既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
リビングから工房に戻り、日課の『空裂』を作成する前にミスリルインゴットを取り出して『クラフト』スキルを使用する。
頭の中に思い浮かべるのは少し前まで会話を交わしていた
掌の上で出来上がったのは、何処か『天使長』によく似た面差しのベリーロングの女性だった。揃えた脚で座り込み、一糸纏わぬ豊満な身体を必死に隠し涙目で此方を睨見つけてくる。
コレが
とは言え、対比のために此処で『天使長』のフィギュアを作れば彼女のエロフィギュアを作成してしまうのでとても作る事は出来ない。今迄の経験から前世で読んだ薄い本の表紙になること請け合いで、『天使長』のエロフィギュアとなると俺の
前作で新婚ラブラブ物を出しておいて続編で寝取られにしやがったあのサークル主は何時思い出してもぶん殴りたくなる、漫画を読んだショックで吐いた経験なんてアレが初めてだったぞ。
そんなトラウマを穿り返したく無いので『天使長』のエロフィギュアなんて作りたくない、だから苛立ちのまま
出来上がったのは先程の
二つ目のフィギュアは速攻で溶かして元のインゴットに戻した、これ以上は気分が乗らなくなったので最初のエロフィギュアだけ残しておく。
続いてミスリルインゴットを一つ取り出して『クラフト』スキルで成形する、猛禽の翼をデフォルメしたデザインのヘアピンを作りそこに『念話』の術式を作る。
続いて複数のミスリルインゴットと中型の魔石を一つ取り出して再び『クラフト』を使用、板状にミスリルを成形してその表紙に『感応』の術式を刻んだ後に表面へ魔石を薄くコーティングする。以前作った魔導タブレットの再現で、ヘアピンを身に着けてテストを実施。
俺の思考をヘアピンの術式が拾い、タブレットが『感応』して魔石で作った画面に表示する……のだが目的通りには行かなかった。出来上がったタブレットに表示されて居るのは文字は文字だが
──(´・ω・`)
という物だった。
俺の目的は思考を文字として表記する事だが、出て来たのは顔文字とは……今は俺の感情を読み取って
──( ˘•ω•˘ ).。oஇ
とタブレットに表記されている。
このまま『バイト長』に渡した場合、コレを掲げて会話を挑んでも感情的な物しか伝えられないだろう。『バイト長』より無表情寄りな『料理長』の方が似合うと言うか、キャラとして合ってる気がする。しかし、正確な意思疎通が出来ないと意味無いんだよな。
少し思考を巡らせて、複雑に考え過ぎていたと思い直す。同じ材料と工程をなぞり、魔導タブレットに移る際に魔導ワードプロセッサと同じ術式を刻む。思考制御をそのまま文字に起こす術式を新たに組み直し、感情を反映して感嘆符等の使用も可能とする。
試してみれば思った通りに動作して、魔道具は完成した。早速明日の朝に『バイト長』へ渡そう、皆と会話出来れば『バイト長』も楽しい筈だ。
そんな事の後に日課の『空裂』を打ち終えて風呂に入る。案の定待ち受けていたエテルに背中を流されながら考え込んでいれば、俺の様子から何か有ったのか察したエテルから問い詰められる事になり話す事にした。
「……ふぅん、タタラの本来の役割とかは置いておくとしてダンジョンの最深部に行かないとこの街が吹き飛んじゃうんだ?」
「俺の前世にもそんな情報は無いんだが、この世界を管理する
「無視して良いって言うには三割の確率は大きいもんね」
身体にボディソープを塗ったエテルが擦り付けて洗ってくるが、至極真面目な内容の会話だ。なんでこの空気でこの行動なのか、それはエテルだからである。マトモに考えるだけ無駄だろう、
「数年しかないか、十年以上余裕が有るかは微妙な所だがな」
「それでも私達の子供の為にも潜らないと駄目だよね?」
「この都市が吹き飛ぶってのがな……明らかに本国の最精鋭が動く規模だから子供達を虎熊領に逃がしでもしないと命が危うい、出来るなら解決したい所だが」
俺に役割が振られているとは言え、世界の終焉なんて物と向き合うのは人の身には大き過ぎる問題だろう。本国の最精鋭どころか神殺しが動いていてもおかしくない事態だろうしな。
「自信無い?」
「無いよ、流石に」
エテルからの確認に対して正直に答える。そもそも世界を構築する根幹を成す属性の片割れそのものが敵なのである、そんなモノを相手にする自信など当然持てるとは思わない。
この『深く深い闇の先で』を出した会社は最終作でこそ原点回帰のゲームシステムになっているが、末期の作品は基本的に複雑な内部計算が行われていたのだ。乱数やら防御特性やらで安定したダメージ計算が出来なかった為、遊んでは居たが深く追求までは出来なかった。
俺が恐れているのは機械神様の加護の無い場所での戦闘で、従来の戦闘方法が出来るか否か。俺が存在昇華を重ね特典スキルを最大まで上げたとして、法則が変われば無意味になりかねない。
仮にそうなれば、四葩やダリアですら戦闘が叶わないかも知れない。
