既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
感想に有った意見を取り入れている面が有りますが、御本人からは許可を頂いております。
身体を揺すられる感覚がして、重たい瞼を上げる。眠る直前に俺は工房に居たはずなのだが、身体は布団の柔らかさに包まれている感触がする。
「タタラ、朝ご飯の時間だから起きて」
「……え、てる?」
揺すられつつも掛けられた声に、回らない頭のままで相手を確認する。霞む視界を何度か瞬きする事で整えて、クリアにすれば普段着にエプロンを掛けた姿のエテルがそこに居た。
「……悪い、寝過ごしたか」
「ううん、大丈夫。私も久し振りにこの家のキッチンで料理するからって早起きしちゃったしね」
昨日は自室でタチアと色々有ったのか起きれて無かったからか、今日はキチンと起きて料理をしたらしい。そう言えば、『バイト長』は大丈夫だったのだろうか?
「なぁ、エテル。朝食の準備って『バイト長』はどうしたんだ?」
俺の確認に、エテルは苦笑いを返すだけ。もしやコレ、朝からとんでもない被害を出したんじゃなかろうか?
そんな不安に駆られながらも身体を起こし、着替えを持ってシャワーへと向う。起ききれて無い頭をスッキリさせて、今日も1日を始めないとならない。
シャワーを終えて頭を覚醒させた後、リビングに入れば朝食の準備は終わっていた……まるで戦場跡が如くボロボロのリビングで。
「……俺が起きれなかった間にいったい何が有ればこうなるんだ?」
「あら、おはようございますタタラさん」
《おはようですタタラくん!》
硬直する俺に声を掛けて来たのはお義母さんと『バイト長』、朝食を準備したであろう一華と三葉さんは食卓に着いてグッタリしている……ゆっくりじゃなくてグッタリしてるのなんでだ?
「……おはようでござるよご主人」
「おはようございます、タタラさん」
「……おはようございます。二人とも、何が有ればそんな疲れ切った姿になるんだ?」
エテルも含めて三人で朝食を作っている筈だ、普通に考えれば負担は三分の一になる筈なのに三葉さんは俺と二人で作ってた昨日よりも疲れている様子だ。
「……奥様も居て作るのは大分楽だったのでござるよ」
「ふふ……問題はあの『バイト長』様のフォローですね」
なんだろう、続きを聞くのが怖い。
「一華様とエテル様には昨日の事をお伝えして、共に対策を練って居たのです」
「ご主人が珍しく起きて来なかった故に、拙者達でも思い付く簡単な物で済ませたのでござるよ」
お茶を啜って口を湿らせた二人はそう続けた、何となく此処から長く続きそうなので俺も食卓に着いて聞きの姿勢にする。
「お母様の訓練を得て、歩行に関しては昨日よりも良くなったと判断して先に取り皿の配膳をお願いしました」
三葉さんは淡々と感情が見えない目でそう語る。成る程、料理では無く食器の配膳か。昨日のうちに思い付いて然るべき対応だったな、コレなら犠牲は食器だけで済む。
「全ての配膳を終える迄にこの厨房と食卓を往復した回数は20回、うち18回脚を縺れさせ16回転んだでござるよ。」
同じく淡々と語る一華。早速お義母さんの歩行訓練の効果が出ているのではないだろうか、俺の見立てだとこの20回中19回脚を縺れさせて18回転んでる。結果として往復回数が更に増えて合計30回くらい転んだんじゃないかな?
「予想より少ないと思うな」
「……タタラ様はどれ程の回数転ばれると?」
「往復回数が40回に増えて30回転んだと思ってます」
俺の返答に対して三葉さんと一華は其々苦い物を噛み潰したかのような表情になる。これ、確度の高い未来過ぎて想像した挙句に内心でダメージ負ったか?
「しかし、この戦場みたいな荒れ方はいったいどうしたんだ?」
「10人態勢で挑んだご主人のゴーレム達が尽く吹き飛ばされた結果でござるよ」
「昨日より増えてるのに対応出来なかったのか!?」
改めて確認すると、中たたらと小たたらが合わせて10体が『バイト長』のベッドで横になっている。その全てが目を回しているような様子で、仮にゲームだったなら目がぐるぐるになって描かれていただろうな。
「それで、食器の配膳だけなら多分二人とも疲れ切ってはいないと思うんだが……」
「ふふ……お茶は粘性を持てる物と初めて知りました」
「待ってどういう事!?」
三葉さんが手元の湯飲みに視線を落としてそんな事を言った。茶葉にお湯を注いで淹れるだけのお茶で粘性が生じるって何だ?
「拙者としても理解不能でござるよ、此方で指定した量のお茶っ葉のお湯を注いだらグリーンティースライムが誕生してたでござる」
「何故に未確認生物Xが誕生しているのか」
過去作のメシマズヒロインや何なら『清掃長』が作った料理でもあるまいに、何故ソレが生まれるに至るのか。頓痴気イベントで妙に強いモンスターとして出て来て戦った事も有ったぞ。
「流石に動きはしませんでしたよ?」
「動いて鳴き声あげたら地獄ですよ」
因みに、過去作頓痴気イベントで出て来た時は最低でも80レベルには届いていたしガチで強かった。ついでに『清掃長』の手で生み出された同類のミルクスライムが『料理長』に触手プレイかました挙句、倒された際に弾けてぶっ掛かり彼女を白濁まみれにして泣かせた実績も有る。
「おかしいな『バイト長』にそんなマイナスの才能は無かった筈……確かに生物錬成には至ってはいないが」
《生物を生み出してはいないですけど、あの子は加減を知らないんですよタラシさん》
「うわっ!?」
少し考え込んだ瞬間、脳裏に響いてきた『バイト長』とは別の意思に思わず驚いた。振り向けばやや呆れ気味の表情をした『料理長』が腰に手を当てて立っていた。
「……ご主人、この明らかにご主人が好みそうな天使族は何処の何方でござるか?」
「預かってる『バイト長』の姉で『料理長』だ、俺の趣味仲間でも有るな」
ややジト目気味に俺へと質問してくる一華に答えると、『料理長』は見事な礼をする。下着を着けてないのか地味に胸が揺れてる。
「で、何で来たんだ?」
《妹を心配して様子見に来たとは考えないんですね》
「妹を本気で心配してるなら寧ろ顔出しはしないだろ、『清掃長』曰く
《……タタラさんの私達に対する解像度が高い所、私は結構好きですよ》
何処か呆れの混じった『料理長』の言葉はスルー、それよりも俺の知る『バイト長』とは違う情報が出て来た事に対して補填が優先事項だ。料理はまだ早いと思ったがお茶を淹れる事にすら問題を抱えているなら此方にも対策を練らなければならない。その為の情報を得る為には先ず『料理長』の用事から済ませる方が早い。
俺の内心を悟ったのか、『料理長』は俺に真っ直ぐ向き合う。
《本当は夜に伺うつもりだったんですが、何となく無理そうなので今来ました》
「……何か有るのか?」
《タタラさんにとっていい事か悪い事かは分かりませんけど、夜は覚悟しておいた方がいいですね》
目茶苦茶嫌な事を言うな、一華が夜にスケベイルアーマー着て突撃でもして来るのか?
《一昨日お話したアクションフィギュアについてなんですけど》
「すまん、時間が足りなくなるから朝食の後でいいか?」
《……そんなにですか?》
「ちょっと思い付いた新機軸の技術ぶっ込もうと思ってな、語りだしたら1時間は掛かると思う」
《上等です》
流石にワープロ取り出して説明を始めたら『料理長』も乗ってくるのが分かる、その場合
「次は此方が聞くが、『バイト長』は何でお茶をスライムに出来るんだ?」
《先程も言った通り、加減知らずなのでお茶の葉を阿呆程入れて粘性が出たんですよ。濃縮されたお茶の成分がお湯に溜まってスライム化してます》
「……急須にお湯を入れただけで?」
俺の質問に対して頷く『料理長』だが、なんでただお茶っ葉にお湯を注いだだけで濃縮されるんだ?
「もしかして、『清掃長』並みに料理の腕がヤバいのか?」
《もしそうなら今頃私達の住む屋敷が滅んでますよ》
つまり『清掃長』程では無いと……安心出来る要素が無いな。
《もし料理やお茶を任せるなら、徹底的に張り付いて手取り足取りやらないと無理ですよ》
「分かってるなら自立出来るまでやってやれよ姉」
《私達だと無理なんですよ、下姉さまにも言われたでしょう?》
諦めの境地と言わんばかりの表情をする『料理長』、さてはコレ、昔色々やって失敗したな?
「なんだ、ちゃんとお姉ちゃんしてたんだな『料理長』」
《むう、頭を撫でないで下さい》
褒めるつもりで頭を撫でたら、口では嫌がるが身体は正直らしく少し頭を突きだして来た。丁寧にその髪を撫でてやれば心地良さそうな顔をしてくれる。
「……ご主人、目の前で言葉の遣り取りも分からずイチャつかれると流石に傷付くでござるよ」
何処か拗ねたような、悲しんでいるような声音の一華の言葉を聞いて思わず『料理長』の頭から手が離れる。少し不満そうな『料理長』には申し訳無いと思うが、一華が傷付くのは許容出来ない。
「いや、その……すまない」
「……独占欲を出した拙者が悪いから謝らないで欲しいでござるよ」
しまった、落ち込ませるつもりはなかったのに俺に気を使わせたと思わせて更に傷付けてしまった。焦る俺に対して『料理長』は呆れた雰囲気を出した後、いきなり手首を掴んで引いてくる。見た目は小柄で華奢だが俺を遥かに越えるステータスを持つ為、簡単に引っ張られてその後ろをついて行く事になる。そのまま一華の側まで歩かされ、掴んでいた手をそっと一華の頭に添えられる。
《この方が不安になったのなら、直ぐに慰めてあげてください。私達を普段誑してるのに何を足踏みしているのですか貴方は》
そう叱られる、言われるままに一華の頭を撫でてやると尻尾が揺れ始めた。何となく、よく知らない女に俺が構った事が不安の原因なのだと当たりを付けて謝罪をする。
「不安にさせてすまないな」
「……それでしたら、もう少し誠意を見せて下さい」
そんな可愛い事を言ってくる一華の頬に手を添え、上向かせてから唇を重ねる。舌を絡ませることも無いただ触れ合わせるだけのキスだが、顔を離した時に見えた一華の表情は幸せそうに頬を染めていた。誤魔化しみたいで少し嫌だったが、一華が笑ってくれるなら良かった。
《……目茶苦茶に濃いお茶が飲みたいですね》
「……苦味が欲しそうですね、お茶は要りますか?」
《ください》
何か外野が言葉は通じて無いのに意思疎通してる気がするが、気にしたら負けなので無視。
「まぁ、『料理長』の話を聞く限りだと自立出来るまで俺達が張り付いて料理を見ないと駄目なのは分かった。転ぶ事象もお義母さんが歩き方を教えてるから時間は掛かると思うが何れは解決出来ると思いたい」
「出来るとは明言しないのでござるな……」
「今日の配膳を見てたと思うが、明言出来ると思うか?」
「無理でござるね」
俺の質問に真顔で即答する一華に苦笑いが浮かぶが、そもそも
この世界の神は力ある人間が何かしらの手段で神核と権能を得た為に存在昇華した存在だ。機械神様こそ無機物が神核と神格を得た物だが、それも原初の機械かつこの世界を外敵から守る為の機能が有ったからこそ信仰を集めて神格を得れたという前提がある。
神々は権能を以て人の世を運営し、信仰を得て力を増していく。しかし、どれだけ力を得ても元は人間やそれに作られた存在である為に完全や完璧な存在では無い。そこから作り出された種族が完璧になれる道理は無いのだ。
まぁ、それで言うならこの世界の
「後は足だけじゃなくて身体全体の使い方も覚えさせて行くべきか?」
「コレは我が國の貴族に多く見られるのですが、武術……もっと言えば演武を教えるのもいいかも知れませんね」
「……演武?」
確かに対人戦闘に適性が無い俺としては疑問が有るが、身体の使い方として演武は有効なのだろうか?
「ご主人、武術は間合いの読み合いと奪い合いでござる。スキルの影響でご主人は当たる距離まで近付いて避けられるより早く当てる戦い方が身に付いているでござるが、拙者達の様に武を修める者は基本距離の騙し合いに終始するでござるよ」
うん、本当によく分からない世界だ。俺は自分の腕の長さと得物の長さを鑑定で理解し振るって当てに行っている訳だが、一華や四葩達はそれを日々の修練で理解し更新を続けているのだろう。つまり、その騙し合いに使う身体への理解を深める為に演武を『バイト長』にさせる……有効かは分からないが手段は一つでも多く取った方がいいだろうな。
「なら、三葉さんの助言を受け入れようか。丁度、先生には困らないみたいだし」
「……野獣指南役はお薦め出来ませんよ?」
「それには初めから期待してないです」
さて、当主代行かお義母さんか……何方か引き受けてくれないだろうか?
「ふむ、それなら華澄に任せるがよかろう」
「そうですね、歩き方と一緒に武術の基礎と演武を教えてみましょうか」
一華達との会話についてを2人に相談したら、納得した上で協力してくれた。まぁ、その際周囲の状況をチラ見していたのでアレだが。部屋の修理は食後に一手にやるので今は勘弁して欲しい。
「お義母さんって武術の師範とかも出来るんですね」
「いえ、あくまでも護身術程度ですよ。それでも長く修練を続けているので出来る程度です」
「……護身術で海大無双と呼ばれる相手をぶん投げるって何だ?」
いや、四葩は実家で傷付けないように彼是制限してたとか言ってたけどそれでもぶん投げられたらしいし『バイト長』が来た日は雨で泥濘む中当主代行を投げ続けてたみたいだし。
「お母様、それなら私が教えますわ」
「いばら……貴女、演武大会で相手を破壊した事を忘れたの?」
「そんなお母様、もう50年も前の事を持ち出すなんて酷いですわ」
「演武大会で相手を破壊ってなんだ」
50年前ってところにはツッコまない、鬼は長寿だし。
「あら、タタラ。私の想定より相手が遅かっただけですわ」
「……演武ってそんな怖い物なのか」
「タタラ、言っておくがそこまで酷い物ではなくてだな」
悪びれないいばらさんを通して演武に恐れ慄くと四葩が説明を入れてくれる。ただ型を披露する物だと想像していたのだが、演武は相手の動きを読み当てるつもりで演るがそれでも相手に当たらない位置になるように動作を合わせるのだそう。その為には手足の長さを理解し、踏み込みの距離や技を打った際の自身の姿を明確にイメージしなければ出来ない事らしい。武術はよく分からないが、鍛造の際に狙った箇所より鎚がズレたりしていたのを修正したアレを参考に何となく分かったような気がする。多分、そこまで大きく間違ってないと思う。
「説明してなんじゃが、タタラには無理そうじゃのう」
「騎士カラムス様から対人戦闘の才能が無いと称されているのも分かりますね」
「この辺を理解してるあの人、本当凄いな……」
言葉を必死に噛み砕くも理解出来て無い俺を見た四葩とタチアから難しい顔をされ、改めて自分にその手の才能が欠けていると自覚する。本当、単純に殴り飛ばせるダンジョンのモンスター達くらいしか相手出来ないなコレは。
「ダンジョン内なら私達でタタラを守れば良いから問題無いよ」
そんな風に言って笑うエテルだが、その目には何か妙な色が見えた気がした。その守るって言ってるの、まさか自分の身体を犠牲にした物じゃないだろうな?
まぁ、それはそれとして──
《ふむ、成る程……》
「あの、『料理長』?」
《……はい?》
食卓に普段は居ない『料理長』がゆっくりと味わって一華の玉子焼きを食べていた所に声を掛ける。
「いや、目茶苦茶味に集中してるけど……一華の玉子焼きは俺の好みに合わせてるだけで珍しい味付けとかでは無いと思うぞ?」
料理上手である『料理長』ならコレより上の味が普通に作れる筈だ、ソレが俺の好みドンピシャになるとは言い難いが。
《……その好みを知る為に味わってるんですよ》
《タタラくん、妙に鈍い所はわざとです?》
やや頬を染めて視線を逸らす『料理長』と、疑問の体で俺を刺しにくる『バイト長』。
「妙に鈍いって何だよ……」
「……天使さん、言葉が通じるか分からないですけどタタラのコレは天然だよ」
「自分が好かれる事が無いと思い込む呪いのような物じゃ、心からぶつかって好意を伝えぬ限り通じぬ」
「秘めているだけでは恋愛感情は届きませんよ」
「その癖に寂しいとか苦しいなんて負の感情は軽く察してくるでござるからな」
「頑張って口に出して伝えて下さいね、『料理長』さん」
「……なんでそんな連携取れてるんだよ」
エテルから順に四葩、タチア、一華、三葉さんの順で『料理長』に声を掛けていく。先の四人はまだ分かるけど三葉さんは何でコレに乗った?
まぁ、声を掛けられた『料理長』とその隣の『バイト長』は揃って溜息を吐いている。久し振りに泣いていいかな?
「しかし、タタラ殿の趣味仲間であったか?」
「ええ、姉の『料理長』は俺と趣味が合いますね。多分、一部は当主代行とも趣味が合うかも?」
「そうですね、アーレム関連はきっと通じ合えます」
「ほう」
当主代行の言葉に答えれば、ダリアが捕捉して当主代行の関心を買う。人見知りな所が有る『料理長』だがアーレムと聞いて当主代行にキラキラした目を向け、それを受けた当主代行はニヤリと笑って大紅蓮をチラ見せする。うん、友達になれるなこの二人。
「
そんな二人にこんな声を掛けるお義母さんは完全にお母さんをしていると思う、二人はいそいそと食べる事に集中したので俺もアーレムの話題はきり上げる事に決めた。
「……そう言えばエテル達は今日も探索でいいんだよな?」
「うん、私はそのつもり」
「妾もじゃの」
「私もですね」
「拙者は家に残るつもりでござるよ」
確認を取れば一華以外の3人は探索に入るつもりらしい。なら、そろそろかな。
「エテル、そろそろ存在昇華するか」
「え、まだチーちゃんはしてないのに?」
「正直、それも気になるけど打たれ弱さはこの中でもダントツだからなエテルは」
防具こそ最高の物を使っているが、エテルは回避型である。体力の最大値も低ければ物理防御の基礎ステータスが低いので、少しでもドーピングしないと今はエンカウントして無い逸れ魔神に出会せば下手したら死ぬ。俺はエテルに生きていて欲しいから、アイテムが揃った今色々と整えて挑んで欲しい。
「……分かったよ、出る前にちゃんと見てね?」
「ああ、それは当然」
何処か濁った目をしているように感じるエテルに返す。
「一華はダンジョンに潜らないんだよな?」
「拙者、今日もご主人が家事の教育をすると言うから手伝うでござるよ。多分、家の修理とかに割く時間も必要でござろうし」
「……うん、助かる」
改めて壁やら家具やらが破損しているリビングを見る、大した労力では無いけど『バイト長』から目を離すのはちょっとな。
《仕方有りませんね、洗い物は手伝ってあげます》
「え、『料理長』どうした?」
《コレでもキッチンを預かる身ですから、妹の教育をしてもらう礼と思って下さい。他の掃除は駄目ですけど食器洗いとキッチン清掃は私も得意ですから》
いきなり食器洗いを手伝う宣言をする『料理長』に驚く、いやここも俺達が付きっきりで『バイト長』に教えるべきだと思うのだが?
《それに、此処に残ってる陶器製のお皿を全滅させてしまうのは忍び無いです》
「助かります」
用意していたミスリル製の食器は、俺が寝坊した為に使われる事が無かった。そうなれば当然それまで使っていた陶器製の物を使う事になり、先程の結果に繋がったのだ。洗い物を任せれば食器を割るのなんて火を見るより明らかだ。
「タタラ殿、翻訳をしなければ深読みする面々が多い事を考えて頂けますか?」
「う、悪い」
俺と『看板娘』達のやり取りにおいて俺の声しか他には聞こえない事が頭から直ぐに離れてしまう、普段は俺達だけで会話してるかは変な癖になってるなこれ。
「サイファーやゴーレム達の視覚を共有する魔導具をベースにして彼女達の言葉を文字にして表示する魔導具とか作ろうかな」
「今、魔導具の話をしましたね?」
「目が合ったら縁を結んでくる妖怪みたいな反応してくんなダリア」
「そんな妖怪おったかのう……?」
俺のボヤキに近い独り言に超反応してくるダリアへ前世で印象に残った
「む、妖怪縁結びか……あの存在は妄りに口にせぬ方がよいぞ。次の瞬間には呼ばれたと曰いながら縁を結んでくるからな」
「居るのかよ」
「子供達にも名前を教えませんね、縁を結ばれるので」
「名前を呼んじゃいけない枠かよ」
何処ぞの世界的な魔法使いを題材にした児童書のラスボスみたいに名前を呼んじゃ駄目なタイプか、つか開発はそっちの事務所にまで喧嘩売るつもりだったのか。いやまぁ、蝗をベースにした蟲人系の明らかに特撮のヒーローを意識した目茶苦茶強い仲間とか昔居たから今更感は有るけど。
「妖怪の事は置いておいて、『料理長』と『バイト長』はどうだ?」
《相当に魅力的では有りますけど、文字として表記出来ない可能性が高いと思いますので私は要りません》
《あ、ボクは欲しいです!》
其々で別の答えを返してくる『料理長』と『バイト長』、希望にそって後々『バイト長』分を作ろうと思う。多分、『料理長』が心配しているのは俺にしか言葉が通じて無い事から文字への変換に支障をきたすことだろう。何となく、チャンネルが違うだけで『念話』を発してるんだと思うからそこを繋いで『感応』させてしまえばいいと思ってる。
と、大分ぐだぐだな朝食を終えてからエテルの存在昇華を行う。
《はにゃぁ!?》
「だー!?」
食卓から台所へ食器を運ぶ『バイト長』とゴーレムから上がる悲鳴と破壊音を可能な限り意識して意識から外しつつエテルに向き合う。
レベル 50/50
体力 200(300)+10+20
魔力 375(600)+100+30
技力 145(300)+10
物理攻撃 80 (80) +15+5
物理防御 80 (80) +1+5
魔法攻撃 250(250)+15
魔法防御 199(250)+1+20
速力 250(250)+50+20
運 100(100)
改めて鑑定したエテルのステータスを見て、必要な分のアイテムを渡す。四葩に使わなかった分だけ魔力上昇アイテムには余裕が有るが、体力上昇系は全員に使っているので残りが少ない。それでも全ステータスを上限に届かせてから存在昇華をして貰う。
「タタラ、おすすめのスキルって『早熟』でいいんだよね?」
「それで合ってる、スキルも合わせてレベルが上がり易くなる」
「うん、ならそれにするよ」
俺の話を聞いた後にエテルから魔力が吹き出す。直ぐに奔流は収まったが、エテルから感じる雰囲気が少し変わった気がする。もしかしてクラスアップが起こったとか?
「エテル、調子はどうだ?」
「……うん、大丈夫。大分ステータスは下がっちゃったけど問題は無いかな」
一言断ってからエテルに『鑑定』を掛ける。
存在昇華後
レベル 1/60
体力 60 (360)+10+20
魔力 120(720)+100+30
技力 60 (300)+10
物理攻撃 16 (96) +15+5
物理防御 16 (96) +1+5
魔法攻撃 50 (300)+15
魔法防御 50 (300)+1+20
速力 50 (300)+50+20
運 20 (100)
移動力 20 (99) +10+1
スキルスロット
『聞き耳Ⅱ』
『鷹の目Ⅱ』
『潜伏Ⅲ』
『索敵Ⅲ』
『罠解除Ⅱ』
『早熟Ⅰ』
分かってはいたが弱体化が凄まじい、ステータスとしてはクソボスを相手にするには厳しいだろう。暫くは49階層迄の周回かな。
「スキルは探索系で揃えたんだな」
「うん、どうしても戦闘ではトラッちゃん達に負けちゃうからね。先にそっちを伸ばす事にしたんだ」
「自分で考えて判断したんだろ、その事を尊重するし個人的には良い判断だと思うぞ」
斥候としては一華がスキルを揃えているが参加しない事の方が多いし、エテル元々この方面を伸ばして来たからこのまま完成させた方が早い。それに、攻撃力なら『不意討ち』と『闇討ち』に『エリンジウム』で補えるから問題は無いだろう。
俺に褒められて嬉しいのかエテルは笑顔を見せてくれる。ただ、何となく普段から見慣れた物と違う感じがした。
その後方針を決め終えたエテル達を見送ってからキッチンを確認する、俺やエテルの洗い物の速度など児戯と言わんばかりの速度で食器を洗っている『料理長』を改めてとんでもないと認識する。その傍ら、三葉さんから付きっきりで皿洗いを教わる『バイト長』の姿があった。
「タタラ様の作った食器用洗剤はとても優秀です、この様に少量だけ付けてから優しくこするだけで……はい、この通り。力は入れず、優しく……擦ると言うより撫でるくらいの力で」
《こ、ここここここうです!?》
「あら、うふふ……大変お上手」
三葉さんは言いながら実践した後、『バイト長』の手を掴んで軽く力加減を実感させてから洗わせている。やってみせ、から始まる前世の母国の司令官による名言を完璧と言える程に実践している姿に思わず鳥肌が立つ。俺には多分無理だ、先天的な資質か後天的な物かは分からないが三葉さんみたいに上手く教えられないと知っている。もしかしたらお義母さんの血が濃いのだろうか、あの人も教育上手いし。
《タタラさん、妹の教育される姿をジッと見てるだけですか?》
「いや、この教育場面に入れる気が欠片ほどもしないんだが」
目の前では1枚割らずに皿を洗い終えれば手放しで褒めて、『バイト長』から笑顔をどんどん引き出していく三葉さんの姿がある。こんなの真似しろとか言われても無理だろ、天性の褒め上手じゃないか?
《こうして見ると、嫉妬しちゃいますね》
「そうなのか?」
《私、軽く千年は教えましたけど上手くいかなかったんですよ》
そう語る『料理長』は少し寂しそうに笑った、思わずその頭を撫でて慰めたらそっと俺に身体を預けてくる。
《……弱った女に優しくして、手籠めにするつもりですか?》
「ぶっ飛ばすぞお前。素直に弱音を吐く相手を慰めたいだけだぞ」
サラッと俺の肩を翼で包んでくるのは何なんだろうか?
「俺が特異点としてお前達に干渉出来るから、影響下の三葉さんが教育出来てるんじゃないか?」
《そうすると今なら私でもあの娘に教えられるかも知れませんね》
「……『料理長』も影響受けて変わるかもな」
《貴方に変えられるなら歓迎ですよ》
この子は何を言ってるやら。そして俺達は『バイト長』の面倒を見ながら食器洗いを終えた。
俺以外の洗濯物を犠牲にする訳にいかないので、今日の洗濯は見学にする事にした。
《ボクの顔くらいの大きさです……》
「やめろ」
エテルのブラを眼前に持ち上げて比較する『バイト長』に思わず叱責する、改めてデカさに意識を持っていかれるが邪念を頭から追い出す為に何度か振った。地味に背後から『料理長』の冷たい視線が刺さって居心地が悪い。
「この後はお義母さんと歩行訓練と型稽古だったな」
《はい、頑張るです!》
「何が有効か分からないから総当たりする形で悪いな」
《全然、タタラくん達が一生懸命ボクの事を思って考えてくれたことだから大丈夫です!》
「そっか、ありがとな」
洗濯物を干し終わった際にそんな遣り取りをした。根っ子が良い子なので頭を撫でたら嬉しそうにきゃーと声を上げてる『バイト長』に笑みが零れ出た。
そのままお義母さん『バイト長』を預けて、それから工房に移動する。『バイト長』の動きを常に見れないのは良くないが、『料理長』との依頼も無視は出来ない。『料理長』作の弁当なんて手に入る機会を逃せす訳にはいかないのだ。
工房の作業台に魔導式ワードプロセッサを置いて、早速設計図を呼び出す。そう言えばこれ、ワープロ扱いしてるけどやってる事の殆どはノートパソコンだよな。計算機の機能を入れてないからワープロ呼びしてるけど。繋いだプロジェクターから設計図を投写して説明を始める。
「さて、今回俺が思い付いたのは素材の暴力全振りのアクションフィギュアだ」
《素材の暴力、ですか?》
俺の言葉を鸚鵡返しする『料理長』に設計図を使って構造を説明していく。
「ある意味では単純と言うか、既存の構造を応用した代物になる。フィギュアの中に骨格、アーレムにも使ったムーバブルフレーム構造を採用してその上に皮を被せる方法だ」
断面図を表示しながら説明する、前世の某機動戦士のプラモデルから着想を得てる代物では有るが此方の世界には当然この手の技術は存在していない。まぁ、俺が『天使長』の気を引く為に作るまではアクションフィギュアって概念が存在して無かったのだが。
《成る程、人体に出来るポージングをほぼそのまま出来ると。しかしながら、素材の暴力とは?》
「それは当然そのままの意味だ。内部構造には鍛造ミスリル、そしてガワは昇華ミスリルを使用する」
《……正気なんですか?》
本気じゃなくて正気を疑われるか、いやまぁ余ってるからとミスリルでフィギュアを作っていた所に霊核や鍛造で強化した素材を使うとか正気を疑いたくもなるわな。
「ある意味で技術試験みたいな物として作るからな、安く仕上げるなら形状記憶合金で作るが」
《それもタタラさんが作った新技術ですよね?》
「そっちは元が鋼だから安いもんだろ」
因みに形状記憶合金は1kgで30万程の技術料を都市長と商会が付けていたりする、再現性が皆無で技術料の査定がまだ済んでいない昇華ミスリルだが100gで少なくとも1000万以上と都市長が零していた。前世の等身大フィギュアですら三桁万円がせいぜいと言った所なのに、素材が影響しているとは言え1/6〜1/4スケールのフィギュアで4桁万の値段は越えは意味不明過ぎるな。
「このフィギュアの特徴は先に言ったムーバブルフレーム構造と、その周囲を包む昇華ミスリルにより作られた皮だ」
《はい、正気を疑いますが理解しました》
「此処から得られる機能は、魔力による操作で人体に可能で有るならば有りとあらゆるポージングが可能である事だ」
《……はい!?》
コレがこの世界における俺が作れる最高峰のアクションフィギュアの構造だ。内骨格で関節を支え、外部の昇華ミスリルを使った人工筋肉によりポーズを固定する。人工筋肉は形状記憶合金である為にその形を固定するが、魔力を通す事で好きなポーズを取らせる事が出来る。ゴーレムのリーダーを強化した際の技術と、『料理長』のアーレムを作った際の技術を応用した代物である。
「──っとまぁ、こんな感じの技術だ。やろうと思えば表情筋を再現して顔を変えることも出来るぞ」
《いや、そんなのフィギュアでしていい事じゃないですよね!?》
「何を言ってるんだ、作るのが俺だぞ?」
《説得力は有りますけど免罪符じゃないですからね!?》
珍しく『料理長』が焦ってツッコミ役になってるな、まぁ何だかんだ言っても欲しいんだろうけど。そう、例えば──
「そんなに嫌なら普通のフィギュアにするか?」
《誰も嫌なんて言って無いじゃないですか》
と、こんな風にこのフィギュアを欲しがるのが本心である。オタクなんてそんなもんよ。
「それじゃあ、モチーフは『料理長』でいいよな?」
《……》
誰をモデルにするかを確認したら『料理長』は俯いて考え込む。
《……その、申し訳無いんですが別モチーフでもう一体作って貰えないでしょうか?》
「いや、それは構わないが」
ミスリルは余ってるし、昇華には『創世女神の神核片』を使うから問題は無い。しかし、2体目か……『天使長』かな?
《報酬についてはお弁当を1週間分でどうでしょう》
「明らかに貰い過ぎだろ」
《寧ろ新規技術の最高品質アクションフィギュアと考えたら相応の値段だと思いますけど?》
フィギュア2体の値段が蘇生アイテム1週間分とか貰い過ぎだろ、ゲーム中だと『料理長』を仲間にした上で超低確率で手に入るアイテムだったんだぞ?
《足りないなら一月住み込みで料理してもいいです》
「過剰に過ぎるわ!」
3食バフ付き生活とか何処を目指せと言うのか、それこそ最下層に挑んでも逸れ魔神を相手しなければ負ける事は無いだろうよ。
「弁当1食で十分だ、そう言う契約だし」
《それだと私の気が済まないんですよ、そもそもこのフィギュア自体がお弁当1食程度で済む価値じゃ無いんです。等価交換の理に反する事は出来ません》
「いや、アーレム作った時は過剰に貰い過ぎたし……」
《アレで等価ですからね!?》
いや、素材持ち込みの上で最低でも20kgに達する魔法金属の山を置いて行かれた身としては全く等価では無いと思うのだが。アダマンタイトだけでも今の相場なら何百億って価値だぞ?
「……このままだと押し問答が続くだけだな」
《ええ、私も報酬の上乗せをやめるつもりは有りません。と言うか、タタラさんの技術は安くないんですよ》
「駆け出しなのにか?」
《駆け出しだろうと世界に認められた神匠の本気だからです》
まさか『料理長』の口から神匠の単語を聞くとはな、今は意味を聞く時じゃ無いからスルーするか。
《例え人に、国に貴方の技術を真に理解される事が無くても
「伝わってるんだな、それ。まぁ、ゴーレム技術の応用で
神核か霊核、または『錬金術師の卵』を核にしてオリハルコンの骨格とミスリルの人工筋肉に液状化魔石の血を流す
《そんな物、過去を振り返っても成した存在は神々くらいのものですからね?》
「それを成せるのが神匠って存在な訳か」
《貴方はその中でもぶっちぎりの特異体です》
「扱い酷いな」
俺の反応を見て複雑そうに笑う『料理長』を見て、溜息すら出て来ない。後頭部を掻いた後、気持ちをリセットして『料理長』を見る。
「報酬はもう諦めた。それで、アクションフィギュアは誰と誰の物を作ればいい?」
真面目にそう聞けば、『料理長』は短く答える。
《私と、タタラさんでお願いします》
「正気か?」
てっきり大好きな姉と自分なのかと思えば、何故か自分と俺の指名である。
《正気ですし本気ですよ、私自身とタタラさんのアクションフィギュアのセットです》
その目からは一切の揺らぎが見えない、本気も本気であるのは間違い無いらしい。少しの間目を合わせた後、溜息を吐いて了承する。
「分かった、俺と『料理長』のフィギュアだな。要望は?」
《私達二人の魔導鎧を着脱可能で用意して下さい》
「いきなり難易度上がったな?」
ムーバブルフレーム構造かつ人工筋肉仕様の本体と、それに着脱可能な完全再現の魔導鎧。当然作れなくは無いが、素材と時間が相応に掛かる。
「……全部合わせて3時間は欲しい」
《全部合わせて3時間しか掛からないんですね》
呆れが混ざったその声音を了承と取って、俺は先ず鍛冶場に向う。1kgのミスリルインゴットを鍛造して、骨格分を用意。流石に鉱滓が飛ぶのでその量を減らす事になり、結果として鍛造ミスリルは800g程になった。まぁ、コレでも十分な量であるが。
《……普段はミスリルインゴット一つでしたよね?》
「まぁ、アクションフィギュアは大きい方がいいからな。だいたい俺達の1/4のサイズで作ろうと思ってる」
個人的にプラモデルは大きければ大きい程好きだった、1/144や1/100も良かったが手に重みが伝わる1/60が一番だと思っている。まぁ、
それに、初めて作る物なので拘ろうとするとどうしても大型化する。技術的に円熟して無い影響を受けるのだ。
「あ、ミスリルベースだから着色は諦めてくれ。手持ちに素材が無い」
《それでしたら私が持ってますから、是非とも着色して下さい》
そう言ってインベントリから大量の特殊な着色料を取り出す『料理長』。コレ、結構貴重な代物なんだが……まぁ『看板娘』には関係無いか。
早速鍛造ミスリルを『クラフト』スキルで分けて成形する。簡単に自分へ『鑑定』を掛けて骨格を解析し、構造を頭の中に残す。そこからもう一度『クラフト』スキルで骨格を設計図に落とし込みムーバブルフレームとして作る。サイズを1/4にしたので全長が約50cmとやや大きめであるのに助けられたな、流石に各部位の骨格が細か過ぎて作業台の上でも見失いそうになる。
単純な骨格標本になりかねない所をいじり、少し模型に近い形にする。特に腹部は皮で隠れるとは言え空にすると危ういのでかなりの部分をいじった。他の関節部は全て簡単な繋ぎ方にして、外部の人工筋肉での可動を阻害しない様にする。
「あ、目をどうするかな」
流石にこのフィギュアで顔を描くと言うのは完成時に違和感が出る、何かしら眼球を作らなければ完成度が落ちるだろう。そう考えてインベントリ内から探索時に回収した鉱石を取り出す、『鑑定』で内部を確認して目的の宝石の原石を探す。少ししてようやく見付けたトパーズを眼球の大きさに加工し、更に少しだけ覗くようにしてミスリルをコーティングする。コレで瞳と白眼で分けられた。
一先ず内部フレームが出来たので300gのミスリルインゴットを『創世女神の神核片』で昇華させる。此処からが少し面倒だが、実際の筋肉の張りを再現しつつ肌としても問題無い様に見せなければならない。塗料が手に入ったので多少は誤魔化せるが、それだけに頼るのは何か癪だ。なので、全力で集中する。
元々が極細な繊維なので内部の筋肉とは別にし表層の皮膚は編み込む形で作る。この皮膚もまた人工筋肉としての役割を持つが、目的は専ら内側の人工筋肉が弾けようとするのを抑えることに使われる形になる。
身体を形成していくうちに、とある部位で固まる。ぶっちゃけて言うと愚息を再現するか迷った。まぁ、不要だろうと思い省略して何も無い状態にした。が──
《タタラさん、なんで何も無いんですか?》
「え」
作業を見ていた『料理長』に止められた、しかも肩を万力みたいな力で握られて。振り向けば目が据わってる『料理長』が俺を見ている。
「いや、コレは流石に……」
《ちゃんと再現して下さい、出来れば魔力で動くように》
「何言ってんのお前!?」
それは流石に駄目だろうがよお前、アダルトなアクションフィギュアとか作って渡したら流石に『天使長』に怒られるだろ俺が。
《どうせこの後に私のもの作るんですから、いっそ合体ギミックの一つでも》
「本気で頭大丈夫かお前!?」
発想が最低過ぎて頭が真っ白になりそうだ、マジでどうしたお前。『天使長』、今すぐ来てこの子の事を説
《言う事聞かないと、姉さまが居る時に思い切りキスしますよ?》
「本気でお前は俺を殺したいのか!?」
《多分、泣きながら私達を刺す姉さまが見れますね》
目を見て分かった。コイツ、本気で言ってやがる。
《さぁ、姉さまを泣かせたく無いのなら……分かりますね?》
「見付かったらマジで殺されるから本気で隠せよ!?」
流石に『天使長』が俺は兎も角『料理長』を刺す光景は見たくないから嫌々だが作る、普段から見慣れているから構造はバッチリだが軽く死にたくなる。
その後も身体を作り、髪も昇華ミスリルを植える形で再現する。高い延性も持ち合わせる昇華ミスリルなら、髪の長さを自由に調節出来る。好きに髪型を変えられるのでずっと遊んでられるだろう。最後に適当な服を作って服を着せる事で完成だ。
続いては『黒煌』の作成に移る。フィギュアの採寸に合わせてミスリルを整形していくだけなので此方は簡単だ、着脱のギミックもそうだが肩のミサイルハッチの開閉ギミックや背部のブースターの可動ギミックも再現した。何ならサービスでミサイルも一発一発作って差込みで装填状態の再現を可能にしてみた。流石に発射時のターゲッティング用の仮想バイザー展開ギミックは再現出来なかったので、取り付け可能な物をクリアパーツで用意した。キチンと表示されるステータス等もクリア塗料で着色して再現したので『料理長』も満足するだろう。最後にスタンドとしてハンガーを作って完成だ。
「……我が事ながらやり過ぎた感じがスゲェなこれ」
《コレ、素材を無視して技術だけの話でも相当なお値段になりますよ》
依頼者の『料理長』曰く、俺の神匠としてのブランドを考えずとも最先端どころの話じゃない技術で作られている為に相当な値段になるとの事。都市長に見せたら泡吹いてぶっ倒れかねないんじゃないかと戦々恐々である。
さて、俺の方を作り終えたのだから気は進まないが『料理長』の方も作らなければならない。いや、骨格の再現とかガワを作るくらいならまだ問題は無いと思うのだ。しかし、今回俺のアクションフィギュアを作る上でちょっと『料理長』が壊れ気味になった。流石に……流石に自分のフィギュアの時にも同じ様になる事は無いと思いたい。
「さて、次は『料理長』のか……今日はやめていいか?」
《何故か永遠に延期を狙ってる気がするので駄目です》
ナチュラルに目的を察せられてしまった、なんて勘の良さだ。溜息を吐きながら『料理長』に向き合う。
「悪いけど、骨格を理解する為に『鑑定』を掛けさせてくれるか?」
《ええ、いいですよ》
俺の言葉に軽く答えた『料理長』は両手を広げて受け入れ態勢だ。別に触れる必要も無いのでそのまま『鑑定』スキルを使用する。読み取れる『料理長』の骨格は驚く程に美しく、肩甲骨辺りが翼を有する関係で若干違うくらいで人間に近い物だった。コレを再現するのは中々に難しそうだが、同時に己の技術で挑む事と考えると昂ぶる。
鍛造ミスリルを俺の骨格の時と同じ様に成形していくが、翼がかなりのネックになる。流石に人に無い器官は丁寧に作らないと再現が難しい、『料理長』に断りを入れてから背中と翼に直に触れて『鑑定』で理解出来なかった所を理解していく。スキルもやはり万能では無いなと思いつつ、理解した所から骨格を修正して完成度を上げていく。瞳は鉱石からエメラルドを探し出して、俺の目と同じ様に加工して嵌める。
さて、内部フレームが出来上がったのならいよいよガワを作らなければならない。まぁ人工筋肉迄ならいいのだが、問題は肌だ。
「……なぁ」
《どうしました?》
「コレ、レオタードみたいなアレを着たやつでいいか?」
そう、普通のフィギュアみたいに服を着た姿で作るなら問題は一切無い。何なら以前『天使長』の為に作ったフィギュアの情報は頭に残っているから、普通に作れる。
《駄目ですよ、タタラさんのフィギュアが裸で作られているのに私だけ服を着たフィギュアなんて不公平じゃないですか》
「お前、正気を投げ捨てて瘴気に支配でもされてる?」
狂気とか生易しい代物では無い発言続きで流石に恐怖を感じる、実は『料理長』の皮を被った魔神とかだったりしない目の前のコイツ?
《何ですか、私の何処がおかしいんですか?》
「発想」
もう端的に言って発想がぶっ千切ってヤバい。流石のエテルだって……いや、エロに関してならしそうだけど。だが、逆に言えばエテルのエロ関係の発言を想起するくらいにはヤバい。
俺の言葉に唇を尖らせる『料理長』をどう説得したものか迷う中、『料理長』は何かを閃いた表情をした。何故か怖気が走る。
《タタラさんが何で私の裸を作らないのか……いえ、作れないのか分かりました!》
「ごめん、嫌な予感しかしないから黙って」
心の底から助けて欲しい、お願い『天使長』は今すぐ此処に来て貴女の妹を持って帰ってくれ。作れないのは心情的に嫌だからだよ、作りたくないが正しいんだよ。
《私の裸を見た事が無いから駄目なんですね!》
「違う、そうじゃない!」
あ、駄目だコレ。そう思った瞬間、『料理長』はそのメイド服を脱ぎ去った。
『俺の存在を知ったな? コレでお前とも縁が出来た!!』
怪異『妖怪縁結び』
リメイク版でスタッフがお遊びで設定した怪異。妖怪ではなくあくまでも怪異であり、名前についても妖怪が込みである。
目が合う、姿を見る、声を聞く、名前を知る、存在を知る事で勝手に縁が構築される感染型怪異。本来は別の名前が存在するらしいのだが、誰も覚えてない。
縁を辿りご飯をたかりに来たり、寝床を借りに来たりする微妙に迷惑を齎す怪異である。しかし、縁を結んだ相手の悪縁を切ったり、危機に陥っていると縁を辿って助けに来たりする事も有る。
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない