既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
何か目茶苦茶筆が早かったです。
ホラーでは無いはず。
この世界の『看板娘』という存在は、神々よりも上位に存在する
確かに長女である『天使長』以外は苦手分野が存在している、それでもなお基本的に地上に存在しているモノが相手ならば敵うモノが居ない。唯一対抗できるであろう魔神でも、彼女達に格という点では勝てずに概念的な戦闘では勝つことが出来ない。
そんな、まさに世界から愛された存在である彼女達は肌を晒す事がまず無い。そりゃあ『バイト長』が色気皆無で寝姿見せたり、常時パンチラしてたりはする。が、過去作でも彼女達が見せたとしても公式では下着姿が限界で、更に言えば全員が咄嗟に布で隠していて『バイト長』以外はまさに鉄壁と言えるガードだった。
そう、鉄壁だったのだ。今、『料理長』が一糸纏わぬ姿を俺に見せるまでは。
エテルは当然として、タチアよりも小振りであろう乳房。しかし、腰のくびれや臀部のラインとを含めて見るととても魅力的な大きさである。身長や手足の長さ、それら全てを包括したバランスがあまりにも美しい。
神の造形、と称する褒め言葉が有るがまさにこの事だろう。以前ダリアがその胸を揉んだ時にエテルとは方向性の違う凄さだと讃えたが、あの美の化身とも言えるエテルとは確かに違った美しさだろう。いや、あれの比較は柔らかさの比較だったな……大分追い詰められてるな俺。
《どうでしょうタタラさん、コレなら参考になりますよね?》
照れも何も無い様子の『料理長』からそう言われるが、何と答えるべきかを迷う。声が奪われたかの様に言葉が出ない、魂を抜かれたのか思考すら纏まらない。
《どうしました?》
反応出来ない俺を見て小首を傾げて疑問を表現する『料理長』、その姿に何を思えばいいのだろうか。普段なら可愛らしいと思うが、その身体を晒している為に感想が浮かばない。
《……もしかして、変ですかね?》
自身の身体を確認しながらそんな疑問を投げてくる『料理長』、その何処か幼い所作が凶悪な身体付きとアンバランスであり……それが情欲を掻き立てる。
思考停止からの復帰は同時に強力な催淫効果となって本能を殴り付けてくる、あの究極の女体であるエデルを見慣れている俺ですらこの耐え難い情欲を抱える状態に陥った。
が、此処で俺の思考が追い付いた。同時に俺に溢れ返る獣欲に対しての原因に当たりを付ける。恐らくは制御出来て無い『性魔術』だろう、エテルは確かに才能に溢れるが『料理長』は存在としての格と魔力量が現時点で勝っている。その影響が俺の理性を削っているのだ。
それが分かれば意識を集中して魔力干渉に対抗する、一点に集中しかける血を身体全体に循環させ更に心拍を落ち着けて興奮状態から脱する。しかし、まさかあのメイド服がある意味で拘束具だったとは……きっと海の名前を持つ観察眼に優れた軍師でも見破れないだろう。
「……取り敢えず、男の俺にとっては目に毒だって事は理解してくれないか?」
《女性の裸は見慣れているでしょう?》
「見慣れててもキツイんだよ……」
そもそも言われる程に見慣れている訳でも無ければ、本能に訴えて来るタイプの『看板娘』に対して適用範囲なのかも分からない。エテル達夢魔もそうだが、同性愛者ですら誘惑出来るような文字通りの魔力を持つ相手に耐えるとか無茶だろ。
《ほら、早く私の身体を記憶してフィギュアに反映させて下さい》
「無茶を言うな……」
目前の身体を認識すると言う事は、現時点で発生している誘惑を取り込むと言う事だ。あくまで目測だが、『料理長』の身体は黄金比で出来ているのだろう。記憶に残せばそれこそコンピューターウィルスのように侵食してくるのではなかろうか?
つか、
《ほら、触れて感触を覚えて下さい》
そう言ったかと思ったら『料理長』は俺の手を取って自らの胸に押し当てた、柔らかく此方の指を押し返してくるその感触に以前ダリアが言っていた
《タタラさん、ちゃんと集中して》
「出来るか!?」
無茶振りしてくる『料理長』に言い返すが、下手に顔を向ければ視界に裸体が入るので語調だけを強くするが想定するよりも勢いは無いだろう。現に視界の端に見える『料理長』の肌色が広がったのが分かる。この無防備具合は何かしら教育しないと拙いのではなかろうか、下手をすれば俺でも理性を失いかねない。
「いいか『料理長』、こうやって裸で男に近付くって事は危険な事なんだぞ!?」
《むぅ、そう言いますけど私達を害せる存在と言うのは殆ど居ないですよ?》
「なら何で『天使長』は一度翼を奪われてるんだよ!」
腕を掴んで押し倒し性的な接触をすれば理解させられるかと少し考えたが、抵抗されれば俺ではどうしようもないので言葉での説得だ。まぁ、上手くいく気が全然しないのだが。
「危ういんだって理解してくれ!」
《何がどう危ういんですか?》
「仮に『看板娘』の力を封印する物を用意されたらどうするんだよ!?」
《タタラさんから厄切の短刀を貰えれば基本的に魔神が相手だろうと封印の類は私達に届きませんけど》
「あれそんな性能凄いの!?」
お師様からある程度の性能に付いては聞いていたが、想像以上だったらしい。過去に戻る手段が有るなら『天使長』に渡して翼を奪われる事も防げるかも知れない。
「……いや、だからって男を警戒しない理由にはならなくないか!?」
《警戒してもしなくても、きり抜けられるなら問題にもならないですよね?》
「何となくドヤ顔してる雰囲気を感じるが、そう言う問題じゃないだろうよ」
会話が続くごとに段々と落ち着いて来た。そして、一つ思い出す。
「……なぁ、『料理長』」
《はい、なんでしょうか?》
「お前、もしかして俺とセックスしようとしてないか?」
俺の質問に対して『料理長』からの意思は返ってこない、顔を逸らしているから表情が見えず真意の確認は出来ないが……多分この予想は間違って無い。
「以前、俺がお前達『看板娘』から力を奪う方法を確認した時は気付けなかった。『天使長』の前例から翼を奪って何かをする必要が有るのかと思ってたからな」
《……》
沈黙する『料理長』の様子に、疑問が確信に変わっていく。
「お前達『看板娘』から力を奪う方法……それはセックスというかお前達から処女を奪う事なんだろ?」
《……なんで気付いちゃうんですかね》
何処か自嘲が混ざった意思が届く。
「なんで身を犠牲にしようとするんだよ」
《……貴方が好きで、貴方に死んで欲しくないからってなんで気付いてくれないんですか!?》
苦々しく問いかけた俺に、感情を爆発させた『料理長』が強い意思をぶつけて来る。
《初めてなんですよ、人を好きになった事が!》
逸らしていた顔を向き合わせた先には涙で顔を濡らす『料理長』が居た。気が弱く引っ込み思案で、意思を上手く伝えられずに涙目になってた時とは違って、両目からポロポロと大粒の涙を流しながら必死に俺と向き合う。
《それなのに貴方はもう他の人を好きで……姉さまだって貴方を好きで!》
涙と同じくらいに言葉を零す『料理長』だが、上手く言葉を選べないのか必死に意思を伝えて来るが上手く出来てない。
《そんな貴方に私が出来る事なんて……こうして身体を捧げて世界に繋ぎ止める事くらいしか無いじゃないですか!》
そう言って『料理長』は俺の胸に顔を埋めて来た。優しい匂いが俺を包んでくる、そっと『料理長』を抱き締めて頭を撫でる。
《……優しくしないで》
「嫌だね。俺は悪い男で、弱ってる女の子に優しくして依存させる最低な人間なんでな……幻滅しろ」
《だから、優しくしないでよ》
偽悪的な行動を優しさと取られてしまえばどうしようもない、拒絶の言葉を紡がれてもそのまま頭を撫でていると『料理長』の翼が俺を包んでくる。
《……奪ってよ》
「嫌だ」
《……いじわる》
言葉でそう言うだけで、『料理長』は俺を力で捻じ伏せる事はしてこない。初めての性交が怖いのか、それとも俺の意思を尊重してくれているかは分からない。
《本当は私とシたいんでしょ?》
「性魔術の影響もろに食らって性欲は煽られてるが、セックスしたいかと言われたらちょっとな」
《なんでですか、タタラさん好みの身体だと思うんですけど》
「……お前が大切だからだよ馬鹿が」
俺を救ってくれた『天使長』の妹だからと言うのもあるが、付き合いが長くなるに連れて『料理長』自身の事も大切になってきている。そんな彼女を、俺の追放阻止程度の目的で身体を重ねてその力を奪うのは間違っている。それも、恐らくは翼を失う事とは違って不可逆な状態にするであろう事だから余計に。
そんな俺の言葉に反応してか、脇腹を抓られた。地味に痛いが、それが影響して性欲は制御されて身体が落ち着く。
《……もしかしたら、次は無いかも知れませんよ?》
「構わない、お前達に咎を背負わせるくらいなら」
何故『看板娘』達が処女を失うと力を奪われるのか、少し考えて辿り着いた答え。
俺自身に罰が下るかは半々だろう、『看板娘』達は基本的に俺達ではどうしようもない存在として作られている故に自ら受け入れ無ければ肌を重ねるなど不可能なのだから。
《……貴方を好きになって良かったって思うのに、どうして苦しいんだろう?》
「……さあな」
落ち着いた様子の『料理長』が俺から身体を離す、メイド服を着直してくれるかと思えばそのまま両手を広げた。
《……見て、覚えて下さい。フィギュアで作るんですから》
「それ、どうにか出来ない?」
《私とのえっちを無為にしたんですから、コレくらいはして下さい》
女の子に恥をかかせた責任です、などと小さく続けられ諦めて相対する。理性を削るその身体が脳裏に焼き付く中、近寄って来た『料理長』は俺の手を取ってその胸に押し付ける。
《感触も覚えて下さい、ちゃんとフィギュアで再現できるように》
「理性がガリガリ削られてキツイんだが!?」
思わずそう返すと『料理長』はいたずらっぽく笑う。コイツ、まさか俺の理性を削り切るつもりじゃあるまいな?
《シたいなら抵抗しませんよ、無理やりでも激しくても受け入れますから》
「本当、お前な……」
本心からかは分からないが、本気であるのは何となく伝わってくる。こうなれば無心で感触を覚えてしまうように脳を切り替え、ただの情報として手から伝わる感触を覚える。胸だけでなく脇腹等の他の箇所にも触れて感触を覚え、フィギュアにて再現してやると意地に見せ掛けた思考の逃避に走る。
そんな俺の様子が面白いのか妙に色っぽく笑う『料理長』にムカついて、不意に抱き寄せてその首筋に唇を落として吸う。突然の刺激に驚く『料理長』はしかし、俺を突き飛ばす事なく抱き返してくる。唇を離した場所には
《ふふ、タタラさんにマーキングされちゃいました》
「やめい」
吸った首筋に手を添えられてそんな事を言われる、恥ずかしいというか何というか複雑な心境になる。
そんな戯れの後、『料理長』のアクションフィギュア作成を再開する。フィギュアの内部フレームを作った際に『料理長』が『ワールウィンド』では滅多に手に入らないスライム素材を取り出して渡して来たので、魔石を混ぜて硬さを調整して人工筋肉と肌の間に挟む。結果として『料理長』を完全再現する事になり、我ながらフィギュアに注ぎ込むには意味不明な超技術だと頭が痛くなる。
彩色も拘り、諸々の色を塗り終わった時には軽く自殺を考えたくなる程の代物が目前に完成していた。
「本当、何作ってんだ俺」
《わ、私が無茶振りした結果ですから落ち込まないで》
フォローされるがそれでも正気になったら後悔の一つもしたくなる完成度だ、何故下の方まで作り込んだ俺。
《そうだ、ちゃんと服の方も作って下さい》
「……パイロットスーツ、着てくれるか?」
《あ、ちょっと待ってください》
少しして、ハイレグレオタード姿になった『料理長』。そこで改めて疑問が出て来る。
「そう言えば『料理長』、魔導鎧着る時に翼ってどうなってるんだ?」
《あれ、知りませんでしたっけ?》
専用の魔導鎧の時もそうだが、背中の翼に関して配慮してない構造だったはず。俺も『我駕牙』を作成した時は背中の事を気にしてなかったのでその辺よく分かってなかった。
《私の翼は魔導鎧とか魔導具に魔力として溶け込ませて制御する能力があるんですよ、姉妹の中では私だけの特性ですね》
「初めて知ったが便利だな……少し機巧乙女みたいな気もする」
《あ、タタラさんでも知らないんですね。私は機巧乙女の原型ですよ》
「なにそれ知らん」
本当に初めて知った情報だ、過去作のビジュアルファンブックなんかにも載って無かった。となると……この世界で新たに芽生えた情報かも知れないなコレ、もしかしてダリアも妙に仲良かったりする理由もコレか?
しかし、コレを再現しようとすると大分面倒だな。既に『料理長』のフィギュアは翼込みで出来上がっている。元は『我駕牙』側のウィングユニットに格納する方面で考えていたのだが、翼の骨を形状記憶合金で作り直してウィングユニット内に入れられるようにした方が正解か?
《あ、もしかして何かありました?》
「魔導鎧に翼をどうやって収めるかをな、骨格を鍛造ミスリルで作ったからウィングユニット内に格納する方法で考えてたんだが……『料理長』の性質から考えると形状記憶合金で作り直すべきか悩んでる」
《そこまで再現しようとするのは流石に予想外なんですけど》
俺の考えを聞いて何処か呆れた表情になる『料理長』、少しだけ考えた後に結論を出した。
《タタラさんが最初に考えた物でお願いします》
「分かった」
要望が聞けたのでその通りに作成を行う。ウィングユニットだけ翼の関係で後付け型にしている為、何となく某
《何となく、プロトタイプに追加武装をしたみたいでロマンが有りますね》
「そう言われたらそうにしか見えないな」
完全に浪漫が溢れるそれである、怪我の功名では有るが『料理長』が喜ぶならまぁいいかと言う気分になれるな。
そのまま作成を続けていく。本来ならオリハルコンやアダマンタイトを使って完全再現する事も視野に入れたのだが、『料理長』から塗料を渡されているので塗装を施していく。完成した見た目は本当に某
《凄い、背中のパーツが合体式な以外は本当に完全再現されてる》
「相応に苦労した結果だからな、派手に壊すのだけは控えてくれると助かる」
《私や妹が部屋を掃除する事は無いので大丈夫ですよ》
何かしらの問題が有って『料理長』と『バイト長』が掃除をしたら壊れるって事か……頓痴気イベントの予告かな?
《さて、コレで依頼完了ですね》
「何か凄まじく疲れた」
《それはタタラさんが無駄に抵抗するからですよ》
「無駄か、本当に無駄だったのか?」
心遣いを無駄と断じられて地味に心が痛む。まぁ、『料理長』なりに俺を思ってくれていた事なので否定は彼女の優しさを否定する事なので何とも言い難いが。
《それでは、お弁当1週間分は明日からお持ちしますね》
「流石に期間が長いと思うんだよなぁ……」
《1ヶ月住み込みでご飯作るのとこの場で無理やり処女奪わせてお嫁さんの1人になるのどれがいいですか?》
「お弁当でお願いします」
選択肢が実質無いのは選択肢って言わないと思う。
《それと》
「なん」
反応しようと顔を向けた瞬間、頬に手を添えられて『料理長』の唇が俺のと重ねられる。舌を絡めるなんて性的な物ではなく、単純に重ねられた唇から温かい何かが流れ込んで来た。
《私のファーストキスです、一度くらいは死にそうな怪我でも大丈夫になると思いますよ》
顔を赤くした『料理長』が慈愛に満ちた目でそんな事を言ってくる、対して俺は完全に思考停止状態だ。
《まだまだ心から立ち直ってないタタラさんに言うのはダメかも知れません、けれど……お願いだから生きて下さい》
そう言い残した後、『料理長』は去っていった。『天使長』に知られたら殺されるんじゃないかな、俺。
思考停止から立ち直った後、リビングに戻る。アレだけ濃密と言うかドタバタしていたにも拘らず、時間は3時間程で済んでいた。いや、体感では半日くらいは使った感覚だったけど短かったな。
縁側では滝のように汗を流す『バイト長』と、薄っすらと汗を滲ませるお義母さんの姿が有った。いや、お義母さんが汗を滲ませてる!?
「あら、用事はお済みですかタタラさん?」
「あ、ええ……汗が滲んでますけどそんなに『バイト長』の相手って大変でしたか?」
柔らかく笑い掛けて来たお義母さんに答えつつ、汗を滲ませてる事を問返す。すると、お義母さんはとても楽しそうに理由を語ってくれる。
「大変と言えば大変ですよ」
《うぇ、ごめんなさいです!?》
「あの、『バイト長』が大変って聞いてショック受けてるんですが」
「あら、私は嬉しい大変さですよ」
俺が『バイト長』の言葉を伝えると、お義母さんは言葉が足りなかったと言った感じに表情を浮かべてから言葉を続ける。
「この『バイト長』さんの集中力とその持続力はとても高く、この3時間を休みなくこなせていました。確かに技術の習得が早い訳では無いですが、継続力が高いならそんな事は問題無いです」
「ベタ褒めですね」
「貶める所が無いのですから当然ですよ」
技術の習得が遅い事、それは問題では無い。多少は時間が掛かったとしても、真摯に打ち込んでくれるなら教える側としても真剣になれる。多少は個人差が有るけども、この辺はお義母さんと俺は同じタイプだと思ってる……教える能力に雲泥の差が有るだろうけど。
「コレから毎日、朝食後に3時間の型稽古をします。休みを挟み、歩行訓練も同じだけ……私の体力、そして『バイト長』さんの体力と集中力を考えてこれが限界でしょう」
お義母さんの見立ては休憩を挟んではいるが1日に6時間を訓練に充てられる事になる。話を聞いているのか微妙だが、『バイト長』はスペックとしてはコレに異を唱えていない。何なら、殆ど回復が終わってるようにも見える……この僅かな会話の中で回復出来るって相当にバケモノだな。
因みに、俺達探索者は迷宮内に満ちている魔力を取り込む事でエネルギーを補って持久力を保っている。朝食だけでほぼ1日潜っていられるのはこれが理由で、エテルや一華が性魔術で栄養補給が出来ているのも近いものが有ったりする。しかし、此等を行うには高密度の魔力が満ちる空間である事が必須で、霊脈の上とは言えこの家で可能な事では無い。つまり、『バイト長』のようにケロッとした顔で回復出来るのは単純にスタミナが豊富なバケモノという帰結になる。
「ご主人、おにぎりを握るの手伝って欲しいでござる」
「おう、分かった」
時間は昼に近く、作業が終わった直後に『バイト長』の様子を見に来た為に昼の用意を丸投げしてしまうところだった。一華と三葉さんに謝りつつ台所に入り、おにぎりの量産に入る。
俺が只管に三角握りを作る横で、一華は黄金色に輝く玉子焼きを作ってくれている。匂いと焼ける音で腹を空かせつつ、俺は俺の仕事を全うする。出来上がった料理は朝出し忘れたミスリル製の食器に載せて、回復している『バイト長』に運んで貰う。15人態勢に増えたゴーレムのサポートの下、往復回数が18回に減り転ぶ回数も15回と朝に比べても大分抑制された。
「これが型稽古の効果か……凄まじいな」
「ご主人、ゴーレム達の苦労も思い出してあげて欲しいでござる」
因みに、ゴーレム15体は全て蹴散らされてしまっている……次は20人態勢かな。
「そう言えば地味に思ったんだが、タタラ」
「おう、どうした?」
昼食中、味噌汁を啜って口の中を濯いだバカが問い掛けてくる。
「俺も含めて毎食食わせてくれてるけど、食費とか大丈夫なのか?」
「一応、虎熊家からは貰ってるし実質お前の分だけだから負担にはなってないぞ」
そう言えばこの辺をバカに説明した事は無かったか。
「え、それなら俺の授業料って……」
「その辺りはタタラ殿から様々な物を譲って貰った事で解決しておる、寧ろ釣りが発生する程だが受け取ってくれぬのでのう……しかも教える素材も極上の才とくれば此方で食費を負担しても良い程であるぞ」
恐れ慄くバカに対して当主代行が説明してくれる。本来は糞野郎に譲った『空裂』の習作が代金なのだが、微妙に誤魔化されてた。まぁ、当主代行が俺から『大紅蓮風林火山』やアーレムを受け取った事を代金として認識してる感じなのは大分アレだが。何ならアーレムは代金受け取ってるし、『風林火山』は俺が四葩を嫁に貰う上での支度金に近い物のつもりだった。多分、あれは都市長が見たら金額に付いてスリッパを振ってくるレベルの代物だが四葩という大切に育てて来た娘を貰うのだから妥当な金額に相当すると思ってる。
「因みに、雛菊さんの食費は虎熊家持ちだぞ」
「……そちらの狐さんは?」
「一華はもう俺の身内だから当然俺が払ってる」
護衛役から外れたので当然である……まぁ、渡された四葩の食費が増額されてたので虎熊家としては一華の過去を考えてもう少しの間は面倒を見たいのだと思う。下手したら御庭番の長老組から当主代行がせっつかれた可能性も有るな。
身内と聞いた一華がそっと尻尾で俺の背中を撫でてくる、横目で顔を見ると頬を染めつつ幸せそうに笑っていたのでヨシ。
「つか、唐突だな?」
「いや、お前からの依頼って形を取ってるけど指南役とか多分依頼料が凄いんじゃないかと思ってな。気になったらやっぱ聞きたくなるし」
「疑問を疑問のままにしない気質はいいけど、御家関係は知らない方がいい事が多いから気を付けなね」
まさかあの糞野郎がバカを心配したかのような言葉を掛ける、弟子には甘いのだろうか?
「折角剣術教えたのに披露することも無く策謀で死なれたら野獣新陰流の名折れだよ」
少し見直そうと思ったらコレである。まぁ、看板背負ってると認識されたから常在戦場の心得やら、危うきに近寄らずって事を教えてるのかも知れないが。
「そう言えば、タタラさんから刀術を習うよう御依頼を受けたのでしたか」
「はい、何れはこの街で刀術を教えて欲しいって依頼です」
「はは、僕の新陰流が海外に進出なんてね……道場が出来たら出稽古でもしてあげようか?」
「あら、加減が出来ない貴方では役者が不足しているのではなくて?」
煽って糞野郎を煽るいばらさんだが、はっきり言って人の事を言えないと思う。演武大会出禁は流石に擁護出来ない事象だと思うのだが。実際、糞野郎も煽り返す形でその事を突いてるし……つか糞野郎も知ってるくらいに有名なんだなその逸話。
「そうでした……タタラ様、此方の『バイト長』さんの家事は如何するのでしょう?」
三葉さんがいばらさん達から意識を逸らす為だろうか、俺に『バイト長』の事を確認してくる。
「それなんですが、配膳は継続しつつそれ以外は暫く控えようかと」
「それはお母様の訓練を優先、という事でいいのですか?」
「先ずは身体の動かし方、力加減を覚えないと難しいかと思うんですよ」
「……成る程、そう言う事でしたら私にも覚えが有りますね」
俺の方針を伝えると、三葉さんは納得してくれた様子だ。覚えがある、と言うならきっと鬼の膂力で食器や家具を破壊した事が有るのだと予想出来る。そう考えると、三葉さんが居る間に家事を教えて貰うのも有りかも知れないな。
そんな会話を挟みつつ、昼食を終えて午後は其々の訓練へと移る。当主代行は今日の演劇の練習が午後だったらしく、ダリアと共に出ていった。そう言えば進捗を確認してなかったが、アーレム関連はどうなっているんだろう……夜に商会長に手紙を出すか。
午後は俺も『バイト長』の歩行訓練を見学しつつ、歩き方の変化を確認する。身体の調節を行ったためか、それともお義母さんの訓練の賜物なのか、昨日より歩き方に淀みが無いように見える。今はまだ一歩進む事に集中しているが、体得して慣れれば真っ直ぐ前を向いて歩ける様になるだろう。そうしたら『バイト長』も一歩前進して、家事の訓練に移る事が出来る。どれだけの時間が掛かるかは分からないが、それでも『バイト長』がより良い未来へ進めればいいと願う。
「『バイト長』靴はどうだろうか、キツかったり引っ掛かり易いとかは無いか?」
《全然大丈夫ですよ、何時もよりずっと歩き易いくらいです!》
そう言って笑いながら軽快にステップを踏んでみせる『バイト長』、言う通り足は大丈夫なようだ。
合わなかった場合は靴擦れの可能性も有るし、実際に使ってから違和感が出て来る場合も有る。シューフィッターでは無いのであくまでもなんちゃっての域に留まるが、それでも対応出来る事はしっかりとしたい。
「タタラさん、少しお願いがあります」
「はい、何でしょう?」
会話の終わりを見計らっていたお義母さんが頼み事を持ち掛けてくる、果たしてなんだろうか。
「演武の鍛練用の靴、それと道着を作って欲しいのですけど」
「演武用の靴、はまだ出来ると思いますけど……道着はちょっと難しいです」
いや、先程『料理長』の裸を見た身で言うべきかは分からないが安易に『看板娘』の柔肌を見ていい物では無いのだ。例えそれが欠片ほども性的魅力を感じない『バイト長』だとしても。
「やはり、女性の肌は見れないですか?」
「そりゃあパーティメンバーくらいに近しいなら問題は無いですけど」
「誠実と言えば聞こえはいいですけど、製作者としてそれではこの先苦労しますよ?」
「分かってはいるんですけどね……」
やはり妄りに女性の肌や体型を見るのは精神的にブレーキがかかる、近い内に治さないとなぁコレ。
「そう言えば、なんでメイド服は駄目なんですか?」
「此方の子、形から入る方が覚えがいいみたいなんですよ」
「へぇ」
ゲーム時代では出て来なかった情報だな、『料理長』の事も含めて知らない事が出て来て少し楽しい。話題の主である『バイト長』は歩行訓練に集中していて、真剣な表情で一歩一歩を踏み出している。本当、お義母さんの言う通りに高い集中力である。
《ふぁっ!?》
「っと」
まぁ、それだけ集中してても転ぶ時は転んでしまうのだが。それでも頻度は低くなってはいるし、一月もすれば半分以下に頻度は落ちるんじゃなかろうか?
そうして『バイト長』が疲れ切るまで訓練は続き、見届けた後で夕飯の準備に入る。今日のバカは食わずに家に帰るとの事で雛菊さんに送ってきて貰う。また向こうで食ってから家でも夕飯食うんだろうな……よく肥らないよなあの人、栄養が基本胸と尻に行ってるらしいけど栄養摂りすぎだと思うんだよな。
「タタラ様、何か考え事ですか?」
「ええ、雛菊さんの事でちょっと」
「なになにぃ、親友の彼女相手に懸想しちゃったわけ?」
三葉さんに思い耽っていた事を指摘され、答えに対して糞野郎がニヤつきながら話しに入ってくる。まぁ、品性下劣な此奴ならこう言った反応になるのは分かってはいた。
「いや、アイツの家で晩飯食ってから此方でも食うんで……肥るかなって不安が」
「え、雛菊ってそんなに食ってんの?」
「バリバリに食ってるんだよ、預かってる身としては健康が気になってな」
「タタラ様、主婦と言うかおかあさんみたいになってません?」
諸々気にしてるのをおかあさん扱いされるのは心外ではあるが、あまり否定も出来ない。
「ご主人、前に食事量を減らそうとして蔑称付けようとしたでござるしね」
「今思えば、我ながらアレかなり酷いこと言ったよな」
まだ一華が俺との距離を取っていた時期で、大分懐かしい。まだ何か月と時間は経っていない筈なのだが。
「へぇ、何て呼んだんだい?」
「肥やす天狗の豚菊」
『ぶふぉあ!?』
糞野郎の質問に答えたら周囲から吹き出す音が響いた、見ればアレだけ行儀作法に厳しい筈のお義母さんすらお茶を吹き出して食卓を汚していた。
「切れ味エグくないかいそれ!?」
「流石に本人に言ったら固まったな」
「……それを乗り越えて今も食べてるのですね、雛菊様は」
あの糞野郎ですら焦りを見せる蔑称だったか、あと三葉さんは感心してるのか微妙過ぎる反応だ。
「そりゃあ料理を作る身としては沢山美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、喰いすぎて健康被害が出る前に気にしないと駄目だし」
「タタラ、その気遣いはいいと思うのだけど気違いみたいな火力の蔑称は辞めなさい本当に」
まさかのいばらさんからも言われてしまった、やはり女性を豚呼びが禁忌なのはどの国も共通なんだな……そもそも人を豚呼びが駄目だわ。朝から色々有ったから疲れてるのかな、俺。
「うん、今日の探索は大きな問題は無かったよ」
「そうか、無事で良かった」
帰ってきた探索組と夕食を囲み、今日の報告を聞く。存在昇華直後のエテルは上層階で只管に敵を殺し続けてレベルを俺達に近付けようと奮闘したらしい、49階層までで42までレベルを上げたと語ってくれた。
「成長具合はどんな感じなんだ?」
「魔法関係と速力は凄い伸びたけど、物理関係がてんで駄目。体力は2伸びてるけど攻撃と防御は1しか伸びない」
夢魔が元々フィジカルとして弱い影響だろう、本格的に魔導具の剣を用意しないと魔法攻撃が宝の持ち腐れになるかなコレは。とは言え、エテルの魔力を活かすには残してる形見のミスリルを使う必要が有るしそうすると失敗出来ないから慎重になってしまうな。
「レベルアップで真っ先に取りなおした『物理攻撃上昇』はレベル上がったし、『索敵』と『聞き耳』それに『鷹の目』がランクアップしたよ」
「相変わらず斥候向けスキルの成長が早いな」
「その役割に立ってるからね、当然だよ」
褒めたらドヤ顔を見せてくるエテルに微笑ましい気持ちを抱き続つつ、四葩とタチアの成果を確認する。
「妾は今回戦闘を行っておらぬからな、『聞き耳』が育ったくらいかのう。心眼を鍛えるつもりで目を瞑りながら探索したら育ちおったわ」
「無茶するなお前……」
「途中何度か逸れそうになって気が気じゃ有りませんでした……」
「実害出てんじゃねぇか」
「うむ、すまん!」
感心したのも束の間、案の定迷子になり掛けてるとバラされた四葩へ半眼を向ける。笑って謝る四葩だが、今は夕飯の最中だ。話を聞いていたお義母さんが笑顔で圧を放っている……後で説教だなコレは。
「四葩の介護してたタチアはどうなんだ?」
「私も『物理攻撃上昇』と『技力上昇』がランクアップしました、それと『盗む』のスキルレベルが上がったくらいですね」
「確かに行動回数増加の影響が働いたらレベルアップも早いか」
例え『早熟』の恩恵が無くてもタチアの場合は『鍔目返しⅣ』の関係で使用回数が4倍になる、仮に『盗む』でアビリティの『ダブルポケット』が発動したら2回の行動に4倍の補正なので合計8倍の経験値が入る。確率反転スキルで『ダブルポケット』が頻発した場合、タチアの『盗む』スキルは凄まじい速度で上がる形になりそうだ。
「側で聞いていると凄まじい成長速度であるな」
「まぁ、ステータスを補えてるので多少相手が強くても力押しで抜けられますからね」
当主代行の呆れが混ざった声に、実情をぼかしながら答える。力押しとは言うが、攻防のステータスは1でも優劣が有れば通らない世界なので究極的には力押しが大前提。特殊能力の『貫通』はそこそこ希少な能力で、更に言えばそれらの武器を使うには相応にスキルランクを必要とする。何だかんだ、人間に優しくは在るが優しすぎない世界なのだ。
「しかし、何故そこまで能力が上がり易いのだ?」
「そう言えば四葩に設計図は渡してるけどまだ伝わってないのか」
「そう言えばそうじゃのう」
タチアのスキルに付いては語れないが、『地母神シリーズ』は一部には公然の秘密として扱われているので当主代行達に話す。作り方を教える序に、この装備の効果は妄りに話さない事を約束したと話せば当主代行とお義母さんは凄い顔をしている。
「……以前より四葩が遥かに強くなっていた理由はそれか」
「作成方法と素材を教えて頂けるのは嬉しいですが、素材がそこそこ希少ですね」
二人から溢れた言葉がコレである、どデカい溜息まで吐いているのでマジで疲れているのだろう。
「タタラさんの成長やスキルに関する知識も値千金、どころか国を傾けてでも欲しがるモノ。四葩以外にいばらと三葉も付けるので虎熊家で独占させてくれませんか?」
「流石に娘で情報買おうとするのは辞めてほしいんですが……四葩だけで十分な代わりに独占は諦めてください。書き纏めてお渡ししますから」
「あなた、蔵の警備をより厳密に」
「分かっておる、虎熊家が四方守護家の筆頭になりうるからな」
私兵か最精鋭かは分からないが、知識を使って強化すれば確かに他の家より抜きん出れるだろう。尤も、それだけで何とかなるような世界でも無いんだけど。
「その、タタラ様は歳上の女性は範囲外ですか?」
「一華が歳上でも俺の子を宿してくれてるのが答えだと思うんですけど。三葉さんは妥協しない方がいいと思いますよ」
いばらさんよりもチャンスは多いと思う、次女だし友好の証しとして結婚の話が出る可能性は高いと俺は見てる。
「そう言えば、四葩って兄も居たんだったか?」
「うむ、兄上は二人居るぞ。次期当主は一番上の兄上が担う事になっておる」
「見合い話凄そうだな二人とも」
「下の兄上は兎も角、上の兄上はそうでも無いぞ」
コレはまた意外な答えが帰ってきた、名家の長男なら次女以降の娘を嫁がせようとする家が多そうな物だが。
「何分、我が虎熊家以外の家は男児に恵まれ無くてのう。兄上へ嫁がせようと牽制しあってて膠着状態じゃ。それに、兄上が結婚よりも研究に興味が強くて結婚出来る気配がせぬ」
「大丈夫なのか名家」
「出来れば四葩との子供を一人、と考えてしまうのも分かって欲しいのです」
世継ぎ問題が深刻過ぎるな、多分陽出國の三大貴族も深刻な状態なんだろうし……コレで帝の家までそうだったなら笑うしか無い。
夕食を終え、パーティメンバーの装備を整備し終えた俺は工房に『バイト長』を呼んだ。何の用事か伝えていなかったのだが、100%の信頼を込めた目で『バイト長』は俺を見てくる。
「コレから『バイト長』サポートの為の専用ゴーレムを作るんだが、素材として『バイト長』の羽根を何枚か欲しいんだ」
《え、ボク専用のゴーレムです?》
姉である『天使長』と『料理長』は持っているのだが、見せてもらった事が無いのだろうか。それは置いておいて、専属サポートが付いていたほうがいいと判断したのは日々蹴散らされるゴーレム達を見たからだ。
キチンと『鑑定』こそしてないが、恐らく『天使長』達に渡したゴーレム達は羽根を素材として使っている分だけ性能は上の筈だ。
「あ、遠慮はするなよ。すっ転ぶのを防ぐ為ってのがそこそこ理由として大きいからな」
《うぅ、何時も支えようとして吹き飛ばして申し訳ないです》
わざとでは無いことは分かっているのだが、地味にゴーレム達が微妙に『バイト長』を怖がるようになってしまった。夕飯の片付けで20体出したが、コレまた見事に全滅させられたのだからそりゃまぁ怖がるよな。
「それで羽根は貰えるか?」
《はい、お願いするです》
そう答えた『バイト長』は自らの翼に触れて、10枚程の羽根を渡してくる。その羽根を受け取り、インベントリからミスリルインゴット13個と『錬金術師の卵』一つ分の魔石を取り出す。
先に『卵』を作り、ミスリルインゴットに『バイト長の羽』を使用してから『ゴーレムクラフト』を行う。特段特殊な事はして無いが、出来上がるのはやはりへちゃむくれた俺の姿……ただ今回は執事服では無くリブ生地セーターにジーンズそしてエプロン姿だ。何というか……保育士みたいな姿だな。
出来上がったゴーレムがゆっくりと目を開いて俺を見てくる。そして不敵に笑ったかと思うと、何時ものように片手を上げて挨拶をしてくる。
「たー!」
何だか他より力強い挨拶な気がする、何でそんな気がしたのだろうか?
「悪いんだけど、コレからこの『バイト長』をフォローして欲しいんだ」
「たー?」
俺の命令を聞いたゴーレムは『バイト長』の姿を視界に入れる。
《よ、よろしくお願いしますです!》
そんなゴーレムに対して『バイト長』は勢い良く頭を下げる。その姿をゴーレムはじっくりと確認し、頭の上から足先まで視線を流した後もう一度『バイト長』の顔を見る。
「……たっ」
《今、鼻で笑ったです!?》
半眼で片眉を上げる小馬鹿にした表情をしたゴーレムに対して、流石の『バイト長』も苛立ったらしい。と言うか、ニコニコ笑顔がデフォルトのゴーレム達に比べて随分と表情豊かだなコイツ。
「たーらら、たったー」
《なんですかその上から目線、本当にタタラくんのゴーレムてす!?》
「たらー」
《ムカつくですーッ!!》
ゴーレムが何を言ってるかは分からないが、何となく『バイト長』の言葉から侮ると言うか馬鹿にしてる雰囲気が伝わってきた。性格が若干悪いが……コレも俺のコピーなんだろうな。
その後も喧嘩を続ける『バイト長』とゴーレムだが、『バイト長』が眠気から欠伸をした事で言い争いは治まった。然りげ無くゴーレムが誘導して工房から出ていったが、他のゴーレムよりずっと自意識が強い気がする。
日課としての『空裂』を打つ前に、ステータスを確認する。『鍔目返し』のレベルを確認すれば最大に届いていて驚いた。昨日の鍛錬か、それとも今日のミスリル鍛造が理由かは分からないがランクアップが可能になった事にはかわりない。早速ランクアップを果たしてから鍛造して影響を確認する。
案の定、増えた三打目が想像よりズレてしまうので、『クラフト』スキルと同期させて精度を高める。前回で多少コツを掴めている為か、イメージとの誤差修正は早かった。何時間と掛けたズレをだいたい1時間で修正し終え、此処から『空裂』を本格的に鍛えていく。
増えた相槌の数だけ作業は早まるが、俺はそれを利用して折り重ねる回数を増やしてより刀身を強く出来ないかと模索する。何時もより多く折り重ねた刃は、研ぎを進ませるごとにその清廉さを高めていき前回よりも更に良い出来になった気がする。生憎と性能は変わらないが、今までで一番上手く打てたと自分自身でも思う。
装丁を施した『空裂』をインベントリに収めた時、作業に集中し過ぎて汗をかいた身体が不快な事に気付く。まさか自分の身体の状態に気付かないくらいに集中していたとは思わず、苦笑いをしつつ夫婦風呂へと向かう。
しかし、目的地へは辿り着け無かった。
工房前で出待ちをしていたエテルは俺を見た瞬間に笑顔を見せる。見慣れた物とは少し違う、何処か陰りを含む笑顔だ。
「どうしたんだ?」
朝も何処か様子のおかしかったエテルを心配して声を掛けるが、エテルは表情を変えずに佇むだけ。一歩近付いて声を掛けようとした瞬間、背後から抱き締められる。
「つかまえた」
何処か拙い喋り方だが、確かに聞き覚えのある声が耳元に届く。
しかし、おかしい。そんな筈はない。
何故俺は
「エテル、コレは──」
逃れようと、言葉を続けようとした俺の両腕を抱き締めてくる第三第四のエテル。目の前のエテルは俺が複数のエテルに抱き締められたのを見てから近寄って来て唇を重ねて来た。その目は
「タタラ……タタラっ」
その口から零れ出た俺の名前、それに俺が答えようとするもエテル達に今出たばかりの工房へ戻されていく。
まるで餌場へと連れられるかの恐怖を感じて抵抗しようとするが、『性魔術』で力を奪われたのか全く力が入らない。
「タタラ」
「タタラ」
「タタラ、タタラ、タタラ」
俺を囲むエテルが俺の名前を呼び続ける。
工房の扉は閉じて、部屋全体をエテルの魔力が満たす。コレは恐らく結界を張ったのだろう。
逃げ場を失った俺に、エテルが一斉に覆い被さってきた。
オマケ『鶴の恩返し』
昔々、ある所に一人で暮らすタタラという若者が居た。
「どうも、変わらずの生贄役です」
タタラは鍛冶師を生業として、人里から少し離れた山に住んでいた。タタラの鍛冶師の腕は素晴らしく、特に食うに困らぬ生活を送っていた。
「あれ、これ物語破綻してないか?」
そして、冬のある日のこと。タタラが雪の振り積もる山を散策していると、1羽の鶴が罠に掛かっていた。
《た、助けて下さいぃ!》
「うん、鶴なのに何故か言葉が分かるんだが……」
悲痛な声を聞き、見逃せば後味が悪いと思ったタタラは鶴を逃がしてやる事にした。だが、こうして鶴を捕まえ売る事で糧を得ている猟師はタタラのせいで稼ぎを奪われてしまう。その事に思い至るタタラは、罠の所有者を探し鶴を買ったという体にする為に金を払った。
「……俺、生家は農家なんだけどな」
「いや、劇なんだから気にすんな」
勝手に逃がした事を罵倒しつつも、割増料金で鶴を逃がした事を示談にした猟師。タタラは申し訳無いと頭を下げ、己の正義で人に迷惑を掛けたことを深く胸に刻むのだった。
「ちょっとお兄、納屋裏」
「タタラくんの事でお話ししよっか」
「いや待って、コレ劇だから!?」
雪がやみ、春が訪れる気配を感じる頃。タタラの家を訪ねる者があった。
扉を開き、その先に見たのはそれは美しい娘であった。
《失礼します、よろしければ嫁がせて頂けませんでしょうか?》
「……何となく分かっては居たけど、何やってんの『天使長』?」
《い、いえ。私は『天使長』なんて名前ではなく貴方のお嫁さん志望です!》
「……それでいいのか『看板娘』」
己のようなうだつの上がらない鍛冶師の下に随分と酔狂な美人が来たものだと思いつつ、タタラは娘を迎え入れました。娘はとてもよく働き、タタラの生活を支えるのでした。
「いや、本職だけ有って家事が完璧だわ……」
《タタラさんがお家を元々綺麗に保ってたから楽でしたよ》
タタラの作る金物を売る金は二人の生活を支えるに問題なく、そろそろ子供をこさえるべきかと悩むタタラ。そんなタタラを知ってか知らずか、嫁となった娘はある日タタラにこう言いました。
《コレから自室に籠ります、どうか私が出て来るまで部屋へ入らないで下さい》
「ああ、うん。分かった」
素直なタタラは嫁の願いを受け入れ、一人眠る夜を迎えました。
そして翌朝、嫁は見事な織物を一つタタラに差し出しました。
「これは……素晴らしい」
《ありがとうございます》
「この均一に織られ肌触りを良くした技術……本当に素晴らしい、ちょっと織り方教えて欲しい」
《それは……あれ?》
作り手としての魂が刺激されたタタラは、嫁の技術に目を輝かせ教えを希いました。その勢いに押され、流されるままに嫁は機織りを教え……3日せぬうちに技術を追い抜かれました。
それからは金物と織物でより稼ぎを増やし、生活費を潤沢にしたタタラは嫁へと言います。
「そろそろ、夫婦として子供を作らないか?」
《え、あれ……話の流れが》
「駄目、だろうか?」
《あ、その……はい》
そうして嫁は己の正体があの日助けられた鶴だと告げる事も叶わず、タタラへの恩返しの一環として子供を設けました。互いに慣れぬ子育てに追われながらもささやかな幸せに満ちた日々を重ね、やがてその時は来ます。
「……なぁ、そこに居るか?」
《はい、側に居ますよ》
年老いたタタラの呼び掛けに、妻は答えます。その姿は出会った頃と変わりなく、若く美しいままでした。
「出会ってから50年、縛り付けてしまったな」
《いいえ、子にも孫にも恵まれて温かな日々でしたよ》
謝罪するタタラに穏やかな声で返す妻、幸せな過去へ思いを巡らせて零す声は震えていきます。
「……あの日、罠から解き放っただけの俺にこんなに突き合わせて悪いな」
《……気付いていたのですね》
「愛した女の事を見誤るかよ」
《ふふ……バレてしまえば、離れなければなりませんね》
タタラの声に妻は震える声で返します、そしてこの時に真実を暴かれたことの意味に思い至り思わずタタラの手を握りました。
《……いや、嫌です。貴方の側を離れるなんて!》
「そう言うな、もう俺も長くない。明日にでも逝ってしまうかもしれない」
泣き縋る妻に返すタタラも、その本心は妻に最後の時まで寄り添って貰うことを望んでいました。しかし、永遠の命を持つ彼女に己の死を刻み苦しめたくは無かったのです。
「頼む、最後は格好つけさせてくれ」
《そんな事知らないです、最後まで愛させてください!》
掟すら破り、愛に身を捧ぐ事を妻は訴えます。そんな姿に小さく笑い、タタラは言いました。
「分かった、俺の負けだ。最後まで側に居ていいが、その代わり笑って見送ってくれ」
《……はい!》
その約束から3日後、タタラは永遠の眠りに付きました。それと共に小屋からは美しい鶴が1羽飛び立ち、それを機に妻は姿を消しました。
それから永い時が過ぎ、時代が移り変わる。
とある都市の中、一人の青年が横断歩道で信号待ちをしている。
高い背に半袖のシャツと制服のズボン、肩掛けの鞄姿の青年は、名前を多々良と言いました。
夏期講習を終えたその帰り道、中天を越えなお強い日差しに曝されて辟易する中ふと視線を奪われる人影。白い幅広帽子に白いワンピース、滅多に見ないほどに上質な生地で作られた服装の一人の女性。何故そこまで目を惹かれるのかは分かりません、しかし何故か気になりました。
信号が変わり、進む多々良。女性とすれ違う際に、その鞄からひらりと落ちる1枚のハンカチ。慌てて拾い、多々良は女性に声を掛けます。
「あの、落としましたよ!」
駆け寄るタタラに振り返る女性は、多々良の顔を見て驚いた表情を作ります。何故なのか多々良は分かりませんでしたが、女性は何処か懐かしむような、泣き出しそうな表情です。
「あの……?」
「いえ、大丈夫ですよ。ハンカチ、ありがとうございます」
礼を言って受け取る女性は、そのまま多々良へ言葉を向けます。
「わざわざありがとうございます、お礼にお茶を奢らせていただけませんか?」
「いや、そこまでは……」
「お願いします、タタラさん。何も返さないのは気が済まないんですよ」
「はぁ……」
女性の勢いに圧され、思わず了承する多々良。その答えに嬉しそうに笑う女性に対して心をざわつかせながら、しかし何故心がざわつくのかが分かりません。
「そう言えば、名前を聞いてもいいですか?」
何と呼べばいいのか分からない多々良は女性に名前を問います。
「私は、そうですね……」
その言葉にいたずらっぽく笑う女性は、タタラにだけ届く言葉を放ちます。
《貴方のお嫁さんです♪》
─Fin─
「……鶴の恩返し、だよな?」
「タイトルはそうだな」
「嫁に逃げられてない、タイトル詐欺だと思う」
「鶴なのにサギとはこれ如何に」
《し、幸せな終わりならいいじゃないですか!?》
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない