じ事が繰り返されるかも知れない。

 それでは駄目だ、エテルの心が何時までも成長しない。それはきっと四葩やタチアとの仲すら壊すきっかけになり得る物だ。

 

「なぁ、エテル」

 

 だから、俺は踏み出さなきゃならない。察して貰おうなんて甘えでは無く、追及して相手に考える事をを促して他者を慮る事を出来るようにしなければこの先エテルの人生で傷を残し続ける。

 

「最後にコレだけ聞かせてくれ」

 

 俺の胸に埋めていた顔を上げて、充血している目を向けてくるエテルへ最後の質問を投げ掛ける。

 

「どうしてあの時俺が怒ったのか、分かるか?」

 

 俺の言葉にエテルは首を横に振る、その姿に胸の奥に痛みが走る。

 

「あの時のタタラは私が童貞って誂った事には怒ってなかった」

 

 エテルは真っ直ぐに俺の目を見て答え合わせを始める。

 

「私に釣られてトラッちゃん達が責めた事は苦しんでたけど怒る理由じゃなかった」

 

 前世のトラウマを踏まれた事、それに怒りではなく苦しみを覚えたとエテルはそう分析した。その事に驚愕する、俺は怒りだと思った事に対してエテルは別の感情だと見ているのだ。

 

「私がずっとタタラの転生を信じて無かった事には諦めしか無かった」

 

 エテルは俺をよく見ている、誰よりも理解している。そう思っていた中で、俺自身より俺を理解している可能性が示して来た。

 

「失望も諦めも悲しみも有ったのは分かったよ。でもね、タタラは怒っては無かった」

 

 エテルの言葉に背筋が寒くなる、あの時俺が怒りと認識していた物が怒りでは無い……それならアレは何なのだろうか?

 

「タタラはあの時、私達を嫌いたく無かったから突き放した……コレは後から気付けた事なんだけどね」

 

 自身の迂闊さを自嘲するようなエテルの反応に戸惑う。

 

「タタラって、多分本気で怒った事って殆ど無いんだよね?」

 

 エテルの問い掛けに頷く、コレは『天使長』にも指摘されていた事だ。俺は怒り慣れていないとの指摘はきっと正しい、前世でもストレスは溜まっていても爆発したのは職場を辞める切っ掛けの時くらいだったように思う。

 

「多分ね、タタラが怒る時って相手との関係を切る事とイコールになるんだよ」

「それは……間違っては無さそうだな」

 

 あの時、俺が3人を認識していなかったのは3人に向ける敵意を抱かない為だと考えている。エテルの言うとおり俺の怒りと言うのは相手との関係の断絶、転生してこの世界に馴染んだ影響でそれが排除に大きく傾いているのだと分析する事もできるだろう。実際、俺は店で怒りを買った相手を攻撃して排除しようする傾向が強いように思う。

 

「だからきっと、あの時のタタラは怒りたくなかったの。けど、幾つも折重なった感情の置き場が分からなかったから私達に強く当たって遠ざけた」

「……そうか、怒りを向けて大切な相手を失いたく無かったからああして認識から外そうとしてたのか」

 

 嫌いになりたくなかったから無視をする、ガキっぽいな本当。我が事ながら呆れが湧いてくる。

 

「タタラ、ずっと貴方の言葉を信じなくてごめんなさい」

 

 エテルは真っ直ぐに俺と目を合わせてそうこぼす。

 

「あの時、私が切っ掛けになって貴方を囲うように攻撃してごめんなさい」

 

 エテルは俺の感じていた痛みを的確に捉えていて、謝罪の内容は全て正しい。

 

「貴方に、大切な人達を嫌わせるような事をしてごめんなさい」

「……うん、謝罪を受け入れるよエテル」

 

 もしかしたら、夢魔の特性で俺の心を全て理解しているからこうして謝っているのかも知れない。けれど、それでも……エテルが正しく謝ってくれたのなら許そう。

 コレだけ拗らせて、一度離れる程の回り道をしていても結局俺はエテルを好きなままなのだ。本当、救えないな俺は。

 

 

「成る程のう、タタラとエテルの間の事は本当に予想外になるのじゃな」

 

 エテルを連れ帰り、一華に頼んで檜風呂へ早急に送り出した後に事の顛末を四葩に語った感想がこれである。楽しそうでは有るが、同時な予想不可能な流れに対して複雑な心境が感じ取れる。

 

「なんか、俺に永遠に恨まれてもいいと納得した四葩に悪いというか」

「妾はむしろ、唯一とも言える立ち位置に満足しているがのう」

「無敵かお前は」

 

 ケラケラと笑って俺の言葉に返す四葩に思わず呆れの言葉を零すが、内心では助けられたとも感じている。タチアと四葩にはアレだけ拗れたのに、エテル相手にはそこまででは無い事に思う所が有ると思ったのだが……四葩からは特に何も無さそうなのは何なのだろうか?

 

「むしろ、妾は安心したのじゃ」

「何を?」

「妾の推す箱の尊さじゃ、唯一エテルだけは愛し続け即座に赦しておるのじゃからな!」

「箱推し鬼で俺達二人の全てに納得出来るお前がスゲェよ」

 

 正直、ちょっと四葩の事を侮ってた。自分自身の時に比べて関係修復の難易度が低い事に多少は眉を潜めると思って居たのだが、箱推しはそんな些事を吹き飛ばすらしい。

 

「本当、お前の精神は強靭だな」

「そうでも無いのじゃ、コレはタタラとエテルの関係を受け入れておるから耐えられるだけで他の者では切捨てておったのう」

「本気でヤバかったな俺」

 

 思わず安堵の息が溢れる。多分四葩の事だから俺ともう一人を斬った後は自ら腹を斬ってただろう、推しに助けられたとも言える。

 

「ところで四葩、気になってたんだが」

「なんじゃ?」

「どうして夫婦風呂に入って俺の背中流してるんだお前」

 

 鏡越しに視線を合わせてそう問いかければ、四葩は悪戯っぽく目を細める。因みに身体には確りとタオルを巻いている、まだエロ装備の『水着?』をドロップしてない事に助けられたと思う。

 

「実家で母上に仕込まれた技術の一つじゃ、上手いじゃろ?」

「確かに文字通り痒い所へ手が届くんだが、嫁入り前の娘が何やってんだよ」

 

 只管投げ飛ばされてたと言っていたが、夜にはそんな教育までしてたんかお義母さん。

 

「安心せい、仮にこの場で押し倒され花を散らす事になったとしても受け入れるのじゃ。むしろバッチコイ」

「色ボケに走るな迷家の令嬢」

 

 キャラまで迷子になんな。

 

「つか、当主代行に止められなかったのか?」

「父上は母上にタタラへの八つ当たりに関して折檻されておったから無かったのじゃ、みつ姉上は微笑んでおったし姉様は母上の技を見ていて気付いてなかったのう」

「三葉さんにはバレてんのな」

 

 あの人、四葩と俺の関係に寛容過ぎやしねぇかな?

 まぁ、お義母さんと当主代行も大分緩いからアレだけど。

 

「しかし、毎日鎚を振るって振るっておるからか良い筋肉をしておるのう」

「ステータスには反映されてないけどな」

 

 そっと背中に触れてそう言ってくる四葩、身体を褒められて少し恥ずかしくなってしまう。

 

「ふふ、そう言った目に見える物以外にタタラの努力は確かに宿っておる。妾は好きじゃぞ、この背中」

「……そうか」

 

 少し、どころではない程に恥ずかしくなって来た。本当、人誑しだろコイツ。

 

「お主にだけは言われたくないぞ」

「……声に出てたか?」

「いや、ただ何となくそう言うべきだと思ったのじゃ」

 

 なんだか俺の心を読む奴が増えて来た気がする。

 

「うむ、背中も綺麗に洗えたぞ。何気に髪も身体も綺麗にしておるのうタタラ」

「基本エテルと入って洗ってもらってたからな」

「うむ、ご馳走様じゃな!」

 

 俺とエテルのエピソードなら何でも美味しく頂けるのだろうか、流石は箱推し鬼。さて、背中を流して貰ったのだから次は俺が四葩を洗ってやる番だろう。俺が座ってた椅子に四葩を座らせて、タオルで巻いていた髪を解く。

 

「改めて見ると、やっぱり綺麗だよな四葩の髪」

「ふふ、ちょっとした自慢じゃよ」

 

 俺の褒め言葉に余裕を持って返す四葩の髪を丁寧に洗う、俺とエテルが使うシャンプーである事を申し訳無く思ったが流石は箱推し鬼と言うべきか、推しと同じ香りに興奮している。上級者過ぎないか?

 回復薬を含んだシャンプーにより汚れを落とされ傷みを癒された四葩の髪をリンスで保護する。丁寧に髪を扱い、満遍なくリンスを馴染ませた。風呂上がりにはさぞ艷やかになっている事だらう。

 再び四葩の髪をタオルで纏めて、次に身体を洗う。あの物理攻撃力を誇るとは思えない程に細く華奢な肩と背中、しかしそこに宿る物理防御は確かでかなり力を入れて擦らないと革質が落ちない。

 

「痛くないか?」

「安心せよ、妾の防御(はだ)はタタラの攻撃力では大した傷が付かぬ」

 

 事実では有るが少し傷付く。とは言え汗や土汚れ等を確りと落としてやれば。その褐色肌は艷やかに照明を反射する。その出来に少し満足する、気分は名工の彫刻の清掃員だ。

 

「目前の女に欲情せんのかお主は」

「生憎と一華に助けられたばっかりだからな、間違いを犯す程に溜まってはいない」

 

 口ではこんな事を言ってるが、実際の所は結構ギリギリでも有る。四葩はやはりスレンダー体型でスタイルが良い、見た目だけなら組み伏せる事が出来そうにも見える。が、実態はスキル込みの俺の物理的なステータスを1.5倍は上回っている。『性魔術』を使えば何とかなりそうでは有るが、四葩の意思を無視してやるような事では無い。

 湯船に共に浸かり、身体を温める。湯にタオルを漬ける事をよしとしない為に互いに全裸で、俺の上に座る四葩の尻肉の感触が色々な意味で愚息を刺激してくる。心地よさから息を吐いた四葩はそのまま俺に背を預けて来ていて、少し視線を動かせば控え目ながらも膨らんだ乳房や肌の色に反して薄い色の先端などが見える為に視線を逸らし続ける。視覚も感触も情欲を刺激してきて本気で辛い、『性魔術』で愚息をコントロールしていなければ今頃勃ち上がり四葩の腟内(なか)挿入(はい)っていただろう。

 

「心地良いのう」

「ああ、そうだな」

 

 心の底から感想を溢す四葩に答えるが、俺の気の無い返事に四葩は不機嫌になる。

 

「なんじゃお主、この湯加減に不満か?」

「馬鹿、動くな!」

 

 身を翻して向かい合ってくる四葩、当然そんな動きをされたら愚息は刺激されるし乳首が俺の身体を擦ってくる。そうなれば我慢している物も耐えられない訳で──

 

「ほほう、あいも変わらず壮健じゃのうこの多々乱棒は」

「お前、鬼包丁とか呼んで無かったっけ?」

「大きさで劣る鬼包丁に失礼じゃろうが」

「そっちなの!?」

 

 大きさ比較で可哀想だから失礼って、流石に鬼包丁に失礼では……いやそもそも比較に刃物を持ち出すなとも思うが。

 

「しかし、本当に大きいのう。尻溝に嵌って拡げておるぞ?」

「実況すんな」

 

 何処か愉しげな四葩に辟易しながら、何とか『性魔術』で愚息に集まる血流を操作して勃起を収めようとする。が、察した四葩が俺の首に腕を回して密着して来て失敗する。よりガチガチになった愚息を尻で感じてか、四葩も嬉しそうに笑った。

 

「ほれ、このまま致さぬか?」

「お前……自分で誓った約定はどうしたよ」

「……そんな物、タタラを傷付けたあの日に意味を為さなくなったのじゃ」

 

 俺の言葉に表情を消した四葩が答える。

 

「永遠に恨まれるとも構わぬ、そう口先では何とでも言えたのじゃがな……やはりあの誓いは胸の奥で痛みを生み傷口を膿ませておる」

 

 静かな、それでいて苦しそうな声でそう続ける。

 

「好きな男に恨まれる苦しさがこれ程とは思わなかった、身を裂くかのような痛みと苦しみ……傷付けた身で言うものでは無いが後悔してもしたりないのじゃ」

「くっそ真面目な台詞吐きながら膣口に俺の先端を当てるな」

「ちっ」

 

 舌打ちしやがった。とは言え、真面目な四葩が苦しんでいるのは事実だろう。心の痛みを誤魔化す為に無理に繋がって痛みを欲しがっているのかも知れない。

 

「少なくとも『性魔術』取得してからって考えろよ」

「むぅ……タチアは大丈夫に見えなくもないぞ?」

「被虐趣味に片足突っ込んでるのにか?」

「前言撤回じゃ」

 

 真顔で前言撤回した四葩に苦笑いも浮かばない、俺自身が原因とは言え生真面目な少女がドMに片足突っ込んでいるのだから業が深過ぎる。今でも人格が保ててるのは正直驚嘆に値する。

 そんな会話をしている内に愚息も落ち着いて通常に戻っている、こんな形で役立ってくれてありがとうそしてごめんなさいタチア。

 

 十分に温まり、身体を拭いてから2人して夫婦風呂を出る。湯上がりに何か飲もうとリビングに行くと、パーティメンバーが集まっていた。泥濘む庭先でお義母さんに投げ飛ばされて悲鳴を上げる当主代行を他所に、コレからの方針を定める為にミーティングをする。

 

「取り敢えず、全員復帰だな」

「うむ、何故か数カ月ぶりと言った雰囲気じゃの。数日でしか無いと言うに」

 

 不思議とエテルとの顔合わせが5ヶ月ぶりくらいの感覚だが、一日千秋の想いだと思えば短く感じる。それはそれとして、フルメンバーによる探索及び都市祭の学生運動について話し合わなければならない。

 

「取り敢えず、エテルに現状を教えるか」

「うん、お願い」

 

 ここ数日で起きた彼是を伝えていけば、エテルは驚いたり睨んだりと百面相をする。特に一華との約束で寿命をもう十年延ばす事に付いては複雑な表情で、自分達の行いの尻拭いをさせた事に対して負い目が有るのだろう。

 

「タタラが新しい施設を作って、新しい遊びを広めたのが一番大きいかな?」

「はい、マスターの生み出したアーレムはコレからこの都市に様々な夢や希望に熱を生み出す最高の発明です」

 

 エテルの言葉に誇らしげに答えるダリア、その様子に苦笑いをしつつ探索に付いての話に移す。

 

「エテルには取り敢えず、上限に届いていないステータスを上げるアイテムを集める事を優先するか。とは言え、あと5日で都市祭が始まるから間に合うかは分からないけどな」

「ふむ、間に合うなら80階層まで降りるのかのう?」

「正直、一華とエテルの探知系スキルが頼りで問題は敵の種族でな。特に75階層からはモンスターの『邪影』種相手と探索そのものに『聞き耳』スキルが必須になる。現時点で取得してるのは俺と一華、エテルに四葩だったと思うがどうだろう?」

 

 俺の問い掛けに其々が頷く事で答える。

 

「コレは私も取得するべきですかね」

「可能なら、な。71階層を潜るうちにスキルレベルを一つ最大に出来たら取って貰うのが良いだろうが、最悪俺達がカバーして反撃して貰えば何とかなる」

 

 俺の言葉に少し考え込んだ後、四葩はタチアに視線を向ける。

 

「のう、タチア。そろそろお主も存在昇華をせぬか?」

 

 四葩のその言葉に、タチアは難しい顔をする。

 

「正直、そうしたいのですが……ステータスの低下で起きる対応力の低下が看過出来ません。話を聞く限り初期のステータスよりも下がる事が分かりますし、今行うのは恐ろしくあります」

 

 タチアの内心の吐露に対して、俺も助け舟になるか分からないが賛意をだす。

 

「タチアの存在昇華の控えは俺も指示出してる事だし、今は大丈夫だろう。現時点でのステータスだって装備も込みで考えれば通じるんだし、対人戦闘の訓練も加味すれば学生運動は問題無いだろう」

「タタラ、対人戦の才能が無いお主が言っても説得力が薄いぞ?」

 

 四葩に思い切り刺されてしまった。とは言え、あくまでもこの世界はステータスと言う能力値が前提になる法則が敷かれている。対人戦は駆け引きである程度は覆せるが、それでも倍にまでステータスが開いたなら覆す方法は殆ど無い。

 まぁ、エロゲーらしく女性には変な因果が発生して悲惨な事になる場合も有るのだが。

 

「そりゃ俺はカラムスさんから対人戦は苦手と言うか逃げろとまで言われたけどさ……」

「あの聖人様からそのお墨付きを頂くタタラ殿は果たしてどれだけ才能が無いのでしょうか?」

 

 鍛えるべき伸び代無しの判定だからな……とは言え、肉体的には同じ判定を受けていたエテルと言う事例も有る。剣を振る事に関しては間違いなく世界有数の才能だが、カラムスさんは才能が無いと判定を出していた。なら、俺にも何か有るかも知れない……有ったらいいな。

 

「ご主人の危機は拙者が払うでござる、大船に乗ったつもりで安心するでござるよ!」

「能力値は間違いなく安心なんだけど、身重な事が嫌な状況呼びそうなんだよな」

 

 一華が体調不良で満足に動けなくなったところを囲まれて犯されでもしたら、俺は『ワールウィンド』を焼き尽くすかも知れない。

 

「ならば、私の出番ですね」

「お前の場合、過剰火力で都市が燃えかねん」

 

 ダリアの場合は例え非殺傷用の魔導具を用意しても、効果が爆発的に上がって結果的に相手を殺しかねない気がするのだ。ダリア本人の性格を見るなら言い含めれば回避は出来そうでは有るのだが、機巧聖女化した結果予想以上に能力を発揮してしまう可能性も否定出来ないのだ。

 言われたダリアもツイっと視線を逸らせるので、自分の能力の制御を誤る可能性を否定出来ていない。いや、緊急事態での情状酌量が認められるだろうけど積極的に殺すのは眉をひそめられるからな?

 

「タタラは何か捕縛用の道具は用意しないの?」

「魔導砲撃用のトリモチ弾頭は作ってはいるが、効果的かはちょっとな」

 

 垂直発射からの急降下爆撃を行うが、広域に広がり過ぎて効果が下がる可能性も有る。後腐れ無く液状化魔石で燃やした方が楽なのが本当に面倒過ぎる。

 

「何はともあれ、この問題を解決せねば本格的により深く探索を望めぬからのう。タタラの寿命問題の為には欠けずに乗り越えねばならんのじゃ」

「寿命……ああ」

 

 四葩が俺の寿命に付いて言ってくる、存在昇華して俺の寿命を延ばすってのは全員の中では決定されてるのか。

 

「俺はもう存在昇華して寿命を延ばすつもりは無いぞ?」

 

 勘違いを是正させるためにその事を伝える。その瞬間、場の空気が凍った。

 

「……え?」

 

 それは一体誰の声だったのか、もしかしたら全員が同時に零した物かも知れない。俺が何故この先も存在昇華をすると思ったのか、何となくは予想が付くがそれはちょっと安易ではなかろうか?

 

「な、んで……?」

「なんでって、長く生きる理由が思い付かないからだ」

 

 エテルが零した問い掛けに対して直ぐに返す、一華の子供を成人するまでは見届けるがその先に生きる気力は戻ってない。

 

「あ、そうか。俺が死んだらエテルも一緒に死ぬか……うん、近々『縁切』の概念武装を作るから安心してくれ」

 

 俺とエテルを繋ぐ『悠久の誓い(エンゲージリンク)』の効果を破壊する概念くらいは日々の『空裂』を鍛刀してきた事から可能なのは感覚で分かる。この手の概念武装は魔神や神族と繋がった相手には効果覿面だろうし、作っておいて損は無いだろう。

 そんな事を考えているとエテル、四葩、タチアの表情がおかしい事に気付く。対して一華とダリアは分かっていたと言った感じに凪いでいる。

 

「どうした?」

 

 俺の問い掛けに対してエテル達3人は口を動かすだけで声を発せていない。その姿に疑問を持つ中、庭先に強烈な迄に巨大な気配が生じる。

 慌てて庭先に出た瞬間、凄まじい衝撃と振動に襲われる。飛び散る泥から顔を庇い、頃合いを見て腕を退ける。振り続けていた雨は止んでいて、空を見上げれば雨雲には巨大な穴があいていた。視線を戻せば当主代行がお義母さんを抱き寄せて、巨大な気配の先に向けて『竜舌蘭』を構えている。

 泥濘む庭に『黒煌』を纏って降りてエレメンタルハンマーを構える、暗さに慣れて状況を目視し始めた。

 庭先に巨大なクレーターが出来て、その中心には──人の下半身が飛び出ていた。

 

「……へ?」

 

 あまりにも間抜けな絵面(陸上スケキヨ)に変な声が漏れる、恐らくはスカートが捲れているのであろう白に紫色をした謎のキャラクターが描かれたパンツを曝している。

 

《タラシ様、お久しぶりですね》

「タタラです。いや、確かに久し振りですけど」

 

 そんな中、静かに空から降りてくる『清掃長』。相変わらずのタラシ呼びにツッコミつつ、彼女の存在で目前のスケキヨが誰か何となく察した。

 

《本日はお願いが有りまして……コラ、何時まで突き刺さっているのですか!?》

 

 俺にだけ聞こえてる言葉を言いながら、『清掃長』は天を衝く尻を叩く。パシンと良い音を響かせた後、足がジタバタと動き始める。

 

《ふぇ!?》

《起きましたか?》

《なに、ここ真っ暗です!?》

 

 足は動き続けているが、一向に身体が抜ける気配が無い。なんだが哀れというか滑稽と言うか……『天使長』や『清掃長』と同じ『看板娘』でもコメディ担当では有るが現実になってもこうなるとは思わないだろう。

 

《どうしよう、抜けないです!?》

 

 泥のせいか完全に自力で抜け出せないらしい、刺さり方も深いし助けなきゃ駄目かコレ?

 

《タラシ様》

「タタラです。取り敢えず引っこ抜きますねコレ」

 

 声音で言いたいことは何となく察した、つかステータス俺より上なんだからアンタが助けてやれよ。

 

「タタラ殿?」

「ああ、その人は知り合いなので大丈夫です。此方のは知りませんけど……多分その人の妹なので警戒は解いて大丈夫ですよ」

 

 当主代行の問いかけに答えながら腰辺りに腕を回してガッチリと掴む。

 

《ひゃ、なんですか!?》

「聞こえてるか分からんが、コレから引っこ抜くぞ」

《わ、わわわわわ助けて下さい!?》

「助けるから落ち着け」

《えっちな事されちゃいます、ガイダンス的に拙いですっ!?》

「慌ててんのか余裕あんのかどっちだお前」

 

 言いながら、腕と脚に思い切り力を入れて引っ張る。泥によってかなり重くなっていて、『黒煌』のアシストが無ければ無理だったかも知れない。

 ゆっくりと持ち上がり、遂には勢いよくスッポ抜ける。

 

《ひょわぁぁぁぁぁぁぁぁですっ!?》

 

 そんな間抜けな悲鳴を上げながら引っこ抜けた張本人は、勢いそのままに『清掃長』の所へ飛んでいく。それを溜息混じりに手刀で叩き落とす『清掃長』、似たような事が多いのか対応に慣れてるな。

 

《ですぅ!?》

《本当、落ち着きなさい》

 

 泥で汚れたメイド服の新たな『看板娘』、泥の間から見える髪と翼の色は濃い紫。どういう訳か初登場時はよく分からないナマモノの姿で登場し、後に人間の姿で出てくればドジと泣き言が標準装備で不運に見舞われる事が大多数の末っ子。

 

《うう……泥だらけです》

《貴方の飛行下手は本当になんなのでしょうかね》

 

 泣きながら起き上がる新たな『看板娘』を呆れた声を出しながら助け起こす『清掃長』、改めて新しい『看板娘』を見れば案の定画面の中では見たことが有る姿だ。

 

《ほら、自己紹介なさい》

《うう、はいです……》

 

 呆れた雰囲気の『清掃長』が軽く泥を払うだけで本来の姿に戻る、これは多分公式設定の掃除上手の影響なのだろう……泥汚れが直ぐに落ちるとか欲しいなその能力。

 そんな事を考えている間に、新しい『看板娘』は姿勢を整え終えていた。引き抜く時に垣間見えた濃い紫色の髪は獣の耳に似た出っ張りが頭頂に見える、アレはただの髪の筈だがどういう訳か当人の感情を反映して動くんだよな。メイド服は他の3人とは違いミニスカートで、コレが地面に突き刺さった時にパンツを曝した原因だろう。当人は動きやすいからとミニスカートを選択しているが、バタバタ動くためにパンチラが絶えず遂にはユーザーからもエロい視線を向けられなくなったと言う逸話が有る。

 

《はじめましてです、タラシさん》

「タタラだ」

《姉様達の妹で、名前を名乗る事は出来ないので『バイト長』と呼んで欲しいのです》

 

 人の話を聞いてくれない目前の新たな『看板娘』、ドジのせいで永遠にバイト扱いを受ける『看板娘』の中で末妹として最後に出て来た潜在能力だけは高いとされた『バイト長』である。

 

《それではタラシ様、本日よりこの子の世話をお願いします》

「なんて?」




色々ぶち壊すオマケ














撫技淫語開始


「我は淫魔なり!」
「うん、知ってる」
「我がに淫魔技(サキュバスキル)にかなうもの無し!」
「最低なクルダ流やめろ」
「我が腰使いは無敵なり!」
「本気で怒られんぞ」
「エテル流交配法『刹軀摩(セックス)』!!」

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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