※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

162 / 183
タチアイベント進行中
『看板娘』イベント進行中


1月中に上げようかと頑張りましたが間に合いませんでした、申し訳有りません。


運命からは逃げられない

 いきなり告げられた『清掃長』の言葉に固まるのもそこそこに、一旦リビングに来て貰って事情を聞く事にする。突然の来客、それも見た目は天使族な2人に対して自然と警戒するその場の面子をそのままに2人の前にお茶を出す。

 

「それで、なんで俺の家に貴方達の末っ子を押し付けるんです?」

《押し付けるは心外です……》

 

 いや、いきなりやって来て世話をしてくれとか言われたらどう考えても押し付けてるって結論になるからね?

 俺の質問に対してお茶を一啜りした『清掃長』は、真剣な表情で言ってくる。

 

《それではタラシ様》

「タタラです」

《この末っ子こと『バイト長』が何故『バイト長』なのか、知っていますか?》

「大方、メイドの仕事が上手く出来ないからメイドではなくてバイト扱いとかそんなでしょう?」

 

 実はこの辺、ゲーム内では説明が無い。しかし、プレイヤーの中では共通認識としてこの設定が蔓延していた。

 先ずこの『バイト長』、『看板娘』の中で一番ステータスが低い。限界値は高いのだが、全ステータスの初期値が低いのだ。更には専用技が運に依存した上でのハイリスクハイリターンな物なので非常に使い勝手が悪く、トドメに『看板娘』の中で唯一遠距離攻撃を持たない。育てれば魔法を覚えさせて補えはするが、育てるのも一苦労だったりする。

 それでも極まった時の戦闘能力は流石の『看板娘』であり、瞬間火力だけなら『天使長』すら越える程の物を持っている。過去作の中でも潜在能力だけなら一番高いと言われていて、それは専用技に表れていた。

 まぁ、それらを発揮する迄が大変だったのだが。

 

《やはり、理解しているのですね》

「まぁ、俺の事情にも関わりますしね」

 

 転生知識が無ければ『看板娘』の情報など取得する事はほぼ不可能だ、それこそ過去作主人公達のように特別な運命を定められた特異点でも無いと彼女達との接触は基本的には無い。まぁ、それを言うなら本来の特異点であるスミスを差し置いて転生者ってだけで『天使長』を助けられた俺は何なのかって話では有るが。

 

《今回お願いしたいのはこの末っ子である『バイト長』の教育です》

「流石に荷が勝ちすぎてる気がするんですが?」

 

 この『バイト長』のドジは掃除をした『料理長』や料理をした『清掃長』程では無いのだが、相応に被害を出すレベルである。洗い物をすれば最低5枚は皿を割り、洗濯をすれば色柄物を一緒にして色を移すなどは基本だ。料理を焦がすのは基本中の基本で、部屋を片付ければ家具を破損させる。『料理長』と『清掃長』は得意分野を持っていてそれに専念しているから良いが、『バイト長』には得意分野が無いので永遠にバイト扱いなのだ。

 そんな人材を置いておけば、俺の家が廃墟になりかねない。いくら何でも思い入れの有るこの家を壊されたら直すとか以前にブチギレると思う。

 

「此処は大人しくご実家で練習して下さい」

《流石の掃除好きである私もこの子の尻拭いを続けるのはストレスですので》

「ぶっちゃけたなオイ」

 

 シレッとヒデェ扱いを妹にしているが、逆にコレが彼女なりの距離感とも思える。そう言えば『料理長』も『バイト長』の扱いがこんなだったな……そう言うポジションなのか。

 

「仮に教育するとして、何をすればいいんですか」

《夜伽辺りとかどうです?》

「一度ぶん殴るぞアンタ」

 

 出会いの時から何となく思ってたが、この『清掃長』やたらと貞操観念が軽いと言うか『看板娘』に有るまじき思考をしてるんだよな。

 そして、そんな自分の未来が掛かった会話がされているのに一生懸命お茶を冷ましてお茶を飲んでる『バイト長』である。本気で危機感が無いと言うか、警戒心と集中力の無さがドジの元な気がする。

 

「……自分の事を話されてるのに他人事か『バイト長』?」

《ふぇ?》

 

 思わず声を掛けると間抜けな反応を返してくる、本当に大丈夫かこの子?

 

《え、でもタラシさんとお話してるの中姉さんですし》

 

 ……これ、『天使長』から姉に大中小って付けてそうだな。

 

「頼まれてるのはお前の教育なんですが、なんか異論とか無いんか?」

《え、でも……ぼ、私って半人前でバイト扱いですし決定権と言うか人事権というか人権無いですし》

「人権は違うだろオイ」

 

 この子、なんか自己肯定感低過ぎてヤバい気がする。視線を『清掃長』に向ければ涼しい顔でお茶を飲んでいたので、思わず言葉が出る。

 

「どうしてこうなるまで放って置いたんだ!?」

《矯正するには一度更地になるまで心を折ってからの方が効率がいいので》

「スパルタ過ぎるだろ!?」

 

 実の妹になんて事をという考えが頭に流れるが、逆にここまでしないと駄目な理由が有るんだろうか?

 

《タラシ様》

「タタラな」

《どのような手段を講じても構いませんので、この子の家事能力の向上。或いは、何か得意分野を発見して下さい》

貴方達(システム)に出来ない事を押し付けるのやめてもらっていいですか?」

 

 依頼と言うにはあまりにも高難易度かつ無茶な依頼に否を唱える。しかし、何処か確信を持った様子の『清掃長』が俺を見据えて言葉を紡ぐ。

 

私達(システム)に出来ない、では無く私達(システム)だから(・・・)出来ないのですよタタラ様》

 

 そう言った『清掃長』の目は真剣な物で、一切の嘘は無いように見えた。世界法則(システム)だから出来ない、それはつまり?

 

「……世界から定められた存在であるから、干渉が出来ない?」

《概ねその通りです、流石ですねタラシ様》

「タタラな」

 

 俺の考えが正しければ、世界法則に所属する存在同士である為にその存在の根源に干渉出来ない事になる。しかし、それならば何故人間なら出来る事になるのだろうか。この世界に生きる者達は大なり小なり運命(シナリオ)に縛られて生きている、それは恐らく俺自身にも当てはまる筈だ。『天使長』の言葉を信じるなら俺に課せられた物は本来のモノとは変わっているらしいが、それでも課せられている事には変わらない。

 

《タラシ様はこの世界における現時点で最大の揺らぎになります》

「タタラです……最大限の揺らぎ?」

《はい、過去にも似たような存在が居ましたがタラシ様のそれは規模が少々大きいのです》

「タタラな……なんか嫌な予感がする情報だなそれ」

 

 過去にも似たような存在が居たというその揺らぎと言う概念だが、もしかしたら過去作の主人公達を指すのではなかろうか?

 つまり、俺の選択によって世界の歴史が変わると言う事だが……俺はそこまで大人物の自覚は無い。まぁ、過去作主人公でそんな自覚が有るキャラが主人公を張る事なんて無かったが。

 

《それだけ大きな揺らぎを持つのなら、恐らく世界法則(わたしたち)の様な存在にも何かしらの影響を与えると思われます》

「確証は?」

《有りません。ですが、確信は有ります》

 

 真っ直ぐに俺へと視線を向けてくる『清掃長』と目を合わせる。そこには揺らぎは見えず、何かしらの影響を与える事を確信しているのが見て取れた。

 目を閉じて、『バイト長』を受け入れるメリットとデメリットを考える。メリットはその戦闘能力、一番弱いと言われてもその基礎能力は非常に高い。持っているスキルにもよるが、基本的に即戦力として見て良いだろう。流石に学生運動に参戦させる気は無いが、少なくともこの先の階層の攻略には役立つ。デメリットは頼まれている事象の不透明さ。メイドとしての能力を伸ばすとして、その際に発生する被害が何れ程になるのかも分からない。その他の得意分野を探すにしても総当たりしなければ開拓が出来ない。逆に言えばこの辺りの能力が伸びればメリットに変わるのだが……それ迄に家が廃墟にならなければいいが。

 

「俗な事を聞きます、報酬は?」

《妹を好きに出来る権利で》

「お疲れ様でした、お帰り下さい」

《冗談ですよ》

「いい加減にその手の笑えない冗談をやめて下さい」

 

 俺の苛立ちを察したのか、『清掃長』は少し笑顔になる。俺の悪感情を笑ってるかのように見えるが、多分違う。俺が人の意思を無視する事に嫌悪を抱いてる事に嬉しがっている、何故そんな事を喜ぶのかは分からないが悪趣味だな。

 

《そうですね……もし、仮にですが》

 

 勿体ぶった言い回しであるが、『清掃長』のその目は真剣そのものだ。

 

《この子を矯正できたその時は、この子と共に私が貴方に手を貸しましょう》

「……は?」

《ひょぉっ!?》

 

 言葉を聞いた『バイト長』が変な声を上げるが構っていられない。

 手を貸す、と言ったのか?

 世界法則に属する『看板娘』のうち『清掃長』と『バイト長』が?

 

《ちゅ、中姉さん!?》

《貴方も覚悟を決めなさい、秀でた物が無いにしてももう少し仕事が出来るようにならないとそのうち姉様からも見捨てられますよ?》

 

 流石に『天使長』に見捨てられるといった言葉は効いたのか、『バイト長』もショックを受けた後に真剣な表情になる。流石に姉妹大好きな『天使長』は妹を見捨てる事は無いと思うけど、姉妹の中では違うのだろうか?

 そんな疑問を抱いてる間に、真剣な表情になった『バイト長』は俺に向き合い頭を下げてくる。

 

《それでは、本日からお世話になります!》

「待て、まだ了承してないぞ!?」

 

 展開が急と言うか、当事者の俺を置いて勝手に進んでいる。強制イベントかこれは?

 戸惑う俺を他所に、『清掃長』は少し考えてから言葉を向けてくる。

 

《そうですね、では一つ報酬として情報を伝えると言うのはどうでしょうか?》

「……情報?」

《はい、姉様と貴方に関係する情報を》

 

 俺と『天使長』に関係する情報、そんな物が有るのだろうか?

 せいぜいがあの剣を作った事くらいしか関わりが大して無い筈だが、そうでは無いのか?

 

《聞くも聞かないも貴方次第です。しかし、貴方は既に上の妹から姉様が何かをしている事を聞いているのでは?》

 

 確かに以前『料理長』から『天使長』が俺の日常を守る為に何かをしていると言っていた、つまり『清掃長』はその内容を教えてくれるのだろうか?

 

「……『天使長』の事を出されたら受けるしか無いだろ」

《ふふ、タラシ様は姉様が大好きなのですね》

「タタラだ。好き嫌いというか、あの人には救って貰ったからな」

 

 溜息混じりに受け入れれば、『清掃長』は笑ってそう言った。好意とかそんなんじゃなくて、あの人には沢山救って貰ったからこそ俺も恩返しをしたくなる。

 

「……タタラ殿、先ほどから一人で言葉を発しているが何なのだろうか?」

 

 代表してか恐る恐る当主代行が話し掛けてくる、ダリアに視線を向ければ俺が説明すべきとの意思が伝わってくる。『清掃長』に視線を向ければ頷いてきた、説明してもいいとの意思表示だろう。

 

「この人達……というか、この人達の姉が昔から俺を助けてくれていて、今回末っ子であるこのお茶を呑気に飲んでる子を育てて欲しいって依頼を受けてます」

「……声は聞こえなかったが?」

「どういう理屈かは不明ですけど、彼女達の言葉は俺にしか理解出来ないみたいなんですよね……この人達は俺のゴーレムの言葉も分かるみたいですけど」

 

 世界法則(システム)からも俺だからとしか言われなかった『看板娘』の言葉を理解出来る意味不明な機能、俺自身の存在に由来する為に他人にも聞かせる魔導具を作ろうにも取っ掛かりすら掴めていない。

 

「先程から何度も名前を名乗っているのはいったい?」

「此方の『清掃長』が俺をタラシって呼ぶので訂正をしてるだけです」

『成る程、誑されていると』

「誑した覚えはねぇよ」

《無自覚とは怖いですね……》

 

 その場の全員がして来る誑し認定にあんたも乗るなよ『清掃長』。

 

「それで、受け入れた上での前報酬の情報ってのはなんだ?」

《それは、姉様が日々貴方の為に倒している敵についてです》

「……なに?」

 

 この世界で最強と言っても過言では無い『天使長』が日々戦っている相手、聞くのが怖くなるな。

 

「俺の為ってのは取り敢えず置いておく、倒してる敵ってのはなんなんだ。『料理長』は弱らせて封印するのが限界なんて言っていたが」

《あの娘もそこ迄は話しているのですか、倒している敵と言うのはこの世界の終焉。その欠片です》

「……たしか、神話にすら残らない程の過去に一人の王が従えていた72柱の魔神がそう言われてたとか聞いたが?」

《ええ、よりにも寄ってその72柱の集合体とも言えるモノが姉様が戦っている存在です》

 

 過去作の中でメインに顔を出したり、特定条件で解放されるサブイベントの中で出て来た別格の存在とされる72柱の魔神の話が有った。その内の何柱かは実際に戦い、撃退されてもいる。しかし、その力は今の世界を成り立たせる神々に匹敵或いは凌駕する程に高く、肉体を失った程度では存在が消滅しないのだ。

 あの最強と名高い『剣の魔神』ですらこの72柱よりも格が落ちるらしく、殺し切る事が叶わないのだと過去作の中で語っていた。過去に撃退された魔神達は何処かに集まっているなんて情報も有ったが、それを『天使長』が戦って封印している?

 

「待て、待ってくれ……なんでそんなのと『天使長』が戦う事に?」

《貴方なら心当たりが有るでしょう?》

 

 その言葉と共に、ビジュアルファンブックに書かれていた記事の一つを思い出す。この『ワールウィンド』で何故ダンジョンの存在が維持されているのか。

 

「『常闇の洞』の最深部に居るの、か?」

《正確にはその奥に有る魔神の亡骸、それが挟まっている世界の狭間の先に封印されています》

 

 思わず足から力が抜けた、咄嗟にエテルと一華が支えてくれたが視界が真っ暗になる手前である。

 

「……なぁ、『料理長』が以前ダンジョンの最深部を目指せって俺に言ってたんだ」

《ええ、そうでしょうね》

「つまり、『料理長』が俺に求めているのは……」

《貴方の寿命問題はついでですね、あの迷宮を作っている存在を撃退してその奥に存在する魔神の亡骸の破壊。そして……世界の狭間を閉じる事です》

 

 恐らく、コレが『天使長』や世界法則(システム)が言ってた俺本来の運命(シナリオ)なのだろうと本能的に察する。流石は世界法則(システム)側の存在である『清掃長』だと言うべきか、俺が目を逸らしていた本来の運命を伝える事で俺がしなければならない事を自覚させて本来の道筋(シナリオ)を辿らせるなんてな。更に言うなら本筋は語らず俺を目的通りに動かす『料理長』もとんでもないがな。

 

「……この目的の為に、あんた達『看板娘』は力を貸すと?」

《力を貸すかはタタラ様の頑張り次第ですよ》

「タタラ……いや、合ってるな」

《むぅ、お名前を呼ぶ事は実のところ恥ずかしいのですよ?》

 

 ちょっと頬を染めるな、真意が読めん。

 

「前情報の重みが少しばかり重過ぎるだろこれ」

《あら、この世界で己の運命を知る事が出来る人間なんて稀ですよ?》

「そんな事言ってるけどよ、これは今の俺の運命(シナリオ)じゃないだろ。『清掃長(おまえ)』達の上司が言ってたが、俺の運命は本来のものからズレてるって話だったぞ」

《そうですね、本来ならタラシさんのお子さんにタラシさんが武器を作る事が今の運命(シナリオ)ですから》

「タタラだ……って、そっちまで教えんのかよ」

 

 最悪も最悪である、存在昇華の事を抜きにしても俺が最奥に居る敵を倒す理由が出来てしまった。どんな強さかも分からないが、この『看板娘』達に力を貸して貰わないと終焉の欠片って奴が倒せるかも分からない。

 更に言えば、引き継ぐのが俺の子供というのも嫌な情報だ。現時点で考えるなら一華との子供であり、この先何かの間違いでエテル達と子供が出来たら誰が担うのかすら分からなくなる。

 

「もう逃れられないなコレ」

《逃がすつもりは無いですよ》

 

 諦めの言葉を零せば『清掃長』は何処か得意げにそう言った、なんだが背筋が寒くなるが理由は普段細められている目が開いて俺を見てるからだろうか?

 重い溜息を吐いて、俺は決意を固める。

 

「分かった、元々そいつを倒さないとこの都市が消し飛ぶなんて言われてたからどっちにしろ倒す予定だったんだ。この『バイト長』も戦力になるようにしつつ、家事を仕込むよ」

 

 改めて俺が運命(シナリオ)を受け入れた事に、『清掃長』は笑顔で頷いた。

 

 

 一先ず『清掃長』を見送り、集まっている面子に対して『バイト長』を預かり家事その他を教育する旨を伝える為に集まって貰う。まだまだ都市祭に対しての準備も有るが、並行して行わなければならない。タイムリミットとしては俺が死ぬまで、そうしなければ『天使長』が終焉の欠片を封印する事をやめてしまう。更に言えば、子供に俺が武器を作る必要が有る事も伝えるべきか悩む。

 

「それで、タタラと先程の天使族が交わした話を詳しく聞こうかのう?」

 

 代表して四葩が質問してくる。

 

「多いから端折らせて貰っていいか?」

「重要な部分を隠さなければ端折るがいい」

 

 俺の言葉に返してくるのは当主代行、その言葉に同意する視線が俺に集まってきている。一華を筆頭に不安を織り交ぜた視線も幾つか有る。

 

「先ずは先程の『清掃長』からの依頼は会話の最後に出たように、末の妹であるこの『バイト長』の育成だ。ダンジョンに潜ってレベルを上げる事が含まれるかは微妙だけど、少なくともメイドとしての技能である家事全般の教育をする事になってる」

「……メイドなのに家事が出来ないんですか?」

「そこにメイド服着てるけど家事が壊滅的な機巧聖女が居るけどな」

 

 依頼内容に疑問を持つタチアにダリアを示してそう返す、家事全般が壊滅的だが魔導具の制御は得意なのである意味でバランスは取れていると思う。つか、家事が出来ないのに示されて胸を張るな。

 

「それなら、今度から台所に立たせるでござるか?」

「正直、台所に立たせると設備を壊滅させそうで嫌なんだよな」

「……それ程、なのですか?」

 

 一華の質問に対して正直な所を答えると、三葉さんが恐る恐る聞いてくる。

 

「少なくとも、鍋やフライパンをひっくり返したり包丁が俎に突き刺さったりはしてたと思う。多分、それ以上の被害も出せるだろうな」

 

 厨房に立つ面々から恐怖の眼差しが『バイト長』へ向けられる。その視線にビクリと身体を震わせた『バイト長』は、何故か俺の後ろに隠れてくる……視線に殺意が混ざった気がするんだがどうよ?

 

「取り敢えず、配膳から始めさせようと思う。それでも途中で転んで皿や盆をひっくり返して料理を駄目にしそうだが、対策としては大量に作れる料理を用意する事で対応しようと思う。先ずは配膳が上手く出来るように、みんなも協力して欲しい」

 

 俺の言葉を受けて頷いてくれる面々、その反応を前に背後から驚いた(意思)が届く。

 

「どうした?」

 

 背後の『バイト長』に聞けば、ワタワタと慌てた様子で答える。

 

《ほ、本気でボクの家事能力を伸ばすつもりなんです!?》

「本気で無いなら引き受けんだろ普通」

 

 あれ、さっきは私って言ってたが……いや直前にぼとか言ってたから一人称はボクが正しいのか。姉の前だから本来の一人称を出さなかったか?

 

《ででででもです!?》

「でももだっても無く、やるからには徹底的に仕込むぞ。お前だって何時まで経ってもバイト扱いは嫌だろ?」

《あっ……はい、です》

 

 真っ直ぐに目を合わせて、その心の奥の鬱屈にメスを入れる。姉妹の中で軽んじられているのはキャラとしての役割ではあろうけど、それを本人が望んでいる訳が無いのだ。過去作でこの子は一生懸命働いて、そのたびにドジをして迷惑を掛けたと泣いていた。巻き込まれたキャラも基本的に迷惑がっていた面が多く、それはきっと俺も同じだと思う。

 けれど、それがこの子の努力を無為にする理由にはならないのだ。

 もし、本当に俺の存在が干渉して『バイト長』のドジっ娘体質を治せるなら全力を尽くそう。

 

「改めて、メイド教育……では無いけど家事全般の教育を請負うからな。大船に乗ったつもり、なんて自信満々には言えないが何が原因でドジをするのか一緒に確認していこう」

《は、はいです!!》

 

 俺の言葉に元気いっぱいに答える『バイト長』、その頭に有る耳っぽい髪もピコピコと動いて興奮が見て取れる……本当に何なんだろうなコレ?

 

「取り敢えず、明日は普段通りにして『バイト長』のドジ具合を確認する。食器は幾つか犠牲になるだろうけどそれはもう諦める」

《うっ、お手数をお掛けしますです……》

 

 肩を落として謝罪をして来る『バイト長』、まだ何もミスをして無いのだから大丈夫なのだが。そんな自己肯定感の低い彼女の頭を撫でてやると、不思議そうに目線を向けてきた。なんと言うか、子供っぽいなこの子。

 

 

 一先ずの方針を決め終えて、その場は解散する。エテルは自室に戻ったがタチアが部屋を借りている事を知って複雑そうだった。最悪何方かに俺の自室を貸して、俺は工房で寝ようかとも考えたがエテルの自室で二人は過ごす事にした。後は『バイト長』なのだが、リビングのソファで寝る事になった。流石にどうかと俺も思ったが、家のベッドよりもふかふかで寝易いらしい……普段どんな環境で寝ているのだろうか?

 そんな『バイト長』だが、今は俺と一緒に工房に居る。入ってから早速躓いてすっ転びそうになったが、反応して抱き止める事ができた。何となく、現時点でのステータスは俺よりも低いような気がする。

 

《うう、ごめんなさいです》

「転んだのは扉の縁に足を引っ掛けた感じかな」

 

 転びやすい事象を分析して、少しでも対策を考えなければならない。転ぶのが『バイト長』の何を原因としているのか、そこを矯正しないと何時迄も解決でき無いのだから。

 

《それで、その……どうして此処にボクを呼んだんです?》

「身構えないでくれ、幾つか理由は有るんだが先ずは《バイト長》の武器についてだ」

《……ボクの、武器?》

 

 キョトンとした表情の『バイト長』に対して、姉妹全員に武器を作っている事を説明すれば納得された。まぁ、『天使長』を除く他の姉妹からは依頼という形で作成しているのだが。

 

《そ、それならこう……触れるだけで相手を光にするようなのが欲しいです!》

「それは何方かと言えば『料理長』の武器(ガジェットツール)じゃないかな」

 

 どう考えても破壊神の指先(ゴルディオンネイル)亜高速ですっ飛んでくる右手(ゴルディオンフィンガー)の類だ、仮にそんなのを今の『バイト長』に持たせたら星が終わる気がする。

 

《な、ならこう加速してパンチ力を上げるものとかです!》

「敵に当てる前にすっ転ばないかそれ?」

 

 どこの自慢の拳(シェルブリット)だろうか、男の義務教育なので個人的には大好きだがアレは真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすの極致みたいな物だし扱いにしてもかなりの技量に当て感と根性が必要だろう。

 しかし、こう考えると『バイト長』の武器は難しい。他の『看板娘』と違いその技量を保証されていないのだから。コレが『天使長』なら最強の存在としての剣技が、『清掃長』なら箒の扱いを転用した槍術が保証されている。対して『バイト長』はゲーム時代には『格闘適性』を取得していたが、実はスキルの成長が目茶苦茶遅かった。『バイト長』の適性な武器は他に有るのではと全ての武器種を試したが、どれも似たり寄ったりだった。極論、『バイト長』には戦闘の才能が無い。固有の技は運が高ければ高いほど火力を上げる物で、武器種を選ばず決まればあの『剣の魔神』すらも一撃で倒せる程の物ではあった。しかし、それが戦闘の才能になる訳でもない。コレならいっそ、攻撃力を捨てて必中に等しい概念を持った概念武装でも持たせた方が良い気がする。

 

《うう、ボクはダメダメです……》

「……戦闘の才能が無いだけで素材はいいんだ、武器は一端脇に置こう」

《はいです……》

 

 立ち絵なら目の幅の涙を流してそうな落ち込み様だが、現実では目尻から一筋涙が流れている。正直、可哀想で仕方ない。そっと涙を拭ってやってから頭を撫でる、『バイト長』は拒否することも無く頭を預けてくる……なんだが一華とは違って小型犬みたいだな『バイト長』は。

 

《……早速、妹を誑していますねタラシさん》

「タタラだ……って」

 

 (思念)に反応して顔を向けると、ジト目で頬を膨らませている『料理長』。そして──

 

《ふふふ、もう仲良しになれてるようで私も嬉しいですよタタラさん!》

 

 満面の笑みでそう言ってくる『天使長』に、静かに佇んでいる『清掃長』が居た。まさかの『看板娘』勢揃いである。

 

「……全員集合って、何か一大事でも有ったんですかね?」

 

 少しばかり戸惑いと怯えが混ざってしまっただろうか、いきなりの事で感情が追い付かない。

 

《いえ、特に問題は無いですよ?》

「え、ならなんで集まって……もしやフィギュアですか?」

《大正解です!》

 

 俺の言葉にそう答えた『天使長』が抱き着いてくる。エテルには劣るが一華よりも大きく柔らかな感触が顔に押し付けられた。いや、スキンシップが激しくないか『天使長』?

 

《待ちに待った末の妹の分ですよ、コレで姉妹コンプリートです!》

 

 嬉しそうに腕に力を込めてくる『天使長』、その力があまりにも強くて振りほどけない。布越しに押し付けられる胸のせいで鼻と口を塞がれて苦しい。

 

《……姉様、それ以上はタラシ様が窒息死します》

《ふぇ?》

 

 そんな俺を『清掃長』が『天使長』に声を掛ける形で救い出してくれる、柔らかい天獄から解放された俺は大きく息を吸って肺に空気を取り入れる。息ができるって素晴らしいな。

 

《あ、ごめんなさいタタラさん!》

「いえ、生きてるだけで十分ですから」

 

 返答が変な気がするが恐らく脳に酸素が上手く回って無いからだろう。何か凄くいい匂いがした気がしないでも無いが早急に頭から追い出して記憶を消す。

 

「さて、じゃあ恒例の作成に移りますね」

《はい、お願いします!》

 

 俺は『天使長』の言葉を受けつつ『バイト長』に向き合う、一瞬身体を震わせた『バイト長』だが特に逃げる様子もなく俺を真っ直ぐ見つめ返してくる。そんな『バイト長』を前にインベントリからミスリルインゴットを一つ取り出して『クラフト』スキルを使用、イメージをそのまま伝えて手の上のインゴットを変形させる。10秒も経たずに手の上のインゴットは目前の『バイト長』の姿を形作る。

 躓いてしまったのか、両手を前に突き出すようにして更には右脚がピンと後ろに伸びている。左足は地についているが足裏では無く側面が池に着く形なのでコレから転ぶのだろうと分かった。その顔は泣き顔であり、案の定見慣れて嬉しくないパンモロしている下着にはよく分からない生物が描かれている。

 コレもゲーム時代のオールコンプリートスチルに出て来る『バイト長』の姿だ、どうやら花束を持っていたらしいのだが転ぶ拍子に投げ出してしまい、場面の至るところにその花が舞っていた。彼女のドジからではあったのだろうが、その花がスチルを彩っていて俺は好きだった。それを思い出して何となく、『バイト長』の頭に手を置いて撫でてしまった。

 

《むぅ……タラシさん、なんで妹の頭を撫でてるんですか?》

 

 そんな俺を見て妙に不満そうな声を出したのは『料理長』だ。

 

「なんでと聞かれてもな、何となく手が置きやすかったというか」

 

 撫でている事に大きな意味は無い、本当に何となく撫でてしまっているだけなのだ。そんな俺に益々不満そうな表情を作った『料理長』は頭を差し出してくる。

 

《それなら、私でもいいじゃないですか!》

「うん、そんなキャラだったっけ『料理長』?」

 

 近付いて抗議してきたので何となくその頭を撫でる、不満そうだった表情は何処へやら機嫌を直してドヤ顔を決めてくる。ちょっと可愛いと思ったが、そのドヤ顔が少しムカついたので撫でる手をやや乱暴にする。キャーと少し愉しげな『料理長』の思念()が届く中、『バイト長』からもボクもボクもと求められて同じ様に撫でる。2人とも髪をくしゃくしゃにされながら、それでも楽しそうに笑っている。

 

《すっかり仲良しさんですね!》

 

 そんな俺達を見て楽しそうに笑う『天使長』の声が聞こえてくる、チラリと視線を向ければ『バイト長』のフィギュアを大切そうに抱き締めている姿が見えた。

 そんな彼女と約束した事を思い出して、下の姉妹二人の頭から手を離す。不満そうな顔を見せる二人に見ないフリをして、新しくミスリルインゴットを取り出して『天使長』に声を掛ける。

 

「そう言えば『天使長』」

《はい、何でしょうか?》

「別のスタイルを取ったフィギュアを欲しがってましたけど、どんなのが欲しいんですか?」

 

 小首を傾げる『天使長』に対してそう問い掛けると、ハッとした表情の後に悩み始める。そんなに難しい事なのだろうか?

 

《別のスタイルのフィギュア、ですか?》

《……そう言えば私のフィギュアを作った時に姉様の気を逸らす為に作ってましたね》

 

 疑問を口にする『清掃長』に補足するような形で事情を喋る『料理長』、何気に確りと覚えているのが意外だ。嫌な記憶だろうに。

 

《タラシ様はどの様な物を想定していたのですか?》

「タタラな。用意するって約束した時は今の翼と剣の完全変形と合体を可能とするアクションフィギュアですね、手足も可動させて好きなポーズを取らせられる様にしようかと」

《それ、普通に私も欲しいんですけど》

 

 質問をしてきた『清掃長』に答えれば『料理長』も欲しがってしまった。因みに会話に参加してない『バイト長』は俺の背中に頭を擦り付けている、本当に犬みたいだなこの子?

 悩む『天使長』を他所に、俺と『料理長』はアクションフィギュアに求めるクオリティについての意見交換(オタク談議)をする。人間の可動域を何処まで再現して、何処からを省略するのか。表情は顔のパーツの交換で別の物にするか否か。指を可動式にするのか、手首の交換式にするのか。素体の再現は何処まで近付けるのかと中々に白熱する。ただ、今回の素体の再現で真に迫ろうとすると『天使長』の裸体を見なければ出来ないので無しの方向にしようと思う。

 

《前に姉様に作った『我駕牙』とセットのフィギュア、アクションフィギュアにして作って欲しいです》

「別にいいが、報酬は?」

《むぅ……お弁当1食分でどうでしょう?》

「いや、前に淹れて貰ったお茶が目茶苦茶美味かったから期待値もスゲェ高いんだが……本当にいいのか?」

 

 因みに、ゲーム時代の『料理長のお弁当』はそのステージに限るが戦闘不能ですら回復させる唯一無二のアイテムだった。本来ならロストする筈のユニットを復活させる、即ち死者すら蘇らせると言う最強のお助けアイテムなので正直欲しい。

 それを抜きにしても、『料理長』が作ってくれるお弁当は味わってみたい。

 

《別にタタラさんの為にお弁当を作るなんて手間でも何でも無いですよ、何なら好きなお料理も受け付けますよ?》

「至れり尽くせりだな……けど、今回は『料理長』の得意料理で頼む」

《地味に難しいお題……》

 

 まぁ、料理を作る側からすれば『なんでもいい』は一種の地雷だからな。とは言え、今回は得意料理とオーダーを出してるので大丈夫だと思うが。

 

《……定番の唐揚げにミニハンバーグ、スクランブルエッグ、ポテトサラダとプチトマト。あっレタスも添えたいなぁ、やっぱり彩りは大事。主食はタタラさんの前世からご飯がの方いいよね、胡麻を振る……海苔弁もいいかな。でもご飯に海苔を使うなら俵のおむすびの方が食べやすいかな?》

 

 無意識なのだろう、『料理長』はお弁当の内容を決めている。オーソドックスだが非常に美味しそうなお弁当の内容に、自然と生唾を飲み込んでしまった。子供の頃に大好きだったレシピの並びに、『料理長』の心遣いが見える。

 

「そう言えば、『料理長』の得意料理ってなんなんだ?」

《作れる料理は全部得意ですよ、私》

「トンデモねぇな……」

 

 作れる料理を全部得意と言い切る自信もそうだが、その事に納得せざるを得ない佇まいに声が漏れる。掃除は苦手みたいだが、正直に言うなら『料理長』と結婚できる奴が居たら一生幸せになれるだろうな。食が満たされるなら人生の殆どは明るくなる。

 

《……決めました!》

「あ、決まりましたか?」

 

 唸り続けていた『天使長』が遂に内容を決めたらしい、はてさてどんな内容やら。

 

《私のフィギュアではなくて、タタラさんのフィギュアを作って下さい!》

「……は?」

 

 何で『天使長』じゃなくて俺のフィギュアなんだ?

 

《タタラさんの服装は今のリラックスした日常の物で、表情は穏やかに笑っている物でお願いします!》

「……いやいやいや、なんでそこで俺のフィギュアなんだよ!?」

 

 思考が停止している中で続けられたオーダーに対して、慌ててツッコミを入れる。因みに『天使長』の言葉を聞いた『料理長』が物凄い顔をしているが見ない事にした、目茶苦茶怖かった。

 

《だってタタラさんと私達の寿命は全然違いますし、思い出として形を残したいですし》

「そう言うのは権能(回想機能)で何とかなるでしょう」

 

 もしかして自分が世界法則(システム)側の存在だって忘れてる?

 

《むぅ、タタラさんは前世から形に残すのがあんまり好きじゃ無いのかも知れません。けど、形として遺したい想いは誰だって持ってるんですよ》

「そう言う物なのか……」

 

 この辺は完全に感性の違いだろう、多分追及したら何千何万の言葉になって返ってくるだろうからこのまま流すのが吉だろう。

 取り敢えず、要望は無いのでアクションフィギュアの方向は無しで決めて素材は変わらずミスリルインゴットを一つ。この世界に俺の情報が登録されているのかが分からない、下手をすれば自信のイメージを投影して自分自身ではなく理想の自分を投影してしまう可能性も有る。流石にそれはクラフターとしても人としても恥ずかしい。

 ミスリルインゴットに意識を向けつつ目を閉じて『クラフト』スキルを起動させる、世界に繋がる感覚と共にインゴットに俺の魔力が干渉を始める。そうして手の上で完成する感覚を覚えて瞼を開けば、確かに俺のだと思われるフィギュアが完成していた。

 服装は現代風、ロングのTシャツとジーンズにスニーカーというこの世界からかけ離れた物になっている……学園モノの主人公がよくやるようなチョイスだなコレ。ロングシャツで若干隠れてはいるが、胸筋や肩の筋肉が浮いて見えてる。身体は多分今の俺のそれに近いというか高精度で再現しているのだと思う、つか脚長いなこのフィギュア。そして顔、表情は穏やかに微笑んでいる……例えるなら最愛の相手に向けるかのような表情だ。個人的にはイケメンに改修されている気がしてならない、本当にコレは俺なのか?

 何より、髪が短く切り揃えられているのが一番違和感を抱かせる理由だろう。今の俺の後髪は背中の半ばにまで届く長さが有る、それに対してこのフィギュアの後髪は短く刈り上げられている。それに対して前髪ともみ上げはやや長めだ……コレもエロゲーっぽいデザインだな?

 以上の自身との差異から目前のフィギュアが自分とは認識出来ない、どうしよう……作り直すべきか?

 

《わ、あぁ……》

 

 そんな事を考えていると横の『料理長』から何とも言えない声が漏れた。視線を向けると口元を両手で押さえている姿が見えた。

 

《た、タタラさん……コレを貰えるんですね!?》

 

 と、視線を逸らしている中で興奮気味の『天使長』が俺の手をフィギュアごと包んでくる。吃驚して視線を戻せば、目に超新星もかくやと言わんばかりの光を宿した表情をしていた。正直ちょっと怖い。

 

「え、えっと……コレで本当にいいんですか?」

《はい!》

「いや、正直俺って言うにはちょっと美化し過ぎというか……本当に誰だこのイケメンって感じ」

《何を言ってるんですか、タタラさんの顔は整っているでしょう?》

「いや、俺の顔は線の細いタイプじゃなくてもっとこう……」

 

 骨太と言うか、男臭い物だと自認が有るのだ。こう、学園モノのゲームで顔有り主人公が持つ様な線の細さや柔らかさでは無く、スポーツ系の親友が持つ太さと言うかそっちの系統だと思ってる。

 

《?》

《……タラシ様のお顔は整っていますよ、その像は瓜二つです》

「そんな馬鹿な」

 

 俺の言葉が理解出来ないのか首を傾げる『天使長』とこの像が俺に似ていると太鼓判を押す『清掃長』、完全に自認がズレてる気がする。

 

「……まぁ、満足してくれるならコレでいいですかね」

《はい!》

 

 納得はいかないが、取り敢えずフィギュアを『天使長』に渡す。非常に嬉しそうな表情でフィギュアを抱きしめる姿に何とも言えないむず痒さを感じる。さて、約束は果たせたな。

 

《それでは、これに関してのお礼をしなきゃですね!》

「いや、元々約束をしてたものですし大丈夫ですよ」

 

 自分のフィギュアを作って礼をされても心情はとても複雑である、しかも特にポーズを取っている訳でもない素の立ち姿の物では余計に。が、『天使長』は俺の反応を遠慮と受け取ったのか途端に不機嫌な表情になる。うん、なんで?

 

《タタラさん、私が報酬を払えないと思ってますね?》

「いや、報酬の支払い能力が大丈夫なのは分かってますけど」

《けど?》

「……自分のフィギュア渡して報酬貰うってのが恥ずかしいというか」

 

 俺の言葉に呆れた表情を作る『天使長』と『料理長』、『清掃長』に至っては溜息吐いてるしなんだこの状況。唯一状況が分かって無さそうな『バイト長』だけが今の俺の癒しである。

 

《仕方ないですね……今回は形のあるお礼は控えます》

 

 何処か頬を膨らませた表情の『天使長』はそう言ってから俺に向き合う、その表情は真剣そのものだ。

 

《私の権限で一度だけ、タタラさんがこの世界を追放される物を作成しても繋ぎ止める……コレを報酬とします》

「なっ!?」

 

 世界法則(システム)側の存在として恐らく最大限の報酬だろう、俺の追放に際して神々が揃わなければ対処出来ない事象を肩代わりすると言うのだから。元々女神に近い存在で、この世界そのものを運営する最上位の存在とは言え越権行為に過ぎるのではなかろうか?

 

「そんな事をして大丈夫なんですかね、明らかに権限を越えてるでしょうそれ?」

《……私達の依頼品に対して世界追放級の代物を作ってるのにこの世界に留まれる理由を前にお話ししましたよね?》

 

 焦って問い掛けた俺に『料理長』が静かに指摘する。が、今回は状況が違う。

 

「俺が言ってるのは、皆に関わってない状況でそれを肩代わりしていいのかって事だぞ」

《一度のやらかしを肩代わりする程度、姉様なら問題無いですよ》

 

 もしかして、長女だから権限の範囲が他の姉妹よりも広いんだろうか?

 

《心配して下さるのは嬉しいですが、これくらいは問題無いですよ。それこそ、前に上司に言ってた第五元素を作成しても大丈夫です!》

「……作るとなんか嫌な因果が働きそうで嫌だな」

 

 ダンジョンで手に入れた四大属性の王玉を使ったそれの研究をした場合、本気で追放されるであろう事は予想出来ていた。仮に此処で作れるようになったとして、結果的にコレを基軸にして作成した物がどんな影響を世界に与えるかがあまり予想出来ない。ただでさえ『錬金術師の卵』を核にした『フォルジュロン・ドライブ』なんて言う異世界の終末兵器に連なる技術を生み出したのだ、今度は第五元素を核にした技術が終末兵器の切り札に連なる物になりかねない。

 

《きっと、タタラさんにとって必要になる事だと思うんです。ですから、今回はこのスケープゴートで1つ!》

「嫌な言い方だな」

 

 遠回しにとんでもない不幸か決断が待ってると言われた気さえする。だが、今回はコレを受け入れるべきだろう。

 

「……わかりました、今回は一回分のスケープゴートで」

《はい!》

 

 受け入れればとても嬉しそうな表情になる『天使長』、その顔を見て受け入れて良かったと思ってしまう自分に苦笑いが浮かんでくる。

 

《それでは、そろそろ……》

 

 代表して『清掃長』がそう言って帰ろうとする。俺も見送りに意識を切り替える中で違う事を言ったのは『天使長』だった。

 

《あ、二人は先に帰ってて下さい。私はまだタタラさんとこの子にお話ししたい事が有るので》

《……わかりました。ほら、帰りますよ》

《下姉さま、俵担ぎは辞めて下さい!?》

 

 姉の言葉に静かに理解を示した『清掃長』は『料理長』を肩に担いで部屋から出ていく。突然の事に驚いて暴れる『料理長』の手足が当たりながら、静かに一礼して工房から出ていった。

 部屋に残った『天使長』は、俺の後ろに隠れていた『バイト長』を俺の横に立たせて改めて話を始める。

 

《タタラさん、私の末の妹を矯正するという依頼を受けて下さってありがとうございます》

 

 そう言って静かに一礼してくる『天使長』に慌てるのは『バイト長』だ。姉にして上司でも有る『天使長』の丁寧な対応に対して、自身の卑屈な面が刺激されてしまったのだろう……育成計画は練っているがやはり初めは意識改革からだろうか?

 

《大姉さん、ボクの事でそんな丁寧な挨拶なんて必要ないです!?》

《いえ、家族としてお世話になる相手なのですから、丁寧もなにも真摯に挨拶はするべきなのですよ》

 

 慌てる『バイト長』にそう言って『天使長』は笑う。妹の為なら苦では無いのだろうけど、自己肯定感の低い『バイト長』からしたら気が気じゃないよな。その辺ちょっと理解出来ない辺り、この人達が人間じゃないんだと思う。

 

「それで、『天使長』からして俺なら『バイト長』を矯正出来ると分かるのか?」

《確証は無いですよ、確信はありますけど》

 

 どうも『清掃長』と共通の認識っぽいな。

 

《私からすれば、既に実績の有るタタラさんなら大なり小なりこの子をどうにか出来ると思っています》

 

 静かに続ける『天使長』は、静かな眼差しを『バイト長』へと向けている。

 

「実績、ですか」

《ええ、目の前に居るでしょう?》

 

 そう言われ、思わず『天使長』の背後を見る。そこに浮かぶ13本の剣で形作られた翼は、確かに『看板娘』を変えた実績である。

 

「……ただ一度の奇跡ですよ」

《タタラさんが命を懸けて手にした奇跡ですよ、もっと規模が小さければ再び起こせないとは言い切れません》

 

 その言葉の後、『天使長』は視線を俺に戻す。視線が絡み合い、その翠の瞳が俺をじっと見据える。

 

《妹もきっとタタラさんの事を信じて、この末の妹を預けたのだと思います。そして、私の知るタタラさんは人に信じられたなら応えられる人だと私は知っています》

 

 重い期待だ、前世でここ迄重い信頼を向けられた事は無かった。だからこそ怖くなる、この信頼を裏切る事が。

 

《タタラさん、末の妹が料理や掃除を得意とする迄は望んでいません。けれど、ほんの少しだけでもいいのでこの子が胸を張ってメイドと思えるよう……手を取ってあげてください》

 

 そう言って『天使長』は俺と『バイト長』の手を取り、そっと重ねる。思わず握った手を同じ様に握り返してくる『バイト長』、そんな俺達を見て嬉しそうに笑う『天使長』。

 

《もしも、この子のメイドの仕事が出来ないと定められた世界法則(システム)の軛を外せたのなら……その時は私もタタラさんのダンジョン攻略に参加します》

 

 その言葉に、背筋が泡立つ。出来るか否かは置いておいて、間違いなく世界最強に届く『天使長』が手を貸してくれるとなれば俺も存在昇華をせずに最深部を攻略出来るだろう。報酬に目が眩んだ、と思われてしまうだろうが『バイト長』の教育に対してより真摯に向き合う決心が付いた。

 

「分かりました、全力で当たります」

《ふふ、初めからそのつもりだったでしょう?》

「それはそうですけど、より一層そう思ったんですよ」

 

 世界にそう定められている相手に、もしかしたら無理な事なのかも知れないが挑む理由としては十分だ。俺の反応に不安を抱いたのか、怯えの混ざった視線を向けてきた『バイト長』の頭を繋いでない手でくしゃくしゃと撫でる。

 

「明日から早速始めて行こう、不安は分かるが乱暴な事はしないさ」

《……ほんと?》

 

 不安気に視線を向け続ける『バイト長』に視線を合わせて出来るだけ柔らかく笑う。一瞬キョトンとした『バイト長』は、その後夏の向日葵を思わせる綺麗な笑顔を返してくれた。

 

《本当に仲良しになれてますね、思わず嫉妬しちゃいそうです》

 

 苦笑が混ざった様な声でそう言った『天使長』、俺は何とも思わなかったのだが『バイト長』は違うようだ。背筋をビクッと震わせた後に身振り手振りの動きを交えながら弁明している。

 そんな姉妹の姿に微笑ましい物を感じるが、何故か少しだけ『天使長』の雰囲気が淀んでいる様に感じてしまった。少し前、頻繁とは言わないがそれなりの頻度で感じた様な粘着く感覚。

 嫉妬心を誰かが誰かに向けるそれを、まさか『看板娘』で妹大好きの『天使長』が放つなんてそんな訳が無いのに。

 なんで俺は一瞬でも『天使長』が『バイト長』に冷たい目を向けたと錯覚してしまったのだろうか。




『看板娘』

長女『天使長』
身長:168cm
体重:秘密です!
B:でっかい
W:ふつう
H:でっかい
武器:剣
得意分野:万能
薄い本:『新婚もの』『寝取られ』

次女『清掃長』
身長:172cm
体重:適正です
B:ふつう
W:ほそい
H:おおきい
武器:槍(箒)
得意分野:掃除
薄い本:『緊縛凌辱もの』

三女『料理長』
身長:155cm(自称)153cm(実寸)
体重:へ、平均より軽いですから!
B:おっきい
W:ほそい
H:ちいさい
武器:魔導鎧
得意分野:料理
薄い本:『異種輪姦』

四女『バイト長』
身長:158cm
体重:53kg
B:ない
W:ほっそい
H:ちっさい
武器:格闘
得意分野:無し(子育て)
薄い本:『輪姦』

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。