何もかもが未知の場所、そこへ挑むのに自信など簡単には持てるはずも無い。
「そっか、なら」
俺の内心を知ってか知らずか、納得したような反応の後に俺の前に回り込んで来た。重々しく揺れる双丘に目を引かれ、至近距離で香る
「自信を付けさせるのは無理かも知れないけど、不安は感じなくさせてあげる」
その言葉に思わず顔を上げれば、重なった視線の先から魔力の干渉が行われた。一種の洗脳だろう、感情の一部を麻痺させようとしているらしい。
まぁ、そんな事よりもこうして見つめ合ってしまえばエテルの身体を求めてしまうのが悲しいかな雄の本能である。
「あ、ちょっとタタラ!」
視線は合わせたまま、何時もの様に愚息をエテルの入口に添えてから腰を掴む。エテルも注意をしてくるが、拒否している訳では無いらしい。パートナーに求められたら準備をする夢魔の体質に甘えつつ、エテルの腟内へと侵入する。
与えられる刺激に対して表情を快楽に歪めつつ、咎める様に視線を向けてくるエテル。腰が落ちた影響で顔が近付いたのをいい事に、エテルの身体を抱き寄せて唇を重ねる。
ただ合わせた始まりから口内を吸い合い、その後舌を伸ばして絡める。肉を打ち付け合う音に混ざって、水音が浴室内に反響する。
膣内で搾られる愚息の限界はあっという間に訪れる、昨日アレだけ射精したと言うのにもう補充が完了している事に我が事ながら呆れてしまう。
吐き出された精液がエテルの膣内を満たす間、腰の動きで抜けないよう反射的に押さえ付ける。エテルも震える身体が落ち着くまで俺に抱き着いて堪えている様子だ。
「……タタラ、何時もより早くない?」
「俺もそう思う。つか、我ながら無理させたみたいだ」
普段なら複数回の戦闘を可能とする愚息は、一度の戦闘行為をもってその力を使い果たした様子だ。いやまぁ、昨日の今日で一回は戦闘行動を可能としただけ大したものなのだろうが。
「うーん……私の『性魔術』も効いてない感じがする」
「流石に昨日の激戦が影響してるんだろう」
「今朝方までで三桁越えるくらいに頑張ったからかな」
そんなに戦ってたのか……そりゃ一日程度じゃ回復しねぇわ。
風呂から上がった後、エテルはそのまま俺の部屋に来ていた。部屋着としてよく着ている厚手のシャツとホットパンツ姿で、今は俺に膝枕をして耳掻きをしている。昔、一緒に暮らし始めた頃に俺への恩返しとしてやってくれようとしたが……鼓膜を何度か破られて乙女様の癒薬に世話になったな。
今では慣れたもので、耳の奥でも夢魔の夜目で見通して的確に耳垢を取ってくれる。力加減もかなりの物で、独特のこそばゆさこそ有るが5分もされていると眠気に襲われる。
「んふふ、タタラ眠い?」
「……眠ぃ」
されるがままの俺が面白いのか、それとも別の事が楽しいのかは分からないがエテルはご機嫌で俺に声を掛けてくる。何故だかエテルは俺がこうなる状況を楽しんでる節が有る。
「だけどまだ駄目、まだ反対側が残ってるからね。ほら、ゴロッと回って反対側だよ?」
「……うん」
言われるまま、身体を反転させる。体勢が変わってエテルの腹に顔が埋まる、適度な弾力を持った腹部と上下から性質の違う柔らかい感触に挟まれる。上から2kgを越える圧力を受けるが、何のことはない。
「もう、埋まっちゃったらお耳の掃除出来ないよ?」
困ったような、笑っているかのような声音でそう言われるが答える余裕もない。エテルの匂いに催淫効果よりも安眠効果を感じてしまい急速に瞼が落ちる。
「本当にタタラは仕方ないなぁ」
エテルは俺の頭を膝から枕へと移し、そのまま添い寝する形に姿勢を変えて頭を撫でてくる。
「おやすみ、タタラ。いい夢を見てね」
そんな言葉を最後に、俺の意識は深い眠りに就いた。前世で催眠音声作品にハマってた人達の気持ちを少しだけ理解した、そんな夜だったかも知れない。
朝、俺の朝立する愚息に一華が跨りエテルが他の性感帯を刺激して搾り取ろうとする事はなく、穏やかに目が覚めた。俺の胸元に頭を預けて穏やかな寝息を立てて居るエテルの頭を撫でた後、一人でシャワーを浴びて朝食の準備へ。今日もおにぎりにしようか、それともトーストにしようか悩む。『バイト長』に運ばせる上で考えるならおにぎりの方が安定するのだが、トーストの方が軽いため配膳時に色々と力加減が変わる為そろそろ『バイト長』のステップアップの為に挑ませるのも有りだろうか?
そう悩みながらリビングに入ろうとすれば、同じタイミングで三葉さんが起きてきていた。
『おはようございます』
全く同じタイミングで挨拶が重なり、思わず揃って笑い合う。なんと言うか、ここ数日で妙に波長が合ってしまっている。まぁ、義理の姉になる人なのだから仲良くなれた方が良いのだが。
「今日の献立は如何しますか?」
「正直、此方風か陽出風かで迷ってますね。『バイト長』もおにぎりと言うかお米の重さだけじゃなくてパンの軽さにも慣れて欲しいですし」
メイドなのだから汎ゆる料理を運ぶ事に慣れるべきであろう。まぁ、コレだとメイドというよりウェイトレスに近いかも知れないが。いや、待てよ?
「……そうか、ウェイトレスなら」
「あの、タタラさん?」
俺の思い付きで溢れた言葉に疑問を持つ三葉さんを他所に、ミスリルインゴットと魔石を複数取り出して早速クラフトする。
作り出すのはカート、またはサービスワゴンとも呼ばれる代物だ。
手早く作ったのは多段式で、サイズを統一したお盆を挿し込む事で複数の料理を運ぶ事が可能。更に位置を調節する事で棚の高さも調節可能、コレなら汎用性も高いだろう。統一した規格のお盆も複数作成し、コレで『バイト長』対策は完璧だろう。屋敷に戻る時にそのまま持って帰って貰えば、ずっと使えるしな。
「……便利そうですね」
「複数の料理を運ぶ時に重宝すると思いますね。まぁ、コレそのものだと素材が高価すぎるので簡単には売れないと思いますけど」
鋼にすれば多少は安くなると思うが、それでも『浮身石』だけで3000万は技術料が掛かるので一品一品が高級品にしかならない。
皇族に献上しろと言われたら幾つか出来るが流石にただで渡すには値段が高過ぎると思う。まぁ、『厄切』なんていう国宝級かつ値段が推定不可な代物を贈っているから今更ではあるんだが。
《流石にあの子の為とは言え、物を作り過ぎではないですか?》
「そう言われてもな、『バイト長』が少しでも仕事を出来るようになって自信を付ける為だし必要だろ……って」
最早慣れた頭に響く声の質問に答えつつ、気配が生じた方を見れば『料理長』がそこに居た。その手には可愛らしいランチクロスに包まれた弁当が有るため、今日は『清掃長』に頼らず持ってきたらしい。
「おはよう『料理長』」
「おはようございます『料理長』さま」
《はい、おはようございますお二方》
俺の挨拶に続く三葉さんに、腰を折る綺麗な礼で応える『料理長』。
「『清掃長』からの依頼は『バイト長』が少しでも仕事が出来るようにって物だしな、その為に道具を作るなとは言われてないし」
《そうですけども……これ、私だって欲しいくらいですよ》
「なんなら作るか?」
《お願いします》
どうも『バイト長』用のカートを羨ましがって様子なので作るかを確認したら即答で依頼された。まぁ、そんなに手間でも無いし問題は無い。手早く作って渡せば、『料理長』は花が咲いたような満面の笑みである。この娘、最近よく笑うな?
《コレはもう、今日のお料理を手伝わなければなりませんね!》
「ちょくちょく俺の家で料理をしたがるのなんなんだ?」
《タラシさんの胃を掴むためですが?》
「タタラだ。それとその目的は諦めてくれ」
既にエテルと一華に掴まれているのだから、コレ以上は無理だろう。無理だよな?
俺の言葉に頬を膨らませる『料理長』だが、その頬を指で押して唇から気の抜けた音とともに空気を抜けば取り出した俺のぬいぐるみでポフポフと叩いてくる。
「ふふ、大変仲がよろしいのですね?」
「まぁ、何だかんだ相性がいいみたいなので」
ロボ好きメカ好きでヲタク気質、方向性が近いので仲良くなるのは自然だろう。三葉さんの言葉を肯定すれば、『料理長』は顔を赤くして叩くのをやめた。
そんな一幕の後に起き出してきた一華やエテルを含めて朝食の用意、結局はおにぎりを主食にベーコンやウインナーを摘むスタイルに落ち着いた。『バイト長』は『料理長』の姿に驚いていた、カートでの配膳を直接的に指導されて困惑気味だが教えられた事は真剣に取組む為に問題は無さそうだ。
若干上手く教えられた事に『料理長』の方が驚いていた様子だが、どうやら今迄は教えても本当に全くこれっぽっちも身に付かなかったからしい。俺が居る影響かも知れないが、妹に指導出来るのが嬉しいのかより積極的に指導を始めた為に二人の間の空気が華やいでいるように見える。
そうして朝食の準備を終え、朝稽古を終えた面々が集まり食卓を囲む中で今日の予定を確認する。
「妾達は探索じゃのう、エテルのレベルも出来れば50を越えさせたいところじゃ」
「ステータスアップアイテムの収集も必要ですしね、『盗む』スキルも順当に育っていますし早めに集まるかも知れません」
四葩とタチアが真っ先に予定を言ってくる。尚、エテルは咀嚼中につき直ぐには声を出せない状態である。
「それなら拙者も探索に行くでござるよ」
「頼もしいけど……いいの、イッさん?」
「今日はご主人も当主代行に付き添って出掛けてしまうでござるからな、三葉様に昼食を任せても問題無いと判断したでござるよ」
「そうですね、お姉様に野獣指南役とタタラさんの幼馴染さんだけですから問題無いですよ」
判断に対して確認を取るエテルに、一華は三葉さんに任せられると答えた。当の三葉さんも問題無いと答えた為に、この辺は解決でいいだろう。
《……タタラさんは何をするのですか?》
「俺は今日、当主代行に付き添ってアーレム関係と国交樹立に関してをな。芝居をする上でちょっとした問題が有るから解決策の模索で向かうんだ」
思念を飛ばしてきた『料理長』に答えれば、何やら思案している。一つ頷いたと思ったら、『料理長』は楽しそうにとんでもない事を言い出した。
《でしたらお弁当が必要ですね、直ぐに作ってあげますから一緒に連れて行って下さい》
「はいっ!?」
《小姉さまご乱心です!?》
弁当を作ろうとする事もそうだが、アーレムが気になっているからだろうけど一緒に連れて行けってお前。
「タタラ殿、彼女は何と?」
「お弁当を用意するから一緒に連れて行けって」
「正気か?」
流石の当主代行も内容を聞いてドン引きしている、天使族では無いけど発想が近いの何なんだろうな?
《むう、料理の腕を疑ってます?》
「味の信頼はしてるけど、関係者でも無い人を連れて行くのはな……」
《でも私、アーレム持ってますよ?》
「アーレム所持は関係無いな」
この世で持ってるのが10人に満たない物で都市事業の参加の有無を決めるのは違うと思う。
それに、『料理長』のアーレムは現時点で出すには色々とオーバー過ぎて無理だ。魔法金属のみで作られている上に、今の俺でも外で使えない空間圧縮型の推進器なんてもん積んでるから都市長に知られたらまたスリッパで殴られる。
と、にべも無く断れば『料理長』は少し固まって……俺に飛び縋って来た。
《いやです、私もアーレムの動いてるところが見たい!》
「いきなり退行すんな!?」
子供みたいに泣き縋る『料理長』に焦りながらも周囲を確認すると、案の定一華が冷たい視線を向けてくる。
「……ご主人?」
「流石に部外者を連れてけないって言ったら抱き縋って我儘言い始めたのはどうしようもないだろ!?」
何で朝から修羅場に片足突っ込む事になるんだよ、俺が何をした?
流石に『看板娘』を誑しただろとか言われてもどうしようも無いぞ俺には。
「……タタラさん、この『バイト長』さんを連れて行くのですし私達付きの従者としてなら大丈夫なのではないでしょうか?」
「いや、流石にそれは……」
流石に『バイト長』をいきなり増やすだけでも問題が大きそうなのに、『料理長』まで増やしたら怒られないか?
「マスター、多分大丈夫かと」
「ダリア、その心は?」
「私のメイド適性の低さから鑑みて、仕事の出来るメイドが増えたと見られれば納得されるかと」
「……自分で言ってて悲しくないか?」
「少し」
ダリアからの提案により思案する。コレは本当に『料理長』が弁当を作ってくれるならイケるか?
「……『料理長』」
《お願いです、なんなら処女もあげますから!》
周りに聞かれてたら殺されかねない事を言うのはやめてくれないかな?
少なくともお前の妹には聞かれてんだぞそれ。
「取り敢えず、弁当は作れるんだよな?」
俺の確認に対して何度も頷く『料理長』、やる気を出してくれるならいっそ頼もうか。
「俺とダリアに虎熊夫妻、そして『料理長』と『バイト長』にプラスして……合計15人分くらいの弁当って出来るか?」
俺の言葉に『料理長』は目を輝かせながら何度も頷く、結構な無茶だと思うが出来るのか。
早速立ち上がって台所へ向かう『料理長』に食材を自由に使っていい旨を伝えると、信じられない速さで調理が始まった。流石に煮込んだり揚げたりする時間は無いと判断したのか、メインは茹でたり焼いたりしている。
馬鈴薯とマカロニさらに卵を茹でながら魚を焼いていく。焼き魚とスライスオニオンそしてサニーレタスを切れ目を入れたパンに挟み、オリーブオイルやワインビネガーそしてスパイスを混ぜて作ったソースをかける。
フィッシュサンドを大量生産する中で茹で上がった馬鈴薯とマカロニと玉子をお湯から上げて、馬鈴薯と玉子から手早く皮と殻を向いた後に潰していく。インベントリの中から取り出したのはどうやらマヨネーズか、馬鈴薯と玉子に塩コショウを振った後に細切りにしたハムを入れてマヨネーズを和える。満遍なく混ぜて出来上がるポテトサラダを、千切ったレタスを皿のようにして弁当箱……ってかもうあれ重箱だな。重箱の中に収めていく。
プチトマトにベーコンを巻いて串を打つ、それをフライパンで表面に焼き目が付く程度に焼いていく。
《1時間も有れば唐揚げやコロッケなんかの揚げ物も出来たんですけどね、もっと早く言ってくれればよかったんです!》
「飛び入り参加が何か言ってるな」
《口では文句を言ってるけど、ノリノリです……》
「マスター、私達には彼女達の音声は届いてないのですが」
ダリアからのツッコミと言うか抗議に対してこのやり取りも面倒だなと考え、そこで昨夜作った魔道具を思い出す。早速インベントリから取り出して『バイト長』に手渡せば、案の定『バイト長』の頭にははてなマークが浮かんでいる様子だ。
《タタラくん、コレは何です?》
「ほら、前に言った思考を文字にして出力する魔道具だ」
《ほぇ?》
俺の言葉を聞いて呆けた顔で俺を見てくる『バイト長』、その手の中にある魔道具は画面を光らせた後に文字を表記した。
──( ゚д゚)ポカーン
おい魔道具、昨日の夜散々調整したのにそれかよ。『バイト長』と同じ顔しててちょっとシュールだぞ。
そう俺が考える中、魔道具に映し出される顔文字を見た『バイト長』の目が輝く。
──(☆▽☆)
感情表現は的確っぽいが、言葉が伝わらないのは失敗だろ。
《タタラくん、これ凄いです!》
──(≧▽≦)
「燥いでるのは分かるが、言語化出来てない時点で失敗だよ」
《そんなです……》
──ソンナー( ́・ω・ )
「……感情表現は適切だなおい」
隣のダリアは目をキラキラと輝かせている、お前本当に魔道具なら何でもいいんだな?
しかし、使いようが無いこの魔道具はどうするかな……暫くしまっておくか。
そんなやり取りを挟むうちに『料理長』はお弁当を作り終えていた。どうやら一華から俺の好物だときんぴらごぼうを分けられたり、玉子焼きとスクランブルエッグを其々入れたりと時間が無いなりに手段が取られている……それで5段の重箱を詰め込めるのは凄いの一言だが。
俺と虎熊夫妻に対してダリアと『看板娘』姉妹が一人ずつ従者が就いている状態で歩く、朝からいきなり参加していいものか悩みとしたが当主代行からは──
「寧ろタタラ殿の参加は殆どの面子から望まれておるぞ?」
と嘘か本当か分からない事を言われた、気遣いなのだろうと思うのだがダリアが頷いている姿を見たので嘘とも思えなくなる。そうしているうちにアリーナへ到着し、早速バトルフィールドへと向かう。
途中で当主代行が顔馴染みになっているらしい職員に挨拶すると、後ろに続く見慣れない天使族っぽいメイド二人の姿を綺麗に二度見していた。
到着したバトルフィールドは以前見た時よりも整備され、全体的に会場として整えられた印象を受ける。天井は俺が設置した証明よりも増やされて見易くなっている、自然と構造を解析してしまえるようになった眼からは回路が以前作った制御装置に繋がりコントロールできるようになっているのが分かった。
「おはようさん、当主代行はん……ってアレ?」
状態を視ている中で掛けられた聞き覚えのある声の方へ向ければ、作業服を着た商会長を先頭に法務長と成金さんが居た。
「おはようございます、御三方」
「おはよう、三人とも。今日は台詞に付いてアドバイスを貰おうとタタラ殿に頼み来てもらった」
俺の参加に対して疑問を持つ商会長へ当主代行がそう説明する、俺自身は演劇について完全な素人なのだが当主代行の苦手克服について手段を模索する為に来ている訳だが……説明が無ければ伝わる訳も無いか。
「今日は当主代行が台本の台詞を覚えられないとの事で、方法を模索する為に来ました」
「あー……当主代行はんが台詞中々覚えられへんからね、理由って何か分かるん?」
俺の説明に納得した雰囲気の商会長が理由を確認してくる。
「ええ、家の工房で色々有りまして……正直に言うと台詞が長過ぎですね」
「えぇ……いや、うん。まぁそうね」
商会長が納得しちゃったよ。いや、台本見る限り商会長も相当に長かったけども。
「それに短いと言うか、好きになった台詞だと直ぐに覚えるんですよね」
「そうなん?」
「ええ、昨日とか俺が前にゴーレム達に言った号令とか暗唱出来てましたし」
正しくはそれらの元ネタを、だが。俺の言葉を受けた商会長は複雑そうだ、そりゃまぁ前に連れて来た劇団ハカンサスの団長さんの台本が好みじゃないと覚えて貰えないのはそうなるよな。
「そんななん?」
「ええ、コレとか」
魔導式ワードプロセッサを取り出して、プロジェクターを接続する。その瞬間に目を光らせる当主代行とダリアは無視しつつ、プロジェクターに例の如く某一角獣の艦長による演説シーンを流す。当然音楽付きである。
俺の声とは違う威厳のある声と共に勇壮な音楽が流れ始め、少し離れていた所に立っていた当主代行とダリアが最前列で正座した。その光景に少し呆れつつも視線を動かすと、成金さんと法務長が身を乗り出して映像を食い入るように視ている。全員目が血走っててちょっと怖い。
本家本元の一角獣達そのままはアレなので、キャラやロボは別に差し替えている。まぁ、本家本元のデザインを此方の鎧等に落し込んでいるので俺のオリジナルって訳では無い。それに気付いた当主代行とダリアが何かを言いたそうにチラ見してくる……ヤバいな、こんな所でグッズ展開とか考えさせられる事になるとは。
「これ、この音楽って……」
「出処は企業秘密です」
流石に前世の話とか出来ないので商会長の疑問ははぐらかす、まぁ……何時の間にやら来ていたハカンサスの劇団長と連れて来たらしい初見の団員らしき女性が物凄く集中しているので耳で音を覚えられそうではあるが。
そして一連のシーン……お義母さんの圧にによりエンディング曲を流す為にスタッフロールまでしっかり流す羽目になったが、それらを流し終えた所で集まった面々に目を向ける。
「タタラ殿、次を是非」
「いや、今日は鑑賞会では無いですからね?」
次を催促してくる当主代行に対して注意する、まさかエピソード7を丸々流せと言うのだろうか……出来なくは無さそうだけど今日の目的はこれじゃないんだよな。
「商会長」
「まかせんね、今出てきたアーレム達の型を作って別個に売るわけね。販路は直ぐに用意できるんね」
「違う、そうじゃない。なんでグッズ展開への理解が早いんですか」
その目には初めてアーレムを目撃した時のような熱が込められていて、本気具合が分かる。今の目的はそれじゃない……アレ、お義母さんも商売の匂いがしたせいか目が本気な気がする。
静かに距離を取っていた『料理長』は離れたところから目茶苦茶強い眼力で圧を掛けられる。本当にロボ好きなんだな、そのうち記憶を引っこ抜かれそうだなんて思ってしまった。
「なぜ今回コレを観てもらったかと言うと……当主代行」
「うむ」
「台詞を暗唱して貰えます?」
「そんな事でよいのか?」
俺の頼みに軽く答えた当主代行は、先程視聴していた艦長の名演説を一言一句違わず謳い上げる。声音も含めて威厳が凄い、そしてその姿を見ていたハカンサスの劇団長さんが凄まじいショックを受けた表情になった。
演説を終えた当主代行を確認して、俺は商会長に向き直る。
「とまぁ、こんな感じで当主代行は好きな台詞を覚えるのが得意みたいなんですよ」
「何度も見たからではなく?」
「俺のやつはどうか知りませんけど、今の画像は間違いなく2回目ですよ」
正しくは今のは初見だが、元ネタそのままなのは2回目だ。俺の言葉に対して商会長は少し考えている。
「……他に、初見で当主代行はんが覚えそうな初見の動画でも見せてもらんと信じられんよ」
「……」
それ、建前ってだけで他に見たいのが本音じゃないか?
とは言え、他に何か気に入りそうなシーンは何か無いか考える。いや、機動戦士の初代にある公国を独裁してる家の長男が弟の死に際して行なった演説とかネタは有るのだが。つか、俺の中だとあの人の声だと別の
と、そんな事を思った為に魔導式ワードプロセッサが映像を流そうとする。まんまのロボデザインを避ける為に即座に此方で主流の魔導戦車を人型に発展させたようなデザインに差し替える。
そうして始まるのはOVA版のCMを元にしたパロディ、記憶から引っ張り出されて久し振りに聞く声は相も変わらず良い声質である。
僅か2分の動画だが、あまりにも高密度な情報が詰め込まれた2分の動画を見終えた面々……特に男子達は熱い溜息を吐いた。って、何時の間にやら外交長まで増えてる。
「……ふぅ、それでタタラはん」
「はい、なんでしょう?」
「この劇の公開は何時なんね、最前列で見に行くん」
「永遠に無いですね」
『ふざけんな!!』
その場の男子全員から迫真のブーイングである。いや、そりゃ話も面白いし戦闘もイカス上にロボだけじゃなく人も格好良い作品だけどコレ前世の作品だから広められないのよ。事情言えないけど。
なお、ダリアはこっそりと見せてもらうつもりなのか敢えての沈黙である。その姿に当主代行も後から気付いたらしい、表情には出してないがダリアに乗るつもりなのが何となく分かった。
「重要なのはコレもそこそこの長台詞ですけど、当主代行なら多分今の一回で台詞覚えてる事なんですよ」
「うむ、諳んじられるぞ」
と、ノリノリで先程の語りを真似してみせる。本当に一言一句間違わず、しかも語調まで合わせてみせた。これにはハカンサスの劇団長もショックを受けてる模様。
「……あの、いいですか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます、私は劇団ハカンサスの歌手でスオーノと言います」
「あ、アーレムの製作者でタタラ・ジュロンと言います」
挙手して呼び掛けてきた劇団ハカンサスの女性団員、スオーノさんと名前を交換する。まぁ、要件はこれでは無さそうだけど。
「うちの劇団長が書いた台本の台詞が覚えられず、今回の物は覚えられた。今の問題はこの点ですよね?」
「はい、そうですね」
俺の肯定を聞いたスオーノさんは徐に台本を取り出して、サッと目を通していく。
「……そうですね、余りにも飾り立てた言葉かつ韻の踏めてなさが恐らく問題なのだと私は思います」
うん、どストレートに問題点を指摘してる。尚、真横に居たハカンサスの劇団長さんはショックを受けた顔でスオーノさんを見ている。
「例えば建国に関わるような、そんな演説を何か知りませんか?」
「……建国、ですか」
パッと思い付くのは過去作の中、このナーハズヒト帝国が王国として建国された時のシーンだ。アレ、当時だと記録媒体も無いわで正確な情報が無いって言われてるが俺はゲームでの記憶が有るから覚えている。なのだが、そんなモノを出したら何を言われるか分からないんだよな。
そんな事を考えたせいか、空間投影式のプロジェクターが反応してしまった。ヤバいと思ったが、思考を読み取るのを止められずにそれは映し出された。
映像の中心に映るは濃紺の髪をした端麗な容姿をした青年、カラン・ナーハズヒト建国王だ。教科書に載っている肖像画と同じ頃の年齢、今から300年近く前の肖像画とは違う確かな生の姿である。
【ここに立つ我が姿を前に、皆の心には様々な想いが有ると思う】
静かに語り出される言葉、低いが若さからくる瑞々しさを感じるその声音に自然と意識を向ける。
【希望か、羨望か、怨嗟か……我が身には分からぬ。我が手で砕いた皆の住んでいた千年王国アクエルド、平和に住んでいた者の方が多かったであろう。その者達には我等は正しく侵略者である】
建国王は目を閉じて少しの間口を閉じる、おそらくは共に戦い散っていた者を想っているのだろう。ゲーム中では乳母が正ヒロインを守って殺されたし、この国を乗っ取る事を決めたのは魔王でもあった父親を殺された事が切っ掛けだ。
まぁ、その切っ掛けも父親が持っていた財宝や領土を求めた上で同盟を結んでいた筈のアクエルドが魔王だからと勇者の称号を与えた戦士に殺させたのが切っ掛けなのだが。
【我が身に恨みを向けて構わない、怒りを向けて構わない。我等は簒奪者、悪と呼ぶなら呼ぶがよい】
建国王は静かに続けていた、その言葉はまだ落ち着いている。
この静けさは嵐の前のそれである事をこの場の誰もが理解しているのだろう、誰かの唾を飲む音が聞こえた気がした。
【だが、我はその怨嗟を、憤怒を受けてなお此処に誓おう!】
それまでの静けさを打ち破る烈火の如き激しさを持って建国王は叫ぶ。これは鼓舞だ、この宣誓を聞くものの不安を打ち砕く為。そして、自分自身に統治が叶うかという恐れを振り払うための鼓舞。
【今此処に建国を宣言する、我等が国……ナーハズヒト王国は汎ゆる種族を許容しよう!】
そう、夜闇の眷属である為に迫害された幼少期。父親に庇護されて無ければ死んでいた可能性が高かったと言う実体験。
そこから彼は夜闇の眷属以外を恨んだ。何れは全てを捩じ伏せて支配下に起き、かつての屈辱を果たそうとした。
しかし、そうはならなかった。恨みを緩和する根源は両親だ。夜闇の眷属である父親と、人間族の母の愛で生まれたその血。
異種族、それも相反する属性である種族間でも愛を育めるのだとその身に刻まれていること。
もう一つは正妃になるヒロインの存在。主人公の怒りを受け止め、傷付きながらも相互理解を願い触れ合い続けた果てに建国王に愛を芽生えさせたこと。
その果に、ありとあらゆる種族を受け入れ虐げない事を掲げる国をつくる事に至ったのだ。
【我が身は夜闇の眷属、数多の人種に敵視されるものである。だが、それを向けられた程度では我は敵とは見ぬ!】
簒奪王と後に誹られようと、それでも建国王は諦めずに進んで剣を向ける事は無い。相互理解をする為に、最初は対話を持つ事を貫いた。尤も、敵対したのなら一切の容赦は無いのだがそれはそれだ。
【夜闇の眷属よ、我が国においては人を餌とする事を認めぬ。代替が可能ならばそれに努めよ!】
それは本来相容れない種族を共存させる為の制限、この法に従えないのなら敵であると定め馴染めない相手を排斥する。法を理解出来ない知性の相手をモンスターとして認定し、討伐する……ゲーム内のモノローグではこの事に葛藤していた。
それでも国の為に、国民の為に慚愧の堪えながらもこの法を定めた。
【そしてこの国に住まう者達よ、意志の通じる夜闇の眷属を排斥する事を我が国は認めぬ!】
まぁ、コレは当然の前提としている事ではあるのだが。それでも夜闇の眷属のみに宣言する事で不満を持たせない為の措置だ。
【我等が滅ぼした国を、我は忘れぬ。我等が犠牲を強いた命を、我は忘れぬ。全てを背負おう……命を、願いを!!】
その声を、宣言を前にした民達は静かに建国王を見定める。王は此れから己の器を示し続けなければならない、国民達に己の国を母国であると認められるために。
その果てしない道を歩み続ける覚悟を示す宣言を建国王は続ける。
【今ここに、我等が新たな王国……ナーハズヒト王国の建国を宣言する。我を認めぬ者に立ち去ることを認める、家財を差し押さえる事は無いと誓おう!】
たしか他の作品だとこの辺やらかした国が有ったんだよな、しかも主人公側の国で。結果として他国から冷遇されて地獄に片足突っ込んでたっけ。
【我を認める寛大なる者達よ、我等が庇護を受け入れし者達よ。その選択を過ちとさせぬ事を誓おう。我等、国は民を守る盾にして剣。安寧と幸福を守るために全力を尽くすことを誓おう!】
建国王は必死に訴えかけている、信じてほしいと願いを込めて声を張り上げる。その熱は少しずつ、だが確かに民衆に広がっていく。
【だが、此れだけは頼みたい】
そうだ、ここ……最初に見た時に好きになった場面だ。
【我等は力を尽くす、しかしそれだけでは足りない】
此処に至るまでに数多くの仲間達との出会いと協力により実感した、一人の力の限界。国なんていう大きなモノを動かし守るのに、剣を並べた仲間達だけでも足りないと建国王は痛感した。
これは、それ故の言葉。
【皆の力が欲しい、皆が日々幸せになりたいという願いが欲しい。故に力を貸してくれ、故に己の幸福を願っててくれ】
そう、国民一人一人が国を形作る当事者であると訴えかけるこの言葉。
【敵からの脅威は払おう、飢饉に備えはしよう……だが、この国をより良くするのは一人一人が持つ力である】
王権が神より与えられ、それ故に王家の力が強いこの世界にて王家だけでなく民一人一人の力が必要だとともすれば王家の力不足を知らしめるこの言葉。これは一種の賭けであった。
【王家が国なのではない、民こそが国なのだ。我等王家は国を守る為に戦おう、だが国が強くなるのは皆一人一人が強く在ろうとしてこそなのだ】
王権を持つ者さえ在れば王国を名乗れるこの世界にて、民が居てこそ国かあると叫ぶこの宣言。
【故に頼む、皆一人一人己の果たせる力を貸してくれ。戦えと言うのではない、其々ができる事を示して欲しい。農業、製作、計算、芸術……ありとあらゆる力を我等は求めている。我等は戦う事しか出来ぬ、故に力を貸して欲しい】
建国王はその言葉とともに頭を下げる、その姿に民衆はざわめくが同時に明確な違いが起こる。貴族に搾取される事が大多数である一次産業の関係者が、明確に意識を変える。そして、それは一つの形として示される。
民衆の中から声が上がる。それは、協力を申し出る震えた声。
一つが上がれば次々に上がるその賛同の声を前に、顔を上げた建国王は呆けた表情を浮かべていた。やがて、状況を理解した建国王はその声を理解し、言葉を噛み締めた後に口を開く。
【ありがとう。この国の王としてこのカラン・ナーハズヒトは全力を賭して皆の幸福のために身を粉にする事を誓おう】
その言葉に民衆は温かい拍手で応える、此処から今に続くこの国が始まったのだと思うと感慨深い。
「……ねぇ、タタラ。あんた何でこんな貴重な物を持ってるのよ」
映像が終わり元のブルースクリーンに近い状態になったプロジェクターを前にした俺達の背後からそんな声を掛けられる、振り返れば引き攣った表情をした都市長とその後ろにカラムスさん。そして、何故かナーハズヒト正式採用の鎧を着た男性兵士が一人。
まぁ、確かに当時の映像記録なんて残ってない筈の物をこうして流されたらこうもなるか。
オマケ『もしも』
茹だるような夏、の直前である梅雨の季節。
雨と雨の合間に訪れた晴れた日の事、湿気が肌に張り付き汗を招く中で窓を開き扇風機を全力で回し更に団扇で涼を取る少年が一人。
黒い髪に琥珀色の瞳をしたその少年は名を多々良と言うのだが、一人暮らしのアパートにて夏に向けエアコンのフィルターを清掃している最中なのだが選んだ日付の失敗を後悔していた。
除湿機能が必須になる環境にて、除湿機能を持つエアコンを使用不可。晴れたのならスッキリすると思い予定を立てた結果、湿気の多さに汗が止まらず地獄を見ている状況である。
口に出せば余計に暑くなると思い黙っているが、頭の中はずっと暑いの連呼である
そんな最中、施錠されているドアの鍵が回る音が響く。解錠された扉の先からは毛先の赤い銀髪に褐色肌をした少女だ、その手には結露が浮かぶビニール袋が下げられていて何かしらの冷たい物を持ち込んだのが分かる。
「……四葩、今日はエアコン死んでるぞ」
「……マジ?」
ようやく楽園に着いたと思った所に、ここは地獄ですと伝えられた求道者の様な顔。そんな喩えを考える多々良の能は暑さで茹だっていた。
日陰になっている壁に背を預け、四葩が持ち込んだアイスを口にし2人は何とか涼もうとしていた。
エアコンのフィルターは陰干し中なのだが、湿気のせいで微妙に乾き切っていない。除湿して快適になるまではまだまだ先だ。
「……多々良、暑いのじゃ」
「言うな、余計に暑くなる」
棒アイスを口から離した四葩の呟きに、同じ事を思っている多々良は簡素に返す。言った当人の四葩が余計に暑く感じてしまったためか、その目は死んでいる。
「……プールにでも行くか?」
「水着なんて無いのじゃ」
「レンタル……って、そう言えば前にサイズなかったって言ってたか」
「フリーサイズのワンピースタイプは腰が余り、ビキニでは上が合わんかったな」
「どんだけ細いんだよお前……」
多々良からの提案も、元から想定してなければ用意の叶わない物であった。よりにもよって最寄りのプールに置いてあるレンタル品ではサイズが合わないので、四葩はその為に提案を却下した。
「水風呂とか?」
「一緒に入るつもりかお主?」
「経済的に考えるとそのほうがいいだろ」
「……昔、同じ理由で入った結果お主に処女を奪われたのじゃが?」
「……すまん」
幼馴染という仲であり、気安さからそうした行動を起こした結果2人は一線を越えてしまった。名家の末娘である四葩は結婚をする前は貞淑である事を求められていた為に、バレたら大問題だからと両親に秘密にしていた。当然、名家の当主である四葩の父が怖い多々良も口外にしないため今でも秘密は守られている。
尤も、母親からは四葩の恋心と所作の変化を見破られていたりするのだが。
「お主、もしや溜まっておるのか?」
「……自分で処理はしてるよ」
「なんじゃ、相手は居らんのか。同じクラスの
四葩の言う相手は多々良のクラスメイトであり、年齢に見合わないと言うか日本人離れしているほどのスタイルを持つギャル系の少女だ。多々良が壊れたアクセサリーを直したことが切っ掛けで交流があり、多々良は友人だと認識している。当然、そんな相手とそんな関係を持っている筈がない。
「友人は友人でもセックスフレンドとか学生の持つものじゃねぇだろ……」
「普通に恋人になればよかろう、お主らはよく似合っておるぞ?」
「そんな幼馴染ヤリ捨てするみたいな選択取れるか」
「恋仲でも無いのに捨てるも何も無いじゃろうが」
誂い混じりに言う四葩の言葉を否定する多々良だが、四葩は苦笑いを浮かべるだけである。
「久し振りに多々良の恋愛相談でもしようかのう。ほれ、気になる女くらいおろう?」
「居るには居るけど……お前、本当にその手の話が好きよな」
姿勢を変え、壁に凭れる多々良の脚を覆うようにして下から顔を覗き込む四飛。尚、涼を取れるようにと首回りが緩くなっている服を着ているため、その姿勢は襟元から下着どころか乳首まで見えている。
今夜はコレでいいかななんて思う多々良の内心に気付きもせず、四葩は楽しそうに笑っている。
「あ、因みに妾だとかは無しじゃぞ」
「初手から逃げ道潰されてんだが」
「ほれほれ、お主の交友なら他にも候補はおるじゃろ。一華とかどうなのじゃ?」
「あの人、俺のこと基本的におもちゃとか思ってるだろ」
多々良の言葉を四葩は苦笑、自身の世話役である一華は確かに普段から多々良を誂ってはいるがそれは愛情から出てしまう物だ。
当人は多々良以外には寧ろ距離を取った対応しかしない上、多々良は普段の一華を見たことが無いために伝わっていない状況に苦笑いしか出来ない。
「ならば葵はどうじゃ?」
「逆に嫌われてると思うが」
多々良に話し掛ける直前だけ他では見れない緊張した姿を見れるのだが、当然多々良本人にはそんな所作を隠すので普段通りの姿しか多々良は知らない。存在しているらしいファンクラブのメンバーはそんな姿を引き出す多々良にヘイトを持っているらしいのだが、当の多々良が人の毒気を抜くタイプな上に無自覚に誑す性格なので過激な事をされてない状況である。
「あとはあの、帰国子女のカーラじゃったか?」
「ミーアか、なんか昔会った事が有るらしいんだけどな」
「何じゃ、曖昧だのう?」
「四葩と出会うより前とかで5歳とかそこらの時だぞ、爺ちゃんの授業もその頃からだし覚えてられねぇよ」
カーラまたはミーアと呼ばれるのはカルミアと言う名前の帰国子女だ。母親が海外の生まれらしく、幼い頃より高校に入るまではそちらの国で育っていたのだそう。去年入学の為に帰国して来たのだが、多々良を見て泣きながらハグをしてちょっとした事件扱いされた。
この時の事で多々良は男子生徒の一部から恨まれたりしたのだが、今は反転して友人の方が多くなっている。この辺の誑し具合は一部の女子に新たな扉を開かせて、腐海を歩ませる原因にもなったと当人には届かない噂となっている。
「俺に彼是言うけどよ、お前はどうなんだよ四葩?」
「妾に自由恋愛など許される訳がなかろう、幼少期からの付き合いであるお主以外に異性の接触など親類のみよ」
「逆に、なんで俺は許されてるんだろうな」
もう一人、多々良と四葩に共通する男の幼馴染が居るのだが虎熊家はそちらとの安易な接触を許可していない事を言外に伝えている。
「お主が人間国宝と呼ばれた細工師の技を受け継いでおるからじゃろ?」
「若輩者で実績無しの細工師相手になら問題は起こらないと思ってんのかね……」
尚、その人間国宝と遜色の無い御技を持つ若手細工師の台詞である。
虎熊家に伝わる家宝の細工や装飾品を直したり整備したりと普通の細工師がやらない事をやり、一切の異常を生み出さない。それがこの小鍛冶多々良という青年である。
「そもそも、俺との接触を許したから間違いが起こってるんだけどな」
「何方かというと、妾を餌に家に縛り付けるつもりっぽいがのう」
「……専属の細工師確保に娘使うなよ」
名家の黒い裏側を見せられて辟易と言った具合の多々良に、四葩は四葩で家の事情を口に出さないように努める。毎度、稽古の無い休日に多々良の部屋へ来る事を母親は全く止める気配が無い。
偶に下世話な冗句として『避妊はしろ』や『卒業後は孫を待ってるから』等と言われるが、兄妹のように育って来た相手とそうなる事を楽しみにするのは何なのかと四葩は思う。まぁ、一線越えてる上に偶に四葩のストレス発散の為と言って繋がったりはしているのだが。
「このまま、卒業後に結婚してたりするのかのう?」
「もうそれはそれでいいんじゃないかって思うけどな」
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない