既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
エウ◯ュリー様、幻燐の姫将軍のリメイクとかマジか。愛してる。
この会社の作品に出るマスコット『看板娘』は、天真爛漫で完璧なメイドである『天使長』を長女にした4人姉妹だ。
2番目に登場した料理はからきしだが掃除が意味不明に上手いクールな『清掃長』。
3番目に登場した次女とは真逆の料理上手で引っ込み思案な『料理長』。
4番目に登場して、トラブルメーカーなドジっ子としてイベントをかき乱す『バイト長』。
姉の目的を手伝うためだったり、逆に妹達の為に姉が手伝いに来たりと仲睦まじい様子で『看板娘』達の頓痴気イベントは展開されてきた。この『ワールウィンド』を舞台とした『深く深い闇の先で』のイベントまでは。
翼を失い笑顔の消えた『天使長』と、そんな姉を心配して真っ先に駆け付けたのはなんと『バイト長』だ。その次に『清掃長』がやって来て、最後に昔の武装を探して遅れた『料理長』が登場する……『料理長』は部屋が汚過ぎたんだろうな。
そうして4人姉妹全員で翼を奪った初恋拗らせゴミ野郎を主人公であるスミスと共に倒し、『天使長』の翼を取り返した所でイベントは一度終わる。次の周回に入った後、そこで『天使長』に出会えるか否かで彼女の結末は変わる。
スミスと出会った場合、彼女は翼を自分の背に戻す事が叶わずに人の世で生きて行く事になる。街娘の服を着て、言葉を話せない者として埋もれていくのだ。
対して出会わなかった場合、彼女は何かしらの手段で背に翼を戻して帰る事が叶う。そしてスミスへ一通の手紙を送り『看板娘』のイベントは大団円を迎える。
コレが『深く深い闇の先で』における『看板娘』イベントの流れだ。
主人公と出会わない事で何故『天使長』が救われたのかは分からない、その点で謎は残されている形になってしまった。しかし、事実として他の姉妹達は姉を助ける為に魔神とすら相対する選択を取っている。
ゲーム内でそれ程に『天使長』を助けようと躍起になっていた他の姉妹達が、実は『天使長』を殺す役割を担っている?
そんな筈は無いのに、それでも伝え来た相手の立場が俺にその言葉を信じるに足る物だと思わせる。この世界の根幹を成す存在である
「そんなの嘘だ、嘘に決まってる……」
《嘘では有りません、貴方も私の存在から嘘では無いことくらい分かっているのでしょう?》
分かってる、よく分かっているのだ。目前の存在が語る事に嘘を混ぜる必要性が無いことくらい、それでも信じたくは無いんだ。『天使長』が俺に『料理長』を紹介した時も、『清掃長』が並んで俺のクラフトを見ていた時も、『バイト長』と手を繋がせた時だって仲の良さは本物だった。それとも、彼女達には根本的に情なんて物は無いのか?
そんな筈は無い、初めて出会った時の『天使長』は確かに泣いていたんだ。『料理長』が俺と『天使長』の距離感に疑いを持っていた事も、『清掃長』が『天使長』の暴走に呆れていた事も間違いなく親愛の情が無ければ起きない事の筈だ。
《くく……本当に長女の事を好きなのですね、貴方は》
嘲りの混ざった声音で言ってくる
「うるせぇよ、世界を運行するだけの存在がよ。矮小と見下している人間を理解出来ない奴が感情を語るなよ……!」
怨嗟を込めた目で
《今の貴方は相手の持つ感情の本質が見えていたつもりの愚者、先程の言葉は正に負け犬の遠吠えですね?》
苛立ちが増す、この場で『天使長』から貰った一回を使って第五元素を生み出してやろうかとすら考える。それとも『空裂』で対象を『バイト長』と
《貴方が姉妹愛と認識していた物がただの監視である事実はどれだけ貴方が否定しようと覆せません。貴方は
怒りで握った手から血が流れる、どうやら爪が皮膚を突き破ったらしい。同時に頭の中で冷静な部分が高速で回転し、俺の中に有るスキルに何かが芽生える感覚が走る。
「哀れで愚かなのはテメェだろ、
《くふ、本当にそう思っているのですか?》
俺の言葉を受けて嗜虐的な方向へ嗤いの質を変えていく
実際の所、
「なら、『天使長』が俺の為に何かを封印する為に戦い続けている事はお前の指示か?」
この事はやはり想定外の事象なのだろう、流石の
「それに、神々の神像を作る事を俺に依頼したのは?」
《……あれは、『
「だが、お前の指示では無いよな?」
神像を作るように俺にメッセージを頼んだのは
「確かに
俺の言葉を聞いた
そんな事を考える俺をしばし見て、
《貴方がそう信じたいのは理解しました。しかし、それは叶いませんよ。この姉妹達はそう作られていて、その在り方からは抜けられません。姉妹の次女から聞いたでしょう、この姉妹達な契約から逃れられないと》
「それは……」
確かに『清掃長』から聞いた、『看板娘』達は契約から逃れられないとそう言っていた。
《謂わばこれは誕生と共に定められた契約です、故にこの姉妹達は逃れられない。例えばそう、この姉妹達がその力か在り方を失いでもしない限り》
その言葉に引っ掛かる。力を失う、つまり翼を奪った『深く深い闇の先で』の『看板娘』イベントを引き起こした変態ストーカーはこの事を知っていたのかと。奴は『天使長』の力を奪う事で姉妹での殺し合いを防いでいたのか?
……自分で考えててなんだが、これは無いな。相対した時スチルにウェディングドレスがチラ見えしてたから主目的のままなんだろう。
《そう言う意味では貴方に感謝していますよ、無くしていた長女の力を取り戻してくれましたから》
何とも皮肉である。『天使長』が帰れるように力を尽くしたら
《貴方も三女と繋がっていれば私の端末として使えたというのに、以前貴方があの夢魔を前に童貞を拗らせていた時のようなヘタレ具合で回避するのは予想外ですよ》
「『料理長』の時のは双方に誠実な対応をした結果だが?」
《据え膳食わぬは男の恥とこの世界にも有りますよ》
「恥だろうが不誠実よかマシだろうが」
《妻より先に別の相手を孕ませた人間が言っても誠実さに欠けると思いますけど》
駄目だ、確かにその事は不誠実過ぎて何も言えねぇ。
《あと、貴方の伴侶が分身した上で自分を殺させるとかどんな判断なのでしょうか。正直、理解出来ないのですが》
確かにな、俺が同じ立場でもその発想は出て来ないし。
《挙句、貴方に殺される事に喜びを見出だしているのも何なのか。殺したい程に憎むでもなく、好む相手を傷付けたくなるでもなく……殺して欲しい程に愛するのは理解に苦しみます》
「うん、我がパートナーながら理解出来ないのは同意する」
エテルの為に死ぬ事は出来るが、流石にエテルの手で殺される事に悦びは見出せないな。
《流石のこの姉妹達も、貴方の為に命は捨てられても姉妹同士ではリミッターが掛かりますし》
「……『天使長』なら出来そうな物だが?」
《逆にあの子が一番出来ませんよ、最も
そう言う
《それに、最早あの子の再優先事項は貴方に定められています》
「何だかそれが一番よく分かってないんだがな……」
《乙女心は複雑怪奇、例え
「……乙女心?」
《失礼な、
「……は?」
何かとんでもない事を言われた気がする、
何処かバツの悪そうな表情をしている
「……
《……叶わない恋でしたけどね》
自嘲気味の笑う
《……子供扱いは辞めてください》
5分ほど撫でられ続けていた
「……お前が恋を知ってても、『天使長』の心を慮らない行動への嫌厭は変わらないぞ」
《ええ、貴方に
「それを口にするなら、『看板娘』達の心も彼女達のものだろうが。流石にダブルスタンダード過ぎる」
《何を言ってるんですか、古来より神といい女は我儘なものですよ?》
「イイオンナを名乗りたいなら自前の身体を用意してから言え」
イイ性格してるだけだろお前は。それとムカついてるのは変わらないから後でお前のフィギュアをクラフトするのは止めねぇし、『バイト長』に持ち帰って貰って『看板娘』で共有して貰う。徹底的に嫌がらせしてやるからな。
「つか、さっさと『バイト長』中から出て行け。目的の口止めは終わってんだろ」
《一旦は制限出来てもこの子のドジ具合ではまた禁則事項を口に出しそうで離れ難いんですよ、なんならこのまま滞在するべきか考えてるくらいです》
「それやろうとしてんなら『空裂』の存在を『縁切』の概念武装に変異させてお前達の間に有るライン的な物をぶった斬る」
《怒りのあまりに想定外の能力進化をしないで貰えません!?》
今まではできようも無かった事では有るが、先程の怒りに反応した『クラフト』スキルの応用で出来ると謎に確信がある。調べては無いが、多分クラフトスキルの中に変質みたいなスキルが増えてると思う。
少なくとも、『空裂』の持つ世界を断つ程の切断力を縁と言う形の無い物を切る物に変質させるくらいは出来るだろう。あくまでも切断するという在り方の方向性をズラす、その程度の変質にとどまる程度の能力だ。本質を変質させる事は出来ない、ほんの小さな変革を行う程度。
脅しの意味も込めて『空裂』を一本インベントリから抜き放ち、『クラフト』スキルで干渉して変質させていく。白木拵の姿なのは変わらないが、確かにその刃は世界ではなく縁を断つ物に変容している。『鑑定』はしてないが雰囲気で読み取れる……なんか大分俺もおかしくなって来た気がする。
《分かりました、直ぐにこの身体から出ていくのでその意味不明な刃を収めて下さい》
「……虚仮威しじゃないって分かるんだな?」
《私は
眉を顰めたまま『空裂』改め『縁切』を睨む
《コレだけは伝えておきます、貴方が長女を好きだと思うのなら今挑んでいる迷宮の最下層の攻略は必ず果たしなさい》
「……それが、『天使長』を吸収されない為に必要なんだな?」
《ええ、禁則事項に触れるのでこれ以上は言えませんが……貴方が持つ存在を歪曲させる特異性を持ってすれば必ず長女の吸収を回避出来ます》
あまりタイムリミットは無いかも知れないが、他の姉妹の協力を得られれば最下層までは問題無く行けるだろう。『料理長』と『清掃長』からそれぞれ預かった剣の事も、目の前の
《もしもこの世界……は無理でも、貴方の傍らの夢魔達やこの姉妹を愛するのなら》
真っ直ぐに俺の目を見て、この世界の意思は俺の進むべき道を示す。
《この世界の終焉と向き合いなさい。それが、貴方がこの世界で行うべき本来の
優美に一礼をした後、
《ちがうです……》
「……分かってる」
弱々しく呟く『バイト長』の言葉に、真意は伝わってると返す。そんな俺の言葉に、『バイト長』は強く俺の服を掴み顔を上げてきた。その目には涙が溜まっていて、必死な思いが込められている。
《違う、ボク達は……姉妹皆は大姉さまが好きなんです!!》
「知ってるよ」
《背負わされてる役割も、果たすべき事も与えられているのは確かです。でも!!》
「大丈夫、分かってるから」
必死に弁明しようとする『バイト長』を宥めるように頭を撫でるが、涙は止まりそうにない、安心させるには、そう考えて膝を折り『バイト長』を抱き締めれば抱き返してきて泣き続ける。どうやって泣き止ませるかと悩む中、そんな俺達を纏めて抱き締めてくる者が一人。
「……『天使長』?」
その相手を見れば慈愛の籠もった表情をしている『天使長』で、何も言わずに俺達を……正確に言えば泣いてる『バイト長』を抱き締めている。頬を合わせて無言で抱き締める姿は姉と言うより母のそれだろう、実は姉妹じゃなくて母親だったり……ヤベェ思考を読まれたのか睨まれた。
抱き締められた『バイト長』は『天使長』の体温に安心したのか、段々と落ち着いていきやがて眠りについた。いや、本当に姉妹ってか母娘の反応だろコレ。
「ありがとうございます、『天使長』が来なかったら泣き止ませられませんでした」
《いえいえ、タタラさんならもう少し時間が必要だったかもしれませんけどキチンと泣き止ませられた筈ですよ》
眠りに就いた『バイト長』から離れた『天使長』に声を掛けつつ、『バイト長』を横抱きにする。『バイト長』が俺のシャツをギュッと握ってくる姿が、子供に見えて仕方ない。
そんな『バイト長』を優しく見守る『天使長』に、俺は少し聞き難い質問をする。
「『天使長』、さっきまで『バイト長』に
《ええ、知ってますよ》
知ってるのか、と言うか分かるのか。
「それで教えられたんですよ、『バイト長』達姉妹達が『天使長』をいざとなれば殺す為に監視してるって」
事実確認に過ぎないが、この事を聞くのが心の底から嫌だ。俺の接して来たこの姉妹が、こんな事の為に生み出されたなんて。
《ええ、事実です》
対して、『天使長』の答えはシンプルな肯定だった。その事に胸が締め付けられる。
《ふふ、大丈夫ですよタタラさん。生み出された理由は事実でも、私達はそれを踏まえた上で姉妹として存在してきました》
そう言って『天使長』は眠る『バイト長』の髪を優しく撫でる、その手に安心したのか『バイト長』の寝顔は心なしか穏やかになったように見える。
《タタラさんが気にする必要は無いんですよ、私達は私達の在り方が有るんですから》
「……それでも、俺は『天使長』達姉妹が殺し合いになるのは嫌だ」
《そうですね、私も嫌です》
向かい合う『天使長』は何処迄も穏やかな雰囲気だ。その雰囲気わ頼り、もう一つ聞きたい事を口に出す。
「それと、俺の為に『常闇の洞』の最深部で何かと戦ってるって『料理長』に聞きました。今さっき
《そうですか……いえ、確かにいつかは負けてしまうかも知れません》
「それは、何と戦ってるんですか?」
腕の中で眠る『バイト長』を預かる際に『清掃長』から72柱の魔神の集合体と戦っているとは聞いた、だが具体的にそれが何なのか正確なところが分からない。
世界を終焉に導く存在の欠片でしかないモノと戦って敗北すると死なのは分かる、しかし敗北すれば『天使長』が吸収されるのは何故なのかが分からない。
《そうですね……》
俺の言葉に少し考えた『天使長』は、インベントリから一つ拳大の大きさを持つガラス質の物体を取り出す。裡に宇宙を閉じ込めたかの様なそれは、見慣れた『終焉女神の神核片』である。
《タタラさんでもご存知では無いと思いますが、この世界には二つの根幹属性という物が存在しています》
「根幹属性……?」
《はい。そのモノに根ざす二種の属性、すなわち創世と終焉です》
始まりに属する創世と終わりに属する終焉、これがこの世界に存在する根幹属性と呼ばれるモノなのだそうだ。一番分かり易いモノとしては『光の女神』様と『闇の女神』様で、この姉妹神はその在り方が真逆である。
《この世界を作り上げた存在である『創世女神』と、この世界が終わった後に次の創世神となる『終焉女神』。この二柱はその役割を交互に変えながら、世界は流転していきます。この世界に生きる全ての存在は、この二柱の女神何方かの属性をその根幹にもっているんですよ》
「……例えば、俺は『創世女神』様側でエテルが『終焉女神』様側って分かれているみたいにですか?」
俺の言葉に『天使長』は頷いて答える。初めて神核片を使ってクラフトした際に『創生女神の神核片』の使用が馴染んだ理由が、今話してくれた根幹属性とされる物の影響だろう。あの時に『光の女神』様と『闇の女神』様それぞれの属性に近いと何となく感じた事がそのままだったのは、少しだけ世界が単純なように感じられて不思議だ。いや、むしろ根幹であるからこそ二極化する程に単純なのか。
《そして、私が戦う『終焉の欠片』に敗北した場合吸収される理由は簡単です。私の根幹属性がそれらと同じだから、それだけですよ》
「……は?」
あっさりと、『天使長』は理由を言ってきた。一瞬何を言われたかが理解出来ず、思考が追い付いてから鼓動が早くなってくる。
「『天使長』が終焉寄りなんですか、創生側じゃなく?」
《ふふ、何で私が創生側だと思ったんです?》
これでも悪戯するの好きなんですよなんて思念を飛ばしてくる『天使長』を見ながら、考えを巡らせる。
そんな
それに、
「もしかして、『天使長』を参考に創生属性で姉妹達を作ったから欠陥を抱えてる……?」
だが、それはそれで何故『天使長』は終焉属性で欠けなく作られているのだろうか?
そもそも『天使長』は
目前の『天使長』を見ても静かな笑みを向けてくるだけで、俺に教えるつもりは無いらしい。教えられないのか、それとも教えたくないのか。付き合いはそこそこ長いはずなのに、それでも『天使長』の事が分からない。
《タタラさん、末の妹はもう大丈夫そうなので私は帰りますね》
「あっ……う」
何か聞きたい事が有ったはずなのに、『天使長』が帰ると言うまで質問の内容が纏まらなかった。言葉に詰まる俺を見て、『天使長』は仕方ないと言うように言葉を紡ぐ。
《……私はタタラさんの事が好きです、大好きです》
そう言いながら『天使長』は胸の前で手を組む、祈りを捧げるかの様なその姿に何処か不安を覚える。
《この翼の事から始まって、今までの事その全てが私に沢山の思い出をくれました》
それはまるで懺悔のような、赦されない罪を告げるような雰囲気を持っていて。
《それらは全てタタラさんが居なければ無かった物です、だから──》
だから、何なのだろうか。
《……だから、タタラさんは今のままで居てください。私なんて気にせず、隣に居る人達と一緒に笑っていてください。私は本来、貴方の営みの中に居ていい存在では無いんです。私は、貴方と共に歩ける存在では無いんです。貴方の人生の、ほんの一瞬にだけ見た白昼夢……もう私の事で人生を浪費しないでください》
俺が言葉を受けて動けなくなっている間に『天使長』は帰っていった、アレは『天使長』からの明確な拒絶だったのかそれとも小さな強がりだったのか俺には分からない。
俺にはあの時の『天使長』は泣いてる様にも見えたが、もしかしたら見間違いかも知れないし俺の思い込みかも知れない。やっぱり俺には異性の機微なんて分かりっこないのだ。
そんな事を考えつつ、寝入ってしまった『バイト長』を横抱きでリビングへと運ぶ。ソファーベッドにたどり着けば『バイト長』用のアーレム……バーレムが俺に気を利かせてソファーベッドを用意する。『バイト長』の羽を使っているがどうもこの辺の事は得意らしい、手際良く用意を終えたバーレムが胸を張って俺を促してくるので礼を言いつつ『バイト長』を寝かせる……何だかバーレムは褒められて照れてる臭いな。本当に感情豊かだな此奴。
ベッドに寝かせた『バイト長』を着替えさせるのも難しいので、そのまま離れようとすれば『バイト長』の手は俺のシャツを掴んだまま放そうとしない。流石にバーレムもお手上げらしく、何処か申し訳なさそうに俺を見てくる。
どうやら、俺は今夜リビングから離れられないらしい。シャツを脱げばいいのかも知れないが、なんか脱いだ瞬間を
何となく『バイト長』の頭を撫でながら窓の外へと目を向ける、カーテンの隙間からは青い月明かりが見えて来た。空に浮かぶであろう青い月へ向けて、この優しい『バイト長』が穏やかな夢を見れるように祈る。
《……あれ、タタラくん?》
そんな願いは通じなかったのか、『バイト長』が目覚めたらしい。安眠を司っている筈の青い月女神様も助走つけて殴って寝かせそうだなこの流れ。誠に遺憾です。
「起きたなら放してくれないか?」
《え、あっ……ごめんなさいです》
俺のシャツをガッツリ掴んでいることに気が付いて『バイト長』は手を放してくれた。その顔が何処か寂しそうに見えたのは俺の願望だろうか?
もぞもぞと動いてから身を起こした『バイト長』は、真剣な顔で俺に向き合う。
《タタラくん、聞いて欲しい事が有るです》
「……分かった、聞くよ」
俺も真剣に向き合えば、『バイト長』は意を決した様子になる。
《ボク達姉妹は確かに、大姉さまが暴走した際に機能停止させる為に生み出されたです》
それは予め聞いていたとは言え、あまり肯定して欲しくは無かった事実だった。感情のままに否定するだけだったあの時とは違い、意思を持って生み出された理由を語られるのは辛い。
「でも、そんな事は関係ないんだろう?」
《え?》
「生まれた理由は何であれ、在り方を縛られる理由にはならない筈だ。それが例え、世界法則が定めた事だとしても」
俺の言葉を受けて、『バイト長』は固まる。
「俺も
思えば、周囲の
「生まれは選べない、けれど生き方は選べる筈だ。例え
俺の言葉を聞き続ける『バイト長』は何も言わない、それでもその目に力が満ちていくのが分かった。
「あえて聞く、『バイト長』は『天使長』の敵か?」
《違うです!》
「なら、俺達の敵か?」
《それも違うです!》
「なら……一緒に
《勿論です!!》
返事が力強い、何だかんだ姉妹で一番心が強いのは『バイト長』なのかも知れないな。何だかバーレムが『俺が育てた』と言わんばかりに腕組みして頷いているが、お前の腕短いから上手く腕組み出来て無いぞ?
「ありがとう『バイト長』」
《えへへ、ボクはタタラくんが居てくるから立ち向かう事と立ち上がる勇気を持てたんですよ?》
「俺?」
その答えを聞いた俺は疑問しか浮かばない、俺は『バイト長』に何かしてやれた事は無いと思うのだが。
《タタラくんはボクを信じてくれたです、中姉さまから押し付けられただけなのにボクの為に考えてくれたです》
特大の見返りが有るからってのが大前提なんだけどな、とても言えないが。
《師匠と出会わせてくれたです、こんなに素敵な靴もくれたです》
まだ全然何もしてやれて無いと思うのに、それでも『バイト長』は一つ一つを嬉しそうに語る。
《コレだけ大きなモノを貰ったんです、ボクの中に勇気の一つも生まれるのです!》
そう言って笑う『バイト長』、なおその脇で『自分は?』と聞きたそうにしているバーレムの事は無視する。改めてゴーレムなのか分からないなコイツら。
「そうか、俺達は少しでも『バイト長』を変えてやれてたんだな」
《もう沢山変えてもらってるです、何よりもボクは今幸せです!》
力強い『バイト長』の返答に思わず笑ってしまう、俺の反応を見た『バイト長』も嬉しそうだ。
《あ、そうだ》
そんな中で『バイト長』は思い出した様に声を上げて、インベントリから一つの物を取り出して俺に差し出してくる。『料理長』と『清掃長』から渡された物と同じ意匠の剣、違いは嵌められている宝玉が翠である事か。
《コレをタタラくんに譲ります》
「……いいのか?」
《はい、此処まで来たのならもうタタラくんが持つべきです。理由を言うことは禁止されてるです、それでもタタラくんに持っていて欲しいです》
そう言う『バイト長』の手から剣を受け取って、鞘から抜く。『料理長』の物と同じく欠けの無い刃を確認してから納める。
「確かに受け取った」
《相応しい時、相応しい場面でその剣達はその役割をタタラくんに伝える筈です》
静かにこの剣が必要な場面が来ると教えてくれる『バイト長』、そう考えると『清掃長』の剣が砕けているのは別の時間軸か世界線で俺が振るった故に砕けた可能性も有るかも知れないな。
《タタラくん。きっとタタラくんにはこの先で辛い未来と向き合う事が有ると思うのです》
多分、コレは『バイト長』が見てきたいつかの未来についてなのだろう。それがどんな物かは分からないが、きっと『バイト長』が取り乱してしまう物なのだろう。
《それでもボクはタタラくんの味方です、姉さま達は分からないですけど……少なくともボクはタタラくんの為なら命を捨てられるですよ》
「『バイト長』、それは……」
《当然、口約束みたいなもの……タタラくんなら意味は分かるですよね?》
以前に言われた事を考えれば、『バイト長』のコレは『看板娘』として重大な事の筈だ。彼女達は契約を裏切れない、例え口約束であっても。
それが本当なのだとしたら、『バイト長』は俺の為にこの世界すらも裏切れる事になる。
「……それなら、コレだけは約束してくれ」
《え?》
「無理はしないこと、俺にも『バイト長』を守らせること」
《……本当、仕方ない人ですねタタラくんは》
何処か眩しい物を観るかの様に目を細める『バイト長』に向けて、俺は右手を出して小指を立てる。意図が伝わるか少し疑問だったが、『バイト長』も右手を出して小指を立てて絡めてきた。
『ゆびきりげんまん、嘘吐いたら針千本飲ます。指切った』
この『ワールウィンド』に有ったかは記憶に無い約束を結ぶお
タタラ「所で『バイト長』、
『バイト長』《
タタラ「本音漏れてんぞ」
冒頭のタタラと
生存するか否か
-
生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない